破鉞・岩固一鐵を届けよう

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月20日〜08月25日

リプレイ公開日:2004年08月27日

●オープニング

 イギリス王国の首都キャメロット。
 その南東部に広がる冒険者街の一角に、冒険者ギルドがある。

「急ぎの仕事があるんだけど受けないかい? 配達なんだけど」
 その日、あなたが冒険者ギルドを訪れると、ギルドの受付の者がそう声を掛けてきた。
 配達も立派な冒険者の仕事だ。
 但し、冒険者ギルドに配達を頼む場合、急ぎか、危険な物のどちらかというのが相場である。
「こいつをキャメロット郊外に住んでいる、貴族の屋敷まで届けて欲しいんだ」
 受付の者があなたに見せたのは、布でぐるぐる巻きにされた棒状の物だった。
 棒は柄のようで、長さが1mほどあった。
 棒の先の方には片方に、扇状の飾りが付けられていた。弧の長さは50cm以上はあるだろうか。
 ――これは斧頭ではないだろうか?
 見た限りではウォーアックスのようだ。
 よく見れば、布に護符が貼られていた。
 どうやら後者――危険な物――のようだ。
「こいつはジャパンのウォーアックスで、向こうでは“マサカリ”と呼ばれているそうだ。このマサカリは『岩固一鐵』っていう名前でな。名前の通り、岩石をも軽々と砕くらしいっていう、折り紙付きの武器なんだが‥‥何故か、所有者が頑固になって融通が利かなくなる曰わくも付いているらしいんだ」
 斧の柄は普通は木製だが、この鉞は柄までもが鉄製で、重量・破壊力共にヘビーアックスを遙かにしのぐという。
 しかし、その曰わく故にこの護符のようだ。
「貴族の中にはこういった銘のある武器を集めている好事家が多くてな、届け先の貴族もその一人なんだ」
 なお、依頼人は貴族だった。
「こいつを無事に貴族の元へ届けるのが今回の依頼だ。ここのところ街道に盗賊団が出没してな。そいつらはホークを手足のように使うだけでなく、月の精霊魔法の使い手も加わって盗みを働くらしいんだ。封印が解ける分には構わないが、くれぐれも盗まれないでくれよ」
 ジャパンから月道を使ってこの岩固一鐵をキャメロットまで輸入したものの、盗賊団の噂を聞き付け、冒険者に依頼したのだという。
 ところで、封印が解ける分には構わないって――これ、曰く付きのマサカリじゃないの?

「アニキ! 最近俺ら、『黄昏の盗賊団』も有名になってきましたね!」
「ああ、この間の失敗を教訓に、全員ホークに換えて正解だったぜ。それに先生も付いているしな。先生、今度もムーンアローでお願いしますよ」
 その貴族が岩固一鐵を買った噂は、きっちり黄昏の盗賊団と名乗る盗賊達の耳にも入っていた‥‥。

●今回の参加者

 ea0705 ハイエラ・ジベルニル(34歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0923 ロット・グレナム(30歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0999 サリエル・ュリウス(24歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1324 速水 兵庫(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2929 大隈 えれーな(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3468 エリス・ローエル(24歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea4847 エレーナ・コーネフ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文


●出発前から一波乱ありそうで‥‥
「今回は初対面の人が多いですね。エリスと申します。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に。大隅えれーなです」
「あら、奇遇ですね。わたくしもエレーナと申しますの」
 エリス・ローエル(ea3468)は冒険者ギルドに集まった大隈えれーな(ea2929)達にたおやかに挨拶した。えれーながお辞儀をすると、同名のエレーナ・コーネフ(ea4847)は嬉しそうに胸の前で手を合わせ、それを皮切りに自己紹介が始まった。
 その間に屈強なギルドメンバーが『岩固一鐵』を運んできた。
「曰く付きの武器か‥‥一種のマジックアイテムって考えるのが妥当か?」
「どうでしょう‥‥魔剣の曰くは、魔力以外にも呪いや怨念といった類もありますからね」
 ロット・グレナム(ea0923)はウィザードという職業柄、マジックアイテムに興味があるようで、岩固一鐵をあらゆる方向から観察していた。確かに魔力は感じるものの、それが岩固一鐵自体のものか、貼ってある護符に依るものかはエレーナにも判りかねた。
「鉞はジャパンでは重要な意味合いがある」
 マサカリは皇帝の為に遠征に赴く武将が授けられるもので、天子より委任された武を示す証なのだ、と速水兵庫(ea1324)が語った。
「鉞は聖剣に近いが、この岩固一鐵の冠する二の名は“破鉞”、つまり破壊をもたらすという、魔剣に近い存在なのだろうな」
(「魔剣に近い存在か‥‥ふむ、少々興味が湧いてくるな。封印を解いてみたい気もするが‥‥いや、いかんいかん。興味本位で手をつける訳にはいかないな」)
 兵庫の志士の知識を踏まえた推測に、ハイエラ・ジベルニル(ea0705)は曰くの部分に興味を覚え、心の中で葛藤しつつ護符の一枚に手を伸ばしては引っ込めた。
「封印、解いていいですか?」
「あ、お札剥がしちゃダメですよ〜」
「どうぞ、お好きに。その代わりに最後までお前が持てよ」
「分かってますよ、ボケてみただけです」
 とれすいくす虎真(ea1322)はハイエラの葛藤を、あっけらかんと口に上らせた。虎真を止めようとするえれーなの傍らで、サリエル・ュリウス(ea0999)は小悪魔的な笑みを浮かべながら、こちらもあっさり応えた。
 その邪笑が、生業の道化師の衣装と妙に合っているから尚更恐い。
「この重いマサカリをまともに運べるのは兵庫か虎真くらいだ。運ぶ為に荷車と木箱を借りたいんだが?」
「マサカリを木箱の中に入れて、木箱を荷車に固定すれば、そう簡単には盗めないだろうからな」
 ハイエラやロットは実際に岩固一鐵を持ってみたが、これを担ぎながら更に自分の装備を持って道中を歩くのは至難だと思えた。

 ギルドメンバーが用意した、岩固一鐵が入る大きさの木箱とそれを積める荷車は、虎真の愛馬が引く事になった。
「持て」
「ハイハイ、どうぞお使い下さい」
(「既に主従関係が出来上がっているのですね」)
 荷車の用意を済ませた虎真に、サリエルが重そうなパックパックを当然のように渡すと、彼も分かっていたかのように愛馬に載せた。
 エリスはその様子からサリエルと虎真は上下関係にあると思ったが、慎み深い彼女はもちろん、そのような事は口にしなかった。

●無事に届けてくれれば、道中は何をしても構わないのですが‥‥
「悪夢(ユメ)と〜、希望と〜、絶望と〜♪ 悪魔兎は〜今日も征く〜♪」
 先頭に居るサリエルは暇潰しに小唄を唄いながら、辺りをそれとなく見回していた。
 ちなみに彼女はロットの肩に座っていた。軽いからロットも負担にはならなかったが、本当はもっと高い所――虎真の肩――がよかったのだが‥‥。
「黄昏の盗賊団ですか‥‥懲りていないのなら、見逃すのではありませんでしたねぇ。今度こそお縄に付かせます!」
「情報では鷹を使っているそうですね。正直、どこからでも来る鷹が一番怖いです‥‥」
「鷹は鳥目ですし、夜は襲って来ないでしょう。ですから昼間の警戒の方を重視しましょう」
 この街道の沿線に出没している『黄昏の盗賊団』と戦った事のあるえれーなの話を聞いたエレーナがごちると、それを聞いた虎真が答えたのだが――。
「フー!!」
 虎真の腕を取り、べったり寄り添っている兵庫がエレーナを睨め付け、威嚇するのだ。
 何せロット以外、全員女性――しかも魅力的な女性ばかりなのだ。恋人の虎真に悪い虫が付かないか気が気でなかった。
「嫉妬する兵庫さんも可愛いですよ」
「せ、拙者は虎真殿の背中を守りたいだけで‥‥」
「こいつ〜」
「‥‥ふふふ」
 虎真が兵庫のおでこを指で「ちょん☆」とつっ突いてからかうと、彼女はきょとんとした後、釣られて笑った。
「いつもの事だから気にするな。夜、襲ってこないという事は、逆に昼間は何時何処で襲われてもおかしくないからな」
「この街道は茂みや林が多いから、そこを過ぎる時はブレスセンサーで警戒しているけどな」
「それ以外の時は、わたくしが皆さんの目になりましょう」
 虎真と兵庫の周りに漂う桃色幸福空間に慣れているハイエラは、何事もないようにエレーナ達に警戒を促した。先頭を歩くロットは盗賊団が隠れていそうな場所に差し掛かるとブレスセンサーを使って警戒し、それ以外の時はパーティーの中間を歩く目のいいエリスが前後から近付く人々を常に警戒した。

「虎真殿、あーん、だ」
「あーん」
 この後もえれーなお手製の夕食を兵庫が虎真に食べさせたり、ロットとハイエラが決めた夜の見張り番も一緒にして、寝る時も一つの寝袋に抱きついて寝たり、と桃色幸福空間出しまくりだった。

●盗賊には盗賊になった理由がある訳で‥‥
 翌日も行程は順調で、この分なら、夕方前には貴族の屋敷に着くと思われた。
「この間はこの林を抜けたところを襲われ‥‥あう!?」
「えれーな!? ‥‥ムーンアローか!? 虎真は馬が暴れ出さないように抑えろ!」
「さて、まずは隠れてる根性無しを探るか‥‥4つ程近付いているぞ」
 林に入ろうとしたその時、金色の光がえれーなを直撃し、彼女はよろけて虎真の愛馬にぶつかってしまった。状況を分析し、指示を出すハイエラに言われるまでもなく、虎真は何事かと嘶く愛馬をなだめた。
 その間にロットがブレスセンサーを使い、近付いてきている呼吸数を数えた。
「ムーンアローで先制攻撃か‥‥それは誉めてやろう」
「私の顔は割れていましたから‥‥これで大丈夫です」
 サリエルは愉しそうな笑みを浮かべると、人遁の術で変装したえれーなと共に弧を描くように林の中へ入っていった。
 それと同時に林の上から4羽の鷹が翼を広げて現れ、エリス達の後方から急降下を仕掛けてきた。
「今は自称ですが、いずれは“ホークアイ・ナイト(鷹の目の騎士)”と人々から呼ばれるくらいになる為、修行に付き合ってもらいます」
 エリスはショートボウを構えると矢を射った。エレーナが合わせてグラビティーキャノンを高速詠唱し、1発目を放つ。続けて2発目を高速詠唱するが、それはムーンアローによって妨げられてしまった。
「お前達も盗賊なんかに利用されてたら不憫だからな、こっちの味方になるんなら待遇は保障しよう。このまま逃げるんなら見逃してやろう。但し、戦うんなら夕食のローストホークになる事を覚悟しろよ」
 ロットは殺気を込めて鷹に誠意ある説得を試みたが、鷹は聞き入れる様子はなく、そのままライトニングサンダーボルトを撃った。
「抜かれてしまいましたか‥‥」
 エリスの矢が突き刺さり、グラビティーキャノンとライトニングサンダーボルトの直撃を受けて2羽を怯ませたものの、残り2羽の鷹は嘴や鉤爪で襲い掛かってきた。エリスはエレーナを庇うように弓を叩き付けて追い払った。

 林の中から矢が放たれ、その後、2人の盗賊が姿を現した。
「自称鼠殺しを知っているか?」
「ンな事より積み荷と有り金を渡すんだな」
「知らないなら覚えてといて下さい」
 言葉の応酬の末、虎真と盗賊の1人は斬り合いになった。
「鷹か。拙者も欲しいな。貴様らからもらうとするか」
「俺達から奪ってどうするんだよ?」
「欲しい奴に配分したり、余ったらエチゴヤに売ったりする」
「依頼の報酬より、戦利品を売っ払った方が儲かるだろう? 俺達だって元は冒険者さ。俺達とお前達、何処が違うっていうんだ?」
 兵庫と刃を交えているのが黄昏の盗賊団のリーダーだった。
 敵から戦利品を得るのは当然の権利であり、誰もが行っている行為だ。この黄昏の盗賊団は依頼の戦利品に目が眩み、いつしかそれが目的となり、盗賊行為を働くようになったのだ。戦利品にこだわる行為は、一歩間違えばこの盗賊達と何ら変わりはなくなってしまうだろう。
「犯罪者の詭弁か? 笑わせてくれる」
 ハイエラの声がすると、矢と鷹の援護射撃は止んでいた。ハイエラが林の中に潜んでいた盗賊を屠ったのだ。
 形勢が不利と見た残った盗賊達は林の中に逃げていった。その際、虎真は1人の盗賊の背中に結社グランドクロスの証、『×』印を斬り入れた。
 鷹も主人達が逃げると、後を追うように負傷した身体で飛び去っていった。
「これに懲りて大人しくなってくれればよいのですが‥‥」
 鷹の攻撃で怪我をしたエレーナやロット、受け流し損ねた攻撃で負傷した虎真や兵庫をリカバーで治療しながら、エリスは黄昏の盗賊団が逃げていった方を見ていた。

「これがムーンアローの術者の正体とはな‥‥痛いだろ? 痛いだろ? ‥‥盗賊団に与した罰だ。のたうち回って死ぬ寸前まで絶望しな!!」
 サリエルの予想通り、ムーンアローの使い手は林の中に潜んでいた。
 それは人間ではなくシェリーキャンと呼ばれる、ブドウの葉の衣を纏い羽を持つ妖精だった。知りたがり屋の話好きな気紛れで、黄昏の盗賊団の気さくさ(間抜けさ?)が気に入って協力していたようだ。
 サリエルはしかし、シェリーキャンでも容赦なくシューティングPAで喉笛をかっ斬ると、息絶えるまで嘲笑を浮かべて見下ろし続けていた。

 こうして黄昏の盗賊団を撃退したエレーナ達は、無事に岩固一鐵を貴族の元へ届けたのだった。