一期一会〜まずはゴブリン退治〜

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月14日〜06月21日

リプレイ公開日:2004年06月23日

●オープニング

 イギリス王国の首都キャメロット。
 その南東部に広がる冒険者街の一角に、その冒険者の酒場はあった。
 ある者は冒険のパートナーを求めて、ある者は自分よりも強い者の噂を求めて、ある者は一攫千金のタネを求めて訪れ、店内は多くの冒険者達で賑わっていた。
 既にパーティーを組み、テーブルを独占しているところもあれば、見ず知らずの冒険者同士で相席しているところもあった。
 あなたがいるテーブルは、多分後者だろう。
 もしかしたら知り合いと同席しているかもしれないが、まだ、パーティーは組んでいないのだから‥‥。

 その時、入口の扉が開いて、新たな冒険者が酒場へ足を踏み入れた。
 その冒険者は少女だった。出で立ちからして騎士か、まだ大人になりきれていない外見から騎士見習いといったところだろうか。
 少女は赤毛のポニーテールを揺らしながら、しきりに辺りの様子を窺っていた。
 たまたまその方向を向いていたあなたと少女の目が合った。
 すると少女は、あなたのいるテーブルへとやってきた。
 間近で見るとなかなかの美少女だった。何故か堂々としているものの、鎧などの装備はまだ新しく、あまり冒険慣れしているとは思えなかった。
「ねぇ、よかったら一緒に悪のゴブリンを倒しに行かない?」
 少女はそう切り出すと、テーブルの上に冒険者ギルドの依頼書を置いた。

 キャメロットから歩いて2日程の所にある小さな農村に、最近、ゴブリンが出没し、家畜を奪ってゆく事件が起こっていた。
 農村では家畜は生活と密接に結びついている財産だけに、その農村では自警団を結成したものの、ゴブリンは意外と組織立って行動しており、素人では歯が立たなかったというのだ。

「そこで冒険者に依頼してきた訳よ。困っている人は見過ごせないし、この意外とまとまっているゴブリンっていうのも気になるのよね。ただ、10匹近く目撃されているそうだから、どうしても人手が必要なのよ」
 少女は正義感から依頼を受けたものの、人手を求めてこの酒場へとやって来たようだ。
 たまたま目が合ったのも、またまたこのテーブルに相席していたのも、何かの縁。
 この少女と共に依頼を受けてみては如何だろうか?

●今回の参加者

 ea0318 ヴァーミリオン・クライツ(35歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0992 クロケット・ワムワーレン(26歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 ea1423 ルシア・オーレスン(28歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea1985 ジェイク・フロスト(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2882 ディ・カティスタ(27歳・♂・神聖騎士・パラ・イスパニア王国)
 ea3207 ウェントス・ヴェルサージュ(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3209 月刻 刃衣(25歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●先ずは自己紹介
 喧騒覚めやらぬ冒険者の酒場。
 そのテーブルでは神聖騎士とファイターが酒を酌み交わし、その横をウェイトレスが元気に料理を運んでいた。
「悪のゴブリン退治か‥‥領民を苦しめる輩を掃討するのは、騎士の務めだ」
 女騎士がテーブルの上に置いた冒険者ギルドの依頼書に、ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)が背筋をぴんと伸ばした姿勢で手を伸ばした。騎士道を重んじるウェントスからすれば、イギリスの民を苦しめるゴブリン退治に参加するのは、至極当然の事だった。
「小鬼ねぇ‥‥イギリスでの手慣らしの相手には、丁度いいぜ。俺もやンよ」
 月刻刃衣(ea3209)が女騎士にジャパン人独特の鋭く黒い瞳を向けながら、愉しそうに答えた。刃衣は若干13歳にして、夢想流の使い手であり、ゴブリン程度に遅れを取る気は毛頭なかった。
『困っている人を見過ごす訳にはまいりませんね。わたくしの祈りがお役に立てば幸いです』
 ルシア・オーレスン(ea1423)が片手で十字架のネックレスを掲げて、農民を苦しみから解き放つように祈りを捧げた。法衣の間から覗く日焼けを知らない白い肌と相まって、たおやかな顔に真摯の表情を浮かべて祈りを捧げるルシアは、この喧騒の中にあっても聖女の様に見られた。
「女性1人では危険だ。俺も同行しよう。クレリックも同行するのか?」
「そう言っているよ。クレリックはイギリス語が話せないようだから、僕が通訳するよ」
 女騎士一人では危険だと同行を申し出たジェイク・フロスト(ea1985)は、その仕種からルシアが同行すると読み取った。
 イギリス語を喋れないルシアに、イギリス語とゲルマン語を操るカシム・ヴォルフィード(ea0424)が通訳を買って出た。
「ウィザードも同行してくれるのはありがたいな。あなたも俺が守ろう」
「‥‥僕は男だよ」
「あなたも、よく間違えられるようだな。俺もそうなんだ」
 ジェイクはカシムの事を女性だと思っていたようだ。その細い身体付きと艶やかな黒髪から、女性と間違われる事に慣れているカシムは、平然と釘を差した。
 ウェントスから渡された依頼書を読んでいたヴァーミリオン・クライツ(ea0318)も、柔らかい碧色の瞳や上品な雰囲気を醸し出している事から、よく女性と間違えられ、報告書から顔を上げて苦笑を浮かべた。
 だが、他人とはいえ、同じ悩みを持つ者がいる事は何となく共感を覚え、ヴァーミリオンも同行する事を決めた。
「これでメンバーは決まりね。あたしはエレナっていうの、よろしくね」
 女騎士はエレナと名乗ると、小気味いい笑みを浮かべて赤毛のポニーテールを揺らしながら、ウェントスが引いた席に座った。
 エレナはウェイトレスを呼ぶと、依頼を受けてくれた礼にルシア達全員に一杯ずつ、思い思いの飲み物を奢った。冒険者の最低限の礼儀はわきまえているようだ。
「俺は、ジェイク・フロスト。イギリス生まれのレンジャーだ。宜しく頼む」
 飲み物が運ばれてくると乾杯の音頭が取られ、先ずジェイクが簡単に名乗り上げた。
「俺の流派の師匠はお袋なンだけど、諸国漫遊を兼ねた武者修行の観光旅行に出されてね、ジャパンからイギリスへやってきたンだヨ。月道で帰ってもまた出されるのがオチだから、しばらくキャメロットを拠点にブラついてみようかと思って、で、冒険者の酒場に来たらあんたらに会った訳」
「僕も同じようなものだよ。生まれはフランクだけど、よく晴れた空を眺め続けていたら、気が付いたらイギリスに来ていたんだよね。キャメロットの郊外から見る空も綺麗なんだろうな」
 実際のところ刃衣は、母親に完全強制的に月道に叩き込まれてイギリスまで来させられたのだが、それは伏せておいた。
 カシムは果実を絞ったジュースを飲みながら、刃衣に合わせるようにイギリスへ来た理由を話した。
(「エレナ‥‥か。どこかで聞き覚えのある名前だが‥‥似たような名前も多いし、気のせいだろう」)
 ウェントスは黙々と聞き手に回っていた。エレナという女騎士の名前に聞き覚えはあったが、直ぐに思い出せない事から然程気に止めず、再び聞き手に集中した。
「お近付きの印に、みなさまに一曲披露しましょう」
 ルシアは隣のテーブルに座っていた吟遊詩人に曲を奏でてもらい、讃美歌を朗々と唄い始めた。ルシアの歌声は酒場中に響き渡り、喧騒は何時しか止んで、皆、ルシアの珠を転がしたような澄んだソプラノヴォイスに耳を傾けた。
 唄い終わり、ルシアが恭しく礼を取ると、しばらくの沈黙の後、あちこちから拍手喝采が浴びせられた。勿論、ヴァーミリオン達も惜しみ無い拍手を贈った。
 パーティーの親睦は十分、深められたようだ。

●ゴブリンとの初戦!
 ウェントス達はその日の内にキャメロットを出立した。
 道中はウェントスが愛馬をルシアに提供し、刃衣とエレナがそれぞれの愛馬に騎上した。ヴァーミリオン達は徒歩である。
「ふーん、騎士にしちゃ変わった武器使ってンだな」
「あたしは直刀よりも、こっちの方が好きなんだ」
 刃衣はエレナの馬の鞍に括り付けられていたウォーアックスを目聡く見付けた。騎士の間では斧は野蛮な武器とされており、意外だったからだ。
 駆け出しの騎士らしいが、分からない事が多いエレナだった。

 2日後のお昼過ぎ。村に到着したルシア達は村長を始め、村人の手厚い歓迎を受けた。というのも、カシム達が向かっていた数日に間にゴブリンが来襲し、家畜を奪っていったというのだ。
「怪我をしている方がいましたら、遠慮無く申し出て下さい」
 ルシアが手当てを申し出ると、家畜を守ろうとした何人かの村人が負傷していた。
 その間、ウェントスとカシム、ヴァーミリオンは村人の案内で村の中から周囲を見回り、ジェイクはそれとは別にゴブリンの現れる方向や逃走経路を聞き込んだ。また刃衣は愛馬を駆って村の周辺の哨戒に出た。

 ゴブリンを討伐する作戦は、道中、ジェイクが考案した攻勢防御策が全員に受け入れられた。
 ゴブリンは夜に現れる事から、村の周囲の地形を把握したりと下準備を終えたヴァーミリオン達は早めの夕食を採り、夜に備えた。

 ゴブリンは次の日の夜に現れた。
 耳障りな叫び声が、村の周囲にある畑から聞こえて来た。それは昨日の内にジェイクが仕掛けておいた落とし穴+木槍のトラップだった。
 真っ暗だった村のあちこちに篝火が焚かれ、畑を明るく照らした。
「‥‥全部で8匹、のようだな。2人で3、4匹の受け持ちだが、無理はしなくていい」
 村の境界線である小さな柵の傍らに積んであった藁の影に身を潜ませていたウェントスは、ゴブリンの総数を冷静に確認するとロングソードを抜いて斬り掛かった。その後にウォーアックスを構えたエレナが続いた。
 仲間が罠に掛かった事で浮き足立っていたそのゴブリンは、ウェントスとエレナの刃をまともに浴び、倒れた。
 だが、ゴブリン達は相手がウェントスとエレナの2人だけだと分かると、自分達の方が優勢だと悟り、ウェントスを取り囲むようにじりじりと近付いてきた。
 すると空気を裂く音と共に、粗末なクラブを振りかざした2匹のゴブリンが倒れた。
「ウェントスさん達がゴブリンを引き付けているんだから、僕達はなんとしても村に入れないように頑張らないとね」
「ああ。どうやら、リーダーらしいゴブリンの姿は無いようだ。大気よ‥‥我が手に集いて刃とならん!」
 藁の影に隠れていたカシムとヴァーミリオンが、ウインドスラッシュを唱えたのだ。
「ウェントス様、エレナ様、援護します」
 数が多いと踏んだルシアがメイスを構えて前に出ようとすると、ウェントスがマントを翻して制した。
 ルシアはホーリーで威嚇し、ウェントスはその援護で落ち着きを払ってミドルシールドでクラブやダガーを受け流し、致命傷にならない程度の攻撃をガードで受け、カウンターアタックでロングソードを叩き込んでいった。
 気が付けば、まともに動けるゴブリンは1匹になっていた。そのゴブリンは這々の体で退散していった。
「人事を尽くして天命を待つ‥‥どうやら作戦は成功したようだな」
 逃走するゴブリンの後を、愛馬に乗った刃衣とその後ろに乗るジェイクが追跡していた。2人は遊撃隊で、1匹だけ逃がしたのはゴブリンの巣穴を見付けるのが目的だった。
 目のいいジェイクがゴブリンの後ろ姿を、耳のいい刃衣がその足音を捉え続け、遂に巣穴らしい廃屋を突き止めた。中にはゴブリンより一回り大きいゴブリン――ホブゴブリン――がいた。
 ジェイクが監視としてこの場に残り、刃衣は愛馬を飛ばして村へと戻った。
 村ではカシム達がゴブリンの後始末をしていた。残念ながらウェントスは負傷した為、手当てをしているルシアと後始末をしているエレナを残して、刃衣達はゴブリンの巣穴へと向かった。
 カシムとヴァーミリオンがウインドスラッシュで廃屋の扉を破壊し、愛刀を鞘に入れたままの刃衣がホブゴブリンが出てきたところへ待ち構えていた。
「俺はあんまり優しくねーぜ? 斬って刻んでぶち撒いてやンよ!」
 次の瞬間、居合斬り――ブラインドアタックEX――が炸裂し、ホブゴブリンは多分、訳の分からない内に倒されてしまった。
 残った1匹もダガーを両手に構えたジェイクが、巧みにフェイントアタックを折り混ぜて斬り伏していた。

 廃屋の中を調べると、家畜を食い荒らした跡があった。
 家畜の美味を覚えてしまったようで、村から奪った家畜は残念ながら全て平らげてしまっていた。
「ありがとう。あんた達のお陰で、これ以上村に被害が出る事はなくなったわ。また、冒険者の酒場で見掛けた時は宜しくね」
 報酬を受け取り、キャメロットに戻ってきた後、エレナは初めて会った時と同様に屈託なく挨拶をして別れていった。

 冒険者のお陰でまた1つ、村の平和が守られたのだった。