初心忘れるべからず?
|
■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月15日〜08月23日
リプレイ公開日:2004年08月23日
|
●オープニング
「遺跡の調査の依頼が入ってきたんだが、受けるかい?」
その日、あなたが冒険者ギルドに顔を出すと、壁一面に所狭しと貼られた依頼書を整理していたギルドの係りの男性が、そう声を掛けてきた。解決した依頼や期日が過ぎた依頼の紙を選別して破棄しているのだろう。
ギルドの男性の手に依頼書を持っているところを見ると、まだ入ってきて間もない依頼のようだ。
遺跡の依頼は得てして諸刃の剣といえるだろう。
“当たれ”ば稼ぎは多く、貴重な武器や防具、アイテムを手に入れる事ができるかもしれない。
だが、それは同時に、分相応の罠や敵が待ち構えている事も意味していた。
しかも、キャメロット近郊にある遺跡のほぼ全部は、冒険者達によって調査し尽くされ、“涸れている”といっても過言ではないからだ。
要するに“ガセネタ”や“空振り”が多いのだ。
「ところがそうじゃないらしいんだ」
係りの男性は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
依頼書の遺跡はかつて魔法使いが住んでいた廃屋で、そんな涸れた遺跡の一つだった。
安全が確認された今では、近くの村々の子供達の格好の遊び場になっていた。
ところが、遊んでいた子供達が偶然にも隠し通路を見付けたのだ。
大人の目線では分からない、子供の目線だからこそ見付けられた代物らしい。
子供達が実際に入ったところ、隠し通路の奥は石造りの通路になっていた。
しかし、矢が飛んできたり、天井が崩れたり、落とし穴があったりと、子供達は次々と大ケガを負って這々の体で帰ってきたという。
親達は子供に遺跡に遊びに言ってはいけないと厳重に注意をすると同時に、冒険者に安全確認の調査を依頼してきたのだ。
「ただ、元が涸れた遺跡だから、隠し通路の先にお宝が眠っているかどうかは何とも言えないな。報酬も『遺跡の中で見付けた宝物』と出来高払いになっているし」
つまり、空振りになる可能性も高い、と係りの男性は告げた。
「トラップは多そうだから、そういう意味では駆け出しの冒険者には丁度良い依頼かも知れないな。そうそう、この廃屋の持ち主だった魔法使いは、ゴーレムの研究をしていたという昔話が残っているぞ」
係りの男性は思い出したかのように付け加えた。
ゴーレムの研究をしていたという事は、もしかしたら未だにゴーレムが守っているかも知れないという事だった。
●リプレイ本文
●初歩的なミス?
閃我絶狼(ea3991)達は、ゴーレムを研究していたという魔法使いの廃屋にやってくると、近くでキャンプの準備を始めた。
「枯れた遺跡に見つかった隠し通路、か。こういう所には何か特殊な物があるってのが定石だが‥‥魔剣や魔法が付与された軽い盾があれば言う事ないんだが‥‥ま、過度な期待は止めようかね」
「それにこの遺跡は無名ですし、研究していた魔法使いも同じでしたよ」
絶狼と冬花沙桜(ea3137)は、風霧健武(ea0403)が依頼主である村に行っている間にキャンプの用意を進めていた。
沙桜はキャメロットを立つ前、冒険者ギルドでこの遺跡と住んでいた魔法使いの情報を聞いたが、大した情報は得られなかったのだ。
「子供は、時として大人の想像も付かない事をしでかすからな」
「普通はこんな所に入らないからね」
ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)とルカ・レッドロウ(ea0127)は、隠し通路の在りかを調べていた。
隠し通路は魔法使いの書斎とおぼしき場所にあった。一階と地下一階の間に作られたような感じで、かくれんぼをしていた子供の一人が隙間に入り込んで見付けたものだった。
明日からの調査に備えて、ゼファーとルカが入口の罠のチェックをしてキャンプへ戻ると、丁度、建武が村から、クレアス・ブラフォード(ea0369)が狩りから帰ってきた。
「建武が村で貰った食料と、私の獲物を合わせて4日分か‥‥探索は2日掛ける予定だから、充分足りるな」
『別途報酬を出して欲しい』という絶狼の希望を聞いた建武が村から食料を貰ってきたのだが、クレアスの言葉に沙桜は顔に影を落とした。保存食を2日分しか用意しておらず、既に道中で使い切っていたのだ。
「まったくしょうがないなぁ、沙桜お兄ちゃんは。あたしのを分けてあげるよ」
「ウチの分も分けてあげますのね。罠とか沢山あるそうですから、忍者の方には頑張ってもらいますのね」
チカ・ニシムラ(ea1128)は苦笑しながらも、お兄ちゃんの世話が焼けるのが嬉しそうだった。また、神薙理雄(ea0263)も快く予備の保存食を渡した。
●アロー・スリット
翌日、遺跡の隠し通路の探索が始まった。
パーティーを二つに分けると、絶狼と健武、ゼファーとクレアスは最初のT字路を直進し、沙桜とルカ、チカと理雄は右折した。
「子供達の話では、矢は右の壁から発射されたそうだ」
建武は昨日、子供からどの辺りから矢が飛び出し、どの方向から来たのかを聞き、絵に描いてもらっていたのだ。
「矢のトラップはアロー・スリットだな。この手のトラップは床や壁に隠された仕掛けに触れる事で発動するタイプだが‥‥これは少々厄介だ」
ゼファーはクレアスにたいまつで壁を照らしてもらいながら、矢が飛び出てきた場所を調べた。確かに矢の発射口はあるのだが、それが壁の模様の一部になっており、同じような模様が通路の先まで続いているのだ。
「‥‥ここの仕掛けを踏むと、ここの発射口から矢が放たれるようだが、問題はどの仕掛けがどの矢と繋がっているか分からない事だ」
「仕掛けを動かしまくって矢がなくなるのを待つのは、時間が掛かりすぎるよな」
建武は絶狼の持つランタンの灯りを頼りに忍者刀の柄で床を叩き、音の違いから仕掛けを見極めた。しかし、アロー・スリットはこの通路自体に仕掛けられた罠で、これを解除するのは不可能に近い。
「矢か発射される方向と仕掛けは特定できるのだから、避けていくくらいしか方法がないだろう」
万一の時の為にリカバーが使えるクレアスが同行しているのだ。
健武を先頭にクレアス、ゼファー、絶狼の順で隊列を組み、固まって通路を進んだ。
ゼファーと健武の予想通り、仕掛けと発射される矢の位置は必ずしも近くではなく、健武の真横から発射される事もあれば、ゼファーや絶狼へ発射される事もあった。
健武とゼファーは回避に長けているし、クレアスが付与したグッドラックの効果もあって、軽傷でアロー・スリットの仕掛けられた通路を抜け、突き当たりの右の壁にある扉までやってきた。
「さて、扉の先はどうなっているかね?」
「魔法使いの研究室か、はたまたゴーレムが待ち構えているのか‥‥物音はしないな」
絶狼が扉に耳を当て、聞き耳を立てていたゼファーに聞くと、彼女は首を横に振った。
「ここから先は憶測になるが、研究をしていたのだから出てきても不思議はない」
「殺気も感じないが、相手がゴーレムならそういうものはないからな。代わりに不意打ちや待ち伏せの可能性もある」
クレアスがゴーレムのいる可能性を示唆すると、建武も同意して注意を促し、扉を開けた――。
●ピットの前
T字路を右折したルカ達は、ウィザードのチカを囲むように前衛に沙桜とルカ、後衛に理雄が立って先へと進んだ。
「うふふふ、お兄ちゃん達に守ってもらいながら移動♪ なんか、嬉しいね〜♪」
「ウチが使う魔法と体系は違うでしょうけど、何か面白い魔法の品物が見付けられると思うとわくわくしますの」
ランタンを持つチカはずっと満面の笑顔を浮かべ、最初は「気味が悪い所ですのね‥‥」と思っていた後衛の理雄も、釣られて気分が和らいだ。
左手に折れるL字路に差し掛かり、ルカが警戒して通路の先を覗こうとした時、沙桜がそれを止めた。
「心理の裏を掻いた、巧妙で悪どい罠ですよ」
「‥‥なるほどね。子供達もこれでやられた訳か」
「白虎先生、ルカお兄ちゃん達、何を見付けたの?」
「ああ、あそこに天井が落ちた残骸があるだろう? 曲がり角の壁に寄り掛かると、天井が崩れる罠なんだ」
沙桜の言葉にルカはトラップを特定したようだ。チカに聞かれた天道白虎はルカ達が発見した罠の解説をした。
通路の先の様子を伺うには、壁に身を寄せて自分の身を隠した方が、万一、敵が居る場合見つかりにくい。しかし、そこに天井が崩れる罠が仕掛けられていたのだ。
ルカは壁にギリギリまで近付くと、銅鏡を使って通路の先の安全を確認した。
その先には子供達が落ちたというピット(落とし穴)があった。
ピットは思いの外深く、底には錆びた剣や槍の切っ先が獲物を待ち構えるように上を向いていた。
「五メートル以上はありますの。橋代わりにするとなるとロープ一本では足らないですのね」
目のいい理雄がざっと測量し、用意してきた2本のロープを結って繋げた。
さっきの教訓からか、その間に沙桜とルカ、白虎は壁に石を投げて罠がない事を確認した。
綱渡りは素人では難しい。そこでルカと沙桜の持つロープも使って2本の長いロープを作ると、リトルフライを使ったチカが落とし穴の向こう側へ飛び、ロープが並行になるように渡して壁際に結んだ。これなら素人でもロープを伝う事ができ、順番に落とし穴をやり過ごした。
その先も通路になっており、しばらく進むと左手に扉があった。
●ウッドゴーレム
健武達が部屋の中に入ると、そこは武器庫のようだった。折れた剣や凹んだ盾に混じって、木の彫像の残骸があった。そのどれもに矢が突き刺さっていた。
その時、一体の木像が起き上がったのだ! 戦士を象ったそれはウッドゴーレムだった。
「入ってくる者を攻撃する命令を受けているようだが、少し時間があった事から合言葉などで認識するのかもしれないな。逃げたら追い掛けてくるか調べたかったのだが‥‥」
クレアスの退路にはアロー・スリットがある――戦うしか選択肢はないようだ。
健武が忍者刀を逆手に構えてウッドゴーレムの前に立ちはだかると、重い一撃をかわした。そこへゼファーがダーツを投げるが、木の身体に刺さっただけでダメージはほとんどないようだった。
「ハァァッ‥‥砕けろ!!」
二人が作った隙を突いて、絶狼とクレアスが同時にスマッシュEXを叩き込んだ。ゴーレムとはいえ木造だ。この一撃で頭部が砕け散り、活動を停止したのだった。
沙桜が失敗した後、交代したルカが扉に掛けられた鍵を外して中に入ると、そこは書斎風の部屋だった。中央に女性を象った木彫りの像が置かれていた。
ルカはこれがウッドゴーレムだと当たりを付けるとフレンドリーに接したが、ウッドゴーレムは襲ってくるだけだった。
一旦、落とし穴の前まで逃げると、ウッドゴーレムは手前まで追ってきたが、落とし穴のある部屋には入ってこなかった。
「通路は広くないですから、ウッドゴーレムをやり過ごして書斎に行くのは無理そうですの」
理雄の一言でウッドゴーレムを撃破する事が決まった。
両手にナックルを付けたルカと、忍者刀を構えた沙桜がウッドゴーレムを交互に攻撃して攪乱し、その間に理雄がウインドスラッシュを、チカがライトニングサンダーボルトを詠唱してぶち当てた。しかし、それだけでは倒れず、ウッドゴーレムの行動制限を利用して攻撃しているにもかかわらず、ルカのトリッピングは効かず、沙桜は攻撃を受けてしまった。
ウッドゴーレムに止めを刺したのは、ライトニングアーマーを纏って前衛に出た理雄のライトニングソードの一撃だった。
●本当の宝物
武器庫にあったウッドゴーレムの残骸から、アロー・スリットはウッドゴーレムの耐久性を調べるものだったとゼファーは推測した。
大半の武器は朽ちていたが、健武とゼファーは比較的まともなミドルボウを、絶狼はミドルシールドを見付けた。
「宝物って何だろうね〜? あたしが使える魔法の品だといいな〜♪」
チカが見守る中、ルカ達が手分けをして書斎を調べると、保存状態のいい解毒剤が5本見つかった。また、沙桜は魔法用スクロールを2本見付けたが、これは忍術と系統が異なる事と保存食のお礼も兼ねてチカと理雄に譲った。
翌日にもう一度隠し通路へ向かい、安全の再確認を行った。残念ながらアロー・スリットの通路は封鎖しなければならないが、ピットの方は開閉する仕掛けが書斎にあり、閉じる事ができた。
「もしかしたら、ウッドゴーレムがここの一番の宝物だったりするかも知れませんね‥‥」
ウッドゴーレムの残骸を片付ける理雄の言葉に、手伝っていたクレアスは頷いたのだった。
残念ながらゴーレムの研究に関する資料は見付からなかったが、今もなお動いていた実物のウッドゴーレムこそ、この遺跡の宝だったのかも知れない。