ヤツが来る!?〜予兆〜
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月28日〜09月02日
リプレイ公開日:2004年09月06日
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●オープニング
イギリス王国の首都キャメロット。
その南東部に広がる冒険者街の一角に、その冒険者の酒場はあった。
ある者は冒険のパートナーを求めて、ある者は自分よりも強い者の噂を求めて、ある者は一攫千金のタネを求めて訪れ、店内は多くの冒険者達で賑わっていた。
「ごちそうさま」
「ありがとうございました。エールのお代わりは要ります?」
あなたが食事を採り終えると、この酒場で働くウェイトレスが元気な声と共に食器を片付けにやってきた。
あなたがエールのお代わりを頼んだ後も、ウェイトレスはまだ側に残っていた。
何か用があるのだろうか?
「あの〜、これから暇ですか?」
あなたが「何用か?」と促すと、ウェイトレスはそう聞いてきた。
この食事を終えてから冒険者ギルドに行って仕事を探そうと思っていたので、暇と言えば暇だろう。
あなたは頷いた。
「実はですね〜、酒場の倉庫にモンスターが現れまして〜、それを退治して欲しいのですが〜‥‥」
ウェイトレスが切り出したのは依頼だった。
酒場の倉庫は確か川沿いにあったはずだ。街中でモンスターというのはただ事ではないとあなたは思い、どういうモンスターか聞き返した。
「え〜と、その〜‥‥」
ウェイトレスは言うのを躊躇うかのように歯切れが悪そうな間を取った後、
「アレなんです! アレが出たんですよ〜!!」
と手に持っていた食器をテーブルに置くと、両手を頭に当てて触覚のような真似をした。
それであなたはピンと来た。
食事中の方が居る事を考慮して敢えて名前は書かないが、キッチンなどに現れる、黒光りする“ゴの付く虫”である。
「私も見たのですが、他のウェイトレスの娘は恐がっちゃって、倉庫に近づけないんですよ〜」
どの時代もゴの付くアレは女性の天敵だった。
ヤツらは小さい割に生命力がずば抜けており、高速で移動して目視しづらい上に飛行能力も兼ね備え、更にその身体自体が精神攻撃に匹敵するという、熟練の冒険者でも退治するには手を焼く極めて始末におえない虫だ。
しかも「1匹見たら30匹はいると思え」という格言が正しければ、倉庫には少なくとも30匹以上のゴの付くアレが居る事になる。
食事時には勘弁して欲しい話題故、食事が終わってから切り出したのだろう。
「お出しできる報酬は少ないですけど、合わせて保存食も1食分用意しますが、それでどうでしょうか?」
退治し甲斐のあるモンスターには変わりないだろう。
●リプレイ本文
●狙い定める!
希龍出雲(ea3109)達はウェイトレスのボニーに案内されて、冒険者の酒場の倉庫までやってきた。
「ゴの付くアレが出たんだってな。大変だったろうに。ジャパンでも女の子はヤツが苦手でね‥‥」
(「食料品扱ってるのだから、ゴの付くアレ“くらい”居るじゃろうに‥‥」)
ボニーと面識のある出雲は彼女の肩に手を回しながら、ジャパンでゴの付くアレ退治をした時の事を語り、頼もしさをアピールした。
だが、オーガ・シン(ea0717)は外見こそこやかにしているものの、内心ではモンスターでもないゴの付くアレにどうしてそこまで騒げるのか、と、冷ややかにボニーを見ていた。
ゴの付くアレの習性を色々と調べてきたが、普通のサイズなら単なる害虫に過ぎない。ただ、害虫や動物が巨大化したモンスターもいるが、少なくともボニーの話では、今回ゴの付くアレはそういった類ではなさそうだ。
「私も正直、勘弁して欲しいところだな。アレだけはどうも苦手だ‥‥」
「苦手なのに殲滅する依頼を受けるのは何故か‥‥謎だよね」
出雲の話に共感したクレアス・ブラフォード(ea0369)が、可愛い顔に苦笑を浮かべて深々と頷くと、ウィル・エイブル(ea3277)は複雑な乙女心に謎を見出して腕を組んだ。
「ゴの付くアレが平気な女の子なんて、そうそう居ないわ‥‥受ける依頼間違ったのかしら‥‥」
「‥‥私は虫を恐がる訳ではありませんが、襲ってくるのは嫌ですわね」
ミカエル・クライム(ea4675)は頻りに首を傾げていた。ラテン語は堪能だが、イギリス語は片言しか喋れない彼女は、多分、それで依頼文を読み間違えたのか、報酬の部分しか読んでいなかったのかも知れない。
どちらにせよ、依頼がゴの付くアレ退治だと分かったのは当日、アクテ・シュラウヴェル(ea4137)から聞いてだった。
「何が、そんなに‥‥嫌、なのかしら‥‥? まぁ、確か‥‥潰すと、体液は匂うけど‥‥」
「あの、潰した時のぐちゃっていう感覚と匂いが、気味悪いんだよぉ‥‥うぅ、やっぱり潰さなきゃ倒せないのかなぁ」
麗蒼月(ea1137)は倉庫に着くと周囲を見渡しながら呟いた。倉庫の後ろを流れる川は生活排水を流す、所謂ドブ川だ。夏という季節柄、ゴの付くアレが発生しやすいのも頷けた。
先程から脅え気味に辺りを見回し、ゴの付くアレを叩き潰す為の弾力がありそうな木の板を拾った不破真人(ea2023)を見ながら、彼女は首を傾げた。
「あぁ、でも‥‥服に入られたら、流石に‥‥ちょっと、嫌かもしれない‥‥」
蒼月は自分がゴの付くアレにされて嫌な事を考えて、真人達が嫌がっている理由を理解しようとした。
●ヤツの影!?
「君の頼みなら断れるはず無いじゃないか〜。ま、大船に乗ったつもりで、吉報を期待しててくれよな!」
倉庫の扉を開けると、ボニーはクリストファー・テランス(ea0242)に頼まれていた残飯と廃油を渡して酒場へ戻った。その後ろ姿に出雲が更に自分を押すと‥‥彼女は一度立ち止まって手を振った。
出雲が笑い返す横では、クリストファーとツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)が中心となり、アクテやクレアス、蒼月も加わって、ゴの付くアレをおびき寄せ、捕まえる罠作りが早くも始まっていた。
「この植物を擦り潰すとかなり粘着性が出ますから、いくら俊敏なゴの付くアレでも、一度足を踏み入れたら抜け出せませんよ」
植物に詳しいクリストファーとアクテが粘着性の高い植物を持ち寄って、それを摺り潰したものを布の上に縫った粘着シートを数枚作り、その上に残飯や廃油を置いた。
「取り敢えず罠を仕掛けて、出てきたヤツから潰していくか。一網打尽とはいかないだろうが、これで数を減らせれば、後々楽になりそうだな」
ツウィクセルはゴの付くアレが潜んでいそうな場所に粘着シートを仕掛けていった。
「うー‥‥緊張する‥‥」
その間、ウィルとオーガ、ミカエルと真人が組んで、倉庫の物に被害を出さないよう木箱等の軽い物から運んで退かし、戦闘に適した広い空間を確保していた。
罠を仕掛け終わったツウィクセル達も加わって、ずた袋やワインケースといった重い物を運んだ。その後に付いてゴの付くアレを警戒していた蒼月は、動かした荷物の中に早くもゴの付くアレの卵と幼虫を見付け、彼女は素手で、クレアスはクルスダガーで潰した。
「こんな事が厨房とかで起こっているかと思うと‥‥忘れよう」
汚れたクルスダガーを見ながら溜息をつくクレアスの姿を、真人は顔を思いっきり振って忘れようと務めた。
「俺も素手であれ武器であれ、潰すのは勇気が要ると思う。ヤツのボディの特殊コーティングの所為で、矢じりがダメになってしまうだろうが、背に腹は代えられないからな」
「それに食べ物に浸入されると不快でしょう? 早急に見付けて倒しましょう!」
「(衛生上の問題という事かのぉ‥‥沼で水浴びをしていて、蛭に集まられた事など無いのじゃろうなぁ‥‥)これでも食って落ち着いて、共に頑張ろうのぅ」
真人が板を、オーガが小石を拾ったように、ツウィクセルは矢を射るのではなく手に持って叩くか突き刺そうと考えていた。またクリストファーはレザーアーマーの下の服の袖から裾、襟元に至るまで紐できっちりと縛り、ゴの付くアレに侵入されない完全防備の様相だった。
オーガはそう呟きつつ、乾燥果物をウィル達に差し出して鋭気を養うよう勧めた。彼は荷物を運ぶ時の緩慢な動きといい、微妙にやる気が無いのだが、誰一人気付く者は居なかった。
「‥‥ゴの付くアレ‥‥って、匂うから‥‥流石に、食べる気には‥‥ならないわね‥‥」
「た、食べる気なんて元から無いわよ! 男性陣、命を賭してゴの付くアレからあたしを護るんだよ♪ ‥‥って、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
パピヨンは食べた事のある、という蒼月の前振りに突っ込みを入れながら、自分を護るよう真人達に軽快に告げたミカエルの口から、次の瞬間、一転して悲鳴が響き渡った。
数匹のゴの付くアレが、粘着シートの方向へ移動するのを目の当たりにしたからだ。
●デッドストリームアタック!!
「さぁ出て来い、出て来ーい!!」
「火・緋、操・装、我が導きに従え!」
真人は疾走の術を使って真っ先にミカエルが攻撃されないよう身を呈して庇った。ミカエルは彼の後ろから、ファイアーコントロールをこれでもかと唱えて、壁に掛けられたランタンの炎を次々とゴの付くアレに飛ばした。
「えい! ‥‥大丈夫? くっついたりして‥‥ないよね。ご、ごめん!!」
ミカエルのローブはジプシーの衣装並に露出が多く、ゴの付くアレが付いているかは一目瞭然だった。真人は全身を見た後、慌ててその事に気付いて目を逸らした。
「踏め踏めー!」
「こいつ、疾いぞ!?」
苦戦を強いられているのはウィルとツウィクセル、アクテとクレアスだった。
隠れていた場所にあった物を動かすと一目散に逃げ出す習性を利用しているのだが、クリストファーが荷物を動かし、その姿を捉えてもゴの付くアレの方が素早く、捉え切れないのだ。
その内、数匹のゴの付くアレがクリストファーの身体へと這い上がってきた。
「私に構わず戦って下さい、最後まで! 今倒さないと同じ事の繰り返しになります!!」
――もちろん、容赦なくクリストファーの身体を叩きまくったのはいうまでもない。
「直撃させる!!」
「見えるのぉ」
「‥‥体力、使わない‥‥依頼で、嬉しいわ」
一方、出雲は日本刀から繰り出すソニックブームで、オーガは小石で、蒼月は素手で、着実にゴの付くアレを撃破していった。
――クリストファーが痛い目に遭いながらも、倒したゴの付くアレを数えて27匹目に達した時。
出雲は殺気感知で、今までとは違う気配の新たなゴの付くアレを捉えた。
現れたのは縦に並んで隊列で、一糸乱れず突き進んでくる、3匹のゴの付くアレだった。
「‥‥王子」
蒼月に言われてオーガが小石を投げると、ゴの付くアレは分散してかわし、再び隊列を整えて、3匹が同時にクレアス目掛けて飛び掛かってきた!
「ちぃ!」
「仲間を踏み台にした!?」
出雲のソニックブームはもう1匹を踏み台にする事でかわされ、クレアスが驚いている内に3匹が彼女の顔面に迫った!
「させるかぁぁぁぁぁ!!」
ツウィクセルが割って入り、クレアスへの顔面直撃を防いだ。代わりに彼の顔面を直撃したが、クレアスのグッドラックが掛かっていなければ、口や鼻の中に入っていた事だろう。
「‥‥そんなに死にたいんですの?」
ゴの付くアレの“デッドストリームアタック”――とミカエルが命名した――を目の当たりにしたアクテの表情が豹変した。のんびりでおっとりながら冷静だった彼女の目付きが鋭くなり、ヒートハンドを唱える。
3匹のゴの付くアレは怯む事なく、再びデッドストリームアタックを仕掛けてきた。
「わしらを舐めてもらっては困るのぉ」
「同じ技が通用する程、冒険者は甘くないよ!」
オーガの小石とミカエルのファイアーコントロールの炎が隙を作り、そこへ蒼月の拳と真人の板が叩き込まれ――。
「私に触ると火傷しますわよ? ‥‥ふふ、燃えたでしょう」
最後の1匹はアクテのヒートハンドによって倒された。
燃え盛る右手を翳しながら、アクテは焼け落ちたゴの付くアレに冷笑を浮かべたのだった。
「や‥‥やっと終わった、よね?」
ゴの付くアレがこれ以上出てこない事を確認すると、クリストファー達は余った粘着シートに卵や幼虫、ゴの付くアレの死骸を着けて外にひとまとめにした。
ミカエルがそれらに火を付けて燃やすと、ウィルはやっと一心地着けた。
――だが、その分、犠牲も大きかった。
「‥‥ツウィクセルさん‥‥ツウィクセルさぁん‥‥」
「‥‥あの時、私がもっと上手く回避していれば‥‥」
「おぬし1人の力で解決できる程、この依頼は甘くはなかったのじゃ」
「‥‥あの、顔をしっかりと洗えば何とか‥‥多分」
クレアスの膝枕で寝かされているツウィクセルを見ると、真人は食欲が減退していくのに気付いていた。悔やむクレアスをオーガが叱咤する事で慰めたが、当のツウィクセルは顔を洗うまで目や口を開けたくないだけだった。
倉庫の掃除が終わった事を告げると、ボニーは喜んで報酬を渡した。
「それはいいから君と一緒にいたいな?」
出雲がボニーをデートに誘うと、「今日の仕事が終わってからでしたら」、と約束を取り付ける事ができたのだった。