No more FUNDOSHI!?

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月06日〜09月11日

リプレイ公開日:2004年09月14日

●オープニング

 キャメロット郊外に建つ貴族の別荘の昼下がり。
 草木が青々と生い茂り、花が咲き誇る庭園で、貴族令嬢達が食後のお茶を楽しんでいた。

 女性が3人集まれば姦(かしま)しい、と言うが――。
 あそこの貴族の子息が、トーナメント(馬上試合大会)で優勝しただの。
 向こうの貴族の子息は、容姿端麗、文武両道だの。
 どこぞの貴族の子息に、告白されただの。
 服や料理も話の種ではあるが、無垢な天使達の一番の関心事はやはり色恋沙汰である。
 但し、同じ身分の男性――騎士――に限られるが。
 しかし、今日のお茶会を主催したイングリットは、積極的に話に加わろうとはしなかった。
 色恋沙汰に興味がない訳ではない。ただ、彼女達とは恋愛観が異なるからだ。
「イングリットさんは、意中の方はいらっしゃいますの?」
「‥‥ええ、神聖騎士とか‥‥あ!?」
 いきなり話を振られたイングリットは、つい、何とはなしに答えてしまった。
 慌てて言い淀むが既に遅く――。
「いつの間に。イングリットさんも隅に置けないですね」
「その神聖騎士様と、どこで知り合ったのです?」
「い、妹の友人ですわ。先日、遊びに来たのですの」
「エレナさん、確か冒険者をなさっているのですよね。お仲間かしら?」
 途端に彼女を囲む無垢な天使達の6つの瞳が、獲物を見付けた猛禽類のそれのように「キュピーン☆」と輝き、質問責めに遭う。
 イングリットは言葉を選びながら、ボロが出ないようにするのが精一杯だった。
 ――自分の恋愛は、ジーザス教徒の前で話せる内容ではないから。
「冒険者といえば、聞きましたエチゴヤの話?」
「ええ、聞きましたとも。フンドシを輸入したそうですね」
「私、実物を見ましたが、優雅さの欠片もありませんでした」
 どうやら話は別の方向へ流れたようだ。イングリットは内心、胸を撫で下ろした。
 が、それも束の間。
「私、輸入に反対しましたのに、許せません」
「私もですよ。キャメロットが穢れてしまいますもの」
「あのようなものに生地を使うなら、ドレスの1着も作れば売れますのに」
 自前(といっても親に買ってもらうのだが)で服が仕立てられる貴族令嬢達は、ファッションに五月蠅い。
 褌は彼女達の美的センスと合わなかった。
「フンドシは、あのカマが愛用しているそうですよ」
「フンドシを輸入してからですよね、カマの横行が流行り始めたのは」
「同性愛は聖なる母に対する背徳です。その温床であるフンドシなんて、汚らわしいだけです!」
 彼女達は褌の輸入反対派だったが聞き入れてもらえず、エチゴヤは褌を輸入した。
 そして案の定、である。文句や不満は、愚痴へと変わっていった。
 ジーザス教の教義では同性愛は認めていない。彼女達がカマを嫌悪するのは、世間一般的な至極当然の反応なのだ。
「そうです! 冒険者を雇って、フンドシを処分してもらいましょう!」
「それは素晴らしいアイディアです。しかし、エチゴヤの店内に展示してあるフンドシは少ないですよ?」
「確か、輸入したフンドシの在庫は、エチゴヤの知り合いの倉庫に保管してあると聞きました」
「皆様、流石に冒険者ギルドは、そういう仕事を受けないと思いますが‥‥」
 彼女達が出した答えは、冒険者にエチゴヤの知り合いの倉庫を襲撃させ褌を盗ませる依頼をする、というものだった。
 彼女達らしいアイディアだと苦笑しながら、イングリットは「それは冗談ですよね?」と聞き返した。
 しかし、彼女達は「冒険者ギルドに頼むとは限りませんよ?」と逆に意味ありげな笑みを浮かべた。
 どうやら、ギルドで扱わない(扱えない)依頼を仲介する者に頼むらしい。

 その夜――。
「なにそれ‥‥その話、マジなんだね?」
 イングリットは冒険から帰ってきた妹、女騎士エレナに昼間の事を相談した。
 褌輸入を反対していた者がいたのは事実だし、カマが横行しているのもまた同じ。
 エレナは呆れつつも、自分達の手は汚さないあの貴族令嬢達ならやりかねないと真顔になった。
 彼女も冒険者の端くれである。金を積めば汚れた仕事をする者がいくらでもいる事は知っている。
 
 数日後、エレナは冒険者ギルドに1枚の依頼書を貼った。

『フンドシを憎んでいる貴族令嬢達を説得できる冒険者、居ない?』

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0717 オーガ・シン(60歳・♂・レンジャー・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea0830 レディアルト・トゥールス(28歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1010 霧隠 孤影(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1434 ラス・カラード(35歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2889 森里 霧子(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3799 五百蔵 蛍夜(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5635 アデリーナ・ホワイト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文


●闇の組織の影
 女騎士エレナの依頼書を見たとれすいくす虎真(ea1322)達は、冒険者ギルドに集まり、個室で簡単な自己紹介と打ち合せを済ませた後、各人が行動に出た。
「ヒーリングポーションマケテー! ヘビーアーマーカッコイイナー! マケテヨー!」
 虎真はエチゴヤに入り浸り、買えない品をねだる貧乏冒険者を演じながら、日が暮れるまで出入りする冒険者を逐一チェックした。
 数人の冒険者が褌を見ていったが、値段の高さに目を剥いて買わずに去っていった。虎真が見た限り、普通の冒険者達のようだ。

 レディアルト・トゥールス(ea0830)と霧隠孤影(ea1010)、アリオス・エルスリード(ea0439)とティアイエル・エルトファーム(ea0324)は、エレナの案内で褌の在庫が保管してあるエチゴヤの友人の倉庫を訪れた。
 倉庫はエチゴヤのある辻一つ向こうの、逆くの字の曲がり角にあった。
「少し厄介な場所だな」
「二手から同時に来たり、ふいうちのかのうせいがありますよね」
「皆を呼び寄せる為に、笛とかあった方がいいだろう」
「僕は入口にかんたんな罠をしかけるです」
 レディアルトは倉庫の主から笛を人数分借り、孤影は覚えたての片言のイギリス語で許可を得て、入口に簡単な罠を設置し始めた。彼女の技量で仕掛けられる罠は限られるが、鳴子といった簡単な警報装置なら充分隠せるだろう。
「褌の護衛というとやる気も萎えかけるが、強盗の排除と考えれば話も変わってくる。奴らが褌だけを持っていくとも限らないしな」
「そうだよ、お兄‥‥じゃなくてアリオスさん。最悪、倉庫ごと褌を燃やされる恐れもあるからね」
 花売りのティアイエルの元へアリオスが買いに来た、という設定で、2人は倉庫の周辺を見回っていた。
 アリオスのプラチナブロンドと横顔がどことなく兄に似ており、ティアイエルはつい口に上った『お兄さん』という台詞を途中で飲み込んだ。アリオスは彼女の気持ちを汲んでか、微笑みながらブロンドの髪を優しく撫で、見回りに戻った。
 遅れてきたレディアルトが声を掛けるまで、ティアイエルはぼーっと撫でられた頭に触れていたとか。

 森里霧子(ea2889)の生業は情報屋だが、面倒臭い事が嫌いな性格故、集まる情報はまちまちらしい。しかし、一度興味を持った事はとことん収集するようだ。
「闇の組織、か‥‥」
 霧子が得たのは、冒険者ギルドに加入していない冒険者達へ非合法な仕事を斡旋する組織があるらしい、という噂だった。人攫いに毒物や人身売買等、今回の依頼も含めて、冒険者がやらないような汚い仕事を平気で請け負う、アンダーグランドな組織だとか。
 情報が不鮮明なのは、そういう組織があるのかもしれない、という風聞の域を出ない情報ばかりで、彼女の技量では噂の裏を取る事ができなかったからだ。

●強襲阻止!
 とんでもない方向音痴が災いして、ギリギリになって合流した霧子が逆くの字の下の棒に当たる通りを急遽封鎖し、倉庫への進入経路を1つに限定すると、虎真と孤影、レディアルトと霧子、アリオスとティアイエルの3班に分かれて交代で夜警を開始した。
 虎真は朝からエチゴヤにいたので徹夜は厳しい様子だったが、その分、夕方に仮眠を採った孤影が気を張って見回りをした。
 レディアルトと霧子に交代し、しばらく経った頃――。
「そろそろ丑三つ時か‥‥!? この匂い、火矢か!?」
「コソ泥如きに負けてたまるかっての!」
 鼻の利く霧子は自分達の提灯ではない、火の匂いを嗅ぎ取った。レディアルトはオーラエリベイションを詠唱すると、フレイルを片手に倉庫の入口に立った。
 その直後、火矢が飛んできて、入口を庇うレディアルトのレザーアーマーに立て続けに突き刺さった。彼が笛を吹いた後、霧子は用意しておいた消火用の水を掛けた。
「アリオスさん、あんな所に弓を持った男の人がいるよ!」
「ティオ、先ずは奴らを潰して遠距離攻撃による放火を封じるぞ!」
 倉庫の屋根に登ったティアイエルが目聡く弓矢を持った男達を見付けた。アリオスはショートボウに矢を番え、レンジャーを1人射抜く。ティアイエルもライトニングサンダーボルトを唱え、もう1人のレンジャーを倒した。
 その後、封鎖していない路地から夜陰に紛れて男達が駆け込んでくるが、こちらには既に虎真と孤影が配置に就いていた。
「放火が駄目なら襲撃の二段構えとは‥‥悪知恵だけは働くようですが、如何思います?」
「わるいことするヒトはもんどうむようで御用です!」
 虎真と孤影はそれぞれ日本刀と十手を構え、ファイター達のショートソードと斬り結んだ。
 彼らはそこそこの腕前を持っており、孤影にポイントアタックを狙う余裕はなく、疾走の術を使っていなければ逆に倒されていただろう。回避しながら隙を見付けると、辛うじてスタンアタックを決めて気絶させた。
 一方、虎真はフェイントアタックを巧みに繰り出し、速攻で2人のファイターを斬り伏せていた。
 レディアルトと霧子がきっちり入口を死守し、8人の賊を倒した。
 アリオスが消費した矢は、レンジャーの持っていた矢で補充した。その間、ティアイエルが賊をロープでぐるぐる巻きにする横で、虎真は彼らの至る所に『グランドクロス参上』と書いた紙を貼り付けていた。
 彼らは下っ端で、キャメロットの警備隊に突き出したところで大した情報は得られない、と霧子はただ1人、冷めた目で見つめていた。

●お嬢様説得網
 孤影から賊を捕まえた報せを受けたエレナは、五百蔵蛍夜(ea3799)の意向で倉庫襲撃から3日後に姉のイングリットにお茶会を開いてもらい、貴族令嬢達を招待した。
 彼女はひたすら愛馬を飛ばし、蛍夜達と孤影達の伝令役に徹していた。
 蛍夜とアデリーナ・ホワイト(ea5635)は正装、ラス・カラード(ea1434)は神聖騎士の普段着、オーガ・シン(ea0717)は普段着で参加した。
 イングリットと歓談している貴族令嬢達にも褌の処分が失敗した報告は行っているようで、どこかご機嫌斜めな様子だったが、礼服に身を包んだアデリーナの姿を見るやいなや称讃の溜息を漏らし、続いてラスに好意の視線を注いだ。
 オーガも不機嫌極まりなかった。貴族令嬢達の愚行は、褌を守る為にカマといった変態達と戦い続けている彼の行為を真っ向から否定するものだからだ。
 イングリットがエレナの友人として紹介すると、お互いの自己紹介から始まり、祖国の事や冒険譚へと話は移っていった。
「そういえば先日、エチゴヤの友人の倉庫が襲撃されるという事件が遭ったそうだな。何でも賊の目的は褌を処分する事だったらしい」
「あら、そうでしたの? 褌など処分されてしまっても宜しかったのに」
 蛍夜が褌の話を切り出すと、貴族令嬢の1人はしれっと言い退けた。
「なら、情熱ダンス団に入るかの? 下着付けておらんぞ‥‥あなたらも仲間じゃの」
「殿方から身体を隠すのであれば、寝間着でも充分ではありません?」
「水の妖精団も布で隠しておったの。濡れてお稲荷さんと竿が見えておったが‥‥あなたらも仲間じゃの」
 オーガは変態の所業や姿を実際に見てきた人間として、細部に至るまで描写し始めた。
「変態が夜な夜な現れるこの国で、新しい下着の普及を阻害するとは、どういう了見じゃ? ああ、なるほど、あなたらもそういう物を見たいんじゃな」
「あなた、カマの肩を持つおつもりですか!? カマは聖なる母の御元である神の御国に入れないのですよ!?」
 オーガの売り言葉に貴族令嬢の買い言葉。しかし、お互いの意見は平行線を辿り、一歩も譲らなかった。
 オーガは彼女達が敬虔なジーザス教徒である事を失念していた。ジーザス教の教義ではカマは死罪に値する、寛容しがたい所行なのだ。彼女達が褌を毛嫌いしているのは、『褌が輸入された事でカマの横行が増長した事』であり、オーガがいくら倒した変態達の事を並べても、それだけでは彼女達の考えを正す事はできないのだ。
 一発触発の中――空気を斬る音と共にオーガの前のティーカップが割れ、蛍夜が日本刀を鞘に収めていた。
「失礼‥‥皆、六尺褌が白いのは何故か、知っているか?」
 蛍夜の問いに、オーガも貴族令嬢達も答えられなかった。
「褌を推し進めるのも、否定するのも、それは構わない。だが、褌の文化の一部のみを取り上げて悪戯に騒ぎを大きくしているのは、なんでもいい、自分達の文化に置き換えてみて嘆かわしいとは思わないか? 物の見てくれだけでなく、その背景にある文化や本質にまで目を向けて欲しい」
 蛍夜の話は決して雄弁とはいえなかったが、褌というジャパンの文化が理解されていない事に心を痛めている想いは、ひしひしと伝わってきた。
「フンドシが一般の人々に受け入れられない為に、聖なる母の教えに反する一部の者達の愛用品として使われるという憂き目を見てしまったのです。あなた方には一般の人々にも受け入れられる、フンドシの上品な着こなし方を是非、生み出して欲しいのです。他国の文化を理解する事、それは我々高貴な生まれの人間の1つの使命だと僕は考えています」
 合わせてラスが『オーガさんはフンドシの輸入に貢献した方なので、思い入れは人一倍なのです』と説得すると、彼女達は押し黙ってしまった。
「フンドシの魅力、それはやはり殿方を引き立たせるだからだと思いますのよ」
 そこへアデリーナがすっくと立ち上がった。
「わたくし自身は非力なエルフ、ですからわたくしが着用しても何ら意味はございませんわ。美麗な肉体を持っている殿方こそ、布一枚で肉体美を誇示できるのです! これを憧れの騎士様に着用して戴く‥‥嗚呼、想像しただけでなんて甘美なのでしょう!!」
 彼女は褌を穿いた王子様を待ち焦がれる美姫のように、碧色の瞳を輝かせ、目まぐるしく仰々しい仕種をし、最後は恍惚とした表情で空を見上げた。
 貴族令嬢達は疎か、オーガ達もその勢いに唖然となった。

 お茶会はアデリーナの語りで丸く収まる形でお開きになったが、果たして貴族令嬢達を説得できたかは分からない。
 しかし、後日、お詫びの印に各人に届けられた越中褌が、アデリーナ達の想いが彼女達に届き、褌に対する嫌悪感が減った事を意味している‥‥かもしれない。