【高耶・七】初秋刀魚を釣ろう!

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 49 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月15日〜09月21日

リプレイ公開日:2004年09月24日

●オープニング

「豆腐〜、召せ〜、ジャパンから登りて候〜! 豆腐〜、召せ〜、ジャパンから登りて候〜!」
 今日も暮れなずみ始めたキャメロットの市民街に、元志士・仁藤高耶の威勢の良い豆腐を売る声が響き渡ると、両天秤の前後に丸い桶を吊るし、それを肩に担いだ彼女が颯爽と駆けていった。
 早朝までの仕込みと、夕方からの豆腐販売という生活のサイクルから、昼間は休んでいる事が多く、夏の日差しで日焼けしていない彼女の白い頬を、心地よい秋風がそっと撫でていった。
 季節は夏から秋へゆっくりと移り変わっていた。
 目で感じるのは、長かった日が暮れるのが早くなった事だろう。
 肌で感じるのは、日差しが和らぎ、涼しくなった事だろう。
 耳で感じるのは、虫の鳴き声が変わった事だろう。
 そして、口で感じるのは‥‥。
「秋といえば秋刀魚じゃな」
 そう、秋の味覚である。

 翌日の早朝、豆腐の仕込みを終えた高耶は市場へ来ていた。
 サンマは、秋刀魚と書いて字の如く秋に捕れる魚で、ジャパンでは秋の便りとして庶民に食べられている。
 サンマ自体はジャパン近郊にしか生息していない回遊魚だが、イギリス近辺でもニシサンマというサンマが捕れる事は高耶も耳にしていた。もちろん、食用としてである。
「捕れたてをその場で捌いて刺身にしてもいいし、今の時期は脂が乗っておるから直焼きもいいし、塩焼きでも蒲焼きでもいけるのぉ‥‥まてまて、煮付けで一杯というのも捨てがたいし、後々の事を考えると開きや干し秋刀魚も‥‥」
 年甲斐もなく、すっかり食い意地の張っている高耶だったが、それだけジャパン食に対する造詣が深く、こよなく愛している証拠だった。もっとも、これは個々人の好みだが。
 だが、魚を扱っている露天に来て高耶は愕然とした。サンマが置いてないのだ。
「ニシサンマを捕りたいんだがね、ソードフィッシュに邪魔されて捕れないんだ」
 サンマが水揚げされていない事から高耶が露天主に訊ねると、ほとほと困っている答えが返ってきた。
 ソードフィッシュは頭に剣のような角が生えた、体長1m程の肉食魚で、その角によるチャージングを得意としていた。
 運悪く、今、ニシサンマが来ている海域に現れており、ニシサンマを食い荒らしているというのだ。
「サンマを独占するとは赦せん! 船を出してもらえれば退治するのじゃ!!」
 ソードフィッシュも群れをなす魚で、必然的に水中戦となるだろう。もしくは、何らかの方法で水面近くまで誘き寄せる必要があるが、既に高耶の思考は『サンマを食べる事』に完全に向けられていた。
 露天主は漁師でもあり、中型クラスの漁船(高耶達が乗って、且つサンマが水揚げできる大きさ)を用意してくれるという。
 ソードフィッシュを撃退できたら、今度はサンマ漁が待っている。
 サンマ漁は本来は、サンマが光に集まる習性を利用した網だが、今回は釣るという。
 釣り道具は高耶が用意するが、自前の物の方が使い心地はいいかも知れない。

 高耶は市場を出たその足で冒険者ギルドを訪ね、一枚の依頼書を貼った。

 『サンマを食べたい同士求む!』

●今回の参加者

 ea0144 カルナック・イクス(37歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ノルマン王国)
 ea0263 神薙 理雄(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0453 シーヴァス・ラーン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1434 ラス・カラード(35歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3098 御山 閃夏(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3657 村上 琴音(22歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5430 ヒックス・シアラー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文


●秋刀魚料理いろいろ
 村上琴音(ea3657)達が依頼主の元・志士、仁藤高耶に指定されたキャメロットの南東部にある港に集まると、漁師と打ち合せをしている彼女の姿があった。
 漁船でテムズ川を下って外洋へ出て、ニシサンマの漁場へと向かうのだ。
「島国同士、通じるものが多いのう」
 琴音は小型船や航海術、そして漁の知識を修得しており、久しぶりの船を出しての海釣りという事もあって、端から見ても嬉しそうだった。
「お会いするのは久しぶりですね。ソードフィッシュ退治を頑張りましょう」
「ニシサンマを独占するとは、如何に魚といえども許せないですね」
「まったくじゃよ」
 打ち合せを琴音と代った高耶に、ラス・カラード(ea1434)が恭しく騎士の礼を取った。この神聖騎士はいつ会っても上品な立ち振る舞いだ。
 その横からヒックス・シアラー(ea5430)が挨拶をすると、高耶は真顔で深々と頷いた。
「ジャパンだと秋にはサンマを食べるんだな‥‥水中戦をする羽目になるとは思わなかったが」
「俺も泳ぎは得意じゃないから」
 閃我絶狼(ea3991)が肩を竦めると、カルナック・イクス(ea0144)が微苦笑をしながらその肩に手を置いた。ただ、絶狼は苦手ではなく泳げなかった。
「鰻も美味しかったですけど、秋刀魚の刺身とつみれ汁が食べたいので頑張りますなの」
「サシミ? 魚を生で食べるのかい!? ジャパンの調理法は奥が深いね」
「魚に火を通さず食べるのですか‥‥!」
 神薙理雄(ea0263)がジャパンでの記憶を失っている絶狼に、食べ方を教えるように言った。魚料理のレパートリーを増やしたいカルナックと、ラスは、その事を聞いてほぼ同時に驚いていた。肉にせよ野菜にせよ、とにかく火を通すのが料理の基本だからだ。
「この珍しさがあるから、ジャパンの食文化は飽きないんだ」
 とはシーヴァス・ラーン(ea0453)の台詞だ。彼は高耶のイギリスでのジャパン食の追求に付き合って、ジャパン食にも慣れてきていた。その最たるものが箸の使い方だろう。
「ソードフィッシュも食べられませんかね?」
「ジャパンではカジキマグロといって、食べるよ。今回は秋刀魚の為に退治するけど、一石二鳥だよね」
 ヒックスの質問はカルナックが聞きたい事でもあった。答えたのは漁の知識を持つ御山閃夏(ea3098)だった。
 ソードフィッシュはジャパン人には馴染み深い、カジキマグロの事だった。
「相手がカジキマグロとなると、銛の方がいいと思うのだけど、借りられないかな?」
 閃夏が高耶に聞くと、彼女から全員に銛(スピア)が渡された。銛も報酬で、代わりに余ったニシサンマやソードフィッシュは全て高耶が引き取る事になった。

●恐るべきソードフィッシュ!?
 漁船は中型のカヌーのような船で、船頭が舵を取り、ラス達男性陣に漕ぎ手が任された。
 幸い、天候に恵まれ、外洋の波は穏やかだった。
 ソードフィッシュはニシサンマを餌としている事から、ニシサンマの群れを見付ければ自ずと発見できるという閃夏の意見に従って、船頭はニシサンマの漁場を目指した。
 理雄はその間に電撃系の魔法が周囲に漏電しないか、真空の刃が水中でも効果を発揮するかを調べ、問題ない事を確かめた。

「私がまぢかるえぶたいどを、そーどふぃっしゅのいるところにかけてみて、海から引き摺り出せないか挑戦してみるのじゃ。うまくいけば船の上や水の上からでも攻撃できるのじゃ」
「なら俺が適当にちょっかいを出して、ソードフィッシュを船までおびき寄せよう。要するに囮だな。カルナックや理雄の援護があれば、一人でも保つさ」
 程なく船頭がニシサンマの群れを発見すると、琴音が策を話し、絶狼が囮役を買って出た。
 琴音と理雄と高耶は船上で、カルナックは水上で待機し、絶狼とラス、ヒックスとシーヴァス、そして閃夏が水中に潜る事になった。
 高耶は先ず絶狼にウォーターダイブを付与した。
 絶狼はニシサンマの群れを突っ切ってソードフィッシュの前に出ると、1匹に突き掛かった。水中では向こうに分があるとはいえ、絶狼の銛捌きも引けを取らなかった。
 攻撃されたソードフィッシュ達は一斉に絶狼目掛けて突進してきた。最初の一撃はかわしたものの、次はかわし損ねて銛で受け流し、三撃目は旅装束ごと身体をえぐられた。
 そこへ理雄のウィンドスラッシュと、ウォーターウォークの力で水上を歩くカルナックの銛が放たれた。狩猟と漁の違いはあるが、投擲に関してはカルナックの得意とするところだ。すぐに銛の投擲もコツを掴んでいた。
 その間、絶狼は漁船へと辿り着いた。タイミングを見計らって琴音が水位を下げると、3匹のソードフィッシュが掛かった。これらは理雄と琴音、高耶が受け持つ事になった。
「行きます!」
 ラスを皮切りにウォーターダイブを掛けてもらったシーヴァス達が、次々と海へ飛び込んでいった。残るソードフィッシュは6匹。1人1匹受け持つ計算だ。
「水中で呼吸ができるとは、不思議な感覚ですね」
 余裕がある訳ではないが、ヒックスはソードフィッシュの動きを見切れない訳ではなかった。角によるチャージングはミドルシールドで受け流し、着実に銛を当てていった。
 閃夏も迎撃に徹していた。ウォーターダイブの効果で普段より速く泳げるとはいえ、水中では速度が違い過ぎるからだ。
「二天一流は水中戦でも応用が利くんだよ!」
 ソードフィッシュの角を銛と短刀を駆使して防ぐと、そのままソードフィッシュの角につかまり、鰓に短刀を突き立てた。
 一方、シーヴァスとラスは意外な苦戦を強いられていた。シーヴァスがホーリーライトをぶつけ、ソードフィッシュの出端を挫いたのだが、その後乱戦になると、シーヴァスとラスの攻撃はソードフィッシュに当たるが、向こうの攻撃も同じように喰らった。
 認めたくはないが、ソードフィッシュの攻撃能力はシーヴァス達より高いようだ。
「やらせはしません!」
 シーヴァスはソードフィッシュのチャージングをかわすが、続く攻撃はかわしきれずにラスが庇い、ガードで負傷を軽減した。
「お前達を倒して高耶が作る秋の味覚を堪能する!」
 ラスは回復と防御に徹し、シーヴァスが最小限の動きで迎撃し、遂にソードフィッシュの群れを全滅させたのだった。
 それはウォーターダイブとウォーターウォークの効果時間が終わる寸前だった。

●秋刀魚料理と鮪料理
 ラス達は大漁のソードフィッシュを引き下げて漁船へ戻り、傷の手当てをしながら夜を待った。近海の秋刀魚漁は、秋刀魚が光に集まる習性を利用して夜に行う。
 船頭がたいまつを船のあちこちに掲げ、高耶が釣り竿をヒックス達に渡し、琴音と閃夏が手分けをして釣りのやり方を教えた。
「上手く釣れるといいんだけどね‥‥」
「取り敢えずやってみましょう」
「はうぅ〜〜!? 自分を釣っちゃいましたのね〜〜」
 カルナックとヒックスが早速、釣糸を垂らすと‥‥一番最初に釣り上げたのは理雄だった。もっとも、リリースした針が自分自身に引っ掛かったのだが。
「ニシサンマ、頑張って釣ったんだぜ、褒めて?」
「おお! 大物ではないか!!」
 改めて一番最初に釣り上げたのはシーヴァスだった。ホーリーライトでニシサンマをおびき寄せたのが功を奏したようだ。大物に高耶は目を見張った。
「これがニシサンマ? 細魚(さより)じゃないんだよね」
「上下のあごが、さよりのように伸びているのじゃな」
「顎を切れば、姿も秋刀魚と同じそうじゃ」
 初めて見るニシサンマに、閃夏と琴音は驚きを隠せなかった。高耶が上下の顎を切ると、見慣れた秋刀魚になった。
「ここは焦らず、のんびりと掛かるのを‥‥おっと!?」
「こっちもだ! 凄い引きだな!!」
 まったりと釣りを楽しもうと思っていたラスと絶狼の釣り竿にも、すぐに当たりが来た。餌を付けて釣糸を垂らせば直ぐに当たりが来る――そんな感じだ。
 その後、経験のないカルナック達も面白いように、次々とニシサンマを釣り上げたのだった。
 
 キャメロットへと戻った理雄達は、その足で冒険者街にある高耶の長屋へお邪魔した。
「うーん、高耶のサンマを焼く姿‥‥滲みるねぇ」
「それはすまぬのう。煽ぐ方向を変えるのじゃ」
 高耶が秋刀魚を焼く煙にシーヴァスは涙した。その姿を褒めたのだが、そのままの意味で取られてしまったようだ。
「ほぅ、サシミとな‥‥むぅ、どことなく懐かしいような‥‥うん美味美味」
「俺は生臭くてダメだな。やっぱり塩焼きがいいな」
 捌いた秋刀魚の刺身を食べ、不思議と郷愁の思いが呼び覚まされる絶狼。カルナックは話の種に捌き方を高耶に教わった後、刺身を一口食べ、塩焼きに戻っていた。
「はわわ!? 塩と小麦粉を間違えましたのね!」
「それなら問題ないのじゃ。そのまま焼けば食べられるのじゃ」
 塩と小麦粉を間違える事自体、そうそう無いのだが、理雄は高耶に教わりながら作っているにも関わらず、得体の知れない秋刀魚のフライが出来つつあった。その横では琴音が秋刀魚をすり身にし、高耶からもらった豆腐と混ぜて揚げていた。
「こ、これは!? ‥‥う〜ま〜い〜ぞ〜!!」
 その変わった食感の、パンに似た揚げ物を食べたヒックスは、生まれてこの方味わった事のない美味しさに口からソニックブームを放ち、長屋の扉を壊していた。
「秋刀魚だけでなく、鮪も食べられるとは思わなかったよ」
「今日はまたジャパンの食文化に触れる事ができ、高耶さんの手料理も食べられる事ができて光栄でしたね」
 閃夏は秋刀魚の蒲焼きを食べた後、ソードフィッシュの刺身に移っていた。
 ソードフィッシュのステーキを食べていたラスが感想を述べると、高耶は嬉しそうに微笑み返したのだった。

 最後にヒックスが高耶に頼んで秋刀魚を塩漬けにしてもらい、全員、それをお土産としてもらってお開きとなった。