【ケンブリッジ奪還】ゴーレム研究室の危機
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月20日〜09月25日
リプレイ公開日:2004年09月27日
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●オープニング
「なに? モンスターがケンブリッジに!?」
円卓を囲むアーサー王は、騎士からの報告に瞳を研ぎ澄ませた。突然の事態に言葉を呑み込んだままの王に、円卓の騎士は、それぞれに口を開く。
「ケンブリッジといえば、学問を広げている町ですな」
「しかし、魔法も騎士道も学んでいる筈だ。何ゆえモンスターの侵入を許したのか?」
「まだ実戦を経験していない者達だ。怖気づいたのだろう」
「しかも、多くの若者がモンスターの襲来に統率が取れるとは思えんな」
「何という事だ! 今月の下旬には学園祭が開催される予定だというのにッ!!」
「ではモンスター討伐に行きますかな? アーサー王」
「それはどうかのぅ?」
円卓の騎士が一斉に腰を上げようとした時。室内に飛び込んで来たのは、老人のような口調であるが、鈴を転がしたような少女の声だ。聞き覚えのある声に、アーサーと円卓の騎士は視線を流す。視界に映ったのは、白の装束を身に纏った、金髪の少女であった。細い華奢な手には、杖が携われている。どこか神秘的な雰囲気を若さの中に漂わしていた。
「何か考えがあるのか?」
「騎士団が動くのは好ましくないじゃろう? キャメロットの民に不安を抱かせるし‥‥もし、これが陽動だったとしたらどうじゃ?」
「では、どうしろと?」
彼女はアーサーの父、ウーゼル・ペンドラゴン時代から相談役として度々助言と共に導いて来たのである。若き王も例外ではない。彼は少女に縋るような視線を向けた。
「冒険者に依頼を出すのじゃ。ギルドに一斉に依頼を出し、彼等に任せるのじゃよ♪ さすれば、騎士団は不意の事態に対処できよう」
こうして冒険者ギルドに依頼が公開された――――
ケンブリッジ魔法学校の一角から、侵入したモンスターの断末魔が聞こえてきた。
「‥‥うっかりあれに触ったのか‥‥」
校舎の外に避難した生徒の誰かが呟いた。
あれとはゴーレムの事だ。モンスターの悲鳴が聞こえた辺りは確か、ゴーレムの研究室があったはずだ。
そこには4体のウッドゴーレムと1体のボーンゴーレムが封印され、安置していったのだ。
モンスターはその封印を解いてしまったのだろう。
どのような命令が与えられているか、まだ研究途中だったが、これで1つはっきりした。
――侵入者の排除である。
このままゴーレム達を野放しにしていては、まだ避難を終えていない生徒達を攻撃しかねない。
急ぐのであれば馬車などが用意されるだろう。
一刻も早い冒険者達の到着が望まれていた。
●リプレイ本文
●生兵法は大怪我の元
クロノ・ストール(ea2634)が馬車の車窓に目を遣ると、木々の間から10階建てという、イギリスでも類を見ない高層建築であるケンブリッジ魔法学校の建物を臨む事ができた。
彼の強い希望もあって、冒険者ギルドは早馬車を用意したが、正解だったようだ。
「待ってろ、待ってろ学生さん〜。パラの戦士が助けに行くぞ〜♪
ピンチになったらやってくる〜。パラの戦士がやってくる〜♪」
クロノの向かいの席に座るボルジャー・タックワイズ(ea3970)の、場違いにも近い陽気な鼻歌が車内に響いていた。ミルク・カルーア(ea2128)は、ボルジャーが鼻歌を唄っている最中にもケンブリッジの学生達が死の危険に晒されていると思うと不謹慎だと注意しようとしたが、彼の歌で緊張がいい意味でほぐれている事に気付き、思い直してたおやかな笑みを湛えて応えた。
ボルジャーももちろん、学生達の事が心配で心配で堪らないのだが、数多くの強敵と戦ってきた彼は、新たな強敵であるゴーレムの事を考えるとわくわくしてしまうのだ。
魔法学校の建物の前に馬車が着くと、クロノ達を逃げ延びた学生達が出迎えた。『制服』という統一された珍しい服を纏う彼らは、一目で学生だと分った。
「早速で悪いがゴーレムの研究室の場所と現場、目標について簡潔でいいから説明を戴きたい」
クロノ達は簡単に自己紹介を済ませると、現状報告を聞いた。
生徒の教室は5階までで、ゴーレム研究室は6階にあった。ゴーレム研究室には頻繁に足を運ぶ生徒が多いらしい。
最後に逃げてきた学生の話では、ウッドゴーレムの姿を4階で見たという事だった。ウッドゴーレムは木彫りの像で、鎧兜で武装したボーンゴーレム共々、騎士の姿をしているので一目で分かるそうだ。
「逃げ遅れた学友に心当たりはありますか?」
夜枝月奏(ea4319)が聞くと、女生徒が沈痛な面持ちで友達が逃げ遅れて見当たらない事を話した。
「ゴーレム研究室に頻繁に出入りしていたのなら、ゴーレムの弱点や注意点を教えてもらえないかしら? 私達にも再封印が可能かどうかもね」
「例えば、ゴーレムにも心の臓のようなものがあり、そこを破壊すれば止めを刺せる、といった具合です」
ミルクの問いを奏が補足すると、ゴーレムの研究をしているという生徒が名乗りを上げ、ゴーレムに特に弱点はない事を告げた。また、ウッドゴーレムとボーンゴーレムはそこそこの剣の腕前を持っており、注意が必要だという。
再封印は、少なくとも達人的なゴーレム技術が必要で、それらを全く修めていないミルク達には不可能だった。
「ウッドゴーレムは木製だから、湿らせると動きが鈍くなるぞ! 以前、戦った事があるからな!」
リュウガ・ダグラス(ea2578)は自信満々にウッドゴーレムの弱点を告げるが、生徒は首を横に振った。それはウッドゴーレムだからという事ではない。ウッドゴーレムは、家の中など重いゴーレムが使えない場所で使われる事が多い為、泳ぐ事もできるからだ。
人間も乾いた服を着て戦うのと、すぶ濡れの服を着て戦うのとでは、後者の方が動きが鈍くなるのと同じだ。
「ウッドゴーレムは前に戦った時、頭を壊したら動きが止まったから、頭が‥‥弱点じゃないの? あれれ、違うのかな?」
チカ・ニシムラ(ea1128)は、今回も頭部を破壊すれば動きが止まると思っていたが、よくよく思い返してみると――以前、一緒に戦ったお兄さんとお姉さんは散々ダメージを与え、その結果、最終的に頭部を破壊できたのかもしれなかった。
「ウッドゴーレムもボーンゴーレムも、弱点らしい弱点はないという事だな。確かに頭部を破壊して終わりじゃ、ゴーレムの頭上からスマッシュをかますだけでいいし、どこぞの武闘大会のルールみたいだしな」
自分の思い込みに「ごめんね、お兄ちゃん達‥‥」と落ち込むチカの頭を、リーヴァ・シュヴァリヱ(ea1144)が優しく撫でた。共に冒険する友に全幅の信頼を寄せ、そして守る――それがリーヴァの信条だ。
「まぁいい。ボーンゴーレムへの突刺攻撃は効率が悪いと分かったのだ。後は俺達に任せてくれ‥‥お前達はこういう時、自分達ができる最善を知っているか? それは、最も良い状態で生き残る事だ‥‥頑張れよ」
アリアス・サーレク(ea2699)はゴーレムの情報が充分に集まったと踏むと、時間を惜しむようにそう締め括って学生達に言葉を残すと、リーヴァ達と共に校舎へと入っていった。
●石橋を叩いて渡れ!
1階から3階までのモンスター討伐は終わっており、奏達は4階の踊り場まで来た。
チカがブレスセンサーを使うと、遠くに呼吸音を感知した。リュウガのデティクトライフフォースで感知できなかった事から、奥の教室で息を潜めているようだ。
その時、ゴーレムが走ってくる音が聞こえた。音からしてウッドゴーレム、1体のようだ。
「魔法を使ったのが察知された原因かも知れません」
奏達は教室にあるという机や椅子を利用して階段にバリケードを造ろうと思っていたが、ウッドゴーレムの方が先に来てしまった。ボルジャーは奏達に先に行くように告げた。
「さぁ、おいらの新武器でやっつけてやるぞ!! ウッドゴーレムが強いかパラの戦士が強いか勝負だ!!」
ウッドゴーレムとの出会い頭にボルジャーのハンマーが炸裂した。流石のウッドゴーレムも壁へと吹き飛んだ。その隙にアリアス達は教室へと走った。
先ずリュウガのブラックホーリーが完成し、壁から這い出るウッドゴーレムに放つが、これは抵抗されてしまった。
ノーマルソードと右脚にオーラパワーを付与したクロノが、チャージングを利用したタックルを仕掛けるが、これは受け流されてしまう。そこへミルクのオーラショットが直撃した。
「魔法の抵抗は高いようね。剣技もバカにならないから、大技を仕掛けるのは要注意よ!」
ミルクの分析は的を得ていた。クロノはウッドゴーレムの木剣に打ち据えられながらも、ソードの重量と身体の捻りを利用し、そこから生み出される遠心力を用いた払い斬りで間合いを取り、そこへボルジャーのハンマーが打ち下ろされる。
「大いなる父の力を今ここに、邪悪なる敵を撃破せよ!」
再び、リュウガがブラックホーリーを、ミルクがオーラショットを撃って怯ませるが、ウッドゴーレムの斬撃は衰えを知らず、ボルジャーが三度ハンマーで殴りつけ、そこへクロノが全身を使って振り下ろす斬撃を加え、やっと倒したのだった。
だが、その後には戦いの騒ぎを聞き付けたのか、新たなウッドゴーレムが現れていた。
アリアス達もまた、教室でウッドゴーレムと遭遇し、倒した後、手分けして机や椅子を運び、人1人が通れるだけの隙間を開けてバリケードを造り上げた頃には、ミルク達も負傷しながら2体目のウッドゴーレムを倒していた。
チカが応急手当てをしようとすると、ボルジャー達は時間を惜しむようにそれを断り、リカバーポーションで傷を癒した。
ミルクが見た限り、ウッドゴーレムの剣技は少なくとも自分やクロノ、リュウガ以上だった。故に勝負が拮抗したのだ。
1フロアに幾つか教室があるが、最初と次の教室は誰もいなかった。正確にはゴーレム達に倒された、モンスターの死骸はあったが。廊下も同じ有様だった。
3つ目の教室を調べようとした時、奥の教室から斬撃音が聞こえてきた。チカのブレスセンサーとリュウカのデティクトライフフォースでも、隣に生徒がいる事は明らかだった。
リーヴァが教室を覗くと、ウッドゴーレムとボーンゴーレムが積み重ねられた机や椅子を攻撃していた。生徒達もバリケードを造っていたようだが、彼の目から見ても突破されるのは時間の問題だった。
奏はリーヴァがボーンゴーレムと対峙して回避に専念してもらい、その隙に先ずウッドゴーレムを倒し、生徒達を救う策を提案した。だが、ボルジャー達が2連戦している事とボーンゴーレムの実力が未知数で単独行動は危険という事から、それぞれボーンゴーレムとウッドゴーレムにあたる事になった。
「安心せよ! 未来を創ってゆく可能性で満ちた命、慈しむべき子供達‥‥君達は私達が命を懸け護る!!」
クロノが咆哮を上げ、ボルジャーが吼えながらウッドゴーレムへ向かっていった。その隙にリュウガとミルクがバリケードを越え、ゴーレム達の攻撃で脅えきっていた3人の生徒を確保した。
リュウガがリカバーポーションを生徒達に飲ませると、ミルクが付き添って階段まで行けるよう、ブラックホーリーを唱えて牽制した。
「風よ、刃となり我が前の敵を切り裂け!!」
チカがウインドスラッシュを放ったのを皮切りに、奏達がボーンゴーレムへ一斉に躍り掛かった。
ウインドスラッシュは抵抗されてしまうが、リーヴァが椅子を利用して飛び掛かり、肩にロングソードで斬撃を加えていった。
「深い森の志士、夜枝月奏の焔の牙、とくと味わいなさい!!」
焔の覚醒――フレイムエリベイション――を自らに付与した奏は、焔の牙――バーニングソード――が燃え盛る日本刀でボーンゴーレムに斬り掛かった。ボーンゴーレムは炎の軌跡をロングソードで受け流すと、そのままの勢いで反撃を繰り出してきた。
「与えられた命に従う盲目な人形よ、人間には未だ来たらぬ希望に満ちた明日がある‥‥人、それを『未来』という。此処の生徒達の未来をお前達に奪わせたりはしない」
オーラエリベイションの闘気に包まれたアリアスが、オーラシールドで反撃を受け流すと、更にカウンターアタックを叩き込んだ。だが、アリアスのオーラシールドを作り出した左手に、重く鈍い衝撃が走った。それはボーンゴーレムの一撃が重く、喰らえば中傷は免れない事を示唆していた。
アリアスの予想通り、ボーンゴーレムとの戦いは熾烈を極めた。奏やリーヴァの攻撃は受け流される事が多く、奏はフェイントアタックを織り混ぜて当て、リーヴァは十八番のスマッシュを封じられた形になった。アリアスは堅実に刃を繰り出すが、カウンターを重視している為、手数が増やせずにいた。
「雷よ、槍となり我が前の敵を貫け!」
チカがライトニングサンダーボルトを撃ってボーンゴーレムをぐらつかせたところへ、リーヴァがふわりと舞い降りた。彼はトリッキーな動きで相手を翻弄し、『蝶のように舞い、蜂のように刺す』戦闘スタイルを好んでいたが、そもそも翻弄される精神を持たないゴーレムとは相性が悪かったようだ。
「(キミに非はないが、学生達の為だからな‥‥)悪いけど、破壊させてもらうぜ!!」
オーラパワーが付与されたロングソードの一撃がボーンゴーレムの身体を砕き、遂に止めを刺したのだった。
全員、負傷していたが、その身体を押してゴーレムの姿を探し、安全を確認した後、校舎を後した。
学舎の前には生還を待ち望んでいた生徒達の人垣ができており、感謝の言葉と共にみんな揉みくちゃにされた。
手荒で若々しい歓迎ではあったが、ゴーレムを退治したという実感が、各自の胸に改めて沸き上がったのだった。