一期一会〜倉庫整理も依頼のうち〜
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月20日〜06月25日
リプレイ公開日:2004年06月29日
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●オープニング
イギリス王国の首都キャメロット。
その南東部に広がる冒険者街の一角に、その冒険者の酒場はあった。
ある者は冒険のパートナーを求めて、ある者は自分よりも強い者の噂を求めて、ある者は一攫千金のタネを求めて訪れ、店内は多くの冒険者達で賑わっていた。
既にパーティーを組み、テーブルを独占しているところもあれば、見ず知らずの冒険者同士で相席しているところもあった。
あなたがいるテーブルは、多分後者だろう。
もしかしたら知り合いと同席しているかもしれないが、まだ、パーティーは組んでいないのだから‥‥。
「はい、パンにシチュー、兎肉の煮込み、お待ちどおさま!」
ウェイトレスの元気な声と共に、あなたの前に今日の食事が運ばれてきた。
あなたの前に料理を並べた後も、ウェイトレスはトレイを胸に抱いたまま、まだ側に残っていた。
何か用があるのだろうか?
「あ‥‥食べながら聞いて下さっていいのですけれど、これから暇ですか?」
あなたが促すと、ウェイトレスはそう聞いてきた。
この食事を終えてから冒険者ギルドに行って仕事を探そうと思っていたので、暇と言えば暇だろう。
あなたは頷いた。
「よかったら、酒場の倉庫の整理をお願いできないでしょうか?」
ウェイトレスが切り出したのは依頼だった。
ただの倉庫整理なら、冒険者に頼むはずはなく――。
「私も見たのですが、倉庫にジャイアントラットが棲み付いてしまって、食料を食い荒らしているのです。最初のうちは私達やマスターで追い払えたのですが、どんどん増えていって‥‥他のウェイトレスは恐がって、倉庫に近づけないんです」
ウェイトレスが両手を広げてラットの大きさを表した。ざっと1メートルはあるだろうか。
食事時にはできれば勘弁して欲しい話題だが、なかなか退治し甲斐のあるラットだろう。
「報酬はお支払いできないですけど、代わりに仕事が終わった後、豪華な食事を用意しますが、それでどうでしょうか?」
少なくとも一食分は懐を気にする事なく、貴族並の食事が食べられそうだ。
しかし、ジャイアントラットの数が多い以上、人手が必要だろう。
あなたは相席している冒険者達に声を掛けた――。
●リプレイ本文
●涙の倉庫番?
チカ・ニシムラ(ea1128)達はウェイトレスに案内されて、冒険者の酒場の倉庫までやってきた。
「ジャイアントラットが出てもおかしくない雰囲気だよね」
チカは倉庫の周囲を見渡した。倉庫の後ろを流れる川は生活排水を流す、所謂ドブ川だった。しかし、レンガ作りの倉庫は頑丈に見え、ジャイアントラットが入れるとは思えなかった。
「私は大きなネズミさんと縁があるようですね。さっさと終わらせて、黒妖に会いたいです。あ、黒妖というのは、最近できた恋人の女の子なんですけど‥‥」
「素敵なニルナさんの恋人ですから、可愛い方なんでしょうね」
酒場が丸々1個入る大きさの倉庫を見つめるニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)に、ユージ・シギスマンド(ea0765)はニルナ達二人を祝福するかのように両手を胸の前で組んで、たおやかに微笑んだ。
「‥‥あ、その、報酬の事なんだが、俺さ、貧乏でな。できれば保存食にしてくれない?」
立ち去ろうとするウェイトレスを希龍出雲(ea3109)が呼び止めた。ウェイトレスは「酒場のマスターと相談して決めます」と返答した。
「いい返事を期待してるぜ。兎に角、飯の為に頑張るぜ!!」
「これは‥‥聞きしに勝る酷さね」
「見事にジャイアントラットに食い破られていますね。替えの箱や袋を用意してもらって正解でした」
それが両開きの大きな扉を開け、中の様子を見たリッカ・セントラルドール(ea0136)の第一印象だった。木箱やズタ袋が整然と積み重ねられていたが、その半分が壊れたり千切れたりして、中の物が散乱していた。そのせいか食料を保管する倉庫なのに空気が澱んでいた。
銀零雨(ea0579)は予め用意してもらった替えの木箱やズタ袋を、修行を兼ねて酒場から倉庫まで運んできていた。
「先ずこれ以上食料を傷付けられないように運び出して、ジャイアントラット退治がしやすいよう場所を確保しましょう」
「それでは、第一回大掃除を始めたいと思います。皆様、よろしくお願いします」
「えっと、非力ですし、できる事は少ないですけど、頑張ります!」
「あたしも力仕事に向いているとはいえないけど、できる限り手伝うわ」
ニルナが指示を出すと、レジーナ・フォースター(ea2708)が全員に発破を掛けた。ユージは胸の前で両手をぐーにして気合いを入れ、リッカは進んで雑用を買って出た。
零雨は奥に積んであるワインを満載した木箱を、軽々と両肩に乗せて運んだ。また、騎士のレジーナとニルナは、小麦粉の入ったズタ袋を肩に担いで運び出した。
野菜や調味料はセレーナ・リネス(ea0300)が小分けにし、ユージとリッカが手分けして運んだ。
「念の為、ブレスセンサーで周囲の状況を把握してるんです。ジャイアントラットの息遣いで距離と数が前以て分かれば、戦いやすいじゃないですか?」
リッカはセレーナが定期的に魔法を使っている事に気付いた。リッカは基礎はしっかり学んでいるものの、肝腎の魔法の修得はまだだった。
「重い荷物は僕が運びますから、遠慮なく言って下さい」
「えへへ、このくらいは大丈夫です!」
零雨は女性陣の様子を常に気に掛けていた。ユージはにっこりと笑って応えた。
「荷物運びは体力のある人、頑張ってね〜♪」
「チカはともかく、あなたはどうして手伝わないのです!?」
「俺は力仕事は面倒だからパスな。もちろん、お化け鼠退治の時は料金分働くぜ?(相手は縄張り意識の強いネズミだぜ。悪いが囮として使わせてもらっているぜ)」
荷物運びを応援しながらステインエアーワードを使っているチカを垣間見た後、レジーナは木箱の物陰に潜んでいる出雲に注意を促した。策がある出雲はさらっと受け流した。
チカが澱んだ空気に理由を聞くと、『半日程前に10匹のジャイアントラットが食べ物を食い荒らして空気が澱んだ』と返答をもらった。
「お腹が空いたら現れるのかな?」
「距離20の位置に、ジャイアントラットと思しき息遣い5確認です!」
チカが出雲にステインエアーワードの情報を報せると同時に、セレーナがジャイアントラットの息遣いを感知した。
ジャイアントラット達は倉庫の奥に足を運んでいた零雨の前に現れた。零雨はその時もワインを満載した木箱を担いでいた。
「我、ヒュッケバイン――黒死鳥――の名に於いて命じる‥‥コアギュレイト!」
「零雨、今のうちです!」
零雨に襲い掛かろうとした2匹のジャイアントラットの内、1匹をニルナがコアギュレイトで動きを封じ、もう1匹をオーラエリベイションを発動させたレジーナがホイップで絡め取った。その隙に零雨は一旦後方へ下がり、木箱を置いた。
「皆さん、頑張って下さいね〜」
セレーナとチカ、ユージとリッカは戦いの邪魔にならないよう倉庫の外へ出て応援した。
「ま、俺の思った通りだな。きっちり仕事はするぜ!」
日本刀を抜き放ちながら物陰から飛び出した出雲は、ジャイアントラットの間合いの外から一撃を放った。峰打ちとはいえ、気絶させるには十分な威力だった。
「更に距離20の位置に、ジャイアントラットの息遣い5確認です!」
数は半減したが仲間の危機を察知したのか、更に5匹、奥から現れた。
「風よ、あたしに力を!」
「破!!」
チカがウインドスラッシュを放って援護すると、零雨が裂帛の気合いと共にテコンドウ独特の蹴りを放った。その変幻自在の軌道をジャイアントラットはかわせず、まともに浴びた。
荷物を運び出しておいて正解だった。レジーナは破壊力のある武器を使う者を止めようと思っていたが、十分な空間が確保できているのでその心配はなかった。
その後もレジーナとニルナがジャイアントラットの動きを封じ、チカの援護を受けた出雲と零雨が確実に仕留める連携攻撃で、10匹のジャイアントラット全てを退散させた。
「まぁ、この程度なら回復魔法を使う必要もないよね〜」
前衛の出雲も零雨も多少の反撃は喰らったものの軽傷で、チカが応急手当てを施した。
「どうやら、錆びてできたこの穴を広げて入ってきていたようですね〜」
その間にセレーナはクレパスセンサーで数カ所、ジャイアントラットが通れる大きさの穴を見付けた。劣化してできたこれらの穴が侵入経路だった。
「ごめんね、でもここに棲み付かれちゃうと、酒場の人達が困っちゃうの‥‥それに美味しいプティングの報酬が〜」
ユージは木槌を片手に、ニルナと穴を塞いだ。しかし、その不器用で危なっかしい手付きに、流石の出雲も見ていられず慌てて交代した。
零雨はジャイアントラットとの戦いの跡を綺麗に掃除し、レジーナやリッカと一緒に食料を分類ごとに分けて倉庫に仕舞い始めた。
●ご馳走を味わおう!
ウェイトレスに結果を報告すると、酒場の奥にある個室へ案内された。そこには報酬である、貴族並の豪華な食事と飲み物が用意されていた。
「お疲れさまでした! お代わりは沢山ありますから、どんどん食べて下さいね!」
皆、思い思いの席に着くと、先ず乾杯の音頭を取って依頼の成功を祝い、それから料理に手を付けた。
「いろんな料理があるから、全種類食べないとね♪ 流石に全部は食べられないから少しずつ〜♪」
「嗚呼‥‥神様、私はこんなに甘い物が食べられて幸せです〜」
チカは並べられた料理を全て少しずつ皿に盛り、食していった。ユージは肉や魚にはほとんど手を付けず、甘い物を至福の笑みを浮かべて頬張った。
「北辰流‥‥あの間合いの外からの太刀筋をかわすのは、骨が折れそうですね」
「テコンドウの蹴りも軌道が読めないし、なかなかに鋭いぜ?」
「出雲さんはジャパン出身ですよね。実は私もそうなんです」
酒が入り、お互いの技を讃え合っていた零雨と出雲に、チカが横槍を入れた。チカもジャパン出身で、西村知佳と正式には書くが、片親がイギリス人で生まれてすぐにイギリスへ来た為、ジャパン語を話せなかった。
「俺はジャパン語の希望の希に、ドラゴンの龍って書くんだ」
出雲はチカにジャパンの話を語り始めた。
「今後の家督相続で父と話し合いまして、適切な縁談を紹介してもらうか、騎士として独り立ちするかという選択で、後者を選ばせてもらいました。この依頼はその修行始めでした」
「私も神聖騎士の卵なんですよ」
レジーナは淑やかにローストチキンを切り分けると、好物だというニルナの皿に盛った。
「修行ですか‥‥僕はかれこれ5年、テコンドウの師の水炊きをしながら、稽古を付けてもらっていました」
「でも、レジーナもニルナも魔法が使えて羨ましいわ。あたしも基礎をマスターしたら、将来は錬金術を身に付けて、ジ・アースに名を轟かすのが夢なのよ」
零雨は修行の事を、リッカは将来の夢を話した。零雨が家事に慣れているのは修行の一環だったようだ。
「基礎は大切ですよ? 風の精霊さんの声がちゃんと聞こえないと、風の魔法使いやってられませんから〜」
「流石にセレーナが言うと説得力あるわね」
「あ、実年齢計算しちゃダメですよ?」
風の精霊魔法を披露したセレーナの言葉は、リッカには重みがあった。とはいえ、エルフの女性に実年齢を聞くのは禁句である。
「‥‥女同士の恋愛っていけないでしょうか?」
「ニルナさん達が心から愛し合っているなら、他の人はどう言おうと、神様は祝福して下さいますよ」
お開きになると、ニルナは恋人との関係を聞いて好意的な反応をしたユージに相談した。ユージは不安がる子供を安心させる母親のように微笑みながら、世間体は気にせず愛を貫き通すよう助言した。
出雲の交渉の甲斐あって、帰りに全員に保存食が渡された。
「最後に君の名前を聞いてもいいか?」
「ボニーっていいます」
出雲は最後にウェイトレスの名前を聞いて、冒険者の酒場を後にした。
その後、この冒険者の酒場の倉庫にはジャイアントラットは全く現れなくなったという。