【ケンブリッジ奪還】錬金術士を夢見る少女
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月21日〜09月26日
リプレイ公開日:2004年09月27日
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●オープニング
「なに? モンスターがケンブリッジに!?」
円卓を囲むアーサー王は、騎士からの報告に瞳を研ぎ澄ませた。突然の事態に言葉を呑み込んだままの王に、円卓の騎士は、それぞれに口を開く。
「ケンブリッジといえば、学問を広げている町ですな」
「しかし、魔法も騎士道も学んでいる筈だ。何ゆえモンスターの侵入を許したのか?」
「まだ実戦を経験していない者達だ。怖気づいたのだろう」
「しかも、多くの若者がモンスターの襲来に統率が取れるとは思えんな」
「何という事だ! 今月の下旬には学園祭が開催される予定だというのにッ!!」
「ではモンスター討伐に行きますかな? アーサー王」
「それはどうかのぅ?」
円卓の騎士が一斉に腰を上げようとした時。室内に飛び込んで来たのは、老人のような口調であるが、鈴を転がしたような少女の声だ。聞き覚えのある声に、アーサーと円卓の騎士は視線を流す。視界に映ったのは、白の装束を身に纏った、金髪の少女であった。細い華奢な手には、杖が携われている。どこか神秘的な雰囲気を若さの中に漂わしていた。
「何か考えがあるのか?」
「騎士団が動くのは好ましくないじゃろう? キャメロットの民に不安を抱かせるし‥‥もし、これが陽動だったとしたらどうじゃ?」
「では、どうしろと?」
彼女はアーサーの父、ウーゼル・ペンドラゴン時代から相談役として度々助言と共に導いて来たのである。若き王も例外ではない。彼は少女に縋るような視線を向けた。
「冒険者に依頼を出すのじゃ。ギルドに一斉に依頼を出し、彼等に任せるのじゃよ♪ さすれば、騎士団は不意の事態に対処できよう」
こうして冒険者ギルドに依頼が公開された――――
ケンブリッジにある学校には、寄宿舎が併設されている場合が多い。
ケンブリッジへの道中にはモンスターが出没する事も少なくなく、生徒の安全を兼ねて寮制度を取っているのだ。
だが、今はその寮が狙われていた。
横幅を重視した3階建ての寄宿舎は、一度モンスターの侵入を許すと守るには不利な構造といえた。
横に長い為、全ての部屋をカバーしきれないからだ。
しかもここは女子寮であり、男手はない。寮を預かる先生も、先にモンスターの襲撃を受けた校舎の方へ行ってしまった。
残っているのは女子生徒達ばかりだ。
「‥‥あれはバグベアで、さっきのはコボルドだったわね。ああ、オークもいたわ」
「リラ〜、冷静に分析してる場合じゃないよ」
バリケード越しに、授業で習ったモンスターを指折り思い出していたリラは、後ろにいた少女に突っ込まれた。
既に寮の1階はモンスター達に制圧されており、今、2階へと迫ってきているのだ。
ベッドなど、ありったけの家具で階段にバリケードを造り、その後ろにリラを始めとする初級の魔法が使える少女達が控えていた。
彼女達の魔法でコボルドやオークは迎撃できても、それらを束ねているリーダーのバグベアには効果は薄く、あっさりと1階を奪われてしまったのだ。
2階の各部屋からは年下の少女達の泣き声が聞こえてくる。リラの後ろにいる彼女も、本当は心細くて泣きたいに違いない。
しかし、リラだけは違っていた。
「絶対に3階には上がらせないわ。もう少し頑張りましょ! 頑張ればその分、応援に駆け付けてくれる可能性が上がるわよ!」
彼女は諦めてはいなかった。
救援を。そして自分の夢を。
(「こんな所でやられたら、錬金術士として店を開く夢は途切れてしまうもの」)
彼女が死守している理由は、3階にある自分の部屋に錬金術の道具があるからに他ならない。
守る物があるから頑張れる。今はそれでもいいかも知れない。
急ぐのであれば馬車などが用意されるだろう。
一刻も早い冒険者達の到着が望まれていた。
●リプレイ本文
●兵は迅速を尊ぶ
「挨拶など馬車に乗ってからでもできる! 今はいち早く目的地へ行くぞ!!」
「もし、怪我をしている娘がいたら大変ですし、そういう時に馬車って怪我人を運ぶ事もできるから便利ですよね」
「僕は自分の馬で馬車に着いていきます。少しでも乗る人数が減った方が、早く着くかも知れません」
狂闇沙耶(ea0734)は、冒険者ギルドに貼り出された同じ依頼書に目を通していた沖田光(ea0029)達への挨拶もそこそこに、ギルドの外に停めてある馬車へと急かした。
クリス・シュナイツァー(ea0966)も依頼内容から一刻を争うと考え、光と共にギルドの馬小屋に繋いであった愛馬を取りに行った。
「か弱い女性しかいない女子寮を襲撃するとは、不届きな輩だな」
「一刻も早く女子寮のお嬢さん方を無事に救い出して差し上げないと‥‥ケンブリッジがモンスターに襲われたという一報は、遅かれ早かれ親御さんの元に届くでしょうし」
「それにまだ立て篭もっている女生徒さん達が可哀相だものね。突然の出来事でさぞびっくりして恐がったり困っているのは間違いないわ!」
レイリー・ロンド(ea3982)は、か弱い女性は大した抵抗ができないからこそ狙ったモンスターへの怒りを露にしていた。向かい側に座るカルナック・イクス(ea0144)も同意しながら、女生徒達ばかりでなく、その親への影響も心配していた。
吟遊詩人である自分がどこまでできるかは分からないが、女生徒の立場なら心細くて泣いているに違いない――自分を少女達の立場に置き換えたヴァージニア・レヴィン(ea2765)は、一も二もなく依頼を受けた。腕に抱えている愛用の竪琴の弦を軽く爪弾きながら、助けられたら元気の出る陽気で明るく楽しい歌を一杯歌ってあげたいと思う。
フォーリス・スタング(ea0333)が馬車の車窓に目を遣ると、木々の間から10階建てという、イギリスでも類を見ない高層建築であるケンブリッジ魔法学校の建物を臨む事ができた。ケンブリッジを象徴する建物はしかし、モンスターの襲撃を受けてあちこちから煙を立ち上らせていた。
「ケンブリッジの人の生活を破壊させる訳にもいきませんしね。しかし、何で突然ケンブリッジにモンスターが大量に現れたのかは分かりませんが‥‥」
「主目的は魔物の殲滅どす。魔物が現れた理由は、依頼を終えてから考えても遅くはないどすし‥‥女生徒達を含めて皆はんが無事に帰る事が最優先どす」
彼も女学生達を心配する傍ら、モンスターの襲撃の理由も気になっていた。化物殲滅集団“Anareta”のメンバーのメイ・メイト(ea4207)も、気にならないといえば嘘になる。だが今は女子寮を制圧しつつあるモンスターを退治し、女生徒達を救出する事が最優先事項だと割り切っていた。
女子寮の前に着くと、遠巻きに女生徒達が我が家を呆然と見つめていた。彼女達は『制服』と呼ばれる、統一された珍しい服装をしている事から、一目で学生だと分かるのだ。
「早速ですけど、寮の構造を教えてもらえませんか? それと、見掛けたモンスターの特徴を教えて下さい」
寮の見取り図といった大層な物はない為、光が構造を聞きながら、合わせてモンスターを割り出そうとした。女生徒達は着のみ着のまま逃げてきたので、フォーリスが筆記用具を渡して構造を羊皮紙に描いてもらった。
「すまぬが其処の生徒達、ロープと縄梯子はないか?」
その間、沙耶が女生徒達にロープと縄梯子を探させて持って来させると、メイがロープの端に縄梯子を括り付け、2階まで届くようにした。
女子寮の構造は、中央の廊下を挟んで左右に5部屋ずつあり、奥に2階への階段があった。2階も同様の造りで、階段はそのまま3階へ延びている。また、この女子寮には比較的裕福な家の少女達が暮らしている所為か、各部屋にはお茶のセットなどがあり、それが食料代わりになるという。
「バグベア達にも篭城の備えはあるって事ですね」
モンスターにそこそこ詳しいはカルナックは、女生徒達の言い振りからコボルドにオーク、バグベアだと予測した。それは光も同じだった。
「リラのバカ! ほんっとにしょうがないんだから!!」
するとウエーブ掛かった金髪を湛えるお嬢様が、女子寮を見ながら悪態を突いていた。彼女はメルと名乗り、親友のリラという少女が一度逃げたにも関わらず、錬金術の道具を取りに戻ってしまった事を告げた。それでこの間からずっと怒っているのだとか。
「錬金術の道具は高価で中々手に入らないからな」
「それに、技術を書いた羊皮紙等も一財産ですから」
レイリーは錬金術師を目指していた事があり思い入れが強く、フォーリスは錬金術師としてリラの気持ちがよく分かり、2人とも苦笑しながらメルをなだめた。
●善く戦う者は‥‥
メイがロープの先端を持って2階へ飛び、沙耶が壁をよじ登って後に続いた。突然、木の窓が開いて入ってきた侵入者――メイ――に、部屋の中でお互いを抱き締めて震えていた少女達は驚くが、悲鳴すら枯れるほど疲れ果てていた。
「うちらが何とかしますさかい。あと少しの辛抱どすよ」
沙耶が部屋の中にロープを結んで縄梯子を固定する間、メイが落ち着かせるように微笑みながら優しく事情を話し、現状を確認すると共に怪我人から優先的に下へ降ろし始めた。
「ボク達は大丈夫だから、先に年下の娘から避難させてよ」
リラはストレートの銀髪で、どこか猫科の野生動物を思わせる、しなやかで活発そうな少女だった。
沙耶達から少女を避難させる胸を聞かされるとそう応えた。リラ達が今、この場を離れれば、抵抗がなくなった事を感じたバクベア達は一気に押し寄せるだろう。40人近く残っている――しかも弱っている――女生徒達全員の避難には、それなりに時間が掛かる。
その事を即座に気付いたリラは利発的な娘のようだ。
「よく頑張ったわね。次の娘はもう少しよ、頑張って!」
恐る恐る縄梯子を降りてきた女生徒に微笑み掛けながら、ヴァージニアは優しく抱き締めた。彼女のぬくもりに触れて安心したのか、途端に腰を抜かす娘や号泣し出す娘が続出するが、ヴァージニアは微笑みを絶やさず抱き締め、歌を口ずさんだ。
バリケードはもうしばらくリラ達に任せ、外へ出たメイはデティクトライフフォースでおおよその敵の数と位置を掴み、待機しているクリス達に報せた。
「相手の方がうちらより数が多いんどす。戦力は分けていられまへん!」
階段に一番近い部屋から全員で突入するメイの策に、フォーリス達は賛成した。
彼はクリスのノーマルソードと光の日本刀にバーニングソードを付与し、レイリーは自分のロングソードにオーラパワーを纏わせ、突入の準備を整えた。
「隙があるからこうなるのじゃ‥‥爆!」
沙耶が窓を体当たりで破って突入すると同時に、微塵隠れの術を炸裂させて部屋にいたコボルド達の目を眩ませた。
「さて、気を引き締めて女子寮を占領したモンスターを殲滅させるとしましょうか」
「僕もこんな風に閉じ込められる状況になったら嫌ですしね」
そこへカルナックが2本の矢を同時に射って援護し、クリス達が躍り込んだ。
コボルド達は女生徒達の私服を着ていた。
クリスはミドルシールドでコボルドの体を壁際に強引に押し付けて、炎を吹き上げるノーマルソードでスマッシュを繰りだし、1匹を倒した。
「女の子達、怖くて震えていました。ここは絶対に通らせてもらいます。護るって決めたんだから!」
「ここは学び舎だ。それも女子寮で何をしてやがる」
光が日本刀で斬り突けた後、間髪入れずレイリーのロングソードとダガーの2連撃が決まり、もう1匹のコボルドも反撃の暇さえなく倒れた。
「思い知ったか、変態め」
部屋が荒らされている所を見ると、彼らからすれば戦利品だろうが、レイリー達には変態としか思えなかった。
メイが再度、デティクトライフフォースを使うと、部屋の扉の先、階段付近に数匹の反応があった。バリケードを攻撃している、モンスターの群れを指揮しているというバグベアだろう。
カルナックが回収した矢を番えると、再び沙耶の微塵隠れの術が炸裂する。今度はヴァージニアのムーンアローのおまけ付きだ。ほとんど食べ物を口にせず、弱っている女生徒達が多いので、ヴァージニアは彼女達の手当てに追われ、援護もこれが精一杯だった。
果たしてムーンアローはバグベアに命中した。続けてカルナックが矢を射るが、ヘビーアーマーに阻まれてしまった。
「我、Anaretaの加護を受けし死蝶が片翼。大いなる父の名におき、闇に裁きの鉄槌を!!」
そこへメイがデスを唱えるが、バクベアもオークも怯んだ様子はなかった。意外と精神力が高いようだ。
詠唱が終わった後の隙だらけのメイへオークが戦槌を振り下ろし、直撃を受けてしまう。
「僕が護りますから!」
「屋内戦は得意ではありませんが‥‥そんな事も言ってられませんね」
光がメイの身体を抱き止めると、焔に包まれた日本刀を振り翳して自分が相手だとアピールした。フォーリスはリカバーポーションをメイに飲ませ、応急手当てをした。
バグベアの得物はロングロッドで間合いが広く、且つ威力も馬鹿にできなかった。クリスはノーマルソードとミドルシールドで巧みに受け流して直撃を避けつつ、隙を作る事に専念した。
「ぬぬ、これは強い‥‥!」
それでも沙耶の小柄は空を斬るが、レイリーはダガーでバランスを崩させ、ロングソードで手傷を増やしていった。
「彼女達は夢を追い駆けているんだ。俺達がその邪魔はさせん」
「希望の架け橋は僕達が助けます!」
カルナックが最後の2本の矢を放ち、レイリーがロングソードで足元を斬り付けた所へ、クリスのスマッシュEXが綺麗に決まり、バクベアとの死闘を制した。
同時に光とフォーリス、メイもオークを倒していた。
手持ちのリカバーポーションを飲み、レイリーがオーラリカバーで手当てをすると、寮内に残った残党狩りに入った。
程なく寮内のモンスターを壊滅させ、使えそうな矢を回収したカルナックとクリスが中心となってバリケードを撤去し、沙耶とメイ、光はヴァージニアを手伝った。
しばらくすると、錬金術の道具を大切に抱えながら寮から出てくるリラの姿があった。メルは文句を言った後、嬉しそうに抱きついた。
「そっか、錬金術師のお店か‥‥君なら夢を叶えられそうだ。お店を出したら教えてくれ。俺も必ず寄らせてもらうよ」
「ありがとう。店の名前は『リラガーデン』って決めてあるんだ」
「基本はできているようですが、応用を利かせないとお店を開くのは難しいですよ」
レイリーに店の事を話すリラへ、フォーリスがアドバイスした。リラはこの後、しばらくフォーリスの手ほどきを受ける事になった。
「この分だと、無事に学園祭が開けそうね。学園祭で唄えるのを楽しみにしてるわ。また会いましょう」
「僕も絶対に遊びに来ますからね」
ヴァージニアと光達は再会の約束をして、リラ達に見送られながらケンブリッジを後にしたのだった。