マンドラゴラを採集せよ!

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月26日〜10月03日

リプレイ公開日:2004年10月04日

●オープニング

「この間は世話になったな」
 溜息が出る程きらびやかなブロンドヘアを揺らしながら、エルフの女性フリーデが冒険者ギルドに入ってきた。パフスリーブの上着は胸元やへそを露出し、丈の短いスカートを穿いているものの、気の強そうな顔立ちから“男装の麗人”に見えるが、彼女の本業は薬師(くすし)だ。
「報告書を読みましたが、収穫はあったようですね」
「ああ、お陰でコカトリスの石化を解除する薬が作れたぜ。1匹はどうしても殺さなきゃならなかったから、薬の精製が終わるまで石化した娘は治せなかったけどな」
 薬の精製が終わるまでの間、他の薬も色々試したが、結局生身には戻せなかったとフリーデは少し残念そうに告げた。
 コカトリスの石化解除薬が必要になった場合、コカトリスを倒しに行かなければならない事が確定してしまったからだ。
「それで依頼を頼みたいんだ」
「はい、今回もモンスターの捕獲ですか?」
「いや、今回は私の護衛だ。“マンドラゴラ”という植物を知っているか?」
「えーと、万病に効く薬の材料として有名な薬草ですよね? 歪んだシフールの姿に似ていて不気味だそうですが‥‥」
 聞かれた受付嬢は必死に知識を思い出しながら答えた。
 フリーデが破顔したところを見ると正解のようだ。
「私達薬師の間では、1本10Gから取引されている高価なものだ。それが自生しているという場所の噂を聞いてな」
 自ら確かめに行く事にしたのだが、そこはキャメロットから歩いて3日程の所にある海岸沿いの古城跡で、近くにハルピュイアの巣があるという。
 ハルピュイアは人間の女性の頭部と胸部にヴァルチャーの身体を持った歪な鳥だ。
「もちろん噂だからガセかも知れないが、スクリーマーが生えているのは確実らしいんでな。少なくとも収穫はあるんだ」
 スクリーマーとは生で食べられる巨大なマッシュルームの事で、自分の周囲半径3mの地面に菌糸を伸ばしており、そこに何かが踏み込むと叫び声を上げるという。
 また、マンドラゴラも地面から引き抜いた時に咆哮を挙げるという。
 どちらにせよ、確実にハルピュイアに見付かってしまうのだ。
「私が安全にマンドラゴラかスクリーマーを採集する為にハルピュイアを倒して欲しい、という事だな」
 フリーデはそう締め括ると、依頼書を書き上げたのだった。
「そうそう、ハルピュイアは不潔でな。攻撃を受けると下手をすると熱病に掛かるそうだ。戦いが終わった後なら看病してやれるがな」
 コカトリスの時と良い、熱病のサンプルが欲しいと言い出しかねない彼女だった。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1131 シュナイアス・ハーミル(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2685 世良 北斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea5592 イフェリア・エルトランス(31歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5898 アルテス・リアレイ(17歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●福袋アイテム交換会!?
 世良北斗(ea2685)達がエルフの薬師フリーデの護衛でキャメロットを経ってから2日後の夜の事だった。
 北斗とクウェル・グッドウェザー(ea0447)、イグニス・ヴァリアント(ea4202)と陸奥勇人(ea3329)は、焚き火を囲んでバックパックの中身を広げており、4人の目の前はちょっとした露天商のようになっていた。
 雑談から、今、ケンブリッジの学園祭で売られているエチゴヤの福袋の話題になり、北斗が交換を提案したのだ。
 世良はクウェルにドンキーと日本刀を渡し、クウェルは世良に換わりにリュートベイルとシルバーナイフを渡した。一方、イグニスは勇人にシールドソードとヒーリングポーションを渡し、勇人はイグニスに換わりにシルバーダガーを渡した。
「依頼さえこなしてくれれば文句は言わないがな‥‥」
 フリーデは不機嫌そうに膝下まで伸びたきらびやかな金色の前髪を掻くと、自分の荷物の元へ戻った。
「まぁ、怒るのも分からなくはないがな‥‥冒険者は常にベストの状態を保とうと、良い武器、良い防具を求めるものだろう?」
「そういえば、私がエチゴヤに納品した薬も福袋に入っているそうだ」
「エチゴヤにも納品しているのですか!? 凄いです!」
 まだ戦った事のないハルピュイアと戦えるを聞き、シュナイアス・ハーミル(ea1131)は愛用のジャイアントソードの手入れに余念がなかった。彼の話題に乗ったフリーデに、アルテス・リアレイ(ea5898)が羨望の眼差しを向けた。アルテスも薬草師だが、生業だけで生計を立てるには知識がまた乏しいからだ。
「薬師としてマンドラゴラはともかく、スクリーマーは食用以外に何か役に立つのかしら?」
 イフェリア・エルトランス(ea5592)の質問に、アルテスも頷いた。スクリーマーは毒きのこに似た巨大なマッシュルームで、万病に効くマンドラゴラと違い、特に効能はないはずだ。
「スクリーマーは確かに薬としての効能はないが、茸類は総じて栄養価が高いからな」
 イフェリアとマンドラゴラやスクリーマーの形状などの情報を交換する傍ら、フリーデはスクリーマーを採る理由を話した。それを聞いたイフェリアは、採集した暁にはバーベキューをしたいと考えていた。
「では、第2回『なぜなにモンスター講座』を始めますね!」
 アイテムの交換が終わった所を見計らって、沖田光(ea0029)がハルピュイアについて知っている事を説明し始めた。
 ハルピュイア達の攻撃能力は総じて高く、また並の腕前ではなく、両足の爪による連続攻撃を得意としていた。また、飛行能力も高く、一番素早いイグニスの更に3倍のスピードで滑空するという。
「先のコカトリスの時は石化者が出たからな‥‥今回は何事もなく‥‥いや、フリーデとしては1人くらい倒れた方がいいのかもな」
 一通り説明を聞き終えたイグニスの言葉にフリーデは嬉しそうに微笑み、光は複雑そうに苦笑した。石化したのは何を隠そう光だった。
「美女の膝枕で看病というのも魅力的ですが、一応、これでも剣に生きる者の端くれ。せいぜい醜態を晒さないように努力いたしましょう」
「飛行能力を持つ上に連続攻撃までしてくる相手か。なかなか面白いな。戦い甲斐がある事を期待しよう」
 また、世良とシュナイアスの感想は対照的だった。
「取り敢えず、どの程度採りたいって目安はあるか? 今回は護衛だから襲ってくる連中を追い返すのは良いが、ハルピュイアに大勢で来られると流石にキツイ。どの辺りを退き際とするか、先に決めてくれ」
「目安は‥‥『1日で採れるだけ』だ。マンドラゴラは貴重な薬草だ。次に生息場所が分かるのは、いつになるか分からないからな。その為の護衛だ」
「任せて下さい。女性を助けるのは当たり前の事ですし、人々の役に立つ薬を作る為ですから、勇人さん、気合いを入れていきましょう」
 勇人が確認すると、フリーデは当然のように言い放った。さらりと自然とそういう台詞を女性に掛けられるクウェルは、常日頃から本心でそう思っていた。
「ところで、マンドラゴラってプティングにすると美味しいって聞いたんですが、知ってました?」
「マンドラゴラを煎じたプティング? 止血とか、安息とか、与活とか、解毒の効果がありそうなプティングになりそうね」
「多分、光さんの言いたい事は違うと思うけど‥‥まだ練習中なので、上手く吹けないですけどね」
「なら、私が一緒に唄おう」
 光がにっこり笑って締め括ると、イフェリアはマンドラゴラの形状と効能を思い出しながら、それをプティングにした想像をしてみた。横笛を取り出し、歓談のBGM代わりに吹き始めたアルテスに合わせて、フリーデが朗々と唄った。
 星空の元、アルテスの横笛の音色が静かに漂っていた。薬師の意外な一面を聞きながら、アルテスは気持ち良く演奏ができた。

●ハルピュイア、強襲!!
 2日後。シュナイアス達は断崖絶壁に建っていた古城跡に足を踏み入れていた。
 城は戦渦で陥落したのか、今は僅かに石壁を残すのみとなっていた。崖の下には波飛沫を上げる海が見えた。
「こういう崖の何処かにハルピュイアの巣があるのですよね」
 光の言葉にフリーデを護衛するアルテスとクウェルは、それぞれクルスソードとダーツを構えた。
 目の良いイグニスやシュナイアスがすぐに、壁に陽射しを遮られ、腐った木の切り株に毒々しい色の巨大なマッシュルームを見付けた。
「迂闊に近付かないで! スクリーマーは周囲の地面に菌糸を伸ばしていて、そこに足を踏み入れると叫び声を上げるから」
 イフェリアが注意し、2人は寸前の所で菌糸を踏まずに済んだ。
 更に探す事、数時間。遂に勇人が、細い葉を何本も生やした深緑色の土饅頭を見付けた。近くにいた北斗が駆け寄ってその形状を調べ、マンドラゴラだと確認した。
「‥‥マンドラゴラの叫び声ならハルピュイアにも効きそうだよな。連中が寄って来た時に引っこ抜くってのもアリなんじゃねぇか?」
「実際にマンドラゴラの死の咆哮の効果があるのは半径15m以内ですから、抜く人の事も考えるとお勧めできません」
 勇人の案に光は難色を示し、最終的に先ずスクリーマーの叫び声でハルピュイアをおびき寄せて痛い目に遭わせて追い返し、その後でマンドラゴラを採集する事になった。

 イフェリアがショートボウに矢を番え、シュナイアスがオーラエリベイションを自らに付与すると、イグニスがマンドラゴラから離れたスクリーマーを踏んだ。
 まさに人の声そのものの絶叫が辺りに響き渡ると、耳障りな叫び声がどこからともなく聞こえてきた。
 次の瞬間、4方向から同時にハルピュイアが襲い掛かってきていた。
「邪魔よ。2度と人を襲わないように教育してあげるわ」
 イフェリアのダブルシューティングと光のファイヤーボムが、先制攻撃とばかりに撃ち込まれる。それぞれハルピュイアを直撃し、急降下による攻撃の勢いを逸らした。
「ちょろちょろと飛び回りやがって‥‥」
 急降下そのままの勢いで突き立ててくる足の鉤爪を、シュナイアスはジャイアントソードで、勇人は日本刀で受け流すが、反撃に移る前に飛び立ってしまう。
 イグニスはソニックブームで迎撃するものの、牙による噛み付きをかわし切れなかった。北斗はオフシフトで即座に間合いを取り、日本刀でカウンターを決める。
 自分達が有利だと判断したのだろう。ハルピュイア達は北斗達の上空を嘲笑うかのようにくるくると旋回した後、幾度となく急降下してきた。その度にイグニス達は後手に回り、迎撃するのがやっとだった。
 そして今度はイフェリアとフリーデに狙いを定めたようだ。
 だが、シュナイアス達も即座に反応していた。
「これで終わりだ‥‥落ちろ!」
「飛び道具がなくてもな‥‥戦いようはあるんだぜ! そりゃあ!!」
 シュナイアスはハルピュイア達の攻撃のタイミングを測っていた。それに合わせてジャイアントソードを半円を描くように叩き付けた。その横で勇人は足場になりそうな場所を見付け、三角跳びの要領で急降下してきたハルピュイアの上から日本刀で突き掛かった。
 そこへイフェリアが矢を射り、1羽を仕留めた。
 もう1羽は光のファイヤーボムこそ抵抗したが、北斗が再びカウンターで日本刀で薙ぎ、イグニスが脚からソニックブームを放って撃ち落とした。
 1羽はフリーデの方へ向かっていたが、彼女にはクウェルとアルテスが付いていた。
「我唱えるは、邪悪を消し去る、聖なる白刃の光!」
 アルテスのホーリーは抵抗されてしまったが、クウェルがダーツを投げ付けて勢いを殺し、鉤爪は彼をかすめる程度だった。
 仲間が一気に2羽もやられたハルピュイア達は、這這の体で逃げていった。
 その際、勇人が背負っていたフライングブルームを足に引っ掛けて奪っていってしまった。ハルピュイアは逃げ足も早く、イフェリアと光が矢とファイヤーボムの準備を整えた時には既に射程外へ出てしまっていた。
「‥‥そんなものを戦場に持ってくるからだ」
 フリーデは額を押さえながらキツイ感想を述べた。

 クウェルがハルピュイアの持つ熱病に掛からないよう、イグニス達の傷口をピュアリファイで浄化し、リカバーで回復する中、フリーデはマンドラゴラを抜こうとしていた。
 北斗が抜く役を申し出て、ロープを使って抜こうとし、フリーデに「傷が付いたらどうするんだ!?」と怒られていたまではクウェルも覚えていたが‥‥。
「‥‥あれ‥‥暖かくて、不思議といい香りがしますけど‥‥僕は‥‥」
「他人の事を気遣うのは悪くないが、もう少し自分も労るべきだ」
「全くよ。光さんも揃いも揃って」
「あ、あの、その、コカトリスの時といい、今回といい、本当に‥‥」
 クウェルは夢うつつの中でフリーデに膝枕されているのに気付いた。彼女の横ではイフェリアが、同じように光を膝枕して介抱していた。
 2人はハルピュイアの熱病に掛かってしまったのだ。光の方が回復が早かったが、まだ起き上がれるには至っていなかった。
「‥‥聖なる母の御元も、このように暖かいのでしょうね‥‥」
「‥‥口移しで薬を飲ませたが‥‥一応、ノーカウントだぞ‥‥」
 夢うつつのクウェルは遠くにフリーデの声を聞きながら、もうしばらくこのままでいたいと思っていた。

 マンドラゴラは3本見付かった。またスクリーマーも大漁で、クウェルと光が回復するのを待ってバーベキューが行われた。
 幸い、全員が道中の食事には事欠かなかったので、「保存食を忘れた人はスクリーマー焼きのみ」というイフェリアの罰は全員回避できた。
「あんたが作った薬で、より多くの命が救えるよう願っているよ」
 イグニスは採集を冒険者に頼むのではなく、自ら現地へ赴くフリーデの姿勢に尊敬すら覚えていた。
「お前達ファイターが強い者を求めるように、私は珍しい薬草や茸を見てみたい、珍しい病気を治したいという、自分の好奇心を満たす為だけにやっているようなものだ。それに、私が作るのは良薬だけとは限らないしな‥‥」
 フリーデの例えは、強敵を求めるシュナイアス達にはよく分かった。
 しかし、最後に少しだけ気になる言葉を残していた。