Thorn’s wood

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月27日〜10月02日

リプレイ公開日:2004年10月05日

●オープニング

 この気持ちは何なのだろう。
 私は彼女と会う度に強くなるこの気持ちに、最初、戸惑いすら感じていた。
 彼女を愛おしく想う気持ちは、仲間や友人を想うそれとは違う。
 かといって同性である彼女に、恋い焦がれる事があるのだろうか。

 私、ヴィルデフラウと、彼女、リムニアドの最初の出会いは偶然だった。
 私がイギリスに来て間もない頃、狩りをした森が彼女の家の領地だったのだ。
 彼女は領地を持つ貴族の一人娘。
 彼女も狩りをしていたのだろう。領地だとは露知らず侵入した私を威嚇するように弓矢を構える彼女は、場違いかも知れないが美しかった。
 輝く金色の髪は、純金をそのまま髪にしたように煌びやかで。
 私を見据える顔は、優美でどこか弱々しくて。
 木漏れ日を浴びる身体は、狩り装束でも清楚さを失っていなくて。
 私は自分が狙われているにも関わらず、彼女に魅入ってしまった。彼女は私にないものを全て持っていたからだ。
 ヴィルデフラウとはもちろん、私の本名ではない。どこかの国の言葉で『野生女』という意味らしいが、あながち間違っていないから、イギリスに渡ってから名乗っていた。
 長いだけの緑色の黒髪はぼさぼさだし。
 気の強さを如実に現す顔は可愛げはないし。
 ジャイアントとしては小柄だが、美しさとは無縁だし。
 彼女の目にも私は野生女のように映っていた事だろう。
 意外かも知れないが私は忍者だ。私は彼女の矢を避けられるだけの自信はあった。
 しかし、彼女が私に矢を射る事はなかった。
 その時は私が彼女に事情を説明し、知らなかった事とはいえ謝罪して、別れた。

 2度目の出会いは、必然だったのかもしれない。
 私は彼女と会った後、幻想画家として名高い、マレア・ラスカ絵師に従事した。
 ジャパンにいた時、私は忍者である事を隠す為、絵師に扮しており、ジャパン美術を嗜んでいた。
 イギリスに来た時、冒険者ギルドでマレア絵師が助手を募集しているを見て応募したのだが、どうやらジャパン美術の技術を買われたようだった。
 そして、マレア絵師のパトロンの1人が彼女、リムニアドの父親だったのだ。
 彼女はマレア絵師のファンで、新作が出来るたびに父親にせがんでアトリエを訪れていた。
 必然的に弟子となった私と会う回数も増えた。
 森で会った時以来、彼女に惹かれて、彼女の事が忘れられなかった私は、自分でも驚くくらい積極的に時間を作るようになっていた。
 それは彼女も同じだった。
 そして私に抱いている気持ちも。
 彼女もまた、自分にないものを私に見出していたからだ。

 最初は一目惚れだったのかも知れない。
 しかし、出来る限り2人で居る時間を作るようになると、私達は親しくなっていった。
 私達はアトリエ以外でも会うようになった。狩りに出掛けたし、お忍びで彼女とキャメロットでデートをする事もあった。
 物心付いた時から忍者として育てられた私は、彼女のどんな些細な話も楽しかった。
 彼女は幼少の頃から狩りを楽しんでいて、実は意外と好戦的だったり。
 ウィザードに弟子入りして、地の精霊魔法を修得していたり。
 彼女の事を知れば知るほど、愛おしい想いは募っていった。

 私が彼女を好きという気持ちは、仲間や親友を想うそれとは違う。
 かといって同性である彼女に、恋い焦がれる事があるのだろうか。
 何度目かの接吻を交わしながら、自問している私がいた。
 彼女も多分漏れずジーザス教徒だった。
 ジーザス教の教義では、同性愛者は聖なる母の御元へ行く事が出来ないという。
 でも、私は幸せだったし、彼女も聖なる母ではなく私を選んでくれた。
 しかし、自問の自答はなかった。

 いや、果たして答えはあった。
 マレア絵師の新作『エロースとプシケ』の物語の最後、眠りに落ちたプシケをエロースが目覚めさせるシーンに。
 私は弟子だから、当然、マレア絵師とモデルのやり取りの一部始終を見ていた。
 そしてマレア絵師がまだ絵を公開する前に、こっそりアトリエへ見に来た彼女も、それを感じ取っていた。
 この絵は愛し合う少女達をモデルに描かれたものだと。
「一緒に逃げましょう、ヴィルデ。今、この時にあなたと結ばれないのなら、遠い未来で結ばれましょう」
 私はジャイアントで、彼女は人間。
 私は忍者で、彼女は貴族。
 私は女性で、彼女も女性。
 私達は決して結ばれる事はないのだ。
 しかし、私は彼女を愛している。
 しかし、彼女は私を愛している。
 だから彼女は遠い未来に希望を託したのだろう。
 彼女の持つ地の力ならそれも可能だった。
 彼女と一緒なら恐くはない。
 私は頷いていた。

 しかし、彼女の父親は娘の不審な行為に感付いたのだろう。
 彼女を屋敷に軟禁すると、冒険者を警備として雇ったのだ。

 それでも私の気持ちは変わらない。例え相手が冒険者であっても、彼女と一緒になる事を諦めはしない。
 心残りは、私を愛弟子として可愛がって下さったマレア絵師を裏切る事だが、せめてもの罪滅ぼしに、マレア絵師の名を世に広める為に個展を開く提案をした。

 数カ月ぶりに黒装束に身を包み、忍者刀を帯び、手裏剣を懐に忍ばせた私は、虜の姫を救うが如くリムニアドの屋敷を目指していた。

●今回の参加者

 ea0110 フローラ・エリクセン(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea0459 ニューラ・ナハトファルター(25歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea0717 オーガ・シン(60歳・♂・レンジャー・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea0780 アーウィン・ラグレス(30歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2030 ジャドウ・ロスト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3542 サリュ・エーシア(23歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3777 シーン・オーサカ(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文


●籠の中の小鳥は強気!?
 依頼主の貴族の屋敷はキャメロットから歩いて半日の郊外にあった。
 2階建ての総石造りで、荘厳で優雅な佇まいだ。庭には草花が植えられ、屋敷の周囲に壁はないが林が広がっている。
 ジャドウ・ロスト(ea2030)とオーガ・シン(ea0717)は、屋敷とその周囲を見渡した。
 ジャドウは水を操るウィザードだ。自分で水を創り出す事はできるが、元々ある水を利用した方が戦いやすいし、尽きる心配もない。
 一方、オーガはトラップに精通しており、部屋の外観を見て頭の中で補強プランを思い描いていた。
 アーウィン・ラグレス(ea0780)が玄関の扉を叩くと執事が現れ、主人の部屋へと案内された。依頼主は現役のイギリス騎士で、貴族としても中堅の地位を持っていた。
「今日から5日間、お嬢さんを護衛すればいいんだな? で、お嬢さんの部屋は男子禁制、と。俺達は必然的に外回りの警備になるから、直接の護衛はニューラ達に任せるぜ」
「差し支えなければ、どうして5日間、護衛するのか教えてもらえますか?」
 アーウィンが依頼内容を復唱する横で、ニューラ・ナハトファルター(ea0459)が護衛する理由を聞いた。聞き上手の彼女らしく、答えなくてもいい選択肢をやんわりと含ませていた。
 5日後、娘のリムニアドは修道院へ花嫁修行に出るのだが、最近、隠れて誰かと逢い引きをしているらしいと主人が言った。キャメロットへ外出したり、彼がパトロンとなっているマレア・ラスカ絵師のアトリエへ遊びに行ったり、誘われた訳でもないのに狩りの練習に出掛けたり‥‥最初は気にしなかったが、ウィザードの家庭教師を頻繁にサボるようになると、流石にリムニアドを問い詰めた。しかし、本人は頑として口を割らず、それで女友達とは違う存在を見出したのだ。
「貴族のお嬢さんが花嫁修行で修道院に行くのは、珍しい事ではないけど‥‥」
「花嫁修行に行くまで悪い虫が付かないように、あたし達に護衛を依頼したんだね。リムニアドお姉さんはあたしが護るよ」
 この貴族も多分に漏れず、ジーザス教徒だ。サリュ・エーシア(ea3542)がお世話になっている教会にも、花嫁修行として貴族令嬢が来る事もある。もしくは、他の貴族の屋敷でメイドとして働くかのどちらかだろう。
 軟禁はやり過ぎではと言い淀むサリュの横で、チカ・ニシムラ(ea1128)は依頼主の話をすっかり信じてしまい、リムニアドを護る気満々になっていた。
「籠の中の小鳥もいいとこやで。それに、親に紹介出来へんつぅ事は、何か訳があるんやろうし‥‥」
「‥‥そうですね。軟禁というのは‥‥ちょっと酷すぎると思います」
 シーン・オーサカ(ea3777)とフローラ・エリクセン(ea0110)は仲睦まじく寄り添いながら囁き合った。
「俺達‥‥いや、俺に任せておけばいい。お望みとあれば、悪い虫とやらを捕まえて突き出してもいいし、面倒なら殺しても構わない」
 チカを除くフローラ達女性陣の鈍い反応とは打って変わって、ジャドウは依頼を受ける気満々だし、オーガもリムニアドの部屋の防備を強化する材料の調達を頼んでいた。

「お父様の依頼を受けてやってきた方達と、お茶など飲みたくありません。どうぞ、ご自分達で存分にお楽しみ下さい」
「私達はあなたのお父様に雇われた冒険者だけど、好き好んでこういう事をしている訳ではないわ。この状況を解決したいの」
 友達になろうと、先ずはお話から‥‥とサリュがお茶の用意をしたのだが、リムニアドは父親の依頼で来たと知った途端、突っぱねてしまったのだ。
 ジーザス教のクリレックであるサリュを意図的に避けている所を見たシーンは、逢瀬を重ねている相手は女性――しかも自分とフローラと同じ仲だと伺えた。端から見れば仲の良い女友達に見えるが、2人は禁断の百合の恋人同士だった。
「キレイだけどおっかないお姉さんだね〜」
 とチカが感想を漏らす。彼女はブレスセンサーをフローラと時間をずらして定期的に使い、屋敷に近付く存在を調べていた。執事から屋敷に居る人や馬などの数は聞いているので、息遣いが増えれば悪い虫が来た可能性もあるのだ。
「出ていけ、と言わないのはリムさんの優しさですね」
 依頼の間、ニューラ達に充てられた部屋は隣の侍女室なので、気に食わなければ追い出す事もできるはずだからだ。
「この絵は‥‥マレア様が描かれたアナイン・シーの1枚、『月の光と詩人の守護者』‥‥ですよね? こちらにある絵は未発表のもののようです‥‥」
 フローラは壁の一角に整然と掛けられたマレア絵師が描いた絵画を見ていた。彼女はマレア絵師の元でモデルをした事があり、その時、アトリエに飾られていたアナイン・シーの絵画の数々を見た事があった。
「フローラはマレア女史の絵画をよく見ますの?」
「‥‥よく見るというか‥‥面識はあります‥‥」
「‥‥あ!? 『エロースとプシケ』ですね! 私、あなたの絵画がエロースとプシケの中で一番お気に入りですの」
 この絵画はアナイン・シーコンテストで11位だった作品で、リムニアドは父に頼んで買ったのだという。マレア絵師のアトリエに飾ってあるのは複製で、この絵画が原盤だと説明した。
 他の絵画はマレア絵師がまだ、今ほど名前が知れ渡っていない頃に描いた逸品ばかりだという。彼女はその頃からマレア絵師のファンだと話した。
「‥‥では‥‥シーンがエロースのモデルですね。背格好で分かりました」
 リムニアドはニューラ達を逡巡した後、シーンだと言い当てた。饒舌になるところを見ると、それだけ熱烈なファンのようだ。
 現金かも知れないが、話はどう転ぶか分からない。マレア絵師の話題を切っ掛けに、リムニアドはサリュ達と少しずつではあったが打ち解けていった。

●好きとか嫌いとか
 3日を過ぎると、リムニアドも自分とヴィルデフラウの関係をぽつりぽつりと話していた。
 彼女がどれだけヴィルデフラウを愛しているかを知る度に、サリュはその語りが懺悔のように思えた。ジーザス教では同性愛は極刑に値する重い罪だ。聖職者であるサリュも、敬虔なジーザス教徒だったリムニアドも当然知っていた。
 だからリムニアドはヴィルデフラウとの駆け落ちを選んだのだ。
 イギリスの北の、誰も足を踏み入れないような遠い森へ逃げ、リムニアドのストーンでお互い眠りに就くというのだ。遠い未来、自分達の関係が認められるようになっているかもしれない頃、偶然目覚めるかもしれないし、そのまま石像として寄り添い続け、朽ち果てるのもいい、と彼女は思っていた。
「ジーザス教で百合があかんゆうけど‥‥とにかく、一生、親から逃げ回る人生って悲し過ぎやん。あんさんも親も絶対、後悔するで!」
「魔法は‥‥決して万能ではありません‥‥少なくとも私は、人任せの希望より‥‥たとえ可能性は低く、束の間でも‥‥愛する人と共に生きる時を掴み取る道を‥‥選びます‥‥」
 シーンとフローラはある意味、ジーザス教の教義に縛られないアウトロー的な存在だ。だが、リムニアドが貴族令嬢である限り、必ず付き纏う問題だった。
「好きな人と一緒になりたい気持ちはよく分かるよ。でも、それが認められないからって現実から逃げちゃダメだよ‥‥あたしは難しい事はよく分からないけど、分からないままでいいと思うんだ‥‥」
 チカもこの数日の間に、依頼主ではなくリムニアドの気持ちの方が大切だと思うようになっていた。
「むかし。人に飼われていたのです。何人目かのますたは、銀色の髪の人間で。初めて、優しくしてもらったのです。だいすきなひと。もういないひと……だから、失った痛みは、知ってるのです」
 ニューラがリムニアドの周りを飛び、ふわりと彼女の前に降り立つと、その手を握った。
「私達は2人を応援するのです♪ でも約束して欲しいのです、石になるなんてダメなのです。自分で動けなくなったら、人に運命を任せるのと同じなのです。自分の運命の手綱は他人にあげちゃダメなのです。例え痛くても血が滲んでも自分で握って、絶対に離しちゃダメなのです。その人の手を」
 リムニアドはニューラの過去の話に思わず涙を流していた。もしかしたら自分も、ヴィルデフラウを失う事になるかも知れないと思った――それは嫌。
 サリュも覚悟を決めて頷き、父親に時間と理解を求めるよう働き掛けると約束した。
 彼女は駆け落ちは思い止まり、ヴィルデフラウと別の道を模索しようと思い始めていた。

「そういう話を聞いちまったら、協力しない訳にはいかねぇよ。元々、お嬢さんを軟禁してる時点で、何かあるとは思っていたしな」
 ニューラがアーウィンに事の子細を話すと、彼は快く協力を承諾した。
 しかし、難色を示すアーウィンの視線の先には、リムニアドの部屋を強化し続けるオーガと、夜に備えて眠るジャドウのいる侍女室があった。
 リムニアドの部屋は彼女のアースダイブを防ぐ為に外側に木で目張りがされ、窓を塞ぐ事でレビテーションで降りれないようにし、廊下はロープを張る事で物理的に移動不可な場所を作っていた。また、部屋の前の壁にはまきびしを貼り付ける事で、眠ったら背後のまきびしが刺さって目が覚めるという寸法だった。

「ほとんどの奴等はリムニアドの話に同情しているようだが‥‥その程度の事で依頼を放棄する気はない」
 アーウィンの危惧通り、ジャドウは殺る気満々で4日目の夜を迎えていた。
「明日にはリムニアドは修道院へ行ってしまうからな。来るとしたら今日‥‥ぐ!?」
 ジャドウは首筋に激痛を感じ、意識が遠退いたが、辛うじて繋ぎ留めた。
 目の前に黒装束に身を包んだ、自分より長身の忍者が音もなく降り立った。先程の一撃はスタンアタックだろう。それなりに夜目が利くと自負していたが、ここまで入り込まれた事に全く気が付かなかった。
「ヴィルデフラウだな。大人しく捕まってもらおうか。さもなければ‥‥」
 ジャドウは相手の出方を伺いつつ、ウォーターコントロールで池の水を呼び寄せた。併せて高速詠唱のクーリングで水を凍らせて氷の槍にするが‥‥ウォーターコントロールは流動する水に効果があり、氷の槍を作った時点でそれは失われる。格闘に関して素人のジャドウが氷の槍を振るったところで、回避に長けているヴィルデフラウには全く当たらなかった。
 チカのブレスセンサーでヴィルデフラウの位置を知ったアーウィンとニューラが駆け付けた時には既に、ジャドウは気絶させられていた。
「‥‥頼む、一緒に来てくれ。お嬢さんもそれを望んでる」
「リムさんからの手紙です」
 アーウィンは敵意が無い事を示し、ニューラはリムニアドがヴィルデフラウに宛てた手紙を渡した。そこにはリムニアドがニューラ達を信じた事が綴られていた。
『リムがあなた達を信じたのなら、私も信じるよ』
 ヴィルデフラウはアーウィンに案内され、縄梯子を伝って侍女室へと入った。問題はリムニアドの部屋の前を警備するオーガだが‥‥。
「わしが仕掛けたトラップは、あくまでおぬしを捕らえる為のものじゃ。おぬしが事を荒立てないというなら、必要あるまいて」
 とすんなり道を譲った。

「ヴィルデ‥‥」
『リム‥‥』
 恋人達は人目をはばからず、抱き合って再会を喜んだ。
「申し訳ありません‥‥私達の事が引き金に‥‥でも、こんなやり方では‥‥誰も、幸せには‥‥どうか、もう一度考えてみて下さい‥‥未来は、託すものではなく‥‥自分で作る物です‥‥」
『後悔はしていないよ。あなた達のお陰で、私はリムを愛してもいいと改めて分かったのだから』
 フローラはマレア絵師の事も考えて、ヴィルデフラウの正体を知られないよう覆面を付けたままでいるように告げた。
「最悪の結末なんて考えたくないし、みんなが幸せになれないなんてダメ。あなたがリムニアドさんの事を想ってるのと同様に、お父様も彼女の事を愛してるの。分かってあげて。それに素晴らしい絵を描くんでしょ。彼女の絵の先生とかそういう付き合い方もあると思うの」
「まず、リムの絵を描いて親御さんに渡してみるとか、平和的な方法から始めぇや‥‥」
 サリュとシーンは今まで通り、マレア絵師に従事して、彼女を通じてリムニアドとの仲を保ったらどうかと提案した。
 そこへ騒ぎを聞き付けた父親が、執事と共に完全武装の出で立ちで現れた。
 父親は長身のヴィルデフラウを男性と勘違いしたようで、娘と付き合っているのかと問い詰めた。
「無理やり引き離すのはナンセンスや。火に油を注ぐよーなモンやで」
「恋とは醒める物じゃ。2人を身近に置いて、様子を見るのも一つの方法じゃろう」
 激昂する父親に、シーンとオーガが冷たく言い放った。父親が娘に恋人の名前を聞くと、リムニアドはヴィルデフラウの事を話した。
 当然、女に娘をやれるか、と益々激昂した。
「駄目駄目言うだけなら、何処の馬鹿でも言えるわい! 駄目な理由は何じゃ? 神が言った? なら何故、神はそう言ったのじゃ? 御主は神の意志をキッチリ理解しておるのか? 娘の心の内を聞いたのか?」
 語意を荒げるオーガ。しかし、彼は失敗を犯してしまった。神の意志とは即ち聖書。聖書に同性愛の禁止が書かれているからこそ、オーガは今までカマや変態を倒してきても罪に問われないのだ。カマも百合もジーザス教ではいっしょくたなのだ。
「‥‥悪ぃ、ちょっと黙っててくれよ、オッサン!」
「このまま閉じ込めていても‥‥きっと、娘さんは悲しみと辛さで心を閉ざし‥‥最悪、命すら‥‥どうか、娘さんを‥‥信じてあげて、下さい‥‥!」
 アーウィンが父親を羽交い締めにして落ち着かせ、フローラが説得したその時、リムニアドの身体が淡い光に包まれ、足元から色を失っていった。自らにストーンを掛けたのだと分かった。
「‥‥信じてるから‥‥」
 彼女は微笑みを浮かべてヴィルデフラウにそう言った。
 信じている――ニューラやサリュ、フローラと約束したように逃げるのでも、運命を他人に託すのではない。自分達の想いが神の意志を凌駕する事を父親に分からせる為だった。
 チカが魔法少女の枝を振り翳すと、執事の動きが止まった。
『必ず元に戻すから!』
 ヴィルデフラウは腰まで石化したリムニアドにそう告げると、その隙に窓を破って外へと逃げ出した。
 リムニアドは彼女が無事に逃げおおせたのを確認すると、石像と化した。その表情は安らかだった。

 リムニアドを護れなかった事から、依頼主は侵入者と戦ったジャドウと罠を仕掛けたオーガにのみ、当初の提示した報酬を払った。
 シーン達は元々、受け取る気はなかったが。

 翌日、何者かによって石化されたリムニアドが、その呪いを解く為に修道院へと運ばれる事になった‥‥。