エロスカリバーの女帝
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月23日〜10月28日
リプレイ公開日:2004年11月01日
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●オープニング
キャメロットの市民街を包む深夜の霧。
こんな日に影が蠢く時、紛れもなく奴が現れる――。
『エロスカリバーの女帝』が。
市民街に点在するエールハウス(居酒屋)の一軒で友人と夜遅くまで飲んでいた青年は、ランタンを片手に家路へと急いでいた。
“霧の都”キャメロットに夜霧が立ち込める事は珍しくない。慣れているとはいえ、視界の利かない霧はそう気持ちいいものではなかった。
「こんばんは」
どこからともなく女性の声がした。ちょっとハスキーな声だ。
青年はランタンを前の方へ翳すが、女性の姿はなかった。
「残念でした、私はここよ」
青年の真後ろから声がした。気が付けば、息が掛かるほど間近に女性が立っていた。
黒髪に程良く焼けた肌を包む衣も黒。
黒ずくめの女性だった。
その手には黒い布に包まれた剣を抱いていた。布から柄がはみ出ていた。
「さぁ、この剣を抜きなさい」
黒衣の女性の言葉に、青年は柄に手を掛けていた。初対面だというのに、この女性の事をまるで恋人のように思っていた。恋人の頼みは断る理由がない。
今の青年の目には、この黒衣の女性がアーサー王に聖剣エクスカリバーを授けたといわれている湖の精ダムデュラックのように見えていた。
自分だけのダムデュラック――。
青年が剣を鞘から抜き放つと、ピンク色の刀身が露わになった。長さはロングソード程。
その刀身を見た途端、青年は目の前に黒衣の女性がいるにも関わらず、服を脱ぎ始めたではないか!
あっという間に全裸になった青年の足を、黒衣の女性は満足げに見つめていた。
「あなたは良さそうね、顔も少し好みだし‥‥丁度食べ頃だし」
靄が掛かっている青年の大事な処を愉しそうに見た後、黒衣の女性は青年にもたれ掛かっていった。
「顔はよかったんだけど‥‥そんな足じゃ幻滅ね」
また、その日は全裸の青年の足を見て、黒衣の女性は食べるのを止め、眠らせてしまった。
「最近、朝、全裸の男がよく見付かっているんだ」
あなたが冒険者ギルドに顔を出すと、依頼書を選別していたギルドメンバーが話を切り出してきた。
なんでも、市民街の路地に男性が全裸で寝ているというのだ。
しかも、決まって“美青年”だという。
中には気持ちよさそうな表情で眠っている者もいるとか。
「あー、まー、その、なんだ‥‥女性に喰われたらしいんだが‥‥」
ギルドメンバーはばつが悪そうに歯切れ悪く言ったが、だいたいどういう事か察しは付いた。
しかし、揃いも揃って全裸というのはどういう事だろうか?
「ついこの間までケンブリッジで売り出されていたエチゴヤの福袋の中に、『エロスカリバー』というロングソードが入っているんだが、こいつを握ると全裸衝動が湧き起こるんだ」
つまり犯人は、何らかの方法で美青年達にエロスカリバーを握らせ、美青年達から服を脱いでもらっているらしい。
しかも、襲われた美青年達は犯人を逮捕してもらうつもりは毛頭ないという。
この依頼は、市民街の自警団からのものだった。
「犯人はまだ分からないんだが、男達は“エロスカリバーの女帝”だの、“黒衣の女帝”だの、呼んでいるそうだ」
犯人は女性で少々高飛車らしく、エロスカリバーを持っていたり着衣から、女帝と呼ばれるようになったとか。
「被害者は自分達を被害者だとは思っていないんだが、顔のいい男が狙われている事には変わりないからな。そこで腕の立つ冒険者の出番という訳だ。報酬は多くはないが、この事件、解決してくれないか?」
エロスカリバーの女帝、なかなかに手強そうな相手だ。
美青年が狙いという事は、囮調査が有効だが‥‥。
「そうそう、エロスカリバーの女帝にはこだわりがあってな。『すね毛のない美青年』しか襲わないそうだ」
‥‥なかなか趣味のいい女性のようだ。
なお、エロスカリバーの女帝が持っているエロスカリバーは、犯行の証拠として提出する事になる。
物的証拠がなければエロスカリバーの女帝を捕らえられず、依頼自体が失敗となるので、くれぐれも持ち去らないよう注意して欲しい。
●リプレイ本文
●意外な素顔?
ソニア・グレンテ(ea7073)とラディス・レイオール(ea2698)はキャメロットの裏路地を歩いていた。ここは夜ともなれば娼婦達が立ち、彼女達を買い求めに客が繰り出すが、今は閑散としていた。
「エロスカリバーの女帝の行動からして、娼妓だと思うんだけどな」
「娼妓ですか‥‥それでお金を稼ぐ人が、自分からタダでそういう事をするでしょうか?」
ソニアは“エロスカリバーの女帝”が“黒衣の女帝”とも呼ばれている事から、黒い服を着たそれらしい女性を捜していた。確かに美青年達を食べているが、ラディスはエロスカリバーの女帝が娼婦だとはあまり思えなかった。
めぼしい情報はなかったが、彼女達が特に商売に困っていない様子から、エロスカリバーの女帝は娼婦達に迷惑を掛けない程度に楽しんでいると推測できた。
クリノ・ヒューマイト(ea7434)とアルテス・リアレイ(ea5898)は被害者を発見した人を訪ね、被害者が倒れていた場所を見て回っていた。
「朝、全裸の男性が路上で寝ているというのは、いろいろと問題があるよね」
「そろそろ夜の冷え込みも厳しい時期だから裸じゃ風邪を引くし、最初に発見したのが若い女性ならショックを受けるよ」
「‥‥当の被害者の方達は満更でもないかもしれませんけど、なるべく穏便にエロスカリバーの女帝を捕まえたいね」
クリノの言葉に、アルテスは神聖騎士らしい労りの気持ちで応えた。
アルテスは同い年という事もあり、クリノの事を友達のように思っていた。彼は歌が好きで横笛を嗜んでいる事から、バードのクリノと音楽の話題を通じてすぐに仲良くなった。
「よく出没する場所ってバラバラで、市民街のエールハウスの近くって事以外、特定できないね」
「それだけ絞り込めれば、何とかなるかもしれないよ」
アルテスの言葉の中に答えがあるとクリノは感付いた。
「流石はイギリス、女性までこんな事件を起こすのか‥‥」
ヴァイン・ケイオード(ea7804)は褌やカマにエロスカリバーの女帝が加わり、何かと変態の噂が絶えないキャメロットに苦笑を浮かべた。
「エロスカリバーの女帝って美人? そこが一番重要だ!」
相棒の天道白虎(ea3072)が目の前で喜々として被害者からエロスカリバーの女帝の話を聞いているのが、苦笑のもう1つの理由だ。
「後、乳はどのくらいの大きさだったとか! 実際の気持ち良さとか!! その辺りも限りなく詳しく、ねっちりみっちり事細かく頼む!!!」
怪我の巧妙と言うべきか、白虎のお陰でエロスカリバーの女帝の外見の話を聞く事ができた。黒髪のジャパン系のキツめの美女で、胸は程よい大きさ。食べられている時は天国にいるような夢心地だったという。
「黒衣を着たジャパン系の女性まで絞り込めれば、後は市民街にあるエールハウスを一件一件虱潰しに調べるだけだな」
「キャメロットに来て初めての依頼がこれ‥‥ふぅ‥‥」
「あっはっは、な〜に溜息ついてんのよ。こんな楽しい依頼そうはないわよ。必ず成功させないとね♪」
サクラ・キドウ(ea6159)は騎士が解決すべき誇りある依頼を望んでいたが、どこをどう間違えたのかこの依頼を受けてしまった。
どんよりした表情のサクラとは対照的に、クレア・クリストファ(ea0941)はゲラゲラと笑いながら、道行く人を観察していた。
「吟遊詩人か踊り子って可能性が高いわね」
「女性の吟遊詩人や踊り子‥‥といっても結構いますね‥‥流石に昼間から黒い服は着て‥‥いました!」
ソニア達とアルテス達、ヴァイン達は日暮れと共にキャメロットの中心にあるジーザス教の教会前に集合すると、情報を交換し合って整理した。翌日はその情報を元に、手分けをして捜す事になり、クレアとサクラがエチゴヤ周辺に繰り出したのだ。
サクラが素っ頓狂な声を挙げて見付けたのは、踊り子のような黒い服に身を包んだ黒髪のジャパン人の女性だった。容貌や肌の色も一致したが、残念ながらエロスカリバーは持っていないようだ。
彼女は一軒のエールハウスに入った。しばらくすると彼女の周りに二重三重の人垣ができ、彼女の話に一心不乱に耳を傾けていた。吟遊詩人といっても講談師のようだ。
「昼日中から堂々と黒衣で練り歩くなんて、なかなかやるわね」
「あの講談師は‥‥何という名前なのですか?」
その大胆不敵さに愉しそうな笑みを浮かべるクレアの横で、サクラがエールハウスの主人に黒衣の講談師の名前を訊ねた。
黒衣の講談師の名前は、『ヒナト・ヤホイ』という――。
昼間、エールハウスで英雄の武勇談や御伽話といった各地の伝承を話して聞かせていた。その息をも付かせぬ矢継ぎ早のトークと毒舌が、多くの聞き手を引き付けて止まないようだ。
●男性陣はメロメロ?
ヒナトを見付けて4日後の夜。月明かりに照らされたキャメロットの街は、濃い夜霧に包まれていた。
深夜の市民街を、ラディスがランタンを片手に歩いていた。彼の右後方にはサクラとクレアが、左後方にはクリノとアルテスが物陰に隠れて尾行していた。目の良いアルテスがギリギリ目視できる距離まで離れている。また、ソニアとヴァイン、白虎は屋根伝いに彼の後を追っていた。
「さっさと現れな!」
ラディスが歩いているのは、クリノが割り出したエロスカリバーの女帝の出現予想エリアだった。なかなか現れず、ソニアが業を煮やしたその時、ラディスの孤独な影が動き出した。それは紛れなく奴――エロスカリバーの女帝だった。
ランタンの灯りに照らされた彼女の顔は、ヒナトのそれだった。
「こんばんは。驚かないのね?」
「驚きましたけど、素敵な女性を前に声を上げるのは失礼ですから」
「あら、嬉しいわ。あなたは良さそうね、顔もなかなか好みだし‥‥この剣を抜いてもらえるかしら?」
この状況でも礼儀正しさを忘れないラディスに、エロスカリバーの女帝はころころと笑うと、抱いていた黒い布包みから柄を差し出した。彼女の身体が月の光のような輝きに包まれたのを見た時には既に遅く、ラディスはエロスカリバーを抜き放ち、おもむろに一糸纏わぬ姿になった。
エルフは元々体毛は少ない。エロスカリバーの女帝は満足げにラディスのすねを見つめ、そのまま靄が掛かった場所へ手を伸ばした。
「う‥‥あ‥‥き、気持ちいい‥‥です‥‥あう!」
「溜ってたみたいで結構凄いわね。それにこんなに熱くなって‥‥本当に美味しそう」
ラディスの背中に痺れるような感覚が走り抜けた。エロスカリバーの女帝が彼の身体に跨ってきた。
「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 俺を呼ぶ! 仮面忍者ホワイト・パピヨン、見・参!! 綺麗なお姉さんに手荒な事はしたくないが‥‥すね毛と顔で差別された男達の無念、この俺が晴らさねばならん!!」
「これからお楽しみのところ申し訳ないが、それ以上の展開になると、お子様がこの依頼の報告書を見られなくなるからな」
マスカレードを付けた白虎が屋根の上から名乗り上げるとダーツを投げ付け、ラディスが彼に合わせてエロスカリバーの女帝の足目掛けて矢を射った。
「大人しく捕まって下さいね‥‥あなたの為にも!」
アルテスがホーリーを、クリノがスリープを唱え、ヴァインを援護した。彼女は二人の魔法に抵抗した分、回避が遅れ、矢が足をかすめた。
「我が身体、闇祓い悪討つ剣となれ」
「ラディスさんに当たったらごめんなさい、という事で‥‥」
「逃がしはしないぜ! 喰らえ!!」
クレアがミミクリーを唱える傍ら、サクラがロングソードを片手に駆け出し、ソニアが矢を射った。それはラディスが庇って受け、サクラのロングソードとエロスカリバーで斬り結んだ。
今のラディスにとってエロスカリバーの女帝は恋人である。恋人を護るのは至極当然の事だ。
「今日は可愛い子が多いわね。あなた達も食べ頃みたいね」
スリープとホーリーが届くという事は、同時にチャームも届く事を意味していた。エロスカリバーの女帝はアルテスとクリノにもチャームを掛けた。
「怖がらないで――心を開いて――全てを受け入れて――そうすれば――大丈夫――大丈夫――甘美なる世界へ――さあ――行きましょう――」
クリノのメロディーの歌がソニアの集中力を乱して矢を外させ、ヴァインはアルテスのホーリーを迎撃する羽目になった。サクラの放つスタンアタックはラディスにかわされてしまう。
彼女の服を切り裂いて脱がしに行く予定が、白虎の小柄は空を斬った。だが、エロスカリバーの女帝を気を引くには充分だった。
「捕った!!」
自分への注意が逸れた隙を付いて、クレアがミミクリーで最大まで伸ばした腕に持ったホイップを振るい、エロスカリバーの女帝の下半身を絡め取ったのだった。
ラディスとクリノ、アルテスが警戒しているので手荒な真似はせず、クレアはロープでエロスカリバーの女帝――いや、黒衣の講談師ヒナト・ヤホイの両手を拘束し、サクラがエロスカリバーを証拠品として回収した。
「何でお前さんはこんな事をした?」
「エロスカリバーを手に入れたら有効的に使いたいと思わない? 私の好みはすね毛のない美青年だし。趣味と実益が半々ってところね」
「もう夜も寒いんだから、わざわざ外でやる事もないだろうに」
突っ込み所が微妙に違うが、ヴァインはヒナトの答えに納得した。
「これからは顔とすね毛だけではなく、漢の中身も見るんだな‥‥うお!?」
「アンタの魔法に頼った誘い方じゃ全然ダメだな。『お姉さんに挟まれてみないか?』‥‥ってやるんだよ!!」
決め台詞を格好よく決めようとした白虎の目の前で、ソニアが上着を脱ぎ、たわわに実った美乳の大事な部分を手で際どく隠しながら寄せた。
「理由はどうあれ、あなたは自警団に突き出すから‥‥私は夜駆守護兵団団長クレア‥‥悔しかったら覚えておきなさい。エロスカリバーは‥‥」
「‥‥あ‥‥み‥‥見ないで‥‥」
リカバーポーションで傷付いた仲間を癒した後、クレアが冷ややかに告げるが――エロスカリバーを回収する際、柄を握ってしまったサクラは線の細い裸体を晒していた。
言っている事とやっている事がちぐはぐなのが却って艶っぽく、二度美味しい思いをした白虎達だった。
エロスカリバーと共に自警団に引き渡されたヒナトはその後、あっさり釈放されたという。
エロスカリバーの女帝の噂はなくなったが、黒衣の講談師はまたひと波乱起こしそうな予感がした。