【仇討ち指南・外伝】竜巻の名を持つ少女

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月27日〜11月01日

リプレイ公開日:2004年11月05日

●オープニング

「‥‥必ず‥‥助ける、から‥‥」
 薄れ行く意識の中で、辛うじてそう呟いた。
『私はどうなっても構いませんから、逃げて!』
 果たして彼女に聞こえただろうか?
 悲痛な叫びが、途切れ掛かった意識を細い細い糸で繋ぎ止める。
 こんな時でも彼女は自分の身より、少女の身を案じていた。
「‥‥必ず‥‥助ける、から‥‥」
 血潮が流れ出るに比例して、意識も失われてゆく。
 最後に金色の瞳に映っていたのは、鳥籠に無理矢理押し込められたシフールの少女の姿だった‥‥。

「あの娘を攫った野盗の一味は、この街のどこかにいるんだね」
 それから数カ月後、キャメロットの街に少女の姿があった。
 伸ばし放題の蜂蜜色の髪は腰辺りで纏められ、長旅で草臥れていたが、そこから覗く尖った耳から彼女がエルフだと分かった。
 やはり長旅の所為か、エルフにしては日焼けしている。
 袖が無くゆったりとしたスカート――但し、前後は動きやすさを重視しミニ並に短い――のワンピースを着ていたが、背中には生々しい刀傷の痕があった。
 少女は自分達を襲った野盗と攫われた親友のシフールの僅かな目撃情報を頼りに、この街にやってきたのだ。
 しかし、その情報もキャメロット内でぷっつりと途切れてしまっていた。
 足取りから、キャメロット内に潜伏している事は確かだ。或いは取り引きしているパトロンに匿われている可能性もある。
 少女は寸暇を惜しむように、その足で冒険者ギルドへと向かった。

 依頼書に見入っていた少女の目に飛び込んできたのは、とある依頼だった。
『火事場泥棒や人身売買の調査』
「これって、あたしが追ってる奴らと同じかも知れないねぇ」
 この依頼は依頼人が個室で受け付けているというので、少女は話を聞く事にした。
 依頼人はエクセレントマスカレードと礼服でジェントルマンに変装しているつもりのようだが、生来のちんぴらっぽさは隠しようがなく、それが却って少女を信用させた。
 変装しているのは訳ありのようだし、嘘を付くのが下手な者に悪い者はいないからだ。
 話を聞いた少女は、手口等から火事場泥棒団が自分の親友のシフールを攫った野盗達と同一ではないかと思い当たった。

 そして受けた依頼は、火事場泥棒団の荷車が出入りしているという悪徳商人の倉庫の調査だった。
 倉庫といっても屋敷の中にあり、屋敷の外観は分かったが、どこにあるかまでは分からなかった。もしかしたら地下室があり、そこに親友のシフールが閉じ込められているかもしれない。
 どちらにせよ侵入しなければならないし、その道に長けている者の協力は必須だろう。
 ちなみに報酬は2Gである。
「自己紹介がまだだったね。あたしはタルナーダ、竜巻のタルナーダだよ」
 少女はそう名乗った。タルナーダとはロシア語で『竜巻』を意味する。
 その名の通りタルナーダは、風のウィザードだった。

●今回の参加者

 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0745 ソウジ・クガヤマ(32歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea0904 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2220 タイタス・アローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文


●家庭的な彼女
「人身売買とは話が穏やかじゃないな‥‥ま、今はシフールの嬢ちゃんを見付けるのが先決だな」
「噂には聞いていましたが‥‥弱き者を力で攫い、あぶく銭を稼ぎ、私腹を肥やすなど言語道断です」
 閃我絶狼(ea3991)がタルナーダに聞こえないように呟くと、隣にいたタイタス・アローン(ea2220)が怒りを露にした。過去の記憶がない絶狼は人と人との繋がりを大切にしており、タルナーダに同情していた。タイタスは信仰と性格上、捨て置けなかった。
「タルナーダ殿の話を聞く限りでは、親友のシフールは愛玩の為に攫われた可能性が高いですね」
「愛玩って、要は見せものだろ!? ホルンをいつまでもそんな目に遭わせられないよ! これだけの仲間がいれば‥‥」
「簡単に助け出せる、ですか? そんなに甘くはないですよ。悪徳商人の屋敷は分かっていますが、親友のシフールが囚われている場所までは外観からでは分かりません」
 ルーウィン・ルクレール(ea1364)は愛玩用なら酷い扱いはされていない、と言いたかったのだが、タルナーダは今直ぐ悪徳商人の屋敷へ駆け出す勢いだった。
 ボルジャー・タックワイズ(ea3970)が素早く彼女を羽交い締めにすると、御蔵忠司(ea0904)が下調べの必要性を説いた。
「タルナーダさん待っててよ!! パラの戦士が偵察に行ってくるぞ!!」
「‥‥ぐス‥‥ここは、お師匠様と私に‥‥任せてもらえませんか?」
 ボルジャーが羽交い締めを解き、彼に弟子入りしている水野伊堵(ea0370)が左目を潤ませながら情報収集を申し出た。
「俺もシフールの大事な親友がいるからな。タルナーダの気持ちは察して余りある。けどな、感情に任せて機を見誤っちゃいけねえよ?」
「‥‥急いては事を仕損じます‥‥ボルジャーさんと伊堵さんならきっと上手くやってくれますよ‥‥我慢して待ちましょう‥‥」
「分かった、2人に任せるよ‥‥その為の仲間だもんな」
 ソウジ・クガヤマ(ea0745)とイェーガー・ラタイン(ea6382)が、タルナーダの髪と同じ蜂蜜色の瞳を真摯に見つめた。ソウジにもイェーガーにも、シフールの親友や知り合いがおり、人事ではなかった。
 ボルジャーと伊堵は相応の自信があるのか、或いは策があるのだろう。それにタルナーダは修得している魔法からも分かる通り攻撃重視で、隠密行動はあまり得意ではなかった。

「何もない所ですが、どうぞ」
 ルーウィンが先ず女性のタルナーダをエスコートして部屋へ誘い、その後、タイタス達を招き入れた。
 ソウジに食事へ誘われたタルナーダは、「あたしがご馳走するよ。その方が安く上がるし」と切り返し、ルーウィンがドラゴン通りにある棲家を提供したのだ。
「言葉遣いに似合わず、意外と家庭的ですね‥‥それは‥‥」
 タルナーダは市場で買ってきた食材を抱えてキッチンへ消えた。
 誉めようとしたタイタスは言葉に詰まった。彼女が振り返った瞬間、腰辺りで纏められた髪が翻り、袖のないワンピースの背中に生々しい刀傷の痕をかいま見たからだ。
「‥‥ホルンを庇ってね、あいつらに、やられたんだよ‥‥あたしは結局、親友を護りきれなかったんだ」
「‥‥タルナーダさん、親友を必ず助け出しましょう!」
「心配するな、あんたの親友はきっと取り戻してやる」
 自嘲を浮かべるタルナーダを、イェーガーと絶狼が励ました。忠司は冒険者ギルドで初めて会った時から思っていたが、名前の通り竜巻のように激しく怒ったり、笑ったりと喜怒哀楽がはっきりした性格だ。しかし、キッチンに立つ姿は家庭的で、甲斐甲斐しい一面もあると思ったりもした。
 その忠司はタルナーダの美味しい料理で舌鼓を打つと、夜に備えて寝てしまった。
「しっかし、なんて格好してたんだ、あいつは。今思い出しても傑作だぜ、ぷ!」
 ソウジはまさか知り合いが依頼人だとは思っておらず、依頼人の姿を思い出して笑った。釣られてタルナーダも笑うと、彼は話題を変え攫われたタルナーダの親友のシフールの事を聞いた。
 親友のシフールの名前はホルンといい、蒼い髪を長いツインテールにした女の子だ。
 ロシアから旅をしていたタルナーダは、イギリスに来てホルンと出会い、一緒に旅を続けていた。
 ホルンは献身的で優しく、タルナーダにイギリス語を教えたのも彼女だという。
 ホルンの事を話すタルナーダは本当に楽しそうだった。

 ボルジャーは歌いたいのを我慢しつつ、悪徳商人の屋敷へやってきた。
 屋敷は1階建てで壁で囲まれ、入口にはファイターらしい男が2人、警備に就いていた。
 ボルジャーは壁を登ろうとすると、伊堵が機転を利かせて裏口へ回った。こちらには扉が閉まっているだけで警備の者の姿はなかった。敷地の中へ潜入すると、茂みを見付けて隠れ、パラのマントを発動させて姿を消した。
 荷車が2度、出入りし、玄関の右側に着けられた。伊堵達の位置からでは何が積み降ろしされているか分からなかったが、そこが荷物の搬入口のようだ。なら、その近くが倉庫という事になる。
 また、ボルジャーは開いている窓から使用人の動きを伺い、会話を聞き逃さないよう注意していた。人身売買に関する目星い話はなく、小さい食事を運んでいる者も見掛けなかった。
 ボルジャーと伊堵は日暮れまで情報収集を続け、その結果をルーウィンの棲家で待つ忠司達に報告した。

●好戦的な彼女
 その日の深夜、悪徳商人の屋敷の裏口に、タイタス達の姿があった。
 伊堵とボルジャーが作成した見取り図と情報を元に、絶狼とソウジで最適な潜入経路を割り出していた。
「先ずはホルンの救出が第一目標です。タルナーダの見た鳥籠を発見したら直ちに救出し、屋敷の外に連れ出して下さい。ホルンがいない場合、人身売買の証拠となるような証書の探索が第二目標です」
 タイタスが全員に潜入の目的を改めて確認した。彼はボルジャーの情報から、ホルンが売り出されてしまった可能性も考慮していた。
「‥‥お守りです‥‥そしてこれはホルンさんに渡して下さい」
「‥‥何から何まですまないねぇ。あたしはいい仲間に恵まれたよ」
 何か言いたそうなタルナーダに、イェーガーがラーンス・ロットの金髪とシフールの礫を渡した。
 昼間と違い、裏口には鍵が掛かっていた。ソウジとイェーガー、ボルジャーが鍵を開けようとしたが敢なく失敗。そこで伊堵が音が立たないように鍵とジャイアントソードの接点を布で包み、ゆっくりと力を込めて壊した。
「『堕龍』‥‥あなたとならば、どこまでも‥‥」
 伊堵はその成果にジャイアントソードを見つめながら嬉しそうに呟いた。ジャイアントソードに恋人の名前を勝手に付け、執着していた。

 タイタスとルーウィンは玄関近くの左の部屋を調べた。そこは警備のファイターの部屋だった。ルーウィンは素早く敵を見渡し、ウィザードがいない事を確認する。
「魔法を使われたら厄介でしたが‥‥覚悟はいいですか? 自分達の行いを後悔しなさい」
 ルーウィンはロングソードとシールドソードを、タイタスはクルスソードを構えると、ファイター達に斬り掛かっていった。

「まるで聳え立つクソだわ。みんな倒して真っ平らにしてやる!」
 伊堵とボルジャーは玄関近くの右の部屋を調べると、こちらも警備のレンジャーの部屋だった。粘っこい笑みを浮かべた伊堵は、獣のような咆哮を挙げながら堕龍でレンジャーに迫った。
(「師匠は心が広いから、弟子に相手を譲ってあげるのさ!!」)
 ボルジャーはショートソードで伊堵の背後を狙うレンジャーの攻撃を露払いし、彼女の援護に徹した。

 ソウジやタルナーダと違い、夜目の利かないイェーガーは、シャッターでランタンの明かりを調節しながら右の角部屋を調べた。隣は複数の寝息が聞こえた事から、使用人の部屋のようだ。
 イェーガーが今度は扉の鍵を開けて中に入った。
 中は倉庫のようで家財道具で一杯だった。物的証拠を押さえられたが、肝腎のホルンと鳥籠は見当たらなかった。
「ありきたりの家財道具ばかりで、目星い物はないな」
「‥‥ソウジさん、力を貸してもらえますか?」
 家財道具を眺めていたソウジは、イェーガーに声を掛けられた。どうやら何かを見付け、人手が必要なようだ。

 忠司と絶狼は着物の擦れる音を出さないようすり足で壁沿いを歩いて廊下を進み、左の角部屋へやってきた。隣の部屋からは大いびきが聞こえる事から、悪徳商人の部屋だと確信した。
 夕食の時やこの屋敷に来るまでの間、忠司が絶狼にジャパンの事を話し、2人は打ち解けていた。
 扉には鍵が掛かっており、やむを得ず絶狼がシルバーナイフでバーストアタックを放った。丁度その時、戦いの喧騒が聞こえ、扉を破壊した音はそれに掻き消された。
「鍵を掛けているだけあって、ここが書斎のようだな」
「暖炉や花瓶の中、本棚の裏とかが怪しいですが‥‥ありましたよ」
 絶狼が見張りをする中、忠司が探すと、まだ冬でもないのに暖炉に薪が積まれていた。その中に丸まった羊皮紙を見付けた。
 その時、絶狼は部屋の外に気配を感じ、パリーイングダガーを構えると、護衛を伴った悪徳商人が姿を現した。

 護衛のファイターやレンジャーは火事場泥棒団のメンバーで、それなりの実力を持っており、ボルジャーと伊堵を除いて無傷という訳にはいかなかった。中には粘液状の毒薬を得物に塗っていた者もおり、解毒剤のお世話になった。
「アホ相手に質問するのは私の役だ! この鳥籠に捕らえていたシフールの娘はどこだ?」
 護衛を粗方倒し、悪徳商人を捕縛すると、伊堵が彼の頭を掴んで顔面を地面に叩き付けながら、タルナーダが持っている鳥籠を指した。
 イェーガーが見付けたのは隠し部屋だが、家財道具が扉の上に置かれていて入る事ができず、タルナーダがストームで吹き飛ばしたのだ。
 隠し部屋には鳥籠が置かれていただけで、ホルンの姿はなかった。
 忠司が見付けた人身売買の証書には書かれていなかったが、悪徳商人は既にとある貴族に売ってしまったと白状した。

 悪徳商人と火事場泥棒団の一部を捕らえ、人身売買の証書を手に入れた事から、依頼の目的は果たし、火事場泥棒団を壊滅させる事ができるだろう。
 しかし、タルナーダの目的はまだ終わっていなかった。
「『助け出しても意味がない』って言っていたけど、あたしはホルンを追うよ」
 悪徳商人は最後に奇妙な言葉を残していた。それでもタルナーダは親友を助ける為に、ホルンを買ったという貴族を調べるつもりだった。
「今回は世話になったね。今度はあたしが依頼を出すかも知れないけど‥‥縁があったらよろしくな」
「パッラッパパッパ!! おいらはパラっさ!!
 パラッパパラッパ!! おいらはファイター!!」
 夜明けのキャメロットの街へ消えるタルナーダの後ろ姿に、ボルジャーが下手っぴぃな歌と踊りを餞別代わりに見送った。彼女の手にはシフールの礫が強く握られていた。