思い出のリンゴ

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 32 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月08日〜11月18日

リプレイ公開日:2004年11月16日

●オープニング

 キャメロットの街中は、未だハロウィンのお祭りの喧騒に包まれていた。
 かぶの中をくり抜いて火を灯したジャック・オ・ランタンが家やエールハウスの前に置かれ、モンスターに扮装した子供達が、「Trick or treat」と言いながらお菓子をねだりに各家を回っている。
 ハロウィンは庶民達の数少ない娯楽の1つで、それだけに盛大に祝われる。
 今日でハロウィン祭も終わりとあって、多くの人が酒を酌み交わしたり、夜更かしを許された子供達が夜遅くまで騒いでいて、お祭りは盛り上がりを見せていた。

 その家の前には、くり抜き方がいびつで、少々不格好なジャック・オ・ランタンが置かれていた。大人が作ったものではなく、子供が一所懸命作ったであろう事が伺えた。
 開け放たれた窓から、遠くに子供達の「Trick or treat」と楽しそうに叫ぶ声が聞こえてくる。
 市民街の外れにあるこの家は、厳かに儀式が執り行われている教会に近い事もあり、ハロウィンの喧騒から取り残されているような感じがした。
 シエルが家に帰ると、妹はベッドの上で上半身を起こし、窓の外を眺めていた。
「‥‥まだ、起きていたの?」
「うん。せっかくのハロウィンだし、息もいい‥‥ゴホ! ゴホ!!」
「分かったら、少し横になりましょうね。夜風はよくないです」
 妹が咳込むと、シエルは慌てて駆け寄って背中を擦り、そのまま上半身を寝かせた。
 ハロウィンを楽しみたいのは分かっていたから、夜風が入り込んでくるけど窓は開けっ放しにしておいた。
「ゴホ‥‥今日のお勤めはもういいの?」
「はい、ハロウィンですから、セーラ様も寛大です」
 嬉しそうに、でもどこか心配そうに訊ねる妹に、彼女は微笑みながら頭を撫でて答えた。
 帰ってきたばかりのシエルは、純白の法衣に身を包んでいた。その胸にはジーザス教のホーリーシンボルが、ランタンに灯りに照らされて鈍く輝いている。
 彼女はジーザス教のクレリックだ。本当はハロウィン祭のお勤めが残っているのだが、妹が気になり、早退してきたのだ。
 シエルは持ってきた包みを開けると、教会からもらってきた焼きリンゴを妹の顔の横に置いた。ハロウィンのお菓子を貰いに行けない妹を思い、もらってきたのだ。
「食べる?」
「食べたいけど、今日はいいよ。もったいないし‥‥ゴホ‥‥」
 不意に妹は、目線を焼きリンゴから天井へと移した。
「村の近くのリンゴが食べたいなぁ。ほら、よくお姉ちゃんとハロウィン前に採りに行って、ママに叱られたよね」
「う、うん、そうね」
 天井ではなく、遠くを見つめながら楽しそうに話す妹に、シエルは微笑みを浮かべながら相づちを打っただけだった。突然話を振られたからではない。
「あのリンゴ、食べたいなぁ。村のみんな、採ってるよね」
「う、うん、そうね。でも、あなたが手伝うには、まずは身体を治さないとダメでしょう?」
「はぁい」
 姉に諭されると、妹は布団を顔の半分まで掛けた。端を握り、ちょこんと目だけをシエルに向けた。
「お姉ちゃんが採ってきてあげるから」
「本当!? ‥‥ゴホ! ゴホゴホ!! ゴホゴホ!!」
 激しく咳込む妹の胸を擦りながら、シエルは「本当です」と優しく言った。

 翌日、シエルは教会へお勤めに行く前に冒険者ギルドの門を叩いていた。
「山へリンゴを採りに同行して下さる冒険者をお願いしたいのです」
 ギルドに依頼を出すくらいだから、ただのリンゴ狩りではないようだ。
 シエルが向かう高山には、サンダーバードと呼ばれる身体に雷を帯びた大型の鷹に似た鳥が棲み付いているという。
 サンダーバードは鳥故、必然的に迎撃戦となるだろう。もしくは何らかの飛び道具が必要だ。シエルもホーリーを修得しているが、詠唱中に攻撃されたり、射程距離から離脱され、1人で迎撃するのは困難だった。
 リンゴを採る為には、サンダーバードを迎撃できる冒険者の力が必要だった。
 しかし、それほどまでリンゴにこだわる理由は何なのだろうか?
「‥‥妹は、本当の妹ではないのです。あの娘の村はとても小さく、男性達はキャメロットなどに出稼ぎに出ていて女性しかおらず‥‥たった数匹のコカトリスによって全滅してしまい、あの娘だけが生き残ったのです」
 シエルは依頼書を書き終わった後、ギルドの係に理由を話した。
 ギルドの係も悲しいが、同情はしない。モンスターによって村等が全滅する事は少なくはないからだ。
「私はキャメロットで働いている村の男性に頼まれてお届け物をしたのですが‥‥偶然、その後の村に立ち寄り、あの子を保護したのです。ショックのあまりあの娘は私の事を姉だと勘違いし、身体も壊してしまいました‥‥もう、長くはないのです」
 しかし、だからこそあの娘の願いを叶えてあげたいと、シエルは目線を落としながら告げたのだった。

●今回の参加者

 ea0445 アリア・バーンスレイ(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0509 カファール・ナイトレイド(22歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea0923 ロット・グレナム(30歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1434 ラス・カラード(35歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●Thunderbird a GO!
 クレリック・シエルとの待ち合わせは、眼前にキャメロット城を臨むジーザス教の教会の前だった。
「やぁ、お久しぶりだねシエルくん。僕の事覚えているかい? 昔、祭典で会ったよね」
「その節はお世話になりました」
 アルヴィス・スヴィバル(ea2804)は上手く騙ったつもりだったが、意外にもシエルは深々とお辞儀をした。初対面にも関わらずあっさり切り返されたが、“言葉使い士”の異名を持つアルヴィスは余裕を崩さず、微笑みを湛えながら応えた。
 ――身体を包む白い法衣にプラチナブロンドが映え、楚楚とする中に神々しささえあった。その第一印象に“いい人”も付け加えよう、とアルヴィスは思った。
「シエル先輩を冒険者ギルドで見掛けた時は、冒険者になるつもりなのかと驚きましたよ」
「冒険者に同行して傷を癒すのも悪くないですけど、ミュゼットから離れられませんから」
 ラス・カラード(ea1434)はシエルと顔見知りで、ジーザス教徒としては彼女の後輩に当たった。
「モンスターに襲われて村が全滅か‥‥確かに、そういう話は少なくないけどな‥‥」
「‥‥それにシエルさんの妹さん、もう先は長くないんだよねぇ‥‥家族を失う辛さは、よく分かるし‥‥せめて、リンゴくらいは届けてあげないとね!」
「せやなぇ、一丁気張らんとな!」
 ロット・グレナム(ea0923)がしみじみと言うと、アリア・バーンスレイ(ea0445)はミュゼットに少しでも多くの良い思い出をあげたいと頷いた。彼女の横にいたイフェリア・アイランズ(ea2890)が、遅れてきたカファール・ナイトレイド(ea0509)の姿を認めると出発の音頭を執った。
 荷物をラスの愛馬とイフェリアの驢馬に分けて積み、イグニス・ヴァリアント(ea4202)はミュゼットの村の近くにあるリンゴの木を目指した。
「今度の相手はサンダーバード〜♯ 飛んでくる相手だサンダーバード〜♭
 パラの戦士は飛べないけれど、襲ってくれば叩いて落とす。パラッパラ〜♪」
 先頭を歩くボルジャー・タックワイズ(ea3970)の調子っ外れの歌声が、辺りに響き渡る。野生動物の大半はこの歌声で寄ってこないだろう。
 カファールはサンダーバードを名前から調べようとしたが、資料が見つからず待ち合わせに遅れたのだ。数の多くないモンスターのようで、ある程度モンスターの知識を持った彼女でも調べるのは困難だった。
「鳥型のモンスターは厄介なんだよな‥‥スピードと行動範囲が段違いだから」
 イグニスはカファールを労いつつ、サンダーバードを彼の知る鳥系のモンスターに置き換えて、その強さを推し量っていた。

 山ではちらほらと紅葉が終わり、寒さもキャメロットに比べれば厳しくなっていた。
「見て見て、どんぐりが一杯落ちてたよ」
「うちは栗を拾ってきたねん」
「2人とも大収穫だね」
 カファールは両手一杯にどんぐりを、イフェリアは両脇に栗を抱えて来た。アリアはそれらを受け取ると、袋にしまった。
 『ミュゼりんにリンゴだけじゃなく、他にも一杯お土産を持っていったらきっと喜んでくれるもん』――というカファールの提案に、イフェリアとアリアは休憩を採るたびにどんぐりや栗を拾った。

「この道を行けば妹の、ミュゼットの村ですが、今は先を急ぎましょう」
 シエルがふと立ち止まり、指差した。人の往来が無くなってしばらく経っているのか、雑草が伸び放題でほとんど獣道だった。
「ミュゼットの村は今、どうなってるんだ?」
「コカトリスの棲処になっています。彼女の本当の姉や母親を始め、村人は全員襲われた時のままです‥‥」
 ボルジャーへの答えをシエルは苦々しい表情で告げた。ボルジャーもコカトリスと戦った事があるから分かるが、冒険者でも手に余るモンスターだ。助けたくても助けられないのだ。
「シエル先輩、ミュゼットさんの願い、必ず叶えてあげましょう。僕達とあなたで‥‥」
「まあ甘い物好きに悪い娘はそうそういないからね。僕も美味しいリンゴは食べたいし、もう少し頑張ろうか」
 言い方は違うが、ラスとアルヴィスがシエルを励まして先に進んだ。

 斜面一面にリンゴの木が群生していた。ミュゼットの食べたがっているリンゴは一番奥に成っていた。
 ロットが『ブレスセンサー』を使うと、サンダーバードは目的のリンゴの木を塒にしているようだ。
 囮になるカファールとイフェリア、前線で戦うアリアとボルジャー、シエルを護衛するイグニスがシエルの身体に触れると、彼女は『グットラック』を付与した。アルヴィスとロットにはラスが祝福を与えた。
「ほ〜ら、こっちやで〜!」
 イフェリアが挑発すると、雷電を纏った全長2mもの鷹が猛スピードで突っ込んできた。カファールは『オフシフト』を駆使してサンダーバードの『チャージング』をかわした。
「――双撃の刃、その身に刻め!」
 イグニスは右手にダガーを、左手にナイフを構え、それぞれ『ソニックブーム』をサンダーバードに放った。ツインソニックブームはかすりもしないが、サンダーバードを誘導するには充分だった。
「サンダーバード、なるほど雷の鳥か。だけど、雷を操る者としてなら俺の方が上だ!」
 ロットが『ライトニングサンダーボルト』を、アルヴィスが高速詠唱で『ウォーターボム』を唱え、間髪入れず『アイスブリザード』を放った。『ライトニングサンダーボルト』と『アイスブリザード』は抵抗され、まともにダメージ与えたのは『ウォーターボム』だけだった。
「オルバス流連携魔法、“氷蝕蒼華(クール・ダンゼル)”‥‥流石に通常の水分を凍らせる事はできませんか‥‥」
「しまいますか‥‥じゃないもん! おいら達にまで攻撃魔法当ててどうするんだよ!」
 いくら誘導したとはいえ、『アイスブリザード』は広範囲の攻撃魔法。サンダーバードだけでなくカファール達も巻き込んでしまった。しかも凍らせる魔法ではないので、サンダーバードやカファールの身体に霜が付いた程度だった。アルヴィスが期待していた効果を得られず、彼は『ウォーターボム』での攻撃に切り替えた。
「降りて来たな!! さぁ、サンダーバードが強いか、パラの戦士が強いか勝負だ!!」
 頭上に来たサンダーバードをラージハンマーでぶっ叩くボルジャー。辛うじて当たるが、サンダーバードの身体に触れたボルジャーも電撃を受け、相打ちとなる。
「あのリンゴを届けなければならない娘がいるんだよ!」
 アリアは急降下してくるサンダーバードに、『カウンターアタック』と『スマッシュ』を組み合わせた必殺の一撃をお見舞いした。
 激しい魔法と打撃の応酬の末、遂にサンダーバードは地に伏した。
 アリアとボルジャーは重傷、カファールとイフェリアは中傷を受けたが、それぞれシエルとラスがリカバーで治療した。
 元気になったカファールが、ぷんぷん怒りながらアルヴィスをダーツの尻でぺしぺし叩いたのは言うまでもない。

 休憩もそこそこ、植物に詳しいイグニスが見立てて全員で美味しそうなリンゴを採ると、キャメロットへ戻った。

●Trick or treat!
 シエルの家の前には、ハロウィンのお祭りが終わってもジャック・オ・ランタンが置かれていた。かぶが新しいところを見ると、ミュゼットが作って置いているようだ。
「Trick or treat!」
「きゃあぁああ!?」
 前に戦った事のあるレイスに仮装したロットが、『リトルフライ』で床から浮いたまま家の中に入ると、ミュゼットは悲鳴を挙げた。
 全身を真っ赤に塗って膝を抱えて丸まり、届けるリンゴやどんぐり、栗の中に隠れていたイフェリアが、悲鳴を挙げたまま固まっているミュゼットに近付いた。
「宙に浮いたら本物と間違えられても無理ないで‥‥って、ミュゼットはん、息しとらんで!?」
「え゛!?」
「ミュ、ミュゼット!?」
「驚いた〜? でも、お兄ちゃんが宙に浮いてるから、わたし、本当に驚いたんだよ。お帰り、お姉ちゃん、いらっしゃい、皆さん‥‥ゴホ、ゴホ!」
 驚かした方が逆に驚いてしまう。慌ててシエルが駆け寄ると、ミュゼットは咳込みながらも微笑んだ。
「意外とお茶目な娘ですね。初めまして、お姉さんの後輩です。今日はあなたの為にハロウィンのお化け達が会いに来てくれましたよ」
 挨拶が後になってしまったが、ラスは改めてロット達を紹介した。
「Trick or treat!! おいらはパラっさ!!
 Trick or treat!! おいらはファイター!!」
 布を被って白いお化けに扮したボルジャーがへたっぴぃながら歌って踊る。
「ミュゼットの為にお姉さん達、採りに行ってきたんだよ」
「‥‥この味‥‥あのリンゴなの〜!」
 魔女の仮装をしたアリアが、一口大に切ったリンゴをミュゼットに差し出した。それを食べた彼女はアリアに満面の笑みを浮かべた。
「サンダーバードは大きい鷹なんだよ! バリバリって雷に包まれててね、獲物を見付けると空からビューって突撃してくるんだよ! しかも空を飛ぶ速さはおいらの3倍以上! 身体は赤くなかったけど」
「ま、新しいタイプの敵と戦うのも一つの経験だな」
 マスカレードを付けたカファールが、空中でサンダーバードの特徴を全身を目一杯使って説明した。軽業師だけあってその動きはコミカルだが、実に特徴を捉えた説明だった。
 やぎのマスカレードを付けて壁に持たれ掛かって様子を見ていたイグニスが、彼女に合わせて戦いの感想を述べた。
「お母さん、元気だった?」
「ええ、ミュゼットくんの身体が治るのを楽しみに待っていたよ。ところで僕の孫にならないかい?」
「どうしたらそういう展開になるんだ?」
「いやほら、世の中の可愛い子供は僕の孫というか、何でいうか、そんな感じだし」
「お兄ちゃん、ヘンなの〜」
 黒いマントに礼服を着てバンパイアに扮したアルヴィスが、ミュゼットの質問に答えあぐねるシエルの代わりにさらりと答えた。続く爆弾発言にイグニスが冷静に突っ込みを入れると、今度は言い訳っぽくなり、その様子が可笑しいのかミュゼットはころころと笑った。
「また遊びに来てもいいかな?」
「うん! 孫にはなれないけど、また来て欲しいな‥‥ゴホ! ゴホゴホ!!」
「今度は特製のお料理を持ってくるね」
「早く元気になって、今度は一緒にリンゴ採りに行こうね♪」
「あなたに神の御加護があらん事を‥‥」
 アルヴィスにミュゼットが元気に答えると、料理や冒険の話をしていたアリアが彼女の背中を擦りながら料理を持って遊びにくる約束をし、カファールの後にラスが祝福を与えて別れた。

「落ち着いたらこのお金で依頼を出してよ」
「‥‥こんなに戴けません。それに今は、ミュゼットの側に少しでも長く居てあげたいですから」
「その時が来たら“コカトリスキラー”のパラの戦士がやっつけてやるぞ! おいらも1人で複数はちょっと厳しいけど、弟子や仲間がいれば安心だからさ!」
「‥‥ありがとうございます。あなたにセーラ様の御加護がありますように‥‥」
 ボルジャーはシエルと別れ際に30Gもの大金を渡した。しかし、彼女は丁重に断ると、気持ちのお礼に首から下げている十字架のネックレスをボルジャーの首に掛けたのだった。

●ピンナップ

イフェリア・アイランズ(ea2890


PCシングルピンナップ
Illusted by 綺人