一期一会〜グルメなゴブリンを倒せ!〜

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月30日〜07月05日

リプレイ公開日:2004年07月09日

●オープニング

 イギリス王国の首都キャメロット。
 その南東部に広がる冒険者街の一角に、冒険者ギルドがある。

「あんたら、ゴブリン退治の仕事があるんだが、受ける気はないかい?」
 その日、あなたが冒険者ギルドを訪れると、ギルドの担当者から声を掛けてきた。ギルドの担当者がそう切り出してきたという事は、急ぎの仕事を頼みたいのだとあなたは思い、話を聞く事にした。
「俺の古い友人なんだが、グルメなゴブリンに悩まされていてな‥‥ちょっと助けてやって欲しいんだ」
 “グルメなゴブリン”という言葉に、あなたは思わず吹き出してしまった。
 ゴブリンは雑食で、コボルドやオークと並んでそれこそ何でも食べるからだ。
「確かに実害さえなければ笑える話なんだがな、そうも言ってられないんだ」
 ギルドの担当者が言うには、そのグルメなゴブリンに悩まされているのは、キャメロットから歩いて1日程の郊外の街道沿いでオープンカフェを営む老夫婦とその孫娘だった。
 そのオープンカフェは“峠の茶屋”的な存在で、旅行者に親しまれていた。
 しかし、最近になってゴブリンの一団が襲うようになったというのだ。
 しかも、臆病で狡賢いゴブリン達は決まって、冒険者といった強い者が店内にいない時を狙っているのだという。
 客の為に作った料理は全て平らげるのだが、特に店内を荒らし、抵抗しなければ老夫婦や孫娘に危害を加える事はないらしい。
「奴ら、料理の味を覚えたらしくてな。老夫婦を殺さなければまた美味い料理が食べられると思っているようなんだ。かといって店を閉めれば旅人に迷惑が掛かると、老夫婦はオープンカフェを続けているんだが‥‥心配になった孫娘が今朝方、俺に相談に来てな。それであんたらにゴブリン退治を依頼したいんだ」
 ゴブリンの数は10匹程だが、中にオークが混じっているらしい。
「報酬は多くないが、代わりに道中の旅費は俺が持とう」
 少々厄介なゴブリン退治だが、引き受けてはどうだろうか?
 人手が必要なら、このギルド内にいる冒険者達に声を掛ければいいのだから――。

●今回の参加者

 ea0263 神薙 理雄(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0459 ニューラ・ナハトファルター(25歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea0637 皇 蒼竜(32歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0728 サクラ・クランシィ(20歳・♂・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1131 シュナイアス・ハーミル(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3692 ジラルティーデ・ガブリエ(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文


●そこにある暖かみを守る為
 ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)がそのオープンカフェに着いたのは、日が高く上ったお昼過ぎだった。今は時間帯のせいか客はまばらだった。
 近くの木に愛馬の手綱を結び、空いている席に着くと、ログハウス風の小さな店舗からウェイトレス――オープンカフェを営む老夫婦の孫娘――が注文を取りに来た。
 お茶の時間には少々早いが、お勧めのティーセットを注文した。
 するとジラルティーデが愛馬を繋いだ木の枝が揺れた。ジラルティーデは頬杖を突いたが、それは味方を変えれば大きく頷く合図だった。
「今のところ、近くにゴブリン達の姿はないぞ」
 今度は店の屋根の上から声がした。ジラルティーデの位置からは見えないが、シュナイアス・ハーミル(ea1131)の声だった。
「まだかくれんぼしなくていいですね♪ では、お料理を作るお手伝いをして来るです♪」
 木の中からニューラ・ナハトファルター(ea0459)が姿を現すと、悪戯っ娘が何かを企んでいるような笑顔を浮かべて店内へ飛んでいった。
 依頼を受けたシュナイアス達は既にオープンカフェの至る所に潜んでおり、“グルメなゴブリン”を待ち構えていた。
「相手はゴブリンか。少しは楽しませてくれればいいがな」
 シュナイアスは良い目を利用して、屋根の上に隠れて周囲の様子を探っていた。外から見えないのはジラルティーデで確認済みだ。
 方やニューラはシフールの小さな身体を活かして、かくれんぼ気分で木に隠れていた。羽の裏側は青く目立つので、閉じて茶色の方だけにし、木の保護色としている念の入れ様だ。
 店にあるテラスのテーブル席には、ジャパン人とイギリス人、華仙教大国人という、今では珍しくなくなった組み合わせの旅人達が座っていた。
 実は神薙理雄(ea0263)とイグニス・ヴァリアント(ea4202)だった。
「う‥‥この品は何と書いてあるのだ?」
 まだイギリス語を覚えたての理雄はメニューが読めなかった。前に置かれた昼食も、イグニスに注文してもらっていた。老夫婦はタダでいいといったが、ゴブリン達の被害の事を考えると、理雄は自腹を切った。ちなみにイグニスはご相伴に与っていた。
 今は品書きを、イグニスに教えられて悪戦苦闘しながら読破し、イギリス語に慣れようとしていた。
「駆け出し時代の苦い思い出、なんて笑えないからな‥‥」
 もちろん、常に周囲の警戒は怠っていなかった。
『まったくだ。それに相手がグルメなゴブリンなら、尚の事、お笑い草になるぞ』
 どこからともなく声がした。近くにいるのは理雄達だけだが‥‥声の主は理雄達が座っているテーブルだった。
 サクラ・クランシィ(ea0728)がミミクリーでテーブルに化けているのだ。
『しかしまぁ、犬猫も味を覚える事だし、今までこういうゴブリンがいなかった事の方が不思議なのかもな』

「今回は連中を引っ張り出さないといけないからな。ここは一つ、味も臭いも飛び切りの料理を用意してもらえるか?」
「マスタードの入った爆弾ハンバーグに、ハムの代わりに靴の中敷きを入れたサンドイッチを用意します♪」
「それは効きそうだな! あんた達はいつも通りにしていて、事が起きたらすぐ隠れてくれればいい」
 厨房で皿洗いをしていた陸奥勇人(ea3329)は、調理を始めたニューラにそう頼んだ。勇人は外から目の届きにくい裏方で待機すると同時に、近くに居る事で老夫婦を安心させていた。
 ニューラが準備ができるのも、ロングソードにレザーアーマーといった、あからさまに冒険者の格好をしたジラルティーデが客として居座る事で、狡猾いゴブリン達の逆手を取り、襲撃のタイミングを調整しているからだ。
(「人柄なのだろうか‥‥顔は全く似ていないのに、父と母の面影を感じる‥‥」)
 ジラルティーデは料理を持ってきた老夫婦と他愛無い世間話をしながら、二人に亡くなった両親の姿を重ねていた。元名家の子息で、騎士団の若き騎士として将来を嘱望されていたが、宮廷陰謀劇に巻き込まれ、追っ手をかわしながらイギリスへと流れ着いていたのだ。
 老夫婦は温厚さが身体の中から滲み出る程、初対面でも好感の持てる人柄だった。故に遠慮を知らないゴブリン達は、そのお人好しさに容赦なく付け込んでいたのだ。

●グルメなゴブリンを逆手に取ろう!
 準備が整うとジラルティーデは愛馬に騎上し、オープンカフェを後にした。
「あんな所からこそこそと監視していたんだな」
 シュナイアスはオープンカフェの背後の林の中に、ゴブリンの姿を見付けた。ゴブリンは定期的にオープンカフェの様子を監視しているようだった。
 ジラルティーデがいなくなり、残った客は自分達よりも弱いと判断したのだろう。監視していたゴブリンが手招きをすると、奥からわらわらと出てきた。
 雄叫びを上げながら、ナイフやら棍棒やらを振り回してオープンカフェに来襲すると、先ずイグニス達を押し退けて、テーブルに置いてあったハンバーグとサンドイッチを平らげた。
 次の瞬間、食べたゴブリンが絶叫を上げ、バタバタと倒れた。ニューラ特製の料理は破壊力抜群だった。
「小鬼なんぞには理解できないだろうが、名乗っておいてやろう。私の名は神薙理雄、ジャパンから来たもののふだ。私に触れると怪我をするぞ!」
「俺のコーヒーにまで手を出すとは、食い意地が張り過ぎだ!」
 理雄は懐に隠しておいた小柄を左手で逆手に、短刀を右手に構えると、ライトニングアーマーを発動させ、電撃を帯びた斬撃をフェイントアタックEXを交えて放った。
 イグニスは服に潜ませていたナイフを両手に、逆手に構えると、ダブルアタックを繰り出し、早々に一匹を仕留めた。
 狭い店内にゴブリン達全員を入れるのは無理だと踏んだサクラは、シュナイアスが入ると人間の姿に戻り、腕を伸ばして扉を閉めてしまった。
 その後は理雄達の援護の回り、手を伸ばしてスタッフでゴブリンを殴り付けた。
「後は俺達に任せな。二度と悪さができないようにしてやるさ」
 勇人は老夫婦と孫娘を厨房の奥に隠れさせると、扉が閉まった音を合図に店内へ飛び出した。
 店内には三匹のゴブリンとオークがいた。
 シュナイアスと挟撃する形になった。
「さぁてお前ら、これまでやった無銭飲食のツケ、ここで全払いしてもらおうか! 覚悟しやがれ!!」
「好き勝手をやって逃げられると思ったか? 考えが甘い!」
 勇人は早々にスタンアタックを決めてゴブリンを倒すと、愉しそうにオークと対峙した。
 オークの棍棒は空振りするだけでも身の毛がよだつ風切り音を上げたが、勇人にはそれを紙一重でかわす緊張感がたまらなかった。
 オーラエリベイションを使ったシュナイアスには、ゴブリン達の攻撃が手に取るように見えた。それらをかいくぐり、ロングソードのスマッシュを叩き込んでいった。

「ニューラ、二匹そちらへ逃げるぞ」
「逃げようとするゴブリンにはお仕置きです♪」
「狡猾い輩程、往生際が悪いな」
 リードシンキングでゴブリン達の思考を読んでいたサクラが注意を促すと、一匹は木の上で見張りをしていたニューラがサンレーザーで、もう一匹は戻ってきて退路を断っていたジラルティーデがチャージングで倒した。

●ささやかな祝賀会
 店内にオークを含めて四匹、テラスに四匹、そして庭に二匹のゴブリンの死体が転がり、テーブルはひっくり返り、料理は床にぶち撒けられ、戦いの後は酷い有様だった。
 また、勇人やイグニス、シュナイアスも無傷とはいかなかったが、ニューラと理雄、サクラが手当てをし、その間、ジラルティーデが老夫婦と孫娘と一緒に掃除をした。
 夜の帳が降りる頃には、店内は綺麗になっていた。
 今日はここに泊めてもらう事になり、老夫婦と孫娘が感謝の気持ちを込めて夕食を用意した。
「働いた後の飯は格別に美味いぜ!」
 勇人は三杯目のスープのお代わりをした。夕食は依頼成功のちょっとした祝賀会になった。
「ジャパンから来た目的? まぁ武者修行ってところだな。余所の国にもいろんな兵がいる。そういった連中に会いに来たのさ」
「俺も同じだ。剣を極める為に冒険者をやっている」
「お前達は目標があるんだな‥‥」
 勇人とシュナイアスの話を聞きながら、イグニスは一人ごちた。
 イグニスが冒険をしているのは、ほぼ生活の為だった。無意識の内に目標を持つ者の言葉に耳を傾け、自分が命を賭けるに値するものを探していた。
「俺は見聞の旅をしている間にここへ辿り着いた。特徴っていったら、やはりこの左目かな」
「サクラさんもオッドアイですね♪」
「さくら、と呼んでもらえるのが一番好きだな」
 サクラが孫娘に身の上を話していると、ニューラが横槍を入れた。
 方や青と櫻色、方や満月色と青、と色は違えど、二人ともオッドアイだった。
「縁起物なんだって話です。それでちっちゃい時に知らない人に連れていかれてしまって、気が付いたら鳥篭に入れられて、お守り代わりに戦場を連れ回されて、大変だったのです‥‥」
「苦労したのだな‥‥」
 遠い目をしながら話すニューラに、理雄は思わずしんみりしてしまった。
「ナハトファルターって苗字は、その時のますたさんが付けてくれたんですよ♪ ゲルマン語らしーです♪ どんな意味なのかは分からないですが‥‥今では占って踊れるジプシーさんなのです♪」
 ニューラはあっけらかんと言うと、テーブルの上に乗り、陽気で情熱的なジプシーの踊りを披露して理雄のしみんりした気分を吹き飛ばした。
 ジラルティーデは終始老夫婦の話の聞き手に回っていた。

「ミリ、これで心配する事はなくなりましたよ」
 翌朝、サクラは別れ際に孫娘の名前――ミリネール――を聞き、笑顔で去っていった。
 いつも通りの生活を取り戻した老夫婦とミリネールは、イグニス達の姿が見えなくなるまで手を振り続けたという。