百合園の中心で舞って

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月11日〜11月16日

リプレイ公開日:2004年11月22日

●オープニング

 ハロウィンが近付くと、敬虔なジーザス教徒である貴族達の一部はこぞってパーティーを開き、お互いに招待し合う。
 振る舞われる豪勢な食事を大いに食べて大いに飲み、ダンスやゲームを楽しみ、ハロウィンを祝うのだ。
 最近ではマスカレードを着けて顔を隠し、ダンスのパートナーを見付ける余興も、一部の貴族の間で流行っていた。
 顔を隠す事で恥ずかしさも隠し、ダンスを踊る‥‥貴族の子息や令嬢達はマスカレードで顔を隠し、今宵もダンスのパートナーを見付けるのだ。
 ‥‥もっとも、貴族達はハロウィンに限らず何かイベントがあるたびに、イベントがなくても何かにつけてパーティーを開くのだが。

 楽士達の奏でる音楽が遠くに聞こえる。
 明かりの灯っていない部屋は静寂に包まれ、柔らかい銀色の月光が差し込んでいた。
「‥‥あの、私、こういうの初めて、で‥‥」
 壁に背中を預け、俯きながら頬を染める少女。
 派手さはないが、仕立てのよい重厚なドレスに身を包んだ彼女は、誰にダンスへ誘われる訳でもなく壁の花になっていた。
 男性が苦手という訳ではないが、自分から声を掛ける事もなかった。
「恥ずかしがる事はございませんわ。ここはあなたとわたくしの2人きりですもの‥‥ん‥‥」
「んん‥‥」
 可愛らしい彼女の唇に、艶めかしくも美しい珊瑚色の唇が重ね合わされた。
 少女は結婚するまでキスもしないと考えていた。貴族令嬢には珍しくない観念だが、今、先程初めて会った、しかも女性と唇を重ねていた。
 ジーザス教ではタブーとされる女同士のキスにも関わらず、自然と背徳感はなかった。
 女性のキスが甘く、優しいからかもしれない。
 片手で少女の腰を抱き、もう一方の手で少女の髪を梳くように優しく撫でていた。
 少女はうっとりとした表情で、自分を誘った女性を見た。
 艶やかなワンレングスの黒髪の女性で、顔は自分同様マスカレードに覆われていて分からないが美女と呼べる整った造詣美をしていた。
「‥‥はぁ、あぁ‥‥」
「ふふふ、気持ち良かったでしょう? これからもっと気持ち良くしてあげますわ」
「はい、お姉様‥‥うぐ」
 唇が離れると、少女は熱い吐息を漏らした。その恍惚とした表情に、女性は満足げな妖艶な笑みを浮かべると、再び少女の唇に触れた。
 今度は深く熱く唇を重ねる。その未知なる快楽に、少女は可愛らしい呻き声を上げ、頭の中が真っ白になっていった。

 パーティー会場から姿を消した少女が発見されたのは、翌日になってからだった。
 部屋で倒れていて、ひどく衰弱していたという。

 数日後――キャメロットの郊外に建つ貴族の別邸。
 すっかり秋めいた庭園で、女騎士エレナとその姉イングリッドは午後のお茶を楽しんでいた。
 そろそろ風が冷たくなってきたが、日向はぽかぽか陽気で丁度いいくらいだ。
「最近、貴族の開くパーティーで、令嬢が意識不明になるそうよ。原因は分からないんだけど‥‥お姉ちゃんは頻繁にお呼ばれしてるけど、大丈夫?」
「ええ、わたくしは大丈夫ですが、恐いですわね」
 先日も姉が参加したパーティーで、衰弱した貴族令嬢が発見されたという話を聞き、エレナは心配そうにイングリッドを見つめた。姉は今日もパーティーに誘われており、気が気でないのだ。
 姉馬鹿かもしれないが、妹のエレナから見てもイングリッドは掛け値無しに美しいと思っていた。楚楚として流麗、優雅で理知的な深窓の令嬢が、社交界の華として引っ張りだこなのも当然なのだ。
 もっとも、当のエレナはドレスを着て踊るより、鎧を着て愛用のウォーアックスの鍛錬をしていた方が性に合っているので、誘われてもその大半を断っているのだが。
「神聖魔法でも意識が戻らないみたいだし、こう立て続けに起こるとお姉ちゃんを安心して行かせられないよ」
 エレナは冒険者に依頼を出そうと思っている、と姉に告げた。
 エレナをエスコートしてもいいし、料理や楽器演奏に長けていれば、給仕や楽士として潜り込ませる事もできるだろう。
 但し、ダンスパーティーはマスカレード着用が義務付けられているので、エレナの方で礼服は用意するが、マスカレードは時前の物を用意する必要があるだろう。
「とか何とか言って、本当はあなた、踊れないから教えて欲しいのでしょう? こういう時の為に、少しは練習しておくべきですわよ」
「はぁい」
 姉に本音を見透かされて嗜められ、エレナは微苦笑した。
 そのイングリッドはテーブルの下にある手に、10cmくらいの白い玉を持ち、弄んでいた。
 彼女もまた、妹の預かり知らないところで堕ちていたのだ――。

●今回の参加者

 ea0110 フローラ・エリクセン(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3777 シーン・オーサカ(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4484 オルトルード・ルンメニゲ(31歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea5147 クラム・イルト(24歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

クレア・クリストファ(ea0941)/ リオーレ・アズィーズ(ea0980

●リプレイ本文


●神聖騎士は見た! 〜前編〜
 2頭の馬に先導されて、贅沢な造りの馬車が貴族の屋敷の玄関の前に付けられた。
 2頭の馬の1頭から、オルトルード・ルンメニゲ(ea4484)が颯爽と降り立った。ルンメニゲ家では先祖に肖り、彼女も孔雀を象ったマスカレードを着けていた。
 オルトルードと一緒に愛馬から降りたのは、クラム・イルト(ea5147)。元々、男装を好むクラムは、男物の礼服を違和感なく着こなしていた。
 馬車の御者を務めるのはルーウィン・ルクレール(ea1364)。貴族の馬車は豪華な物が多く、それだけでならず者やモンスターの標的になるだろう。戦闘になった時、参加できない御者は軽々しく見られるかもしれないが、怯える馬をなだめて馬車を操り、人や荷を守る必要のある重要な役といえた。
「お手をどうぞ、イングリッド殿」
 ルーウィンは馬車の扉を開けると、このパーティーの主賓であるイングリッド・タルウィスティグに恭しく手を差し出した。彼女は微笑みながら当然のようにルーウィンの手を取って馬車から降りた。
「エレナ嬢もどうぞ」
 続けてオルトルードが手を差し出すと、姉の陪賓であるエレナ・タルウィスティグがその手を取った。イングリッドと違い、社交界よりも冒険を好む彼女は、ぎこちない動きで握り返した。
「よろしくお願いします」
 差し出されたクラムの手を、エレナ達と一緒に乗っていたセリア・アストライア(ea0364)がたおやかに微笑みながら取った。その身を包む重厚なドレスは却ってたわわな胸を強調し、清楚な佇まいの中から瑞々しい色香がこぼれ出ていた。
「騎士殿、姫君達の護衛よろしゅう☆ ウチらは気楽に行こうか?」
「‥‥自由に動ける、のは‥‥私達の方、ですしね‥‥」
 シーン・オーサカ(ea3777)とフローラ・エリクセン(ea0110)は、お互いの手を取り合って馬車から降りた。
 シーンは生地が薄く、動きやすいドレスをエレナから借りていた。肩や胸元が広く空いたそれは、渓谷を思わせる深い双丘のほとんどを露にしていた。
 フローラも背中や胸元が大胆に空いたお揃いのドレスを纏っていた。しかもは二人の髪を彩る水晶のティアラもお揃いだった。シーンがフローラにプレゼントしたものだ。

 会場の中央では楽士達の音楽に合わせてマスカレードを着けた男女が踊り、壁際にはテーブルが置かれ、その上に色とりどりの料理が並べられていた。
 そこへルーウィンとオルトルード、セリアがやってくると、囲まれて声を掛けられた。イングリッドはパーティーの友人が多かったし、ルーウィンやオルトルード、セリアを年頃の貴族令嬢達や子息達が放っておくはずはなかった。
「安心しろ、万一の事に備え、俺が警備している」
 クラムがそれとなくイングリッドの近くに控えた。
 イングリッドは友人の令嬢達と歓談し、ルーウィンは彼女の側で令嬢達に料理を取り分け、話していた。
「一曲、踊ってもらえますか?」
 一方、普段あまり社交場に出ないセリアは、イングリッドから恥をかかない程度の貴族達の話題を聞いてはいたが、別の質問攻めにあっていた。そこへルーウィンが助け船を出し、踊りに誘った。
「意識不明の令嬢の方の話題を振ってみたのです。そうしたら皆さん、勘違いされて、心配して下さったのです‥‥私、本当によく似ていますから」
 セリアの視線の先にはイングリッドの姿があった。セリアは自分に仕えるリオーレ・アズィーズから、イングリッドが自分と似ていると聞いていた。実際に会ってみると、ワンレングスの髪形以外ほぼそっくりで、5年後の自分を髣髴させた。

「意識不明になった令嬢達は、気分が悪くなったりして休みに行ってたらしいで」
 シーンは令嬢達から聞いた噂話を、フローラとエレナに報告した。パートナーを見付けたペアは語らいの為に退場する事が多く、フローラの『ブレスセンサー』で特定するのは難しかった。
「踊りはあんまし得意やないけど‥‥それでも一緒に楽しんでもらえます?」
「‥‥はい、喜んで‥‥」
 そこで『ライトニングトラップ』を仕掛けに行こうとしたフローラの手を、シーンが握って止めた。フローラはシーンの誘いを受けると、中央に出て一緒にステップを踏んだ。踊り慣れていない為、シーンはフローラの足を踏み付けたり、フローラはバランスを崩してシーンの豊満な胸に顔を埋めてしまったが、それでも2人は楽しく踊った。
「イングリッド嬢が心配か?」
「お姉ちゃんだからね」
「その為に私達がいるのだ、気兼ねなくパーティーを楽しんで欲しい。折角、素敵なドレスがよく似合っているというのにもったいないからな」
 オルトルードが姉を見つめるエレナに料理を渡した。彼女が傍らにいる事もあって、エレナを誘う子息はいなかった。その分、オルトルードはエレナと多く語らい、親しくなっていた。

 シーンは踊り終わった後、セリアから意識不明になった令嬢達が誰と話をしていたか聞いた。それらの情報をクラムに告げた直後。
「クラム殿、イングリッド殿は気分がすぐれないそうです」
「部屋で休ませてこよう。こっちだ」
 クラムはルーウィンが支えていたイングリッドを預かると、割り当てられた部屋へ連れていった。

●神聖騎士は見た! 〜後編〜
「な、何を‥‥気分が悪かったのではないのか?」
「ええ、そうですわ‥‥ですからこうして‥‥ん」
「んん!? (‥‥力が抜ける‥‥だが、お前が‥‥)」
 部屋に入った途端、イングリッドはクラムにもたれ掛かり、そのまま唇を奪われていた。
 2人の姿を見ているのは月だけだった。
 イングリッドのしなやかな指が、疲労感に蝕まれたクラムの上着の中へ入ってゆく。小振りな胸が愛撫され、手はそのまま下へ降りていった。
 へそを過ぎた次の瞬間、扉が開け放たれ、クレア・クリストファの唱えた『ブラック・ホーリー』がイングリッドの身体に当たった。彼女の手から10cmくらいの白い玉が転がり落ち、その身体から黒い靄――サッキュバス――が抜け出た。
「あなたがイングリッドさんに憑依し、令嬢達の精気を奪っていたのですね」
「その魔法で令嬢達の気分を悪くさせ、休むその時を利用していたとは‥‥」
 リオーレの創り出した『クリスタルソード』を構えたセリアと、剣帯に装飾として差していたシルバーダガーを抜いたオルトルードが、サッキュバスに斬り掛かった。
「おっと、もう憑依させるかっちゅーねん!」
「彼女から離れてもらいましょうか」
 シーンが『ウォーターボム』を高速詠唱で立て続けに2発紡ぎ、『オーラパワー』を付与したロングソードで斬り掛かるルーウィンを援護した。
「搾取するのではなく、与え合うのが‥‥本当の、愛‥‥です‥‥!」
 3つの斬撃と『ウォーターボム』を喰らったサッキュバスはベッドへ後退った。そこにはフローラの仕掛けた『ライトニングトラップ』があり、彼女は電撃の洗礼を受けて片膝を突いた。
 その間にフローラがクラムに、オルトルードがイングリッドに駆け寄った。気を失っているイングリッドのドレスの胸元から白い玉が何個か転がり出た。
「性懲りもなくまたお姉ちゃんに憑依して! どういうつもりよ!!」
「その娘はわたくし達にとって居心地の良い存在なのですわ」
 エレナが『クリスタルソード』を振り翳して吼えた。オルトルードは彼女を安全な場所に避難させようとしたが、姉を助けたいと付いてきたのだ。
 サッキュバスの名前はシュタリアといい、イングリッドに最初に憑依したスティアと、2度目に憑依したティリーナは妹分だという。
「女性好きのサッキュバス3姉妹ですか‥‥変わっていますが、あなたを生かしておいても、イングリッド殿のような女性が増えるだけです」
「令嬢達の純真な心を弄び、あまつさえ命を奪おうとするあなたは許せません!」
 ルーウィンとセリアが止めを刺しに躍り掛かる。だが、今度は『オーラパワー』も『クリスタルソード』もシュタリアに傷一つ負わせなかった。
「‥‥ブラック・ホーリーもウォーターボムも効かないだと!?」
「エボリューションの為に攻撃を受けるのは、骨が折れましたわ」
 クラムとシーンが魔法を使うが、やはりシュタリアに効果を発揮しなかった。
 『エボリューション』とは、効果時間中に被った攻撃に対して、2回目以降完全な抵抗力を得るデビル魔法だ。
「処刑法剣――斬魔逆十字閃!」
 『ミミクリー』で腕を伸ばしたクレアが、シルバーダガーで逆十字に斬り裂こうとした。しかし、シュタリアは簡単にかわすと、『ムーンシャドゥ』で彼女の背後へ移動し、憑依してしまう。
 『ブラック・ホーリー』が効かない以上、クレアを取り戻す術はなかった。
「この娘も憑依しやすいですわねv さて、手の内が見破られた以上、今回はわたくしの負けですわ。しかし、スティアの味わった苦しみは受けてもらいますわよ‥‥リオーレ、“愛しい人を、石化なさい”」
「‥‥い、嫌です‥‥嗚呼!?」
「リ、リオー‥‥レ‥‥」
 シュタリアに『フォースコマンド』で命令されたリオーレは、嫌がるにも関わらずセリアに『ストーン』を掛けてしまう。セリアは深い悲しみを湛えたまま石像と化してしまった。
 『デスハートン』で吸い取った精気は白い玉を飲み込めば元に戻る――と言い残し、自分から気が逸れた隙にシュタリアは逃げ出した。
 クラムが白い玉を飲み込むと疲労が回復した。だが、憑依されていたイングリッドは意識が戻らす、しばらく養生が必要で、ルーウィンが「女性同士より男性の方がいいですよ」と口説くのはまたの機会になりそうだ。

 クラムとルーウィンはイングリッドをタルウィスティグ家の屋敷へ送った。
 流石にリオーレも本物のお嬢様の石像をお持ち帰りする訳にはいかず、オルトルードとエレナがセリア像を教会へ運んだ。
 シーンとフローラはパーティー会場に残り、イングリッドの誤解を解いて回った。
「‥‥もしかしたら、私も‥‥石にされていた、かも知れません‥‥」
「その時は‥‥フローはウチが温めてやるさかい‥‥」
「シーン‥‥はい‥‥温かい‥‥うぅ、ん‥‥熱い!」
 パーティーがお開きとなった後、割り当てられた部屋のベッドで、フローラとシーンはお互いの肌の温もりを確かめ合うように抱き合い、どちらからともなく唇を重ねた。
 ベッドが衣擦れの音を大きく響かせる程、お互いの肢体を揺らし、夜は更けていった‥‥。

 尚、クレアは翌日、キャメロットの冒険者ギルドの前で倒れているのを見付けられたという。