【ベスばぁ】チェイサーばあちゃん

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:4〜8lv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月21日〜11月26日

リプレイ公開日:2004年11月30日

●オープニング

「さて、孫娘のルフィアとヴァル坊やのところのデルタの顔合わせパーティをするとして、あたしはどう舞台を温めようかねぇ」
 キャメロットの街中を、腕を組み、思案しながら歩く一人の老婦人。
 ラメラアーマーを軽々と着こなし、ピンと伸ばした背中にスピアを斜めに括り付けている姿は威風堂々としていて、まさに騎士といった風貌だ。道行く人々は老婦人が騎士という以外何者か分からずとも、その風格につい道を譲ってしまう。
 老婦人の名前はエリザベス・サンプドリア。
 イギリス名門貴族の一家、サンプドリア家元当主の妻で、領民には『ベスばぁ』の愛称で親しまれている。女性故、正式な騎士の称号こそ叙勲されていないが、御歳89歳にして未だに現役の騎士である。
 エリザベスはキャメロット在住のエレネシア家現当主、ヴァルナルド・エレネシアの元を訪れた帰りだった。
 ヴァルナルド氏は御年65歳。幼少の頃にエリザベスが狩りを教え、今でも狩り仲間の1人である。
 さて、そのヴァルナルド氏がエリザベスを家に招いた理由は、孫のデルタについて相談だった。筋金入りの根性なしの長男デルタにエレネシア家を継がせる為、器量のよさそうな良家の娘を妻に娶り、根性を叩き直したいと持ち掛けたのだ。
 エリザベスはエリザベスで、いい歳になっても嫁に行かない孫娘のルフィアの事を心配していた。気立てのいいのだが、何分、若い頃のエリザベスに似ていて気が強いのが難点だった。
 ヴァルナルド氏とエリザベスの思惑は一致し、孫同士の顔合わせと相成ったのだが‥‥。

「馬術、ですか?」
「顔合わせのパーティの合間に、何か競技でも見せた方がいいかもしれないと思ってね。騎士の競技と言ったらアルスターじゃ馬術か馬上槍試合だよ。アルスター流の真価は騎乗してこそ発揮されるからねぇ」
 冒険者ギルドの受付嬢が、エリザベスに依頼の内容の確認の意味を込めて聞き返した。彼女は羊皮紙に依頼の内容を書き込んでいた為、顔を上げずに答えた。
 馬術は騎士の最低限の嗜みである。一介の冒険者も馬を持つ昨今、その手綱を自在に操れれば冒険の幅が広がる事は間違いないだろう。
「3000mの行程に障害物を設置するから、それを人馬一体になって乗り越えてもらうのさ。一番早くゴールした奴が勝ちっていう、至ってシンプルだけど、だからこそ面白いんだよ」
 依頼書を書き終え、顔を上げたエリザベスのそこには不敵な笑みが浮かんでいた。
「もちろん、ただ馬を早く走らせるだけのレースじゃないよ。武器を持って相手を攻撃しても構わないんだからね。それで、腕の立つ冒険者に競馬に出てもらおうと思ってねぇ」
「‥‥なるほど。それでアルスター流、ですか」
「別に自分の流派にこだわるつもりはないよ。ジャパンの流派の馬術って奴も見てみたいしねぇ」
 いい歳こいて恋する少女のように瞳をきらきらと輝かせるエリザベスを、受付嬢はちょっぴりジト目で見ていた。
 騎乗して武器を振るう分には『格闘術』があればいいが、射撃を行うとなると『騎乗シューティング』といったコンバットオプションは必須だろう。その点、アルスター流はそれらに長けた騎乗流派だ。
「自前の物が有ればいいけど、無ければ馬はこっちで用意するよ。それと賞品もね。丁度、いい駿馬と馬が手に入ったんでね」
 真顔に戻るとエリザベスは条件面を詰め、依頼書を受付嬢に手渡したのだった。

 コースは全長3000mのなだらかな直線で時々カーブがある。コース幅は21m。
 だいたい700mおきに、馬の胴の高さのバー、ハードル、まきびし、水濠が設置されているので、それを越えていかなければならない。
 障害物の間は何もないので、ひたすら馬を飛ばすもよし、相手を攻撃するもよし。
 落馬したり、馬が転倒したり、コースから外れれば、当然失格である。

●今回の参加者

 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea0901 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0904 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1434 ラス・カラード(35歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3468 エリス・ローエル(24歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●燃えるベスばぁ
 なだらかな草原が広がるここは、イギリス名門貴族の一家、サンプドリア家の領内に造られた馬術のコースだ。
「初めましてエリザベスさん。エリスと申します」
「エリザベス様の御勇名は聞き及んでおります。お会いできて光栄です」
 エリス・ローエル(ea3468)とラス・カラード(ea1434)は、“ベスばぁ”ことエリザベス・サンプドリアの姿を認めると、駆ってやってきた愛馬を降りて近付き、恭しく騎士の礼を取った。
「この度はエレネシア、サンプドリア両家主催の馬術大会に参加でき、光栄‥‥」
「あたしもあんたらの噂は聞いてるよ。堅苦しい挨拶は不要さね。それにしても錚々たる顔触れが揃ったようで嬉しいねぇ」
「そうですね。なかなか手強いメンバーが揃ったと思います」
 ラスの社交辞令を遮り、ベスばぁはエリス達に楽にするように告げた。エリスもラスもベスばぁとは初対面だが、彼女達の実力はベスばぁの耳にも届いており、何となくこそばゆい感じだった。
 ラス達と一緒に挨拶をしたルーウィン・ルクレール(ea1364)が、集まった冒険者達を見渡しながらベスばぁに応えた。
「まぁ、貴族達の前でお前の勇姿が見せられる折角の場だしな。景気付けにこれでも喰って元気出してくれよ、雷(あずま)」
「あれが優勝賞品の駿馬と準優勝の馬だね‥‥確かに素敵な毛並み〜。目指すは馬! ‥‥ではなく、優勝だよ。もちろん、ベリーさんも素敵だよ‥‥ベリーさんと一緒なら‥‥無茶か」
「流石に驢馬で馬と張り合うのは分が悪過ぎますからね。ユーディス君もエリザベス君から馬を借りるのでしょう?」
 陸奥勇人(ea3329)は愛馬の雷に人参を与えながら檄を飛ばしていた。
 その横ではユーディス・レクベル(ea0425)が賞品への浮気にむくれる驢馬ベリーさんを宥め、御蔵忠司(ea0904)(以下、名前で表記)に誘われてベスばぁの下へ向かった。
「‥‥はて、何で僕はここにいるんだろうね?」
「俺に聞かれても‥‥アルヴィス君はウィザードのようですが」
「素敵なレディが出した依頼と聞いたから、内容も見ずに快諾したけど‥‥浮いてるねぇ」
 アルヴィス・スヴィバル(ea2804)は参加した冒険者の中で唯一ウィザードだ。本人は浮いているといっているが、幾多の冒険をこなし、“熊殺し”のあだ名を持つ御蔵忠司(ea0901)(以下、苗字で表記)は、その瓢々とした掴み所のない態度に面白い勝負ができると予感していた。
 ベスばぁは「パーティが盛り上がればいいさ」とアルヴィスの参加をあっさり認めた。魔法の使用も「疾駆してる馬上で唱えられればねぇ」と、曰くありげな笑みを浮かべた。
「ウーゼルとレオン、陸奥流と新当流‥‥ヨーロッパ流派とジャパン流派に別れましたね。わたくしのウーゼルも、騎馬戦ではアルスターに引けを取りませんよ?」
「レオンはオールラウンドな流派だから、馬上でどこまで戦えるか見物だよ。陸奥流はオールレンジの流派、新当流はジャパンのポピュラーな流派って聞くけど、勇人や御蔵とは直にやり合いたいくらいだよ」
 エリスとベスばぁは勇人達がコースの下見から帰ってくるまでの間、流派談議に花を咲かせていた。ジャパンから渡来した新当流の志士の名声はベスばぁも耳にしており、恋する乙女のように瞳を輝かせながら話をしていた。
 エリスは御歳89歳にして現役の騎士でいられる秘訣を垣間見た気がした。
「それだとレースの内容が変わりそうですよ」
「私のレオン流派まだまだですけど、未知の流派に触れるのって気分が高揚しますよね‥‥後で一杯どうですか?」
「いいねぇ。若いモンの武勇談を肴に一杯やるのも」
 方向性がずれてきたと思ったルーウィンがさり気なく釘を刺すが、ユーディスとベスばぁは既に意気投合していた。

●スタートから大混戦
 パーティーに招待されたエレネシア家とサンプドリア家の縁の者達が、全長3000mのコースの思い思いの場所に付いた。主役のデルタとルフィアはゴール間近に陣取り、ラストスパートを見るつもりだった。
 ベスばぁはスタートの合図をし、ユーディス達と並走しながら一部始終を観戦するそうだ。尚、ゴールにはベスばぁの孫バッシュ・サンプドリアがおり、判定する。
「どこまでできるか分かりませんが、できる限り頑張りましょう」
「セーラ神の名の下において、神聖騎士エリスが参ります!」
「油断しないで行きましょう」
「皆さん、全力でお相手します」
「よし、頑張ろうじゃないか、アンヌ・ド・ヴァルティエル・(以下、延々と続くので略)‥‥ハインリヒ三世くん」
「さくさく行くよ!」
「それじゃぁ、一丁行ってみるか!」
「雷槍風臥‥‥参ります」
 コースは左側から忠司、エリス、ルーウィン、ラス、アルヴィス、ユーディス、勇人、御蔵の順でスタート位置に付いた。ちなみにアルヴィスは、ユーディスや忠司と同じくベスばぁから馬を借りたが、勝手に命名していた。
 ラスは愛馬に『グッドラック』の祝福を与え、ルーウィンは『オーラパワー』を纏っていた。アルヴィスの質問にベスばぁが答えたが、各クラスの特性を活かす為、神聖魔法やオーラ魔法も使用可能だ。
 ベスばぁがショートボウに矢を番えても、ルーウィンはオーラを練っていた。
 矢が放たれ、ユーディス達の目の前を放物線を描いて地に刺さる。
 ――各馬、一斉にスタート!
「始めから仕掛けさせてもらいますよ!」
「ちぃ、出遅れたか!? やるなルーウィン! 飛ばせ雷ぁ!!」
 ルーウィンは『オーラショット』を視界に入った相手――勇人――に放った。最初に視界に入った相手なら誰でもよかった。勇人は抵抗したものの出遅れてしまう。
「おやおや、せっかちだね」
「皆さん、元気ですね」
 最後尾を走るアルヴィスがニタリと笑った。馬術はそれ程得意ではなく、馬に走らされているきらいだか、それが却って巻き込まれずに済んだようだ。
 エリスもまた、先頭から2馬身離れた位置をキープしていた。
 トップはラス、その後に御蔵、勇人、忠司、エリス、ルーウィン、ユーディス、アルヴィスと続く。

 スタートから700m付近、直線から緩やかな左コーナーに差し掛かると、そこに馬の胴の高さのバーが置かれていた。
「馬を曲がらせながら跳ばせるのは難しいのですが‥‥この調子で!」
 忠司は手綱で馬に指示すると、スピードを落とさずバーを飛び越えた。
「突破します!」
「まだまだです」
「この調子で」
「‥‥まだ負けませんよ」
 一方、ラスはバーを上手く跳び越えたものの、スピードが付き過ぎていて危うくコースアウトしそうになり、その間、御蔵と勇人、忠司に抜かれてしまう。彼はやむを得ず減速して曲がった。
 1000mの地点でトップは御蔵、続いて勇人、忠司、ラス、エリス、ルーウィン、ユーディス、アルヴィスの順で通過した。

 1400m地点にはハードルが置かれていた。御蔵達は下見をしてきたが、どの場所を通っても必ず数個は跳び越えるように配置されていた。
「どっせい!」
「アンヌ・ド・ヴァルティエル・(以下、延々と続くので略)‥‥ハインリヒ三世くんに任せるよ」
 掛け声と共に馬にハードルを跳び越えさせてゆくユーディス。一方、アルヴィスは馬に任せて跳んでいた。
「抜かせてもらいます!」
「流石に乗り慣れた奴ぁ違うな」
「く、このままでは‥‥」
 先程のお返しとばかりにラスが、勇人と忠司を一気に抜きに掛かる。
 2000mを通過した時点で、トップは依然御蔵、その後に追い上げたラス、勇人、忠司、エリス、ルーウィン、ユーディス、アルヴィスと続く。

●ゴール前の強者達
 2100m地点から50m間に渡って、防衛戦用の鉄びしがコース中にばら撒かれていた。迂闊に踏めば馬といえども蹄を怪我し、動けなくなってしまう代物だ。
 しかもここは緩やかな右コーナーになっていた。
「エリザベスさん、案外、意地悪なんだね」
 障害物を越えながら馬を曲がらせるのがどれだけ難しいかは、バーで経験済みだ。ユーディスは手綱を握り締めると、スピードを殺さずに軽快にかわし始めた。
「さて、そろそろ前に出ようか」
「人生は試練の連続です。それは前からやってくるとは限りません‥‥という訳で、前を走っている人達、すみません」
 遂にアルヴィスとエリスが牙を剥いた!
「来ましたね‥‥しかし! か、神よ‥‥!?」
 その最初の洗礼を受けたのはラスだった。エリスがショートボウで射った矢はライトシールドで防いだものの、その隙にアルヴィスの高速詠唱の『ウォーターボム』の直撃を受け、落馬してしまったのだ。
「お先に失礼します」
「お先に失礼」
「抜かせてもらいます」
「まだ大丈夫です」
「だが、このままじゃ終わらねぇぜ」
 エリスは次々とショートボウに矢を番えては先頭集団に遠慮なく撃ち込み、アルヴィスは『ウォーターボム』を高速詠唱し人だけを狙ってゆく。
 ここで一気に順位の変動があり、トップはアルヴィス、次いでエリス、勇人、ルーウィン、忠司、ユーディス、御蔵の順で最終ストレートへ入った
 ゴール手前200mには水濠が設置されている。
「後は自分の愛馬を信じるのみです」
「雷ぁ! お前の走りたいように走れ!」
「まだ終わっていませんよ」
「!!!!」
「勝負は最後まで分かりませんよ」
 最後の最後で勇人が矢避けに着けていた豪華なマントを外して後続へ目眩ましをした以外は妨害はなく、エリス、勇人、ルーウィン、ユーディス、御蔵が鞭を入れてスパートを掛けた。ユーディスは前を走る6人に対する悔しさと尊敬の思いが心に渦巻き、表情をくるくる変えながら、声にならない声で気合いを入れた。

 トップでゴールしたのはエリス、2位は勇人、3位アルヴィス、ユーディス、御蔵、ルーウィン、忠司という順だった。

 観戦者達は忠司達のレースに熱中し、惜しみない拍手を贈った。
 ルフィアも最終ストレートの攻防の興奮冷めやらぬまま拍手をしていたが、デルタは1人「ぼくちん無理です、おっかないじゃん」と冷めた目で見ていたという。

「信じれば馬も応えてくれるんですよ」
 エリスには駿馬が渡された。
「俺はランスは使わんし、それに馬がこれ以上いても世話できねぇからな」
「まったくもって――まったくだね」
「ランスか‥‥チャージング、覚えようかな?」
 勇人は馬もランスも辞退した。そのまま繰り上がって、アルヴィスに馬が、ユーディスにランスが授与された。
「おめでとうございます。その腕前、見習いたいものですね」
「人馬一体となったその勇姿、俺も見習わないと‥‥まずは回避ですか‥‥」
「作戦ミスでしたね」
「いい試合でした。優勝おめでとうございます」
 御蔵が、忠司が、ルーウィンが、ラスが祝福した。

 その後、アルヴィス達もパーティーへ招待され、大いに呑んで大いに食べてベスばぁと語らい、レースの疲れを癒したのだった。