ミドルビリジアンモールドを採集せよ!
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月17日〜11月24日
リプレイ公開日:2004年11月27日
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●オープニング
「やれやれ、酷い目に遭ったぜ」
そうぼやきながら胸元やへそが露わなパフスリーブの上着を着、丈の短いスカートを穿いている、気の強そうな顔立ちのエルフの女性が入ってきた。元は溜息が出るくらい煌びやかなブロンドヘアも草臥れて汚れ、本来の輝きを失っていた。
漂泊者の薬師(くすし)フリーデだ。
「しばらく棲家を留守にされていたそうですね。挙がってきた他の依頼の報告書で、冒険者の方が訪ねられたそうですよ」
「そうらしいな。近くの棲家の奴から聞いたよ。だが、薬の原材料を自分で採集するのが俺の性分なんでな。棲家にいない事も多いさ」
顔馴染みになった受付嬢がそう切り出すと、「いつもの事だ」とフリーデは微苦笑した。
受付嬢はフリーデが抜群のプロポーションを保っているのは、自らの足で出向き、薬の原材料を採集しているからではないかと、ふと思った。
「今回はどちらに行かれていたのですか?」
「海辺だ。“ミドルビリジアンモールド”を採集しに行っていたのさ」
「ビリジアンモールドというと‥‥毬藻のようにもこもこした緑色のカビの塊ですよね? 確か3mくらい大きくて‥‥」
と、答えて、受付嬢はビリジアンモールドを想像してしまったのか嫌な顔をした。
年頃の女の子からすれば、当然といえば当然の反応だろう。
「湿気のある場所に大量に発生する毒カビの塊だからな。半ば海に沈んだとある遺跡に生えてるって話を聞いたから行ってきたんだが、先客がいたんだ」
「先客ですか?」
「ラージバットの群れにローバー、ウォータージェルだったな。発掘され尽くした空っぽの遺跡だから大丈夫だろうとタカを括ってたんだけど、お陰でミドルビリジアンモールドの生えている場所に行く前にこの様さ」
受付嬢にオウム返しに聞かれたフリーデは肩を竦め、指折り数えていった。
ラージバットは全長1mの巨大なコウモリで、質の悪い伝染病を媒介する事もある。
ローバーは巨大なイソギンチャクで、身体から3mまで伸ばす事のできる数十本の触手が生えており、麻痺毒を持っている。
ウォータージェルは波間を漂ってるゼリー状の生物で、生物を酸で溶かして捕食するのだが水中ではなかなか見付けられない。
なかなか侮れない虫や植物達だ。数は多くなかったが、流石にフリーデ1人で奥まで進むのは無理だったようだ。
「それで今回もフリーデ様の護衛ですね?」
「(様ぁ?)察しがいいな。そういう事だからよろしく頼むぜ」
既にこの受付嬢の中では、フリーデは「様付け」の存在のようだ。
“男装の麗人”に見える風貌から同性に人気があるフリーデは、悲しいかな、こういう事には慣れっこなので至って普通に答えた。
「で、報酬なんだけど、今回はこの形(なり)で生憎と実入りがなくてな。俺の手持ちの薬類になるんだ」
リカバーポーションかヒーリングポーション、解毒剤各種([植物]・[鉱物]・[動物])、コカトリスの瞳の何れか1つを渡すという。
「‥‥ところで、ビリジアンモールドは触れたり振動を与えると、死亡毒の胞子を巻き上がらせるそうですが、何に使うのでしょうか?」
「毒薬を作るんだが?」
「ど、毒薬!?」
思い掛けない答えに、受付嬢は素っ頓狂な声を上げた。フリーデは慌てて彼女の口を手で塞いだ。
「別に悪い事に使おうって訳じゃねぇよ。俺が飲むんだ」
「の、飲むのですか‥‥」
「毒を知らなければ解毒剤は作れないからさ。いくら薬草の知識があったって、対応する毒草の知識がなければ治す方法までは分からないからな。俺は今まで大抵の毒は飲んできたぜ」
『毒薬』というとあまり良い印象を持たないが、要は使う人と使い方次第なのだ。
今ある解毒剤も、先人達のこういった努力の積み重ねの結晶といっても過言ではないだろう。
また、フリーデも自らの身体を使って効能を試すほど、薬草や毒草に対して直向きだという事も感じ取れた。
●リプレイ本文
●フリーデ先生の薬師講座?
「うぅ〜、この時期に海に入る事になるなんて‥‥肌に悪そぉ」
「あっはっはっは、そんな事気にしちゃ冒険者やってられないわよ〜。気を抜かずに行くわよ」
ライラック・ラウドラーク(ea0123)は依頼書に目を落としながら溜息を付いた。クレア・クリストファ(ea0941)は小気味良いくらいにゲラゲラと笑いながら、彼女の肩をバシバシ叩いた。
クレアらしい発破の掛け方だが、ライラックは趣味の為に肌を人一倍気遣っていた。
「道中、肌荒れに効く薬草を摘んでいくか? キャメロットの近くでもまだ生えているはずだ。海から上がった後、煎じた物を塗っておけば肌荒れは防げるだろう」
ルクス・シュラウヴェル(ea5001)が優麗な笑みを添えて挨拶した。彼女はパリからキャメロットに来て依頼を受ける間に見掛けた、周辺に生えている薬草を指折り数えながら思い出していた。
「はぁ〜、女は肌荒れとか大変だね〜‥‥まー、発掘され済みだろーと遺跡ってところがいいね〜。ちったぁ〜頑張る気になるよ」
ルクスの隣にいるアルビカンス・アーエール(ea5415)が、白い髪を掻きながら他人事のように言った。ライラックも遺跡に興味を覚えて依頼を受けたのだ。
「待たせたようだな」
そこへエルフの薬師フリーデがやってきた。ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)とツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)は彼女の姿を認めると思わず身構えてしまった。
「どうしたのです、二人とも? フリーデさんは良い人ですよ? 僕なんかご迷惑を掛けてばっかりですから、今度はフリーデさんの事、しっかり護りますね!」
「それに薬を作る為に毒を飲む事までは普通、しませんよ。そういうフリーデさんの姿勢は尊敬に値します」
沖田光(ea0029)が胸元を力強く叩き、クウェル・グッドウェザー(ea0447)は深々と礼儀正しく頭を下げつつ、フリーデを庇った。
「すまない。別の依頼で直接ではないが敵に関わっていたイメージが強くてな。悪気はない」
「何で棲家に居ないんだ‥‥っと思ったが、俺も月の1/3から半分程度は棲家を留守にしてるから、人の事は言えないんだよな」
ゼファーは苦笑を浮かべながらフリーデに手を差し出した。彼女は「気にしていない」とその手を握り返した。その横でツウィクセルが文句を言った後、自分もそうだと肩を竦めると軽い笑いが起こった。
「お久しぶり。前はあまり働きを示せなかったけど、今回は違いますから」
先程の笑いはどこへ行ったのか? と思えるくらいクレアは別人のように恭しく神聖騎士の礼を取った。
冬も間近に迫った今日、野営時の寒さは毛布だけでは防げず、クレアとアルビカンスが用意したテントが重宝した。男性陣はクレアの、女性陣はアルビカンスのテントを使い、テントに入れない人は交代で、夜、見張りに立った。
「毒物は知識だけで容易に扱える代物ではないが、実際に毒草を活用する為には、どのような技能が必要なのか?」
「それは俺も聞きたいな。ことモンスターの関わる毒については知っておきたいし」
ライラックとルクス、クウェルが保存食を美味しく調理した夕食を食した後、焚き火を囲みながらゼファーがそう切り出した。ツウィクセルもレンジャーとして毒の知識を身に付けておきたいと思い、話に加わった。
「そうだな‥‥当然、植物や毒草の知識は必須だ。先ず、薬草か毒草か見分けられなければ話にならねぇぜ」
「薬草や毒草の中には、量が違えば効能が違うものもあるからな。キャメロットとパリの薬草は、気候が似ているせいかそう違いはないが‥‥」
フリーデの説明を、薬草や毒草に明るいルクスがフォローした。2人はキャメロットとパリの薬草や毒草の違いについて軽く論じた後。
「応急手当の仕方に動物や鉱物、モンスターの種類、農業の知識も覚えておいた方がいいぜ」
「そんなに覚えるの!?」
覚える量の多さに、肌の手入れの参考になればと聞いていたライラックは思わず声を上げた。
「怪我の種類で使う薬草は違うからな。それにどの草が、どの鉱物が、どの動物が、どのモンスターがどういう毒を持っているかも知らなければ、毒は扱えないだろ?」
「‥‥確かに、な。毒物を扱っているとだけ聞くと、いい印象が持てなかったが、良くも悪くも使い手次第か。どんな道具も悪用される恐れは少なからずある。そういう意味では、殺傷を目的として造られたエチゴヤで売られている武器も変わらないのだよな」
説明するフリーデの真摯な表情に、ゼファーは先入観に囚われ過ぎていた事を悟った。
「それでフリーデさんは手当ての仕方も詳しいんです‥‥ね‥‥」
「薬師だから慣れているとはいえ‥‥ああいう事は‥‥あまり無いんだけど、よ」
クウェルは夢うつつながら、フリーデと唇を重ねてしまった事を思い出し、唇を触った後、恥ずかしそうに顔を伏せた。フリーデも恥ずかしいのか、鼻の頭を掻きながらしどろもどろになっていた。
「それと、私は薬草や毒草の長期保存に錬金術を使ってるな」
「へー、錬金術を、ねぇ。畑違いだけど興味あるな。どういう風に使ってるんだ?」
『錬金術』という言葉にアルビカンスが反応した。まるごとメリーさんを着ている姿が何とも愛らしい。
「これは私が造ったものだが、保存液は錬金術で精製したものだ」
フリーデが彼に見せたのはコカトリスの瞳だった。ルクスもコカトリスの瞳を持っているが、こんな所で製作者に会えるとは思ってもいなかったので驚いた。
フリーデは『錬金術』もまた、他の知識に活かせると付け加えた。
ちなみに『錬金術』の錬成陣は、術師に取って一番の財産も同然だ。当然、フリーデはコカトリスの瞳の錬成方法までは教えなかった。
「それで、コカトリスを捕獲する必要があったのですね」
「あれは別だ。コカトリスの瞳を造るには、コカトリスを殺さなければならないからな。他の方法を探したんだが‥‥」
クレアの質問にフリーデは残念そうに頭を振った。
●意外な苦戦!?
目的の遺跡は入り江の奥、岩肌に隠れてあった。一見、海に面した洞窟に思えるが、よく見ると壁等に人の手が入っていた跡が残されていた。
「うおぉー! こんな遺跡があったんだ‥‥これは驚き不思議発見」
「あー、だる‥‥この遺跡深くねーな。途中にラージバットが4匹、ローバーが1匹ってとこか」
喜ぶライラックの横で、アルビカンスが『ブレスセンサー』を使って遺跡の中の息遣いを探った。合わせて使ったクレアの『デティクトライフフォース』では感知できなかった事から、少し入った辺りにいると推測できた。
ライラックとクレア、ゼファーが前衛に立ち、ルクスとクウェル、光がフリーデを護るように中衛に付き、アルビカンスとショートボウに矢を番えたツウィクセルが後衛に回った。
尚、ランタンはフリーデが用意していた。
ライラックの膝上まで海水に満たされた遺跡の中を歩いていくと、アルビカンスが全員を制止させた。
次の瞬間、1mはあろうか、巨大なコウモリが4匹、飛来してきた。
ライラックとゼファーはかわしたが、クレアはその牙を喰らってしまう。
即座に反撃に出たライラックの日本刀の『スマッシュ』と、ゼファーのハンドアクスはラージバットを仕留めたが、クレアのクルスダガーから放たれた『ソニックブーム』は当たらなかった。
「クレアさん、あなたに‥‥力を!」
「光さんのモンスター講座では、魔法の抵抗力が高いと聞きましたが‥‥」
光が『フレイムエリベイション』を付与すると、クウェルがダーツを投げて牽制し、クレアが止めを刺した。その間、ツウィクセルが1匹を撃ち落としていた。
「其は命の道標なり。我に示せ魂の煌きを‥‥感知、目標は――前後に2匹!」
クレアが『デティクトライフフォース』を使うと、前後に生命力を感知した。前はローバー、後ろは‥‥。
「ウォータージェルだ」
間一髪、ルクスは『オフシフト』でウォータージェルの攻撃をかわした。
「ったく‥‥面倒臭ぇけどやるしかねぇかよっと! ‥‥衝撃のぉぉぉウインドスラッシュ!!」
クウェルが持ち替えたナイフで斬り付けた隙に、アルビカンスが『ウインドスラッシュ』をお見舞いし、ツウィクセルが矢を射った。
それでも尚、ウォータージェルは動きを止めなかった。
「動きは鈍いが、生命力は高いな」
ルクスが『コアギュレイト』を掛け、動きを封じると、クウェルとツウィクセル、アルビカンスと彼女の総掛かりでやっと倒したのだった。
一方、ライラックは、ローバーの身体から生えた数10本の触手に苦戦していた。『オフシフト』があるとはいえ、3mも伸び、数が多い為、接近しなければならない彼女は海水に動きを束縛されて絡め取られたが、その都度、ゼファーがハンドアクスで斬り裂き、光が『ファイヤーボム』を撃ち込んだ。
「‥‥怪我はない‥‥あら?」
『ソニックブーム』でローバーに止めを刺したクレアが、ウォータージェルとの戦いも終わったのを確認すると、不意に片膝を突いた。その横ではライラックも全身を痙攣させて動けなくなっていた。
「ラージバットにタチの悪い伝染病を移されたようですね。ライラックさんはローバーの麻痺毒のようです」
光がモンスターの知識からそう判断すると、クウェルがクレアの傷口を『ピュアリファイ』で浄化し、フリーデが解毒剤を飲ませた。解毒剤が効くまで、2人は安静にしている事になった。
ミドルビリジアンモールドは祭壇だったらしい場所を緑色に染めて、びっしり生えていた。毒草に慣れているルクスやゼファーも、流石にこの光景には言葉を失った。
「どのくらい必要だ?」
「そうだな‥‥精製できなかった時の事を考えると、全部、だな」
フリーデの返答にルクスは苦笑を浮かべると、『コアギュレイト』を唱えた。
彼女の予想通り、神聖な呪縛によりミドルビリジアンモールドは触れても死亡毒の胞子を巻き上がらせる事はなかった。
念には念を入れ、光達は海水で濡らした布で口と鼻を覆い、全長3mはあろうか、ミドルビリジアンモールドを全て余す所なく採集すると、フリーデの持ってきた袋に入れた。
「コアギュレイトが使えなかったら、どうやって採集するつもりだったんだ?」
「テントやマントといった布で覆って、胞子を飛ばないようにして採りつもりだったがな。こっちの方が便利だったぜ、助かったよ」
ツウィクセルの質問にフリーデはほくほく顔で答えた。あの、ミドルビリジアンモールドを手に入れられて、余程嬉しいらしい。
「楽しいコケ採集、したかったなー‥‥嘘だけど」
「さぁ帰りましょうか〜。無事に帰ってこそ、初めての成功だからね」
ライラックとクレアもすっかり回復したようだ。
キャメロットに到着後、各々が望む薬を報酬としてもらい、フリーデと別れた。
ミドルビリジアンモールドを使った毒薬の精製には少し時間が掛かるという。