少女の思い出を取り返せ!

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月30日〜07月05日

リプレイ公開日:2004年07月09日

●オープニング

 イギリス王国の首都キャメロット。
 その南東部に広がる冒険者街の一角に、冒険者ギルドがある。
 一般人では手に負えない仕事を冒険者ギルドを通じて依頼し、冒険者はそれを解決し、相応の報酬を得ている。
 しかし、相応の報酬は時として金銭ではない事もある。
 たとえば今回のように――。

 その日、あなたが冒険者ギルドを訪れると、赤毛のポニーテールを揺らしながら壁に貼られた依頼書の一枚を見て、唸っている女騎士の姿があった。その背中に、可愛い顔には不釣り合いなウォーアックスを括り付けていた。
「う〜ん‥‥ねぇ、よかったら一緒にゴブリンに奪われた女の子の指輪を取り返しに行かない?」
 あなたに気付いた女騎士は、一枚の依頼書を指差した。

『ぼうけんしゃさんへ
 わるいごぶりんたちが、わたしのたいせつなゆびわをうばっていってしまいました。
 ゆびわはママがいきているときに、おまつりのときにかってくれたきれいなゆびわです。
 ごぶりんは10ぴきちかくいて、こじいんのおくのもりのおくのおかのさきにすんでいるそうです。
 ほうしゅうとして、ひとり3カッパーはらいますので、とりかえしてきてください。
 よろしくおねがいします。』

 まだ文字を覚えたてなのだろう。紙面にはたどたどしい英語で依頼文が綴られていた。
「その依頼なぁ‥‥昨日、郊外にある孤児院からやって来た女の子が、『冒険者に依頼したい』って言うから貼らせたんだが‥‥報酬からして割に合わない仕事でな。受け手がいないんだ」
 依頼書から顔を上げたあなたと女騎士に、ギルドの受付の者は苦笑を浮かべた。
 報酬が3Cでは食事一食分がいいところで、保存食すら買えない。それで皆、敬遠しているのだという。
「この指輪っていうのは‥‥」
「この娘の母親の形見だよ」
 女騎士が聞くと、受付の者は依頼の経緯を語り始めた。
 数日前、この女の子が身を寄せる孤児院の子供達が近くの丘へピクニックに行った際、ゴブリンの一団に襲われた。
 その丘の辺りにはピクニックに行くくらいだから、元々ゴブリンは棲んでおらず、最近、移ってきたらしい。
 幸い、子供達は軽いケガですんだが、食料の他に女の子の指輪が奪われてしまった。
 女の子の指輪は、女の子の母親が生前、祭りの屋台で買ったイミテーションだという。
 女の子は母親を亡くした後、身寄りが無く、孤児院に預けられているそうだ。
 昨日も孤児院の先生に無理を言って、キャメロットまで連れてきてもらったらしい。
「まぁ、価値の分からないゴブリンには、宝石もイミテーションも大して変わらないからな」
「でも、その女の子からすれば、掛け替えのないお母様との思い出が詰まった大切な指輪よね‥‥あたし、この依頼受けるわ。こういう依頼って、報酬の額とかそういうんじゃないと思うの。それに指輪を取り返して孤児院を慰問したら、この女の子だけじゃなく、他の子達も喜ばせてあげられると思わない?」
 女騎士はこの依頼を受ける事を決め、屈託のない笑顔と共にあなたに話を振ってきた。
 ゴブリン退治の後は自分の特技を披露して、子供達を喜ばせる機会が待っていそうだ。
 特技に自信があるなら、受けてみてもいいかもしれない。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0186 ヴァレス・デュノフガリオ(20歳・♂・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea0387 シャロン・リーンハルト(25歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea0999 サリエル・ュリウス(24歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2685 世良 北斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3777 シーン・オーサカ(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3924 ジャッド・マイルズ(39歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文


●林の中の孤児院
 冒険者ギルドで簡単な自己紹介を済ませたジャッド・マイルズ(ea3924)達は、一路、依頼主の女の子の住む孤児院へ向かっていた。
 その道中、ジャッドはふと、ウォーアックスを背負って馬に騎上している女騎士の名前を聞いていないという、肝腎な事を思い出した。
「ええと、ウォーアックスのお嬢さんの名前は?」
「あたしはエレナよ、よろしくね、ジャッド」
「こちらこそ。やれ、最年長のおじさん一人、ちょっと場違いな気もするが、頑張らせてもらうよ」
 仲間を見ると一様に若かった。もっとも、シフールのシャロン・リーンハルト(ea0387)やエルフのヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)は、外見から実年齢を推し量る事は難しいが。
 エレナは姓は名乗らなかったが、素性を明かさない冒険者も少なくない。まして騎士であればしがらみも多いのだろうとジャッドは履み、言及はしなかった。

 孤児院は街道から少し入った林の中に建っていた。
「‥‥うちも師匠に引き取られてへんかったら、今頃は‥‥」
 シーン・オーサカ(ea3777)は自然に囲まれた孤児院の庭で、伸び伸びと遊ぶ子供達を見ながら拳を握り締めた。
(「大切な指輪を無くして沈んでいますね‥‥この娘の、そしてそこから広がる周り全ての色々な笑顔を護らなくては」)
「ねね? どんな感じの指輪なの? あたしに教えてもらえるかな?」
 沖田光(ea0029)は先生に連れられてやってきた女の子の様子を横目で見ながら先生からゴブリンの事を、シャロンはゴブリンの事を思い出させて恐がらせないように女の子の周りを飛びながら、指輪の詳しい形を聞いた。
 指輪はルビーを象ったイミテーションだという。
「依頼、受けてくれるの? 報酬、これしか払えないけど‥‥」
 女の子は不安そうな面持ちで、ポケットから薄汚れた硬貨を取り出した。その汚れから、一所懸命貯めたものと伺えた。
「それはゴブリンを退治し、指輪を取り戻したらちゃんと貰います。それにゴブリンの巣なら、いい報酬となる戦利品が見付かるでしょうから」
 世良北斗(ea2685)は冷めた事を口にしながら女の子の手を自分の手で包み込み、報酬を押し戻した。
(「健気な少女の想い。これを守れず、何の刀か!」)
 内心では闘志を漲らせていた。
「あんたの名前は?」
「エインデベルよ‥‥」
「ならベルって呼ばせてもらうで! うちらが必ずベルの指輪を取り戻したる!」
「これはジャパン流の約束の証です」
 シーンが得意げに胸を叩くと、光がエインデベルに微笑み掛けながら『指切りげんまん』をした。
「うん。でも無理しないでね、お兄ちゃん、お姉ちゃん達‥‥」
 光はいつものように女性と間違えられ、微笑みが引き吊った。

●ゴブリンの巣穴
「抜け駆けはよくないな」
「巣穴探しとはいえ、一人は危険だぜ?」
 北斗達と途中で別れ、一人ゴブリンの巣穴を探しに向かっていたヴァレスは、サリエル・ュリウス(ea0999)とルクス・ウィンディード(ea0393)、ジャッドに呼び止められた。ヴァレスはルクス達にも気付かれないように先行したが、同じ考えのサリエルに見抜かれていたようだ。
「一人で闇雲に探すより、四人で手分けをした方が効率がいいよな。但し、あくまで巣穴の位置を確認するだけだ。見付けても深追いしたり、戦闘は控えろよ」
 ヴァレスはさっさと考えを改めると釘を刺し、ゴブリンに襲われたという小高い丘を中心に手分けをして巣穴を探し始めた。
「ゴブリンの行動パターンからすると、そう遠くに巣穴は作らないはずだぜ‥‥」
「獣道とか足跡とか見付かれば、先ずゴブリン達のものだと思うんだけどね‥‥」
「下種な奴らはとにかく臭いからな‥‥く!? この臭いは‥‥噂をすれば、か‥‥」
 ルクスとジャッド、サリエルは三者三様でゴブリンの巣穴を探し出した。
 その後合流したヴァレス達は、巣穴の場所の情報を照らし合わせ、同じ場所だと確認した。

●エインデベルの指輪と戦利品
 ヴァレス達が孤児院に戻ってくる頃には、日は暮れていた。
 サリエルの提案でゴブリンの巣穴への襲撃は明日の夜に行う事になり、その日は孤児院に泊まった。
 夕方前にゴブリンの巣穴の近くまで来ると、シーンとシャロンがゴブリン達をおびき寄せる準備をし、夜を待った。
 北斗とサリエル、ルクスとエレナが巣穴近くの茂みに身を潜ませると、シーンとシャロンは焚き火を起こし、保存食を焼き始めた。
 香ばしい薫りが辺りに広がっていった。
「美味しそうな匂い☆ 食いしん坊のゴブリンはこの匂いに釣られるよね」
「なるべくぎょーさん来させなあかんから、シャロ、どんどん焼くで!」
 案の定、保存食の匂いに釣られて、巣穴から4匹のゴブリンが姿を見せた。
 ゴブリンの前には、北斗とサリエルが無防備に立っていた。ゴブリン達からすれば、北斗達もこの臭い同様ご馳走だった。
 北斗とサリエル、そして目の良いヴァレスが即座にゴブリン達の身体を見て、指輪を着けていない事を確認した。
「あなたに用はありません‥‥死して罪を償いなさい」
 次の瞬間、北斗は夢想流の居合抜き――ブラインドアタックEX――を放った。一匹のゴブリンは、自分の身に何が起こったか分からない内に絶命した。
「臭い!! 臭いんだよ。寄るな!! 下種!!」
 残ったゴブリン達は激情し、小柄なサリエルを袋叩きにしようとするが、サリエルは右手に構えたダガーと左手に構えたナイフを巧みに操り、悉くかわした。
「調子に乗れば、怪我するぞ?」
「あんたも、足元を掬われないようにね」
 そこへスピアを構えたルクスがチャージングを仕掛けて一匹を串刺しにし、エレナがウォーアックスでゴブリンの胴を豪快に薙いだ。
 仲間の断末魔の叫びを聞いた残りのコブリンが、何事かと巣穴から出てきた。
「あつらも持ってないぜ」
「となると巣穴の中にある訳やな‥‥水 常に我と共にあり 万物を穿つ力なり!」
「小さな約束の灯し火は、願いを構える炎になる。信じてくれるあの子の想いを、今力に変えて、喰らえ!」
 新手のゴブリン達も指輪を着けていない事を確認すると、ヴァレスはバックアタックで死角からダガーを投げ付けた。同時にシーンがウォーターボムを、光がファイアーボムを撃ち込み、確実に倒していった。
 次々と仲間が倒されていき、恐れをなした最後のゴブリンが逃げ出そうとすると、シャロンは空かさずチャームを掛けた。併せてテレパシーを使い、ゴブリンと話せるようにするのも忘れない。
「‥‥ねね、こんな感じの指輪かどこにあるか知ってる?」
 ゴブリンは友達のシャロンに、指輪といったキラキラ光る物は巣の中にまとめて飾ってある事を話した。
「ありがと〜。じゃぁ、お休みなさい☆」
 シャロンが手を振るとジャッドのナイフが突き刺さり、ゴブリンはそのまま崩れ落ちた。

 ゴブリンの巣穴は食べ残しが散らかし放題で、酷い有様だった。
「指輪以外にも色々と貯め込んでいるようだね」
 その中では比較的綺麗に摘んできたばかりの草が敷かれた寝床のような場所に、エインデベルの指輪があった。ジャッドはその他にも銀のネックレス等、ゴブリン達が集めていた宝物を見付けた。
 どこで手に入れたのか、持ち主すら分からない事から、これらは戦利品として光達で山分けする事にした。

 その間、北斗はシーンに誘われて、持てる限りの花を摘んでいた。

●慰問
 翌日の昼前にヴァレス達が孤児院へ帰ってくると、入口の門に寄り掛かるエインデベルの姿があった。聞けば心配して、昨日も先生に止められるまでずっと待っていたという。
「たっだいま〜☆ 指輪、取り返してきたよ〜☆」
「‥‥わたしの指輪‥‥ママからもらった指輪だ‥‥」
「ね、信じていれば願いはきっと叶うんだよ」
「‥‥うん‥‥ありがとう‥‥」
 シャロンがエインデベルに指輪を渡すと、エインデベルの目から嬉し涙がこぼれた。光がしゃがんで目線を合わせながらいうと、エインデベルは嬉しそうに力強く頷いた。
「嬉しい時は素直に嬉しがる、これが一番だよ‥‥」
 ジャッドはエインデベルをだっこしてあやした。その時のジャッドの顔は、照れ笑いを浮かべて愛娘を抱く父親の顔そのものだった。
「よーし、今からお兄ちゃん達が面白い事やるぞー!」
「(‥‥子供。苦手だ‥‥でも、後学にはなる。私の芸が子供達にどう受け入れられるか試すのもよいか)ュリウス家伝統の妙技!」
 庭で遊んでいる子供達にルクスが口火を来ると、早速サリエルがナイフとダガーでジャグリングを始めた。続けてルクスに肩車をしてもらってジャグリングをすると、その妙技に子供達から拍手喝采を浴びた。
「次は誰が“冬疾風”に乗りますか?」
 北斗は摘んできた花で白い愛馬を飾り、子供達に乗馬を体験させていた。最初はおっかなびっくり様子を見ていた子供達も、勇気ある一人が楽しそうに乗ると、次々と乗馬の体験をせがんだ。
『旅立つ仲間に幸運を 故郷の知り合いに幸せを♪
 笑顔で力合わせ 楽しき日々を織り上げよう♪
 はにかむあなたに 幸せも喜びも、微笑み返すでしょう♪
 Good Day Good Luck My Friends♪』
 木陰に座ったシーンは、シャロンが爪弾く竪琴に合わせて歌を唄った。この後はダガーを潰して勲章を作るなど、イベントは盛り沢山だった。
「こっちは毒草だ。食べられる薬草と似ているが、根の部分で見分けられるぜ。食べられる薬草は後ろの森の中にも生えていたから、今度、採りに行くといいぜ」
「文字が読めれば、本が読めるようになるよ」
 孤児院の中ではヴァレスが男の子に毒草の見分け方を、エレナが女の子に文字を教えていた。

 翌日、キャメロットへ出立する時には、シーン達は別れを泣いて惜しまれる程に仲良くなっていた。
 こうして冒険者の活躍で、少女の思い出が守られたのだった。