冬休みの課題を手伝って!

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月26日〜01月29日

リプレイ公開日:2005年02月04日

●オープニング

「おはよー!」
「おはよう!」
「おはようさん」
「‥‥おはようございます‥‥」
 魔法学校マジカルシードのとある教室に、生徒達の朝の挨拶が飛び交う。
「リラ、随分、ゆっくりとした登校じゃない。聖夜祭の間は実家に帰ってたんじゃないの?」
「去年は家には帰ったけど、今年は材料集めをしたり、クエストリガーで依頼を受けてたんだ」
 先程、教室に入ってきた、リラと呼ばれた少女が席に着くと、前に座っていた少女が振り向いた。彼女はリラの親友で女子寮でも同室の娘だ。
 リラはストレートの銀髪で、どこか猫科の野生動物を思わせる、しなやかで活発そうな少女だ。
 ケンブリッジの各学校は、約2週間に渡る聖夜祭中は『冬休み』として授業は行われない。やんごとなき理由で寮に残る生徒や、「聖夜祭より研究だ!」という罰当たりな教授もいるが、大半の生徒は親元へ帰り、家族や地元の友人達と聖夜祭を祝うのが慣わしだ。
「材料集めって、錬金術の?」
「もちろんだよ。それとボクの錬金術の店、『リラガーデン』の開店資金の為だよ」
「はいはい。それで今日から登校なのね」
 親友はリラの夢――錬金術の店――を事ある度に聞かされているようだ。手を振って遮った。
 ケンブリッジの生徒は冒険者を兼ねている者も多く、授業への参加は生徒の自主性に任せられている。もっとも、ウィザードを目指す者は魔法に魅せられているので、自ら進んで勉強する者が多のだが。
「てっきり、今で冬休みの課題をやってたかと思ったわ」
「え゛!? ‥‥冬休みの‥‥かだいぃぃぃぃ!?」
 リラは素っ頓狂な声を上げた。親友が慌てて口を塞ぐが時既に遅く、教室にいた生徒達は全員、リラの方を向いた。今まで完全に忘れていたようだ。
「私は去年の風の精霊魔法の講義をまとめたわ」
 親友は羊皮紙の束を取り出した。講義の要点をメモしたものをまとめてきたようだ。
「私は“先に殴って一撃で斃す”っていうコナン流の技と高速詠唱、どちらが早いかを調べたよ」
「それはフリーウィルっぽいね」
「えへへ。同室の娘がフリーウィルだから手伝ってもらっちゃったよ」
 リラの後ろに座っていた女友達が割り込んできた。
 リラのクラスの課題は自由研究なので、「羊皮紙10枚以上」という最低ラインをクリアーしていれば、内容は魔法に関する事なら生徒が自由に決めていいようだ。
「錬金術の成果をまとめるのは? 独学でも結構錬成できるようになったんでしょ?」
「う゛ー、確かに錬成に火の精霊魔法は使うけど‥‥ダメだよ〜。錬金術の錬成は術士にとってひと財産だから、先生でも教えられないよ」
 机にうつ伏すリラ。聖夜祭の間は実家に帰ったのはほんの数日で、後は野山に分け入って薬草を探したり、依頼を受けていたので、本当に何もしていないのだ。
 
 その後、教室に入ってきた先生に頭を下げ、一週間だけ提出期限を延ばしてもらったリラは、今度は自分がクエストリガーの扉を叩いたのだった。

●今回の参加者

 ea0105 セーツィナ・サラソォーンジュ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7215 シュリデヴィ・クリシュ(28歳・♀・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea9520 エリス・フェールディン(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9957 ワケギ・ハルハラ(24歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb0311 マクシミリアン・リーマス(21歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文


●お説教×2
 魔法は極めて特殊な知識分野なので、魔法学校マジカルシードには魔法専用の図書室がある。
「リ〜ラちゃん、課題、手伝いに来たよ〜♪」
 昼休み、ミカエル・クライム(ea4675)は図書室の隅で書物と格闘しているリラを見付けると声を掛けた。ミカエルとリラは火の精霊魔法を扱う事から、同じ講義を何度か一緒に受けた事があった。
「ミカエルちゃん、ありがとう〜」
「気にしない気にしない。知識の探求者であるあたしとしては、自身の勉強にもなるわ♪」
「僕自身の冬休みの課題は提出しましたから、お手伝いしますよ」
「‥‥私も既に提出済みですけど、こういったレポートは幾つか書き上げておくのも、物事を整理する思考の訓練になりますしね♪」
 リラが顔を上げて笑い掛けると、ミカエルの後からやって来たワケギ・ハルハラ(ea9957)とセーツィナ・サラソォーンジュ(ea0105)も協力を申し出た。
「うう〜、マックスちゃん〜、ワケギちゃんとセーツィナ先輩がいじめるよぉ」
「だけど、ワケギさんとセーツィナ先輩は冬休みの課題をきちんと出し、リラさんが提出していないのは事実だよね」
 リラは同じテーブルで冬休みの課題に取り組んでいるマクシミリアン・リーマス(eb0311)に泣き付くが、逆に追い討ちを掛けられ、うつ伏した。
 マクシミリアンも課題の最中なのでリラと一緒にやっているが、彼のクラスの冬休みの課題の提出期限はまだ先のようだ。
 リラの姿にミカエルもワケギもセーツィナも吹き出し、マクシミリアンも釣られて顔が綻ぶ。彼はハーフエルフだが、ここでは種族で差別する者は少ない。マクシミリアン自身、人が良く、少々いじめれやすい性格だが、ここでのいじめは悪ふざけで終わり、悪意の篭もった陰湿なものは多くない。ミカエルやリラは初対面の人に対して屈託なく接する事もあるが、愛称で呼び、仲間として受け入れ、気軽に軽口が叩ける――居心地の悪くない場所だった。
「聖夜祭の課題など、去年のうちに仕上げておくものだ。課題を他人に手伝ってもらうのではなく、自分の力で成し遂げねば錬金術士などなれんだろうに‥‥くどくどくどくど‥‥」
 そこへシュリデヴィ・クリシュ(ea7215)がやってくると、開口一番、説教を始めた。
「ふえええん、シュリデヴィ先輩ごめんなさい〜、これからはマジメにやります〜、一所懸命頑張ります〜」
「シュリデヴィ先輩、時間は作るものですから‥‥」
「分かればいい。私も依頼を受ける以上、全力を尽くすのみだ。続きは放課後、図書館で行うとしよう」
 僧侶であるシュリデヴィは弥勒を信仰しているが、表情を変える事なく延々と続く説教は、リラには大いなる父の試練のように感じられた。
 昼休みの終了に救われたが、リラは本当に泣き出していた。
 ワケギがその場は取り繕い、放課後、図書館に集合となった。

 ケンブリッジでは、それぞれの学校が所有している書物を有効活用する為に、昔からあった図書館に持ち寄っている。各国の宮廷図書館程ではないものの、あらゆる特色の書物が揃っているので、知識の探求には事欠かない。
「では、エリス様は錬金術を広めにケンブリッジへ?」
「はい、ケンブリッジでも錬金術の偉大さ、万能さを多くの人に知ってもらいたいと思いまして」
 片隅では、エステラ・ナルセス(ea2387)とエリス・フェールディン(ea9520)が書物を開きつつ、ケンブリッジにやってきた身の上話に花を咲かせていた。
 そこへミカエル達を伴ってリラがやってきた。
「あらあら、うっかりさんね。夢の実現に向けて邁進するのは宜しいですけど、今現在の予定と現実も考えて行動しないといけませんわよ」
「はぁい(しょぼーん)」
 エステラの落ち着いた物腰と子供を嗜める、厳しくも優しい口調は母親のそれだった。パラなので身長は120cmしかないが、エステラは7歳の子を持つ母だ。
 いつになっても子は親に頭が上がらないもので、リラはまた説教を受けつつ、反省するのだった。

●課題のテーマ
 昼休みに別れたシュリデヴィ以外が揃ったので、一同はエリス達が確保していたテーブルに着いた。
「‥‥さてさて、では課題を始めるとしましょうか‥‥リラはテーマは決めたのですか?」
「火の精霊魔法について調べてるけど」
「それは奇遇だね。僕はまだモンスター退治の依頼を受けた事がないんで、どんな魔法がどんな風に役に立つか分かっていないところがあるんだ。それで神聖魔法とモンスターについて調べているんだよ」
「面白そうですね。モンスターの種類によって有効な魔法は違ってきますから、それを盛り込むといいかも知れませんね」
「あたしの火の精霊魔法とモンスターの知識が役立ちそうね♪」
 セーツィナの質問にリラが書きかけの羊皮紙を取り出すと、マクシミリアンも合わせて取り出した。モンスターの知識を持つワケギとミカエルが早速、手伝おうとするが‥‥。
「リラさんは錬金術士を目指していると聞きましたが、それでしたら魔法より、錬金術をまとめた方が有用です」
「でも、錬金術の錬成陣は見付けた錬金術士にとってひと財産に等しいよ? それに錬金術は魔法と併用した方が、用途は広がるんじゃないかな?」
 魔法に否定的なエリスは、同じ錬金術を修める者として魔法より錬金術を勧めた。しかし、リラは錬金術だけでは限界があると思っていた。錬金術の知識は双方とも同等のようだ。
「‥‥リラの言い分も、エリスの言い分も、一理あります‥‥では、錬金術と魔法の比較と融合の可能性についてレポートしてはどうでしょう?」
「同志がいるとは嬉しい限りです」
 錬金術は術士ごとにそれなりに一家言あり、多少の衝突は避けられない思ったセーツィナは妥協点を見つけて助け船を出した。エリスは一騎当千の女傑を得たとばかりに満面の笑みを浮かべて彼女の手を取った。
「わたくしは同じ精霊魔法でも、精霊碑文学について調べますわ。イギリスとジャパンの差異を調べるのも面白そうですし」
「なら私は、魔法の使用頻度についてまとめよう。依頼を受けた事がないというマクシミリアンも参考になるはずだ」
 エステラの後ろからシュリデヴィの声がした。遅れた彼女はクエストリガーで公開されている報告書を調べており、脇に抱えた黒板にメモをしてきていた。
 かくしてリラの冬休みの課題は、魔法関連をまとめたレポートとなった。

●女性が3人寄れば‥‥
「あまり根を詰めても捗らなくなりますから、この辺で夕ご飯にしませんか?」
 セーツィナの言葉で気が付けば、遅い夕食の時間になっていた。
 シュリデヴィ達は学食でリラにご馳走になると、それぞれの帰路に付いた。
「デティクトライフフォースは小さな虫は分からないっていうけど、どのくらいまで小さな虫なら分かるんだろう‥‥Gは分かるって聞いたから、具体的な大きさを調べたいんだけどな」
「ただ、今の時期、虫がいるとは思えないですね」
 女性陣が聞けば引かれる内容なので、男子寮への帰り道にマクシミリアンがワケギに耳打ちすると、彼は残念そうに答えた。
 寒いこの時期は、女性達にはありがたい事に、あのGもなかなか見掛けない。
 これから1人で虫を捕まえに行こうと思ったマクシミリアンは、ワケギの手伝いをする事にした。

 女子寮のリラの部屋は相部屋だが、相方の娘は丁度依頼に出ており、エステラ達が泊まり込んでも問題なかった。
「道具はいい物を揃えているようですね。材料もいい物を使っているようですし」
「お陰で依頼の報酬は全部、それに消えちゃうけどね」
 早速、エリスがリラの机の大半を占める錬金術の道具を手に取ってチェックした。道具はそこそこの物を取り揃えており、セーツィナも納得した。

『ボクの将来の夢は、行方不明の父さんが目指していた、真実(ホンモノ)の魔法使いになる事です‥‥“ホンモノ”とは何かを見付ける事も含めて、目指していきたい‥‥と思っています』
『ホンモノ、かぁ。ボクと同じだね。ボクは錬金術士になって、色々な物を作って、みんなの役に立ちたいんだ』
 リラは課題を進める合間に、昼間、ワケギと将来の夢について語り合った事を思い出した。
「‥‥ちゃん、リラちゃん? もしかして、気になる男の子の事でも考えてたの〜?」
「そ、そんなんじゃないよ!?」
 筆が止まった事に気付いたのだろう。ミカエルが小悪魔のような笑みを浮かべた。
 黒板に下書きしたものを羊皮紙に清書していたシュリデヴィとエステラも筆を置き、休憩となった。
「あたし、今、とっても好きな人がいるんだ‥‥イギリスの来たのもその人を追ってきたからなんだよ」
「あらあら、恋する乙女の行動力は凄いですわね。でも、結婚しても恋愛は続きますわよ? わたくしは毎日1つずつ、旦那様の新しい良い所を見付け、好きになってゆきますもの」
「そういうオトナの恋愛って憧れるな〜。エステラさんと旦那さんの馴れ初め、聞かせてよ♪」
 セーツィナがホットミルクを淹れる中、エステラとミカエルのちょとした恋愛談議になった。

●課題提出
 3日後、リラの部屋はエリス達が雑魚寝した寝袋が無造作に置かれ、夜食のゴミが散乱し、黒板と羊皮紙が折り重なっていた。
 その中から10枚の羊皮紙をまとめたリラは、無事に教師に提出したのだった。

 1〜2枚目:火の精霊魔法の用途について
 3枚目:モンスターと種類別有効魔法について
・アンデッド系は神聖魔法、オーラ魔法の他、種類によっては特定の系統の魔法(火や陽等)が有効的。
 4枚目:モンスターとデティクトライフフォースについて
・『デティクトライフフォース』はコッコローチのように普通に見られる、一般的な虫より小さいものは感知しない。
 5枚目:モンスターの使用魔法について
・モンスターの中でも、デビルは『デビル魔法』と呼ばれる独自の魔法を使う。
・但し、デビル個体によって使用するデビル魔法が異なる事が確認されている。
 6〜7枚目:クエストリガー報告書における魔法の使用頻度と用途について
・魔法が使われていた依頼は半数以下。但し、戦闘・捕獲系の依頼は全て使われており、使用種類も格段に多い。
・戦闘・捕獲系以外の依頼では、『ファイヤーコントロール』や『アッシュエージェンシー』、『サイコキネシス』や『グットラック』などの使用を確認。
 8枚目:イギリスとジャパンの精霊碑文学の差異
・スクロールはイギリスやノルマンで見掛けるが、ジャパンではあまり見掛けない。
 9〜10枚目:錬金術と魔法の可能性〜その比較と融合について〜
・魔法は限られた者だけの技術であり、それに比べて錬金術は使用法さえ分かれば、万人に有用に使用できる可能性を秘めているだろう。

「みんな、ありがとう。お陰で課題を提出できたよ」
「自分の夢に一所懸命になるのも立派ですけど、学生の本分は忘れないようにしましょうね♪」
 最後の最後までセーツィナに釘を刺されたリラだった。

●ピンナップ

マクシミリアン・リーマス(eb0311


PCシングルピンナップ
Illusted by 三妃卯 ひな