【盗賊の影・竜巻娘】ものいわぬ親友
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 19 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:02月05日〜02月10日
リプレイ公開日:2005年02月10日
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●オープニング
『我は撃つ風の白刃!』
ウインドスラッシュを野盗の1人に叩き込む。
『彼女は』と辺りを見回すと、羽根を掴まれて鳥籠に無理矢理押し込められているシフールの少女の姿を見付ける。
『シフールを何だと思っているの!』と吼えるが、『声の良いシフールは高く売れるからな』と下種な応えが返ってきた。
やっぱり彼女が狙いだったのか。
冗談じゃないよ。その娘は渡さない。あたしの大切な、この国に来て初めて出来た友達だもの。
ウインドスラッシュじゃダメだ。鳥籠を持ってる奴はボスらしいから、一撃で倒さなければ彼女を救えない。
『我は下す‥‥』
『後ろです!!』
『旋の‥‥え!? あぐ!?』
ストームを唱えるあたしに彼女が叫ぶ。振り向いた時には背中に鈍い痛みを感じ、倒れていた。
斬られたと思った時には、鈍い痛みは炎のように熱くなっていた。バッサリやられたな、これ‥‥。
ダメだ‥‥目を開けていられない‥‥。今、死ぬ訳にはいかないのに‥‥。
『‥‥必ず‥‥助ける、から‥‥』
薄れ行く意識の中で、あたしは辛うじてそう呟いた。
『私はどうなっても構いませんから、逃げて! タルナーダ!!』
「ホルン!!」
少女――タルナーダ――が飛び起きると、そこは宿屋の一室だった。粗末な造りの部屋だが、内側からきちんと扉に鍵が掛かるのと暖炉があるのは、冒険者用の安い宿屋ならではだろう。
荒い呼吸を吐きながら、またタルナーダは夢を見たのだと気付く。
あの日以来、親友のシフール――ホルン――が攫われた日以来、毎晩のように見続けている夢を。
呼吸を落ち着かせ、額の汗を拭った手でおもむろに肩を触る。そこには服の隙間から生々しい刀傷の痕が覗いていた。
「ホルン‥‥やっと見付けたからね。もう少しだからね」
彼女は脱ぎ捨ててあった袖が無くゆったりとしたスカート――但し、前後は動きやすさを重視しミニ並に短い――のワンピースを手繰り寄せ、伸ばし放題の蜂蜜色の髪を腰辺りで纏めながら呟いた。
タルナーダは冒険者ギルドを訪れると、受付係に依頼の内容を伝えた。
「一緒に貴族の屋敷の警備をして欲しい?」
「そうだよ」
受付係は確認の意味を込めて聞き返した。『キャメロットの郊外に住む貴族の屋敷に、“怪盗ファンタスティック・マスカレード”から予告状が届いたから、一緒に警備をして欲しい』というのが依頼の内容だったからだ。
「しかし、そのようなファンタスティック・マスカレード関連の依頼は来てないな」
「依頼、出せる訳ないよ」
受付係は壁に貼られた依頼書を見ようとすると、タルナーダが貴族の名前を告げた。
あまり良い噂を聞かない貴族だ。自らを義賊を名乗る怪盗ファンタスティック・マスカレードからすれば、そういう貴族は格好の獲物だろう。
しかも下手にギルドを介せば、自分の良くない噂が明るみに出てしまうかもしれない。
受付係は貴族がギルドに依頼しない理由に納得した。
その貴族は怪盗ファンタスティック・マスカレードから守る為に、個人的に腕にお覚えのある者を雇っているそうで、タルナーダは冒険者と一緒に応募したいというのだ。
「貴族の屋敷の警備をして、ファンタスティック・マスカレードを捕まえるのか?」
「違うよ。あの屋敷に囚われているあたしの親友を一緒に助けて欲しいんだ」
タルナーダの親友、シフールのホルンは、野盗達に攫われた後、キャメロットの悪徳商人に売却されたが、この貴族へ転売されていた。
彼女は2ヶ月掛けてホルンの行方を突き止めたが、流石に貴族の屋敷に忍び込む事はできなかった。
聖夜祭のパーティに便乗しようとしたが失敗し、それでも諦めずに機会を窺っていたところ、怪盗ファンタスティック・マスカレードから予告状が届いたのだ。
「こんなチャンスはもうないだろうからね‥‥あの悪徳商人は『助け出しても意味がない』って言っていたけど、あたしはホルンを助けたいんだ」
タルナーダはお守り代わりのシフールの礫を握り締めながら言った。
「了解。親友を助けられるといいな。そうそう、依頼の最後に名前を入れるんだけど」
「あたしはタルナーダ、竜巻のタルナーダだよ」
タルナーダとはロシア語で『竜巻』を意味する。その名の通りタルナーダは風のウィザードだった。
●リプレイ本文
●不穏な噂
“竜巻”の名を持つ風のウィザード、タルナーダが警備する貴族クリング子爵の屋敷は、キャメロットから歩いて半日の郊外にあった。
「怪盗ファンタスティック・マスカレードの狙いは、クリング子爵が扱っている家財道具だそうです」
「家財道具ぅ? あっはっは〜、シフールを平気で売買する愚劣な貴族らしく、随分とチープだこと」
大隈えれーな(ea2929)はソウジ・クガヤマが聞いてきたクリング子爵の情報を話すと、クレア・クリストファ(ea0941)は嘲笑した。
「まぁ、家財道具と一括りに言っても、必ずしも家具とは限らないからね」
商家を生業とするクリオ・スパリュダース(ea5678)は、クリング子爵がホルンを買った事から思い当たる節があった。
――人身売買である。ある意味、労働力も立派な家財道具だ。
「ダチが商品扱いとは許せへん話や! 必ず助け出したらな!!」
「‥‥そうです! ‥‥人を物のように扱うなんて‥‥そんな事は、絶対‥‥許されないです!」
淡々と説明するクリオとは対照的に、シーン・オーサカ(ea3777)は拳を握り締めて吼え、彼女に恋人のように寄り添うフローラ・エリクセン(ea0110)も静かに怒りを露わにしていた。
「“仲間を決して見捨てない”、これ冒険者として最低限の義務であり心構えだわ。あたしは半年以上もホルンを見捨てないで探し続けたあんたを気に入ったよ。力を貸すわ」
「前に助けられなかった悔しさは、一時たりとも忘れた事はありません。今はここに居なくとも、あの時の仲間はホルンさんの救出を願っています。その想いは君と同じですから」
「ありがとう。今度こそホルンを助け出すよ」
レムリィ・リセルナート(ea6870)が「任せてよね」とふくよかな胸を力強く叩き、御蔵忠司(ea0904)がタルナーダの肩に手を置いて微笑んだ。しかし、その微笑みとは裏腹に、忠司は不退転の決意を秘めていた。
彼が自らの装備を売って報酬の足しにしようとしたり、イェーガー・ラタインがもしもの時の為に教会へ多額の寄進をしようとしが、タルナーダはその全てを断ったのだ。
また、ツウィクセル・ランドクリフが、ホルンを最初に攫った盗賊達と取り引きのあった漂泊者の薬師フリーデに話を聞きに行ったところ、何の薬かまでは教えてもらえなかったが取り引きしたと言う話を聞いていたからだ。
「(‥‥薬かぁ‥‥ホルンはん、多分、記憶や精神を壊されとるんじゃ‥‥)救出した後で最も力になれるのはタルナーダはん、あんたや。ホルンはんの為にもヤケっぱちな行動はあかんで」
(「俺ができるだけ一緒に行動して、暴走を抑えます」)
シーンが最悪の事態を思い浮かべつつ、タルナーダに釘を刺すと、「魔法詠唱時の多方向からの襲撃を防ぐ為」と一緒に行動する忠司が深々と頷いた。
●噂の結末
クリング子爵は肩幅のあるがっちりとした体格のナイスミドルだった。
「私は夜駆守護兵団団長、永劫の追撃者と申しますわ」
「ほほう、それは頼もしい限りだ」
「怪盗ファンタスティック・マスカレードは相当な手練で、円卓の騎士に匹敵するという噂もある。そんなに強いとなると、怪盗というより強盗だな」
睨め付けるタルナーダを制したクレアは、先程の態度から豹変して微笑みを浮かべると、令嬢よろしく流麗に挨拶をした。満足そうに相槌を打つクリング子爵に、続けてクリオがファンタスティック・マスカレードの根も葉もない噂を話しながら、「私達は巷の悪評を気に留めない」という姿勢を見せた。
えれーながファンタスティック・マスカレードの目的としているものは何か訊ねると、噂通り家財道具だと答えた。シーンが言葉を受け継いで犯行予告日を聞くと、4日後だった。
(「義賊なら、盗むのは大きくなくて換金できる品だろう」)
「どんな品か見せてもらえませんか?」
クリオの呟きにわずかに頷いたレムリィが聞くと、クリング子爵は女性陣は右のゲストルーム(?)を忠司には左のゲストルーム(?)に荷物を置くよう指示し、屋敷を案内がてら、応接間(?)の奥にある倉庫(◎)へ連れていった。そこには整然と家具類が置いてあり、置物も数点あった。
(「鳥籠はないですね‥‥」)
目の良い忠司はさり気なくタルナーダから聞いた、ホルンが捕らわれた鳥籠を探したが、ここにはなかった。また、クリオが家具を鑑定してクリング子爵の気を引いた隙に、クレアが部屋の外で『デティクトライフフォース』を使ったが、生命反応は部屋の中の人数だけだった。
「良い趣味をしていますね。他にはないのですか?」
レムリィがコレクターの『コレクションを他の人に自慢したくなる心理』を巧みに突くと、今度は廊下の奥の倉庫(●)へ案内された。こちらにも同じように良い趣味の家具や置物があったが、鳥籠は見当たらず、『デティクトライフフォース』の反応も同じだった。
クリング子爵は自分の私兵を昼間警備に就かせ、フローラ達は夕方から夜の警備を命じた。
「隠し部屋の類はないようだね」
「クリング子爵は自分の書斎の隣の倉庫(○)に頻繁に出入りしているようだけど、あそこは扉に鍵が掛かっているし、私兵がいるんだよね」
クリオは館の内外の構造を歩数で計って調べたが、隠し部屋はないようだ。一緒に組んでいるレムリィは警備中にクリング子爵が書斎の隣の倉庫に頻繁に出入りしているのに気付いたが、扉は鉄の枠で覆われた頑丈な物で、鍵が掛かっており、しかも私兵を立たせていた。
「書斎の隣のベッドルーム(?)とゲストルーム(?)には、未だに入れてもらえませんね」
「私兵がいるから、デティクトライフフォースも使えないわ」
「給仕さんから聞いた話なんですけど、あのベッドルームはクリング子爵の寝室で、ゲストルームは妾専用の部屋だそうですよ」
忠司が未だに入室を許されていない部屋を挙げると、クレアは魔法を使う機会がなく苛立っていた。キッチンを警備しつつ、料理の手伝いをしているえれーなが、夜食と一緒に給仕からの情報を仕入れた。
「もしかして、その妾の中にホルンも!?」
「そこまでは分かりません‥‥何人もの妾を抱えているそうで、毎食部屋まで運ぶそうですが、シフール用の食事を作った事はないそうです」
「シフール用の食事を作ったら、あからさまやしな。綺麗なシフールの歌声も聞こえへんし‥‥後はフローのブレスセンサーが頼りやで」
逸るタルナーダを忠司が抑えると、えれーなは伏し目がちにかぶりを振った。シーンの言う通り、後はフローラの『ブレスセンサー』の結果次第だろう。
「フローのここ、ごっつ可愛いで〜。クリクリしてて、どない感じや?」
「‥‥き、気持ちいい‥‥です‥‥わ、私も気持ち良くして、あげます‥‥」
「ぁあ、ソコは‥‥ぁあ、もぅ、アカン‥‥」
シーンとフローラは警備中、マントに包まり、事もあろうにお互いを愛でていた‥‥というのはいちゃつくフリで、フローラは『ブレスセンサー』を唱えた。
「‥‥息遣いから、して‥‥倉庫の方、だと思います‥‥」
妾達のゲストルームに数人、何と書斎の隣の倉庫からも小さな息遣いが感じられた。
●鳴動
怪盗ファンタスティック・マスカレードの犯行予告日当日、当時間――。
「旦那様! こんな物が倉庫に扉に!!」
ファンタスティック・マスカレードが現れない代わりに、執事が木のカードを持って駆けてきた。
『クリング子爵、あなたの大切にしている置物は確かに戴きました――怪盗ファンタスティック・マスカレード』
「馬鹿な!? あの部屋には鍵が掛かっていたはずだ!」
「確認しませんと! 皆様はまだこの辺にいるかもしれないファンタスティック・マスカレードを探して下さい」
クリング子爵はカードを放ると書斎へと駆けていった。執事はクレア達にファンタスティック・マスカレードを探すよう指示し、主の後に付いていった。
クリング子爵が扉の鍵を開けた直後。
「そこまでにしたらどうかな、ファンタスティック・マスカレード? 開かない扉を開けさせる、確かにいい手だよ」
「我は撃つ風の白刃!」
クリオがカードを執事に投げ付けた。彼が受け取ると同時に、タルナーダがウインドスラッシュを放つが、専門ランクのそれを抵抗し、ほとんど傷は負っていなかった。
本物のファンタスティック・マスカレードに間違い。
クリオは執事に出入りする人間を紹介するよう徹底させたが、その時、使用人よりクリング子爵に近い執事なら倉庫の鍵を主に開けさせる事も可能だと思い付いたのだ。
ファンタスティック・マスカレードはクリング子爵の手から鍵束をひったくると、そのまま妾の部屋の方へと駆け出した。応接間への廊下にはクレアが身の毛もよだつ凄まじい眼光を光らせて立ち塞がっていた。
「ファンタスティック・マスカレードはあそこよ!」
「か、怪盗です! 応援ぷりーず!」
わざとらしくファンタスティック・マスカレードに退路を提供した後、レムリィが怪盗の方を指差し、えれーながキッチンから持ってきた鍋と釜をガンガン叩いて私兵達に報せた。
クリング子爵がファンタスティック・マスカレードを追った後、フローラとシーンがタルナーダより先に倉庫へ躍り込んだ。
果たしてそこには中にシフールが閉じ込められた鳥籠があった。シフールはフローラ達に気付き、身じろぎしたところを見ると、生きている。
忠司が霞刀で鳥籠の入り口を壊すと、フローラが自分のローブにシフールを優しく包んだ。先程から一言も話さない事に嫌な予感を覚えたのだ。
「咎人よ、貴様は私を怒らせた‥‥次に目覚めた時は己の家が滅びる様を見るといいわ」
「最初からこうなら楽よね〜」
クリオが書斎から人身売買に関する証書の束を手に出てくると、ファンタスティック・マスカレードを追い掛けるどさくさに紛れて、クレアがレイピアの柄とナックルのダブルアタックを、レムリィが焔のような想いを日本刀の峰に込めて、クリング子爵の背後から叩き込んだ。
「もう、なまものの取り引きはやめたら?」
クリオが一瞥してその場を去った。
妾と思われていた者達は、クリング子爵の商品だった。
証書はクレアが騎士団に渡し、後日、クリング子爵の処分が下されるだろう。
●ものいわぬ親友(とも)
「その娘は歌と思い出を失っている。クリングも声だけは取り戻そうとしていたようだ」
怪盗ファンタスティック・マスカレードはそう言い残して闇の中に消えていった。両脇には貴金属の置物を抱えていたのを忠司はちゃんと見ていたが、どうやらホルンを始め、捕らわれていた者達を助けるのも目的だったようだ。
「ホルン‥‥」
フローラが保護したシフールは、確かにホルンだった。彼女はしかし、再会の歓喜に全身を振るわせるタルナーダを、親友を、「誰?」とばかりにぼーっと見ていた。彼女が抱きついても、分からないようだ。
「‥‥攫われた後、よっぽど酷い目に遭ったんだね‥‥でも、やっと会えたんだ、これからゆっくりと思い出していけばいいよ‥‥こんなものしかなくて悪いけど‥‥」
頬を涙で濡らしながらタルナーダはレムリィ達に、自分が編んだという毛糸の靴下を報酬として渡したのだった。