Thorn’s wood・Another
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 72 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月12日〜04月22日
リプレイ公開日:2005年04月20日
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●オープニング
ああっ、セーラさまっ。
私は、神聖騎士フィディエルは、御身の教えを破ろうとしています。
‥‥なのに、なのに、慈悲深い御身は私に罰を与えないのですね。
私は未だに、癒しの力も、浄化の力も使う事ができます。
それとも御身は‥‥私のあの方へのこの気持ちが、御身の教えを破っていないと仰るのでしょうか?
あの方――真田あやか様をお慕いしている事が‥‥。
分かっています。あの方には、リムニアドという、身も心も委ねた方がいる事くらい‥‥。
最初は、あやか様とリムニアドの中を暴こうと思っていたのですから。
「ジャパンからやってきた巫女、真田あやかだ」
ジャイアントの女性、あやか様はこの修道院へやってきた時、そう名乗りました。
ミコ、というのは聞いた事があります。ジャパンの女性クレリックだとか。
しかし、予言能力があるそうですが、その力を見せたのは、この修道院へ花嫁修行に来るはずが、訳あって石像となってしまい、解呪する為に運ばれてきたリムニアドというウィザードの令嬢の事だけでしたし。
イギリスの修道院で、周りは神聖騎士やクレリックが鍛錬に、貴族令嬢達が花嫁修行に来ている中、ジャパン人のジャイアント、というだけで目立ちますし。
何より、体運びが素人のそれとは違いますし。
私を含め、この修道院に仕える神聖騎士の数名は、あの方がミコではない事はすぐに分かりました。
しかも、リムニアドが元に戻り、花嫁修業を始めてからは、御身のお膝元である修道院で、隠れるように夜な夜な逢い引きしていました。
あやか様は、リムニアドに“ヴィルデ”と呼ばれているようです。ヴィルデ――ヴィルデフラウとはゲルマン語で『野生女』という意味のようです。
それはともかく、事もあろうに接吻や愛し合うなどと、人間とジャアイントで、しかも女性同士でなんと浅ましい行為を!
御身の教えで禁じている同性の愛を。
御身の教えで禁じている異種族の愛を。
それも何度も繰り返しているのです!
「あやか様、ご一緒しても宜しいでしょうか?」
ですから私はあやか様を慕っている振りをして少しずつ近付き、教区の新年の寄進を募る為、近隣の村へ行く任に就いた時、護衛として指名しました。
道中であの方のあさましい本性を暴き、御身の名の元に裁く為に‥‥。
「あなたの言う通り、私は巫女ではない、忍者だ。謀った事は謝罪する。しかし、リムを愛している。だから彼女の元に来た。二度と離れる事はないし、離さない」
教区である近隣の村々を回り、寄進を集めた帰り道で、私はあやか様を問い詰めました。
ミコでない事を。リムニアドと愛し合っている事を。
言い訳の1つもするかと思っていましたが、あの方は自分の正体と、リムニアドとの馴れ初めを包み隠さず全て話しました。
聞いている私の方が恥ずかしくなるくらいです。
私は全てを修道院長に話し、御身の裁きに委ねるつもりでした。あやか様も私に話した以上、それは覚悟の上でしょう。
それでも口止めはされませんでした。
しかし、修道院まで残り1日というところで、オークロード率いるオーク戦士の一団と遭遇してしまいました。
この辺りは雪深くなる為、冬には山に食料がほとんどなくなります。オーク達は私達の運ぶ寄進――食料――が目当てだったのでしょう。
向こうは7匹に対し、私達は2人。しかも雪に足を取られ、思うように戦えません。
あやか様は私を庇いながら戦いましたが、私はあやか様に庇われる気はさらさらなく、その所為で要らぬケガを負ってしまいました。
そこであやか様が食料を囮にして、その場から逃げ出しました。
オーク達は私達が自分達より弱く、もっと食料を持っていると思ったのでしょう。追撃してきました。
あやか様の故郷は雪がよく降る山の中だそうで、その経験を活かして木のうろを見付け、その中に身を隠しました。
私の癒しの力は自分の命を分け与えるものであり、自身を回復させる事はできません。
しかも、外にはオーク達がいるでしょうから、火を熾す事もできません。
あやか様は嫌がる私の傷の手当てをすると、薄着一枚になり、私のチェーンレザーを無理矢理脱がしました。
抱き合って暖め合うというのです。
雪山に明るく、オーク戦士に引けを取らない実力を持つあやか様お1人でしたら、修道院まで帰られたでしょう。
しかし、あやか様は私を、ご自身とリムニアドを裁こうとしていた私を助けようとしたのです。
「私が修道院まで行けば、確かに私は助かるだろう。だが、その間にあなたは‥‥だから私は二人とも助かる道を選ぶ。それに私はリムが来てくれると信じている。あなたも修道院の仲間が来てくれると信じるんだ」
寒さとオーク達に追われる恐怖、そして飢えから自暴自棄になる私を、あの方は何度も励ましてくれました。
あの方の身体は大きく、心は暖かく‥‥リムニアドがどうして好きになったのか、何となく分かった気がしました。
それから約2週間後、リムニアドが雇ったという冒険者達に助けられ、修道院へ戻った後、私はあやか様とリムニアドの事を修道院長に話しませんでした。
あやか様達の気持ちを知ってしまったからです。
未来に命を託せない同性愛は、異種族間の愛は、御身の教えで禁じられていますが、それでも尊いものだと思うのです。
そして私があの方に抱いてしまった気持ちは、果たしてリムニアドと同じものなのでしょうか‥‥。
春になり、修道院の周りの雪も溶け始め、新緑が芽吹き出しました。
しかし、オーク達にとっての食料はまだないのでしょう。教区の村の1つからオークの集団の目撃談が伝えられました。
オークロード自体、この辺りにそうはいないでしょうから、以前、私とあやか様を襲ったオークロード達に違いないです。
私は修道院長にオークロード討伐を進言し、許可を戴きました。
私1人では荷が重いのは当然ですから、サポートとしてあやか様を指名し、冒険者を雇う事にしました。
今度は裁く為ではありません。私の気持ちを確かめる為です。
ああっ、セーラさまっ。
私は、神聖騎士フィディエルは、御身の教えを破ろうとしています。
御身は‥‥私のあの方へのこの気持ちが、御身の教えを破っていないと仰るのでしょうか?
あの方――あやか様をお慕いしている事が‥‥。
●リプレイ本文
●それぞれの出立
激しく軋む木のベッド。甘い吐息がこぼれた後、やがて沈黙する――。
一糸纏わぬ姿のシーン・オーサカ(ea3777)がベッドから出ると、逢瀬の余韻をもっと味わいたいとばかりにフローラ・エリクセンが猫撫で声と共に手を伸ばしてくる。
「久しぶり、ですのに‥‥もう終わり、ですか‥‥? もっと愛して‥‥欲しいです‥‥」
「フローがいじらしいからついいじめてもうたが、これ以上は堪忍な。あやかと一緒に戦う前に精が尽きてまうわ」
フローラの新雪のような白い手にキスの雨を降らせると、シーンは床に脱ぎ散らかした普段着を着た。そしてその隣に置いてある、綺麗に折り畳まれたフローラのローブの上に置いてあった手紙を手に取った。
「フローからのメッセージはきちんと伝えるさかい、いい子で待ってるんやで? 帰ってきたらまためっちゃ可愛がるから‥‥」
シーンはフローラの身体に『行ってきますのキス』を残すと、棲家を後にしたのだった。
「はい、オーク戦士とオークロードの戦力などをまとめたものです」
「急かしてすみません、助かります」
冒険者ギルドの前で愛馬ヴィントの手綱を持って立つカイ・ミスト(ea1911)に、ライラ・メイトが1枚の羊皮紙を渡した。
「なかなか厄介な敵のようですね」
「オークも私達と同じで、経験を積んで強くなるようです。オークロードは、私やカイさんより実力は上です」
「オーク戦士も数が多い以上、侮れないぞ。フィディエルという神聖騎士は知らないが、真田あやかなら十分戦力として期待できるがな」
カイが羊皮紙にざっと目を通す傍らで、レジエル・グラープソン(ea2731)がオークロードの知識を披露した。半日で報告書をまとめようとすればどうしても粗が出てしまう為、最後に物を言うのはモンスター知識だろう。モンスターの専門的な知識を持つツウィクセル・ランドクリフが、ライラのまとめた内容を補足した。また彼は今回修道院から派遣される真田あやかと知り合いだった。
「強敵なら尚の事、私達の足並みを揃えなければならないな」
「困っている人を助けるのが冒険者のお仕事です♪」
「そうだね。あたし達にとっても強敵という事は、オークロード達に脅かされている村人達にとってはもっと恐いはずだよ。腕利きも揃っているし、きっと何とかなるよ」
(「何とかなる気合いだけで何とかなれば、冒険者など要らないだろうに‥‥」)
クリオ・スパリュダース(ea5678)が強敵と戦うセオリーを話そうとすると、エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)が理屈ではなく純粋に困っている人を助けたいと言い、ユーウィン・アグライア(ea5603)もそれに深々と頷いた。
ビザンチン商人のクリオは、本音と建前の共存と使い分けは当たり前。エヴァとユーウィンの純粋な想いだが理想論的な甘い考えに、心の中で舌打ちするのだった。
集合時間に遅れてシーンがやってくると、ライラとツウィクセルに見送られて、レジエル達は修道院へ出発した。
全員が馬を持っており、予定より早めに修道院へ到着した。
「流石に雪は残っていないようですけど、キャメロットより北のせいか、まだまだ寒いですね」
エヴァはネイルアーマーの上に防寒具を羽織っていた。心なしか吐く息もまだ白い。
ユーウィンが外で畑を耕していた女性クレリックに話し掛けると、彼女はフィディエルへ取り次いでくれた。
「しかし、クレリックの服装をしていたけど、貴族令嬢だったなんて驚きだよ」
「修道院はご覧の通り人里離れた場所に建っている事が多いからな。花嫁修行とはいえ、自給自足が基本だ」
ユーウィン達を取り次いだ女性クレリックは、この修道院へ花嫁修行に来ている貴族令嬢だった。モンゴル出身のユーウィンに、カイがイギリスの修道院の仕組みを説明していると、出発の準備を整えていたフィディエルとあやかがやってきた。
「あやか、元気そうやな」
「シーンではないか! あなたも元気そうでなによりだ」
「あやか様のお知り合いでしたか。私にも紹介して下さいな」
シーンとあやかが挨拶を交わすと、フィディエルが割り込んできた。
(「私が後ろから撃ったとしても、倒せるかどうか分からないですね」)
それがレジエルのあやかを見た第一印象だ。ジャパンから来た『巫女』と紹介されたが、ツウィクセルから話は聞いていたし、隠してはいるものの、その体運びには全く打ち込む隙がなかった。
一方、フィディエルは子爵令嬢で、装備こそ立派だが、エヴァが叩いても勝てそうだった。神聖騎士は格闘と神聖魔法、両方を修得できる為、彼女の場合、神聖魔法を重視しているようだ。
●冒険者の恋愛相談所?
この辺りの土地に明るいあやかから、オーク一団を誘き寄せられる場所を聞くレジエルとカイ。特にレジエルは森林の土地勘は達人の粋であり、オークロードにも引けを取らないだろう。更に猟師の経験を持つユーウィンが加わり、具体的な策を煮詰めていく。
その間、シーンとエヴァ、クリオはフィディエルに案内されて教区の村へ行き、オーク一団の目撃情報を集めた。
「シーンから話を聞いているなら、私の事は真田あやかではなく、ヴィルデフラウと呼んで欲しい」
「ヴィルデフラウ(野生女)? それは構わないよ。ヴィルデでいいかな?」
修道院から離れると、あやかは呼称を変えるよう切り出してきた。ゲルマン語も嗜むユーウィンは言葉を訳しながら承諾した。同じジャイアントで、身長もジャイアントにしては2人とも小柄でそう変わらず、何となく親近感を覚えていた。
シーン達がオーク一団の目撃情報を仕入れて帰ってくると、カイ達も誘き寄せる場所を決定し、その日は日が落ちる前に見通しのいい場所を確保して野営に入った。
夕食は、道中はエヴァが味気ない保存食を温かい家庭料理へ調理したが、今度はヴィルデフラウがジャパン風の料理を振る舞った。
夜間のオーク一団の奇襲を警戒し、カイの提案で見張りを立てる事にした。睡眠時間の確保を考え、女性陣が先、男性陣は後というローテーションになった。
ヴィルデフラウとシーンの番になり、2人が見張りに立った後――。
「イギリスは他の国に比べると変態が多いそうですが‥‥」
「ええ、多いですね。カマとかカマとかカマとか」
焚き火を囲んでフィディエルと話すカイ達。
「女性同士の恋愛は百合、というのですよね? それはカマとは同じなのでしょうか? セーラさまの教えを破るのでしょうか?」
「ちょ!? まずは落ち着いて下さい」
突然、思い詰めた表情で身を乗り出して聞いてくるフィディエルを、ハーブティーを吹き出しそうになるのを寸でのところで堪えたレジエルが落ち着かせて訳を話させた。
フィディエルは、ヴィルデフラウと彼女の恋人リムニアドの事を、そして冬に遭難し、ヴィルデフラウに惹かれた事を、セーラ神に懺悔するかのように淡々と語った。
「ヴィルデ君、颯爽としていて格好いいから、そういうの誘発しそ‥‥もとい、同性に好かれそうな雰囲気だよね」
先程、自分が感じた雰囲気も含めて、ユーウィンはある意味納得した。
「神様は寛大ですけど、自分の心の答えを出すのは神様じゃなくて自分だってパパ言ってましたもん。それに未来を託せない同性愛や異種族の愛がダメって、神様本人が言ったの?」
「‥‥その人が幸せなら、私はいいと思うんですよ。半端な気持ちじゃやっていけないですからね」
エヴァの言葉にカイは頷いた。彼の義姉の恋人がエルフの女性で、それを近くで見てきた為か、カイは同性愛や異種族間の愛には比較的肯定派だ。
「でも、人の恋路を邪魔する人は、お馬さんに殴られちゃうっておとうしゃま言ってましたし、相手を思いやって言わない想いもあるって思います」
「そうですね。相手が相思相愛なら、周りがいくら干渉したって無意味ですよ」
一転してエヴァが反論すると、こちらにはレジエルが同意した。
(「剥かれて抱かれてその気になるとは‥‥免疫のない貴族令嬢はちょろいな」)
愛馬に睨まれたクリオは本音は口が避けても言わなかったが。
「で、おたくはどうしたい? どこまでいきたいんだい?」
と代わりに聞いた。
「‥‥どこまでいく、ですか?」
「好きなだけなら問題ないよね。しかし、リムニアドのように一線を越えたいのなら、神聖騎士の道は諦めなよ。エヴァの言う通り、神がどうこうじゃなく、教会やおたくの家、つまりおたくを取り巻く環境が困る。見習いの今なら軽い醜聞で済むし、世俗の者なら倒錯愛に走ったとしても大問題とはいえないからね」
クリオはあくまで現実的に、実際の社会的影響を説いた。フィディエルの場合、神聖騎士と子爵(=貴族)としての立場が常に付きまとってくるからだ。
「あたしは、ジーザス教を信じてる訳じゃないけれど‥‥」
沈黙するフィディエルに、ユーウィンはそう前置きして切り出した。モンゴルは精霊信仰がメインであり、ジーザス教はほとんど広まっていないからだ。
「人は子供を作る為に人を好きになる訳じゃなく、人を好きになった上でその証として子供が生まれる訳で、異種族であれ同性であれ、好きになる気持ちは仕方ないと思うよ。でも運命の相手というのはきっといて、どんなにその人の事を想っても届かない事はあると思うの。その上でセーラ神に祈ってるばかりではなく、覚悟を決めてヴィルデ君に想いをぶつけてみたらどうかな? あたしは地位の事とか家の事とかは、その後から考えてもいいと思うよ」
「‥‥覚悟を決める、ですか‥‥」
クリオとユーウィンの言葉がどう彼女に届いたかは分からないが、その表情から迷いがなくなっていたのは確かだった。
「マレアはんは無事や。超元気なんはウチが保証するで、安心しとき」
「マレア女史に何か遭ったのか!?」
その頃、見張りに立つシーンは、ヴィルデフラウが前に従事していた画家マレア・ラスカの無事を伝えると、彼女は驚愕した。どうやらバースでの戦乱は修道院まで伝わっていなかったようだ。
●決戦!
翌日のお昼前、森に呼子笛の音が鳴り響いた。
「見つけた、あいつらですね。数も揃っていますね‥‥」
『発見したらそれを吹いて下さい。私達への伝達と、相手に気付かせるのに役に立ちますので』
それはフライングブルームで偵察に出たレジエルにカイが渡していたものだ。
「そこの豚の集団! この私に追いつけるか!?」
程なく、レジエルがフライングブルームの上からスリングでオーク一団に石をぶつけながらカイ達が待機する場所へやってきた。
「狙いはオークロードさんだよ!」
「そこだね! 鎧の隙間を貫いてみせるよ!」
エヴァがオークロード目掛けて『ムーンアロー』を放つと、その軌跡を目印にユーウィンがヘビーボウから『シューティングポイントアタック』を射り、オークロードの鎧の隙間に見事に命中させた。
その間、カイとクリオは接近戦に備え、自分に『オーラパワー』や『オーラボディ』、『オーラエリベイション』を付与していく。
リーダーを攻撃され、激昂したオーク戦士達がドタドタと走ってくると、突然、前の何匹かが倒れた。木の上に隠れていたヴィルデフラウが『春花の術』を使ったのだ。合わせてエヴァも『スリープ』を使う。
カイとクリオが控える場所に来る頃には、オーク一団は半数まで減っていた。
「悲しませるわけにはいきませんのでね!!」
「少しは痩せろよ」
オーク戦士の振り下ろされるハンマーをライトシールドで受け流し、『カウンターアタック』を叩き込むカイ。その横ではクリオが同じくパリーイングダガーで攻撃を受け流し、『カウンターアタック』を決めた。
もちろん、そう毎回決まる訳ではない。時にはハンマーの直撃を受け、一撃で中傷を負う事もあったが、リカバーポーションやフィディエルの『ギブライフ』で回復した。
「ぐっすり眠っているようですね‥‥喰らえ!!!」
「まとめてお取引願うよ!」
眠っているオーク戦士はレジエルがスリングで、ユーウィンが『ダブルシューティング』で、エヴァが『シャドウボム』で、シーンが『ウォーターボム』で、確実に倒していった。
「させん!!」
オークロードの『スマッシュ』を度々受け、十全の状態とはいかないが、クリオが蝶のように舞ってオークロードを足止めすると、カイが『チャージング』を繰り出して遂に止めを刺したのだった。
クリオの提案でオーク一団の持っていたハンマーや鎧を分解し、鉄製の部分は屑鉄として修道院に引き取ってもらい、わずかながら臨時収入となった。
「んー、教義第一の神聖騎士はんなら悩むんも当然やろうけど‥‥難しく考え過ぎちゃうかな。人が人を好きになるのって理屈やないやろし。人が寄り添う事は神様だって止められないし、止めるのはいつも人の方やろ。後、愛は決して自分だけの幸せにこだわる為のもんやないで」
「‥‥ありがとう。でも、気持ちの整理はつきましたから」
「初恋は実らないっていうけど‥‥今は苦い経験かも知れないけど、きっといつかフィディエル君の中でヴィルデ君を好きになって良かったと思える日が来るよ」
シーンがお守り代わりにシルバーナイフを渡すと、フィディエルは寂しそうに笑った。その表情からユーウィンは、ヴィルデフラウへの想いは打ち明けず、神聖騎士としての道を選んだのだと悟った。フィディエルはユーウィンに指輪を握らせていた。自分の迷いを断ち切ってくれたお礼のようだ。
「あなたが冒険者を雇わなくても、オークロードをタイマンで倒せるくらいになる日を楽しみにしていますよ」
レジエルはそう言い残して修道院を後にした。
ここに1つの初恋が終わりを告げ、1人の神聖騎士が巣立っていくのだった――。