暴れん坊!? お嬢様

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:菊池五郎

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 83 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:04月23日〜05月01日

リプレイ公開日:2005年05月03日

●オープニング

 その日、冒険者ギルドの扉を開けて入ってきた人物に、受付嬢は思わず息を呑んだ。
 梳った腰下までの金色の髪は室内の灯りを弾いて煌き、潤んでいるような瞳は碧玉と見紛うばかりに輝き、柔らかい顔貌は高貴で清楚な美貌で形作られている。すらりとした肢体を包むのはレースと金糸で彩られた古典的で重厚なドレスである。
 優雅で流麗な物腰は、『深窓の令嬢』という言葉を体現したような、誰から見ても間違いなく美女だった。
 ギルドの店内は冒険者を始め、多くの人々が出入りするので決して綺麗とはいえないが、彼女の存在はあまりにも場違いと言っても過言ではなかった。ギルドより、これからどこかの貴族の屋敷で開かれるパーティーへ訪れるような服装である。
 受付嬢は来る場所を間違えたのではないかと声を掛けようとしたが、深窓の令嬢は入口に立ったまま、頻りに店内を見回し、慇懃無礼よろしく冒険者達を遠慮なく観察しているようにも見える。目的は間違いなく冒険者ギルドのようだ。
 しかし、深窓の令嬢が立っているのは入口のど真ん中である。先程から出入りする者が深窓の令嬢をわざわざ避けているが、彼女は気にした様子はなかった。
 受付嬢が良心で注意しようと席を立つのと同時に、受付へやってきた。
「わたくしを誘拐して下さいませんか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」
 深窓の令嬢の声は春の到来を告げる小鳥の囀りのような、鈴を鳴らしたような、耳に小気味よかったが、その依頼内容に受付嬢はきっかり10秒呼吸するのを忘れた後、思わず聞き返した。
「ですから、わたくしを攫って欲しいのです。そのままキャメロットの外へ連れ出して戴いて構いませんわ。冒険でしたら尚の事宜しいですわね。イギリス語が通用しなければラテン語でお話ししますが?」
「い、いえ、イギリス語で大丈夫です。ここは冒険者ギルドなので、誘拐犯は斡旋していないのですけど‥‥」
 ギルドには多くの国の人が訪れるので、受付嬢によっては数カ国語を操ったり、現代語が堪能だったりするのだが、どうやら聞き間違いではないようだ。
 この深窓の令嬢は、『自分を誘拐して欲しい』と依頼してきたのだ。
「それとも今日びの冒険者は、わたくし1人、攫う事はできないのですか?」
「それ以前に、ギルドでは犯罪事は斡旋しません」
 どうあっても自分を誘拐して欲しいらしく、彼女は更に食い下がる。しかし、この手の困った依頼は比較的多いようで、受付嬢はぴしゃりと断った。
 彼女の雰囲気に呑まれてはいたが、流石は受付嬢、その道のプロである。
 だが、このまま追い返せば、下手をすれば本当に誘拐されてしまうかもしれない。何せ裏通りを1人で歩いていれば、『誘拐して下さい』といわんばかりの出で立ちだからだ。
 受付嬢は深窓の令嬢を店内の奥、依頼書が貼られた場所にある依頼人と冒険者達が相談などに利用するテーブルへ案内すると、貴族の依頼人用に出す紅茶を淹れたのだった。


「‥‥要するに、冒険者があなたを誘拐する事で家出を正当化して、そのまま冒険に出たいという訳ですね」
「家出とは人聞きが悪いですわ。わたくし、常々世の平和を護りたいと思っておりますの。わたくしのような人材を有意に使ってこそ冒険者ギルドでしょう?」
(「家出と変わらないですよ‥‥まぁ、私が同じ立場だったら同情はしますけど」)
 紅茶を飲んで落ち着いたところで、受付嬢が改めて理由を訊ねると、今度は深窓の令嬢――チェルシア・ラフィエット――はきちんと答えた。
 受付嬢の記憶が正しければ、ラフィエット家といえば名門子爵の家である。チェルシアはそこの令嬢という事になる。
 そこから延々と愚痴を聞かされる事になる――礼儀作法に始まり、社交ダンスやら、楽器演奏やら、読み書きやら、チェルシアは令嬢としての嗜みを身に着ける過密スケジュールの中で生活しており、プライベートの時間が皆無だという。
 紅茶を飲む仕草1つを取ってみても優美で鮮麗されており、受付嬢は思わず納得した。
 家出の理由は貴族令嬢にありがちだが、受付嬢はその過密スケジュールにだけは心の中で同情した。
 『世の平和を護りたい』とは大きく出たが、聞く限り、チェルシアは狩りで相当鍛えているようで、投擲に自信を持っていた。狩りは貴族の娯楽の1つで、男女問わず参加する。彼女もそうして腕を磨いていったのだろう。
 だが、猟犬や従者に守られた狩りと、命のやり取りが平気で行われる実戦とでは勝手が違う。
 果たして狩りの腕前がどこまで通用するのか‥‥と受付嬢が逡巡している間に、チェルシアは近くにいた男性冒険者にイスを引かせて席を立つと、壁に貼られた依頼書を見て、その1枚を勝手に剥がしていた。
「街を脅かすコカトリス退治‥‥ですの。たかが鶏如き、わたくしの投擲で仕留めて見せますわ。そこの貴男と貴女、わたくしと共にこの依頼を受けるのです」
 それはコカトリス退治の依頼だった。街外れの廃墟にコカトリスが棲み付き、そこに生える薬草を採りに行った街の薬草師の少女が帰ってこないというのだ。
 コカトリスは体長50cmほどの、鶏と蛇の合いの子のような姿をした鳥型クリーチャーで、嘴に石化能力を持つ侮れない敵だ。
 しかも、チェルシアはギルドの中にいた冒険者を勝手に指名し始めているではないか。
「ちょ!? ちょっといい加減に‥‥ん?」
 流石に受付嬢も我慢の限界のようで、制止しようとしたその時、入口からチェルシアの様子を覗く視線に気付いた。
 今まで全く気付かなかったが、50歳くらいの中年男性が潜ませた身を半分だけ覗かせていた。
 白髪混じりの銀髪をオールバックにし、鼻の下の髭を伸ばした、穏和そうな男性だった。一言で言えば『日向ぼっこが似合うお爺さん』である。
「チェルシアお嬢様がご迷惑をお掛けしているようで‥‥」
 男性はセバス・チャンと名乗り、チェルシアのお目付役だと受付嬢に自己紹介した。
 チェルシアは習い事の途中でセバスを上手く捲いて家出を成功させたつもりだったが、彼はちゃんと尾行していたのだ。
「チェルシアお嬢様のワガママに付き合って戴けないでしょうか?」
「でも、相手は凶悪なモンスターですよ!?」
 セバスの言葉に、受付嬢はまたも驚かされた。いやはや、今日はよく驚く日だ。
「チェルシアお嬢様は正義感が強く、常々、ご自分の力でイギリスの平和を護りたい、と仰っておりました。私も最近のお嬢様のスケジュールは厳しいと思いますし、お嬢様にとってもご自分を見つめ直す良い機会だと思うのです。ご自分の力がまだまだ及ばないと分かれば家に戻られるでしょうし、旦那様もお嬢様が家出をするほど精神的に疲れていたと知れば、多少はお考え直されるでしょう」
 この執事、なかなかの策士である。
 セバスは受付嬢の手に硬貨の入った袋を握らせた。ずっしりとした重みから相当入っているのが分かる。
「それで私からの依頼として受理して下さい。表向きはコカトリス退治ですが、お嬢様のお守りという事で宜しくお願いいたします。お嬢様の冒険の支度も見繕って戴かなければなりませんしね」
「‥‥確かにセバス・チャン様の依頼として受理します。あの格好では街の外は歩けないですものね」
 受付嬢はセバスからの依頼を受けた後、チェルシアの姿を見て溜息を付いたのだった。

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0734 狂闇 沙耶(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

麻生 空弥(ea1059)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ シーン・オーサカ(ea3777)/ エミリエル・ファートゥショカ(ea6278)/ リーシャ・フォッケルブルク(eb1227

●リプレイ本文


●自己紹介から暴れん坊!?
 出会いは一期一会というが――この世に星の数ほど人がいるなら、巡り会いは運命的、或いは神の思し召し、若しくは数奇なものかもしれない。
「街を脅かすコカトリス退治‥‥ですの。たかが鶏如き、わたくしの投擲で仕留めてみせますわ」
 ギルドへ入り、受付を過ぎた奥にある、依頼書が貼られた部屋。そこに響き渡る耳に小気味よく聞こえる声。しかし、その声の持ち主は、明らかに場違いな服飾だった。
「あのフリルのドレス、いいな〜。高そうだけど‥‥」
「いいねぇ、掛け値なしのお嬢様だな。ここは1つお近付きに‥‥」
「そこの貴男と貴女、わたくしと共にこの依頼を受けるのです」
 ティアイエル・エルトファーム(ea0324)は声の主――チェルシア・ラフィエット――の纏うドレスをうっとりとした表情で見つめ、リオン・ラーディナス(ea1458)が明るく話し掛けようとしたすると、逆に彼女が2人を指差してきたのだ。
「へ? ふぇっ!? ボクも行くの!?」
「えっ、私!? あのー、私、バードなんだけどー」
 リオン達だけではなく、突然指を差されたエル・サーディミスト(ea1743)は素っ頓狂な声を上げ、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)は自分を指差し確認して聞き返した。
「どれ、貸してみろ! コカトリス退治か‥‥お嬢の我が侭に付き合う気は更々ないが、倒し甲斐のある敵には変わりないな」
「薬草師の少女がコカトリスの棲み付いた廃墟へ行ったきり、帰ってこないそうですね。依頼に薬師の救出も含まれています」
「人助けでしたら受けない訳にはいきませんね。頑張りましょう」
 クオン・レイウイング(ea0714)はチェルシアから依頼書を奪い取ると、依頼内容に目を通した。いきなり指名されて驚いていたクウェル・グッドウェザー(ea0447)も、依頼書を覗き込んだミィナ・コヅツミ(ea9128)から人命救助と聞いて快諾した。
「理由はどうあれ、冒険者になりたいとは見上げたものじゃな。わしは狂闇沙耶と申す、宜しくな」
「いやぁ、今度は別のお誘いが欲しいよね。パーティー会場とか〜、2人だけの夜警‥‥もとい、夜景とか〜」
 狂闇沙耶(ea0734)が挨拶をする横で、初対面なのに馴れ馴れしく話し掛けるリオン。肩に手を伸ばそうものなら、いつもなら平手打ちや右ストレートが飛んでくるのだが‥‥。
「先ずは、挨拶をするのが礼儀ではなくて?」
「え!? ああ‥‥これは失礼‥‥ん?」
 彼女はリオンへ手の甲を差し出した。いつもと違う反応にリオンは戸惑いながらも、絹のように滑らかなチェルシアの手の甲に接吻をした。手を取った時、彼女の掌が手の甲と違って妙にごつごつしているのに気付いた。これはマメの類だろう。
「チェルシアお嬢様がご迷惑をお掛けしているようで‥‥」
 ティアイエルは入口からチェルシアの様子を心配そうに伺う、中年男性の姿を見付けた。彼はチェルシアのお目付役でセバス・チャンと名乗り、実は彼女が家出を企んでいるとかい摘んで話した。
「窮屈な思いは分からない訳でもないよ。あたしも以前、家出した事あるし。せっかくの縁だし、とにかく少しでも息抜きになってもらえるよう、冒険に付き合うよ♪」
 チェルシアの冒険の装備を整える支度金を、かつて同じ境遇だったティアイエルが笑顔で受け取った。
「家出、上手く誤魔化してくれるのよね?」
 話を聞いていたヴァージニアが確認すると、セバスは「ご旅行へ行っている事にします」と頷いたのだった。

●道中も暴れん坊!?
「しかし、その出で立ちでこかとりす退治に行くのか?」
「ドレスは貴族の最低限の嗜みですわよ」
「お前なぁ‥‥これから俺達が行くのは貴族のパーティーじゃなくて依頼だ。自分の身の丈に合わない装備を選ぶような冒険者は単なる馬鹿だぜ」
 沙耶の指摘に、チェルシアは一回転してスカートを翻す。クオンは頭痛を覚えて額を押さえつつも、冒険者らしい装備をするよう促した。
「出発前までに、チェルシアさんの装備を整えないとね」
 ヴァージニアはチェルシアの身体のサイズを聞くと、沙耶とミィナ、リオンとティアイエル、麻生空弥とシーン・オーサカを連れて装備を調達しに出かけた。

「助かったよ。ボク、薬草の事しか分かんないしね。そうか、コカトリスに石化されたら、コカトリスの瞳を使う以外にも1匹分の血を掛ければ生身に戻せるんだね」
 エルはモンスターに詳しいエミリエル・ファートゥショカから、コカトリスの生態から石化を戻す方法まで、彼女の分かる範囲の情報を教えてもらった。

「フリーデさん、また留守のようですね」
 クウェルは石化解除薬やコカトリスの瞳を作ったエルフの薬師(くすし)フリーデ・ヴェスタの棲家を訪れたが、彼女は相変わらず自ら薬の素材を探しに出かけているようで留守だった。

 ギルドの建つテムズ川のほとりで、リーシャ・フォッケルブルクがチェルシアに戦い方を教えているところへ、ミィナ達が戻ってきた。
 調達してきたのはネイルアーマーと水晶のティアラ、ダガーとダーツ10本、日数分の保存食に簡易テントに寝袋、それとリカバーポーションとヒーリングポーションだった。
「この旅装束とやらは、肌触りはいまいちですわね。これをわたくしに着ろと?」
「そのひらひらしたドレスよりすっきりするわよ。冒険者にとって敏捷さは命に関わる程大事なの。重くて動けないなんて、死んでからじゃ遅いのよ? 格好は二の次よ」
「まぁまぁ。えーと、ファッションとゆー事なら、コレなど如何でしょう?」
 ヴァージニアが着替えを手伝う傍らで、「豪華なマント〜」と鼻声でミィナはバックパックから豪華なマントを取り出すと、チェルシアの肩に掛けた。
「これは俺からのプレゼントね。うん、やっぱりキミには水晶がよく似合うよ。もっとも、水晶の輝きもキミの前では霞んでしまうけどね」
「あ、ありがとうございますわ‥‥」
 リオンが水晶のペンダントをチェルシアの首に掛けた。息が掛かるくらい顔が近付くと、彼女は頬を桜桃のように染めてそっぽを向いてしまった。

 装備を整えたところで、オルステッド・ブライオンが戦闘訓練を行うと、チェルシアの投擲の腕前は専門レベルだと分かった。「平和を護りたい」という台詞は口だけではないようだ。

「わたくしに農耕馬に乗れと!? 失礼ではありませんか!?」
 出発する時になってクウェルが愛馬を提供すると、それが普通馬だったのでチェルシアは怒り出してしまった。クオンが渋々愛馬を貸すと、チェルシアは然も当たり前のようにその背に跨った。クウェルがクオンにフライングブルームを貸し、代わりに駿馬の手綱を引いた。

「チェルシアにはお兄さんがいるんだね。あたしと同じだね♪」
「兄君は家督を継ぐ身ですわ。そうなればわたくしは他家へ嫁ぐだけですわ‥‥」
「結婚を嫌い、それで冒険者になりたいと思ったのじゃな」
「でも、確かに礼儀作法に、社交ダンスに、楽器演奏に、読み書きに‥‥あたしでも逃げ出しちゃうよ〜」
「習い事も大切だと思います。それだけラフィエットさんに期待なさっている裏返しだと思います」
 年齢が近い所為か、ティアイエルや沙耶と話が弾んだ。チェルシアの家族の事や普段の暮らしから、何故家出をしようとしたのか、少しずつだが話していった。貴族の家庭の事情話で場が暗くなると、クウェルが笑ってその場は取りまとめた。

「まずまずの味ですわね。貴方、貴族の料理人になれましてよ?」
 夕食時。最初はミィナが保存食を調理しようとしたが、彼女は家庭料理しか作れないのでチェルシアが駄々をこね、急遽、クウェルが調理した。実はプロ並の腕前を持つクウェルに掛かれば、味気ない保存食もチェルシアが誉めるくらいの料理へ様変わりした。
「食事はしっかり採って、休める時にはきちんと休む。冒険の基本です。熟練の冒険者でも、食事を抜いて体力が落ちた所為で、本来の実力を発揮できずにモンスターに負けて死ぬ‥‥そんな事もありますから」
 ミィナが寂しそうにいう。空腹は最大の敵なのかも知れない。
 実はティアイエルを始め、クオンや沙耶は保存食を持ってきておらず、余分に持ってきたリオン達が分けていた。どうやらチェルシアの支度金で買おうと思ったようだが、この支度金はあくまで彼女の支度金である。
 食後、ヴァージニアが愛器の竪琴を取り出すと、朗々と天上の歌声を紡ぎ始めた。
「わたくしが今まで聞いた中でも、トップレベルの演奏と歌声ですわ! 貴女、わたくしに家の楽師になりません?」
「んー、遠慮しとくわ。私は1人の人より、より多くの人に歌を聞いて欲しいから」
「それは残念ですわ‥‥宜しければわたくしと一緒に寝ません? ティアイエルの話も聞きたいですし」
 ヴァージニアはチェルシアの誘いを丁重に断ると、彼女は残念がるものの、自分のテントへ沙耶達を誘った。女性陣はすっかり仲良くなったようだ。

●戦闘も暴れん坊!?
 依頼主の住む街へ着くと、ミィナはクウェルからフライングブルームを借りてヴァージニアとクオン、エルと共に廃墟へ偵察に出掛けた。
 その間に沙耶達は依頼人に会い、廃墟の事を聞いた。依頼人は薬草師の妹で、姉は普段通り廃墟へ薬草を採りに行ったそうだ。コカトリスが棲み着いたのは、つい最近のようだ。
 また、廃墟は昔の城塞跡で、城はとっくに取り壊されたが、城壁や建物の一部がまだ残っているという。

「空からでの偵察は限界がありますね」
「コカトリスと薬草師はクオンさんに任せて、私達は地形を把握するわよ」
 思いの外、遮蔽物が多く、ミィナとヴァージニアは上空からではコカトリスの姿も薬草師の姿も見付ける事はできなかったが、地形を頭に叩き込んだ。
「コカトリスは近くにはいないようだよ。頑張ってね、相棒☆」
 一方、クオンは『忍び歩き』こそ達人の域だが、敵を察知する能力はそう高くなく、エルが『ブレスセンサー』を使って不意打ちに十二分に注意しながら地上から偵察した。

 翌日、安全を確かめたクウェルが、コカトリスを誘き寄せる為に、ミィナ達が調べた見晴らしのいい場所へ強烈な匂いの保存食を撒いて、獲物が現れるのを待った。
「来たよ。エミリエルから聞いた話より、一回り大きいかな?」
 待つ事数時間――エルの『ブレスセンサー』が自分達以外の呼吸を捉えた。体長6、70cm程の、鶏と蛇の合いの子のような姿をした鳥が城壁跡から現れ、辺りを伺いつつ保存食に近付いてゆく。
「大蝦蟇召喚!」
 沙耶が『大ガマの術』を使って召喚した大ガマをけしかけ、シールドソードとクルスシールドを構え、守りを固めたクウェルと、日本刀を抜いたリオンがコカトリスの前に躍り出た。
 コカトリスは嘴で啄んでくるかと思いきや、リオンの手前で羽ばたき始めた。
「く!? ソニックブームだと!?」
 『フェイントアタック』を混ぜた『ソニックブーム』のような羽ばたきを、リオンはまともに受けてしまう。ダメージこそ少ないが、このコカトリス、一回り大きいのは伊達ではない。続く羽ばたきは、クウェルがクルスシールドで受けた。
 エルが『プラントコントロール』でコカトリスの近くの草を操って巻き付けようとするが、これはかわされてしまう。その隙にリオンが日本刀で斬り付け、続けてクウェルがコカトリスの脚を狙おうとするが、そのような芸当はコンバットオプション無くしてそうそうできるものはなく、普通に薙いだに留まった。
 その間、クオンが梓弓に2本の矢を番え、『ダブルシューティング』の準備を終える。その横で沙耶が短弓から矢を放つがこちらはかわされ、チェルシアの2本のダーツはコカトリスの身体を的確に捉えた。
「まどろっこしいですわね。わたくしが仕留めて御覧に入れますわ」
 止めを刺そうと、チェルシアがダガーで斬り込んでいこうとした次の瞬間、もう1匹のコカトリスが丁度彼女の真横に現れた。
 『ローリンググラビティー』を高速詠唱すると、今度はチェルシアまで巻き込んでしまう。エルは躊躇う事なくチェルシアに抱きついて制止すると、身体を入れ替えた。
「ぜ、全員生きて帰還して‥‥それで初めて依頼成功なんだよ。ま、周りの事を考えられないなら‥‥冒険者になんてなれないんだからぁ!」
 コカトリスに啄まれたエルの脚が灰色く変色してゆく。それでも彼女は思い余ってチェルシアの頬を張っていた。
 最初のコカトリスがリオンとクウェルを肉薄する。
「援護いたす!」
「チェルシアには近付けさせないよ! チェルシアもエルを護って!」
 沙耶が援護射撃を行い、ティアイエルが『ライトニングサンダーボルト』を2回唱える。自分を庇って石像と化すエルに呆然としていたチェルシアも、ティアイエルの言葉で我に返るとダガーを投げ付けた。
 そこへクオンの必殺の一撃――『ダブルシューティング』+『シューティングポイントアタック』――が放たれ、コカトリスを射抜いた。
 だが、もう1匹がリオンの側面から攻撃を仕掛ける。所謂、膝かっくん――『トリッピング』――だ。軽く体勢を崩したリオンへ嘴が迫る。
「仲間を護ってこそ、冒険者‥‥ですわよね?」
 リオンを庇ったのはチェルシアだった。軽装だったのが功を奏し、即座に動けたのだ。
「‥‥こいつを倒したら必ず助けるからな!」
 ヴァージニアの『ムーンアロー』が放たれ、沙耶が矢を射り、クウェルのシールドソードを振るい、クオンが必殺の一撃を再度繰り出し、ティアイエルが『ライトニングサンダーボルト』を唱え、そしてリオンが日本刀を振り下ろす。
 遂に2匹のコカトリスを倒す事ができたのだった。

●最後まで暴れん坊!?
 ミィナがコカトリスの巣の近くで石化して転がっていた薬草師の少女を見付けて、フライングブルームで回収すると、エルと一緒にコカトリスの血で元に戻した。チェルシアはリオンがコカトリスの瞳を使った。

「お遊びで仲間を危険に晒す奴を冒険者とは認めねぇし、冒険者が本当に大切なものは金でも名誉でもなく、仲間だ。それが分かったなら、お嬢を仲間として認めてもいいぜ」
 生身に戻ったチェルシアに、クオンはほんの少しだけ感心して声を掛けた。
「わし自身、我が侭で冒険者をやっておるようなものじゃが、今回の依頼、達成してどう思ったのじゃ?」
「今度はエルに庇われなくてもいいよう、もっと鍛えねばなりませんわね。エルには礼をいいますわ。これで身だしなみを整えるといいですわよ」
 沙耶に聞かれたチェルシアは反省点を上げるものの、懲りてはいないようだった。エルに化粧道具を渡した。そしてリオンには自分が嵌めていた護身用の指輪を渡す。
「貴方やエル、ヴァージニアはわたくしの事をチェリーを呼ばせて差し上げますわ」
 セバスと共に帰路に着くチェルシアは、最後の最後までお嬢様だった。

●コミックリプレイ

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