【竜巻娘】親友(とも)を呼び醒ます花

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:菊池五郎

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 68 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月26日〜06月04日

リプレイ公開日:2005年06月03日

●オープニング

 キャメロット郊外にある、林に囲まれた療養所。ここは周りの人々に『花屋敷』の俗称で呼ばれている貴族の別荘だ。
 元々は病弱な娘の為に建てた別荘だったが、敷地からほとんど外へ出られない娘を不憫に思った親が、療養所として開放していた。もっとも、利用できるのは貴族か、冒険者ギルドから紹介された冒険者――身分が保証されている者――くらいだったが。
 花屋敷と呼ばれているように、別荘の周りには四季折々の花が咲き誇り、ハーブが翠の彩りを添えていた。これらは全て、花好きの貴族の娘が手塩に掛けて育てていた。

 別荘の1階にあるその部屋は窓が開け放たれ、まだ冷たさを纏った春の風がカーテンを優しく揺らしていた。
 窓の桟に寄り掛かり、蝶の羽根を背中に湛えるシフールの少女が外を眺めていた。薄赤いポニーテールが、カーテンと一緒に揺れていた。
 いや、眺めていた、というのは違うかもしれない。髪と同じ色の瞳は焦点が定まっておらず、そこに宿る意思の光も弱々しい。ただ、虚空に向けられてぼーっと見開かれているだけだった。
「ホルン、入るよ」
 その時、部屋の扉がノックされ、エルフの少女が入ってきた。
 褐色の肌のエルフの少女は、どこか野生の猫を思わせる、しなやかで勝ち気な容貌をしていた。伸ばし放題の蜂蜜色の髪は腰辺りで大雑把に纏められ、それが彼女の性格をよく表していた。
 袖が無くゆったりとしたスカート――但し、前後は動きやすさを重視しミニ並に短い――のワンピースの腰帯の後ろには、剣を差していた。
 そして髪の隙間から覗く背中には、肩から腰に掛けて袈裟懸けに生々しい刀傷の痕があった。
 エルフの少女の名前はタルナーダという。タルナーダとはロシア語で“竜巻”を意味する。その名の通りタルナーダは、この出で立ちでも高速詠唱を得意とする風のウィザードだ。
 冒険者仲間からは“竜巻娘”という、本人からすればちょっと微妙な愛称で呼ばれている。
 ホルンと呼ばれたシフールの少女は、タルナーダがロシアからイギリスへやってきた時に知り合った、親友(とも)と呼べる存在だ。
 しかし彼女は盗賊団に捕まり、人身売買を商売にする悪徳商人へ売り払われたところをタルナーダと冒険者達が助け出した時には、記憶と言葉を失っていた。
 総じて陽気で好奇心旺盛なシフールにしては珍しく、ホルンは穏やかで物静かな性格だが、それでも居るだけで周りが明るくなるような雰囲気を持っていた。だが、今の彼女にはその雰囲気はかつての欠片もない。それがタルナーダの悲しみをより一層深めていた。
「フローラからもらってきたんだよ。今日咲いた花だって」
 タルナーダは春の花の入った素焼きの水差しを、ホルンの前に置いた。フローラとは、この別荘の持ち主であり、療養する貴族の娘の名前だ。
 ホルンを助け出した後、すぐに医者に診せたところ、特に外傷はなかった。記憶と言葉を失ったのは、心的なショックが原因のようだ。
 その心的ショックが癒されれば、ホルンの記憶と言葉は蘇るそうだが‥‥果たしてそれがいつなのか、医者にも分からなかった。今日なのか明日なのか、1週間後なのか1ヶ月後なのか、それとも1年後なのか、或いは‥‥。
 タルナーダはギルドにここを紹介してもらい、別荘の警備をしながらホルンの療養に甲斐甲斐しく付き添っていた。
「‥‥は、な‥‥」
「!? ホルン‥‥今、喋った!?」
「‥‥は、な‥‥」
 虚空を彷徨っていたホルンの瞳にわずかに焦点が戻り、素焼きの水差しの花の方を見た。ホルンは草花が好きで、フローラの好意でほぼ毎日彼女の前に花を出していたが、反応を示したのは今日が初めてだった。
「‥‥もし、ホルンの好きな花があれば、反応を示してくれるかもしれないよ!」
 タルナーダは思わず拳を握り締めていた。彼女とホルンの付き合いは、そう長くはない。タルナーダもホルンの好きな花までは知らなかった。
 その時、ホルンが前に言っていた『好きな場所』を思い出した。春になると訪れるという、野生の草花が咲き綻ぶ、ホルンのお気に入りの場所!
「そこに連れていけば、もしかしたら‥‥」
 タルナーダは居ても立ってもいられなくなった。

 フローラにその場所について訊ねると、彼女も大まかな場所だけは知っており、羨ましがられると同時に心配された。
 だが、行くにはいくつか障害があるという。今の時期は蜂が多いだろうし、中には大きな蜂もいるらしい。また、パピヨンと呼ばれる毒を持った蝶がいるかもしれない。
「ラージビーにパピヨンか‥‥それさえやり過ごせれば、本当にピクニックなんだけどね」
 ホルンを背負って1人で行くには、今の自分の実力では困難だった。
 タルナーダはフローラの執事グレイスンにしばらくホルンの世話を任せると、キャメロットへと向かった。

●今回の参加者

 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea0745 ソウジ・クガヤマ(32歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

リカルド・シャーウッド(ea2198)/ タケシ・ダイワ(eb0607

●リプレイ本文


●約束
「旦那様ったら酷いですわ。わたくしを置いて出掛けてしまうなんて‥‥こうなったらわたくしだって遠出してしまいますわよ。帰ってきてもお出迎えしませんわ、ええ、しませんとも」
 パラのウィザード、エステラ・ナルセス(ea2387)は頬を膨らませながら冒険者ギルドへの道を歩いていた。エステラは旦那様が1人で出掛けてしまい、おいてきぼりを食ったのでご機嫌斜めなのだ。
 たおやかで大人びた彼女だが、そこはやはりパラ。拗ねる様は木の実を口一杯頬張ったリスを思わせるほど愛らしい。
「ピクニックの護衛だね? 了解、任せときなって!」
 旦那様が遠出したのでしたらわたくしも、と気分転換を兼ねてギルドへ行くと、丁度、ファイターのユーディス・レクベル(ea0425)が、褐色の肌のエルフの少女の前で逞しくも豊満な自らの胸を叩いている場面に出くわした。
「ピクニックに護衛、ですの?」
「ああ、このタルナーダさんの親友のホルンさんって娘が花を見に行きたいって、ちょっとした遠出をするらしいんだよ」
「なるほど、花が咲いている場所には、相応のモンスターがいてもおかしくありませんものね。その為の護衛ですか」
「察しがいいね、そういう事だよ。まぁ、モンスターといってもパピヨンとかラージビーだから、それほど遅れを取るとは思わないどね」
 『ピクニック』という単語に惹かれたエステラは、話が終わるのを待ってユーディスとタルナーダに訊ねた。ユーディスは依頼書を渡しながら、たった今、タルナーダから聞いた依頼の内容をかいつまんで話した。植物について多少なりに嗜んでいるエステラは、直感でそれらに集まるモンスターに対しての護衛だと察したようだ。
 エステラは依頼人――タルナーダ――を失礼のない程度に観察すると、腰にノーマルソードを帯びているが、服装からウィザードのようだ。
「ホルン様の好きな場所ですか。わたくしも是非見てみたいですわ」
 渡りに船とはまさにこの事をいうのだろう。護衛の依頼だが、ピクニック気分を味わえるのし、聞けば向かう場所には珍しい花が咲いているというのだから悪い条件ではない。
「‥‥ただのピクニックではないですよ‥‥」
「ホルンの記憶はまだ戻っていないようだな」
 そこへレンジャーのイェーガー・ラタイン(ea6382)と、エルフのレンジャー、ソウジ・クガヤマ(ea0745)がやってきた。2人はピクニック気分とは程遠い険しい面持ちをしており、その口振りから事情に精通している事が伺える。
「記憶? どういう事なのかな?」
「せっかくのピクニック気分に水を差すようで悪いが‥‥」
 ユーディスは怪訝そうな表情を浮かべた。ソウジはタルナーダに目配せをし、彼女が頷いた事を確認すると、ユーディスとエステラに彼女とホルンの身の上を切々と語った。

 ――野盗達に襲われ、タルナーダは背中に深い傷を負い、ホルンは攫われてしまった。
 野盗達が売り払った悪徳商人の元から助けた時には、ホルンはタルナーダを失ったショックから記憶と言葉を失っていた、と――

「なんて酷い事を‥‥」
「なんだよそれ!(ああ、もう、知らずにいた自分に腹が立つ〜)」
 話が終わると、ユーディスは口元を押さえていた。目にうっすらと涙が滲んでいる。ユーディスは憤懣やるかたないと、右手の拳を左手の掌に力強くぶつけて目を瞑った。“竜巻娘”の話は、風の噂で耳にした程度だったからだ。
「‥‥でも、依頼を出されたという事は、ホルンさんのお気に入りの場所に、記憶を取り戻す鍵があるという事ですよね?」
「いつ記憶が戻るか分からないなんて、あたしは待てないし耐えられないからね。だから少しでもホルンの記憶を取り戻せる切っ掛けを与えたいんだよ」
 タルナーダは新緑を思わせる瞳でイェーガーの黒い瞳を真っ直ぐ見つめ、待つよりも少しでも可能性を切り開く道を選ぶと話した。
「そういう事でしたら喜んで、依頼を受けさせて戴きますわ」
「そうだね。私もホルンさんを無事にお気に入りの場所に送り届けられるよう、尽力するよ」
 エステラとユーディスは、依頼を必ず成功させると決心するのだった。

●それでもピクニック
 キャメロットを立ったソウジ達は、ホルンを迎えに『花屋敷』の俗称で呼ばれている貴族の別荘へ立ち寄った。
「この娘があたしの親友(とも)のホルンだよ」
 タルナーダがシフールの少女ホルンをお姫様だっこして連れてきた。躊躇う事なく『親友(とも)』と紹介する辺り、エステラは2人の絆の強さが美しく素晴らしいものだと実感できた。
「エステラですわ」
「ユーディスだよ、よろしくね」
「‥‥」
 初対面の2人は自己紹介しながら、エステラは薄紅いポニーテールを手で梳き、ユーディスは手を取って握手するが、ホルンの髪と同じ薄紅い瞳には意思の光はほとんど灯ってなく、明後日の虚空に呆然と向けられたまま2人を見る事はなかった。
「‥‥声は聞こえているようですが‥‥」
「今のところ、特定の花にしか反応を示さないんだよ」
 イェーガーが診たところ、話し掛けると瞬きをしたり、わずかに耳や首を動かしたりと、聞こえたり、見えたりはしているようだ。しかし、記憶がないのでそれを認識できないのだろう。
 『花』が唯一、失われたホルンの記憶の片隅を照らす一筋の光明なのかもしれない。

 ホルンが春になると訪れるというお気に入りの場所は高原にあった。
 ホルンは身体には異常はないので、イェーガーやソウジが代わる代わる腕や肩に座らせたり乗せて運んだ。
 途中、エステラが旦那様との馴れ初めといった惚気話をし、ユーディスは悪人を千切っては投げ千切っては投げした警護の仕事の話をし、タルナーダとの仲を深めていった。

 ふと、ソウジにホルンを渡したイェーガーがタルナーダの腰を見ると、腰帯にシフールの礫が括り付けてあった。
「‥‥まだ、持っていてくれたのですね‥‥」
「大切なお守りだからね。このお陰でホルンに会えたと思ってるよ」
 それはイェーガーが前に渡したものだった。彼女は後生大事に持っていたのだ。
「――お喋りはそこまでだ」
 ソウジの鋭い声音が2人の会話に割って入った。後続のユーディス達を制すと、辺りを頻りに伺う。
 見れば8匹近くのパピヨンが花畑を悠々と飛んでいた。
「パピヨンだね。その鱗粉には毒があるから、吸い込まないようにね」
 ユーディスは刺繍入りハンカチーフを顔に巻き、タルナーダとホルンにも渡した。彼女に倣い、ソウジとエステラは越後屋手拭いを、イェーガーは水に濡らしたエチゴヤマフラーを、それぞれ口を覆うように捲いた。
「‥‥1人2匹、倒せば済みます‥‥」
 毒の鱗粉にさえ注意すれば、パピヨンもただの蝶に過ぎず、イェーガー達の敵ではない。
 ソウジはタルナーダを後ろに下がらせると両手に構えたダーツを投げ、イェーガーとユーディスはGパニッシャーで殴りかかり、エステラは風の刃を飛ばして、それぞれ2匹ずつ倒したのだった。
「羽音!? ラージビーだよ!」
 しかし、ユーディスがラージビーの羽音に気付いた時には、接近を許していた。
 ソウジとユーディスは辛うじてかわすが‥‥。
「‥‥うわ!?」
 巨大な針で刺されたイェーガーはその場に崩れてのたうち回り、全身を蝕む激痛から遂には気絶してしまう。
「一撃で重傷ですの‥‥手出しはさせませんわよ」
 イェーガーに近付こうとするラージビーを、エステラは風の刃で牽制する。
「我は放つ風の白刃!!」
「えぇい! 近寄るな鬱陶しい!」
「どりゃ!!」
 彼女に合わせてタルナーダが高速詠唱でウインドスラッシュを唱え、ソウジがダーツの代わりにムーンアローのスクロールを広げた。立て続けに魔法を喰らって怯んだ隙を見逃さず、ユーディスがGパニッシャーで叩き落としたのだった。
 幸い、ラージビーは1匹だけのようだ。

 解毒を終えたイェーガーは甘酸っぱい匂いで意識を取り戻した。自分がタルナーダに膝枕されているのが分かった。鼻腔をくすぐるこの匂いは、タルナーダ自身の香りだろう。
 もう少し柔らかく温かい太股で休みたい気持ちも心の片隅に芽生えていたが、恥ずかしさの方が勝ってしまい、起き上がる。エステラから渡されたヒーリングポーションを飲み干し、次いで自分のリカバーポーションを飲んで何とか傷を癒した。
 ホルンの好きな場所はもうすぐそこだった。

●蘇る絆
「‥‥ここがホルンの好きな場所‥‥」
「凄いね‥‥」
「イギリスにもこのような場所があるのですね」
 ホルンの好きな場所に着いた女性陣は感嘆の声を上げた。
 緩やかな斜面のそこは心地よい春風に生い茂る草木が揺れ、様々な春の花が咲き綻んでいた。
「さっきの戦いで疲れたし、寝っ転がって昼寝をしたら気持ちいいだろうな」
「‥‥既にしているじゃないですか。遅いですけど昼寝の前に昼食にしましょう‥‥」
 言うより早くソウジは草原に大の字になって寝ころんだ。イェーガーは苦笑しつつ、バックパックからハーブワインを取り出して見せた。
 ラージビーと戦った後、目的の場所が近い事からタルナーダが強行軍を希望し、昼食抜きで登ってきたのだ。
「じゃ〜ん、私のお弁当は手作りなんだよ」
「ユーディスも料理するんだ。あたしもそうだよ」
「ふっふっふっ、俺の弁当は常連の食堂のコックの特別メニューだぞ」
「あら、奇遇ですわね。わたくしのお弁当も行き付けの食堂のものを持ってきましたのよ」
 ユーディスのお弁当は、主菜は頭から骨までバリバリと食べられるフィッシュフライに、副菜は茹で野菜。
 タルナーダのお弁当は、主菜はローストビーフで副菜はキドニーパイ。
 2人ともお手製である。
 ソウジに至っては『らんぷ亭』のコック、リカルド・シャーウッドの特製弁当で、堅焼パンに硬質チーズと挟んでも焙っても美味しい羊肉の薫製、クルミとリンゴのドライフルーツの盛り合わせ。
 ソウジと同じように行きつけの食堂のお弁当を持ってきたエステルだが、彼女のメニューはローストチキンと茹で野菜、ベリー類のドライフルーツだった。
 イェーガーは普通の保存食だか、タルナーダが用意したエールの他に、ハーブワインと甘酒を提供した。
 お互いのお弁当を突っつき合いながら、イギリスで飲み慣れたエールと、薫り高いハーブワイン、そして不思議なのど越しと味の甘酒で喉を潤したのだった。

 食後、ソウジは先程宣言したように草原に大の字になって寝転がった。目の前に広がる青空は雄大で、雲が悠々と流れている。
 彼の近くではホルンが切り株にちょこんと腰掛け、タルナーダが花冠を作ったり、ネックレスを作ってホルンを飾り立てている。
 ソウジは寝返りを打つと、その光景をぼーっと見た。

「護衛以外で何ができるか思いつかないし‥‥」
 ユーディスは周囲の警戒を兼ねて、ホルンの快癒を願った幸運のクローバーを探しに散歩していた。

「香りにはリラックス効果がありますわね‥‥そうですわ」
 特定の花の香りが記憶を少し引き戻したというタルナーダの話から、記憶を呼び醒ます助けになるのではとエステラは思い、香り袋に使えそうな草花を集め始めた。

「‥‥ホルンは、確かに綺麗な花が好きなのかもしれない。この場所も好きなんだろう。でも、今、本当に一番見たいのは、本当に一番好きなのは‥‥タルナーダ、お前の心からの笑顔だと思う」
 ソウジは一心不乱に花冠や花のネックレスを作ってはホルンに被せたり掛けるタルナーダの姿にいたたまれなくなり、そっと近寄った。
「ホルンの事で責任を感じるのは分かる。けど、お前がいつまでも沈んでたら、ホルンだって悲しいさ」
「‥‥そんな事百も承知だよ。でも‥‥あたしは笑えないんだ、ホルンが笑ってくれないと‥‥心から‥‥」
「タルナーダ‥‥」
 寂しそうに笑うタルナーダは、風の精霊魔法を操り、剣の使い手でもある“竜巻娘”ではなく、19歳という年相応の小さな女性のようにソウジは思えた。思わず身も心も支えたいと、抱きしめようとしていた。
「タルナーダさんとホルンさんにプレゼントだよ〜」
「わたくしもプレゼントがありますの。いい香りですのよ」
 そこへクローバーを持ってユーディスが、手製の香り袋を持ってエステラが帰ってきた。ソウジは慌てて両手を引っ込めた。
 クローバーをホルンの髪に挿し、香り袋を腿の上に置くと、ほとんど自分では動かなかったホルンがクローバーに触れ、香り袋の匂いにわずかに顔が綻んだ。
「‥‥ホルン‥‥真逆!?」
「‥‥皆さん、こちらへ来て下さい!」
 タルナーダが驚くと同時に、物静かなイェーガーの叫び声にも似た呼ぶ声が聞こえた。

 そこに数本の樹があり、風に舞う雪のように花を散らしていた。
「この木は‥‥?」
「友達のタケシさんから聞きましたが、ジャパンには‥‥」
「‥‥はな‥‥」
「「「「「!?」」」」」
 タルナーダの問いにタケシ・ダイワから聞いたジャパンの花の話をしようとしたイェーガーを遮って、ホルンが口を開いた。
 一同は思わず、彼女を見た。
「‥‥はな‥‥私の好きな花‥‥」
 ホルンは記憶を取り戻したのだった。
「‥‥お帰り、ホルン!!」
「痛いですよ、タルナーダ‥‥でも、無事でよかったです」
 力一杯ホルンを抱き締めるタルナーダ。会話が若干食い違っているのは、ホルンの記憶が野盗に攫われた後から途切れているからだろう。
「‥‥やはり、タルナーダさんもホルンさんも、笑顔が一番素敵ですね‥‥」
 イェーガーが親友同士の真の再会をしみじみと見守ると、ユーディスもエステラもソウジも深々と頷いたのだった。

 その時、一陣の風が吹き、親友達とその仲間を祝福するかのように、満開の桃色の花びらがより一層舞ったのだった。

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