伝説のお姫様に会いたい

ショートシナリオ&
コミックリプレイ プロモート


担当:菊池五郎

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月11日〜07月19日

リプレイ公開日:2005年07月20日

●オープニング

「俺は聖剣エクスカリバーを持つアーサー王だ! みんな、俺に続け〜!!」
「ずるいよ〜! アーサー王は俺だよ〜!」
「では僕はラーンス・ロットです」
 近所の子供達が、“アーサー王と円卓の騎士ごっこ”に興じていた。男の子達は騎士に憧れるものだが、中でもアーサー王に仕える円卓の騎士はすこぶる人気で、ごっこ遊びの時、その役分けで揉めるのが日常茶飯事だ。
「あ、シエル様、お帰りなさい〜」
「はい、ただいま」
 エクスカリバーと称した棒切れを掲げ、先頭を走っていた少年が、前からやってくる女性クレリックの姿を認めると、元気よく挨拶を交わして通り過ぎていった。その後に続く子供達も皆、女性クレリックに挨拶をして走り去ってゆく。
 純白の法衣に身を包み、その胸に白金の十字架を下げた彼女は、この市民街の外れに住むシエル・ウォッチャーだった。
「ただいま。今日はお勤めが早く終わって‥‥」
「‥‥ゴホ! ゴホゴホゴホ!!」
「!?」
 シエルが家に帰ってくると、普段は元気な声で迎えてくれる妹ミュゼットの声が聞こえてこななかった。代わりに痛々しく咳き込む音だけが響いてきた。
 彼女が慌てて妹の寝室へ飛び込むと、ミュゼットはベッドの上で上半身を起こし、開け放たれた窓の外を眺めていた。
 口の周りには血の痕があった。シエルがそのまま視線を落とすと布団にも‥‥まだ新しいところを見ると、先程、咳き込んだ時に付いたのだろう。
 そして妹の目元にはうっすらと涙のにじんだ跡も見受けられた。
 先程の、近所の子供達の声を聞いていたのかも知れない。
 病の床に伏しているミュゼットは、ここ数ヶ月、ほとんど外に出た事がなかった。
 それだけではない。
 ――保って2ヶ月。
 それが妹に残された命という名のロウソクの火の長さである。

 ミュゼットはシエルの本当の本当の妹ではない。ミュゼットの村は男達が全員出稼ぎにいっている間に、数匹のコカトリスによって全滅してしまい、彼女だけが生き残ったのだ。偶然、ミュゼットの村に立ち寄ったシエルが彼女を保護したが、ミュゼットは目の前で母親や姉がコカトリスに襲われたショックのあまり身体を壊し、目覚めた時に初めて見たシエルを姉だと思い込んでいた。

「今日は早く帰ってこれましたから、お姉ちゃんがお話ししましょうか?」
「‥‥ゴホ‥‥ホント!?」
 現金なもので、シエルがベッドの横にあるイスに腰掛けると、先程まで落ち込んでいたミュゼットの顔に笑みが戻った。
 つられてシエルも笑顔になる。
「どんな話が聞きたいですか?」
「‥‥ん〜とね、お姫様が出てくる話がいい!! ゴホゴホ!」
 男の子が騎士に憧れるように、女の子もお姫様に憧れるものだ。
 シエルは逡巡した後、おもむろに口を開いた。
『むかしむかし、あるところに、緑の豊かな小さな国がありました』
「小さな国ってキャメロットくらいかな? その国ってベリーとかリンゴとか、いっぱい採れる?」
「ええ、キャメロットくらいの国ですよ。春には花が咲き、夏にはベリーがたくさん成り、秋にはリンゴがいっぱい採れ、冬は雪だるまが作れるくらい雪が降るのです」
 ミュゼットが早速質問すると、シエルは話を中断して説明を入れた。物語を聞かせると、いろいろと聞いてくるのがミュゼットの癖だった。
『その国の王様には、1人のそれはそれは美しいお姫様がいました。その笑顔は優しく、その声は鈴のように澄んでいて、艶やかな黒髪から“黒曜の姫”と呼ばれ、国民に慕われていました。
 しかし、平和なこの国の外れには、美しい魔女の住む塔がありました。魔女は自分がこの国で一番美しいと思っていました。
 黒曜の姫の方が自分より美しいと聞くと、その美しさに嫉妬した魔女は、黒曜の姫が人々の前で歌を披露しているところへ現れ‥‥』
「ええ!? こくようのひめ、どうなっちゃうの!?」
 ミュゼットは息を呑み、目を見開いた。
『魔法で石に変えてしまい、黒曜の姫の石像を自分の住む塔へ連れ去ってしまいました』
「!? ‥‥こくようのひめ、かわいそう‥‥石になっちゃったら、お歌、唄えないよね‥‥」
 黒曜の姫に降り掛かった突然の不幸を心から心配しているのか、その目には涙が浮かんでいた。
『黒曜の姫を石に変えられて攫われた王様と人々が悲しむところへ、白馬に乗った王子様がやってきました。白馬の王子様は、黒曜の姫が好きな妖精に導かれて、この国へやってきたのです。
 王様と人々が悲しんでいる理由を聞くと、王子様はお姫様を助けに塔へ向かいました。しかし、塔には魔女が操るモンスター達でいっぱいです』
「‥‥ゴホゴホ! はくばのおうじさまでも勝てないの?」
 心配そうに見つめる妹の碧色の髪を、姉は優しく撫でた。
『しかし、王子様は愛馬を駆ると、モンスター達をどんどん倒して塔を上っていきます。
 遂に最上階に辿り着きます。そこには黒曜の姫の石像を壊そうしている魔女がいました。
 王子様はそれを止めようと魔女に戦いを挑みます。魔女は重い波を飛ばしたり、地震を起こしたり、壁に飾ってあった剣を操って攻撃してきます。王子様は傷つきながらも、遂に剣で魔女をうち倒します』
「これでこくようのひめも助かるね〜」
 ミュゼットが「はぁ」と安心した息を吐くと、シエルはかぶりを横に振った。
『しかし、魔女を倒しても黒曜の姫は石像から元に戻りません。魔女の呪いが掛けられていたのです』
「え〜!? ゴホゴホゴホ!! こくようのひめはずっと石のままなの!?」
『魔女が嫉妬するように、黒曜の姫は大層美しく、王子様も一目で好きになってしまいます。
 王子様が黒曜の姫の唇にキスをすると、たちまち魔女の呪いが解け、黒曜の姫は元に戻りました』
 「キス」という言葉に赤らめた頬を手で押さえつつ、ミュゼットは今度こそ、「よかった〜」と深く深く安堵の息を吐いた。
『それだけではありません。なんと魔女も悪魔に操られていた黒曜の姫のお母さんだったのです。王子様が倒したのは悪魔の方でした。
 こうして、王子様は黒曜の姫と王妃を白馬に乗せて王様の元へ帰り、黒曜の姫と結婚して、この国を更に平和にしました。
 おしまいです』
 シエルは話し終えるとミュゼットをベッドに寝かせ、新しい布団を持ってきて掛けた。
 ミュゼットは興奮冷めやらぬ感じで、布団に潜っていた。
「‥‥お姫様かぁ‥‥会ってみたいなぁ‥‥ゴホゴホ! ゴホ! ゴホゴホゴホ!!」
 その呟きを聞いたシエルの脳裏に、とある考えが浮かんだ。

 翌日、シエルは教会へお勤めに行く前に冒険者ギルドの門を叩いていた。
「お姫様が登場する劇をしたいのですが、お手伝いをして下さる冒険者をお願いしたいのです」
 本物のお姫様に会わせるのは無理だが、お姫様が登場する劇なら見せる事はできると思ったようだ。
 シエルはミュゼットに聞かせた話を掻い摘んで説明した。この話は昔話や伝承ではなく、シエルのオリジナルの話だった。
 黒曜の姫役や白馬の王子様役、王様役や魔女役は必要だし、国民やモンスターといったエキストラも重要だ。
 それに道具などの準備もある。
 劇をする場所は、シエルが勤めている教会の礼拝堂だった。その日の夜だけ貸し切りにし、劇をミュゼットに見せるという。
「演技の上手い下手は抜きにして、妹を楽しませて下さる方を募集します」
 心が篭もっていれば上手い下手は関係ない、とシエルは付け加えた。

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1458 リオン・ラーディナス(31歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ea3657 村上 琴音(22歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ディーネ・ノート(ea1542)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ 鷹杜 紗綾(eb0660

●リプレイ本文


●シエルの想い
 ボルジャー・タックワイズ(ea3970)達は、市民街からすぐの場所にあるシエル・ウォッチャーの勤める教会の前に集合した。
「シエルさん、久しぶり!!」
「ボルジャーさんもお元気そうですね」
「パラの戦士は今日も元気だぞ!! パッラッパパッパ〜♭」
「いや、公衆の面前で下手な歌は唄わなくていいから」
 シエルと元気よく挨拶を交わすボルジャー。そのまま歌を披露しようとすると、アルヴィス・スヴィバル(ea2804)が至って冷静に制した。彼はボルジャーの歌の“酷さ”を知っているのだ。
「毎度〜、シエルはん、またよろしゅうな〜。今回は劇っちゅう事で、よぅ分からんけど頑張るわな〜♪」
 イフェリア・アイランズ(ea2890)が「にぱ」っと笑うと、シエルの顔に抱きついた。
「いや、もう、劇については俺に任せて下さい! きっと、妹さんを喜ばせる素晴らしい劇にしてみせますよ」
「ふふふ、期待していますよ」
 リオン・ラーディナス(ea1458)がイフェリアを押し退けると、シエルの手を取り、がっちりと握手をした。するとシエルはリオンの心の中を見透かしたかのような凄絶な微笑みを浮かべた。
「あのー、そのー、なんだー‥‥妹さん! 妹さんの好きな話のジャンルを教えてくれないかな?」
「ミュゼットはお姫様や妖精が出てくる話が好きですね」
 決してやましい気持ちで握手をした訳ではない、とは言い切れないリオンは、目の前の聖母の如き微笑みに抗う事ができず、慌てて視線を逸らすと話題を変えたのだった。
「‥‥この頃、どんどんミュゼットくんの容体が悪くなってるみたいなんだ。僕にできる事は、一緒に居る事くらい、だね‥‥」
「でしたら尚の事、ミュゼットさんを想うシエルさんの心に報いましょう」
「この劇でがんばって、すこしでも楽しんでもらうのじゃ」
「そうだね。ミュゼットちゃんの為、彼女をあんなにも心配するシエルさんの為に、皆で演劇を成功させて、喜んで貰えたらいいよね♪」
「ええ、ミュゼットさんのご病気が少しでも良くなるよう、頑張りましょう」
 3日に1度は会いに行っているというアルヴィスが哀しそうに告げる。イェーガー・ラタイン(ea6382)と村上琴音(ea3657)が彼に発破を掛けると、ティアイエル・エルトファーム(ea0324)とクウェル・グッドウェザー(ea0447)が2人の気持ちを汲んで明るく応えた。
「僕達がミュゼットさんに会っても構わないでしょうか?」
「もちろんです。あの子、私が教会に勤めている時は1人ですから喜びますよ。リオンさんもよかったら冒険に話をしてあげて下さいな」
 クウェルの問いにシエルは快く応じた。

「‥‥ゴホゴホ! お帰り。今日は早い‥‥」
「初めまして、ミュゼット姫。これはお近付きの印です」
 寝室のベッドでいつものように横になっていたミュゼットは、思い掛けない多くの客人達に碧色の瞳を見開いた。
 クウェルは恭しく神聖騎士の礼を取ると、彼女の手を取り、その甲に軽く接吻をした。
 ミュゼットの深雪のように白い頬が、たちまちリンゴのように紅く染まる。
 唇を離したクウェルは呆然とするミュゼットに、微笑みを湛えながらどらごんのぬいぐるみをプレゼントした。
「‥‥と、今日は僕の師匠も来ているんだよ」
「こんなところでコンボを極められる訳ないでしょ」
(「余命2ヶ月、か‥‥まだこんなに幼いというのに‥‥俺よりも早く生き終わってしまうのか‥‥」)
 アルヴィスに師匠として妙な紹介されたディーネ・ノートは彼を思いっきり睨んだ後、咳をするミュゼットを見て、刹那、顔を歪めるリオンと共に自己紹介をして冒険譚を始めた。
 アルヴィスはやんわりミュゼットを抱き締めようとしたが、それはシエルに制され、外へ呼び出された。
「ミュゼットはどんなに保っても2ヶ月しか生きられません‥‥他の女の子にも“おじいさま”と呼ばせていると聞きましたが、それをあの子が聞いたらどう思うか‥‥足を運んで下さるのはありがたいですが、あの子を悲しませる事だけは、たとえセーラ様が許しても私が許しません」
 シエルは淡々とアルヴィスに語った。アルヴィスくらい有名になると、その行動は噂として入ってきやすくなるようだ。彼女の身体がわずかに震えているのは、シエルが悲しみを抑えている事を暗に語っていた。

●準備は大変?
「アテが外れてしまったね」
「まぁ、教会にある奴に手を加えたり、新しく造ればいいんじゃないか?」
「倉庫の奥にはまだまだあったようやしな」
「それに、おいら達が造っておけば、今度は教会の人が使えるしね!」
 シエルの家から教会へ戻ってきた後、アルヴィスはキャメロットにある劇団から背景や幕といった大道具を借りられないか交渉に行ったのだが、残念な結果に終わってしまっていた。
 その間、鷹杜紗綾やタケシ・ダイワも加わって、リオンとイフェリア、ボルジャーは教会の倉庫の中で劇で使えそうな大道具を探していた。
 以前、慰問で劇をやった事があり、一通りの大道具は揃っていたが、今回のストーリーに合わせたものではないので、背景などは新たに造ったり、描き直す必要があるようだ。

「配役は僕が白馬の王子様で、琴音さんが黒曜の姫、ティアイエルさんが王妃兼魔女、イェーガーさんが王様、イフェリアさんが白馬の王子様を導く妖精、ボルジャーさんとリオンが魔女の配下のモンスター兼国民1・2、アルヴィスさんが裏方全般と語り部、でいいでしょうか?」
「あたしの事はティオでいいよ☆ 配役は問題ないよ。それと、お話だけど、シエルさんから聞いた話をアレンジしたいんだ」
 クウェルが配役を確認すると、ティアイエルがストーリーのアレンジ案を提示した。
 黒曜の姫は琴音に合わせて「美しいお姫様」から「可愛らしいお姫様」へ表現が変わり、魔女が呪いを掛ける理由も、「美しさに嫉妬」から「魔女は独りぼっちで、多くの国民に愛されている黒曜の姫の幸福を妬んで」へ修正された。また、ストーンを誰も唱えられない事から、「石化の呪い」は「永遠に目を覚ます事のない眠りの呪い」となった。
「それだと、シーンはオープニング・呪いを掛けられる・王子登場・魔女&怪物退治・姫が目覚めるシーン、の5つかな?」
「‥‥そうなりますね‥‥黒曜の姫役の琴音さんは、退屈するかも知れませんが‥‥」
「そんな事はないのじゃ。黒曜の君はひろいんであろう? そんな大役ができるだけでも嬉しいのじゃ」
「琴音ちゃん、黒曜の君じゃなくて、黒曜の姫、ね。それと口調も今から慣らしておいた方がいいかな」
「おおっと、そうじゃ‥‥そうですわね」
「そうそう、その感じだよ♪ ばっちり可愛くコーディネートしてあげるからね☆」
 修正案を聞いたアルヴィスが、語り部としてどこで語るが打ち合わせを始めると、演技指導を担当するイェーガーが途中出番のない黒曜の姫役である琴音を心配したが、当の琴音は気にしておらず、むしろ「ヒロイン」という大役を喜んでおり、早くもティアイエルが用意したドレス合わせをしながら、口調の改善を始めていた。
 イェーガーの危惧は取り越し苦労で終わりそうだ。

「こんどは劇だ戦わない〜。まずは舞台だ大道具〜、パラの戦士はがんばるぞ〜♪
 トンカントンカン設営だ〜、妹さんに見てもらう〜。パラッパラ〜♯」
 へたっぴぃな鼻歌交じりで愛用のハンマーを振るうボルジャー。彼の造った背景板にリオンが絵を描いてゆく。
 その横ではクウェルとイフェリアが衣装の手直しをしていた。

「油断しておると、動きや口調が能楽になってしまうのじゃ‥‥いますわね」
「‥‥俺もティオさんも琴音さんも、演劇は素人ですし‥‥最終的には、自然体で行きましょう‥‥役に囚われすぎて、心が伴わなければ意味がないですから‥‥」
 練習では琴音がついつい普段の口調で喋ってしまい、ティアイエルに注意される。琴音に台詞や動きの指導をしているイェーガーも演劇の経験はないが、心を込めて一所懸命練習した。

 練習と準備の後はクウェルとシエルの作った美味しい料理に舌鼓を打ち、その後、アルヴィスとリオンはシエルの家へ向かい、ミュゼットに冒険譚を聞かせるのが日課となっていた。

 ――そしてあっという間に一週間が過ぎ、公演当日の夜を迎えた。

●伝説のお姫様に会いたい
「お姉ちゃんが夜にどこかに連れて行ってくれるの、久しぶりだね‥‥ゴホ‥‥」
 ミュゼットはいつも着ている寝巻きから、彼女が一番お気に入りのピンク色の服に着替えると、シエルと手を繋いでお出掛けしていた。こうやってシエルと夜に外へ出るのは、ジーザスの誕生祭の日に虹を見に行って以来だろうか?
「‥‥ここ‥‥お姉ちゃんの勤めてる教会だよね?」
 連れてこられた場所が場所なので、小首を傾げるミュゼット。
 シエルに促されて中に入ると、壇上には黒衣を纏い、手に羊皮紙の束を持ったアルヴィスが、室内を照らすランタンに灯りに浮かび上がっていた。
『それは、今は昔の物語。緑豊かな小さな国のいと可愛き黒曜の姫と、優しき心と金色の髪を持つ白馬の王子の物語』
「え!?」
「一番前が見やすいですよ」
 アルヴィスが厳かに語ると、その内容に驚く妹を姉は最前列へ誘った。すると幕が開け、城の前の広場で、王様(=イェーガー)と国民1(=ボルジャー)、国民2(=リオン)に歌を披露している黒曜の姫(=琴音)の姿が現れた。
「この森の中 呼んでいる声
 私のまだ見ぬ女神よ‥‥
 振り仰ぐ夜空(そら) 目にしみる月
 心の雲を祓って‥‥」
「なんてステキな歌声なんだ」
「こんなに可愛いお姫様なら俺が嫁にもらいたいよ」
「はっはっは、黒曜の姫に婿はまだ早いな(‥‥リオンさん、台詞違いますよ‥‥)」

『しかし、平和なこの国の外れには、美しい魔女の住む塔があった。魔女は独りぼっちで、黒曜の姫が多くの人達に愛されていると知ると、幸福を妬んで、黒曜の姫が人々の前で歌を披露しているところへ現れた』

 幕の裏側から、魔女(=ティアイエル)がフライングブルームに乗って現れた。
「な、何者‥‥ですの!?」
「私はこの国に住む美しい魔女。黒曜の姫、あなたから幸せを奪ってあげるわ!」
「きゃあああああ!?」
「姫様が〜!?」
「姫様が〜!?」
 魔女の出現にたじろぐ黒曜の姫。魔女が指を突き付けると黒曜の姫は悲鳴を挙げて倒れてしまい、国民達が慌てて支えた。

『魔女は黒曜の姫に永遠に目を覚ます事のない眠りの呪いを掛けてしまった』

「おお! 我が姫が魔女に呪いを掛けられてしまった」
「とにかくうちの親友の姫がヤバいんや! 助けて〜な〜!」
 号泣する国王と国民達の元へ、妖精(=イフェリア)が飛んできた。すると礼拝堂の扉が開き、中に蹄の音が聞こえてきた。
 礼拝堂の入口に白馬が現れると、乗っていた王子様(=クウェル)が中へ駆け込んできた。

『白馬の王子様が黒曜の姫が好きな妖精に導かれて、この国へやってきた』

「呪いを掛けられた我が姫を救って下さらぬか?」
「こんな可愛いお姫様に呪いを掛けるなんて‥‥分かりました、僕が魔女を退治してきます」
 涙目で見上げる国王に、白馬の王子様は胸を叩いた。

『王と人々が悲しんでいる理由を聞くと、白馬の王子様はお姫様を助けに塔へ向かった。しかし、塔には魔女が操るモンスター達で溢れていた』

「白馬の王子はん、こっちやで!」
「おいらは魔女の側近の怪物だぞ!! 白馬の王子様め、やっつけてやる!!」
「ふっふっふ、魔女様の側近である我々を倒したら、魔女様の場所へ行かせてやってもいい。だが、できるかな? お前に!」
 ハンマーを持ったパラゴースト(=ボルジャー)と、サイズを構える死神(=リオン)が白馬の王子様の行く手を遮った。
「小さぁても、やる時ゃやるんや!」
 2対1の戦いを強いられ、白馬の王子様は苦戦するが、妖精のだだっ子パンチによる援護攻撃もあって、パラゴーストと死神を愛剣のレイピアで倒したのだった。
「うわぁやられた!(クウェルさんとは強そうだから本気で戦ってみたいけど、シエルさんと妹さんの為にガマンガマン)」
「ぐは‥‥、見事‥‥。では、約束通り道を開けよう。魔女様はこの上に‥‥」

『白馬の王子様は遂に最上階に辿り着く。そこには黒曜の姫に呪いを掛けた魔女がいた』

「魔女、黒曜の姫の呪いを解く為に覚悟して下さい!」
「あなたも黒曜の姫なの!? どうせ私の事は‥‥」
「!?」
 魔女の思い掛けない言葉に動揺する白馬の王子様。その隙を突いて魔女が壁に掛けてあった剣を操って攻撃し、白馬の王子様は膝を突いてしまう。
「‥‥頑張って! 白馬の王子様!! ‥‥ゴホゴホ! ゴホゴホ!‥‥」
 堪らずミュゼットが立ち上がると、白馬の王子様を応援した。
 白馬の王子様が十字架を掲げると、まばゆい光が魔女の身体を包み込んだ。
「こ、この力は!? きゃあああああ!」
 魔女からおおよそその外見からは想像もつかないしゃがれた声が聞こえると、魔女は倒れてしまう。
「こ、ここは‥‥?」
 魔女は今まで何があったのか分からないかのように辺りを見回すと、白馬の王子様が近寄り、事情を話した。

『魔女も悪魔に操られていた黒曜の姫のお母さんだった。白馬の王子様が倒したのは悪魔の方だった。白馬の王子様は王妃を白馬に乗せて王様の元へ急いで帰った』

 白馬の王子様と王妃が城の前に帰ってくると、国王と国民達が未だに目覚めない黒曜の姫を囲んで泣いていた。
「あの悪魔がいっていましたが、姫の呪いを解くには白馬の王子様のキスが必要だそうです」
 王妃にいわれた白馬の王子様は、横たわる黒曜の姫を抱き起こすと、その額にキスをした。すると黒曜の姫の身体を暖かい光が包み込んだ。
「はっ‥‥ここは‥‥」
 黒曜の姫の瞳がゆっくりと開かれた。
「そうですわ、わたくしは魔女に呪いを掛けられてしまったのだわ。あなたが私を助けてくれたの‥‥ですわね?」
「はい、黒曜の姫」
「おお、ありがとう白馬の王子様よ! 是非姫と結婚して、この国を治めてくれ」
「おめでとう!! おめでとう!! 白馬の王子様!! 黒曜の姫様!!」
「いつかめぐり合えると 小さな花も
 唄を唄っているでしょ? 永遠の調べを‥‥
 皆と共に 月光(ひかり)となって‥‥」
 国王が嬉し泣きをし、国民達が拍手を送る中、黒曜の姫が歌の続きを披露して幕が引かれるのだった。

 ミュゼットとシエルは立ち上がり、力の限り拍手をした。

 劇も無事終了し、ミュゼットも元気を分けてもらったが‥‥この劇以来、琴音は何故かクウェルの三歩後ろを歩くようになったという。

●コミックリプレイ

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