【聖杯戦争】悪友に捧げる手向けの花

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:7〜13lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月31日〜08月05日

リプレイ公開日:2005年08月11日

●オープニング

「湿気たエールハウスだねぇ」
 そのエールハウスに入ってきた女性は開口一番、店内を見渡しながら感想を漏らした。
 ここはキャメロットの市民街のとある通りにある、ディジィー・デンプシーという少女が看板娘兼オーナーを勤めるエールハウスだ。
 エールハウスは居酒屋であり、確かに冒険者の酒場に比べれば粗末な店構えだろう。ディジィーのエールハウスは更にステージを広く取った分、店内は狭く感じるが、女性は初めて訪れたエールハウスをきっぱり言い退けたのだ。
 腰まで伸ばし、先端を切り揃えた黒髪から覗く耳はエルフのそれよりやや小さく、彼女がハーフエルフである事を表していた。キャメロットの街中であれば隠す同族が多い中、女性は誇るかのように堂々と見せていた。
 オクスフォード侯爵が反旗を翻してからというもの、一般人の中には夜の外出を控える者も少なくなく、客が来ない事を見越して店を閉めるエールハウスも出てきた。
 事実、ディジィーのエールハウスも客は1人しかいなかった。だからこそ女性は、目的の人物を見付けられたのだが。
「聞いたよカシアス。ここんとこ毎週、ここに入り浸ってるんだって? アンタらしくないねぇ。また前のように楽しくやろうよ。“親殺し”の名が泣くよ?」
「わざわざそれを言いに来たのか、ネイル‥‥」
 女性はディジィーにエールを頼むと、唯一の客である男性の隣に座った。男性は気に留める事なくジョッキのエールを煽った。
 男性の名はカシアス。男爵の家督欲しさに親と兄を殺した“親殺し”の異名を持つ騎士だ。剣の腕前もさる事ながら、智略に長けており、少し前まではこの女性――ネイル――とつるんで領地内の女性を攫って囲ったり、領地を荒らすモンスターを鏖にして蓄えを奪っていたものだった。
 それもつい数か月前までの話であり、今はこのエールハウスに通っていた。まるで誰かとの出会いを待っているかのように‥‥。
「真逆、こんなに美味しい稼ぎ時を逃すんじゃないだろうねぇ?」
「オクスフォードの反乱の事か? 貴様の事だからオクスフォード側に就くのだろう」
 運ばれてきたエールで喉を潤しつつ、ネイルはカシアスの前に置かれているローストビーフをひと切れ無断で摘むと、口に運んだ。味はまずまずといったところだ。
 ネイルはハーフエルフ故に爵位は与えられていないが、カシアスの領地の隣を治める騎士の娘で、“ブラッディ”ネイルの異名を持っていた。
「‥‥止めた方がいいのだよ。確かにオクスフォード側に与する貴族も少なくない。アーサー王は、キャメロットの兵力と冒険者、円卓の騎士と少ない貴族でこれを向かい討つ事になる」
「オクスフォードの方についても十分、楽しめると思うけどねぇ」
 なまじ付き合いが長い所為か、カシアスはネイルの考えをお見通しのようだ。わざわざ自分を呼びに来た理由も。
「そこなのだよ。本来ならケンブリッジの兵力も加わるはずが、駆け付けない‥‥正確には駆け付けられない、と言った方がいいだろう」
 ケンブリッジはケンブリッジで、行方不明者が続出したり、ディナ・シーという妖精が現れる事件が起こっており、キャメロットへ援軍を送れないらしい、という話を彼は聞き及んでいた。
 ――オクスフォード侯爵の反乱とケンブリッジの一連の事件。起こった時期が時期だけに、オクスフォード侯爵には優位に働いているが、果たして偶然なのだろうか?
 カシアスはその辺りが計れない事もあり、危惧していた。
 もっとも、家督の継ぎ方がどうあれ、彼はイギリス騎士としてアーサー王側に就いていた。その兵力は騎士小隊1個分の微々たるものだが。
「オクスフォードが勝とうが負けようが、アタシは楽しめればそれでいいのさ。失うものもないしね。それに勝敗ってのは、最後まで分からないものだからねぇ」
「貴様‥‥相変わらずだな‥‥」
「そうさ、アタシは何にも変わっちゃいないよ。何があったかは知らないけど、変わったのはアンタの方さ。そのアンタと本気でやりあうのも面白いかもね。戦場で遭ったら恨みっこなしでさ」
 ネイルは席を立つと、カシアスに自分の分のエールを奢らせ、手を振ってエールハウスを出ていった。
「悪友も気掛かりとは‥‥ネイルの被害を最小限に留めるには、撃破するか、私の傘下に加えるしかないが‥‥今の私の兵力では難しいのだよ」
 1人残ったカシアスは残りのエールを飲み干すと、その足で冒険者ギルドへと向かったのだった。

●今回の参加者

 ea0509 カファール・ナイトレイド(22歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea0734 狂闇 沙耶(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0861 緋邑 嵐天丸(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3264 コルセスカ・ジェニアスレイ(21歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea6065 逢莉笛 鈴那(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea7487 ガイン・ハイリロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea9535 フィラ・ボロゴース(36歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

リース・マナトゥース(ea1390)/ ミリコット・クリス(ea3302)/ 獅臥 柳明(ea6609)/ フェイ・トレイル(eb1275

●リプレイ本文


●擬装
 ファング・ダイモス(ea7482)達に指定された集合場所は、冒険者ギルドではなく、市民街のとあるエールハウスの前だった。
「こぢんまりとしたエールハウスですね」
「個人経営だからね。でも、自家製のパンは他のエールハウスに負けない自慢の逸品だよ」
 ファングの率直な感想にこのエールハウスの店員、逢莉笛鈴那(ea6065)は苦笑を浮かべる。彼女の後ろには樽や木箱が積まれてあった。
 フィラ・ボロゴース(ea9535)の提案で、アーサー王軍の補給部隊のフリをしてウィンザーへ向かう事になり、こういった物が毎日使われるエールハウスから急遽、借り受ける事になったのだ。
「ここのエールハウスは主人がファイターだから、拳闘を定期的にやっててね。これが結構燃えるんだよ」
「バードやジプシーもよく募集しているぞ。ステージが広いから、気持ちよく唄えるのもいいな」
 フィラは拳闘のサポートを務めた事があった。彼女の言葉を継いだガイン・ハイリロード(ea7487)は歌を唄った事があり、それぞれその時の感想を述べた。ファングは拳闘に心惹かれたようだ。
(「拳闘もいいが、俺はあんたと本気で刃を交えてみたいぜ」)
 緋邑嵐天丸(ea0861)は部下に樽や木箱を用意した荷車に積むよう指示している依頼主のカシアスの背中を見つめていた。背丈は嵐天丸より頭1つ大きいが、体格のいい彼と比べると痩躯の印象を受ける。しかし、その気配や体運びには打ち込む隙が全くなかった。
「らんりんも何か企んでないで、荷物運びを手伝ってよ」
 シフールは勘はこういう時によく働くのか、コリーのリュドりんと柴犬のエリりんに小樽を載せ、自身も天幕を運ぶカファール・ナイトレイド(ea0509)が釘を刺した。元々荷造りの手伝いに来たフェイ・トレイルだけではなく、フィラを見送りに来ただけのリース・マナトゥースも、気が付けば荷造りを手伝われさていた。
「お久しぶりですカシアスさん。あれから、えーっと‥‥4ヶ月ぐらいになりますね。もう悪い事はしてないですよね?」
「久しぶりだな、コルセスカ。いきなり手厳しい挨拶だが、悪い事からは足を洗っているのだよ。鈴那に聞けば分かると思うがな」
「カシアスさんはお店の大切な常連さんよ。毎週のように来てくれているわ」
 コルセスカ・ジェニアスレイ(ea3264)がカシアスに挨拶をすると、彼は作業の手を休め、肩を竦めて鈴那に視線で助けを求めた。
「なんて、ちょっとした冗談です。さ、何かある前にお友達を止めてしまいましょう」
「友達、か‥‥ネイルとはそのような綺麗な関係ではない。強いて言えば悪友、いや腐れ縁なのだよ」
「‥‥ふむ」
 コルセスカに微苦笑するカシアス。その様子を二対の灼眼で見ていた狂闇沙耶(ea0734)は何かを感じたようだ。

 カシアスが用意した荷車に樽や木箱を載せ、カファールが上から天幕を被せれば、即席でも補給部隊に見えなくもない。
 樽と木箱の間には人1人分の隙間が所々に空いており、嵐天丸や沙耶が隠れられるようになっていた。荷物を覆う布も戦闘を想定して厚手にしてあるし、荷車を牽く馬も通常馬ではなく、ネイルの奇襲を踏まえて、それに耐えられるファングとカシアスが所有する戦闘馬だった。

●内情
「おいらはシフール騎犬隊〜♪ アーサー王軍の偵察隊〜♪」
 カファールはリュドりんと一緒に荷車から先行して哨戒に当たっていた。彼女に鈴那とカシアスの部下が何人か同行し、オクスフォード候の乱の戦況を確認していた。
 戦況を知るにはとにかく偵察と物見といった情報収集しかない。
 彼らもカシアスと共にネイルや彼女の部下達と荒らし回った経験があり、ネイルの部隊が襲撃しきそうな場所を、その都度、カファールと鈴那に教えた。

 カファールやカシアスの部下達が仕入れてきた限り、アーサー王軍がオクスフォード候軍を圧しているとの事だった。
「開戦前はアーサー王軍の足並みが揃わず、オクスフォード候軍に苦戦を強いられると聞いていたが‥‥」
「アーサー王もキャメロットの守りは最低限に抑え、討って出たようだからな。これならケンブリッジの援軍も要らないであろう」
 焚き火を囲みながら、ガインとカシアスは戦況について話していた。
「ケンブリッジか‥‥聞けば悪戯好きの妖精があちこちで見られているっていうよね」
「私は行方不明者が出ていると聞きましたが」
「両方とも当たりなのだよ。生徒が個人的にアーサー王を支援するのは黙認しているが、生徒会としては動かない‥‥いや、動けないのだよ」
「それは偶然なのじゃろうか? 偶然だとしたらオクスフォード殿は随分といい時に動いたものじゃな」
 フィラやファングが耳にしたケンブリッジの噂をまとめるカシアス。沙耶は釈然としなかった。
「それよりも、ネイルについて教えてくれないか? どんな戦い方をするのかとか」
 嵐天丸がネイルについて聞くと、カシアスは話し始めた。
「戦いで血を見ると狂化し、更に血を求める“ブラッディ”ネイル、ですか‥‥」
「まぁ、カシアスにしてみれば悪友だろうと腐れ縁だろうと、長い間連んでいるネイルを何とか止めたいんだろう‥‥叩きのめす事になってしまったが」
「でも、説得する気はあるのよね。なら、最初は力を見せ付けて、説得は最後にしましょう」
「あたいらに任せときゃ安心だってば。それにネイルの部隊は女性ばかりだっていうしね」
 ネイルの話を聞くと、まだ見ぬ強敵に嬉しそうに巨躯を震わせるファング。カシアスが説得を望んでいる事を改めて確認するガインと鈴那。艶めかしく舌で唇を舐めるフィラは、何か邪な事を考えているようだ。

「こるせすか殿は、かしあす殿と付き合っておるのか? そうだったらわしらに遠慮せず、もっと寄り添えばいいのじゃ」
「私が、カシアスさんと、ですか!?」
 カシアスに必要以上に近付かないコルセスカを、沙耶は自分達に気を遣っていると思い、そう声を掛けた。しかし、彼女からすればそれは寝耳に水だった。
「違うのか? かしあす殿がこるせすか殿を見る目は、そうじゃと思ったのだが‥‥早合点だったようじゃ、すまぬ」
 その反応から自分の勘違いだと思った沙耶は謝って仲間の輪に戻った。
『俺ももう少し、女性の接し方を変える必要があるようだね。例えば、あなたを振り向かせる事ができるように‥‥』
『カシアスさんはお店の大切な常連さんよ。毎週のように来てくれているわ』
 不意にカシアスと鈴那の台詞が脳裏を過ぎる。カシアスが毎週のようにエールハウスへ通っていたのは‥‥真逆、自分に逢いにきていたとか!? 
(「あの時はそのまま流しちゃいましたけど‥‥カシアスさんの『あの』言葉は本気だったのでしょうか‥‥」)
 カファール達の歓談を聞くカシアスを、コルセスカは直視できなくなっていた。

●悪友
 カファール率いるシフール騎犬隊と鈴那の物見によると、アーサー王軍の小隊がオクスフォード候軍の小隊と小競り合いを起こした跡があった。戦争だから当然なのだが、負けたアーサー王軍の小隊は武器を始め身ぐるみを全て剥がされたという。
 ネイルの部隊の仕業だと鈴那が踏むと、ガインやコルセスカは跡の近くでカシアスの部下達と焚き火を囲み、安心しきって歓談した。
「そういやエールハウスに新メニューが出たんだってな、知ってたか?」
 フィラがそう話を振ってしばらくすると‥‥。
『その食料と酒、そしてあんたらの武器や防具、全て置いていけば命までは取らないよ』
 ガイン達の目の前に矢が降り注いだ。見れば身体のラインに合わせたタイトなソフトレザーアーマーを纏った女性を中心に、弓矢を構えた女性達十数人が荷車を半包囲していた。
「彼女がネイルだ」
 カシアスがそっと教える。目のいいファング達が見れば、確かにハーフエルフのようだ。
「揃いも揃って美女とはね♪ さーて、暴れるか♪」
 ヘビーアックスを構えたフィラのその言葉が皮切りとなり、ファングがクレイモアを片手で構えて戦端を切った。
「これでも“月狼の重戦車”って呼ばれてんだ! 生っちょろい攻撃じゃ効かないよ!」
 コルセスカは降り注ぐ矢をクルスシールドで防ぐのがやっとだったが、フィラは二の名の通り重装甲でことごとく弾いてゆく。
 一方、突っ込んだファングはリュートベイルでは防ぎきれず、身体に数本の矢を浴び、その場でたたらを踏んだ。
「これならどうですか!」
「あんたら、カミサマにお祈りしてきたのかい?」
 即座に闘氣を練ったガインが波動を繰り出り、コルセスカが聖なる母の力で呪縛しようとするが、ネイルは抵抗してしまう。
「どこを見ているんだ! あんたの相手は俺だぜ!!」
「く!? 伏兵とはやるじゃないか!」
 荷物の中から飛び出した嵐天丸が小柄を抜刀すると、その神速から衝撃波が生まれる。ネイルは抜刀こそ目は追い付いたものの、衝撃波まではかわせなかったようだ。
「おっと、伏兵はまだおるぞ」
「こんなところで悪いけど、しばらく眠ってね」
 沙耶が嵐天丸の後から躍り出ると、短刀で応戦するが、それはネイルにあっさりかわされてしまう。
 続く鈴那の睡眠香も眠る者はいなかった。
「ネイりんの部隊はハーフエルフばかりだから強いけど、みんな頑張れ!!」
 木の上で応援するカファール。彼女は灯りが消されないよう、ランタンを死守していた。
「ネイル、オクスフォード候が負けていない今ならまだ間に合うのだよ」
「カシアス!? ‥‥あんたの差し金だったとはね。でも言っただろう、あんたと本気で戦ってみたいって!!」
「それは私も同感です。唸れ、グランボンバー」
 カシアスが変装を解き、ネイルを説得するが、彼女のやる気を増長させるだけだった。
 2人の視線の間にファングが割って入り、クレイモアを最上段から地面に叩き付ける。その剣風にネイルは吹き飛んだ。
「あんたらの相手はあたいだよ?」
「女を傷つける趣味は持ち合わせちゃいないが、悪人なら話は別だぜ?」
 フィラと嵐天丸を筆頭に、鈴那とコルセスカ、カシアスと彼の部下達がネイルの部下達を引き付ける。刀の切れ味を宿した嵐天丸の剣風は、さしものネイルの部下も避けられない。
 早くも狂化する者が現れると、鈴那が辛うじて眠らせ、沙耶が背後から気絶させてゆく。
「侯爵側は気位の高い連中ばかりですよ。生まれで苦労するアーサー陛下の方が、よほど気が合うと思いますが、それでも戦うのですか?」
「どっちが頭になったところて、はみだしモンの待遇がよくなる訳じゃないだろ? だったら、面白い方に就くだけさ」
 ファングとネイルは一進一退の攻防を続ける。ファングの強力な一撃に対し、ネイルは手数で威力の低さを補った。
「双撃の魔弾、受けきれるかな?」
「大層な名前の割に、その程度かい?」
 膠着状態を打開しようとガインが威力を高めた闘氣を連発するが、やはりネイルに抵抗され、有効打とはならない。
「そういう考えも悪くはないが、強い奴は減って欲しくないしな」
「そのような気持ちで私の剣が受け止められるかな、フルバースト!」
「あう!?」
 嵐天丸も加わり、右からの彼の斬檄がネイルの身体を捉え、左からファングの渾身の一撃が彼女のホイップを断ち斬った。
 その後ろでは、沙耶を中心にど派手な爆発が起こり、吹き飛ばされたネイルの部下は鈴那が放った網に捕らわれていった。

 負傷したファングや嵐天丸、沙耶がポーションを服用してコルセスカの治療を受ける間、比較的軽傷だった鈴那達はネイルの説得に当たっていた。ちなみにフィラは「あたいは説得苦手なんだ、任せるよ」とさっさと離れ、ネイルの部下を1人1人縄で縛っていた。嬉しそうに見えるのは何故だろう。
「アーサー王には冒険者達が就いてるけど、オクスフォード候は悪魔や怨霊に操られてるって噂もあるわ。どうせなら私達と一緒に悪魔に一泡吹かす方が楽しくない?」
「それにカシアスから聞いたが、ハーフエルフを拾って部隊員にしてるんだってな。だったら、部隊員の為にももっと真っ当や道を歩かなきゃ」
「カシアスのお喋りめ‥‥」
 ガインの言葉に低く唸るネイル。「ハーフエルフだから」と言われるのが嫌なようだ。
「おいら、大好きな友達とずーっと会えないと、寂しいって思うよ。リュドりんやエリりんも友達だけど‥‥だからいなくていいって訳じゃないもん。ネイりんは‥‥カシりんの事好き? ずっと一緒でいたいと思う?」
「カシアスとは確かに寝たけどさ、好きとかそういうんじゃないよ。こんな腐れ縁‥‥」
「貴方も同じ事を言うのですね。こうやって貴方の事を心配してくれる人がいるというのは、とても幸せな事なんです。だから、あまり無茶な事をしてはいけませんよ? 貴方が傷つくと、悲しむ人もいるんですから」
「戦争はみんなで傷つけ合うから痛くて怖いけど、友達と一緒ならきっと大丈夫。だからネイりんも一緒に行こうよ!」
 カファールの説得にネイルはカシアスと同じ事をいい、それが2人の繋がりを顕しているのだとコルセスカは説いた。そしてカファールが満面の笑みと共に手を差し出すと、ネイルはばつが悪そうに頬を掻き、そっぽを向きながらカファールのちっちゃな手を握り返したのだった。
「じゃぁ、仲直りしたところで、ディジィーさん提供のエールととっておきのお酒で乾杯ね!」
 鈴那が樽の蓋を開けた。擬装と思っていたそれには、エールがなみなみと入っていた。木箱の中は焼けば食べられる保存食だった。
 手当てを終えたファング達はウィンザーの戦闘区域から離脱した後、夜通しで飲み合ったという。
 とっておきのお酒――シードル――は追加の報酬として渡された。

「少しはあなたに認めてもらえたかな?」
 少し飲み過ぎて1人夜風に吹かれていたコルセスカの後ろから、カシアスがそう声を掛けてきた。
「‥‥」
 コルセスカは振り向かない。するとカシアスは彼女の手を取り、その中に小さな丸い固まりを握らせた。
「一方的かも知れないが、こればかりは性分なのでね‥‥それをどうするかはあなたに任せますよ」
 カシアスが立ち去った後、コルセスカはやっと彼の後ろ姿だけを見る事ができたのだった。