【妖精王国】妖精王の帰還
|
■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:7〜13lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月06日〜09月11日
リプレイ公開日:2005年09月15日
|
●オープニング
「ディナ・シー達の国を救いに行っている生徒が多いそうですし、無事に帰ってくる事に越した事はありませんが、万一に備えて薬草を多めに用意しておきましょう」
ここはケンブリッジ郊外に広がる森の中。木漏れ日が差し込み、小鳥達が囀る歌に小動物達が聞き惚れる、そんな静謐な雰囲気に包まれていた。
まるで、ケンブリッジ内で起こっている騒ぎが、遠い異国の出来事のようにすら感じられる。
その中に、小鳥達の歌の邪魔をしないよう、1人の女性が薬草を摘んでいた。
ツインテールの緑色の黒髪とそこにちょこんと乗ったピンク色の帽子が、小鳥達に歌に合わせてリズミカルに揺れている。
その肢体を包むのは、帽子と同じく清潔感溢れる清楚なピンク地のクレリックのローブと白いマント。しかしそれらは今は土と草に汚れていたが、女性は気にした様子はなかった。
その時、不意に小鳥達の歌が止んだ。小動物達も木の上や洞(うろ)の中、草むらへと身を潜めてしまう。
女性は薬草で一杯になった篭を地面に下ろすと、腰に下げている得物に手を伸ばした。
――次の瞬間!
茂みから出てきたのは傷だらけの妖精――ディナ・シー――の女の子だった。愛らしい顔立ちは傷と泥にまみれ、目は泣き腫らしているようだ。羽根も飛べない程傷めているのか、ここまで歩いてきたらしい。
「なんて酷い‥‥すぐに手当てしますわ」
「わ、私の事はいいから‥‥パ、パパを‥‥妖精王を助けて‥‥」
「あなたも助けますし、お父様も助けますわ。わたくしは“治療室のおねーさん”ですもの。ですから今は、手当てさせて下さいな」
薬草を取り出そうとする女性に、ディナ・シーの女の子は自分の事よりパパ――妖精王――を助けて欲しいとお願いしたが、彼女はにっこりと笑い2人とも助けると告げた。
するとディナ・シーの女の子は張っていた気が緩んだのか、女性の手の中で気を失ってしまう。
女性はケンブリッジでは知らない人はいないであろう、“治療室のおねーさん”ことエイミー・ストリーム(ez0049)だった。
エイミーはディナ・シーの女の子を連れて治療室へ戻ると、すぐに手当てをした。
その甲斐あってディナ・シーの女の子は意識を取り戻した。
「わたくしが助けたディナ・シーの女の子は妖精の王国の王女様で、一緒に捕らわれていた妖精の王様の手で逃げ出したそうですの」
翌日、ケンブリッジのギルド・クエストリガーにエイミーの姿があった。彼女の前には生徒会長ユリア・ブライトリーフがおり、王女から聞いた話を報告していた。
王女の話では、妖精王は『ゴグマゴクの丘』の近くの洞窟に軟禁されているという。王女は逃げるのに必死で、自分達がどこに捕らわれていたかまで確認している余裕はなかったそうだが、無理からぬ事だろう。
「ゴグマゴクの丘は御伽話に聞くだけで、わたくしも実際に行った事はありませんが、王女様は逃げ出す際、泉の近くで水に泉の中へ引きずり込まれそうになり、枝に襲われたそうですの。それでしたらわたくしにも心当たりがありましてよ」
水の精霊ニクシーの棲むという泉の近くに、人を喰らう樹ガヴィッドウッドが生えている場所。そこにエイミーは心当たりがあった。
ただ、非常に迷いやすい密林の中なので、案内なしは辿り着けないだろう。
そこで生徒会からの依頼として、エイミーが案内役となり、妖精王を救出に向かう事となった。
王女は動けるようにはなったが、羽根がまだ完治しておらず飛べない事から、エイミーが面倒を見る事にしていた。
「王女様と約束しましたもの、『あなたも助けますし、お父様も助けますわ』と。ですから、わたくしも尽力しますわ。それと、くれぐれも名前では呼ばないで下さいましね」
あくまで“治療室のおねーさん”と呼んで欲しいエイミーだった。
「王女は無事に逃げ延びただろうか‥‥儂が不覚を取り、『妖精王の笛』をギャリー・ジャックに奪われたばかりに、国は、民は、女王は、王子は‥‥」
差し込んでくる陽の光や月明かりが、彼に時の流れを報せてくれた。
瞳を閉じれば、国を蹂躙するギャリー・ジャックに逃げ惑う民、氷の棺に閉じ込められた最愛の女性、逃げる息子の背中、が瞼の裏でぐるぐると映し出される。
見張りの話を盗み聞けば、ギャリー・ジャックは国を焼き滅ぼそうとしているという。
居ても立ってもいられなくなった彼は、一緒に閉じ込められていた娘を見張りの隙を突いて逃がし、人間達に国の援助を求めようとしたのだ。
あれから何日か経ったが、動きは一向に感じられなかった。
――国は、民は、大丈夫だろうか?
――娘は無事に人間達の元へ着いただろうか?
彼――妖精王――の焦燥感は募るばかりだった。
●リプレイ本文
●ミステリアス・エイミー
その日、ケンブリッジギルド『クエストリガー』の前には、ちょっとした人集りが出来ていた。“治療棟のおねーさん”ことエイミー・ストリーム(ez0049)が目当ての男子生徒達だ。
「やれやれ、お前の来るところにはいつも男子生徒が群がるな」
「治療棟で待ち合わせをしてもよかったのですが、他の患者さんの迷惑になるといけないと思ったものですから‥‥」
事実を述べるエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)へ、申し訳なさそうに微苦笑するエイミー。外野から野次が飛び、すっかり悪役のエルンストは肩を竦めた。
『治療棟』はケンブリッジの生徒が怪我や病気の時に治療に訪れる施設で、回復魔法や薬草学といった、治療の各分野のエキスパートが揃っており、それらを束ねているのがこの白衣の女性である。
ケンブリッジ中の学校で共同運営しており、本来なら生徒は無料で利用できてもいいのだが、冒険者や一般人だけ有料という訳にはいかない事から、冒険者になる学習の一環として生徒からも治療費を取っている――というのが公式説明だが、エイミー目当てに頻繁に訪れる男子生徒が絶えない為有料になった、というのが専らの噂である。
「エイミーさん、王女様、皆さんと協力して妖精の王様を救い出し、王女様と女王様の想いに応えましょう!」
「ですから、エイミーと呼ばないで!」
「ぐふ!? じ、じづれ゛い゛じま゛じだ‥‥治療棟のおねーさん‥‥」
意気込んで挨拶するイェーガー・ラタイン(ea6382)は、うっかりエイミーを名前で呼んでしまい、彼女の肘による鳩尾への的確なツッコミを喰らい、悶絶した。
「おねーさまの名前は、大人の女性のミステリアスなヒミツなのよ」
「女性のヒミツを暴くのは、危険が危ないのですね」
ミカエル・クライム(ea4675)にそう説明されたイェーガーは、本人を前に名前で呼ぶのは絶対に止めようと固く決意したのだった。
「うに、治療棟のおねーさんかー‥‥“治療棟のお姉ちゃん”って呼ぶのはダメかな?」
「“治療棟のおねーさん”は長いから、あたしは“おねーさま”って呼んでるわ♪」
ここにも1人、一目でエイミーを気に入った者がいた。年上好きのチカ・ニシムラ(ea1128)だ。
チカにそう応えるミカエルは、エイミーとそれなりに交流があった。マジカルシードの生徒である彼女は魔法の実地訓練以外で怪我をする事はあまりないが、悩み事をよくエイミーに相談しているようだ。
ディナ・シーの王女はエイミーの帽子の上にちょこんと座していた。全身には包帯が巻かれ、トンボのような羽根はところどころ破れて痛々しい。
「初めまして、王女様。ケンブリッジで大変な事件が起こっていると聞き、あなたの元へ馳せ参じました。私でよければ力にならせて戴きます」
「うわぁ‥‥綺麗な人‥‥ママみたい‥‥」
緋芽佐祐李(ea7197)はエイミーの前に跪き、恭しく挨拶をした。彼女のケガを悪化させてはいけないのと思い、握手での挨拶を断念したのだ。
初めて見るジャイアントに王女は目を丸くすると同時に、どこか儚く、清楚で流麗な佇まいの佐祐李に、感嘆の声を漏らしていた。
「ママ‥‥ディナ・シーの女王様の事ですね。斯様な方に喩えて褒められるとは、恐悦至極です」
最高の賛辞だと受け取った佐祐李は、春の花が蕾を綻ばすように笑みを浮かべた。すると、王女の険しい表情がわずかに綻んだ。
「僕はニックだよ。美容師を目指してるんだ。王女様の髪、女王様に似ていて綺麗だね。やっぱり女王様似なのかな?」
ニック・ウォルフ(ea2767)が佐祐李と微笑み合う王女の後ろから挨拶をすると、途端に彼女は後ろを向いた。
「ママを知ってるの!?」
「うん。氷漬けにされてたからだいぶ髪が傷んでいたけど、ちゃんとお手入れしたよ」
「そうなんだけど、そうじゃなくて!」
「女王様の事や王国の事は歩きながら話しましょう。今は王様を救出し、王女様の心配を取り除くのが先決です」
ソフィア・ファーリーフ(ea3972)が帽子から身を乗り出そうとする王女に微笑み掛けて抑えると、出発を促したのだった。
●ディナ・シーの王女は甘えん坊?
ソフィアとニック、エイミーの先導で、『ゴグマゴクの丘』の近くの洞窟を目指した。
この辺りはソフィアもよく薬草を摘みに来る『庭』みたいなものだったし、森に明るいニックはわざと大きな音を立てて動物達を遠ざけ、不用意な遭遇を避けていた。
「私が薬草を採りに来る時はこの辺くらいまでですけど、治療棟のおねーさんはもっと奥まで行くのですか?」
「もう少し先まで行きますわね。この先は密林になっていますけど、良質の薬草が生えているのですわ」
「本当ですか!? 今度、私にも教えて下さい」
園芸部という事もあり、薬草の話で盛り上がる先頭の2人。
「治療棟のお姉さんの髪は色々遊べそう‥‥じゃなくて、綺麗に手入れしてるなぁ♪」
「患者さんに不快感を与えない為に、気を使っていますのよ」
「僕の髪のセットの実験台‥‥じゃなくて、色々なセットを試してみない? 日替わりで髪型を変えると、患者さんも楽しくなるんじゃないかな♪」
ニックの見立てでは、エイミーの髪は彼の手入れが要らない程綺麗だったが、その分、色々遊べて楽しいだろうと思うと、自然と鼻歌がこぼれた。
「そっか‥‥ママもお兄ちゃんもお友達も、エルンストやニック、ミカエルやイェーガーが助けてくれたんだね」
エルンストやイェーガーから、ディナ・シーの女王や王子が救出され、また王国の無事が伝えられると、王女は安心したように深く深く息を吐いた。
ちなみに王女は今、エルンストが腕から下げたソフィアが薬草摘みに使っているバスケットの中にいる。
「残る王様も、必ず私達で助け出しますわ」
「王女さんも、モンスターに襲われ怖い思いをされた事でしょうけど、今度は私達がついてますから、安心して下さいね」
「治療棟のおねーさんと同じく、俺達も王様を救うと『約束』します」
最後尾を歩き、後ろを警戒する佐祐李と先頭のソフィア、傍らのイェーガーから頼もしい言葉を聞いた王女は、今までの不安がいっぺんに吹き飛んだのか、バスケットの中で静かな寝息を立て始めていた。
「やっと眠られたようですわね。治療棟でも一睡もしなかったのですわ」
「王子と比べて、甘やかされて育てられていたようだ。それが突然、右も左も分からぬ世界に放り出されたんだ、無理もない」
エイミーが白いケープを外してエルンストに渡すと、彼はそれを布団代わりに王女に掛けた。
「そういえば、佐祐李お姉ちゃんの事をよく、『ママ』って言い間違えてたね〜」
「着物を物珍しがっていたけど、心の中では佐祐李さんに妖精の女王の姿を重ねていたんだよ」
「今度、王女様用に仕立ててみましょうか」
チカとミカエル、佐祐李の3人は、初めて見る王女の安心しきった顔に戦いの前である事をしばし忘れ、和んだのだった。
●妖精王救出大作戦!
密林に入り込んでしばらくして、エイミーがチカ達を止めた。目の前の木々の先が、妖精王が捕らえられているらしい洞窟だという。
「ガヴィッドウッドは樹齢100年を越える立派な木ね。トレントと似てるけど、こっらは食欲しかないから厄介だよ」
「この辺りは樹齢100年を越える木が多いですから、見た目でガヴィッドウッドかどうかは区別できないですね」
ミカエルからガヴィッドウッドの説明を聞いたソフィアは、その存在を他の木々に訪ねようと考えた。
「邪魔にならないよう、春花の術で眠らせてしまいたいところですが」
「相手は植物だから、眠らせる魔法や忍法は効かないと思った方がいいわ」
「では、倒すしかありませんわね」
「動かないから、攻撃さえ気を付ければスマッシュ当て放題よ!」
ミカエルは佐祐李への応えに付け加えた。
一方、ニクシーは、人間の水を恐れる恐怖心が具現化したといわれる水のエレメントで、水辺を歩いている人を突然水中に引きずりこんだりするなど、かなり厄介な悪戯を好む、イギリス固有の精霊だ。
「エレメントでしたら、ダークの結界が有効ですね。それでニクシーと交渉してみます」
「交渉してどうするんだ? 水の精霊魔法は結界の外からも届くものがあるから、過信は禁物だぞ」
柄に古めかしい文様の刻まれた短剣を手に考えのあるイェーガーだったが、エルンストは道具に頼り過ぎないよう釘を刺した。
ソフィアが木々に訊ねたところ、ガヴィッドウッドが近くにいる事までは突き止めたが、居場所を絞り込むまでには至らなかった。
「100mの範囲にいるとは思えないけど‥‥まぁ、ダメ元だね♪」
「そうでもない。プラントやエレメントは呼吸をしないからな」
チカは小さく弱々しい息遣いを感知した。呼吸からその大きさはだいたいシフールの半分程度――ディナ・シーだと思われた。それにソフィアの振動を探知した結果を照らし合わせると、妖精王が捕らえられている洞窟を特定する事が出来た。
今のところ、妖精王の捕らえられている洞窟近辺には、彼以外、呼吸をする存在はいないようだ。
「ここはあたしの出番ね。伊達に“炎熱の女帝”なんて呼ばれてないわよっ」
「G退治で付いた二の名ですね」
佐祐李が補足する間にミカエルは自分の身代わりを生み出すと、洞窟を目指して歩かせた。
後一歩で洞窟というところで、目の前に生えていた木の枝が動くと、ミカエルの身代わりを打ち据え、それは一握りの灰へと戻った。
「ガヴィッドウッドが見張りを兼ねているみたいだね!」
ニックがすぐさまショートボウに矢を番えて射るが、樹皮に刺さった程度だった。ガヴィッドウッドの目の前には泉があり、木を避ける事は難しい。まさに天然自然の見張りだ。
「俺が前に出る」
ガヴィッドウッドへ有効打を与えられるのは佐祐李だけだと踏んだエルンストは、スクロールを読んで植物に対する耐性を得ると最前線に立った。
枝が次々と彼に襲いかかる。痛みはないが、枝に揉まれて身体が揺れる。
その隙を突いて、佐祐李が聖者の剣を両手で持って最上段から振り下ろした。
「あ‥‥イヤ‥‥ソフィアお姉ちゃん、治療棟のお姉ぇ‥‥」
後方では、イェーガーの張った結界の中から真空の刃をガヴィッドウッドへ飛ばしていたチカが、泉から現れたニクシーによって氷の棺に閉じ込めてしまった。
「しまった、結界の外から‥‥」
「チカさん!?」
氷の棺の中のチカは、いつもの屈託のない明るい彼女ではなく、その愛らしい顔は氷塊に閉じ込められる恐怖に彩られていた。
ダークの結界は短剣を立てた場所を中心に直径15m。しかし、ニクシーの魔法はその外からでも届くのだ。しかし、ニクシーの魔法が届くという事は、ソフィアの魔法も届く。彼女はニクシーの動きを鈍らせた。
「エレメントであるあなたが、ディナ・シーの王女様を泉へ引きずり込もうとした理由は何なのですか!?」
『ギャリー・ジャックに就いた方が面白いからだよ』
「それだけの理由で‥‥」
「精霊が味方をする理由なんて、その程度よ」
イェーガーはチカを封じ込めた氷の棺の前にリュートベイルを構えて立ち塞がり、ニクシーに詰問すると意外な応えが返ってきた。
絶句する彼に『満足した?』と溜息を1つ、全身に炎を纏い、不死鳥と化したミカエルがニクシーへ怒濤の攻撃を仕掛けた。
「妖精王を助けたよ!」
「長居は無用ですね」
主戦力の佐祐李の代わりに洞窟の中へ潜入したニックが、ぐったりとした妖精王を抱えて出てくる。
イェーガーと佐祐李がチカの氷の棺を運び、ソフィアが重力波を放ってニクシーを水の中へ転倒させると、その隙に逃げ出したのだった。
●妖精王の笛
「治療棟のおねーさん、王様の容態は如何でしょう?」
「衰弱しているようですけど、目立った外傷はありませんから、直に目覚めますわ」
佐祐李達が心配そうに見守る中、エイミーが手当てを施した妖精王は程なくして目覚めた。
「パパァ!」
「‥‥おお、王女! よく無事で!!」
上半身を起こした妖精王に飛び付いて熱い抱擁を交わす王女。
その後、王女よりニック達が紹介された。
「そうか‥‥儂ばかりか、女王や王子、国まで救ってくれたとは‥‥ディナ・シーの王国を代表して礼を言おう」
深々と頭を下げる妖精王。
「困ってる時はお互い様だよ。これで、ケンブリッジと妖精王国の間で友好が深まっていくといいよね〜」
「そうじゃな。儂達の存在を忘れてしまった人間と、再びこうして手に手を取る事が出来たのじゃ」
(「ディナ・シー達の存在を忘れてしまった人間? ケンブリッジは昔、妖精王国と交流があったというのか? ふむ‥‥図書館で見付かった石版の存在を考えると、ケンブリッジと妖精王国は交流が“あった”と考えるべきだろう」)
ミカエルへの返事を聞いたエルンストは、妖精王の言葉から、図書館で見付かった石版を思い出していた。
「国王も綺麗な姿で国に帰らないとね♪」
その間、ニックが妖精王の身嗜みを整えていた。髪を手入れして分かった事だが、やはり王女の髪は女王譲りのようだ。
「王様、今回の一連の騒動は、ギャリージャックという巨人がゴグマゴクの復活を目論んで、目覚めのベルを狙っていたようです」
「『グランタのベル』の事じゃな? 知っておる。だからこそ、儂の持っていた『妖精王の笛』も必要だったのじゃ」
ソフィアが事の次第を掻い摘んで説明すると、妖精王はギャリー・ジャックに奪われた『妖精王の笛』について、3つの能力がある事を説明した。
1つは聞く者を眠りを誘う『眠りの音色』。
1つは森を迷路に変える『森の加護の音色』。
1つは妖精達を支配する『支配の音色』。
『森の加護の音色』により、ゴグマゴクの丘の周りを覆っている結界は作られているという。
また、ギャリー・ジャックに妖精達が協力していたり、人間が次々と攫われたのも、ギャリー・ジャックが妖精王の笛を悪用していたからだった。
ミカエルが妖精王に断って炎を操り、チカを封じ込めていた氷の棺が溶ける頃には、妖精王も自分の足で立てるまでに回復していた。
イェーガー達は妖精王国まで王女と共に送った。
「私も、グランタのような魔法使いに憧れますね」
「‥‥妖精王国が、神と精霊と民と共にあらん事を‥‥そしてケンブリッジとイギリスとの永き友好を、ケンブリッジの生徒として、イギリス国民の1人として願います」
「また、私達の力が必要になったら、いつでも呼んで下さいね。私達はすぐに駆け付けます」
「うん、『約束』だよ」
ソフィアとイェーガーが妖精王と別れの挨拶を交わす横で、佐祐李は王女と念願の握手をして別れを惜しんだのだった。
「あなたの腕前でしたら、理美容の道具はちゃんとしたものを持つべきですわ」
余談だが、エイミーより報酬として、後味が爽やかで美味しいリカバーポーションが贈られたが、ニックには理美容道具一式が渡されたという。