過ぎた6月の花嫁〜歌姫の護衛

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月04日〜07月09日

リプレイ公開日:2004年07月12日

●オープニング

 イギリスの片田舎のその村で、6月に結婚式が執り行われようとしていた。
 幸せ一杯に微笑む花嫁と、準備に追われて忙しいながらも充実している花婿。
 小さな村の大きな行事といえば、収穫祭と結婚式くらいだ。
 村中総出で、新しい夫婦の誕生を祝おうとしていた――。

「私の護衛を雇いたいのです‥‥できるだけ早めにお願いします」
 その日、あなたが冒険者ギルドで壁一面に貼られた依頼書を見ていると、ギルドの受付の者にそう話す女性の声を聞いた。
 その女性は、あなたも冒険者の酒場でよく見掛ける“歌姫”だった。歳は20歳前後だろうか。淑やかな雰囲気を漂わせつつも、異性は疎か同性も惹き付けてやまない妖艶さを醸し出す美女だった。
 何よりその春の到来を告げる小鳥の囀りのような美声は、何度聞いても飽きなかった。
「護衛はどこまでだい?」
「‥‥盗賊に襲われたというキャメロット郊外の村です。そこで歌を披露するので‥‥」
 受付の者は歌姫から依頼の内容を聞き、依頼書を完成させていった。

 歌姫が目指す村は結婚式を数日後に控えていたが、盗賊達に襲われてしまったのだという。
 どこからか噂を聞き付けたのだろう、結婚式を開くという事は金があると盗賊達は読んだようだ。
 幸い、花嫁は村を留守にしていて無事だったが、花婿は最後まで抵抗し、負傷してしまった。
 月は変わろうとも結婚式は執り行われる事になったのだ、と――。

「じゃぁ護衛の内容は、盗賊から守るか?」
「あ、いえ、あの村の近くには昔から狼が出るのです。人を平気で襲い、何人も亡くなっているので守ってもらいたいと‥‥ただ、申し訳ないのですが、持ち合わせがあまりなく、報酬は多く出せないのです‥‥その代わりに協力して下さった冒険者達を村の結婚式にお呼びして、楽しんで戴きたいと思っています」
「報酬が少ない分は修行だと思ってもらうさ。それに冒険者の中には、お祭りを盛り上がらせるのが上手い奴らも多いし、結婚式に呼ぶには打って付けだぜ? おい、あんたら! よかったらこの依頼受けてみないか?」
 伏し目がちに話す歌姫に、受付の者は依頼書を工面した。
 その後、話を聞いていたあなたに依頼を振ってきたのだった。

●今回の参加者

 ea0324 ティアイエル・エルトファーム(20歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ノルマン王国)
 ea0682 クロヴィス・ガルガリン(26歳・♂・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 ea1000 蔵王 美影(21歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea1324 速水 兵庫(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1390 リース・マナトゥース(28歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1402 マリー・エルリック(29歳・♀・クレリック・パラ・イギリス王国)
 ea1423 ルシア・オーレスン(28歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea3982 レイリー・ロンド(29歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●出だしは好調!
「姫を護るのは騎士の本分だ」
 依頼書を冒険者ギルドに貼り出し、冒険者の酒場に戻った歌姫の元へ真っ先に馳せ参じたのはレイリー・ロンド(ea3982)だった。レイリーは歌姫の前で片膝を突いて恭しく礼を取ると、手の甲に軽く接吻をした。
 レイリーはこの歌姫を何度が酒場で見掛けた事があり、その美しさに惹かれていた事から、一も二もなくこの依頼を受けたのだった。
「拙者も宜しいか? 速水兵庫と申す。道中、よろしく頼む」
 レイリーの後ろから速水兵庫(ea1324)が声を掛け、礼儀正しく頭を下げた。背筋をぴんと伸ばして姿勢正しく立つ兵庫は長身のレイリーより更に高く、酒場の中でも目立っていた。
 また、その長身と相まって、きりりとした凛々しさから異性だけでなく、同性にも人気がありそうだった。
「頑張ります‥‥よろしくお願いします‥‥」
 声がして気が付くと、何時の間にか歌姫の傍らにマリー・エルリック(ea1402)の姿があった。その端正な顔立ちは無表情で掴み所がなく、“お喋りするお人形”のような不思議な雰囲気を漂わせる少女だった。
「まだまだ経験が少なく、実力も未熟な新米の神聖騎士ですからどこまでできるか分かりませんが‥‥精一杯、あなたを護ります」
「最初は誰でも駆け出しの新米なんだから、一緒に頑張ろうよ。あたし達も護衛に参加するよ、いいよね、パメラ?」
 リース・マナトゥース(ea1390)が声を掛けると、その横からティアイエル・エルトファーム(ea0324)がリースと一緒に依頼を受けた。
 ティアイエルの物怖じせず、明朗快活で嫌味のない言い振りに、依頼を成功させようと気負っていたリースは、いい意味で肩の力が抜けた。
 ティアイエルは横笛の演奏が好きで、この酒場でも何度か演奏した事があった。その時、歌姫パメラと出会い、何度か伴奏をした事があった。
「パメラ様、わたくし達もご一緒して宜しいでしょうか?」
 ジャパン人の忍者が前を通り過ぎるのを待って、ルシア・オーレスン(ea1423)が声を掛けた。ルシアは横にクロヴィス・ガルガリン(ea0682)を伴っていた。
 歌を唄うのが好きなルシアは、この酒場で何度か讃美歌を披露した事があり、パメラとは唄を通じて知り合っていた。
『やっと、冒険家らしい仕事にが受けられましたよ』
「大変ですね‥‥私もゲルマン語は喋れますから、遠慮なく話して下さいね」
 クロヴィスはイギリス語を喋れない都合で、仕事探しにも難儀していた。クロヴィスが仕事を探している所へルシアがやってきて、イギリス語とゲルマン語を操れる事から通訳を買って出たのだ。
 また、パメラは歌姫という仕事柄、ヨーロッパ圏の言語は一通り話せた。
「これで全員かな? なら出発しない? 狼って群れてしかも夜行性の動物でしょ? 昼間の内にできるだけ移動しておいた方がいいと思うんだよ」
「そう‥‥ですね‥‥昼間‥‥狼に遭う事は‥‥まずないですから‥‥」
 ティアイエルが全員を見渡すと、マリーが同意した。

●ピクニックな道中
 キャメロットから各地へ延びる街道の一本を途中まで使い、そこから森の中へ逸れ、獣道に等しい村への道を歩いていた。
「歌を聞かせてもらえないかな?」
 レイリーが頼むとパメラは快く応じた。今、森の中にはティアイエルの笛の音に合わせて、パメラとルシアの歌声が響き渡っていた。
 普通の動物は人間を恐れる為、声や音を出す事で近寄らせない効果があった。レイリーはそれを狙った訳ではないが、木漏れ日が差し込む静かな森の中、歌声で心が和み、ピクニック気分で歩いていた。
「たんぽぽは‥‥好き‥‥だって‥‥健気で‥‥可愛いから‥‥」
「草花は、画家や彫刻家の“心”がそのまま現れる、簡単そうで難しいモチーフだな」
 森の中のたんぽぽは綿毛になっていたが、マリーの持つたんぽぽは花を着けていた。兵庫の趣味は美術鑑賞と制作だった。
「俺は未知なる物が好きだな。錬金術を学んでいるのもその延長だし、未知への欲求が俺を強くする!」
「私は鉱物が好きですね。今はまだ見習いですけど、いつか自分で打った武器を売りたいと思っています」
「‥‥困っている人を助けられるように、モンスターから護れるように、強くなる為に頑張らないと」
 いつの間にか「何が好きか?」談議になっており、レイリーは錬金術を学んでいる事を、クロヴィスは鉱物に魅せられ、仕事を生き甲斐としている事を話すと、リースは自分に言い聞かせるように言った。
 リースは生まれて間もない頃にモンスターに両親を殺され、ずっと孤児院で暮らしていた。今はその孤児院の生計を助ける為に時々こうして依頼を受けるのだが、困っている人を放っておけない性格のせいか、この依頼のように報酬の少ないものを受けてしまう事も多かった。
「まだイギリス語は苦手なのですけど、歌は心で唄うもの。私の気持ちが皆様に伝わるとよいのですけどね」
「ルシアも海を渡って来たんだね。あたしもそうなんだよ。刺激が欲しくて冒険者になったんだ」
 唄い終わったルシアと、演奏が終わったティアイエルが話の輪に加わった。二人ともノルマン出身だが、方や巡業中のクレリック、方や兄に内緒の家出娘と、その目的は正反対だった。

●狼群戦術
 いつしか夜の帳が降り、森は暗闇のカーテンに閉ざされた。これ以上の移動は無理だと踏むと、兵庫達は早々に夜営の準備に取り掛かった。

「‥‥人の肉の味を覚え、狩る事に馴れた狼達だ。気を引き締めるぞ!」
「前に1、2‥‥4匹です」
 その夜、焚き火を囲んでパメラと楽しく話をしていたレイリーは、事前に夜営地の周辺に撒いておいた小枝が割れる音を聞き、ロングソードに手を掛けた。
 クロヴィスはフレイルを構えて、パメラを背中にかくまった。
 遠巻きに金色の双眸が4つ、ぎらぎらと輝いてリース達を見ていた。焚き火の爆ぜる音に混じって唸り声が聞こえてきた。
 狼は火を恐れる為、焚き火の近くは安全かもしれないが、空腹の時はその限りではない。
「‥‥あなたに‥‥力を‥‥」
「姫は頼んだぜ。“緋き獅子”レイリー・ロンドが相手をするぜ!!」
「新陰流が速水兵庫、参る!!」
 マリーがクロヴィスの後ろのパメラにグッドラックを付与し、ルシアがホーリーを威嚇とばかりに狼達のど真ん中に放つと、それを皮切りにレイリーと日本刀を抜いた兵庫、クルスダガーを持ったリースが飛び出した。
 兵庫はフェイントアタックで、リーダーらしき老いた狼を斬り付け、レイリーはロングソードで斬った後、左手で殴り掛かるダブルアタックを繰り出し、それぞれ狼に手傷を負わせた。
 すると、狼達は兵庫より少し後方のリースを目標に取り囲み始めた。リースはホーリーで応戦するが、一匹の狼に当たる前に別の狼がリースの死角から攻撃し、それを兵庫が薙ぎ払うとまた別の角度から狼が飛び掛かり、今度はレイリーが対処すると‥‥と代わる代わる攻撃を仕掛け、リース達を混乱させた。
「これでどう! あなた達の嫌いな匂いだよ!!」
「獲物を執拗に追い掛け回して弱らせる、狼群(ウルフパック)戦術ですね」
 その時、今まで木に登って周囲を警戒していたティアイエルが、上から昼間の内に採取しておいた強烈な匂いのする香草の入った袋を狼達に投げ付けて混乱させ、その隙にクロヴィスが「私は大丈夫ですからリースさん達を」とパメラに言われて、リースと狼の間に割って入り、盾となった。
 狼達よりも多くの人数で当たる事で狼群戦術に惑わされず、更にルシアもリースと共にホーリーを放ち、クロヴィスのフレイルが一匹の狼の頭を打ち着けて倒すと、老いた狼が遠吠えを上げた。
 すると狼達は恨めしそうにレイリー達に背を向けて走り去っていった。
「拙者達を自分達より強いと認めたようだな。深追いは禁物だ」
「人を襲うのは見過ごせないけど、あのコ達の行動もヒトが家畜を食すのと同じなんだよね‥‥」
 兵庫が日本刀を鞘に収める傍らで、ティアイエルは走り去る狼達に、今まで近くに隠れていたのだろう、小さな狼が寄っていったのが見て取れた。
 狼達も生きる為に、そして子供を育てる為に人を襲っていたようだ。
 深手は負わなかったものの、レイリーと兵庫、リースとクロヴィスはそれなりに負傷しており、マリーとルシアが手当てをした。
 もちろん、パメラは無傷だった。

●結婚式
 パメラを無事に村まで送り届けると、村では挙式の準備が進められていた。
 何でも花婿が冒険者達と共に、盗賊に奪われたウェディングドレスを取り戻してきたというのだ。
「‥‥結婚式って姫のだったのか‥‥」
 パメラが報酬があまり払えなかったのも、物入り前だったからだ。
 レイリーの仄かな想いは2日で終わった。
 クロヴィス達は結婚式に呼ばれたが、神父が盗賊に襲われて重傷を負っていた為、代わりにルシアと神聖騎士が挙式を執り行った。
「それほど美味いって訳じゃないけどね」
 式の音楽はティアイエルが担当した。
 最後のブーケトスでは兵庫と女神聖騎士のある意味取り合いになったが、残念ながら女神聖騎士の方に行ってしまった。
「‥‥ごはん‥‥どうぞ‥‥沢山あるから‥‥いっぱい‥‥食べてね‥‥」
 マリーは倒した狼を捌いて焼きまくり、ファンシーな花柄の皿に盛って村人達に配っていた。
「レイリー、暴飲暴食は駄目ですよ」
「大丈夫、楽しそうにしていますよ」
 クロヴィスは周りに合わせて料理を食べていたが、レイリーの事を気に掛けていた。しかし、リースの言う通り、レイリーは村の女の子達とキャメロットの流行や恋の話題で盛り上がっていた。
「ベック殿、パメラ殿、末永くお幸せに」
 演舞『胡蝶の舞』を舞った後、兵庫は得意の彫刻でパメラ達に手製の木彫りの女神像を贈った。

 こうして小さな村の小さな幸せは、冒険者達の力添えで成就されたのだった。