幻の鍋を求めて

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月06日〜11月13日

リプレイ公開日:2005年11月17日

●オープニング

『Trick or treat!』
『とりっくおあとりーと!』
 開け放たれた入口より、子供達のお菓子をねだる元気な掛け声が遠くから風に乗って聞こえてきた。
「ハロウィンか‥‥」
 受付の女子生徒は溜息を1つ、目の前にある受付の小さなテーブルに俯した。
 今日はハロウィンである。今頃ケンブリッジの街中では魔女や悪魔、カブをくり抜いて作ったジャック・オ・ランタンに扮した子供や生徒達がお菓子をもらって練り歩き、恋人達はデートをしている頃だろう。
 しかし、ケンブリッジの冒険者ギルド『クエストリガー』のある場所は、街の北側にある森の傍で、市街地から離れており、ハロウィンの喧噪もどこか別世界のように聞こえる。
「遅くまでお疲れさま。はい、差し入れだよ!」
 受付の女子生徒は今日の当番になった事を呪っていた。その呪いの矛先が生徒会長ユリア・ブライトリーフへ向こうとしたその時、元気な声と共に彼女の前にお菓子の入った篭が差し出された。
 入ってきたのは、ストレートの銀髪で、どこか猫科の野生動物を思わせる、しなやかで活発そうな少女だった。マジカルシードの制服を着ている彼女の名前はリラ、錬金術士を目指している少女だ。
「ありがとう。あなたはどうして?」
「もちろん、依頼しに来たんだよ。生徒でも先生でも冒険者でもいいから人手が必要なんだ。『ブラン製の鍋』を手に入れる為に」
「ブラン製の‥‥鍋?」
 思わず聞き返す受付の女子生徒。
 『ブラン』とはマジックアイテムの材料として使用される、希少金属の1つだ。たったの1つまみの小石が100Gで取引される程、大変価値の高い金属である。
「そう、ブラン製の鍋。文献を調べていたら、とある遺跡にその幻の鍋が眠ってるらしいんだ」
 学園都市の名前は伊達ではなく、こんな日でも図書館で調べものをしたり、マジカルシードで魔法の練習をしたり、フォレスト・オブ・ローズで剣や槍の訓練をしたり、フリーウィルで冒険者の技能を磨いたりと、ハロウィンと関係なく普段通りの生活を送っている講師や先生も多い。
 どうやらリラもその1人で、先程まで図書館にいたという。
 故にこんな日でもクエストリガーも開いているのだ。
「ボクが今使っているのは青銅の鍋だけど、ブラン製の鍋が手に入れば、より高度な調合や錬成が行えるんだよ」
 武器や防具は鉄製の物が多いが、鍋といった器具は青銅製の物が主流である。
「でも、その遺跡は一通り発掘が終わっているのでは?」
「らしいね。でも、記録を調べたら一カ所、気になった点があったんだよ」
 ケンブリッジ近辺にある遺跡は大抵は調査は済んでおり、受付の女子生徒の指摘はもっともで、リラは頷くが言葉を続ける。
 何でも、その遺跡の奥にはガーゴイルらしき像が2体配置されているのだが、以前調べた時には特に襲ってくる事はなかったというのだ。
 ちなみに、ガーゴイルとは悪魔を象った石像に魔力を与えて特定の場所を守らせるモンスターで、何かのきっかけで対象者を襲うようになっている。
「ガーゴイルが配置されているのに、襲ってこないなんて何かおかしいでしょ? ガーゴイルが配置されている場所の近くに何かが隠されているのか、それともガーゴイルと見せ掛けて本当にただの石像なのか‥‥調べてみる価値はあると思うの」
 もし、隠し通路等が見付かれば、その先に幻の鍋が眠っている可能性は高いとリラは熱弁を振るう。
「それで報酬なんだけど、遺跡の中にある物を山分け、というのはどうかな? もちろん、ブラン製の鍋は除くけど」
 遺跡の中にアイテムがあれば山分けになり、何もなければ無報酬という事になる。
 遺跡探索はリスキーなものが多い。一山当てれば大きいが、何もない時も少なくない。それはリラも分かっているが、どうしても行って自身の目で確かめたいようだ。
 リラからもらったお菓子をつまみつつ、受付の女子生徒は依頼書を書き上げた。
「ブラン製の鍋ですか‥‥昔の人の考える事はよく分かりませんね」
 書き終えた依頼書を見つつ、受付の女子生徒は一人ごちるのだった。

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2538 ヴァラス・ロフキシモ(31歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7804 ヴァイン・ケイオード(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9037 チハル・オーゾネ(26歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ワケギ・ハルハラ(ea9957

●リプレイ本文


●期待と不安と
「今回、力不足でお手伝いできず、すみません」
「‥‥代わりに俺がお手伝いします」
 リラが待ち合わせ場所に指定した『理の門』に最初に現れたのは、ワケギ・ハルハラを伴ったイェーガー・ラタイン(ea6382)だった。
「遺跡やブラン製の鍋についての資料はありますか? あれば今から図書館で調べて、分かり次第フライングブルームで追いかけますけど」
「ワケギ君の気持ちは嬉しいんだけど、都合で来られない事って冒険者にはよくあるでしょ。それに図書館で調べるっていうけど、ボクもかなり時間が掛かったから、今日中に遺跡やモンスターの事を調べるのは難しいんじゃないかなぁ」
「今回は頭数が少ない方が分け前が多そうだしなァ。何せブランっつうのは1つまみの小石でも100Gだからねェ〜、ムククク」
 ワケギの提案をリラがやんわりと断ると、横からヴァラス・ロフキシモ(ea2538)が口を挟んだ。図書館で調べられるのはアニマルやプラントといった、比較的身近なモンスターの生態についてだろう。
「依頼人殿ォ、その鍋とやらはこのヴァラス様が必ず見つけて御覧に入れますからねェ〜。期待しといて下さいよォ〜」
「ブラン製の鍋ですか‥‥ブランをそのようなものに使うとは、凄まじい程もったいないですね。他に使い道があったと思いますが‥‥」
 かなりの報酬が期待できる事からご機嫌な上にリラをヨイショするヴァラスの横で、ルーウィン・ルクレール(ea1364)がもっともな意見を述べた。
(「ブラン製の鍋って魔法の鍋って事だよね‥‥? お料理の味が美味しくなったりするのかな? 或いはそれで殴ったりすると多大なダメージを与えるとか‥‥それか、兜のように頭に被るとか‥‥ど、どんなんだろ!? 鍋以外にも色んな物に使えそうだね!」)
 ルーウィンと同じFORに通うシスティーナ・ヴィント(ea7435)は、先輩の意見を聞いてブラン製の鍋について想像が尽きない。
「青銅製の鍋だと、調合や錬成時の熱の限界があるんでしょ? ブラン製の鍋ならどんな高温にも耐えられそうだよね」
「あ、錬金術! ブランって見た事ないから、もしホントに手に入ったら凄いね!」
 ミカエル・クライム(ea4675)の言葉とリラを見て、システィーナは思わず手をぽんと叩いた。
「あたしも見た事ないよ‥‥っていうか、大半の冒険者は見た事がないんじゃないかな?」
「だからこそ、冒険者は遺跡に憧れて探求し続け、挑むのですよ。得手不得手は別として‥‥」
「私も同感です。学生の前に冒険者でもあるので、“遺跡探険”という言葉はやはり心くすぐられますね」
 ミカエルのいう事はもっともであり、ブラン見たさと遺跡探険という言葉に、吟遊詩人心に火が付いて参加したチハル・オーゾネ(ea9037)は思わず苦笑を浮かべた。冒険者の遺跡探検をモチーフとした歌は少なくない。
 その心がよく分かるソフィア・ファーリーフ(ea3972)もチハルに同意するように微笑んだ。
「あぁ、うん。見知らぬ遺跡を突き進むのは浪漫だよなぁ」
 ソフィアと同じく、子供のように純真で嬉しそうな笑みを浮かべるヴァイン・ケイオード(ea7804)だったが‥‥。
「難点は、俺はモンスターの生態研究が専門の学者で、遺跡探索にはあんまり向いてない事だが」
「あたしも邪魔にならないよう一所懸命付いていきます」
「それは俺がしますよ。代わりにモンスターの事を教えて下さいね」
「ああ、モンスターなら任せてくれ。それにチハルの吟遊詩人としての耳も、遺跡探検では絶対に必要だから期待してるよ」
 射撃は腕に覚えのあるヴァインだったが、罠を発見したり解除する腕前については自信がなかった。それは吟遊詩人であるチハルにも同じ事が言えた。「冒険者はお互いを補う為にパーティーを組むのですよ」とイェーガーが自分の胸を叩くと、ヴァインはチハルの肩に手を置いた。
「じゃぁ、全員揃った事だし、リラちゃんの為に幻のブラン製の鍋を取りに向かうよ!」
「「「「「「「「おー!」」」」」」」」
 ミカエルが出発の音頭を取ると、全員が応えたのだった。

●ケガの功名
 道中、ヴァインは遺跡に出そうなモンスターの情報を告げ、チハルはリュートベイルを爪弾いて天使の美声を披露した。
 祖国では支配階級に君臨しているハーフエルフを嫌うヴァラスは、チハルに何か言いたげだったが、その都度、さり気なくルーウィンが間に入り、言いたい事を告げられなかった。

 真冬が近い事もあり、モンスターに遭遇する事なく遺跡に辿り着いた。
「これは、遺跡だと言われないと分からないですね」
 とはチハルの第一印象である。遺跡の入口は森の木々の中に完全に埋没しており、遺跡の事を知っているリラが居なければ、目のいいヴァインやイェーガーでもそうそう分からないだろう。
「以前はこの上に建物があったらしいんだけど、今は地下しか残ってないみたいだね」
「確かに、建物の柱らしい跡はあるなァ」
 リラに言われて、入口同様、木々に埋もれている建物の跡を見付けるヴァラス。
 前衛はイェーガー・ヴァイン・ルーウィン、中衛はミカエル・チハル・ソフィア・リラ、後衛はヴァラス・システィーナの順で隊列を組むと、イェーガーとヴァラス、リラがランタンを灯し、ミカエルがたいまつを持って遺跡の中へ臨んだ。ランタンは油を補充すればずっと使えるが、落とすと割れてしまうのに対し、たいまつは使い捨てだが、落としても火は消えないし、クモの巣を焼き払ったり出来る事から、両方用意するのが遺跡探索のセオリーだ。
「地下2階までは探索が終わっているんだね。地下2階にガーゴイルらしい像がある、と」
 リラが控えを取ってきた遺跡の調査資料を見ながら、後ろを警戒するシスティーナ。とはいえ、地下2階までは完全に調査が終わっており、罠1つ、敵1匹、見当たらなかった。

「これが問題のガーゴイルですか‥‥」
 地下2階の奥にはデビルのインプを象った像が2体立っており、その間に人1人分が入れるスペースがあった。
「その間に隠し扉はないみたいだね」
「だとすると、この像の後ろか、横の壁か‥‥」
 システィーナが調査結果を読み上げると、イェーガーはランタンの油が1回切れる程時間を掛けて像の後ろや横の壁を調べたが、やはり空洞らしきものはなかった。
「初っ端から収穫なしだとォーッ。ふざけてんじゃあねえぞ! クソがッ! クソがッ!」
 いきなり八方塞がりになり、頭に来たヴァラスは八つ当たりよろしく像を蹴りまくった。すると像がぐらりと傾き、倒れた。
「‥‥!? イェーガーさん、今まで像が立っていた床を調べてもらえませんか?」
 卓越した聴力を持つチハルは、像が倒れる音とは別の音を聞き取っていた。
 イェーガーが彼女の言葉に従おうとした次の瞬間!
「イェーガー殿、危ない!」「危ないよ、イェーガーさん!」
 ルーウィンとシスティーナが同時に跳び、イェーガー目掛けて振り下ろされようとしていたガーゴイルの爪を、方やシルバースピアで、方やライトシールドで防いだ。どうやら像のあった床を調べようとすると動き出すようだ。
「ガーゴイルなら燃える事もないわね!」
 ソフィアとリラを下がらせると、ランタンの1つの炎を操り、ガーゴイルの向かわせるミカエル。同じガーゴイルにチハルもムーンアローを放つ。
 ヴァインは関節を狙うが、これはかわされてしまう。意外と回避能力は高いようだ。
 イェーガーもGパニッシャーを持って前線に出ると、ヴァラスと共にガーゴイルを思いっきり叩きのめした。
「ガーゴイルはバーストアタックしなくてもいいんだよね?」
「ええ、ヴァイン殿が説明した通りです。これで、どうですか」
 システィーナのGパニッシャーが1体のガーゴイルを砕き、ルーウィンのシルバースピアによる突貫がもう1体のガーゴイルを壁に串刺しにしたのだった。

●前人未踏の領域
 イェーガーが床を調べると、果たして隠し扉が見付かった。
「ねね、リラさん! こういう遺跡だと宝物もありそうだよね。軽めの防具とか武器とか魔法効果があるのが嬉しいなぁ」
「依頼人殿ォ、ブラン製の鍋じゃあなかった場合は我々が戴いてもいいんですよね? つまりブラン製の皿だとか、ブラン製のコップだったらって事ですよォー」
 はしゃぐシスティーナの高望みに、ヴァラスがここぞとばかりに報酬の条件の隙を突いた。
「ボクはブラン製の鍋しか興味ないし、みんなで山分けならいいよ。でも、錬金術の道具ならもらいたいなぁ」
「私でも持てる魔法のアイテム見つかるといいな」
「宝か‥‥魔法の弓でもありゃなぁ‥‥」
 リラはブラン製の鍋か錬金術の道具以外は興味がないと言い切ると、ソフィアとヴァインもちょっとだけ本音が出てしまう。

「いよいよ未知の領域ね♪」
 ランタンに油を補充して、興奮冷めやらぬミカエル達が隠し扉を開けると‥‥中は落とし穴だった。
 がっかりするミカエルだったが、ヴァラスは側面に空洞を見付けた。生憎、ソフィアが持ってきた縄はしごはロバに積んであり、この場になかった。チハルがロープを取り出すと、ヴァインは滑り止めの結び目を造って垂らし、先へ進んだ。
「これはアロー・スリットですね。俺がスイッチになっている石に印を付けますから、絶対に踏まないで下さいね」
 しばらくは廊下が続いたが、特定の床を踏むと壁のどこからか矢が発射されるトラップのようで、イェーガーは持ってきたリボンを矢の発射口と思われる壁の隙間に詰め、スイッチと思われる石に印を付けながら先に進んだ。

 廊下の突き当たりは部屋になっていた。中はがらんどうとしていて奥にも扉があった。
 入り口を開けたまま奥の扉を開けようとすると‥‥いきなり入り口が閉まり、奥の扉も閉まってしまう。そして、天井が徐々に下がり始めたではないか!
「入口の扉、開かないわ!」
「こっちの扉も鍵が掛かってるみたい。どうしよう、このままじゃ潰されちゃうよ!?」
 ミカエルとシスティーナがそれぞれの扉を開けようとするが、鍵が掛かってしまっていた。
 ソフィアが咄嗟に床に穴を開けて全員がそこへ退避し、落ちてきた天井をやり過ごしたのだった。

 またしばらく廊下が続き、目の前には扉を塞いでいる2体の木製の彫像があった。ヴァインの見立てでは、十中八九、ウッドゴーレムだろう。倒さないと奥へ行けないようだ。
「天井の上にスライムらしい物体が移動していますね」
「落ちてくるトラップのようですが、スイッチが分かりませんね」
 振動を探知したソフィアに、イェーガーが頭を振った。ウッドゴーレムは近付けば動き出すと予想できるが、下手をすれば天井の上を這うスライムが落ちてくる可能性もあった。それ自体が引っかけで、落ちてこないという可能性も考えられるが‥‥。
「ここまで来られたのですから、なるようになりますよ」
 恐いもの知らずのチハルらしい一言に、リラを始め全員が頷いた。ゴーレムを配置しているという事は宝を守らせている可能性が高い。ここまで来て先に進まない訳にはいかないのだ。
 ミカエルが灰から自分の分身を作ると、ウッドゴーレム目掛けて歩かせた。木製の彫像の手が届く範囲に近付くとそれは動き出し、手と一体になっている木剣の一撃ミカエルの分身は灰に戻った。
「メイスやアクス、ある程度重い武器だったら、ウッドゴーレムに普通にダメージを与えられるぞ!」
 ヴァインが叫ぶ。システィーナやイェーガーは問題ないが、ヴァラスのレイピアやルーウィンのシルバースピアは軽く、ダメージが半減してしまうという。
「オーラチャージャーの二の名は伊達ではありませんよ」
「ブッた切ってやるぜェーッ!」
 イェーガーが予備のハンドアクスを渡すと、ルーウィンは闘氣を纏わせた。
「皆さん避けてー! あっ、ゴーレムは避けちゃダメー!!」
 ルーウィン達が攻撃し終わった頃合いを見計らい、ソフィアが2体まとめて重力波の餌食にする。
 このまま勝利かと思いきや‥‥。
「!? リラちゃん危ない!!」
「きゃぁ!? ミカエルちゃん‥‥いや、何これ!」
 乱戦になっていたのでウッドゴーレムか誰かが踏んだかは分からないが、天井の上にいたはずのグレイオーズがリラの頭上から落ちてきたのだ! いち早く気付いたミカエルはリラを突き飛ばし、代わりにグレイオーズを頭から被ってしまう。
 グレイオーズはスライムとは思えない程素早く、ミカエルの滑らかな褐色の肌に身体を粘着状の触手の様に伸ばして絡ませ、捉えてゆく。グレイオーズの身体は酸で出来ており、ミカエルの身体を溶かして喰らおうとしているのだ。
 ウッドゴーレムはヴァイン達に任せ、システィーナはミカエルに癒しの魔法を唱え続ける。しかし、チハルのムーンアロー以外で迂闊に攻撃すればミカエルを傷つけてしまうが、ムーンアローの威力は弱くグレイオーズを倒すには時間が掛かるし、システィーナの魔力にも限界はある。
「‥‥ミカエルちゃん、ボクの所為で‥‥ゴメンね!」
 リラは意を決すると、苦肉の策としてミカエルを石化した。
 石像と化したミカエルは溶かす事は出来ない。グレイオーズは次の目標を求めてミカエルから離れたのだった。
 だが、そこに待ち構えていたのは、ウッドゴーレムを倒したイェーガー達だった。

●幻は儚く
 ミカエルが目を覚ますと、そこは治療棟だった。
「気が付いた? ボクの所為でホント、ゴメン!」
「‥‥リラちゃん‥‥ううん、冒険者に危険は付き物だよ‥‥それより、ブラン製の鍋は?」
 真っ先に目に飛び込んできたのは心配そうに見つめるリラのだった。グレイオーズを倒したのはいいが、ミカエルの石化は治せず、石像をここまで運んだのだ。
「ははは、残念だけどなかったよ」
 ミカエルの問いに苦笑を浮かべるリラ。最後の部屋は遺跡の主の書斎だったようで、銀製の武器や魔法の指輪や道具、まだ朽ちていない防具があり、山分けしたのだ。
 ベッドの上には、ミカエルの取り分である魔法の杖が置かれていた。
 しかし、ブラン製の鍋を含め、ブランと思われるものは何一つ無かった。もしかしたら銀製の品が、いつの間にかブランと思われていたのかもしれない。
「ブラン製の鍋は幻で終わっちゃったけど、今に始まった訳じゃないしね。また情報を掴んだら、その時はよろしくね」
 リラは全員にウインクしたのだった。