Thorn’s wood・Assassin

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:7〜13lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 95 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月12日〜11月20日

リプレイ公開日:2005年11月24日

●オープニング

 うふふ、あやかお姉さま、やっと見付けましたよ。
 絵の好きなお姉さまの事ですから画家あたりに変装しているとは思いましたが、巫女としてキャメロットから遠く離れた修道院に居るとは思いませんでした。
 確かに巫女の方が安全ですし、お陰で見付けるのに苦労しましたよ。流石は楓のお姉さまです。
 でも、お姉さまの平穏な生活ももう終わりです。楓が生き終わらせてあげますから。
 お姉さまの妹である真田楓が、里からの追っ手としてお姉さまを生き終わらせてあげますから‥‥。

「楓‥‥」
「お久しぶりです、あやかお姉さま」
 修道院を訪れた楓の姿を見ても、お姉さまは一瞬たりとも顔色一つ変えません。楓が来た理由は分かっているのに、相変わらずの無表情振りです。
 やはり忍たるもの、こうでないといけません‥‥って、楓、感心してる場合じゃないんですけど。
「あやか、そちらの方は?」
「ああリムニアド、ジャパンから私を訪ねてきた、私の‥‥」
「妹の真田楓です!」
 入口の観音開きの扉の片方を開け、立っていたお姉様の横から顔を覗かせる金髪の女性。修道女の服を着た女性の名前はリムニアドというらしいです。
 お姉さまと同じ修道女の服を着ているのに、如何にもお嬢様って感じで清楚で上品で、思わず魅入ってしまうくらい、綺麗な人です。
 反面、ジャイアントのお姉さまは、妹の楓が言うのも何ですけど、あんまり似合ってません。
 ジャパン人のお姉様に客が来るのは珍しいと思うけど、わざわざ見に来る程でもないようです。ほら、他の修道女は遠巻きに様子を窺っているだけですし。
 楓、それでピンと来て、お姉様の腕に抱き付きながらリムニアドににっこりと微笑みました。
 お姉様の緑色の黒髪も、気の強さを現す凛々しいお顔も、逞しい腕も変わっていないのに、感じるのは‥‥女性の香り。多分、この香りはリムニアドのものでしょう。
「妹!?」
「こら楓、リムニアドに勘違いさせるな。妹といっても血は繋がっていない。里で姉妹同然に育てられたんだ」
 やっぱりというか、素っ頓狂な声を上げるリムニアドに、お姉さまは楓を叱り、絡めた腕を放しながら説明します。
 そう、楓とお姉様は実の姉妹ではありません。お姉様はジャイアントですが、楓は人間です。忍びの里で忍者として姉妹同然に育てられました。
 でも、血の繋がりってあまり関係ないと楓は思います。楓は親を知りませんが、お姉さまや里のみんながいれば寂しくありませんでしたし。

 ‥‥だからこそ、里を抜け出したお姉さまを生き終わらせる追っ手に志願したのですよ。

「積もる話もあるだろう、修道院長に話をしておくからしばらく泊まるといい」
 楓がここに来た時点でその事は分かっているはずなのに、お姉さまは楓を修道院に泊めてくれました。リムニアドはちょっと不満そうでしたけど。
 聞けば、修道院は宿屋の代わりもしていて、旅人をよく泊めるそうです。
 お姉さまは楓がここに来た理由を聞きませんでした。リムニアドには、里でのお姉様の昔の事を色々と聞かれると思いましたが、意外にも聞いてきませんでした。

 夜になり、ほとんどの人が寝静まった後、楓は修道院の中を把握する為に部屋を抜け出しました。
 神聖騎士という警備の人がいましたが、楓の忍としての腕前の方が上で、構造や死角を頭に叩き込みます。
 そしてお姉さまの部屋の様子を窺いに行った時‥‥お姉さまはリムニアドと愛し合っていました。
 楓が見ているのは気配で分かっているはずです。なのに愛し合い続けました‥‥幸せそうに。とても幸せそうに。
 里にいた時、あんな幸せそうなお姉さまの顔は見た事がありません。楓が思い浮かべられるお姉さまの幸せそうな顔は、楽しそうに絵を描いている時くらいです。

 次の日、楓は畑仕事へ向かうお姉さまに同行しました。畑には楓とお姉さまの2人しかいません。
「楓、お前がここに来た理由は分かっている。しかし、私はお前に殺される訳にはいかないし、今の生活を手放す気もない」
「‥‥リムニアドにたぶらかされたからですか? だったらリムニアドを生き終わらせば、里に帰ってきてくれますか?」
「違う。里を抜けたのは私の意思だし、リムは1人の女性として愛している。お前がリムを生き終わらせるというなら‥‥」
 凄まじい殺気に、楓は思わず懐に忍ばせていた手裏剣を構えます。
 お姉さまはいつの間にか忍者刀を逆手に構えていました。楓も気付かない程の早技です。その切っ先は楓の喉笛をいつでも斬り割ける位置にあります。
 しかし、楓はそれ以上に構えられた忍者刀を見て驚きました。
 その忍者刀は‥‥。
「お前から貰った無銘の名刀だ。忍び道具はほとんど処分したが、これだけは処分できなかった。お前から貰った大切な、私の宝物だからな」
「それで楓を生き終わらせると? ‥‥本気なんだ、お姉さま」
「ああ、お前がリムや私を生き終わらせるというなら、私は躊躇う事なくこの刃でお前を生き終わらせる」
 そう、その忍者刀は楓が初めて貰った報酬をお姉さまにあげたもの。魔力を秘めた忍者刀。
 ‥‥お姉さまは本気です。本気であのリムニアドを護り、楓を生き終わらせようとしました。
 お姉さまは忍者刀を何処かにしまい、畑仕事を再開しました。もちろん、私も手伝いましたよ、客分とはいえ居候ですから。

 お姉さまを生き終わらせる事は楓の腕でも不可能ではありませんが、一騎打ちでは楓が返り討ちに遭う確率の方が高いです。
 かといって、無関係な修道女達を巻き込むのは、追っ手して本意ではありませんし、楓もそれは望みません。
 残る手はリムニアドを生き終わらせる事です。今はああいう事を言っていますが、恋は一時のものですから、いずれは里に戻ってくるに違いありません。

 楓の帰りが遅ければ里から別の追っ手が来るだけですから、楓がきっちりとお姉さまに片を付けます。

●今回の参加者

 ea0110 フローラ・エリクセン(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea0412 ツウィクセル・ランドクリフ(25歳・♂・レンジャー・エルフ・フランク王国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2638 エルシュナーヴ・メーベルナッハ(13歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea3777 シーン・オーサカ(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6159 サクラ・キドウ(25歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

チカ・ニシムラ(ea1128)/ 真崎 翔月(eb3742

●リプレイ本文


●準備は抜かりなし?
 キャメロットの冒険者ギルドの前では、シーン・オーサカ(ea3777)の愛馬に真崎翔月が荷物を積み込み、出発の準備が進められていた。シーンの他、ツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)やサクラ・キドウ(ea6159)、クレア・クリストファ(ea0941)が愛馬を持っているので、エルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638)とフローラ・エリクセン(ea0110)が分乗すれば歩いていくより速く修道院に着けるだろう。
「今度の相手はジャパン人の忍者だそうじゃな。ならば、これは効果覿面じゃよ」
 年甲斐もなく悪戯を企む子供のように笑う翔月が手にしていたのは、ジャパン語で『残念』と書かれた布きれだった。
(「忍者といえばジャパンの中で、影に動く事を得意とすると聞く。今回ばかりは流石に、ヴィルデの妹分相手に隠密活動を挑んで、勝てる自信は無いな‥‥」)
 だが、それを仕掛ける当の本人は、表情にこそ出さないものの、内心、不安を抱えていた。ヴィルデフラウ(=真田あやか)の忍者としての腕前を知っているツウィクセルは、レンジャーとしてその妹分の真田楓を出し抜かなければならないのだ。
「サクラちゃんいいな〜。ヴィルデお姉ちゃんはね、抱かれるとすっごく柔らかくて温かいんだよ♪ リムお姉ちゃんも温かいけど、抱かれ心地はヴィルデお姉ちゃんには敵わないんだ」
「‥‥なるほど‥‥ヴィルデフラウの方がリムニアドよりスタイルが良いという事ですね」
 あやかと面識のあるチカ・ニシムラから、彼女や恋人のリムニアドの事を一通り聞いたサクラは冷静に突っ込みを入れる。
「あっはっは、サクラ、そこは突っ込みどころじゃないでしょう」
「‥‥そうですか? それと、今回お手伝いさせてもらうサクラです。改めてよろしくお願いします‥‥」
 ゲラゲラと笑いながら至ってクレバーな彼女を更に突っ込みクレアだが、サクラはあくまでマイペースにクレア達の方を向いてぺこりと頭を下げた。
「任せときなさい、伊達に夜駆守護兵団の団長やってないわよ‥‥ツウィクセルもなるようにしかならないんだから、漢だったら腹を括りなさい」
 エルシュナーヴの肩に腕を回して恋人よろしく侍らせながら、通行人すら振り向いてしまうようなクレアの豪快な笑い声は、ツウィクセルの沈んだ雰囲気を一蹴してしまった。
「‥‥禁断の愛は‥‥やはり上手く、いかないので‥‥しょうか‥‥?」
「そんな事あらへんって。うちとフローだって、今まで多くの障害を一緒に乗り越えてきてるやろ? ヴィルデもリムも一緒なら乗り越えられるし、うちらも乗り越えられると信じて、背中を押さにゃ!」
「‥‥そう、ですね‥‥私達にも‥‥できる事は、あるのですよ‥‥ね!」
 フローラの心配そうなか細い声音を、シーンは自らの胸をどんと叩いて否定すると、彼女の細い身体を抱き寄せた。抱き寄せられたフローラは、そっとシーンの背中に手を伸ばし抱擁する。彼女の鼓動が自分のそれを重なり合うこの感覚と一時‥‥それがフローラに安らぎを与えてくれた。
「恋に傷害は付き物だし、傷害が多いほど燃えるものだよね。何だか三角関係っぽく見えなくもないけど、仲良く終われるように頑張ろう、ね?」
 今まで甘えるようにクレアに寄り添っていたエルシュナーヴの、真顔の一言にサクラ達は大きく頷く。
 荷造りが終わると、エルシュナーヴ達は翔月とチカに見送られてキャメロットを発ったのだった。

●あねと、いもうとと、こいびとと
 あやかとリムニアド、そして今は楓も暮らす修道院は山間にあり、今の時期は越冬の準備で大忙しだ。
 サクラ達はリムニアドの客分として紹介された。リムニアドは花嫁修業に来ている貴族令嬢なので、その方がフローラ達の地位も保証されるからだ。また、サクラとクレアが騎士という事あり、ツウィクセル達はその従者として快く迎えられた。

 エルシュナーヴ達が修道院へ着いた時、あやかと楓は外で薪割りをしていた。
「エルっていうの、宜しくね♪」
「イギリスでは、初対面の相手に呪い(まじない)を使うの?」
 順に自己紹介していくが、楓はエルシュナーヴへ笑いながらそう返した。彼女はツウィクセルの背中越しにチャームを唱えたのだが、それがばれたようだ。
(「魔法を唱えた時の光はどうしても抑えられないが、それを察知するとはな。俺でもそうそうできる芸当じゃないぞ」)
 改めて楓の実力を知り、心の中で驚愕するツウィクセル。
「あぁ、コレ? あーっはっはっは、友達を作る魔法よ。エルはあなたとすぐにでもお友達になりたいからした事なの。許してあげてね」
「ゴメンね。エルね、おねーちゃんが欲しかったんだけど、いきなりは失礼だったよね。お詫びの代わりに一曲歌います。エル、お歌唄うのが好きなの♪」
 すかさずフォローするクレア。エルシュナーヴも深々と頭を下げると、フェアリー・ベルの澄んだ音色に合わせて高らかに唄い始めた。

『あの闇の中までも、この歌は届きますか?
 あなたが眠る、暗い闇の奥底までも‥‥
 この歌が届いたなら、どうか応えて‥‥
 伝えたい言葉が、想いがあるから――』

 甘露のように甘く、それでいてどこか切ないエルシュナーヴの歌声が終わると、楓は盛大な拍手を贈った。
「楓が誤解していたようです。エルシュナーヴさん、楓とお友達になって下さい」
「ううん、エルの方こそホントにゴメンね。エルシュナーヴって呼ばれるのはくすぐったいから、エルでいいよ♪ エルも楓おねーちゃんって呼ばせてもらうね」
 楓から差し伸べられた手を、エルシュナーヴは笑顔を湛えて握った。

「‥‥あやかさん‥‥リムさん‥‥互いを‥‥想う気持ちは、変わって‥‥いませんか‥‥?」
 エルシュナーヴ達の輪から離れた場所では、フローラが少し頬を染めながらあやか達に確認すると、2人はフローラとシーンの前で軽い接吻を証に見せた。
「‥‥大丈夫だと‥‥理解していますが、楓さんが‥‥来た事で、気になって‥‥いたのです‥‥あやかさんは‥‥できるだけ、リムさんの‥‥側に居てあげて‥‥下さい‥‥」
「楓はんの事はうちらに任せときぃな! 何なら今まで楓はんの事で根詰めてた分、リムを可愛がってな」
『ヴィルデさんの話では、楓とヴィルデさんの力量はヴィルデさんの方が優っているそうだな。となると、正攻法でヴィルデさんに挑んでは来ないだろう。リムニアドさんが狙われるという可能性も出てくる』
 道中、ツウィクセルの楓の行動に関する推測を聞いたフローラは、あやかにリムニアドからできるだけ離れないよう頼んだ。茶化したシーンもそういう真意を含んでいた‥‥かも知れない。

●修道院の中という事をお忘れなく
「‥‥と、大見得切ったものの、しまったで。こんなに人の往来があるとは予想しとらんかったなぁ」
「‥‥シーンの格好、ただですら目立ちますからね‥‥」
 修道院に滞在中、自由に使える部屋の中でシーンが盛大に溜息を付くと、フローラはその背中にそっと寄り添って慰めた。
 シーンは空色のジャケットを着ているが、そこには至るところに『スクロール』が顔を覗かせていた。その数、実に17本! もちろん全部を常時持ち歩いている訳ではないが、スクロールを使用するには当然広げなければならないので、一瞬だけ光る魔法より目立つのだ。
 いくらリムニアドの客分とはいえ、不審がられない方がおかしい。なので、1度、警備中の神聖騎士にスクロールを広げているところを見付かったシーンは、部屋の外では大っぴらにスクロールを使用できず、こうして部屋に戻ってきて使っていた。
 それはフローラやクレアも同じだった。フローラはブレスセンサーで、クレアはデティクトライフフォースで、楓の居場所を突き止めようとするが、修道女や神聖騎士、信者の往来があり、頻繁に使う事ができないでいた。
(「ヴィルデさんとリムニアドさん以外の人を巻き込まないようにするとなると、毒殺の線は消えるな。食事はスープ等は全員で分けるから、特定の人物を毒殺するのは無理だ」)
 ツウィクセルは修道院の間取りを頭の中に叩き込みながら、楓が仕掛けるであろうトラップを推察し、逐一確認した。彼は修道院の警備を務めるフィディエルという神聖騎士と面識があったので、彼女の協力を得て見回りに同行させてもらっていた。
「修道院というのは初めてですし‥‥ふむ‥‥こうなってるんですか‥‥」
 一方、サクラとクレアは、ツウィクセルとは別の方向から内部を見学するフリをして内部構造と警備状況を把握するなど、楓に対する包囲網を着実に狭めていた。

「あやかお姉さまは楓と同じく、里に拾われたので身寄りがないんですよ」
 さて、その楓は、すっかりエルシュナーヴと仲良くなり、仕事の合間に追いかけてくる彼女と話に花を咲かせた。
「楓おねーちゃんから見て、あやかおねーちゃんってどんな人なの?」
「どういう人っていわれても‥‥難しいですね。大切なお姉さま、かな。楓にはあやかお姉さま以外、身寄りがいませんから」
 日々、忍者としての修行に明け暮れる里は、楓にとって必ずしも安住の地ではないという。あやかがいる場所こそ楓の“求める”安住の地なのだとエルシュナーヴは感じていた。
(「でも、あやかおねーちゃんは、真田あやかという名前を捨てて、ヴィルデフラウとしてリムおねーちゃんを選んだんだよね‥‥楓おねーちゃんからすれば、捨てられたと思っているのかな?」)
 それは“家族の絆”かも知れない。楓にとってリムニアドは自分とあやかの家庭を壊した“憎むべき存在”という事になる。
(「楓おねーちゃん、リムおねーちゃんを殺しても何も解決しないよ」)
 説得の為の材料集めだったが、いつの間にかエルシュナーヴも楓の事が好きになっていた。少なくとも、こうして話している時は年相応の女の子に変わりない。本当は寂しがり屋で、あやかに甘えたくて仕方のない‥‥まるで自分を見ているかのようだった。

●温もりで想いを伝えて
 明日にはクレア達はキャメロットへ戻らなければならない。
「俺達がプレッシャーを掛けすぎたかどうかは分からないが、動かない以上、こちらから仕掛けるしかないな」
 ツウィクセルは楓が仕掛けた時をチャンスと考え、その現場を抑えるつもりだったが、楓は動く気配はなかった。

 静まり返った修道院の中、楓に割り当てられた客室へ、ツウィクセルを除くフローラ達が押し掛けた。彼女達が修道院へわざわざ来た理由は既に察しているようで、楓は忍者刀を構え、臨戦態勢で待っていた。
「待って! エル達は楓おねーちゃんと戦いに来た訳じゃないの! エル達の話を聞いて!!」
「エル‥‥」
 エルシュナーヴが歩み出ると、楓はベッドの上を後退った。あきらかに動揺していた。
「血の繋がりは‥‥無くても、楓さんは‥‥あやかさんと姉妹として‥‥過した日々を、大切に‥‥思っているからこそ、自分が‥‥あやかさんを、生き終わらせに‥‥来たのですよ‥‥」
 フローラから初めて聞かされた楓がやってきた理由に、リムニアドは息を呑んだ。
「あやかおねーちゃんを本当に大事な人だと想うのなら‥‥その幸せ、壊さないで見守ってあげよう‥ね‥‥?」
「大事なのは物では無い、籠められた想いが大事なのよ」
『完全に殺める気で来たなら、面と会せずに仕掛けているはず。エルさんの話だと、連れ戻したいようだが‥‥姉妹同然として育てられたのなら、自然な感情な気もするが‥‥なんとなく、違う感情が混じっている気もするんだよな』
『髪は女の命なのよ』
 ツウィクセルは“真田あやかを生き終わらせた証”として、彼女が後生大事に持っている無銘の忍者刀を挙げていた。クレアはそれに加え、あやかの緑色の黒髪も遺髪として持ち帰るよう提案していた。
 エルシュナーヴの後押しもあり、ツウィクセルとクレアの提案をあやかと楓は受け入れた。
 楓が自分が贈った無銘の忍者刀であやかの腰下まである艶やかな緑色の黒髪を切り、遺髪とした。忍者の真田あやかから、リムニアドの伴侶のヴィルデフラウへ完全に生まれ変わった瞬間だった。
「楓はんを嫌いになった訳やない、リムとは別の意味で愛してはるんや、なんなら楓はんもヴィルデやリムと一夜共にしてみぃな☆」
「‥‥私は女性を好きになった事はないでの知りませんが‥‥お互い愛してるのならそれもいいのでしょうね、きっと」
「‥‥なら、サクラおねーちゃんも一緒にね」
 シーンの言葉にヴィルデフラウとリムニアドは頷いた。部屋を出たクレアの後をサクラも追おうとするが、それはエルシュナーヴに止められてしまう。

「その人を大切に想うなら、もう一つの想いを殺して、身を引く事も‥‥か。全く、この言葉、自分に返ってこなければいいが‥‥」
 1人、修道院の外へ出て星空を眺めるツウィクセル。彼の横には警備中のフィディエルの姿があった。
 彼女は暖かいハーブティーをツウィクセルへ差し出した。
「ああ、ありがとう」
 ハーブティーは冷え切った身体だけではなく、心も温かくしてくれる‥‥そんな温かさが身に染みた。

「知識はありますけど、実践は初めてなので‥‥」
「楓おねーちゃん、そう固くならなくてもいいよ。エルとヴィルデおねーちゃんとリムおねーちゃんで、とっても気持ちよくしてあげるから」
 くノ一としてこの手の知識は教えられているが、まだ初めてという楓をエルシュナーヴはまず優しいキスで緊張を解した。それから啄むような少し荒々しいキスへと変えていくと、楓はくんくんと仔犬のように鼻を鳴らしながら彼女のされるがままになってゆく。
「‥‥何で私まで‥‥んんっ!」
「‥‥毒喰らうば皿、までですよ‥‥」
 巻き込まれたサクラは、フローラとシーンに全身を愛撫されていた。
「綺麗な髪やなぁ‥‥うちらを信じてや‥‥きっと世界がもっと楽しゅうなるから‥‥」
「‥‥それは私ではなく、楓へ言って‥‥頭‥‥撫でないで下さ‥‥ああ!」
 こんな時でもシーンへ冷静に突っ込みを入れてしまうのは、サクラの性格故か。
 ランタンが照らす中、7つの身体が絡まり合い、重なり合い、夜は更けてゆく――。

 翌日、神聖騎士が使う長剣や儀式用の短剣、神の加護がある頭巾やジーザス教では結ばれる事のない恋人達への祝福の品を報酬としてもらったクレア達を見送るヴィルデフラウとリムニアドの傍らには、心からの笑顔で手を振る楓の姿があった。