湖の姫と妖精王の石版

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月08日〜12月15日

リプレイ公開日:2005年12月20日

●オープニング

 ハロウィン祭を兼ねた体育祭も終わり、学園都市ケンブリッジはいつもの平穏を取り戻した――かに見えた。
 確かに『妖精王国』との交流も始まり、生徒や冒険者達は妖精王や妖精王女に招かれて交流を深めたり、勉強会を行っている。
 しかし、先の巨人族ゴクマゴクの生き残りギャリー・ジャックが起こした、妖精王国を巻き込んだゴクマゴク復活騒動の折りに、ケンブリッジの図書館から発見された1枚の石版、『妖精王の石版』の解読がまだ全て終わっていなかった。
 現在、妖精王の石版は生徒会室で厳重に保管されている。生徒会長ユリア・ブライトリーフは、解読できた範囲から、この石版はケンブリッジと妖精王国との過去の繋がりが記されているのではないかと推測していた。
 だが、古いイギリス語でも、古代魔法語でもない暗号で書かれている部分は、流石に解読はお手上げだった。
「それでしたらディナ・シーをよく知る人に聞いてみては如何でしょう?」
 クエストリガーを訪れたユリアに助言したのは、“治療棟のおねーさん”ことエイミー・ストリームだった。彼女は薬草を摘みに行った帰りのようで、手に篭を提げていた。
「ディナ・シーをよく知る人? それは妖精王の事か?」
「いや、湖の姫の事じゃろう」
 聞き返すユリアに応えたのはエイミーではなく、別の声の持ち主だった。
「ル・フェイ‥‥」
「後ろから失礼したのじゃ。だが、儂もケンブリッジ生じゃ、クエストリガーに現れてもおかしくはあるまいて」
 ユリアの後ろから現れたのは、マジカルシードの制服にその身を包んだル・フェイという女生徒だった。咄嗟に身構えるエイミーに、彼女は肩を竦めて苦笑した。
 エイミーもル・フェイの噂は耳にしている。マジカルシードの秘蔵っ子ともいわれ、普段はほとんどマジカルシードの校舎内に篭もりきりで魔法の研究をしており、人前に姿を見せるようになったのは先日のハロウィン祭からだという。
 事実、エイミーもル・フェイの存在を知ったのはハロウィン祭の時だった。
 下手な講師を凌ぐ魔力を持ちながら今まで表に出なかったのは、本人曰く“恥ずかしがり屋”だそうだが‥‥デザイン上、スタイルは表に出にくいが、制服の下から肉感的なボディライン――特に胸――が隠しきれずに自己主張しているにも関わらず淫らではなく、理知的で気品があり、確かに異性でなくても自然と目が向いてしまうだろう。
 だが、エイミーを身構えさせたのはその声音だった。聞く者の背筋を震えさせるようなそれは、抗いがたい蠱惑的な響きを含んでいた。『この声を聞いていてはいけない』――と女の勘が告げる。
「ダムデュラック様に、会いの行くのですか?」
「治療棟のおねーさんは湖の姫と面識があったな。確かに湖の姫なら、妖精王の石版の暗号部分を読めるかもしれないね」
 エイミーが湖の姫の名前を出すと、ユリアが思い出したように手を叩いた。湖の姫の二の名を知る者は少なくないだろう。アーサー王に聖剣エクスカリバーを授け、円卓の騎士の1人ラーンス・ロットの育ての親でもある湖の妖精だ。
 湖の姫は妖精王国の更に北に住んでいるという。
「ふむ、妖精王の石版を湖の姫の元へ運ぶ役目、儂も引き受けたいのだがどうじゃ?」
「あなたが行くのですか?」
「暗号に何が書かれておるか興味があるし、湖の姫も一度会うてみたいしのぉ。それに、そう長くは治療棟を留守には出来まい、治療棟のおねーさんよ?」
「それは、そうですけど‥‥」
 ル・フェイの申し出に、露骨に抗議の意を含んで聞き返すエイミー。しかし、ル・フェイの言い分はもっともで、彼女の言いたい事はちょっと言いにくかった。
 湖の姫達は美しいものを好み、美形の男性か心の清らかな乙女の前にしか姿を現さないのだ。エイミーは以前から妖精王国に分け入って薬草を摘んでおり、ディナ・シーや小動物達の怪我を治している事から、妖精や湖の姫の信頼を得ていたが、いきなり訪れたル・フェイが会えるかどうかは分からなかった。
 ちなみに、エイミーは名前で呼ばれるのを嫌っており、それはユリアもル・フェイもわきまえていた。
「まぁまぁ、治療棟のおねーさん、生徒や冒険者を護衛として付けてル・フェイさんにお願いしよう。道中はオーガや冬眠前のアニマルに気をつければいいな」
「デビルが現れるかもしれませんわよ。念の為、ポーションを支給いたしますわ」
「ふむ、それはありがたい。確かにこの石版はデビルに狙われるやもしれぬな。気を付けるのじゃ」
 2人の間に割って入り、エイミーを宥めるユリア。彼女もエイミーがここまで反対するとは思っていなかったようで些か困惑気味だが、生徒や冒険者を護衛に付けると告げると、取り敢えず納得したようだ。
 だが、エイミーがデビルの名前を出すと、ル・フェイは心得たように不適な笑みを浮かべたのだった。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8877 エレナ・レイシス(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文


●美貌の秘訣は?
「お忙しい中、ありがとうございます」
「君達に運搬を任せるのだから、このくらいはお安いご用だよ」
「何かあっても大丈夫なように、備えは二重三重にしとかなきゃね。では行ってきます」
 マジカルシードの裏手に建つ生徒会の建物。その入り口で、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)が生徒会長ユリア・ブライトリーフへ挨拶をしていた。万が一の時の為に『妖精王の石版』の写しを取ってもらい、それの一枚を懐に密かにしまい込んだのだ。写しの控えは生徒会室に保管してもらっている。

 ヴァージニアが理の門の前に来ると、観光客や生徒に混じって、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)達の姿があった。
「ルさんに、酔っぱらってないバージョンの私を、とくとご披露ですとも♪」
「だから、ル・フェイと呼べと言うておろうに」
 ル・フェイ(ez0130)は「ル」だけで呼ばれるのはあまり好きではないようだ。
(「妖精王国とケンブリッジ、せっかく手を取り合い始めたのですから、これからも良好な関係を維持したいですものね。石版の解読によって、妖精王国とケンブリッジの過去を知るは未来に繋がる大事な事です」)
 ソフィアは使命に燃えてた。瞳には静かに燃えさかる炎が見えるかのようだ。
「母と同じタイプの人です‥‥」
「それは聞き捨てならぬな。儂はまだ本当に若いのじゃが?」
「そうそう、こーんなにキレイで、こーんなに肌に張りがあるのに、透ちゃんのママと一緒にしちゃ失礼よ」
 大宗院透(ea0050)のル・フェイの第一印象に、彼女は引きつった笑みでたしなめた。その点はミカエル・クライム(ea4675)もル・フェイに同意した。ちなみにミカエルも、透の母親がこの場にいれば失礼な事を言っているかもしれない。
「いえ、母も童顔の若作りですので‥‥」
「だ〜か〜ら〜、儂は童顔でもなければ若作りでもないというに」
「まぁまぁ、お肌ケア論については道中ゆっくりと話しましょう」
「あ、それ私も聞きたいな〜」
 イェーガー・ラタイン(ea6382)はこのままでは収拾がつかなくなると踏んで、透とル・フェイの間に割って入ると、ミカエルが彼女の肌ケア論をご教授するという話でまとまった。
「これが噂のル・フェイさんですか‥‥会った記憶がありませんが、かなりの実力者みたいですけど‥‥」
 透とのやりとりを見ていたエレナ・レイシス(ea8877)は噂はやはり噂だと思ってしまう。
「それではエイ‥‥治療棟のおねーさん、行ってきますね」
「行ってらっしゃいな。道中、くれぐれも注意してね」
「必ずこの石版を湖の姫に届けて、結果を学園に持ち帰りましょうね」
 イェーガーは危うく見送りに来ていたエイミー・ストリーム(ez0049)の名前を呼びそうになり、慌てて言い取り直して手を振ると、彼女もにこやかに微笑み返して手を振った。
 出立の音頭を取り、エレナ達に発破を掛けるヴァージニアに手には、エイミーが支給したスペシャル仕様のリカバーポーションが握られていた。

 透とイェーガーの提案で、生徒会に泥沼にはまらず、森の中も比較的移動させやすい細めの荷車を用意してもらっていた。それをイェーガーやヴァージニア、透の愛馬、ソフィアとエレナの驢馬で代わる代わる引いてゆく。
 妖精王国までの道のりはミカエルとソフィアが詳しく、即にソフィアにとって自分の庭も同然だった。
 とはいえ、冬の森は餌が少なく、その少ない餌を求めて徘徊する動物も少なくない。先頭を歩く透は、全神経を目と耳に集中させていた。
「妖精王国の一件はお手伝いしそこねてたから、今回、通れて嬉しいわ」
「時間があれば妖精王や妖精王女にご挨拶したかったのですれどもね」
「今回は馬や驢馬を預かってもらうだけだしね」
 今のところ動物達が襲ってこないのは、ヴァージニアの爪弾くワイナモイネンの竪琴の効果もあった。ソフィアやミカエルも妖精王国へ寄りたかったが、今回は馬や驢馬を預けるだけだった。
「解読してもらえる事で、何が分かるのでしょうか」
「解読できた部分には、妖精王国の南側に巣くっていた巨人族ゴクマゴクについて書かれておったからのぉ。ゴクマゴク関係か、或いは妖精王国関係か、はたまたグランタの事か‥‥」
「偉大なるディナ・シーの魔法使いグランタ! もし書いてあれば知りたいですね」
 エレナが妖精王の石版の暗号部分の内容について気にしていると、ル・フェイが既に解読できている部分から予想した。ファンの魔法使いの名前が出てきた為、ソフィアは歓喜の声を挙げる。
「そういえば、ル・フェイさんって誰かに似ているって噂もあるけど‥‥」
「はい、やっぱり似ているのですよね、ゴルロイス公に。見た目だけでなく、我が道を行くオーラと‥‥」
「あのような騎士の誇りを捨て、アンデッドに成り下がった外道と一緒にするでない!!」
 ヴァージニアの言葉を受けて、ゴルロイスの名前を挙げるソフィア。途端にル・フェイが烈火の如く激怒した。
「ル、ル・フェイさん‥‥?」
「あのような外道、妻を寝取られて当然じゃ!!」
 イェーガーが腫れ物に触るように声を掛けるものの、ル・フェイの怒りは収まる気配はなかった。
 その時になって初めて、エレナはル・フェイの実力を感じ取った。今までル・フェイは意図的に魔力を抑えていたようだ。
(「ギャリー・ジャックに手を貸していた女性がルさんかも、とマジカルシードの先輩を疑っていた私に自己嫌悪です。これだけゴルロイス公の事を嫌っているのですから、この考えも払拭しませんとね」)
「ル・フェイさん、その美貌を保つ秘訣を教えてくれるって約束よね?」
「う、うむ、そうじゃったな」
 胸の内でそう決め、ソフィアが話し掛けようとするより早くミカエルが話題を切り替えると、ル・フェイも気を取り直したようだ。
「妖妃‥‥」
 エレナの呟きを耳にし、イェーガーが振り返る。
「ル・フェイとは『妖妃』という意味です。先程ル・フェイさんから放出された魔力は、まさに妖妃そのものだったと感じまして‥‥」
「妖妃、ですか‥‥」
 エレナの解説に納得するイェーガー。
 彼は先の聖杯探索でゴルロイスの3人の姉妹の次女エレインと会っていた。エレインはどちらかというとアーサー王似だった。
 先の聖杯戦争を起こした陰の立役者が長女モルゴース、クエスティングビーストを奪い取ろうとしたのが次女エレイン。ゴルロイスにはもう1人、三女モーガンがいるが、彼女の行方は知れなかった。

「美貌を保つ秘訣は‥‥」
「秘訣は?」
「目的を持つ事じゃな」
 期待させておいて意外と普通の答えに、ミカエルはちょっとガッカリする。
「それならあたしも持ってるわよ。“賢者”を目指しているもの」
「その目的はそなたの魂、そなたの人生を賭してでも成し遂げたいといえる目的か?」
「それは‥‥」
「儂の言う目的とは、そう程までに強烈なものなのじゃの」
「ル・フェイさんにはあるのですか‥‥?」
 言い淀むミカエルの代わりに、聞き手に回っていた透が聞いた。
「あるからこそ、こうして美貌を保っておるのじゃよ」
「死んだらズゥンビやレイスになりそうね」
「ある意味、そうじゃな」
 ミカエルの率直な感想に苦笑を浮かべるル・フェイ。ミカエルは彼女の美貌を保つ秘訣は他にもあると踏み、一緒にいるうちに間近で堪能して自分に活かそうと思ったのだった。

●湖の姫
 途中、ジャイアントベアの襲撃を受けたものの、イェーガーがリュートベイルで爪を受け流すと透がすかさず車菱を投げ、ミカエルがファイヤーコントロールで、エレナがファイヤーウォールで火の壁を作って怯ませ、ヴァージニアがテレパシーで食料を渡すので立ち去って欲しいと告げた。
 冬眠前で食料を欲しがっていたジャイアントベアは喜んで食料をもらって帰っていった。ソフィアのグラビティーキャノンは必要なかったようだ。

 湖の姫ダムデュラックの住むという湖は、静かな水面を湛えていた。
「綺麗‥‥」
 誰とはなくそう呟く。湖面は風に揺られて時折波紋が広がるが、水鏡のように全く穢れがなかった。
「後は湖の姫に出てきてもらい、石版を解読してもらうだけですが‥‥エイミーさんが仰るには、湖の姫は『美形の男性』か『心の清らかな乙女』の前にしか姿を現さないそうです」
「ラーンス・ロットを拾い、育てたのがその良い例です」
 イェーガーが全員に向かって告げると、エレナが湖の姫の好みを補足した。
「そこで、全員で呼び掛けてみるのはどうでしょう? その方が確率も高いと思うのです」
 イェーガーの提案に、ル・フェイとエレナ以外の全員が頷いた。ル・フェイは「儂は清らかではないからのぉ」と断り、エレナは特に理由は述べなかったが、彼女の動向を逐一警戒する為に参加しないようだ。
「先ずは言い出しっぺの俺からですね‥‥顔は美形かどうか不明ですが、『心は美しくありたい』と思っていますから‥‥」
 イェーガーは居住まいを正して湖の前に立った。
(「俺にとっては内面から出るものだと思います‥‥『友人を守る為につけられた“美しい傷”を持っている』方を、『義妹を想い全てをかけている』方を知っていますから‥‥」)
 しかし、水面は微動だにしなかった。
「妖精王の石版を読解して下さい‥‥」
 次の透は、胸の前で手を組み、素直に頼んだ。
 しかし、やはり水面は微動だにしなかった。
「“湖”の姫は今何も“見ず、海”の向こうを見つめているようです‥‥」
「人間は間違えても、妖精には無理だったようじゃな」
 駄洒落で締めくくる透にル・フェイが理由を述べた。透は異性に見える程美形だが、湖の姫のお気に召さなかったようだ。
「‥‥私は歌が恋人だから」
 ヴァージニアは微苦笑すると、気を取り直して竪琴を片手に湖の姫を湛える歌を朗々と歌った。
 途端に水面に波紋が広がった。
「あたしは1人の男性(ひと)を一途に想い続けているから‥‥」
 ミカエルは湖の畔に跪くと、湖の姫に向かって話そうとしたが‥‥湖面に映る自分の顔を見て言葉を失ってしまった。この顔が時々憎らしく見える時がある。
(「どうして、あたしとあの人は兄妹なんだろう‥‥兄妹じゃなかったら恋人になれたのかな?」)
 そう、ミカエルが想いを寄せているのは兄だった。
(「でも、たとえ兄妹でも、好きなものは好きなの‥‥諦めきれないの‥‥」)
 すると、先程よりも波紋が大きく広がった。
「妖精王国の危機を救う為に、多くの血が流されました。それはギャリー・ジャック達を含めてです。相手がファー・ダリッグでも、誰をも傷つけたくはありません。自らの傷より、自らが与えた傷の方が、心にはよく遺るのです。同じ傷を、もう誰にも、傷つけたくはないし心に遺らせたくはないのです」
『あなた達の想い、届いたわ』
 ソフィアの紡ぐ言葉と共に波紋が激しく広がり、そこには純金を溶かし込んだような艶やかな金髪を足下まで湛え、濡れそぼり、身体の線をくっきりと浮かび上がらせた水色のドレスを着た貴婦人が立っていた。
「‥‥何て綺麗な女性なのでしょう‥‥」
 無愛想な透でさえ思わず呟いてしまう程、その貴婦人はこの世のものとは思えないほど美しかった。
 彼女こそアーサー王にエクスカリバーを授け、ラーンス・ロットを騎士に育てた湖の姫ダムデュラックだった。


『遠い遠い昔、妖精王国の南側をゴグマコクが支配していた。
 ある時、人間の一団が移住してくると、妖精達と仲良くなった。
 しかし、それを良く思わない巨人達は妖精達と衝突した。
 偉大な妖精の魔法使いグランタは、巨人達を石に変えて争いを収めた。
  
 人間達は住み着き、数十年が経った。

 人間達は増え、力を持った者が何人かでこの地方を治めた。
 しばらくするとこの地方に見つかった「聖なる物」を巡って争いが起きた。
 聖なる物は「神の国」から授けられたものだった。
 グランタが争いの仲介をし、聖なる物を隠した。

 それから十数年後。

 人間の住む地域の地下にブラン鉱脈が発見され、それを巡って再び争いが起きた。
 今度はとても大きな争いになり、人も減った。
 グランタは巨人族や人間を煽り、争わせていたのがゴモリーだと知った。
 グランタはゴモリーも石に変えて封印した。
 グランタは、人間より授けられたブラン鋼を使い、封印を解くベルを作り、死んだ。

 人が少なくなり、数百年の間、この地方は省みられる事は無かった‥‥。

 私はこの石版を作らせ、この地方で何が起こったかを記し、未来の人間達に贈る――妖精王』


 ダムデュラックが解読した暗号部分はこのように書かれているという。
 この妖精王の石版を作らせたのは、過去の時の妖精王のようだ。
「グランタさんの功績について書かれているのですね」
 ソフィアがそ該当する部分をなぞりながらいう。ゴクマゴクを封印したのはグランタだったが、この地方にいたデビル・ゴモリーも封印していたようだ。
「ケンブリッジの地下に昔ブラン鉱脈があったとは驚きですね」
「フリーウィルの地下じゃないかな? あそこってスパイ養成クラスの地下訓練場があるし」
「そのブラン鋼を使い、グランタさんが『グランタのベル』を作ったのですね」
 フリーウィルの地下にある訓練場の前の姿を知り、驚きを隠せないヴァージニアとミカエル。エレナはそこからもたらされたブラン鋼によってグランタがベルを作っている事から、その時は人間と妖精王国に確かに交流があったのだと知った。
『世間での風評もあるわ。でも、彼は聖剣を持つに相応しい純粋な漢よ』
 忍びとして仕えたい君主であるアーサー王について、透は珍しく普段の無愛想とは異なり、ちょっと興奮気味に訊ねると、ダムデュラックは応えてくれた。
「ふふふ、そういう事か‥‥やはりアヴァロンよりもたらされた『聖なる物』はケンブリッジの地下にあったのじゃな。ふふふ‥‥」
「やはり? アヴァロンよりもたらされた聖なる物? 貴女は、その事を知っていたのですか? 何を求めているのですか?」
 ほくそ笑むル・フェイにイェーガーが詰め寄った。
「儂が求めているものか? 心の安住じゃよ。まぁ、そなたには分かるまい‥‥ほら、湖の姫に礼をいって帰るぞ。遅いと治療棟のおねーさんが心配するからのぉ」
 しかし、ル・フェイの迫力に逆に後退ってしまう。
 ル・フェイはそんなイェーガーを一瞥すると、引率の先生宜しく手を叩いてミカエル達を集め、全員でダムデュラックへ挨拶をして湖を後にしたのだった。