【神の国探索】終止符を打つ刻(とき)

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月29日〜01月01日

リプレイ公開日:2006年01月12日

●オープニング

●最後の聖杯探索の号
「真逆、『聖杯』の安置されている『聖杯城マビノギオン』が、リーズ城だったとはな」
「リーズ城を知っているのかよ?」
 アーサー・ペンドラゴンは自室のテラスで、日課の剣の素振りをしていた。傍らには美少女が居心地が悪そうにイスに座っている。けぶるよう長い黄金の髪に褐色の肌、健康美溢れるその身体を包むのは白いドレス。誰が彼女を、蛇の頭部、豹の胴体、ライオンの尻尾、鹿の足を持つ獣『クエスティングビースト』だと思うだろう。
 かつてのイギリスの王ペリノアの居城に、彼女は四肢を分断されて封印されていた。しかも、聖杯によって人間の女性へ姿を変えられて。
 これにはクエスティングビーストを狙っていたゴルロイス3姉妹の次女エレインも、流石に騙された。
 彼女を無事保護したアーサー王は、キャメロット城へ住まわせていた。
「ここより南東に50km、メードストン地方のリーズという村を治めている城だ。城主は‥‥ブランシュフルールといったな。名うての女騎士だが、聖杯騎士とは」
「聖杯は然るべき時にならなきゃ姿を現さないんだろうぜ。でも、てめぇらが手に入れなきゃ、俺だって『アヴァロン』への門を開けられねぇんだからな」
 クエスティングビーストが真の姿を取り戻さない限り、神の国アヴァロンへの扉を開ける事は出来ない。
「しかし、この格好、何とかなんねぇのかよ?」
「グィネヴィアの趣味だ。もう少し付き合ってやってくれ」
 クエスティングビーストは王妃グィネヴィアに取っ替え引っ替えドレスを着せ替えられていた。アーサー王との間の子供のいないグィネヴィア王妃にとって、彼女は娘のように思えたのかも知れない。
「アーサー王、失礼します!」
 そこへブランシュフルールへの書状を携えて斥候に向かった円卓の騎士の1人、ロビン・ロクスリーが息急き立てて駆け込んできた。
「どうした!?」
「マビノギオンから火の手が上がっており、オークニー兵とおぼしき者達とデビルに攻められています!!」
「何、オークニー兵だと!? ロット卿は動いてはいないはずだ‥‥モルゴースか! デビルがいるという事はエレインもいるようだな。ロビンよ、急ぎ円卓の騎士に招集を掛けろ! そしてギルドで冒険者を募るのだ!!」
 ロビンはその事を報せるべく、急ぎ引き返してきたのだ。
 そして、アーサー王より、最後となるであろう聖杯探索の号令が発せられるのだった。

●姉弟の決着
「いよいよ最後の聖杯探索ですかな?」
「聖杯が安置されている聖杯城マビノギオンの場所を突き止め、神の国アヴァロンの扉を開ける役目を担うクエスティングビーストも私達に協力してくれている。多くの試練を共に乗り越えたくれた者達を、そしてイギリスの民をアヴァロンへ導く為にも、なんとしても聖杯を手に入れ、これを最後の聖杯探索とするのだ」
 冒険者ギルドを訪れる円卓の騎士達に混じって、イギリス国王アーサー・ペンドラゴンの姿もあった。
 応対に当たっているのはギルドマスターのグリフィス・アリストクラットである。彼の傍らには接客のないギルドの受付嬢がいるが、次々とギルドにやってくる円卓の騎士達を仕事を忘れて見入り、至福の一時に浸っていた――つまり、目がハートで使いものにならないのである。
「それで、今回も王自らご出陣なさると」
「ああ。騎士団はこのような火急の事態では即座には動員できないし、動かせる騎士はキャメロットの守りとして残しておきたいからな」
 騎士団を動員するには、武器や食料などを準備する相応の期間が必要だ。今回は急を要する為、常備兵しか動かせないが、それではキャメロットの守りが手薄になってしまう。
 先のオクスフォード公の乱を裏で操っていたロット・オークニー卿自身は動いておらず、オークニーの兵が動いている以上、牽制の意味を含めて、キャメロットの守りを手薄にする訳にはいかなかった。
 キャメロット城の守りはラーンス・ロットが就く事になっている。
 それに今回の敵はデビルも混じっている。だからこそ、アーサー王は冒険者を雇ったのだ。
「私が向かうのは、逃げられてしまったエレインと決着を付ける為でもある」
 グリフィスの問いにそう答えを付け加え、アーサー王は腰に帯びたエクスカリバーの柄を指でなぞった。
 長女モルゴース、次女エレイン、三女モーガン・ル・フェイ――ゴルロイス3姉妹――は、アーサー王にとって異父姉妹である。彼女達は父ゴルロイスの仇を取ろうと、聖杯探索を妨害し続けてきていた。
 アーサー王が聖杯を手に入れる為には、ゴルロイス3姉妹との決着は避けて通れなかった。
「分かりました。では早速、腕に自信のある冒険者を紹介しましょう」
「よろしく頼む」
 アーサー王はグリフィスの認(したた)めた依頼書の最後にサインをすると、ギルドを後にしたのだった。

●女豹と女狐
 リーズ城の謁見の間。
「どうです、王座の座り心地は?」
「‥‥悪くはないわね」
 一段高い場所に置かれた王座に座る1人の女性。大きく波打った赤いセミロングの髪を湛え、気高く高貴な美貌を纏う顔貌は、気が強く奔放な性格を如実に表していた。
 王座に座る彼女を見上げる女性はロングドレス風の華やかな衣装を纏っており、腰には意匠を凝らしたレイピアを下げ、一国の女王の風格すら漂っている。
 王座に座る女性はオルトリート。リーズ城の城主にして、聖杯騎士を束ねる女騎士ブランシュフルールの姉である。しかし、オルトリートは姉でありながら領主にはなれず、その座は妹のブランシュフルールが就いていた。
 だが、そのオルトリートに王座を渡した者がいた。エレインとモルゴースである。
 モルゴースは密かにオルトリートと接触し、王座を渡す代わりに聖杯を要求したのだ。オルトリートはそれを飲み、リーズ城の構造を教えた。
 構造が分かってしまえば、城など丸裸も同然だ。斯くして聖杯城マビノギオンという真の名を持つリーズ城は今、デビルとオークニー兵によって陥落の危機に瀕しているのである。
「満足戴けたのでしたら、わたくし達に聖杯を渡して戴きたいわ」
「私は聖杯には興味はないけど、領地は欲しい。あなた達は領地には興味はないけど、聖杯は欲しい‥‥そういう約束だったものね。でも、今はまだ駄目よ。アーサー王が動いたっていうじゃない。それを止めてからよ」
「(女狐め‥‥)分かりましたわ。では、アーサーを倒した暁には、聖杯とアヴァロンへの門を戴きますわよ」
 エレインは心の中でオルトリートに舌打ちしつつ、謁見の間を出ていった。
「女豹め‥‥どうせ聖杯を渡した後、私も殺すつもりだろうけど‥‥そうはいかないよ」
 エレインの出ていった扉を睨め付けた後、オルトリートはほくそ笑むのだった。

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3438 シアン・アズベルト(33歳・♂・パラディン・人間・イギリス王国)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

セレス・ブリッジ(ea4471

●リプレイ本文


●予期せぬ足止め
 聖杯城マビノギオン――聖杯が収められているというそこは、紛れもなく聖杯探索の終着点。しかし、キャメロットから南東に50km、片田舎リーズの村を治める小さな城に聖杯があろうとは誰が思っただろう?
 アーサー・ペンドラゴン(ez0005)は今、予期せぬ足止めを受け、王者の証たる聖剣エクスカリバーを鞘に入れたまま地面に突き立て、その柄頭に両手を載せてすっくと立ち、マビノギオンを見渡せる小高い丘の上に立っていた。
 クエスティングビーストが黒の御前の策により毒矢を受けてしまい、そこへゴルロイス公が畳みかけるように攻めてきたのだ。

「チカ、クエスティングビーストの容態はどうだ?」
「うん、解毒剤は効いてるみたいだから、これでいいと思うんだけど‥‥もう少しで意識を取り戻すんじゃないかな? あ、アーサーお兄ちゃんは、まだこっちを向いちゃダメだよ」
 アーサー王はクエスティングビーストの容態を看ているチカ・ニシムラ(ea1128)に声を掛けると、彼女からの返事にひとまず安心してそちらの方を見遣ろうとし、注意されてしまう。
 今のクエスティングビーストの身体は人間の女性のそれであり、チカはクレア・クリストファ(ea0941)と共にドレスの胸元を開いて毒矢を摘出し、手当てを行っているのだ。
「姿形は女性とはいえ、ウィッシュは月のエレメンタルビースト。私達とは身体の造りが違いますし、セーラ神の恩恵を受け入れない以上、私達は手当てできるクレアとエレメントの知識を持つチカを信じて待つしかありません」
「大抵のエレメントの身体は魔力で形成されているからね。クエスティングビーストもそのようだし、だから魔力を付与した矢で射抜いたんだと思うよ。ただ、あらゆる魔法に抵抗しちゃうのは難点だけど‥‥」
 クエスティングビーストは、アトス・ラフェール(ea2179)の織り成す不可視の聖なる結界の中に護られていた。カシム・ヴォルフィード(ea0424)もエレメントの知識をかじっており、結界越しにチカのサポートをしていた。
 クエスティングビーストは抵抗可能な魔法は必ず抵抗に成功する能力を持っているが、それは癒しや解毒の魔法であっても作用するのは皮肉だった。
 ちなみに、クエスティングビーストは一部の冒険者に“ウィッシュ”の名を贈られ、そう呼ばれている。

「イギリスの行く末を占う聖杯探索も大詰めですね。この重要な戦いに陛下と共に肩を並べる事が出来るとは、イギリス騎士としてまたとない名誉な事です。陛下の為、イギリスの為、一命に代えても勅命、果たしてみせましょうぞ!」
「その気持ちは嬉しいが、命は落としてはいかん。全員揃ってキャメロットへ生還する、これが私からの命令だ」
 騎士にとって国王と肩を並べる事など、またとない誉れ。アーサー王の横に立ち、共に眼下を見据えるヒースクリフ・ムーア(ea0286)はその喜びに打ち震えていたが、アーサー王はそんな彼に1つだけ命令を下した。
「幾多の試練を乗り越え、蓄えた力を以て全力で挑み、生還します」
 ヒースクリフの反対側に立つシアン・アズベルト(ea3438)が、真摯の表情でアーサー王の言葉に応えると、彼は満足して力強く頷いた。

「体調の方は大丈夫ですか?」
「ああ、この身体がしっくりこないから不覚を取っちまったが、もう問題ないぜ」
「それだけ負け惜しみが言えるなら問題ないだろう」
 意識を取り戻し、上半身を起こしたクエスティングビーストへ心配そうに声を掛けるカシムに、彼女はばつが悪そうに煌びやかな金色の髪を掻いた。先程まで褐色の肌は血の気が引いたように真っ青になり、喘ぎながら生死の縁を彷徨っていたとは思えない程だ。
 テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)が見たところ、マビノギオンへ向かうのに支障はないようだ。もちろん、彼女の護衛がテスタメント達の仕事であり、彼は先程から付かず離れずの距離を保っていた。
「そのドレスはグィネヴィア王妃からの貰い物だそうだけど‥‥」
「動きにくいし、これ以上足手まといになるのは嫌なんだ」
 クエスティングビーストはグィネヴィア王妃からもらった白いロングドレスを脱ぐと、肌が露出している方が身体を覆う布の面積より多い踊り子のような本来の服装へ戻った。額冠や両肩当て、スカート代わりの前垂れの横を押さえる腰当てや腕輪には大きい宝石があしらわれており、淫らな雰囲気はなく、むしろ神々しささえ醸し出していた。
 よく女性に間違われるカシムは、その流れで女装させられる事も多く、グィネヴィア王妃に取っ替え引っ替えドレスを着せ替えさせられたというクエスティングビーストに共感し、同時に可哀想だと同情していた。
「貴女が長きに渡るイギリスの争乱を終わらせられるなら、私も死力を尽くして無事に聖杯の元まで送り届けよう」
「もちろん、そのつもりだぜ。こんな身体とはさっさとおさらばしたいしな」
 テスタメントは聖杯には興味は無いが、イギリスの民同士が血を流し合う無益な争いを終わらせられるなら尽力するつもりだった。

 ゴルロイス公は冒険者達によって討ち取られた。
「我が精鋭達よ、時は来た! 今こそ聖杯を手に入れ、イギリスを平和へと導く礎となるのだ!!」
「戦友達がくれた道、無駄にしない!」
「聖杯に認められる戦いを行いましょう!」
 アーサー王がエクスカリバーを掲げて檄を飛ばす。刀身に陽の光を受けて燦々と輝くそれに呼応し、クレアはホーリーパニッシャーを、シアンはクレイモアを掲げる。
 ヒースクリフ達は冒険者達と円卓の騎士達が拓いた活路を通り、マビノギオン内へと入城したのだった。

●戦いは哀しみの果てに
 城内は円卓の騎士ガウェイン・オークニー達の陽動が効いたのか、思いの外、静かだった。
 テスタメントは生命力を、アトスはデビルを、チカは呼吸を、それぞれ探査し、この場の安全を確認する。
「王座へ向かえば、自ずと首謀者と相見えるだろうね」
 ヒースクリフ達はその間、武器や身体に闘氣を纏わせてゆく。

 王座のある謁見の間の前は広間になっていた。そこには、2本の角を持つ7本の首のドラゴンと、その傍らに青を基調としたロングドレスを纏った令嬢の姿があった。
「エレイン!!」
「アバドン‥‥斬り落とした首は再生していましたか‥‥」
 クールなルーウィン・ルクレール(ea1364)が珍しく、エレインの姿を認めると口調が強まった。彼は一度エレインと刃を交えており、その時は手も足も出なかったのだ。
 また、アトスは残念そうに告げた。アバドンの首を一度斬り落としていたのだが、その首も今は健在だった。
「ふや‥‥あれがアバドン‥‥でも、怖い格好してるからって怖がっていられないよっ! 首が回復してるって話だけど、ここで止めを刺してしちゃえば問題ないよねっ!」
「そういう事よ」
 チカの率直な感想は、クレア達に発破を掛けた。
「エレイン、その様子では聖杯はまだ手に入れていないようだな」
「あら、アーサー、あなたを倒せば全て済む事ですわ」
「なるほど。如何にデビル相手とはいえ、1000年近く聖杯を秘匿し続けてきた城が、こうも容易く攻込まれるのは妙だと思っていたが、その奥にいる者を抱き込んだようだね」
 エレインが待っていた事から、彼女はまだ聖杯を手に入れていないとアーサー王は踏んだ。どうやら内通者が聖杯城の中へエレインやモルゴースを手引きしたのだとヒースクリフは推察した。
「ウィッシュは私達が護ります。アーサーはエレインとの決着を付けて下さい」
 冷静に判断し、迅速且つ全力を尽くして行動する、がモットーのアトスは、即座にクエスティングビーストを中心に聖なる結界を展開した。

「この戦いが聖杯探索の最後の試練ならば‥‥いいでしょう!」
「私は永劫の追撃者クレア‥‥我らに誇り高き月と、崇高なる夜の恩寵を!」
 シアンとクレアが先に正面から、ヒースクリフとアトスが少し遅れてそれぞれ左右側面から、分散してアバドンに斬り込んだ。
『雑魚共ガ小癪ナ真似ヲ!』
「そこっ! 妹同盟員No.1、魔法少女まじかる♪チカ、行くよ!」
 アバドンが口を開けた瞬間、チカが高速で紡いだ電撃をその中へ喰らわせる。
「如何に首が多かろうと、異なる方向、異なるタイミングの攻撃は避けられまい!」
 ヒースクリフの初手は、ブレスを受ける事なく渾身の一撃を食らわせた。だが、アバドンは4本の首でアトス達全員を攻撃してきた。その攻撃は盾で受け流す事も許されない程鋭く力強く、4人はあっさり吹き飛ばされた。
 そこへ追撃とばかりに酸の霧の息が吐き掛けられる。流石に霧を盾で防ぐ事はできず、シアン達の全身は焼けただれてしまう。クレアに至っては重傷だ。クエスティングビーストを護る結界も一撃で粉砕されてしまった。
「構わず戦え! 大丈夫、私はまだ散れない!」
 後退し、チカから渡されたポーションを服用しながら叱咤激励するクレア。
 ヒースクリフ達は引き続き分散して渾身の一撃を放ち続け、隙あらば反撃も叩き込み、体勢の崩れたアバドンの首を1つ、また1つと潰していった。
 しかし、アバドンも吹雪の息や燃え盛る炎の息、突風の息や灼熱の如き熱線の息、毒霧の息に雷の息を次々と吐き掛け、アトス達は後退を余儀なくされた。テスタメントが身を挺して盾でクエスティングビーストを護る中、カシムもポーションを手に回復に回った。
「聖杯城に悪魔の存在は不要。この一撃で汝に永劫の滅びを与えん。永久に眠れ!!」
「十四ノ法、煌月魂葬貫‥‥無に還れぇぇ!!」
「キャメロットの騎士の力、受けてみるがいい!!」
『馬鹿ナ!? コノ俺様ガ人間如キニ敗レルトハァァァァァ!?』
「デビルにないもの‥‥仲間同士の絆の勝利です」
 シアンとクレア、ヒースクリフの一撃が止めとなり、アバドンは絶叫と共に消えていった。聞こえているかどうかは分からないが、アトスは敗因の理由を手向けの言葉として贈ったのだった。

「前回のようには行きませんよ。今回はフォローに回りますから」
 ルーウィンはアーサー王のフォローに回り、エレインの隙を作ろうとした。
「前の戦いから少しは成長していますが‥‥何とか隙を作ってみせます」
 しかし、言うは易し、行うは難し。エレインの実力の恐ろしさは身を以て知っているが、シルバースピアは受け流され、オーラショットは抵抗され、付け入る隙はまったく与えられなかった。
 それでもエクスカリバーを振るうアーサー王が戦いを優位に進めていけた。やがて、エレインのシルバーレイピアは、エクスカリバーによってその手から弾き飛ばされ、彼女の首筋に切っ先が突きつけられたのだった。
「エレインさんを斬るのは止めて下さい。その人には生きて罪を償って欲しいし、何よりも敵であろうと誰かが命を落とすところは見たくないです‥‥」
「最初から命まで取る気はないさ」
「今、ここでわたくしを討っておかないと、後々、禍根が残りますわよ?」
 そこへカシムが割り込んでくると、アーサー王は微笑んでエクスカリバーを鞘へと戻した。
「あなたの妹がケンブリッジにいて、騒ぎを起こしているみたいですが目的はなんですか?」
「決まっているでしょう、お父様の敵を討ち、アーサー王を、イギリスを滅ぼす事ですわ」
 ルーウィンの問い掛けに、アーサー王を嘲笑うかのように応えるエレイン。
「陛下の姉ですし‥‥」
「それに甘い考えなのかもしれないけど、命まで奪う必要はない‥‥と、僕は思う」
『本当、甘いわねぇ』
「陰に生きし邪なるものよ‥‥その身を以て裁きを受けよ!」
 ルーウィンとカシムがエレインを説得する中、謁見の間から女性の声が聞こえた。いち早く反応したテスタメントの放つ再現神の聖なる力が、その声の持ち主を直撃した。
 その人物はオルトリート、領主にして聖杯騎士長ブランシェフルールの姉だった。
「やれやれ、油断も隙も無い‥‥ってチカ!?」
「アーサーお兄ちゃん‥‥クレアお姉ちゃん‥‥」
 クレアが安堵するのも束の間、涙声のチカの足下から灰色く固く変色していた。
「あたしが今グラビティーキャノンをその小娘に唱えればどうなるだろうねぇ」
 グラビティーキャノンは石にも100%効果を発揮する。チカの石化は腰まで及んでいた。そこを砕かれれば、上半身が生身のチカは生きたまま死んでしまう。
 アーサー王を始め、アトス達は全員武器を下ろした。
「‥‥てめぇ、自分が何で聖杯に選ばれなかったのか、分かってねぇようだな!!」
 その時、クエスティングビーストが吼えた。すると影が固定され、オルトリートの動きが止まった。
 即座に動いたヒースクリフの長剣とテスタメントの太刀が彼女の斬り裂く。
「エレイン!! あたしを裏切るつもり‥‥」
「最初から裏切るつもりだったはあなたの方でしょう? お互い様ですわ」
 だが、2人は致命傷には至らせていなかった。エレインはレイピアを拾うと、そのままオルトリートの心臓を一突きし、返す刃で己の心臓を刺し貫いた。
「‥‥どうして‥‥」
「‥‥わたくし達は‥‥あなた達とアーサーが創る新しいイギリスには不要ですもの‥‥一足先にアヴァロンへ行っていますわよ‥‥モルゴース姉様とモーガンと一緒に‥‥」
 後にはカシムの嗚咽混じりの声が響いた。ゴルロイス3姉妹は、共に死してアヴァロンへと旅立つ事を選んだのだった。

●聖杯とアトランティスへの道
 デビルの呪いで小鳥に変えられていたブランシェフルールが後からやってきて、アーサー王達を聖杯の安置されている場所へ誘った。
 緑の苔むした石の台座の上に浮かぶ、質素な、それでいて神々しい輝きを放つ聖杯。聖杯騎士ですら触れる事の叶わないそれは、アーサー王の手にあっさり収まった。
 ヒースクリフはその光景に嬉しさのあまり打ち震え、クレアは豪快な笑い声を辺りに木霊させた。
 すると、クエスティングビーストが本来の姿――蛇の頭部、豹の胴体、ライオンの尻尾、鹿の足を持つ月のエレメンタルビースト――へ戻った。
 その後、ブランシェフルールより、聖杯騎士を束ねる長にのみ代々伝えられる神の国アヴァロンの真実が語られた。
 アヴァロンの真の名は『魔法王国アトランティス』だったのである。そして、アトランティスへの月道は、今まで聖杯があった石の台座である事が明らかとなった。
 聖杯は長きに渡り、クエスティングビーストのアトランティスへの月道を明ける力を封じ、そしてアトランティスへの月道を二重に封印していたのだ。

 アーサー王は冒険者達と円卓の騎士達の尽力で聖杯を手にし、神の国アヴァロンへ至る道を探し出したのだった。
 この事実はシアンの考え通り、不義の子という汚名を削ぎ、イギリス国内の民の結束を強固にし、安定をもたらすには十分だった。
 斯くして、ここに長きに渡る聖杯探索は終止符を打たれたのである。