今年の新春餅つきは1人2G!?
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ
担当:菊池五郎
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月05日〜01月10日
リプレイ公開日:2006年01月19日
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●オープニング
キャメロットは聖夜祭の喧噪のただ中にあった。
教会ではミサが行われ、クレリックや神聖騎士達が唄う賛美歌が流れ――。
エールハウスでは吟遊詩人達の、街角では辻楽師達の奏でる曲に合わせて、人々がエールの入ったジョッキを片手に唄う陽気な歌声が流れ――。
子供達のこの日の為に木細工や蝋細工、金属のメダルで飾られたツリーの周りをくるくると走り回ってはしゃぐ元気な声が流れ――。
皆、聖人ジーザスの誕生と、新しい年の到来を祝っていた。
その喧噪は冒険者街にも聞こえ、棲家のある通りで明日売る豆腐の仕込みをしている元・志士、仁藤高耶(にとう・たかや)の耳にも入っていた。
イギリスで生活を始めて早1年半。高耶もイギリスの風習に慣れつつあった。とはいえ、ジャパン人である彼女にとって聖夜祭はあまり関係なく、こうして明日売る豆腐の仕込みをしているのだ。
しかし、そんな彼女からも鼻歌が聞こえていた。その理由は棲家の台所に置かれた米俵だった。中身はただの米ではない、『餅米』だ。
「去年は偶然餅米を見つけたが、今年もその偶然が続くとは思えんからな」
豆腐の原材料となる豆を仕入れている露天商の伝手で、年越しの為にわざわざジャパンから取り寄せたのだ。
月道による貿易の発達でジャパンの品物がイギリスに輸入されるようになったが、人気があるのは陶器といった貴重品や、調味料や茶葉といった食材だった。
ただ、月道使用料を上乗せされたジャパンの品は、どうしてもジャパンで買うより5〜20倍の値段が付いてしまう。
例えば、ジャパンで10Cあれば食べられる握り寿司をキャロットで食べようとすると、安く見積もっても50C、下手をすれば2Gという、リカバーポーション2個分に相当する高額な食べ物になってしまうのだ。
月道使用料を考えると庶民には手の届かない値段になる為、かさばる物はたくさん運べないので採算が採れず、商人達は貴族に喜ばれ、且つ小さくて高価な品が選ぶのは必然だった。
餅米も多分漏れず、わざわざ取り寄せたとはいえ、ジャパンの相場の5倍の値が付いており(20倍でないのは商人のお得意様への厚意である)、高耶一人で購入するのは些か額が多すぎた。
「それで共同出資の為に、あたしも呼んだのね。まぁ、久しぶりにお餅食べたいからいいけどさ」
「それだけではないぞ。去年、餅つきをして分かったのだが、餅つきをエゲレス人に教えるのはなかなか大変なのじゃ。楽しくでもんすとれーしょんをする為にも、拙者達ジャパン人の手本が必要だと思ったのじゃよ」
高耶は同じ冒険者街に住む佐々木流の浪人、吉野那雫(よしの・なしずく)に餅米の共同出資と餅つきの声を掛けた。那雫は共同出資には難色を示しながらも、ジャパン人の琴線に触れる餅つきの楽しさと餅の味は忘れられないのか、文句を言いながら承諾した。
ちなみに、那雫は『霧咲』という太刀を若干15歳にして師匠から賜る程の佐々木流の使い手であり、奥義・燕返しを得意としていた。一方、高耶は剣の技より精霊魔法を得意とするが、彼女は念流という我流の使い手で長巻を愛用しており、2人はよき鍛錬仲間でもあった。
餅米代は勉強してもらっても2Gと少々値は張るが、餅つきをしてもらったり、蹴鞠や双六といったジャパンの正月の遊びを楽しんでもらおうと考えていた。尚、去年はそれらに加え、食後の運動に流鏑馬(やぶさめ)という馬上から矢を射って的に当てる競技を行っていた。
「それで、杵と臼はどうするの?」
「去年使った物があるぞ」
「ってこれ、ハンマーとミドルシールドじゃない!?」
高耶が棲家の奥から出してきたのは、普通の臼と杵一式と、ハンマーと裏返したミドルシールドだった。この杵と臼は木工工作が得意な冒険者が作った物だが、当初はハンマーとミドルシールドで代用する予定だったのだ。
「槌と盾は拙者や那雫殿、拙者達と同じく餅つきに慣れたジャパン人が使えばよかろう。エゲレス人達は普通の杵や臼を使ってもらった方がいいじゃろう」
「まぁ、去年お餅をお裾分けしてもらったから、確かに搗けない事もないわね。お餅つきをしてお餅を食べないとお正月が来ないジャパン人もいるでしょうし、イギリス人の中にも餅というジャパンの食べ物に興味のある人がいるでしょうしね」
斯くして、那雫の賛同も得られ、共同出資による餅つきが今年も行われる事となったのだった。
『新春を迎える餅つきに参加する同士求む!』
●リプレイ本文
●異国文化を味わおう
元志士の豆腐売り、仁藤高耶(ez1002)と、佐々木流の浪人、吉野那雫が催した餅つきは、冒険者街にある高耶の長屋の前の通りで行われる。
「ん〜、久しぶりのいい匂いです〜。この匂いを嗅がないとお正月が来た気がしませんね〜」
「これがモチゴメの匂い? ジャパン人にはいい匂いなの‥‥何というか、独特ね‥‥」
石で組んだ簡単な竈が拵えてあり、一足先に来ていたリーラル・ラーン(ea9412)が楽しそうに薪をくべて餅米を蒸かしていた。世羅美鈴(ea3472)が鼻を可愛くひくひくさせると、エル・サーディミスト(ea1743)も彼女に倣って鍋から立ち上る水蒸気の匂いを嗅いだ。
「‥‥モチとはどのような食材なのでしょう。匂いから想像できない分、ますます楽しみです。あ、高耶さん、お久しぶりです。そちらが那雫さんでしょうか? 聖なる母に仕える神聖騎士クウェル・グッドウェザーです、宜しくお願いします」
「クウェル殿、あけましておめでとうなのじゃ」
「初めまして、吉野那雫よ。ジャパンの新年の挨拶ね。イギリス語でいうと、『ア、ハッピー、ニューイヤー』かな?」
「なるほど。アケマシテオメデトウ」
「「アケマシテオメデトウ」」
「「あけましておめでとうございます」」
クウェル・グッドウェザー(ea0447)が高耶と那雫に恭しく騎士の礼を取った。高耶は深々とお辞儀をしてジャパンの新年の挨拶をする。聞き慣れないフレーズにクウェルが首を傾げると、那雫がイギリス語に直した。
クウェルだけではなく、それを聞いたリーラルとエルも挨拶をすると、美鈴と那雫がそれに応えた。
「それにしても‥‥リーラル、何その顔!」
「‥‥私の顔、おかしいでしょうか?」
『この木の枝、薪にするんですよね。運んでおきますってうきゃぁぁぁ!』
「さっき、薪を運んでいて豪快に転けた時に灰に顔を突っ込んだのだろうけど、僕が来た以上、力仕事は任せてよ。このイギリスの未来を担う葉っぱ男にね」
一同にどっと笑いが起こるが、竈から顔を上げたリーラルの鼻の頭は煤で真っ黒になっており、それが那雫を始め、笑いに拍車を掛けた。レイジュ・カザミ(ea0448)がリーラルにタオルを渡しながら、親指で自分を指してちょっと気障なポーズ。
「それにしても、懐かしいですねぇ。丁度1年前でしょうか? お餅つきをさせて戴いたのは‥‥初めての依頼でして、右も左も分からなくていろいろな方にご迷惑をお掛けしましたが‥‥またこうして参加できて嬉しいです」
「(葉っぱ男はスルー!? マイペースな娘だなぁ)何事も初めてって思い出深いよねぇ。僕も思い出すなぁ、お餅を初めて搗(つ)いたあのウブな日の思い出を‥‥」
レイジュの気障な台詞をスルーし、顔を拭いたリーラルは先程まで高耶が洗っており、まだ濡れている木製の杵と臼を愛おしげに触った。杵の柄の先端には、リーラルが愛用しているスタッフと同じ意匠が掘り込まれている。これらはリーラルが1年前のお正月に造ったものだった。
気を取り直してレイジュは、キャメロットにしては珍しく晴れ渡った空を見上げながら、1年前の自分を思い返していた。
「ウブな日って‥‥」
「あれから1年、楽しい事も辛い事もたくさんあったけど、僕は成長した。そう、葉っぱ男レベル6にまでね! もちろんこれからも!」
「やっぱり‥‥」
エルが思わず聞き返すと、レイジュから予想通りの応えが返ってきて、溜息を1つこぼした。そのやり取りが面白かったようで、リーラルは口元を押さえてころころと笑った。
ちなみに、今のレイジュは普段着である。
「今日はジャパンの聖夜祭を楽しもうね☆」
「皆さん‥‥あけましておめでとう‥‥ですの‥‥」
「アケマシテオメデトウ‥‥!? ‥‥ジャパンの正装も、お綺麗ですね‥‥」
レイジュが改めて挨拶をすると、遅れてやってきた神薙理雄(ea0263)の息も絶え絶えの挨拶が聞こえた。クウェルが早速、覚え立てのジャパンの挨拶で返すと理雄の姿に思わず見惚れてしまう。
理雄は十二単を着ていた。彼女が歩いた後には、十二単を引きずった跡がくっきりと残っている。
「あうぅ‥‥お、重いですの‥‥」
「当たり前です。十二単を着て街中を歩いてくるものではありませんよ」
「そ、そうでしたの? ‥‥そう言えば‥‥キチンと着るのは‥‥初めてですのね‥‥」
十二単は着物を着重ねするのだから単純に重く、理雄は高耶の長屋に来るまでの間にすっかり体力を使い果たしていた。よろける彼女を美鈴が支えると、「高耶さん、お部屋をお借りします」と長屋へ入った。
「リーラル殿は真似をしてはいかんぞ」
「いえ、着物をお借りしたいのは山々ですが、何故か友人に着用を止められました‥‥まるごとうさぎさんにしようかとも思ったんですが、それも止めなさいと‥‥」
「あー、納得」
高耶はリーラルが勘違いしないよう釘を刺した。歳が近い事もあり、リーラルと那雫はすぐに友達になっていた。リーラルからすれば「可愛い妹分」、那雫からすれば「目の離せない姉」といったところか。
「失礼でなければ、このままでよろしいでしょうか?」
「餅つきは疲れるから、着慣れた服がいいよ」
リーラルが身に纏っている刺繍入りローブを指さすと、那雫は頷いた。着慣れない着物で餅つきをしたら、下手をすれば今度は竈の中へ突っ込んでしまうかもしれない。
「じゃ〜ん、ですの♪」
「うわ〜、綺麗〜」
理雄と美鈴が長屋から出てきて、袖を持ち上げながらくるりとその場を一回りすると、エルが両手を叩いて感嘆の声を上げた。
理雄は普段着ている巫女装束姿に戻ったが、髪飾りは祭事用の豪華な物を着けていた。一方、美鈴は淡い青緑地に鈴をあしらった振袖を、山吹色地に白兎をあしらった帯で止めていた。
「それってジャパンの礼服だよね!? ボクも着られるかな?」
「エル殿だったら、拙者の振袖が丁度いいじゃろう」
エルが振袖を着たいと言い出すと、高耶は快く応じた。
「ど、どうかな? 似合ってる‥‥かな?」
やがて、美鈴が見立て着付けたエルの振袖は、若草色を基調とし、稲穂目掛けて飛ぶ白兎をあしらったものだった。せっかくだからと後ろ髪を上げ、真珠の簪を挿していた。
「とても良くお似合いですよ」
「ホント!? あの人にも見せたかったなぁ」
クウェルの率直な感想にエルは手を叩いて喜びつつ、少しだけ残念に思った。
●手を搗くな、餅を搗け!
餅米が蒸かし終わると、高耶と那雫、理雄と美鈴は手慣れた手つきで釜から臼へ移してゆく。
「モチツキってジャパンの料理なの? モチっていうのは聞いた事あるけど‥‥何事も経験だよね♪」
「料理といえば料理ですの。お餅は保存食ですの」
「レイジュ殿とリーラル殿は去年餅つきをしているとはいえ、そう記憶に残ってはおるまい。エル殿とクウェル殿は初めてだから、ここはジャパン人が手本を見せた方がいいだろう」
「はいはーい! ウチと吉野さんとでデモンストレ〜ションですの♪」
エルに餅について説明していた理雄は、高耶の提案に元気良く手を挙げた。指名された那雫も着流しの袖をまくり、襷を掛けてやる気のようだ。
「そういえば吉野さんと前に会ったのはかなり昔‥‥もう一年半くらい経ってるんでしょうか?」
「そんなになる? ‥‥ああ、あたしが天誅を下していた頃ね」
「あれは人誅ですの。ウチもあの時のウチではありませんけど‥‥お互い、“そっち”は成長していないようですの」
那雫は釜から蒸かした餅米を臼の中に入れながら、理雄の質問に答えた。そっちの方とは、すっぽり手の平サイズのひんぬーの事だった。
「ちょっと待って下さい。お2人に聖なる母のご加護を‥‥」
理雄と那雫に、クウェルがセーラ神の祝福を与えた。
(「ジャパン人同士ですし、去年の様な事はあり得ない‥‥無い筈‥‥きっと無い‥‥無いと良いなぁ‥‥」)
餅米を杵で潰しながら、理雄は那雫の横顔を見遣った。彼女は去年、返し手をしている時、杵で手を叩かれていた。
「行きますの、ひんぬー同志!!」
「ひんぬー同志言うな! これでも少しは成長したんだから!!」
「よ!」「はい!」“ぺったん!”
「ほ!」「はい!」“ぺったん!”
「は!」「はい!」“ぺったん!”
「「「おおお〜!」」」
流石はジャパン人。即席コンビにも関わらず、理雄と那雫の息はぴったりだった。たちまち搗かれてお餅になってゆく餅米に、クウェル達は思わずどよめいた。
やがて新雪を思わせる真っ白なお餅は臼から出され、机へと運ばれた。
「後はこのお餅を伸ばしたり、丸めたりすれば完成じゃ」
「意外と簡単なんですね」
餅を長く丸い棒で四角に伸ばしてゆく高耶の手つきを見ながら、クウェルがそう漏らした。
「先ずはやってみましょう」
美鈴が杵を渡すと、クウェルは上着を脱ぎ、エチゴヤエプロンを着けて臼の前に立った。理雄が新たに蒸かした餅米を臼の中へ入れた。
「確か、こうして潰すのですよね‥‥あれ? なかなか‥‥上手く‥‥行かない‥‥です‥‥」
高耶は簡単そうにやっていたが、なかなか力の要る作業だった。
その後、搗き始めるが、危うく餅米を返す途中の美鈴の手を搗きそうになってしまったりと、ハプニングの連続だった。セーラ神の祝福がなければ、実際に搗いていたかもしれない。
「昨年造った臼杵を取っていて下さったんですね、嬉しいです」
「エゲレスでは貴重だし、リーラル殿の手造りだからな、しっかりしておるし、手入れをすれば何年でも使えるのじゃ」
「私の造った臼と杵が何年も、ですか‥‥何か、吟遊詩人が語り継ぐ伝承みたいですね」
その後、リーラルと高耶が組んだ。
「ああ、そういえば餅つき競争っていう新しい競技が追加されたんですか? それならばあれです、頑張らねばっ」
「いや、リーラル殿の搗きやすい調子で搗いてくれれば良いぞ」
何か勘違いをしているリーラルに、高耶は落ち着いて搗くよう指示した。
「さぁ、レイジュ、一緒に組んで、モチツキにチャレンジだよ〜」
「何なら葉っぱ男姿で餅つきをやるよ? いや、むしろやらせて?」
「って、ボクがOKする前から脱ぐなぁ!」
エルがクウェルから杵を受け取ると、レイジュはバッと服を脱ぎ捨てて、葉っぱ一枚姿になっていた。
「今日の僕はひと味違うよ」
『葉っぱ男はとっても強い♪
葉っぱ男はネギリスのシンボル♪』
エルの腰と腕がリズミカルに動くよう、徹夜をして作詞した『凄いぞ葉っぱ男♪・セカンドリミックス』を唄うと、思わず彼女の腰が砕け、危うくレイジュの手を搗きそうになった。
「うわ、危ないなあ! ってわざとやってない!?」
「何、その、全身黒ずくめでヘビーヘルムを被った人が出てきそうな歌は?」
「腰と腕がリズムカルに動くでしょう?」
「逆にリズムに乗せづらくて、凄く搗きづらいよ」
「あんですと!?」
という遣り取りの末、どうにかエル共々お互いの手を搗かずに餅を搗く事が出来た。
●調理法と食べ方あれこれ
「料理には自信があるけど、知らない料理だしね。ジャパンではどんな風に調理するの? やり方を覚えておいて、また今度作るんだ! パリのお姉ちゃんにも、食べさせてあげたいしね」
レイジュは高耶や那雫を始め、美鈴や理雄に精力的に質問し、ジャパンの料理を着実に身に着けていった。
「こねこねこね♪」
「こ、こういう風で良いのでしょうか? あれ? えっと」
プロ顔負けの料理の腕を持つレイジュはリズミカルに餅をこねてゆくが、クウェルは手に張り付き、それが伸びて身体に絡ませてしまう。
「オ、オゾウニスープの出汁は鳥で良いのでしょうか?」
「ええ、鳥の出汁も合いますし、美味しいですよ」
その横では美鈴がお雑煮をクウェル達に教えながらを作っており、慌てて小麦粉を手に付けてクウェルの身体に絡み付いた餅を取りに掛かった。
「ウチは砂糖と醤があれば満足ですの」
「かすていら風味の保存食や干物といったジャパンの品らしいものが手に入ったので、オモチを食べる時にお裾分けしますね」
とはいえ、砂糖は貴族が口にする高級甘味料であり、高耶が持っているのは蜂蜜のみ。理雄は蜂蜜と醤を混ぜる気は更々なく、小豆と抹茶味の保存食で味付けを試みたのだった。
「ベリー類のジャムやバターなどを用意してきました」
「今年は新たにヨーグルトを持ってきました」
クウェルやリーラルが用意したトッピングは、付けて食べるにはちょっと勇気が要るかもしれない。
最後にクウェルが高耶に刺身の捌き方を教わると、全ての料理が出来たのだった。
「へぇ。草餅なんて作ったんだ」
「クサモチっていうの? 身体にいい薬草を混ぜてみたんだ」
レイジュと結託してこっそり薬草を混ぜたエルだったが、怪我の功名と言うべきか、草餅のように色鮮やかになっており、那雫は美鈴の作った草餅を美味しそうに食べた。
「‥‥!? !! !!」
「クウェルさん!? 餅を喉に詰まらせたの!?」
食べ方を知らないクウェルはかなりの勢いで餅を頬張り、噛み切れずに飲み込んでしまい、喉に詰まらせてしまった。隣で食べていた美鈴がハーブティーを差し出しつつ、背中にスマッシュを叩き込んで喉から吐き出させたのだった。
「‥‥喉に詰まらせないようにしなくっちゃね〜‥‥」
それを見ていたエルは、餅を小分けにしようとしたが‥‥。
「うあ、伸びる伸びる〜‥‥ねぇ、揚げてみてもいい? その方が食べやすそうな気がするの〜」
エルが餅を揚げると、ビスケットをよりカリカリに揚げたような、歯ごたえのある食べ物になった。
「へぇ、おせんべいみたいね」
「よーぐると風味が意外と合うのぉ」
「蜂蜜もなかなかいけますの」
「ベリーのジャムも甘酸っぱくて美味しいですね。バター焼きはちょっとしつこいですが」
那雫が揚げた餅を食べると、それはせんべいのような歯ごたえだという。ヨーグルトを付けて高耶が食べたところ、意外と爽やかで合うようだ。理雄は恐る恐る蜂蜜を付けて食べると、これもまた醤程ではないが合った。またリーラルにはベリーのジャムは美味しかったが、バター焼きはちょっと油っぽかったようだ。
その他にも紀州の梅干しや捕れたての刺身が乗り、豪勢な餅つきとなった。
その後、食後の腹ごなしに、理雄は那雫と手合わせをし、リーラルは高耶からジャパンについていろいろと聞き、レイジュは葉っぱで作った凧を、クウェルと美鈴、エルと一緒に空に揚げ、ジャパンの正月を満喫したのだった。