●リプレイ本文
●冒険者揃い踏み!
キャメロットの市民街に数多く走る通りの1つに面したディジィー・デンプシーのエールハウス。愛馬にラフィエット家の子爵令嬢チェルシア・ラフィエットを乗せ、手綱を握るリオン・ラーディナス(ea1458)が着いた。
「『確かな実力を持つ冒険者の一角』の拳闘にあなたが参加するという事は、あなたもその1人、という事ですの?」
「まぁ、そういう事になるかな」
チェルシアが意地悪そうに笑うと、リオンは平然と頷いた。彼女は口を押さえてコロコロと笑う。
リオンがチェルシアの手を取ってエールハウスの中へ案内すると、真幌葉京士郎(ea3190)達は身体を温めていた。
「己が技で人を沸かせる事ができるのなら、それは意味のある事だと思う。もちろん、お美しいお嬢さん方が喜んでくれるのなら、なお有意義だ」
「まぁ、お上手です事」
「しかし、こんなお美しいお嬢さんがリオンの彼女とは、噂のフラレーの称号は返上か?」
「彼女じゃないさ。貴族令嬢は花嫁修業で大変らしいから、息抜きに誘ったんだ‥‥って、どこ行くの!?」
京士郎の社交辞令に微笑むチェルシア。だが、続く彼の言葉をリオンは真面目に否定すると、チェルシアは頬を膨らませて1人でスタスタと行ってしまう。
「観戦とはいえ、男の誘いに応じるという事は、満更でもないという事なのだがな」
「流石は高名なフラレー、乙女心が分からないようだ」
ロイエンブラウ・メーベルナッハ(eb1903)と、マナウス・ドラッケン(ea0021)とアラン・ハリファックス(ea4295)と何やら話し込んでいたクリオ・スパリュダース(ea5678)は、リオンとチェルシアのやり取りを見て、方や咎めの、方や憐れみの視線をリオンへ送った。
「たまにはこうした戦いも必要だが‥‥正直言って、立ち技より寝技の方が得意なのだがな。特に寝台上での」
「こらこら、幼気(いたいけ)な令嬢に何考えてるのよ」
チェルシアの後ろ姿を見ながら、桜色の唇を艶めかしく舐めるロイエンブラウ。彼女に突っ込みを入れたのはエレナ・タルウィスティグ(ez1067)だった。
「おや、ラフィエット家のお嬢ちゃんかい。あたしは弟子の戦いを見に来たのさ。戦うとしても優勝者と一戦交えるだけさね」
チェルシアはエリザベス・サンプドリアの姿を認めると、スカートの裾を軽く摘んで挨拶をした。
「ベスばぁちゃん〜! 会いたかったよー!」
ベスばぁに弟子と紹介されたユーディス・レクベル(ea0425)は、闘技大会でのこれまでの戦績や競馬で彼女からもらったランスが棲家で眠ってて申し訳ない事など、取り留めなく話していた。
「ベスばぁちゃんは元気かな?」
「見ての通りピンピンしてるよ。ユーディスの子供の顔を見るまでは死ねないからね」
「私の子供はともかく、成長を見てもらう為にもベスばぁちゃんと戦いたいけど‥‥おっかないんだよ、取り返しのつかない事やっちゃいそうで。ばあちゃんには百歳まで生きてて欲しいというか‥‥ぶー」
ユーディスは実の祖母に対してのような口ぶりだが、ベスばぁも彼女の事を弟子であり実のひ孫のように思っていた。
「その心配はない」
ファング・ダイモス(ea7482)が口を挟んだ。
「今の私でも、ベスばぁに攻撃を当てられるかどうか分からないからからだ」
「うむ、依頼人殿があの有名な『ベスばぁ』だとは‥‥怖いモノ見たさでもあるが、一度手合わせ願いたいものだな」
「???」
ファングとコロス・ロフキシモ(ea9515)の話の真意が見えないユーディス。
ベスばぁの身体運びからは打ち込む隙が全く見当たらなかった。ベスばぁの身長はファングやコロスと比べると1mも小さい。しかし、2人の目にはベスばぁの後ろ姿が自分達より大きく映っていた。
「闘技場で見た顔ばかりだし、あれで80歳というのだから、強い奴っていうのは分からないものだな」
武藤蒼威(ea6202)が肩を竦めて苦笑した。
「久しいな、ディジィー。この場で再び闘える事になるとは‥‥楽しみだ」
「今回は審判だけど、ボクもどんな拳闘が見られるか、今からワクワクしてるよ」
コロスがディジィーを見つけると挨拶をした。元拳闘士の彼女は、今回は審判だ。
「ディーバ・コーラルはあれ以来姿を見せてるの?」
「ディーバ? うん、時々来て、歌を唄ってるよ。セイレーンだからなかなか来られないけどね」
厨房へ引っ込んだディジィーへ、クレア・クリストファ(ea0941)が誰にも気付かれないようセイレーンの歌姫ディーバ・コーラルについて訊ねた。今日も観客に紛れて見に来るという。
「これだけポーションがあれば、全員が1試合毎に使っても足りるな」
アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)は救護を買って出たミリア・サーディルと救護所を整え、そこへポーションを運んでいた。ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)を始め、ファングやリオン、コロスやマナウスが惜しみなくヒーリングポーションを提供したのだ。
「今回は冒険者同士のガチンコ対決だからねっ。装備(=衣装)はどれにしようかなぁ〜♪ ‥‥ん?」
同じく神聖騎士として救護に名乗りを上げたピアレーチェがポーションを運びながら、ステージに上がる装備(と書いて衣装と読む)を考えていると、不意に店の外へ出るゼファー・ハノーヴァー(ea0664)の後ろ姿を見つけた。
「ゲイル、来てくれたか! リア殿も来てくれるとは!!」
ゼファーは弟のように可愛がっていたゲイルとその姉リアを招待していた。
ゲイルの仇討ちが終わって1年余り。ゲイルは焼き払われた村の畑を開墾し、今年は実りを得られたという。しかし、それだけでは食べてゆけず、狩り等も行っているとか。
「農業の方は順調のようだが、新しい生活はなかなか立ち行かないようだな‥‥」
「そうでもないぜ。これ、俺が作ったんだ」
ゲイルは香油をゼファーに渡した。彼女は少年に先にエールハウスに入るよう勧めると、リアと2人っきりになった。
「姉弟上手くやっている事だろうとは思うが、何かと問題や悩みを抱えてはいないだろうか? 姉弟とはいえ、ゲイルに相談できない事もあるだろう。私でよければ聞くぞ?」
「‥‥あの日以来、毎晩のように夢で魘(うな)されています」
恋の悩みの相談が来るかと思っていたが、リアの悩みはもっと深刻なものだった。
盗賊達に1ヶ月以上もずっど慰み者にされた彼女は、毎晩のようにその時の事を夢で見て魘されていた。起こしにきたゲイルに噛みついた事も1度や2度ではないし、牛乳やヨーグルトは身体が受け付けず、一切飲めないという。
それに男性は未だに苦手で、人混みには入れないそうだ。
「‥‥1人で抱え込むより、話せば少しはすっきりするだろう。ディジィー殿に頼んで、リア殿は厨房に入れてもらうとしよう。今日はキャメロットへ泊まるのだろう。よければ私の家に来ないか? その‥‥添い寝くらいはできるからな」
恥ずかしそうに頬を掻くゼファーに、心に傷を負い、未だ心から笑う事のできないリアは一瞬キョトンとした後、ほんの少しだけ微笑んだのだった。
ステージの前にユーディスの作った対戦表が貼り出されると、クリムゾン・コスタクルス(ea3075)は羊皮紙を見ながら不適な笑みを浮かべた。
「あたいの相手は指名した通りファングだね」
「パワーのファングか、スピードのクリムゾンか、面白い勝負になりそうだよ」
「体格じゃ相当差があるけど、そんなの関係ねぇ。たとえ相手がどうであろうと、全力で行く。それが、“リアル・ファイター”だ」
クリムゾンとファングは約1mの身長差がある。とにかく自分と正反対のタイプの冒険者と戦いたいという理由で、クリムゾンは彼を指名したのだ。
ディジィーが彼女の対戦に注目して解説すると、クリムゾンは片手でガッツポーズを取りながら意気込みを語った。
「優勝者を予想して1口1Gで賭け、当たった人が集まったお金を山分けで構わないかな?」
「ああ、1人につき3口までと、上限を付けた方が盛り上がるだろう」
対戦表を見ながら、賭けのルールを確認するクリオとマナウス。聖夜祭期間なので賭けはしないとディジィーに断られたクリオ達は、アランを含めて3人だけで賭けをする事にした。しかもゴネつつ、結局、賞品はディジィーに用意してもらっていた。
「俺は3口をマナウスに。1口を俺に、だな」
「俺に賭けるのか。なら、アランに3口賭けよう」
「私はファングに‥‥レベル的に堅実で賭けらしくないし、コナンだから悩んだけど、まあ同国だしね」
間違いのないようにしっかりとメモしたクリオは、羊皮紙をディジィーに渡した。
「以前、あなたと依頼でお会いした私の従妹、エルシュナーヴというのだが、彼女はキャメロットから離れていてな。あなたへ言伝を頼まれていて、それを伝えに来た」
「エルシュナーヴの従姉なんだ。それで好みも同じなのね」
「メーベルナッハ家の女は得てしてそういうものだ」
ロイエンブラウはエレナを店の隅へ連れて行くと、そう切り出した。否定しない彼女にエレナは苦笑しながら「やっぱり従姉だよ」と納得する。
「あなたの姉は死んだ訳じゃない、まだ助け出す術はあるだろう‥‥そして、それを為すに最も力になれるのは、妹であるあなたをおいて他にない。いつか姉を救えるよう、共に力をつけていこう‥‥私の言葉で言い直してはあるが、エルからの伝言は以上だ」
「‥‥ありがとう、ってエルシュナーヴに伝えてくれないかな。今のあたしには無理だけど、エルシュナーヴの言う通り、いつかきっとお姉ちゃんを助けるよ。これはお姉ちゃんが最後に身に着けていたものだけど、お礼にあげるわ」
従妹からの伝言を受け取ったエレナは力強く頷くと、首に掛けていた水晶のペンダントを外してロイエンブラウへ渡した。姉イングリッド・タルウィスティグ(ez1068)との別離の時渡された大切なものだが、だからこそ前へ進む事を改めて伝えてくれたロイエンブラウに持っていてもらいたいのだ。
●京士郎vsリオン
リングに立ち、女性達に笑顔で手を振るリオン。そこへ羽織ったマントを靡かせて颯爽と登場し、バッと天井高く払うように脱ぎながらステージへ飛び上がり、構えを取る京士郎。
「ジャパンの武士、真幌葉京士郎。いざ参る!」
「しまった! 俺も格好いい登場すればよかった」
一礼する京士郎へ向けられる黄色い声援に、リオンは少し後悔する。
「ファイ!」
ディジィーが両手を交差させて試合開始を告げる。
「(俺はこの拳闘のルールの中で、己の示現流をするだけだ)チェストォォォォォ!」
合図と同時に、示現流独特の掛け声と共に先制の衝撃波を飛ばす京士郎。様子見で十分間合いを取っていた事が幸いし、サイドステップでそれをかわすリオン。
「凄い、拳圧だけで」とか「一瞬で気付いて避けるとはやりますわね」とユーディスやチェルシアを始め、観客はどよめく。
(「ソードボンバーか。迂闊に近づけないな」)
「いつまでもお見合いをしていては、お嬢さん方は沸かせんよ?」
リオンは衝撃波を警戒して間合いを取り、京士郎の周りを円を描くようにステップを踏む。そこへ拳を突き出すように、先程より射程のある衝撃波を繰り出す京士郎。だが、これもかわされてしまう。
「確かにキミの言う通りだよ」
避けた後、一気に間合いを詰め、2発のジャブとストレートのコンビネーションを撃ち込むリオン。京士郎がまともに喰らったのを見計らい、更に打って出るとラッシュを繰り出す。
「“烈風の京士郎”の二つ名は、伊達ではないんでな」
「既にキミの手の内は読めている。それでも俺は捉えられないよ」
零距離で衝撃波を放つ京士郎。意表を衝いたつもりだが、リオンは大きく横にステップを踏んで衝撃波の間合いから紙一重で離脱し、京士郎の横から左右フックの回避からの流れるような連携攻撃を仕掛ける。直撃を喰らった京士郎はそのまま座り込んでしまった。
「ウィナー、リオン・ラーディナス!」
ディジィーがリオンの右手を掴んで掲げた後、彼は京士郎に手を差し伸べた。
「ソードボンバーとソニックブームの組み合わせ技、危なかったよ」
「こちらの方こそ良い試合だった、ありがとう」
京士郎はその手を掴んで立ち上がりながらお互いの健闘を讃え合った。
●ゼファーvsコロス
(「私の対戦相手はコロス殿か‥‥さて、どうする?」)
「コロス・ロフキシモ、女とて容赦はせん!」
ステージの中央で対峙するゼファーとコロス。80cmの身長差があり、彼女はやる気満々のコロスを見上げる形になる。
「ファイ!」
(「コロス殿との体格差を考えると、回避に専念しても長くは保たないのは間違いなかろう。それにゲイルやリア殿も見ている。リア殿を勇気付ける為にも無様な戦いだけはしたくない‥‥ならば――」)
「ムウゥ‥‥!?」
厨房から顔を覗かせているリアを視界の隅に捉えたゼファーは覚悟を決めると、コロスに先んじて攻勢に出た。ゼファーに反撃の暇を与えず、ガードごと捻じ伏せるつもりだったコロスも、これには意表を衝かれた。
ステージの中央で、ゼファー、コロス共、お互い足を止めた打撃戦が繰り返される。
「痛痒とも感じんな」
手数はコロスの方が多いものの、直撃を受けているのも彼の方が多かった。当初の推察通り、ゼファーのパンチやキックはそれ程効いてはいない。しかし、急所に当たる割合がコロスよりも高く、威力の差の割に打撃戦はほぼ互角だった。
ゼファーの実力を認めたコロスは、両腕で攻撃を受け流し、徐々に勢いを自分側へ引き寄せてゆく。
「く‥‥このままでは‥‥」
「分かっていたとしても、この猛攻の前には足元への注意は怠ってしまうものだ‥‥ムウンッ!」
拳はフェイントでそこへ蹴りを食らわせ、ゼファーの足下を掬う。体勢を崩した彼女へ、拳を振り下ろす。
「この瞬間を待っていたのだ」
「何!? ムンォオオオオオ――!」
体勢を崩したかに見えたゼファーだが、それすら自らの勢いとして弾みをつけて跳躍し、コロスの顔面目掛けて一か八かの跳び蹴りを仕掛けたのだ。
これが当たればコロスの場外は免れない――拳と跳び蹴りが交差し、2人共場外へと落ちる。
「ウィナー、コロス・ロフキシモ!」
だが、僅かにコロスの方が後から落ちており、彼が勝者となった。
「残念でしたね‥‥でも、ゼファーさんの戦っている姿は素敵でした」
「ありがとう」
女性の控え室である厨房へ帰ってきたゼファーに、リアがタオルを渡した。自分の戦いが少しでも彼女の生きる糧になってくれればと思って止まないゼファーだった。
●ピアレーチェvsマナウス
「こういう基礎格闘って何年ぶりだろ、いや十何年ぶりか? 何にせよ懐かしいものだ、昔は良く組み手とかやったものだけどね」
ステージ上で対戦相手のピアレーチェを待ちながら念入りに準備体操をするマナウス。女性は準備に時間が掛かるものなので、待たされるのは嫌いではなかった。
「やほやほ〜☆ “筋肉☆メリー天使”、登場だよぉ」
朗らかな声と共に控え室から現れたのは、まるごとメリーさんの上からホークウィングを着込み、頭部に天使の羽飾りをあしらったピアレーチェだった。騒然としていた店内に途端に沈黙の帳が降りる。
「あ、あれ!? ‥‥似合わない、かな?」
「いや、うん、なかなか似合ってるよ。ピアレーチェが可愛いから、みんな声も出ないんだよ」
「でしょでしょ〜☆」
「メリー天使は分かるけど、筋肉は?」という言葉を飲み込んで、マナウスは手を差し伸べてピアレーチェをステージへと上げた。彼女が天使の羽根飾りを取ると、試合開始となった。
「ファイ!」
「女性には拳は使わないよ。ピアレーチェを甘く見ているとかそういう意味ではなくて、こればっかりは誓いでね。破る訳にはいかんのよ」
「って、キックの方が威力あるのにぃ」
ピアレーチェのパンチに対し、キックで応酬するマナウス。右足が跳ね上がったと思ったら、着地と同時に逡巡なく勢いをそのままに逆足が来襲してくる。鋭く流れるような連続攻撃に、彼女は回避を諦め、腕でブロックしたり、ステージ衣装の防御力を駆使して威力を削いでゆく。
迂闊にカウンターを仕掛けようものなら、逆にマナウスにカウンターで返されない攻めだ。
(「でも、護っているだけじゃダメだよ! 多少喰らっても倒せば!!」)
ガードして分かったが、マナウスの蹴りは軽い。それにピアレーチェの攻撃も十分当たる。
彼の蹴りの軌道が足下へと変わったのを見切ったピアレーチェは、その足払いを敢えて受け、カウンターの蹴りを繰り出した。マナウスがよろけると、畳み掛ける彼女の視界を禍々しい漆黒の布が覆った。
「え!? あ!?」
それがマナウスの着けていたブラックローブだと気付き、振り払った時には場外へ落とされていた。
「ウィナー、マナウス・ドラッケン!」
「え〜、もう終わりぃ? もっと戦いたかったのになぁ」
「いや、紙一重だったよ」
●ロイエンブラウvsユーディス
三つ編みを解き、香油と手櫛で髪を逆立てたユーディスの姿は獅子を思わせた。
向かい側に立つロイエンブラウは、伏し目がちに静かに佇んでいる。その立ち姿はどこか儚く、深窓の令嬢を思わせた。
ユーディスを『動』と喩えるなら、ロイエンブラウは『静』だろうか。
「ファイ!」
「いっくよー!」
「貴方は‥‥私を感じさせてくれるのか?」
勢いよく飛び出したユーディスだったが、ロイエンブラウの言葉に出鼻を挫かれ、失速してしまう。
「か、感じさせる!? いけないいけない、今は試合中だよ」
「貴殿がよければ、私は試合中でも構わないのだがな」
気を取り直し、左のジャブから右のストレートへ続くコンビネーションを2発叩き込む。ロイエンブラウは身体で受け止め、カウンターよろしくジャブを1発、続けてジャブを2発放つ。
「ふむ‥‥些か凝るのは筋肉質からだが、その大きさ、柔らかさ共に申し分ないな」
ロイエンブラウのジャブが3発ともユーディスの服の下からパンパンに張り詰め、はち切れんばかりの胸部に当たったのは偶然だろうか?
ユーディスは打撃戦に持ち込むが、ロイエンブラウはその都度足を使い、丁寧に距離を取って反撃に転じる。
その際、ロイエンブラウのローキックが、ユーディスの脚ではなく腿や下腹部に集中しているのも偶然なのだろうか?
ユーディスのパンチはド派手な音とモーションで観客を魅せるが、ロイエンブラウに大振りの打撃はないものの、じわじわとダメージを蓄積させていた。
気が付けば、お互いクリーンヒットはないものの、肩で息をする程疲労していた。
ユーディスは最後の攻撃の口火となる左ジャブから右ストレートを再び放つ。それらを全て受け止めたロイエンブラウは、彼女も再びカウンターを狙う――が、ユーディスの頭突きが鳩尾に決まっていた。
「ウィナー、ユーディス・レクベル!」
「よーし、勝ったぁ!」
嬉しさのあまりバク転しようとするが、ダメージの蓄積が足に来ており、転けてしまうユーディス。
「私は貴殿の躯を堪能できたし、悔いはない」
気が付いたロイエンブラウはそういってユーディスの顔を真っ赤にさせたのだった。
●クリオvsアルジャスラード
「アルジャスラード・フォーディガールか。長くて舌噛みそうだよ。技量では私が勝っているが、エジェットは素手もイケル流派だし、どう見ても向こうのが強い」
試合前にアルジャスラードを分析し、ご丁寧に解説するクリオ。ブラック・ローブを纏った姿は修道士風に決まっている。
「ファイ!」
「己の道を切り開くのは己の力のみ!! 全力を尽くして戦おう!!」
「全力といっても、こっちはあんまりいいところないしねぇ。見世物として盛り上げるとするよ」
アルジャスラードの爽やかな物言いに対し、飄々と返すクリオ。
左のジャブからの右ストレートが来たと思いきや、今度は右・左のジャブ、続いて右のフックからの左ストレートと、アルジャスラードの攻撃は変幻自在だった。しかもフェイントを織り交ぜているので、クリオもそうそうカウンターを仕掛けられない。
「その手にヘビでも飼ってるのかい」
「一応、素手の戦いも慣れているからな」
軌跡の読めないパンチに皮肉を乗せつつ反撃に転じる。アルジャスラードは腕で受け流す。それで手を出せば当てられる事が分かったクリオは、打撃戦に応じた。
しかし、手数の差から徐々にステージ際へ追い詰められるクリオ。
止めとばかりにアルジャスラードはストライクを放つ。ステージ際ギリギリでそれを受け止めたクリオは、カウンターよろしく顎にアッパーカットを喰らわせていた。
「ウィナー、クリオ・スパリュダース!」
「当たりさえすれば勝てる可能性はゼロじゃないんでね」
●クリムゾンvsファング
「紅の女闘牛士がやんなきゃ、誰がやる?」
クリムゾンはマスカレードとマントを着けて控え室から姿を現すと、イスパニアの情熱的な踊りを披露する。その後、マスカレードを観客へ放り投げて軽く煽って拍手を促し、ステージへ気合いを前面に出した全力疾走。宙返りをしてステージへと上がった。
「コナンの防具は、その肉体に有り」
方やファングはナイトレッドに染め上げられたマントを羽織り、颯爽と登場してステージへ上がるとマントを脱ぎ捨てた。
「いい試合をしようぜ」
「望むところだ。こんな燃える戦いは、初めてだ。全力で掛かって来い」
「ファイ!」
ステージ中央で2人が握手を交わすと、試合開始が告げられる。
「ボンバーナックル!」
先手を取ったのはファング。衝撃波を繰り出してクリムゾンの出鼻を挫いた。
「やるじゃないか!」
ステージ際まで吹き飛ばされた彼女は、ダメージを残していないか確認するように軽快に起きあがると、一気に肉薄し鋼のように鍛え上げられたファングの身体を捉える。彼もそれに応じて、やや細身ながら締まったクリムゾンの小麦色の四肢を視界一杯に収めた。
肉の弾ける鈍い音が店内に響き渡る。ファングのパンチはショートソードの切れ味に相当する。キックに至ってはノーマルソード並だ。クリムゾンは絶えず上半身を動かし、首を左右に振り、直撃を避けるものの、喰らった箇所は骨が折れるような鈍い音と共に赤く腫れ上がる。
それでもクリムゾンもファングも、毛1本程の躊躇いもなく、ひたすら打撃戦を繰り返した。
観客は総立ちになり、足踏みで2人を応援する。決勝戦を除けば、最も注目されたカードだろう。
彼女のパンチもファングに効いていない訳ではない。むしろ彼の方が直撃を受けている数は多いが、如何せん、ファングの一撃の威力は半端ではない。クリムゾンはそれを手数で補ったのだ。
やがてファングの一撃がクリムゾンの腹部を捉えると、彼女の手が止まった。
「‥‥途中から半ば意識が飛んでいたようだな‥‥それでも手を出し続けていたとはな」
そのまま自分に凭れかかってくるクリムゾンの身体を受け止めるファング。彼の一撃がクリムゾンの最後の意識を断ち切ったのだ。
「ウィナー、ファング・ダイモス!」
「お相手してくれて、ありがとな」
「いや、紅の女闘牛士の動き、魅せてもらったよ」
意識を取り戻したクリムゾンは、ファングの腕の中でお互いを讃えつつ、満面の笑みで握手をかわしたのだった。
●クレアvsエレナ
「さぁて、闘るからには優勝狙うわよ」
クレアはポニーテールに結った銀色の髪を軽く掻き上げると、対峙するエレナに歩み寄った。
「そういえば、拳を交えるのは初めてね」
「そうね。エレナ‥‥御出でなさい、全ての怒りと哀しみを込めて。私も私なりのケジメを付ける為、あなたと闘うわ」
エレナの肩を軽く叩いて、クレアはそう声を掛ける。
「ファイ!」
「行くわよ!」
「友達だからって手加減は無用よ!」
走り込んでくるエレナとは対照的に、クレアは亡霊のように身体を揺らしながら距離を詰める。エレナの初手は距離を測る左ジャブ。クレアはそれを受け流して、掌打から膝蹴りへ繋げる。不意を衝いたものの、これはかわされてしまう。
今度はクレアから仕掛けた。突くようなローキックから、一転してエルボーを繰り出す。エレナは2撃共受け堪えると、続く掌底に合わせてカウンターを繰り出し、クレアに直撃させる。
クレアは攻防一体の動きを伴った我流で、攻守共にコンスタントに威力を発揮するウーゼル流のエレナの攻撃を相殺していた。
(「サッキュバス3姉妹と戦っていた時は分からなかったけど、この娘は普通に強いわ」)
エレナのパンチを力に逆らわず軌道を変えさせて体を崩し、そこへ両手の掌打を叩き込もうとするが、これは防がれてしまった。間髪入れず手刀を当て、掌底から回し蹴りへ繋げようとするが、蹴りの出掛かりをカウンターで抑え込まれてしまう。
カウンターの直撃は負傷を最小限に抑える事ができず、クレアのダメージは蓄積していった。
「あっはっは、まだまだ行くわよ!」
いつもの高笑いは空元気だったが、足に来ている事を悟られる訳にはいかない。エレナの右ストレートを捌いて体勢を崩し、体当たりを喰らわす。だが、本来あるべきところにエレナの身体はなく、クレアの横へ回り込んだ彼女はアッパーを繰り出した。
膝を付いたクレアはもう自力では立ち上がれなかった。
「ウィナー、エレナ・タルウィスティグ!」
エレナに肩を借りながら控え室へと戻るクレア。
「今は溜め込んでるもの、全部吐き出しちゃいなさい‥‥無理しちゃ駄目よ」
その一言でエレナはクレアの胸の中で声を殺して泣いたのだった。
泣き止んだ彼女は、ばつが悪そうにスターサンドボトルをクレアに渡した。何でもイングリッドからもらったお守りだという。御利益の程はともかく、クレアはエレナとの友情の証として、そしてイングリッドを忘れない為にも受け取ったのだった。
●蒼威vsアラン
「さぁ、ダンスの始まりだ!」
「お相手、仕ろう!」
とりを務めるのはアランと蒼威だ。2人とも今までの拳闘を見てきているので、テンションは高い。
アランは人間の中では巨躯であり、ジャイアントの蒼威と身長差こそ40cmあるが、体格では引けを取っておらず、2人がステージ中央で対峙する光景に観客も否応なしに盛り上がる。
「ファイ!」
(「過去の対戦を振り返るとカウンターの使い手が何人かいたはず。アランもその一人だったな」)
蒼威はカウンターを警戒し、フェイントを織り交ぜてリバーブローを繰り出す。アランはがっちりガードを堅め、リバーブローを受け流すと、前蹴りで蒼威との間合いを空ける。
だが、前蹴り程度では蒼威は怯まず、続けてジャブからアッパーのコンビネーションを見舞うが、これもアランのガードに阻まれてしまう。
「いつまで亀のように縮こまっているつもりだ?」
「(肝臓に顎‥‥ノックアウト狙いか。ノーガード戦法は命取りだな)図体がでかい事は‥‥遅いとは直結せんさ!」
ガードは固めつつ、今度はアランが右のローキックを立て続けに放つ。その鋭さに蒼威は回避できず、直撃を喰らう。
「その程度では効かんよ」
「そうかい! なら効くまで蹴ってやるよ!」
アランはそのまま右のローキックを当て続ける。蒼威もただ受けている訳ではない。フェイントを駆使して左右のコンビネーションを繰り出し、時にはガードをこじ開けて直撃を喰らわせる。
上段と下段の一進一退の打撃戦、というより乱打戦がしばらく続いた。
蒼威も動きが鈍ってきたが、アランもガードする手が下がってくる。途中、アランの意識が何度か飛びそうになるが、「クレアに頭丸刈りにされては敵わんからな‥‥」と約束が脳裏を過ぎり、辛うじて意識を繋ぎ止めていた。
蒼威の上下左右のコンビネーションを、ガードではなくサイドステップで大きくかわすと、彼の体勢が僅かに崩れた。その一瞬を見逃さず、フィニッシュブローの右のフックを叩き込むと、遂に蒼威の両膝が崩れた。
「ウィナー、アラン・ハリファックス!」
「紙一重の勝利だったな。お前の攻撃がもっと多彩だったら分からなかったがな」
「拳闘では負けたが、闘技場ではこうはいかんぞ」
●栄光は誰の手に?
続く2回戦、リオンvsコロス戦はリオンが、マナウスvsユーディス戦はマナウスが勝利を収めた。クリオvsファング戦はファングが、エレナvsアラン戦はアランが勝利する。
「私の寝顔を見た記憶をなくせ」
クリオは気絶した顔を見られたのがショックだったのか、店にいる観客全員に樽でエールを奢るという大盤振る舞いを見せた。
準決勝は、リオンがマナウスを下し、ファングがアランを敗る。
「んな!? 今日の酒代が‥‥ち、ちょっと待って!」
マナウスとアランはお互いに賭けていたので、この時点でクリオの1人勝ちとなった。
決勝はリオンvsファング。息も吐かせぬ猛攻の末、勝利したのはファングだった。
「あなたはよく頑張りましたわ。あなたさえよろしければ、ラフィエット家の騎士に取り立てますわよ?」
そういってリオンにローズキャンドルをプレゼントするチェルシアだった。
その後、ファングはベスばぁと対戦したが、その場にいる全員が悪夢でも見ているような錯覚に陥った。
ファングの攻撃は衝撃波、蹴り、身長と体重を乗せたタックルスマッシュ、そのほとんどが回避され、当たって押さえ込もうとすると、抜けられてしまう。
逆にベスばぁの攻撃は、単発ながら着実にファングの急所を直撃し、彼の体力をじわりじわりと奪っていった。
コナン流らしいパワーファイターと、ヒットアンドウェイを得意とするアルスター流の戦い。
最後まで立っていたのはベスばぁだった。
「イギリスへ残るにせよ、ジャパンやノルマンへ渡るにせよ、神の国アトランティスへ行くにせよ‥‥自分の長所を伸ばすのもいいけど、短所も補うようにするんだよ」
それがベスばぁのファング達への手向けの言葉となった。
試合後、観客はお開きとなったが、参加者達はクリオの奢りで夜通しで呑み続けたという。
ディジィーはが参加賞のハーブワインと賭けの賞品のシェリーキャンリーゼは、帰る時に渡さないとこのまま呑んでしまうと思う程、みんな豪快で気っ風のいい呑みっぷりだったという。