女の怨みと秋の空
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:10〜16lv
難易度:やや難
成功報酬:6 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:11月03日〜11月10日
リプレイ公開日:2006年11月11日
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●オープニング
京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
藩主平織虎長が暗殺された事により、尾張平織家は尾張の覇権をめぐり、一発触発のただ中にある。
「‥‥ここが、彼女の生まれた国か」
尾張のとある街の中を、興味深そうに見て歩くジャイアントの男性の姿があった。
2mを越す巨躯にラメラアーマーを纏い、精悍な顔付きをしている。背中にクレイモアを背負っているところを見ると、おそらくはルーク流を使うファイターだろう。
彼の名はミルコ。“静かの”ミルコと呼ばれている。その二の名は、彼のクレバーな戦い振りから付いたものだ。
ミルコには恋人がいる。彼女はジャパン出身の忍者なので、一度、恋人の故郷がどういうところか見てみたいと強く思うようになり、半年以上掛けて月道を渡るお金を稼ぎ、今月ようやくジャパンの地を踏んだのだ。
漆喰の壁に瓦屋根など、見るもの全てが彼の生まれたヨーロッパにはないものばかりで珍しい。ジャパン人の普段着である着物は、彼女が着ていたので見慣れてはいるが。
感動もひとしおである。
「‥‥おっと、こちらは貴族街か」
建物が高級そうなそれに変わるとミルコは足を止める。秋になり、日が落ちるのもすっかり早くなってしまった。既に夜の帳が降り始めている。土地勘のないところでは、下手をすれば道に迷いかねない。
元来た道へ戻り、今夜の宿を探そうとしたその時!
「だ、誰か―――――!」
絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえた。車の軋む音が続く。
彼は愛剣を両手に構えて悲鳴の聞こえた方へと走る。
そこには小綺麗な着物を着たジャパン人の女性が腰を抜かして座り込んでおり、女性の目の前に牽く牛の付いていない牛車と、数体の骸骨姿の侍がいた。
(「‥‥ジャパンのアンデッドか? しかし、女絡みとは」)
思わず苦笑を浮かべる。ミルコは女性関係のトラブルに遭う事が多いのだ。
アンデッドに脅しは効かないものの、自分の方に気を引き付けようと雄叫びを上げながらクレイモアで骸骨の侍を力任せに薙ぎ、女性の元へ駆け付ける。
「‥‥立てるか?」
「だ、駄目」
涙目で顔をふるふると横に振る女性。完全に腰が抜けているようだ。
牛車の正面に浮かんだ、恐ろしい形相の女の鬼の顔の目が爛々と光ると、牛車がミルコごと女性をひき殺そうと突っ込んでくる。クレイモアを構えるミルコ。
「‥‥あぐ! 参ったぜ」
クレイモアで受け止めたはずが、跳ね飛ばされてしまう。朧気な姿から、おそらく普通の武器を始めとした物理攻撃は効かない。
「‥‥あんた、あのアンデッド達に恨みを買ってるんじゃないのか!?」
「知らない! 横恋慕しようとしたあんな女なんか知らないわ!!」
「横恋慕しようとしたあんな女」と女性ははっきりと言った。確かに牛車に浮かんでいる鬼の顔は女だが、それを断定したのだ。
この女性は間違いなく朧車の女性の事を知っており、恨みを買っている。
「あなた、冒険者なんでしょ!? お金は出すからあたくしを助けなさい!!」
「‥‥言っておくが、俺は“竜殺し”だ。雇うと高く付くぜ? それに、この場は守れたとしても俺1人じゃせいぜいあのスカルウォーリアー達を倒せるくらいだがな」
狙われる原因は女性にあるし、ミルコ1人なら来た時と同じように骸骨の侍の包囲網を破って逃げる事も出来る。
だが、このまま見捨てるのも目覚めが悪い。
ミルコは女性を肩に担ぐと、クレイモアを振り回して攻撃の効く骸骨の侍を薙ぎ払い、その場から逃げ出したのだった。
●リプレイ本文
●馬鹿ップル?
尾張の城下町の一つに広がる貴族街。その一角に、依頼人の貴族の娘、葵の屋敷もある。
ジャイアントのファイター“静かの”ミルコは、葵を護る依頼を請けたのはいいが、体のいい用心棒として扱われ、屋敷の門番をされられていた。
「ミルりん、良かったー、会えたー!」
「‥‥鈴那!?」
息急き立てて駆けてくる忍者の逢莉笛鈴那(ea6065)‥‥ミルコの恋人である。
鈴那は満面の笑みを浮かべて、目頭にちょっぴり嬉し涙を為ながら、ミルコに抱きつき、逞しい首に手を回す。かなりの勢いがあったが、ミルコは彼女を全身で受け止めた。
「鈴那、じゃなくて、鈴りんだよ!」
「‥‥えーと、その、なんだ、恥ずかしくてな」
「私達、恋人なんだし、恥ずかしがる事はないよ。言ってくれなきゃ放さないから」
「‥‥鈴りん」
「うん! 久々に一緒のお仕事だね、ミルりん」
ミルコの口から自分の愛称が聞けると、鈴那は満足したかのように頷いて彼から離れる。実に半年以上振りの再会なので、もっと甘えたいのが本音だが。
「やれやれ、最近の若いモンは慎みがなくていかん」
「本人達がいいのなら構わないと思うが」
「浄炎の考えは古いわよ。美しくなる秘訣は、燃えるような恋をする事。今の鈴那、すっごく綺麗だし、輝いているもの。あー、あたしも身を焦がすような恋がしたいなー‥‥してる事はしてるけど、叶わないし‥‥」
武道家の明王院浄炎(eb2373)は、みんなが思い浮かべる厳しい父親よろしく、らぶらぶする事自体は咎めないが、人目を気にしろと説教じみて言う。その点、レンジャーのゼファー・ハノーヴァー(ea0664)は基本的に我関せずなので、腕を組み、2人を生暖かく見守っている。ウィザードのミカエル・クライム(ea4675)は浄炎とは対照的に、鈴那にはもっとミルコの事を好きになってもらいたいと応援する構えだ。
「さて、そこのらぶらぶ馬鹿ップルは置いておくとしまして‥‥」
何故か手には禁断の愛の書を持って、横目でミルコと鈴那を見ながらファイターのレオーネ・アズリアエル(ea3741)が場を仕切り直す。
「死霊に襲われるっていうのは、ただ事じゃないよな。葵に心当たりがあるようだが、何かあるのだろうか?」
「怨霊にまで身を堕とすというのは尋常ではないね。其処までの怨恨を抱くには相応の事情があるはずだよ」
浪人の鷹村裕美(eb3936)とジャイアントのナイト、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)は、依頼人の葵に何か恨まれるような事があるのではないかと疑いを持っていた。
「横恋慕で朧車になる程の恨みってできるかしら? それとも葵さんが何かしたのかな?」
「護衛の依頼を出して、襲ってくる相手も分かっていながら、その情報を出さないっていうのは、探られて痛い腹もありそうだしねー」
「葵さんと朧車の諍い‥‥しかも、どう見ても痴情の縺れよね。男絡みには間違いなさそう」
「事の発端はもしかして三角関係? いやーん、女の子の悩みはいつも恋路よねぇ」
ミルコから朧車と死霊侍に襲われた時の状況を事細かに聞いた鈴那は首を傾げる。浪人の渡部不知火(ea6130)の言葉を受けて、レオーネとミカエルは三角関係による痴情の縺れと予想していた。
「(‥‥女の情ってのは、おっかねえモンだな‥‥)調査してる事を依頼人に知られないようにした方が良いかしら」
「葵はおそらく、この件を『ただのアンデッド退治』で済ませようと思っている腹だろう。だが、それだけでは、この件の表層部分しか解決しない」
「私達が独自に動くしかないだろうね」
痴情の縺れの怖さに内心舌を巻きつつ、不知火の提案に浄炎とヒースクリフが同意する。依頼人が真実を話さない以上、自分達で調べるしかない。
「葵の事はミルコに任せて構わないかしら? 『対応策を練ってるから』って、私達の調べが済むまでできる限り誤魔化して、外出を控えさせて欲しいの」
「‥‥元々、この屋敷からあまり動けないから、それは俺の方で引き受けよう」
不知火がミルコに葵の事を任せたのを皮切りに、ゼファー達の分担が決められていった。
●痴情の縺れ
「色恋沙汰について誰かを諭すなどというのは、私の手には余るからな」
ゼファーは一人ごちながら、貴族街を歩く。
今回は葵が「屋敷の周りでの戦いは避けて欲しい」と条件を出しているので、事前に朧車と死霊侍達と戦う場所と誘導ルートを決めておかねばならない。その下見をしていた。
葵の屋敷もそうだが、貴族の屋敷は何処も門番を立て、貴族街自体がどことなく物々しい雰囲気に包まれている。まるで戦でも始まるかのようだ。
「尾張の内情はかなり大変みたいね」
そこへ鈴那が合流した。彼女は貴族街近くの茶店で、貴族の屋敷で働いている女性達から噂を聞き込んだのだが、噂の焦点は専ら尾張の内情だった。
尾張藩主平織虎長が暗殺された事により、虎長の弟と妹とが尾張平織家の跡目を狙っており、水面下で工作が続いているらしい。まだ戦には発展していないが、近い将来、戦が起こると囁かれている。
なるほど、それならこの貴族街の物々しい雰囲気にも納得がいくし、下働きの女性達の死活問題にもなるので噂が飛び交うのも仕方ないだろう。
そんなところでは当然、戦う事はできないし、戦闘を行った事で勘違いされて襲われる可能性も十分ある。
ゼファーは鈴那と共に、貴族街から近いところに朧車と死霊侍達を誘導できる場所がないかチェックする事にした。
「そうか‥‥邪魔したね」
ヒースクリフは愛馬アナスタシアを駆り、城下町にある寺院を巡って、最近、若い貴族の女性を弔った事が無いか訊ね回っていた。
だが、どの寺院も特に若い貴族の女性を弔ってはいないという。他言無用の念押しをしたが、特に嘘を付いているようにも見えなかった。
「アンデッドとして葵君を襲っているという事は、死んだか、殺されたとして、未だに弔っていないという事かもしれないね」
ヒースクリフは一つの結論へ辿り着いた。
「なにやら、悲恋を苦に亡くなった娘御が居ると風の噂に聞いたのだが‥‥」
浄炎は流しの鍛冶屋として町民の住宅を廻り、包丁研ぎや鍋釜の修理を請け負いながら、女性達から噂を集める事にした。
朧車と死霊侍が貴族街近くに出るという噂は、町民達も知っていた。とはいえ、自分達が襲われる訳ではないので、他人事だったが。
「娘を持つ身として、親御殿の悲しみは如何ほどかと思ってな‥‥将来娘が似た悩みを持ったなら‥‥と思うと居た堪れぬ」
娘を心配する父親を演じる浄炎。情に絆された女性は、駆け落ちしようとして殺された貴族の女性と侍の男性がいたらしい事を告げた。
「葵には許嫁がいたのか」
「横恋慕」をするには相手が必要だ。そこで裕美は、葵や朧車の女性ではなく、葵の相手に着目し、調べた。
それによると、葵には親同士が決めた許嫁がいた。いいところの家の侍の男性で、所謂政略結婚だったが、葵は満更でもなかった様子だったと、葵達のデートを見掛けた下働きの者達は口を揃えて言う。
「これを伝えれば‥‥たわばっ!?」
「‥‥たわばって、なんだよ‥‥」
葵の屋敷近くまで来たところで、何もないところにも関わらず、頭から地面に突っ込む感じ転け、奇声を上げる裕美。
屋敷の前にはミルコがいる。生憎と彼は目と耳がよく、裕美の転ける様と奇声をバッチリ見聞きされてしまう。
「み、見たな‥‥この事は誰にも、鈴那にも内緒だぞ? 話したら‥‥ある事無い事、鈴那に言うからな」
全力でミルコの前まで駆けてきて詰め寄る裕美。彼は“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”だという。おそらく技量では裕美は敵わないだろう。そこで物理的ではなく、精神的な実力行使で口止めをしたのだった。
これにはミルコも頷くしかなかった。
不知火とミカエルは、葵の話し相手になっていた。
「‥‥という訳で、“炎熱の女帝”のあざなは伊達ではないのよ。アンデッドは綺麗サッパリと火葬してあげるわ! あたしの炎は地獄の業火より激しいわよ」
ミカエルが今まで戦ってきたモンスターの事を話し、自分達が強く、頼りになる事を葵に印象づけ、安心させる。
「逆恨みで殺されかけたんですって? 怖い女も居るわよねん」
「‥‥あんな女、死んで当然ですのよ。泥を塗られたのはあたくしなのに、化けて出るなんて烏滸がましいにも程がありますわ」
そこへ不知火が畳み掛けるように、あくまで朧車に非があるような論調で語り掛ける。すると葵は緊張が緩んだのだろう、朧車に襲われた恐怖から相当溜め込んでいた愚痴を漏らした。
(「‥‥恨まれてる自覚が内心あるって事は、その理由は自分にこそあると言っているようなものだ」)
夕方前には全員が葵の屋敷へ帰ってきて、成果を報せ合った。
「『恋愛は誠実に』これは基本よね〜。それから外れたのなら、しっかりと教え込んであげないとね‥‥」
今回の依頼の裏に秘められた痴情の縺れ。その全体像が浮かび上がると、ミカエルは一層自分の恋愛観を強く抱く。
おそらく、どっちもどっちの状況だったには違いない。しかし、葵は生きており、朧車の女性は死しても尚、彼女を恨み続けている。
悲しみの連鎖を断ち切り、葵にも悔い改めてもらわなければこの依頼を完全に全うしたとはいえないだろう。
「朧車は明らかに貴女を狙ってます。私達だけが街外れに行く訳にいきません。同行をお願いします」
「御身は我等が護ります故。周りには月見に行くと告げれば良いでしょう」
鈴那とヒースクリフが丁寧に申し出ると、「朧車を倒す為なら」と葵も渋々同意する。
「そんなにも眼を吊り上げていると、あなたまで鬼になってしまうわよ」
変装の化粧をしながらレオーネが告げると、葵ははっと彼女の方を振り返る。
「いえ、心にやましさや後悔を持っている者は皆、鬼になる可能性を秘めているわ。たとえ朧車を倒したとしても、『それ』から逃げる事はできないのよ。あなたはここから先ずっと、それを抱えたまま生きていくつもり?」
「‥‥‥‥六条とあたくしは、親友と言っても差し支えありませんでしたわ」
レオーネの青い瞳が彼女を見つめると、先に視線を外したのは葵の方だった。
六条、というのは朧車の女性の名前だ。葵の親友だった彼女もまた、貴族の娘だ。
政略結婚とはいえ、葵は許嫁の事が好きだった。そこで親友の六条にも祝福してもらおうと、許嫁を紹介したところ、事もあろうに六条も許嫁に惚れてしまったのだ。
親友の許嫁である。六条の方が身を引けば問題はなかったのだが、彼女は思いの丈を抑えきれずに、葵に内緒で許嫁と手紙のやり取りを始め、遂には隠れてデートまでする始末。
二人がデートする様を、葵の屋敷の下働きの者が偶然見掛けてしまい、彼女に話すと、当然、葵は親友を問い詰めた。ところが六条は悪びれる事なく許嫁と付き合っている事を明かし、その日のうちに許嫁と駆け落ちしようとした。
葵は浪人を雇い、牛車に乗り、数名の護衛の者を連れて逃げる六条を追撃し‥‥そして今に至る。
「では、まだ弔っては?」
葵は頷く。彼女も親友を相当恨んでいるので、ヒースクリフが調べたように、殺した後、未だに弔ってはいなかった。
「さて、此度の事 主も正すべき事があるようだな」
レオーネの化粧が終わると、浄炎がおもむろに切り出した。
「怨まれたまま、怨んだままというのはあまり良いものではない。その辺りはすっきりさせた方がいいだろうし、お互いの為だと思う」
「だから朧車は俺達が倒そう。そこから先はあんたの心懸け次第だ」
裕美の言葉を受けて、葵を真剣に諭す不知火。葵は頷くのだった。
●女の怨みと秋の空
葵を伴い、街外れで朧車と死霊侍を待ち構えるレオーネ達。
レオーネの斬馬刀、ヒースクリフのロングソード、浄炎の龍叱爪、ミルコのクレイモアはオーラの光に包まれている。また、ヒースクリフは全身にオーラを纏っている。
ミカエルは自分と鈴那にフレイムエリベイションを付与し、臨戦態勢を整えていた。
やがて、朧車と数体の死霊侍がゆらりと姿を現す。
今、葵の傍らにはヒースクリフと浄炎しかいない。数で勝る死霊侍と朧車が、葵目掛けて突っ込んでくる。
死霊侍の足下に矢が突き刺さり、彼は動きを止める。物陰からゼファーが狙ったのだ。
「葵には、指一本触れさせん!」
続けて不知火と裕美が、死霊侍達の前へ躍り出る。
不知火は彼らの鋭い切っ先をかわし、太刀「岩透」で薙ぎ払う。裕美は霊刀「ホムラ」でカウンターを叩き込む。
朧車の突進は、フレイムシールドを構えたヒースクリフと、大海の盾を構えた浄炎の二人掛かりで、葵の手前で止める。
「恨みは分かるけど、このまま現世に居てもツラいだけだよ。もう自由になって!」
疾走の術でより機敏になった鈴那が仏剣「不動明王」で斬り付け、彼女の後からミルコがクレイモアを叩き付ける。絶妙のコンビネーションだ。
間髪入れず、ミカエルがマグナブローを唱え、朧車は足下から炎に包まれた。
「あなたの無念は、想いは察する‥‥でもね、それでも死んだら負けなの、人は生きてこそなのよ。だからこれ以上祟るなら、あなたを‥‥斬る!!」
動きが鈍ったところでレオーネの斬馬刀が振り下ろされ、朧車は一刀両断された。
牛車の正面に浮かんだ、恐ろしい形相の女の鬼の顔は最期、レオーネ達に微笑んだかのように見えた。
朧車と死霊侍を倒した後、葵の案内で六条達の亡骸が放置されている場所へ向かった。
ヒースクリフを始め、全員が両手を合わせ冥福を祈った。
「あの怨霊の姿、醜いとお思いか。だが、此度の一件は貴方の放った怨念がそのまま自身に跳ね返って来ただけの事。即ちあの怨霊の姿は、鏡に映った貴方自身の姿に他なりませぬ」
「そうねぇ、朧車は心の鏡、また出遭うかは‥‥貴女の心次第よね?」
「因果応報‥‥主が襟を正さぬならば、あれは明日の主の姿となろう」
ヒースクリフと不知火、浄炎の言葉に、葵は自分が責任を持って六条達の亡骸を弔う事を約束した。
「これで一件落着だな。しかし、今回は精神的に疲れた」
「京都に着いたら案内するね。どこに行きたいか考えといてね! 私は‥‥途中の温泉とかも寄りたいかも」
「‥‥お、温泉!? 鈴りんと一緒に‥‥」
「温泉、いいわねー。尾張にもいい温泉があるらしいわ。あたしも肌を磨かなくちゃ」
「そこのらぶらぶ馬鹿ップルは一緒に入るでしょうから放っておいて‥‥ふふ、ミカエルさん、裕美さん、背中を流してあげるわね♪」
裕美の一言を皮切りに、鈴那が頬を染めながらミルコと温泉に入りたいと言い出す。尾張には温泉があり、京都への帰路の途中に立ち寄る事も可能だ。どぎまぎするミルコ。葵の一件で自分を心身共により磨きたいと考えるミカエルを、レオーネが妖しく瞳を輝かせて温泉に誘ったとか。