【高耶・七】来たれ、各流派の豪傑達よ!
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ
担当:菊池五郎
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月06日〜11月13日
リプレイ公開日:2006年11月15日
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●オープニング
ジ・アースには多種多様な武器の流派がある。
中でもジャパン人は類を見ない刀剣好きな人種で、『刀』への愛情が独特の刀剣の文化を育み、二天一流、佐々木流、新当流、新陰流、中条流、夢想流、北辰一刀流、示現流、陸奥流、トゥミトゥムといった、数多くの流派を生み出した。
ジ・アース内を見ても、一国でこれだけの流派がひしめき合い、しのぎを削っているのはジャパンくらいだろう。
だが、先に挙げた流派は著名な流派であり、世には広まっていない無銘の流派も数多く存在する。
所謂『我流』と呼ばれる流派だが、その一つが上州の片田舎、馬庭という村に根付いている『念流』だ。
「二年ぶりの馬庭だが、変わっていないのぉ」
目の前に広がる山間の長閑な田園風景を、懐かしむように目を細めて見る一人の女性。
黒曜石を思わせる黒髪は艶やかで、同じく伏し目がちの黒い瞳は上品さを醸し出している。歳は20歳少し過ぎた美女で、志士の出で立ちをし、腰に太刀を差し、手には刃に布を巻き付けた長巻を持っている。
彼女の名前は仁藤高耶(ez1002)、上州出身の志士だ。
志士の修行の中で、京都で食べた豆腐の味に惚れ込み、イギリス人に豆腐を食べさせたいという使命に燃えてイギリスへ渡っていたのだが、かの地で平織虎長暗殺の悲報を聞き、ジャパンへ帰国したのだ。
本来ならキャメロットから江戸へ舞い戻ったら真っ先に京都へ向かうべきなのだが、二年ぶりのジャパンという郷愁の念に駆られ、上州へ寄り道をした次第だ。
「で、どうしてそなたが一緒なのじゃ?」
「だって一度、念流の型を見ておきたかったんだもん」
高耶の傍らには、黒髪をポニーテールのように結った、15、6歳くらいの小柄な少女の姿があった。少女の背中には、通常のものより短い、それでも小柄な少女から見れば不釣り合いな、煌びやかな装飾の野太刀を背負っている。
少女の名前は吉野那雫、若干16歳で佐々木流の奥義・燕返しを身に付け、師匠より銘刀霧咲を賜り、武者修行の為にイギリスへと渡っていた浪人だ。
燕返しを使いこなすくらいだから技量は高いが、発育真っ盛りにも関わらず、身長と胸が全然成長しないのが唯一の悩みの種だ。
那雫の言う念流とは、高耶が修め、馬庭に根付いている流派だ。古流剣術の影響を受け継いでいるが、ジャパン剣術流派の三源流を始め、いずれとも全く異なるのは、殺人の剣ではなく自衛の剣という事だ。
また、他流試合を禁止している為、その名は世の中に知れ渡っておらず、修めている者も少ないので、著名な流派ではない。
念流の構えは『体中剣』と呼ばれ、身体から剣が突き出ているように見えるという。この構えは、泥田の中や足場の悪い場所で戦う時でさえ、身体を動かせるのが特徴だ。
また、この構えから、相手の攻撃を外す事が念流の基本であり、そこから繰り出される反撃を「斬り着る」というらしい。
更には、「米糊(そくい)」といわれる、相手の自由を奪う奥義が存在すると那雫も噂は聞いていたが、高耶が念流を使ったところは見た事がないので、彼女に付いてきてその型を見てみたいと思っているのだ。
「他流試合は禁じてはいるが、型を見せるくらいなら構わんじゃろう。それに拙者も念流の名をもう少し世に広めてもいいと思っておるのじゃ」
「だったらさぁ、各流派を使う冒険者を集めて、腕試しっぽい剣術試合をするのはどうかな?」
那雫は江戸で聞いた先の『上州騒乱』の話を思い出していた。今、上州には新田義貞の謀反に惹かれるように、多くの豪傑達が集まっている。各流派を修める豪傑達を招いて剣術試合を開くのはどうか、というのだ。
「もちろん、腕試しだから勝敗が各流派の優越に繋がる事はないし、型や技の格好良さを競うのも面白いよね。あたしも佐々木流の冒険者が来なければ参加したいなー」
「成る程‥‥腕試しか、面白そうだのぉ。そうじゃ、念流の道場に呪(まじな)いの掛かった棒があったはず。それを優勝商品として贈呈しようぞ」
高耶も乗り気だったりする。
著名な流派を修める豪傑はもちろんの事、我流を修める豪傑達もその名を世に知らしめる良い機会ではないだろうか。
来たれ、各流派の豪傑達よ!
●リプレイ本文
●豪傑、揃い踏み!
上州の片田舎、馬庭。念流の道場が居を構える一帯は、長閑な田園風景が広がっている。
「この先の平井城で、新田義貞と源徳軍が戦をしているとはとても思えんな」
浪人の氷川玲(ea2988)が目の前に広がる風景を見ながら一人ごちる。馬庭から平井城は直線距離で20km程しか離れていない。その平井城は現在、新田義貞と真田昌幸が守り、源徳家康が包囲している最中だ。
「このような田舎、取る物など兵糧くらいしかないからのぉ。とはいえ、ただでくれてやる程裕福でもないがな」
玲達を出迎えた志士の仁藤高耶(ez1002)が当然のように言う。
「道場の方には誰もいないようだが?」
「皆、農作業に出ておる。丁度稲穂の刈り入れ時じゃ。猫の手も借りたいのじゃよ」
バックパックを道場に置いてきた侍の浦部椿(ea2011)が、高耶からお茶を受け取る。まだ午前中で、普通、道場なら稽古をしていてもおかしくないと思ったのだ。
「なるほど、それで自衛の剣、ね。農作業も足腰を鍛える修行の一環、ってところか」
浪人の高町恭也(eb0356)は彼女の言動から、念流がこの地を守っている事を察した。また、念流の構えは満足に動けない泥田の中でも身体を動かせる、優れた構えと聞く。こういった日頃の鍛錬の賜物でもあるのだろう。
感情を顔には出さないが、このような片田舎に念流のような流派が根付いているのだから武術は奥が深い、と改めて思う。
そこへ浪人の吉野那雫が帰ってきた。着物に稲穂を付けているところを見ると、手伝いに駆り出されていたようだ。
「拙者、風魔隠と申すでござる。よろしくでござる。那雫殿‥‥同志!」
――キュピーン☆
忍者の風魔隠(eb4673)と那雫の目が合った瞬間、お互いの瞳が輝き合う。二人は生き別れの姉妹の再会シーンのように、手に手を取り合った。
隠は二の腕や太股を晒した露出度の高い、紫を基調とした忍装束に身を包んでいるが、身長は那雫よりも10cm近く小さく、胸も成長していない。要するにひんぬー同志なのだ!
「まったく、どうしたらあんなになるでござるかな!」
「豊満な体付きとか、胸があるのはみんな敵よ! 天誅を下さなきゃ!!」
「‥‥好き嫌いなんてしてないのにでござる‥‥」
「磨魅・キスリングと申します。よろしくお願いしますわ。名前の通り、ジャパン人の父とフランク人の母との間に生まれたハーフです。ジャパンには、父の実家への挨拶と修行に参りました」
スタイルがよく、胸の大きい椿や高耶、ナイトのマミ・キスリング(ea7468)を一方的に敵視する事で妙に気が合う二人。那雫は実際に、キャメロットで夜な夜な胸の大きい女性を峰打ちで辻斬りしていたという過去を持つ。
マミは綺麗にスルーして、自己紹介を始める。
「お母様がフランク人‥‥マミさんの流派はカールスでしょうか?」
「はい、集団戦闘で使いやすい、直進的な動きが持ち味のカールスを使っています。関連して、重い武器による一撃必殺を主としていますわね‥‥とはいえ、父によって小さい頃から刀を使い稽古していましたので、刀を使う方がしっくり来ますが」
「なるほど。いえ、他意はなく、私はウーゼルを使うのですが、2年前にこの地に渡って以来、帰国せず、鍛錬を続けた技を存分に振るいたいと思いまして」
ナイトのルーラス・エルミナス(ea0282)はマミに近親感を持ったようだ。また、故郷から帰ってきたという高耶に、試合が終わった後、イギリスの出来事やアーサー王の事を聞こうと思っていた。
「お互いの流派を讃え合えるのはいいでござるな。最近、横道な戦い方しかしていなかったでござるからな‥‥」
「そうですね。幼時より命を懸けて磨きしこの剣の冴え、時には何も想う事無く。心行くまで試してみたいです」
ルーラス達の遣り取りを、羨ましそうに遠くを見つめる浪人の久方歳三(ea6381)。
ジャイアントの侍、三笠明信(ea1628)は歳三の言葉に頷くと、審判をする高耶にルールについて確認した。
治療の手間や希少な武具が使われる事を考慮して、バーストアタックとポイントアタックEXの使用禁止と、試合時間は半刻で引き分けという制限時間を設ける追加ルールを提案すると、高耶は快諾した。
また、特殊な装備に関しては、今回の試合はあくまで腕試しなので、「魔法の武具を使って狡い」といった文句が出なければ構わないとの事。尚、マミがオーラシールドを使用したいと申し出ると、オーラシールドは武器作成魔法に含められ、効果時間内は取り外しができず、作り出した腕に何も持つ事ができないというデメリットもあるので、こちらも構わないという返事だった。
●きょにゅー対ひんぬー?
試合場は道場の庭にある、6m四方のロープが張られた簡素なものだった。
「‥‥先程から『すたいる』とか『標的』とか、よく分からない事を言っているが、そんなに羨ましがる事かね」
巫女装束に襷掛けをしながら椿が冷ややかに言う。胸はさらしを巻いて固定してある。
「『大きければ』良いというモノでもないと思うんだがね‥‥肩は凝るし、サラシをきつくし過ぎると息苦しいし‥‥過ぎたるは及ばざるが如しって言うじゃないか」
「‥‥それはきょにゅーの輩の戯れ言でござる!」
きょにゅーにはきょにゅーの悩みがあるのだが、ひんぬーからすれば嫌味にしか聞こえないらしい。
聞く耳を持たない隠に、椿は肩を竦め、示現流の満の型(=トンボの構え)を取る。
「示現流、浦部椿‥‥参る」
「その乳に何が詰まってるでござるか!!」
一足一刀の間合いから一気呵成に打ち込むのが示現流の基本だが。
一之太刀は剣風――ソードボンバー――を、鬼のような形相で向かってくる隠に叩き込む。彼女は剣風をクルクルと大げさに回避しながら間合いを詰め、椿の喉元に鉄笛を突きつけようとするが、これは軌道を見切られており、九字兼定で弾かれる。
「師からはよく外道と叱られるがね‥‥」
間合いを取り直して、再びトンボの構えから剣風を放つ椿。しかし、これもかわされてしまう。それどころか、隠は椿の脳天をかち割る勢いで、上段から鉄笛を両手持ちで叩き付けてくる。かなり本気だ。
「弐之太刀要らず、が当流の真骨頂なれば‥‥いざ我が『意地』、ご覧に入れよう」
「ちぇすとぉぉぉぉぉ!」と裂帛の気合いと共に、椿は示現流本来の重い一撃を繰り出す。示現流は攻めの太刀であり、受けの太刀ではない。今度こそ、小手先の変化は不要とばかりに真っ直ぐに打ち込む。
方や陸奥流は、暗殺術の性質を持ち、相手を無力化する技に秀でている。真っ向からぶつかるべきではないのだが、今の隠は椿というきょにゅーを真っ向からねじ伏せる必要があった。
「それまで! 勝者、浦部椿殿!!」
一之太刀を鉄笛で受け損ねた隠の負けだった。
●小太刀二刀流対陸奥流
「相手は二天一流の高町さんでござるか。手強い相手には変わらないでござる」
「俺の相手は久‥‥もとい歳ちゃんか。よろしく頼む‥‥」
護身羽織を羽織り、必勝鉢巻を締め、無手で臨む歳三。対峙する恭也は黒地の地味な旅装束に、小太刀を二本、腰に差している。
恭也は二天一流を修めているが、太刀と脇差という組み合わせではなく、小太刀を二本を使用するのを好んでおり、本人は“小太刀二刀流”と呼んでいる。
「では‥‥小太刀二刀流、高町恭也‥‥参るっ!」
「陸奥流、久方歳三、お相手仕(つかまつ)る!」
間合いを詰める恭也と、間合いを取り彼の出方を見る歳三。
先手が取れると踏んだ恭也は一気に間合いへ踏み込む!
「先手必勝っ! 三・連・撃! ‥‥って、三発目は頭突きだな‥‥」
逆手に構えた小太刀の左右からの斬撃に加え、頭突きを繰り出す恭也。
初太刀をサイドステップでかわし、切っ先の鈍った二の太刀は上半身をそらして回避。
「いかような状況でも、例え無手でも戦える、それが陸奥の業でござる」
頭突きは、恭也のその勢いを利用したカウンターで正拳突きを叩き込む。
「反撃狙いか‥‥ならば、反撃できないよう攻め立てるまで!」
小太刀の間合いは狭い為、歳三から付かず離れずの間合いを保ち、二連撃を繰り出していく恭也。
初太刀の切っ先の鋭さは変わらず、サイドステップを併用しつつ、二太刀目に合わせて投げを決める。
「それまで! 勝者、久方歳三殿!!」
投げが決まり、危険だと判断した高耶が歳三の勝利を宣言する。
「紙一重の勝負でござった」
「また機会があったらよろしく頼む‥‥」
恭也に手を貸し、がっちりと握手を交わす歳三だった。
●陸奥流対カールス流
「さて、俺の相手はマミになるな。よろしく頼む」
「磨魅・キスリング、参ります!」
背中の中心に“悪”一文字の刺繍を紅の糸で施してあるブラック・ローブを羽織り、庖丁正宗とパリーイングダガーを構える玲。対するマミは、煌びやかな意匠を施したドウマルアーマーを纏い、肩に豪華なマントを付けている。
一礼してから長曽弥虎徹を抜き、凛とした気合いでオーラシールドを左腕に発動させる。
(「海外の流派は知らんが‥‥ルーラスとの話だと、一撃の重さと、鍔競り合いにが強いようだし注意すべきか」)
(「氷川殿の技量の方が上のように感じられますし、身のこなしも速いと思われます」)
高耶の試合開始の合図からしばしの間、玲もマミも相手の出方を窺い、摺り足で相手の間合いギリギリの位置を保ち、睨み合いが続く。
玲は時折間合いを越えて足を踏み出し重圧を与えてゆくが、マミはものともしない。彼女も玲の出方を窺っているのか、それとも肝が据わっているのか‥‥摺り足と呼吸音だけが聞こえる、重々しい時間が数分流れる。
「!?」
しかし、そこは経験の差か。円を描くように摺り足をしていた玲は、いつの間にかマミを無言のまま試合場の角へ追い込んでいた。後がないマミは攻撃を仕掛けるしかない。
「はぁぁぁっ!!」
どこか可愛い掛け声と共に、長曽弥虎徹を振りかぶる。刀の重さを乗せた一撃はカールス流の名に相応しい、立ち塞がる者を撃破する破壊力を有している。
玲はパリーイングダガーの刃に滑らせ、マミの一撃の勢いを上手く殺すと、そのまま彼女の懐へ潜り込む。
庖丁正宗での上段攻撃は、オーラシールドによって阻まれる。
「はぁっ!」
「おっと! この距離でカウンター打つか!?」
続く二太刀目に合わせて、マミは長曽弥虎徹の柄でカウンターを放ってきた。コンパクトないい攻撃だ。流石の玲も意表を衝かれたが、辛うじてかわす。
密着していては長曽弥虎徹の長さが仇になる。マミは何とか間合いを取りたかったが、玲がそれを許さない。
彼女は密着していても出せる突きに変え、玲に手傷を負わせる。
玲の上段への攻撃はオーラシールドで凌ぐが、マミの神経がそちらへ集中した頃合を見計らい、足の甲を踏み抜いた。
軸足に力が入らなくなり、蹲るマミ。
「それまで! 勝者、氷川玲殿!!」
「いい試合だった、怪我させてすまない」
「いえ、ありがとうございました」
肩を貸してマミを立ち上がらせる玲。マミは彼へ一礼した。
●ウーゼル流対二天一流
「このような舞台で、戦えるとはとても光栄です」
「胸を借りるつもりで悔いのないよう、全力でぶつかっていきます」
ネイルアーマーの上にブレイブ・サーコートを身に着け、ロングスピアとライトシールドを構えるルーラス。方や明信は、皮鎧の上に白鳥羽織を羽織り、太刀「造天国」と小太刀「新藤五国光」を携えている。
対角線上で相対する二人は、まさに騎士と侍である。
高耶が試合開始を告げる。
明信は自分のペースに持っていく為、半身になり、新藤五国光をルーラスに向け、造天国を尻尾のように構える。
「『蒼き戦撃』、行きます!!」
だが、対角線上で且つ明信が間合いを詰めなければ、チャージングの助走距離は十分だ。ルーラスは初撃からロングスピアを脇に抱えて突撃し、速度に重さを乗せた一撃を繰り出す。
明信は不意を衝かれるが、造天国の峰でロングスピアの切っ先を反らし、やり過ごす。
ルーラスを中心に、緩急の差を付けてゆらゆらと移動しながら、造天国を振るう。牽制と分かっていても、ライトシールドで受け流すルーラス。新藤五国光が来るかと思いきや、こちらは振るってこない。
蒼き戦撃の一撃が効いており、明信はなかなかペースを掴めない。
一方、ルーラスは機敏さとリーチを活かして、造天国の間合いの外からロングスピアで突き、反撃を許さない。
(「ルーラルさんに間合いと素速さで分がある以上、受け身になっていては勝てませんね」)
どんな手段をも惜しまず勝つのが二天一流の基本である。
ペースを完全にルーラスが持っていっている以上、多少強引に仕掛けなければならない。
ロングスピアの突きで多少の負傷は覚悟の上で、明信は間合いを詰める。案の定、牽制の突きが繰り出されると、新藤五国光で切っ先を反らして払い、全身を回転させるように造天国から新藤五国光と踏み込みつつ二連撃を繰り出し、また離れようとする。
だが、ルーラスもそれを待っていたのだ。
太刀はライトシールドで受け、小太刀をロングスピアで反らすと、返す切っ先で近距離から突き刺す。
「それまで! 勝者、ルーラス・エルミナス殿!!」
「いい試合でした」
「紙一重の勝負でしたよ」
その後、勝者同士で戦い、優勝したのはルーラスだった。
呪(まじな)いの掛かった棒(ロッド)は、隠戦で彼女を諭し、魅せる試合をした椿へ贈られた。また、男性陣には冬に備えて綿入り半纏が、女性陣には紅小鉢が、参加賞として贈られた。
●念流と演舞
「ふぅ‥‥たまにはこういうものもいいものだな‥‥武道大会とはまた違った楽しみがある‥‥」
恭也は、高耶が那雫相手に披露する念流の型を見ながら一服していた。
カエルが跳びかかるような姿勢で剣を立てて構えた『体中剣』から、那雫の攻撃を回避し続け、その刃が自分に触れるギリギリのところで反撃に出る『斬り割る』。
そして、トリモチのように刀を受けた後、那雫の自由を奪う奥義『米糊(そくい)』など、念流は自衛の剣だけに防衛技が多い。
返礼として、歳三が硬い岩を駄なるものとし、「だがしかし」の精神で素手で粉砕、研削する義侠塾限定奥義『駄岩(だがん)』を披露したり、ルーラスが聖者の槍でウーゼル流の演舞を見せた。
「拙者がエゲレスを立つ時は達者じゃったよ。エゲレスはしばらくは平和じゃったが、ここ最近になって焦臭い雰囲気が立ちこめ始めたのぉ」
「そうですか‥‥陛下がご安泰でしたら先ずは一安心です」
演舞が終わった後、休憩がてら高耶から気になっていたイギリスの情勢を聞き、安堵の息を漏らすルーラスだった。
尚、椿やマミに敵愾心を燃やしていた隠は、那雫と一緒になって彼女達から普段何を食べているかとか、鍛錬方法を聞いたらしい。