妖刀・抱腹絶刀を届けよう
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■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月07日〜07月12日
リプレイ公開日:2004年07月16日
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●オープニング
イギリス王国の首都キャメロット。
その南東部に広がる冒険者街の一角に、冒険者ギルドがある。
「急ぎの仕事があるんだけど受けないかい? 配達なんだけど」
その日、あなたが冒険者ギルドを訪れると、ギルドの受付の者がそう声を掛けてきた。
配達も立派な冒険者の仕事だ。
但し、冒険者ギルドに配達を頼む場合、急ぎか、危険な物のどちらかというのが相場である。
「こいつをキャメロット郊外に住んでいる、貴族の屋敷まで届けて欲しいんだ」
受付の者があなたに見せたのは、布に包まれた棒状の物だった。
それは真っ直ぐではなく、緩やかな曲線を描いていた。
また端から20cmくらいの所に飾りがあった。
――刀である。
よく見れば、布にお札が貼られていた。
どうやら後者――危険な物――のようだ。
「こいつは『抱腹絶刀』っていう名前の刀でな。この刀一本で軍隊を全滅させたらしいっていう、曰く付きの妖刀なんだ。貴族の中にはこういった名刀や妖刀を集めている好事家が多くてな、届け先の貴族もその一人なんだ」
なお、依頼人は貴族の使者だった。
「こいつを無事に貴族の元へ届けるのが今回の依頼だ。最近は街道に盗賊団が出没してな。そいつらはペリグリンやホークを手足のように使って盗みを働くらしいんだ。封印が解ける分には構わないが、くれぐれも盗まれないでくれよ」
ジャパンへ渡り、この抱腹絶刀をキャメロットまで運んできた依頼人は、その道中で盗賊等に襲われ、静養中だという。だからこそ冒険者に依頼したのだ。
ところで、封印が解ける分には構わないって――これ、曰く付きの妖刀じゃないの?
「最近、あの貴族が高価な刀を買ったそうだぜ。是非、俺達、『黄昏の盗賊団』がありがたく戴くとしようぜ」
その貴族が抱腹絶刀を買った噂は、きっちり黄昏の盗賊団と名乗る盗賊達の耳にも入っていた‥‥。
●リプレイ本文
●気になる効果
天那岐蒼司(ea0763)達の目の前にその刀、『妖刀・抱腹絶刀』が置かれてあった。
「‥‥確かに禍々しい“氣”は感じるが、封印するほど危険なものなのかね?」
「ジャパンの武器の‥‥その中でも一際何かが光る妖刀ですか‥‥名前で効果を想像するだに、どれだけの笑いの渦を‥‥いえ、犠牲者を出してきたのでしょうか」
カシス・クライド(ea0601)は抱腹絶刀を手に取ると、見回しながら淡々と告げた。
いずれ骨董屋を継ぐ身であるカシスは、銘のある品には目がないようだ。
「まぁ、持ち主や回りの奴らを祟るから妖刀なんだろうが、こいつを抜いた時にどうなるか、正直興味はあるな」
「ダメです、絶対に抜いてはダメです! 災いを呼ぶから妖刀の名を冠しているのでしょう!?」
愉しそうに抱腹絶刀を眺める陸奥勇人(ea3329)に、女の勘が嫌な予感をかき鳴らす大隈えれーな(ea2929)が猛注意した。
「えれりんは心配性だね。満腹絶刀ってなんか美味しそうな感じだけど?」
「美味しそうか‥‥抜いたら笑い転げて死ぬとかいうのよりはいいわね」
大食らいのカファール・ナイトレイド(ea0509)らしい可愛い勘違いに、御山閃夏(ea3098)は微苦笑を浮かべた。
「手に持ったら倒れるまで踊り続け、近づく者全てに攻撃するというファン(扇)や、同様に近づく者全てを蹴り倒すというシューズ(靴)と同類じゃないでしょうね?」
「‥‥どちらにせよ、希代の名品には違いないでしょう‥‥それに妖刀といっても、要は使う者次第です‥‥」
「そうね。妖刀が不心得者の手に渡って、何人もの人が死んだという話をいくつも聞いた事があるの。今回はそんな事を起こさせてはいけないと思うよ」
アルカード・ガイスト(ea1135)は真偽は定かではないが、昔読んだ書物に書かれていた呪われたアイテムを幾つか挙げた。
無表情の中に瞳を輝かせていたようにも見えなくもないカシスは、満足したのか、抱腹絶刀をテーブルの上に戻した。その仕草を見ていた閃夏は、ジャパンの妖刀にまつわる話を思い出し、確実に依頼主に届けようと告げた。
「えっとぉ、そろそろ出発しませんかぁ? 道中では隼や鷹を使う盗賊団が現れるんですよねぇ? 確か、『黄昏の盗賊団』とかいう人達だと聞いた事がありますけどぉ」
「しかし、鷹狩りどころか、こっちじゃ盗みに使う連中がいるとはな」
エリンティア・フューゲル(ea3868)が依頼を受けた際にギルドの者に注意された事を思い出すと、勇人が興味半分、呆れ半分といった口調で既にまとめてある荷物を持った。
「それとぉ、黄昏というのは夕方や朝方の事ですしぃ、奇襲は“夜討ち朝駆け”と昔からいいますからぁ、夜だけでなく朝方にも注意した方がいいですよぉ」
エリンティアは黄昏の意味を思い出しながら、蒼司達に自分の考えを伝えた。
●道中の思わぬ疲労と一時の休息
「木を隠すなら森の中ってな。後は‥‥エリンティア、頼む」
勇人と閃夏、アルカードの提案で、抱腹絶刀の囮として、近い長さと大きさの鉄棒が入った箱が用意された。この囮の箱はカシスが運ぶ事になり、さも重要そうに護衛として閃夏とアルカードが同行した。
本物の抱腹絶刀はエリンティアが背中に紐で括り、くるぶしまで隠れる長さのローブを来て隠し持った。エリンティアには勇人が同行し、その後ろには着かず離れずの距離を保ちながらえれーなが、さり気なく周りに注意を払っていた。
演技が苦手な蒼司はエリンティアを見失わない程度に離れて歩いていた。
「盗賊って多分、道を見通せる所にいると思うの。だって林の中だと、いつ近くを“カモ”が通るか解らないから、ごはんの時とかお昼寝の時に通り過ぎちゃうかもしれないもん」
カファールは、『自分が盗賊の立場だったらどう獲物を見付けるか』を考え、シフールの身軽さで先行し、街道を通る人を監視しているような者や鳥の姿を探した。
空は雲一つない快晴で初夏の陽射しが照りつけるも、街道には心地好い風が吹き抜けて、最高の旅行日和だった。
「隼の鳴き声? ‥‥盗賊団の飼い隼か!? ‥‥違うようだな」
耳のいい蒼司は鳥の鳴き声を聞く度に周囲を警戒するが、今のところ気苦労で済んでいた。
勇人やカシス、閃夏やエリンティアも、いい目や耳が災いし、鳥の鳴き声を聞く度に、カシスやエリンティアに近付く者が現れる度に、警戒心を強めた。
日が暮れて、カファールが合流する頃には、少々疲れが出始めていた。
林の手前で早めに野営する事にし、勇人が少しでも周囲の見通しをよくしようと、街道の両端ののび放題の雑草群を切り開いた。
カシスとえれーなが用意した夕食で腹を満たすと、焚き火を囲んで雑談が始まった。
「改めて初めましてぇ、エリンティア・フューゲルといいますぅ。エリンと呼んで下さいねぇ」
「あ、私は御山閃夏。ジャパン生まれの浪人よ。閃夏でいいからね」
細目でニコニコしながらエリンティアが自己紹介したのを皮切りに、閃夏が続いた。
「えれりんとカシりんの料理は、とっても美味しかったよ♪」
「昔から家事が好きで、女中‥‥こちらではメイド、でしたね。メイドさん志望なんです」
「うむ、えれーなは良い女中になれるぞ」
「私も‥‥です。そういわれると‥‥嬉しいです」
人一倍夕食を食べたカファールが料理を誉めると、えれーなは自分の夢を語った。料理の味に満足した勇人は力強く頷き、カシスはほんのわずかだが顔が綻んだかのように見えたかもしれない。
「そういえば最近‥‥とある筋から脳天に何かが直撃する勢いで、『モコポン』という名前が思い付くのです‥‥」
「それは天啓、ですね。私が冒険者になったのも、ある意味、天啓かもしれませんね‥‥」
突然話題を振られたアルカードは、その内容から自分が冒険者になった経緯を思い出していた。
アルカードは自分の属性が火だった事から、そのままウィザードになったが‥‥アルカードの住んでいたエルフの村では、火の属性への嫌悪が激しく、村を出て冒険者として生きていく以外、道はなかった‥‥。
「やれやれ‥‥静かでいい夜なんだが‥‥ね」
蒼司は聞き手に回っていた。
この後、蒼司とえれーなが徹夜で見張りに立ち、アルカード達は就寝した。
●本当は気のいい奴ら‥‥なのかも?
「あの人達って怖いんだよ。おいら、お腹空いてるからご飯分けてもらおうとしただけなのに‥‥『触るな!』って怒るんだよ。あの箱、よっぽど大事なのかなぁ?」
翌朝、カファールは噂の黄昏の盗賊団と接触し、一緒に朝食を採っていた。
カファールが先に黄昏の盗賊団を見付けたまではよかったのだが、逆に鷹に見付かってしまい、攻撃されそうになったのだ。
彼らのポリシーは“子供には手を挙げない”だった。そこで食べ物をねだったところ、快く分けてくれたのだ。
黄昏の盗賊団は林を抜けた所で待ち伏せしていた。この林を抜けなければ貴族の屋敷に行けないからだ。
林を抜けた途端、箱を持つカシス目掛けて2羽の隼が飛来してきた。だが、閃夏の目は充分にそれを捉え、日本刀で斬り落とした。もう1羽はアルカードがファイヤーボムで撃ち落とした。
カファールから事前に待ち伏せの事を聞いていたからだ。むしろ奇襲があっさりと見破られ、黄昏の盗賊団の方が面食らっていた。
「運が悪かったと諦めなさい。好事家ならいざ知らず、こんなカースアイテムモドキに手を出そうなんて正気ですか?」
「この刀って封印解いたら、周りにいる人みんな笑い死にするんだ‥‥そんなの盗んでも仕方ないでしょ? 退いてくれないかな‥‥」
アルカードと閃夏は退くように説得するが、「その好事家により高く売り付けられる」というのが彼らの答えだった。盗品の転売はお約束である。
『あのぉ、すみませんけどぉ‥‥背中が煤けて‥‥いえ、隙だらけですよぉ』
「残念でした、こっちです!」
ブレスセンサーで林の中に潜んでいる盗賊を見付けると、エリンティアはヴェントリラキュイで背後に声を飛ばした。盗賊が驚いて振り向いた所へ、疾風の術で間合いを詰めたえれーなが逆手に構えた忍者刀から峰打ち――スタンアタック――をお見舞いした。
「伏兵か‥‥意外と機転の利く奴らだな。もっとも、招かざる客だし、さっさと引き取ってもらおうか!」
「お互い仕事だろ。戦場で背中見せるからさ‥‥恨みっこ無しだぜ?」
林という閉鎖空間が勇人と蒼司、えれーなには地の利となった。勇人は当て身――スタンアタック――を喰らわせ、蒼司は龍飛翔を放って、林の中に潜んでいた盗賊達を倒した。
リーダーらしきファイターと鷹は意外にも強く、カシス達はいい勝負をしていた。
カシスの死角から繰り出すジャブとストレートのコンビネーションはかわされてカウンターを叩き込まれ、怯まずダーツを投げて相手がかわした所へお返しとばかりに裏拳を叩き込む、攻防一体の戦いが続いた。
また、鷹はファイアーボムの一撃では怯まず、閃夏も二刀を抜いて応戦していた。
「あんたが頭なら、仲間の為にお引き取り願えないか?」
そこへ勇人と蒼司、えれーなとエリンティアがロープで縛り、ご丁寧に猿轡をした盗賊達を連れてきた。
リーダーは仲間の解放を条件に潔く退いた。
こうして妖刀・抱腹絶刀は無事、貴族の元へ届けられた。
「‥‥結局、封印する程危険なモノなんですか?」
蒼司が抱腹絶刀を渡す際に貴族に訊ねると、この刀は抜いた者から直径100mの範囲内を爆笑の渦に巻き込む謂われがある、と説明した。
戦いの最中に爆笑したらまともに戦う事ができず、それで軍隊を全滅させたらしいという曰くがついているのだ。
もちろん、真相は不明で効果はないかも知れないが、名刀や妖刀、魔剣や魔槍の類を収集しているこの貴族からすれば、“集める事”に意味があるそうだ。
もしかしたらまた、依頼があるかもしれなかった。