【乱の影】武田信玄の上洛を阻止せよ!
|
■ショートシナリオ
担当:菊池五郎
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 95 C
参加人数:14人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月27日〜12月04日
リプレイ公開日:2006年12月05日
|
●オープニング
甲信の武田信玄、挙兵す!
齢三十にして“甲斐の虎”と称される信玄が、千五百の兵を率いて甲府を立ち、諏訪から南下して三河へと入った。
その道筋から目的地は明らかに京都――『上洛』である。
今回の信玄の上洛は、長く続く京都の政情不安を見かねた比叡山延暦寺の要請によるものだ。
信玄とは法名であるように、彼は信仰心の篤い。そして源氏の名門である武田氏ならば、摂政源徳家康の下で京都を守るに相応しく、延暦寺が信玄を頼りにするのも自然といえよう。
「信玄が京都に着けば京都守護職への就任は確実です。それだけは何としても阻止しなければなりません!」
――尾張、清洲城。尾張の中心に位置する、尾張平織家の本拠地である。
信玄上洛の報は尾張平織家にも即座に伝わり、家臣を集めて清洲城にて軍議が開かれていた。
信玄の上洛を阻止し、武田軍との徹底抗戦を切り出したのは、平織虎長の妹、お市の方だ。
「その為には、先ず私が尾張の藩主となって尾張平織家をまとめ、兄上の忘れ形見である信忠が、兄上の後を継いで京都守護職に就かなければならないな」
お市の方にそう返すのは虎長の弟、平織信行だ。
尾張藩藩主の座は、実質、尾張平織家当主の座と同意である。
信行は京都守護職として何かと尾張を空ける虎長を補佐し、その代わりに尾張を治めていた実績があった。加えて平織信忠は虎長の息子、京都守護職を継ぐ資格は十分にあるといえる。
同席している平織家重臣の林秀貞や柴田勝家は、この信行の意見に大いに喜び、賛成の意を表す。
「そんな悠長な事をしていたら、信玄は上洛してしまいます!!」
しかし、お市の方は信行や勝家達重臣を一喝する。
「第一、尾張藩藩主と京都守護職は御兄様のものであり、暗殺という不当な手段によって奪われる事はありません。ですので、信行お兄様や信忠が継ぐ必要はありませんし、それ以前に、信玄の上洛が迫っているこの時にそのような戯れ言を切り出す時点でその器もありません!!」
あくまで虎長が尾張藩藩主であり、京都守護職であると一蹴するお市の方。
この考えはあながち間違ってはいない。虎長が暗殺された事により、京都守護職は空位となっているが、信玄が上洛するまでは、京都守護職は前任の虎長なのだ。一時だけ就任した五条の宮は頭数にも入っていない。
摂政の座こそ源氏に奪われたものの、京都守護職と志士の頭領の座は未だ平氏――平織家――のものである。
虎長暗殺の首謀者は、家康が組織した新撰組の一番隊組長・沖田総司といわれている。ところが、その新撰組は、この件を有耶無耶にしたまま、守護職を暗殺した京都の治安を守っているのだ!
そして今度は、信玄の上洛を容認し、直轄領である三河を通している。
物的証拠こそ無いものの、これだけ状況証拠は揃っている。
平織家からすれば虎長を暗殺する事で誰が一番得をするのか? 家康――源氏――である。
これ以上、源氏の好き勝手にさせる訳にはいかない。
虎長を喪っただけで、尾張平織家はこんなにも脆く内部から崩壊してゆくのか?
お市の方は改めて、兄の力の偉大さに気付くと共に、益々敬愛する。
彼女は兄や甥を見限ると、軍議の場を、清洲城を早々に後にし、虎長が残してくれた那古野城へ入った。
ここを拠点として、虎長直属の馬廻衆や自分に賛同してくれた森蘭丸と、信玄に徹底抗戦の構えを見せたのだ。
「戦は数でするものではない。数で劣っていても、勝つ方法はいくらでもある」
とはいえ、お市の方の持つ那古野城一つでは、用意できる兵はせいぜい五百人。信行や信忠が那古野城を攻めてこないとも限らないので、守りの兵を考えるとこれ以上動員する訳にはいかない。
武田軍千五百に対し、尾張軍五百。戦力差は三倍である。
そこでお市の方が頼ったのは、義姉・濃姫の父、“美濃の蝮”こと斎藤道三だった。
道三は美濃軍こそ動かさなかったが、軍師として尾張軍の指揮を執る事を約束した。
「千五百もの兵を休ませるのだから、相応の場所が必要じゃ。それに信玄も尾張の領内は一気に抜けたいじゃろうて」
道三は先の『五条の乱』の事を言っているのだろう。
三河軍が何の前触れもなく、尾張の領内を突っ切り、京都へ援軍を送ったのだ。
もちろん、尾張平織家も神皇より救援要請を受ければ、援軍を送っていた。連絡の一つも寄こさないのは、明らかに侵攻だが、あろう事か源徳側と五条の乱で戦った者達は「尾張が邪魔をしなければ、もっと援軍は送れたはず」と曰う始末。
信玄もそれを警戒して、尾張領は一気に抜けるはずだと道三は踏んでいた。
「とすると、信玄が三河で休憩を取るのはここ、『桶狭間』じゃろう」
道三は桶狭間にて武田軍を奇襲すると提案した。
道三率いる約四百名の尾張軍が、武田軍と真っ向からぶつかり囮となる。その間、お市の方率いる約百名の尾張軍が信玄のいる本陣を奇襲する、という策だ。
本陣さえ落としてしまえば、いくら兵がいようと後は烏合の衆、というのが道三の目論見である。
お市の方は道三の策で武田軍の上洛を阻止する事を決め、冒険者ギルドに依頼を出したのだった。
●リプレイ本文
●“美濃の蝮”斎藤道三
尾張は那古野城。
天守閣に戴く二対の金の鯱(しゃちほこ)は、かつて平織虎長が、妻・濃姫へ贈った物だ。
日の光に照らされて燦々と輝く鯱が見下ろす城は今、出陣の準備のただ中にあった。
その陣頭指揮を執っているのが、総大将のお市の方と“美濃の蝮”こと斎藤道三だ。
「え!? 軍馬、余ってないんか!?」
浪人の飛火野裕馬(eb4891)は、道三に軍馬が余っていれば借りようとしたが、あっさり断られてしまった。
「お市の方の雇うた冒険者は、必要があれば借りれる、って聞いたけど、つぅ事は一応、人数分用意はあり、使わん人がおれば余るって事やな?」
「お市の方の武将から、騎馬兵を貸して欲しいと言われておってのぉ。軍馬はそちらに回しているから、飛火野まで回ってくる事はない」
尚も食い下がる裕馬に、道三はそう説明した。
お市の方が持つ尾張平織兵に、騎馬兵はそう多くない。その多くない騎馬兵の軍馬を武将に貸しているのだから、武将が使わなければ本来使用する騎馬兵に戻るのが当然だ。加えて、武将が騎馬兵を使いたいといえば、むしろ軍馬は足りないくらいで、裕馬まで回ってくる事はない。
尚、今回、お市の方に雇われた冒険者達は、彼女直属の武将として扱われている。
「一応、お市の方さんや道三さんに、部隊の行動を報せたいから軍馬を借りたかったんやけどな」
「ごめんなさいね」
「いや、ええってええって。やっぱ、別嬪さんの依頼は断れへんからな〜」
ちょっと拗ねてみると、お市の方が申し訳なさそうに謝ってくる。
虎長は生前、「市は日本一の美人だ」と自慢していたという。兄馬鹿だが、その言葉通り、お市の方は絶世の美女だ。その彼女に謝られるのだから、裕馬も悪い気はしない。
それに軽口を叩いてはいるが、こうしている今も、京都は五条の宮を擁した長州藩が攻め入っている。そこへ上洛を目指す武田信玄という更なる火種を放り込んだらどうなるか‥‥想像に難くない。
ジャパンは平織・源徳・藤豊の三勢力の危うい均衡の下に成り立っていた。だが、虎長が暗殺された事により、その均衡が確実に崩れ始めたのだ。
これ以上京都が戦場になり、弱い者達が犠牲にならないよう、口調とは裏腹に本気だった。道三もお市の方も、裕馬が本気なのを知っているから、理由をきちんと説明し、謝っている。
「代わりにお市の方さんの娘さんとか、紹介してもらえへん?」
「‥‥‥‥私、まだ未婚なんですけど!?」
虎長とお市の方は歳が二回りも離れており、実は裕馬より年下だったりする。お市の方は虎長への重度のブラコンで知られており、生き遅れているのだが‥‥裕馬はどうやら禁句を言ってしまったようだ。彼女は踵を返してすたすたと足早に去っていってしまった。
「喧嘩相手は“甲斐の虎”武田か。いいねぇ、喧嘩相手は大きい方が面白ぇ」
「それに相手はこちらの三倍。戦う相手として不足なし! 精一杯暴れてやろう。腕が鳴るぜ!」
「まったくだ‥‥命を的にどこまで傾けるか。道々の者心意気、見せてやるとしよう」
道三の下に集まったのはハーフエルフの神聖騎士、ラファエル・クリストファー(eb8618)やハーフエルフのナイト、ブラッド・クリス(eb7464)といった男性ばかり。少しやる気が失せた浪人の四十万刀七郎(eb9353)は、お市の方の下へ寄って行ったのだが‥‥。
そこにはジャイアントの浪人、東郷武蔵(eb7590)や忍者の尾上彬(eb8664)がおり、意気投合するものの、やはり刀七郎の周りには男性ばかりが集まる。
「‥‥3倍の戦力差は。死ねる気が‥‥、しますが」
彼らとは裏腹に、ハーフエルフの神聖騎士、ジョゼッフォ・ロンディネ(eb9070)は至って冷静に自分達の置かれた状況を分析する。常識で考えれば、五百人対千五百人は籠城でもしなければ勝てない戦力差だ。
すると、彬が掌に『火』と書いて道三に示す。すると道三は満足げに頷いた。どうやら考えている策は同じようだ。
「“美濃の蝮”、“甲斐の虎”‥‥と言うそうですが‥‥マムシの毒で、虎は倒れるのでしょうか」
「面白い事を言うのぉ。所望通り、蝮の毒で虎を追い払ってみせようか」
「僕も! 頑張るから! 京都にシュマリありって、言われるようになるまで!!」
ジョゼッフォの心配を払拭するかのように道三が高笑いすると、カムイラメトクのシュマリ(eb7418)が彼の前で大きくガッツポーズをして見せた。だが、侍の榊原康貴(eb3917)は彼の足が震えているのを見逃さなかった。
「武勲を挙げられるに越した事はないが、先ずは生き残らねば意味がない。どんなに頑張ろうと、己の力量以上の事は出来ぬぞ」
「でも、頑張らんと、故郷(くに)のお姉ちゃんに笑われてまうから‥‥」
シュマリは京都で名を上げて、カムイラメトクの肩身を広くしたいと思っている。
着物の袖に手を入れて腕を組んでいた康貴は、手を出してシュマリの黒い髪をわしゃわしゃと撫でる。
「ならば尚の事、シュマリ殿は生き残らねばならん。急いては事を仕損じる、という諺もある。目標があるのなら、それを目指して先ずは着実な一歩からこつこつと積み重ねていく事が大切だ」
「負傷したらいつでも俺に言ってくれ。元々格闘する事しか能がねぇが、その分、ポーションはたくさん持ってきたからな」
康貴とシュマリは親と子程の歳が離れている。康貴からすれば、シュマリが生き急いでいるように見えたのかもしれない。父親のように諭す。
そこへジャイアントの武道家、孫策伯符(eb9221)がリカバーポーションを大量に持って現れた。その数、実に三十三個! それでも動きが損なわれないのは、流石はジャイアントだろう。
「お市の方は高嶺の花だし、手ぇ出したら虎長に化けて出られちまうしなぁ。こう美人のねーちゃんでもいねぇもんかねぇ‥‥お! よく見りゃぁりゃあいねぇ事もねぇか」
刀七郎の目に飛び込んできたのは、侍の雷真水(eb9215)だった。彼女の着物は半ば着崩したかのように襟が大胆に開き、肩から豊満な胸元まで惜しげもなく晒している。その隣には志士の彼岸ひずみ(eb5483)もいるが、彼の瞳は黒部渓谷のように険しく深い真水の胸の谷間に吸い込まれ、ひずみは眼中になかった。
「なぁなぁ、酌でもしてくれねぇか?」
「この戦はあたしの初陣なんだ。運良く生き延びる事が出来たら‥‥晩酌の相手を考えてやるよ」
馴れ馴れしく肩に回す刀七郎の手を軽やかにかわすと、ウインクしながらそう告げた。
「死者の、名‥‥を、借り、てまで、地位‥‥に、固執す‥‥るの、は、何故で、しょう‥‥ね‥‥? 理解‥‥に、苦しみ、ます、が‥‥まぁ‥‥依頼を、受けた身‥‥で、す‥‥精々、派手、に、目立ちま‥‥しょう‥‥」
『いや、少なくとも、お市の方は地位に固執してはいないだろう。単に愛する者の想いを守りたい、と決起したのだと、俺は思う』
ひずみの言葉にそう応えたのは、ハーフエルフのナイト、キリル・ドラコノフ(eb6738)だ。彼はジャパンに来たばかりなのでジャパン語が話せず、ハーフエルフの神聖騎士、ブリード・クロス(eb7358)や裕馬といった、ゲルマン語が話せる者に通訳を頼んでいた。
助かったのは、道三もお市の方もゲルマン語が話せるという事だ。お陰で作戦の概要をいちいちブリード達に聞き直す必要がない。虎長は「市が男だったなら、良き武将となったであろう」とも言っていたが、決して甘やかしてはいないようだ。
また、キリルは追放された元ロシアの貴族だ。だからこそ、お市の方は「虎長のもの」を守りたいだけのように感じられた。話を聞く限りでは、平織家の地位にこだわっているのは、むしろ平織信行や平織信忠の方だろう。
身一つでジャパンへ来たキリルに失うものは何もないが、お市の方はまだ手の中から零れ出てゆくものを必死になって足掻いて零れないようにしているところだ。彼はそれを少しでも助けたいと思っている。
「そんなに虎長の事が好きなら、京都守護職、お市の方が継いじまえばいいじゃねぇか」
「え!? ‥‥そんな事、考えた事もなかったわ」
「おいおい、虎長のものを守りたいなら、全部自分が取っちまえばいいだろうに」
「ほぉ、面白い事を言うのぉ」
お市の方は「虎長のもの」を守る事に固執しており、「自分が京都守護職を継ぐ」という発想まで至らなかったようだ。彬の言葉に虚を突かれたように目を見開く。
道三が悪戯をしてやった子供のように愉しそうに笑う。
「私が、お兄様の、京都守護職を、継ぐ‥‥」
お市の方は誰に話す訳でもなく、放心したように反芻する。
彬のこの一言が、後に尾張を揺るがす大事件を引き起こすのだが、それはまた後の話となるだろう。
出陣の準備が整うと、道三は『壮行会』と催し、お市の方の女武将が戦勝祈願の舞いを舞った。
剣舞が終わったも、しばらくは拍手が鳴り止まなかった。士気は十分に高まったようだ。
「これより、出陣する!」
お市の方は熱気冷めやらぬ尾張兵五百余人に、出陣を告げる。しかし、どこへ出陣するかまでは伝えられていなかった。
「なるほど、そういう事か‥‥」
康貴や裕馬、ひずみや彬は、ここまで隠す理由に薄々気付く。
戦力差三倍の武田軍を攻めるには奇襲しかない。だが、信玄には山本勘助を始め、諜報活動が得意な家臣がおり、下手に情報が漏れるのは避けなければならないからだ。
●信玄の上洛を阻止せよ!
武田軍千五百は、三河を出て尾張領へと入った。
だが、信玄も大っぴらに尾張領を通り抜けるつもりはないようだ。
物見の話では、道三の読み通り、尾張領内を走る鎌倉街道を避けて敢えて隘路を進み、桶狭間山に布陣して夜を明かすらしい。
ここでようやく本格的な軍議が開かれた。
道三は、出陣前からひずみや彬、ブリードやブラッドから提案されていた囮部隊の策をお市の方とその武将達に告げ、奇襲の進軍ルートが決定された。
道三率いる囮部隊は四百十四名余り。だが、ブリードの提案により、全員が両手にたいまつを持ち、背に二本ないし、四本の尾張平織軍の旗を背負った。これなら暗がりであれば、倍の八百人に見せ掛ける事も可能だろう。
加えて、彬と伯符の『偽兵の計』も準備は万端だ。こちらは数人規模の偽兵隊を十小隊程編成して、尾張平織軍の旗指物を持ち、偽りの大軍を以て包囲するという計略だ。これには伯符の、手早く陣を作るアイディアが盛り込まれている。
また、彬はブラッドとひずみ共に『火計』の準備も進めていた。偽兵隊が旗や旗敷物に火を付けて煙幕を張る他、火矢を射掛けた後、囮部隊が突撃して油を撒き、火の勢いを更に強めるという策だ。
道三は、これらの策に必要な物を出陣前に全て用立て、ひずみの提案した奇襲時刻を待った。
ひずみが提案したのは、注意力がもっとも落ちる夜明け方直前だった。
道三を先頭に、囮部隊四百十四余名が鬨の声を挙げ、太鼓や鐘、銅鑼などを打ち鳴らし、派手に桶狭間山へ一気に駆け上がる。
大半の兵が寝静まった武田軍の陣では、見張りが大慌てで兵を起こすが、その間、囮部隊は陣のあちこちに火矢を射掛ける。
「我は“美濃の蝮”斎藤道三! 義によって尾張平織軍に助太刀する!! 我が名を知らぬ者は掛かってくるがいい!!」
(「‥‥マムシの毒で、虎を倒す‥‥そういう事、ですか‥‥」)
道三の名乗り上げは効果抜群だった。お市の方だけならまだしも、あの“美濃の蝮”が助太刀しているのだ!
「‥‥神聖騎士、ジョゼッフォ・ロンディネ。参る」
「目には目を! 歯には歯を!」
「くく、く‥‥命乞い、など、無駄‥‥死、にな、さい‥‥」
戦意喪失した武田軍に、ジョゼッフォは両手に構えた刀を振るい、キリルは酒樽を転がし、ひずみがそこへたいまつを投げ込む。軍馬が出てくれば、この程度では怯まないだろうが、周囲の草に火が付けば多少の焦りは生じるはず。更に油を投げ入れて火の勢いを強めてゆく。
「く‥‥年の功かよ! 貫禄といい、格好いいじゃねぇか」
道三の名乗り上げを間近で見た刀七郎はちょっぴり羨ましかったり。
「俺に続け〜!!」
しかも後ろから、天下無双の旗印を背負った裕馬が、組頭でもないのに後から付いてきている兵を誘導し、陣の薄そうな所へ切り込みを掛けているではないか!
「さぁて、なるだけ派手に暴れようかねぇ‥‥雷真水、行くぜ!!」
天下無双の旗印はとにかく目立つ。武田軍の組頭の一人と一騎打ちを始める真水と裕馬。
「(ここは一つ、派手に名乗りあげるた方が目立つ!)我こそは、遥か古くは源氏と血を分けし‥‥」
「刀七郎さんは、源氏の血を引いているのか?」
「あ、源氏の血? んなもん引いてる訳ねぇだろ。言ったモン勝ちなだよ、こんなのは。ブラッドも何か言ってやれ、源氏でも異国の王族でも神でも悪魔でも勝手に引いとけ」
思わず刀七郎の名乗り上げを聞いてしまうブラッド。
刀七郎は居合い斬りを駆使し、ブラッドはガディスシールドで彼や真水を守り、連携しながら敵を引き付ける。
「‥‥位置付けは囮の囮といったところか」
偽兵隊を指揮する彬は、伯符とラファエルに手早く陣を作る場所を指示してゆく。
伯符とラファエルはテントを代用して骨組みを作り、それにロープを結び付け、そこへ毛布を掛けて即席の陣幕を作り、大きく広げてゆく。
武田軍はますます八百名近い尾張平織兵に囲まれたと思いこんでしまう。
この陣幕へ騎馬兵が向かってくると、武蔵は旗指物や陣幕自体を燃やして派手に火と煙をまき散らし、煙幕とする。
それに乗じて刀を片手に、蛇毒手を使う伯符と、クルスソードと霊矛「ワダツミ」を構えるラファエルと連携して、先ず騎馬から攻撃し、敵の足を減らしてゆく。
「武田軍の騎馬隊も、馬がいなければ戦力を半減させる事が出来るはずです」
「私も馬を飼っている手前、少々気は引けるが、勇猛な騎馬隊も馬を失えば歩兵と変わるまい」
ブリードと康貴は兵がまだ乗っていない軍馬を繋いだ綱を切り、尻を蹴って逃がしてゆく。
「馬の足を引っ掛けて、転ばせられへんかな?」
シュマリは二人のバックアップに回り、小柄な身体を活かして、駆け付けた騎馬兵の足に、立木に結び付けたロープを引っ張って転けさせる。
そこへブリードの名剣「モーグレイ」と、オーラパワーを付与した康貴の刀が振り下ろされる。
だが、敵は甲斐の虎である。信玄は指揮系統を立て直し、反撃に出た。囮部隊は形勢逆転され、ポーションを使い切る者も続出し、負傷者を出してしまう。
その間にもお市の方の武将が武田軍の本陣を肉薄し、信玄自身を脅かした事により、本陣を落とされた訳ではないが、信玄は今回の上洛は諦めざるを得なかった。
また、この戦果により、尾張平織家の威信はそれ程損なわれず、それ以上に武将としてのお市の方の名が上がる事となる。