遅い里帰り

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月11日〜01月18日

リプレイ公開日:2007年01月20日

●オープニング

 怪物や妖怪に暮れや盆がないように、事件は暮れや盆に関係なく起こる。
 従ってそれらの解決の斡旋を請け負う冒険者ギルドは正月も盆も開いており、依頼の斡旋を請ける冒険者はお正月やお盆とは無縁な事も多い(もちろん、冒険者が個人的にお正月休みやお盆休みを取れば話は別だが)。

 そして、ここにもお正月休みと無縁の者が京都の冒険者ギルドの扉を叩いた。
「ようやくお休みがもらえたので、里に帰りたいのですが、護衛をお願いしたいのです」
 そう冒険者ギルドの係員に依頼の内容を告げる少年の名は、ひょう吉。京都にある竹細工職人の元で下働きをしながら、その技術を身に付けている出稼ぎの少年だ。
 竹細工職人も、暮れから正月三が日に掛けては掻き入れ時といえよう。正月飾りと竹細工は切っても切り離せないものだし、先の【神都騒乱】で京の街が戦場となり、復興への願いからか、正月飾りが文字通り飛ぶように売れた。
 ひょう吉も見習いながら正月飾りの作成――といっても、まだまだ細工はさせてもらえず、原材料の竹を切る程度――に駆り出され、去年の終わりから正月三が日は寝る暇すらなかったという。
 三が日が終わる頃には忙しさもだいぶ落ち着き、師匠より晴れて一週間の正月休みをもらったのだ。
「俺の故郷は山奥の田舎ですけど、京の街が戦場になった噂は伝わっていると思うんです。俺自身や師匠、工場は無事でしたけど、親父やお袋や楓‥‥あ、楓っていうのは妹ですけど、心配していると思うんです。先月は忙しくてシフール便も送れませんでしたから‥‥だから、元気な姿を見せたいんです」
 ひょう吉の実家は、京都から歩いて3日程の山奥にある小さな村だ。そこに両親と身体が弱く病気がちな妹、楓が住んでおり、彼は月に一度、出稼ぎで稼いだお金で薬を買い、シフール便で手紙と一緒に送っている。だが、竹細工職人の仕事が忙しければ送れない月もあるし、【神都騒乱】のような大惨事が起これば然りである。
 薬より兄からの手紙を楽しみに、そして励みにしている寂しがり屋の楓。まだ字が読めないが、毎日のようにひょう吉からの手紙を母親に読んでとせがんでいるそうだ。
 ひょう吉の故郷の村はかなりの山奥で、手付かずの自然に溢れ、自然の恵みが多い分、脅威も多い。秋口には冬眠に備えて獲物を喰らう羆(ひぐま)が現れるし、今の時期には狼が群を成して跋扈している。
 ひょう吉の村でも、この時期は狩人でもない限り、大人でも山へ入る事はほぼないという。
 その為の護衛だ。
「本当に何もない、貧しい山村ですけど、お正月の料理くらいは出せますよ。一緒に餅つきをするのもいいですよね」
 苦笑するひょう吉。報酬は期待できないが、彼の遅い、一日だけの里帰りを手伝ってもらえないだろうか?

●今回の参加者

 ea5832 南雲 要(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5099 チュプペケレ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb5198 ハクオロゥ(19歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb7352 李 猛翔(22歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb8812 夜桜 火花(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb9212 蓬仙 霞(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec0278 海凪 希龍(26歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec0584 ナカムラ・リョウコ(25歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)

●サポート参加者

リオーレ・アズィーズ(ea0980

●リプレイ本文


●初陣
 京都の冒険者ギルドに竹細工職人見習いの青年、ひょう吉がやってくる。依頼人たるもの、依頼を請けてくれた冒険者達より早く侍っていて、出迎えるつもりでいたが。
「キミがひょう吉か? 依頼を請けた蓬仙霞だ。霞でいい」
「待たせてしまいましたか?」
「いや、半刻前くらいに来たところだから、待ってはいない。それに今回の依頼は、僕の初仕事でな。勝手に集合時間より早く来ていただけだから、キミが気に病む事はない」
 ギルド員に、既に志士の蓬仙霞(eb9212)が来ており、待っている事を告げられると、彼は霞と会い握手を交わした。
 無愛想だが、初仕事という事もあり、気合いは十分のようだ。生真面目な性格が窺える。
「ひょう吉、無事で何よりだな」
「猛翔さん! 先日はお世話になりました」
 続けてシフールの武道家、李猛翔(eb7352)が現れると、ひょう吉は頭を下げる。猛翔は以前、ひょう吉の手紙を故郷の妹へ届けた事があり、二人は顔見知りだ。
 だからこそ猛翔は、先の【神都騒乱】でひょう吉が無事だった事から切り出し、安心した。
 冒険者ギルドのある一帯やひょう吉の勤めている竹細工屋――職人街――辺りはあまり被害はなかったが、市街地は散々たる有様だ。
「ひょう吉も何とか休暇を取れたようだが、早く帰って、心配しているであろう両親や楓に、その元気な姿を見せるのが一番の孝行だな」
「そうだね、自分の家が一番だし、帰る場所があるって事は幸せな事だよ。でも、狼の群がいるのは大変だよね。何とかしてあげたいな」
「里帰りか〜。今度オイラも蝦夷に帰るんだよ‥‥ちょっと大変な事が起きてるみたいだから、命懸けなんだけどね」
 猛翔の言葉に、チュプオンカミクルのチュプペケレ(eb5099)とカムイラメトクのハクオロゥ(eb5198)も頻りに頷く。
 二人とも蝦夷出身で、おいそれとは帰れない。もちろん、チュプペケレ達はそれを承知の上で京都まで来ている。
 しかし、その蝦夷は今、謎の集団に支配されてしまっているという噂がハクオロゥの耳に入ってきていた。
「だからひょう吉さんには、無事に里帰りをして欲しいんだ!」
「そうだな。厄介なのは道中に彷徨いている狼の群か‥‥」
「お日様に狼について聞いてみる?」
 ハクオロゥの望郷の念は強い。だからこそひょう吉を無事に里帰りさせたいと思っている。
 猛翔が彼の言葉の後に続くと、チュプペケレが元気良く両手を天高く振り上げる。チュプ・カムイ(太陽神)の巫女である彼女は、太陽に狼の事を訊ねようとしたのだ。
「チュプオンカミクル様のお手を煩わせる事はありません」
「こんな事もあろうかと、モンスターの専門家に来てもらったんだ」
 チュプペケレがサンワードを唱えるより早く、メイド‥‥もとい、ウィザードのリオーレ・アズィーズが、侍の南雲要(ea5832)と一緒にやってくる。彼女の手には教鞭と本が握られていた。
「狼は群れて狩りをする動物です。まず一匹だけで戦う事はありません。中でも群狼(ウルフパック)戦術は、獲物を群で囲み、代わる代わる攻撃するというものです。前後左右、縦横無尽の攻撃に獲物に攻撃を来た方向を見誤り、反撃できなくなるという恐ろしい戦術ですので要注意です。後、『銀毛種』と呼ばれる賢いボスが居ますから‥‥」
 いつの間にか、『リオーレ先生の“ためになる”モンスター講習・狼篇』がギルドの片隅で始まっていた。
 蝦夷にも狼がいるとはいえ、チュプペケレやハクオロゥはその詳しい生態の解説に「なるほど」と感心して頷き、狼相手にどう立ち回ろうか考えていた霞はメモを取っている。
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず、が常勝の兵法だよ。リオーレのお陰で敵を知る事が出来たから、後は道中で俺達の事を知り、日本の正月を楽しむ為にも狼共を蹴散らして、ひょう吉の村に辿り着こう!」
 リオーレのモンスター講習が終わると、要はすっくと立ち上がる。
「ところで、さっきから俺達の様子を窺っているシフールがいるんだけど、あの娘もそうなのかな?」
 彼が指し示す方には、物陰から身体の半分だけを覗かせて要達の方を窺っているシフールのジプシー、ナカムラ・リョウコ(ec0584)の姿があった。
「ナカムラさん、ですよね?」
「‥‥よろしく頼むで」
 どうやら人見知りするようで、ひょう吉が声を掛けると、リョウコは頭を下げた。
 これで全員揃い、リオーレに見送られてギルドを出発した。

●群狼戦術を破れ!
 京都を発って二日間は街道を通り、比較的安全な旅が続いた。
 季節は冬。京都は山に囲まれた盆地で、雪こそ降らないが、寒さは厳しい。加えて、木々も葉を落とし、野原に生い茂っていた草も枯れ、風景も寂しい。
「こう寒い時は温泉が恋しくなるな」
「お! 温泉、いいよね。身も心も温まるよ」
「温泉か‥‥京都へ帰ったら、あいつを誘ってみるか」
 霞が好きな温泉の事を切り出すと要が乗ってくる。猛翔は京都へ帰ったら恋人を温泉へ誘おうかと思い立つ。そうする事で京都へ無事に帰ってこなければならないと、自らを律するのだ。
 要と霞は共に西洋人とのハーフだ。その所為もあってか、道中で何かと気が合った。
「ひょう吉さんの妹さんって、どんな娘なの?」
「顔はチュプペケレさんに少し似てますね。あ、もちろん、チュプペケレさんの方が全然綺麗ですよ! ただ、身体が弱くて、しょっちゅう風邪をひいたりするんで薬は欠かせませんが」
(「あたしと同じなんだ」)
 一方、チュプペケレやハクオロゥは、ひょう吉と歳や外見が近い所為か、こちらも話が弾む。
 チュプペケレは日差しに弱く、今日のように晴れた日差しの強い日は、顔も隠れるくらい肌を隠している。
「ひょう吉さんは竹細工の修行、どのくらいになるの?」
「親方のところに弟子入りして、今年で五年目かな。十年やって半人前になれるそうだから、まだまだ半々人前だけど」
「でも、村から一人でやって来てるんだから凄いよ! オイラも蝦夷から一人でやって来て頑張ってるけど、時々故郷が懐かしくなるもん。ひょう吉さんはどうだった?」
「俺もですよ。でも、数ヶ月に一度届くお袋からの手紙と、この木札に励まされてます」
「これが妹さんか、可愛いね」
「ほんとだ、あたしの小さい頃に似てるね♪」
 ひょう吉は首から提げ、着物の中に入れている木札を取り出した。お守り代わりのそれには妹の楓の姿が彫ってある。人間とパラの違いこそあれ、楓はチュプペケレ本人が言うように彼女に似ている。線が細く優しそうな女の子だ。
「修行の成果はどうだ?」
「それなんですが‥‥」
 猛翔が竹細工の腕前の事を聞くと、ひょう吉は風呂敷包みの中から小さな篭を取り出した。御所篭(ごしょかご)と呼ばれるそれは、茶道具一式を入れる箱だ。
「見た目は良く出来てるけど、茶道具を入れたらそう保たないんじゃないかな?」
「ははは、流石は要さん。その通りなんです。編める事は編めるんですけど、まだ編むだけで精一杯で」
 要の茶道の嗜みは達人の域に達している。彼がひょう吉の作った御所篭の脆さを見抜くと、師匠にも同じ事を言われたのか、ひょう吉は苦笑する。
「‥‥でも、小物入れたりするんはそれで十分やろ。妹さんへのいいお土産やで」
 リョウコの言葉に猛翔と要は頷いた。

 夜は火を焚き、ハクオロゥの提案で交替で見張りに立った。
 猛翔の愛犬柴太郎も頼もしい番犬になるが、暖を取る必要もあるし、火が森へ燃え移らないよう管理しなければならない。
 また、いざという時にひょう吉の護衛がいなかった、という不慮の事故を避けたい猛翔の提案で、仮眠を取る男性陣は最低一人、ひょう吉の側で休む事になった。
 尚、リョウコがお泊まり道具を一切用意してきていなかったが、霞が寝袋の予備を持ってきており、リョウコは彼女をから借りて寒い冬の夜を温かく過ごす事が出来た。

 三日目は街道を逸れ、山へ踏み込む。ひょう吉の実家のある山村は、山を二つ越えなければならない。
「お日様さんお日様さん、狼さんがどこにいるか教えて下さいな」
 チュプペケレのチュプオンカミクルとしての本領発揮だ。山へ入ると彼女は太陽を掴むかのように両手を空高く掲げ、サンワードで狼の居場所を聞いてみる。
 すると「遠くない場所にいる」という返答があった。
「ここから遠くない場所にいるって」
「という事は、近くではないが離れてもいないという事だね。相手は狼だから、俺達より鼻が利くはずだよ。いつ遭遇してもいいように、臨戦態勢を整えた方がいいね」
 要はひょう吉を真ん中に置き、その周りを霞達で囲う輪陣形の隊形を取った。
 要達が防衛線となってひょう吉を護ると同時に、群狼戦術で一人が集中的に襲われた時は、その両脇の者が助ける事も可能な隊形だ。
 欠点として、遮蔽物の多い森では隊形を維持するのが難しく、移動速度が極端に落ちてしまうが、今日中にひょう吉の村へ着けばいいし、ゆっくり歩く分、物音も少なくなる。
「忍び歩きで頑張ってみるけど‥‥こう落ち葉や枝があると、多分見つかっちゃうよね」
 森林の土地勘のあるハクオロゥが先頭を歩きながら微苦笑した。
 山を一つ越えた峠で、柴太郎がけたたましく吠える。
「出来れば遭いたくなかったが‥‥ひょう吉、俺達の輪の中から離れるな!」
「は、はい」
 草むらから狼が一匹、また一匹と、唸り声を上げながら姿を現す。その数は八匹、霞達より多い。
「だが、戦いは数でするものではない。数で劣るなら、兵法で補えばいい」
 霞は牽制を兼ねて持っていたどぶろくの壺を狼達に投げつける。狼達はいとも簡単にかわしたが、辺りに濁酒独特の臭いが立ち込める。すると、狼達はその臭いを避けるように霞達を再度牽制し始める。
「僕の射撃の腕では当てる事は出来ないか‥‥しかし、その嗅覚が仇になったようだな」
 今度は油壺を投げつける。それと同時に猛翔とリョウコが円陣の上空へ移動、彼はハクオロゥと共に、上空と地上から狼達の連携を遮るように矢を射る。
 矢をかわして飛びかかってくる狼が半数。
「やはりその跳躍力は洒落にならないね」
 160cm近い霞は疎か、下手をすれば180cmを越える要ですら飛び越えかねない狼の跳躍力に内心舌を巻きながら、要はティールの剣からソードボンバーを繰り出して狼達を数匹、まとめて吹き飛ばす。
「無理はするな。僕も要も後ろで控えている」
「大丈夫だよ、あたし、結構すばしっこい‥‥わきゃ!?」
「言ってる側から転けないでよ!」
 桃の木刀に持ち替え、ひょう吉を護る事に専念している霞が、一歩前へ出て月桂樹の木剣を片手に狼達を攪乱するチュプペケレに注意を促すと、その矢先におっちょこちょいの性格が災いしてか彼女は転んでしまう。間一髪、ハクオロゥの矢が彼女へ襲い掛かろうとする狼に突き刺さった。
 最初に狼達の連携を上手く崩した甲斐あって、程なく狼達を撃退した。
 ひょう吉は無傷だったが、狼と直接戦った要や霞、チュプペケレは無傷とはいかず、小休止の間に猛翔が持ってきたポーションで傷を癒し、その日のうちにひょう吉の村へたどり着く事が出来た。

●二週間遅れのお正月
 ひょう吉の故郷である山村は、山間の楓林に埋もれた小さな集落だ。それでも、先の【神都騒乱】の噂は伝わっており、ひょう吉の無事な姿を見た村人は総出でひょう吉と、彼を無事に送り届けてくれた要とチュプペケレ、ハクオロゥと猛翔、霞とリョウコを出迎えた。
 既に元旦から二週間が経っていたが、ひょう吉の家では杵と臼を用意して、餅つきを始めた。
「へぇ、これがお餅つきかぁ」
「ハクオロゥさんもやってみる?」
「いいの!?」
 ひょう吉が相棒となって、餅つきをするハクオロゥ。
「そうそう、これがジャパンの正月だよ‥‥この間までキャメロットにいたから、ジャパンの正月は久しぶりだな」
「感慨深い、か」
「まぁ、ね。俺の半分はジャパン人だしね」
「‥‥そうだな」
「よーし、凧の武者絵は任せてくれ! 竹細工繋がりでひょう吉が骨組みは得意だろうし、一丁、記念になるような凄いのを作るぞ!」
「ふ、僕は蹴鞠をするとしよう」
 ハクオロゥとひょう吉の餅つきを、目を細めて懐かしむように見つめる要。霞は彼に餅つきを勧めるが、要は凧上げをしたかったようだ。
 餅つきを見に集まってきた村の男の子達を呼び集めると、早速、和紙に武者絵を描き始める。その達筆さに男の子達の間から「おお〜!」と感嘆の声が漏れ、尊敬の眼差しで見つめられる要。
 霞は女の子達に声を掛け、蹴鞠に興じる。
「これがジャパンの遊びか〜。オイラの故郷だと雪合戦とかソリなんかで遊ぶんだけど‥‥この辺はまだ雪降ってない?」
「この辺は雪はあまり降らないなぁ」
 餅つきが一段落すると、ハクオロゥとひょう吉も要の凧上げ作りに加わった。
「内地のお正月はこういうものを食べるんだね」
「チュプペケレさんの故郷ではどんな食べ物を食べるの?」
「カムイチェプ(鮭)は焼いても薫製にしても美味しいし、ピヤパ(ヒエ)も食べてるよ♪」
 チュプペケレは楓と一緒に、ひょう吉の母親の作る雑煮の下拵えを手伝っている。
 楓にとってこの村と兄のひょう吉が勤めている京都が『全世界』であり、蝦夷など到底想像も付かない場所だ。その為、チュプペケレの話す事全てが新鮮で、チュプペケレと楓はすぐに仲良くなっていた。

「道中、お疲れさま」
「とと、悪いね。キミも一杯どうだい?」
 日が暮れると、村の広場でささやかな宴が開かれた。
 猛翔が柴太郎と曲乗りをし、リョウコが遠い異国の地――エジプト――のジプシーの踊りを披露し、村人達を沸かせる。
 霞は要にお酌をし、今度は要が霞にお酌をして返す。
「もぐもぐもぐ、あはは、おいしいね♪ あ、こっちもおいしい♪」
 チュプペケレは雑煮を始め、漬け物や山菜の煮付けを美味しそうに一心不乱に食べた。
「ここから帰ったら、今度はオイラが故郷へ旅立つよ!」
「良かったら、これを持っていってくれないかな。防寒具ほどではないけど、動きやすいし温かいはずだよ」
 京都へ帰ったら蝦夷へと旅立つハクオロゥへ、ひょう吉は綿入り半纏を渡した。蝦夷の寒さでは、防寒具としては心許ないかも知れないが、せめてもの気持ちのようだ。
 また、チュプペケレにも同じ綿入り半纏が、猛翔には恋愛成就のお守りが、要には独楽が、霞には蹴鞠が、それぞれひょう吉や楓、一緒に遊んだ村の子供達からお土産として贈られ、京都への帰路に付いたのだった。