伊勢湾の蟹食い放題! ‥‥え、違う?

■ショートシナリオ


担当:菊池五郎

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 64 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月20日〜01月27日

リプレイ公開日:2007年01月28日

●オープニング

 伊勢海老は古くから日本各地で食用とされており、沿岸地域では刺身として戴くほか、伊勢海老汁や姿焼きにする。沿岸を離れると干物として見掛ける事もある。
 また、その姿形が威嚇として太く長い触角を振り立てる仕草から、鎧を纏ったもののふを連想させ、具足海老などとも呼ばれている。威勢がいい縁起物として武家に好まれており、正月飾りや初春のご祝儀として、今の時期は高値で取り引きされる。
「ところが、尾張の方では伊勢海老が思うように採れず、ただですら高値なのに値がつり上がっていたぜ」
 京都の冒険者ギルドを訪れたエルフの女性、火のウィザードにして漂泊者の薬師(くすし)フリーデは、応対に当たった受付嬢にそう切り出した。
 彼女は同性から見ても溜息が出るくらい煌びやかなブロンドヘアを湛え、胸元やへそを大胆に露出したパフスリーブの上着を着、丈の短いスカートを穿いている――冬の支度としては見ている方が寒く感じる――ものの、気の強そうな顔立ちから“男装の麗人”といった容貌だ。
 フリーデは薬の材料を求めて各地を流浪しているが、尾張を拠点に動いているようだ。
 尾張の蟹江町や熱田神宮の門前町は伊勢湾に面しており、もちろん、伊勢海老も採れる。
 フリーデも薬草採取の旅の途中に立ち寄り、伊勢海老を食そうとしたようだが‥‥。
「地元の伊勢海老の漁場にビッグクラブ‥‥大蟹が数匹棲み付くようになって、漁の邪魔をするそうだ。それだけではなく、伊勢海老を餌にしているらしくてな。人が食べても美味いそうだから、モンスターが食べても美味いのだろう。このままでは不漁が続くかも知れないようだ」
「大蟹退治ですか?」
「そうなるな。地元の漁師に頼まれたんでな」
 受付嬢が依頼の内容を要約するとフリーデは頷いた。口調からしてボーイッシュだが、ざっくばらんな性格は旅先での受けがよく、尾張の漁師とも仲良くなった事が窺える。
 彼女が冒険者だと分かると、依頼の仲介を頼んだようだ。報酬は高くはないが、伊勢海老の不漁が続いているのだから仕方ないだろう。
「大蟹の一メートルを超える鋏の切れ味は野太刀のそれを上回るそうですし、二メートルを超す巨体に反して素早く、特に攻撃を避ける横の動きは秀逸ですよ」
「だからこそ、地元の漁師も簡単に退治できないから俺達を頼ったんだろ? 大蟹を退治すれば伊勢海老が食えるし、大蟹も大味だが蟹だから不味くはないぞ」
 自分の知りうる限りの大蟹の情報を告げて心配する受付嬢に、フリーデはウインクで応えた。

 大蟹料理に伊勢海老料理づくしの依頼。腕に自信があるなら受けてみてはどうだろうか?

●今回の参加者

 ea0299 鳳 刹那(36歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7950 エリーヌ・フレイア(29歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)
 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ea9384 テリー・アーミティッジ(15歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb0503 アミ・ウォルタルティア(33歳・♀・レンジャー・エルフ・インドゥーラ国)
 eb0908 リスティ・ニシムラ(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5073 シグマリル(31歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5287 フモシャイン(32歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

鷹波 穂狼(ea4141)/ 若宮 天鐘(eb2156

●リプレイ本文

●見ている方が寒いです
 伊勢湾の伊勢海老と蟹食い放題六泊七日の旅を企画したエルフの薬師(くすし)フリーデ・ヴェスタは、待ち合わせ場所に京都の冒険者ギルド前を指定した。
「秋以来ね、フリーデさん。またご馳走と聞いて楽しみにしてきたわ」
「今の時期、蟹や海老は身が締まっていてとても美味しいですから、ご褒美が楽しみですねぇ♪」
 シフールのウィザード、エリーヌ・フレイア(ea7950)は、先の『大紅天狗茸狩り六泊七日の旅』に参加した事もあり、フリーデと面識があったので、ギルドの壁に背を預けてキセルを吹かす彼女の姿を見付けると、微笑みながら飛んでくる。
 武道家の鳳刹那(ea0299)も、伊勢海老や大蟹料理を楽しみにこの旅に参加した一人だ。
「海老なんて、故郷にいる頃は食べなかったのに、今は伊勢海老と聞いて物凄く楽しみな自分がいるわ。美味で有名な大きな海老、楽しみ。大蟹も美味しそう。大味そうだけど」
「うみゅ、大きなかにさんを退治したら、ジャパンのえびさんを食べる事が出来るですね? 漁師さんたちも困っているそうですから、これは頑張らなきゃいけないですねー」
「カムイラメトクは困った人の味方だぞ!」
「ジャパンのえびさん、どんなお味かとても楽しみですよー♪」
「蟹もうまそうだぞ!! 今度の相手はうまそうだ〜、早く倒して胃袋に♪ ってね!!」
 エリーヌと刹那の伊勢海老と大蟹談議へ、エルフのレンジャー、アミ・ウォルタルティア(eb0503)が手をぱたぱたさせながら入ってくる。
 彼女のテンションはカムイラメトクのフモシャイン(eb5287)と同じようで早くも意気投合していた。
「これで飛べるよ、ありがと〜」
 その間、刹那にバックパックの寝袋と保存食を預かってもらったシフールのウィザード、テリー・アーミティッジ(ea9384)は、彼女の目の前で空中を一回転する。
「退治した蟹は食べられそうなら、地元の漁師さん達に料理してもらえないかな?」
「ふふふ、私もそれを期待しているのですよ。レパートリーを増やす、良い機会ですしね♪」
 テリーの言葉に、刹那は微笑みを浮かべた。料理好きの彼女は、この依頼を機に地元の漁師ならではの調理法を教えてもらおうと思っていた。
「ジャパン各地に地元料理やご当地料理が数多く存在するからな。尾張なら、そうだな、那古野には“天むす”という地元の料理を聞いた事があるな」
 フリーデがテリー達に説明した天むすとは、海老を天麩羅にし、それを具して握ったおにぎりの事だ。貴重な油をふんだんに使うので、手軽に食べられるのだが高価な食べ物だという。
「ビッグクラブは、相手にとって不足はねぇ。伊勢海老を食う前の、軽い腹ごなしだぜ」
「大蟹退治か。先日の依頼で戦ったばかりだが‥‥これもチュプ・カムイの思し召しだろう。カムイラメトクの弓技が役に立つのであれば、振るうまでだ」
 ハーフエルフのレンジャー、クリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)自身、大蟹のおおよその強さは分かっているし、先日、大蟹と一戦交えたというカムイラメトクのシグマリル(eb5073)からその時の話を聞いているのでやる気満々だ。
「和人の国から訪れる災厄探しの旅は未だ何一つ成果を見いだせぬが、尾張の地に何か兆候があるやもしれぬしな」
 そんなクリスティーナとは対照的に、シグマリルの表情は晴れてはいない。
 大蟹は、ジャパンの湾岸地域では比較的見掛けるモンスターだ。しかし、同じ『伊勢湾』という点に引っ掛かりを覚えていた。
 また、尾張ではお市の方と、故・平織虎長の弟・平織信行や信長の子・平織信忠が、虎長の跡目争いを水面下で行っているという噂もある。
「ところで、さ。その格好、何とかなんねぇのか? 見てるあたしの方が寒くなるぜ」
「フリーデさん、冬でも防寒服を着ないのね」
 細かい事は気にしないクリスティーナだが、フリーデの胸元やへそを大胆に露出したパフスリーブの上着と丈の短いスカートといった服装は、流石に見ているだけで寒く感じ、気になった様子。
「いや、海とか山とか、寒さが厳しいところでは流石に着るが、本心を言えば、動きやすい格好の方が薬の原材料の採集の時に楽なんだ。ただ、それで体調を崩すのは本末転倒だからな」
「私も防寒服を着てる時は魔法が使えないから、その間はフリーデさんを見習って気合いで何とかするわ。ファッションは気合い! よね」
「ふふ、そうだな」
 相変わらず、薬の事が一番のフリーデのファッションに、エリーヌも彼女の姿勢を見習おうとガッツポーズを取って気合いを入れる。思わず笑い合う。
「あら、あたしは諸手を挙げて歓迎するけどねぇ。更に食べてもいいのなら大歓迎だねぇ」
 ハーフエルフのファイター、リスティ・ニシムラ(eb0908)は「眼福」とばかりに、遠慮なく舐めるようにフリーデを観賞している。
「てめぇ、酔ってるだろ!?」
「こんなの、酔ってる内に入らないねぇ。男装の麗人のフリーデもいいけど、野性味のあるあんたも食べてみたいねぇ」
「あ、あ、あたしにそっちの気はねぇ!! 面子が揃ったんだったら、とっとと行くぜ!」
「あら、残念♪ 野性味のある女の子を組みし抱いて食べるのも、それはそれで乙なんだけどねぇ」
 どぶろくを壺から直にぐいっと一口煽るリスティから、クリスティーナが一歩後退る。リスティは暇があれば酔わない程度にお酒を呑んでいる。だが、微笑むリスティの青い瞳に、獲物を見付けた猛禽類の瞳の輝きを一瞬垣間見た時、クリスティーナは本能的に貞操の危機を感じ取った。
 クリスティーナは一服途中のフリーデの背中を押して出発させてしまった。
 

●依頼の時は出来るだけ体調と準備を整えて
「カムイラメトクは、このくらいのケガならへっちゃらだぞ!」
「このくらいの怪我って‥‥重傷だろうに」
 フモシャインは重傷を負ったまま旅立っていた。鼻歌もいつものノリがない。
「食料は何とかなりますけど、怪我は無理しちゃダメですよー。こんな事もあろうかと、一応リカバーポーションを人数分用意してきたですー。使わないに越した事はないですけどねー」
 しかも彼は片道分の保存食しか持ってきていなかった。
 大蟹退治が成功すれば大蟹や伊勢海老が食べられるので帰りの食料は何とかなるが、アミの言うように、怪我は戦いの影響を直接左右する。特にフモシャインのように前線で戦う者にとって、動きが鈍るのはそれだけ危険が増すし、同じように前線で戦う仲間を危険に巻き込む可能性もある。
 しかし、残念ながらテリー達の中に回復魔法を使える者はいない。そこでフリーデが持ち合わせのヒーリングポーション(これも誰も持っていなかった!)を定価の半額でフモシャインに譲り、その後、アミが携帯していたリカバーポーションを服用して全快させたのだった。


●たかが大蟹、されど大蟹
 尾張は熱田神宮の門前町に着くと、エリーヌを中心に地元の漁師達から大蟹が現れる場所や出現するだいたいの時間帯を始め、大蟹が現れる場所の周辺の地理に、潮の満ち引きの時間といった情報を聞き、刹那が逐一メモってゆく。

 地元の漁師が伊勢海老漁用の舟を出してくれ、シグマリル達はそれに乗って尾張に面した伊勢湾へと向かう。
 その中でもリスティはどぶろくを煽っていた。

「ビッグクラブは重傷を負うとあっという間に岩の間に逃げちまうからな。エリーヌやテリーなら飛べば追いつくかも知れねぇが、あたしらじゃ走っても追いつけない。そこで、逃がさないように確実に仕留める為に、2つの戦法を使い分けるぜ」
 クリスティーナが大蟹のおおよその強さと生態を説明すると、一匹のみ現れた場合と二匹同時に現れた場合の戦法をリスティ達全員に改めて確認した。
「空から見てきた地形はこんな感じだったよ!」
「ライトニングトラップを仕掛けてきたわ」
 テリーは上空から周辺の地形を確認し、エリーヌはライトニングトラップを複数設置した一帯を作り、それぞれが刹那に告げると、彼女はメモに書き込んでゆく。
 クリスティーナが確認した戦法は、囮を使って大蟹をライトニングトラップへ誘い込み、罠に填ったところで一斉に叩く、という内容だ。
 エリーヌはブレスセンサー分の魔力を残し、ありったけのライトニングトラップを仕掛けてきていた。ライトニングトラップは一時間保つとはいえ、有効に使うには大蟹の活動時間を知る必要があった。
 刹那・アミ・リスティ・エリーヌと、フモシャイン・クリスティーナ・シグマリル・テリーの二手に分かれて、それぞれ岩場に身を潜める。
 テリーとエリーヌが定期的にブレスセンサーを使って大蟹の出現を探っていると、上空を旋回していたシグマリルの鷹・イメラッが鳴いた。
「この大きさは‥‥来たよ!」
「こちらも来たわ」
 テリーとエリーヌも感知する。二匹同時に現れたようだ。
「私に触れられます?」
「カムイラメトクが蟹に負けると思うなよ!!」
 刹那とフモシャインは頷き合うと、岩場から飛び出し、それぞれ大蟹と相対する。
 餌を獲りに来た大蟹は、餌が自分から目の前にやってきたので好機とばかりに1mはあろうか、片方の大きな鋏を振るう。
「これは‥‥なかなか厄介ね」
 常に正面で向き合うようように、回り込みながら回避に専念する刹那。回避に専念していなければ、一、二発は食らってもおかしくない鋭さだ。
「かにさん、そちらじゃないですよー」
「なかなか素速いが、あの走り方だ、急に直角に曲がるなどいう芸当はできまい」
 アミは長弓「鳴弦の弓」で、シグマリルはフェアリーボウで、クリスティーナは中弓で、それぞれ牽制射撃を行う。
 シグマリルの見立て通り、全長2mを越える大蟹とはいえ、蟹には違いない。横走りしかできないのだから、蟹の身体の向きを見て移動方向を推測し、囮である刹那とフモシャインに引きつけるよう、退路を塞いでゆく。
「もう少しだ‥‥後ちょい‥‥そこで‥‥やりぃ、掛かったな!!」
 クリスティーナは大蟹の動向を見守り、逸る気持ちを抑えながら矢を射っていたが、大蟹がほぼ同時にライトニングトラップに掛かると思わず歓声を上げる。
 ライトニングトラップの設置場所にはエリーヌが色を塗った石が目印として置いてあったのだ。
 テリーがその機を逃さず、アグラベイションを高速詠唱し、先ず一匹の動きを鈍らせる。
「ようやくあたしの出番さねぇ。待ってるってのは暇でねぇ」
 刹那がアミにオーラパワーを掛ける為に後ろに下がると、代わりにリスティが偃月刀を左右に回しながら大蟹との距離を一気に詰める。今まで待たされた分の鬱憤を晴らすかのように、偃月刀を振るう。
「オラぁ! とっとと倒されて、あたしらの腹の足しになりやがれ!!」
「伊勢湾の自然を乱す以上、俺はカムイ宿る弓、ユッケルヤンペの矢を容赦なく降らす!」
 喜々としながら大蟹の甲羅の隙間を射抜くクリスティーナ。その横ではシグマリルが達人の腕前を以て着実に大蟹に矢を突き立ててゆく。
 大蟹は逃げようとするが、そちらにもエリーヌのライトニングトラップがあり、再び引っ掛かってしまう。シグマリル達は二重三重の罠を張り巡らせていた。
「カムイラメトクの勝利だぞ!!」
 最後はフモシャインの小太刀が大蟹の顔を貫いた。
 一方、もう一匹の大蟹は、リスティが相手をしている間にオーラパワーを掛け終わった刹那も前線に戻り、アミの援護射撃を受けながら、こちらも着実に弱らせてゆく。
 オーラパワーによって威力の増したアミの矢が大蟹の体力を徐々に削ぎ、刹那が振るわれる鋏に合わせてカウンターを確実に叩き込む。
「止めと行かせてもらうよ! 我が剣に‥‥切れぬもの無し‥‥」
 動きが鈍ったところで、リスティが偃月刀を最上段から振るう。その切っ先は大蟹をも真っ二つにしてしまった。
「‥‥なんてね」
 ゆっくりと大蟹の巨体が真っ二つに割れた後、勝ちポーズを決めるリスティだった。

 念の為、エリーヌとテリーはブレスセンサーを使ったが、大蟹らしい息遣いは感じられなかった。また、イメラッも鳴かないところを見ると、この岩場にはもう大蟹はいないようだ。


●かにかにいせえび
 前線で戦ったリスティや刹那も無傷という訳にはいかず、アミのリカバーポーションを飲んで傷を癒す間、漁師達は伊勢海老漁へ出、先に大蟹を味わう事になった。
「身体が大きい分食べられるところもたくさんあるだろうし、みんなで蟹鍋だぁー」
「やっぱり蟹は定番の鍋がいいかしら? 余った汁で蟹雑炊やお餅も美味しそうね」
「酒蒸しも捨てがたいねぇ」
「浜茹でに味噌汁もいいですね」
 何せ全長2mの蟹だ。食いでがある。テリーとエリーヌ、リスティと刹那の注文は、フリーデが米や餅を持ってきていた事もあり、全て叶ってしまった。
「みゅー、これでまた1つジャパン知識が増えそうですよー♪」
 アミや刹那は料理を手伝いながら地元の漁師から地元の料理を教わり、レパートリーを増やしてゆく。
「美味いぞ!!」
「大蟹の身は大味というが、浜茹でも味噌汁もなかなか美味しいな」
 フモシャインやクリスティーナはよそられた蟹の身をあっという間に食べ、お代わりしまくる。
 シグマリルは、アルコール分を飛ばしているとはいえ酒蒸しは避け、浜茹でや味噌汁をイメラッに分け、一緒に食べていた。
 そのうちに伊勢海老も水揚げされ、こちらも浜茹でや刺身としてアミ達の前へ出された。
「さて‥‥取り敢えず、次に何時大蟹や伊勢海老が食べられるか分からないし‥‥食えるだけ食うかねぇ。もちろん酒も呑むが」
 リスティはフリーデのお酌で上機嫌に伊勢海老の刺身を摘む。
「伊勢海老というのは、随分と髭が長くて偉そうな海老だが、蝦夷には居ない類か」
「伊勢海老は、一般的には江戸より南でしか獲れないそうだからな」
「随分と美味いが、この伊勢海老は薬の材料になったりはしないのか? 食材としてよりも薬材であれば、高値で買う者もいるだろうし、不漁で喘いでいた漁師達が助かるかもしろないだろう?」
「伊勢海老で薬‥‥考えた事もなかったな。今度試してみよう。シグマリルのお陰で新薬ができるかも知れないぜ」
 シグマリルが興味本位で質問すると、その奇抜なアイディアにフリーデは珍しく目を丸くした。
「伊勢海老は評判通りの美味しさね」
「僕達シフールだったら、一月は食べ物に困らなさそうな量だね」
「あたしの連れにも食べさせてあげたいねぇ‥‥これ、持ち帰りはできないかねぇ?」
「蟹や海老は傷みやすいから、アイスコフィンでも使わない限り、京都までも保たないと思うよ。京都に帰るまでなら鍋にすれば保つとは思うけど」
 エリーヌやテリーなら大蟹一匹で一月は食い繋げるだろう。問題は長期に渡る保存の方法だ。
 長期保存の方法が手持ちに無い以上、リスティはお土産は諦め、心ゆくまで大蟹と伊勢海老を堪能したのだった。