知多半島にウサミミ美女の妖怪を見た!?

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:菊池五郎

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月13日〜02月21日

リプレイ公開日:2007年02月22日

●オープニング

 京都より北東に位置する尾張藩は、平織氏の直轄領だ。
 藩主・平織虎長が暗殺された事により、尾張平織家は、虎長の妹・お市の方と、虎長の息子・信忠を擁する虎長の弟・信行とに真っ二つに分かれ、尾張藩藩主――尾張平織家当主――の座を巡って対立姿勢を強めていた。

 ――那古野城。ここはお市の方の本拠地だ。
 虎長亡き後、那古野城は虎長の妻・濃姫が城主となっていたが、彼女はお市の方に城を譲り、那古野城の城下町の一角に建造中の、尾張ジーザス会のカテドラル(大聖堂)へその居を移していた。

「どこかに豪傑はいないかしら?」
 お市の方は武者鎧「白絹包」を纏い、刃を潰した太刀を手に、家臣の森蘭丸と城の中庭で鍛錬をしていた。
 虎長は生前、「市が男だったなら、良き武将となったであろう」と述べたという。その言葉通り、お市の方は去年の十二月、上洛しようとしていた“甲斐の虎”武田信玄を、祖父の美濃の斎藤道三の助力もあって桶狭間山で撃退している。
 しかし、それ以降、尾張藩藩主の座を狙う信行と信忠との対立をますます深め、いつ那古野城が兄や甥――身内――に攻められてもおかしくない状況に置かれていた。
 更に、柴田勝家や林秀貞といった平織家の重臣は、大半が信行・信忠側に就いている。
 お市の方には、虎長の小姓だった森蘭丸や近臣の馬廻衆(うままわりしゅう)、そして那古野城の兵しかいない。
 故に豪傑を求めるのは彼女の口癖になっていた。
 もちろん、お市の方自身、自分も良き武将であるよう、率先して兵の訓練に参加している。元々、武芸は嫌いではないし、特に今年に入ってからは、姫君として着物より、武将として鎧を着ている方が多い。
「市様がお気に召すかどうかは分かりませんが、豪傑にまつわる陳情が寄せられています」
「豪傑にまつわる陳情?」
 休憩の頃合と踏んだ蘭丸は訓練用の太刀を降ろし、汗を拭う手拭いを先ずお市の方に渡した後、そう前置きをしてから陳情の内容を切り出した。
「はい、那古野城下に住む樵(きこり)の男性からの陳情です。知多半島に棲む兎の耳を生やした女性にお礼を言いたいそうですが、言いに行けないので代わりに市様に行って欲しい、というものです」
「は、はい!? 知多半島に棲む、兎の耳を生やした女性!?」
 陳情の内容に、お市の方は素っ頓狂な声を上げる。
 蘭丸はジャパンのみならず、イギリスといった他国の知識も有し、一流の作法と武芸を身に付けた非常に優秀な小姓だ。虎長が寵愛したのも分かるし、虎長亡き後、濃姫がジーザス会へ帰依してしまい、城主無き那古野城を信行・信忠から守り、お市の方へ無事に渡ったのも、蘭丸の手腕に依るところが大きい。
 その蘭丸が真顔で「兎の耳を生やした女性」とか言い始めるし、内容も内容なので無理もない。
「陳情によると、その男性は木材を採りに知多半島へ分け入ったようです。しかし、運悪く道に迷ってしまい、妖怪に襲われたところを、その兎の耳を生やした女性に助けられたそうです」
 知多半島は尾張の南に位置する、伊勢湾と三河湾を区切る南北に細長い半島だ。山間の地形と相まって土着の妖怪達が古来より数多く棲んでおり、地元の者以外滅多に分け入る事のない未開の地だ。
 那古野一城しか持っていないお市の方は、知多半島にも目を向けていた。しかし、知多半島を開拓する為には相応の兵力が必要であり、今のお市の方にそれを用意できる余裕はない。
「ちょ、ちょっと待って。妖怪に襲われたところを、兎の耳を生やした女性に助けられたのよね?」
「はい、陳述ではそう聞いています。その後、その女性の家に招かれ、お餅をご馳走になったそうです」
「お、お餅って‥‥それにその女性、人じゃないわよね?」
「おそらく、妖怪でしょう。最初は外套を被っていたそうですが、家では取ったそうです。その時、頭に兎の耳が生えているのが分かったそうです」
「知多半島に棲む兎の耳を生やした女性‥‥お餅が好き‥‥」
「特徴から“化け兎”という、人を化かす兎の妖怪ではないかと思われます。ですが、特筆すべきは人に懐いている事と、かなり強いという二点です。この男性を助け、知多半島の出口まで送り届けたそうですが、その間、何度が妖怪に襲来に遭い、全て撃退しているそうです」
「確かに強いわね。知多半島には強い妖怪も棲んでいるって聞いているけど‥‥あ!」
 そこまで話を聞いて、お市の方はようやく蘭丸が何故この陳述をわざわざ取り上げたのか思い当たった。
「まさか、この妖怪を武将として登庸するの!?」
「実力は立証されていますし、人に懐いているところを見ると、市様に害を及ぼすとは考えにくいです。豪傑という意味では、適任かと」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥まぁ、陳情が来ているのなら、城主たるもの叶えられるものは叶える必要はあるわね。蘭丸、京都の冒険者ギルドへ早馬を走らせて。冒険者を募って調査隊を結成し、その兎の耳を生やした女性に実際に会ってみるわ」
「御意」
 たっぷり十秒、深い溜息を付いた後、意を決したお市の方は蘭丸に冒険者ギルドへの依頼を命じたのだった。

●今回の参加者

 ea3741 レオーネ・アズリアエル(37歳・♀・侍・人間・エジプト)
 ea6065 逢莉笛 鈴那(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6158 槙原 愛(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0160 黒畑 丈治(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

リオーレ・アズィーズ(ea0980)/ 八幡 伊佐治(ea2614)/ アリアス・サーレク(ea2699

●リプレイ本文


●平織市探検隊!
『えー、ここは、京都にある冒険者ギルドの建物の中っす。我々“平織市探検隊”は、知多半島に棲むという、兎の耳を生やした女性の正体を解き明かすべく、先ず、その生態について調べてみる事にしたっす』
 ジャイアントの武道家、フトシたんこと太丹(eb0334)はそう思い返しながら、ギルドメンバーにこの冒険の顛末を語り始める――。

 ファイターのレオーネ・アズリアエル(ea3741)に招かれた『リオーレのモンスター講座・うさぎさん一家編』の特別講師、ウィザードのリオーレ・アズィーズは、「化け兎」と黒板に書いた。
「はいっす、リオーレ先生! 自分は実際に化け兎に会った事ありますし、化け兎の作ったお餅はたくさん食べた事もあるっす」
 元気良く手を挙げ、リオーレに指されて起立した丹は、ノリノリで応える。
「うさ耳美女の妖怪‥‥か。京都で有名な化け兎は、某“うさ”なだけに正直信じられないものもあるけど、実際に会えるなら一度会ってみたいな」
 ナイトのアリアス・サーレクも丹と同じ化け兎を思い浮かべていた。
「やっぱり杵を持ってるという事は、毎日お餅を搗いて食べてるのですかね〜?」
「自分、お餅にはちょっとうるさいっすよ。美味いかどうか食べ比べてみたいっすね」
「武器として見た場合、杵はハンマーかラージハンマーに相当するでしょう。威力はありますが重い武器です。それを振るうのですから、それ相応の実力の持ち主かも知れませんね」
 浪人の槙原愛(ea6158)の一言に、丹とジャイアントのナイト、ミラ・ダイモス(eb2064)が応えるが、二人の話す内容は実に対照的だ。
「強くてお餅搗きが得意な妖怪かぁ。っていうか、言葉通じて味方そうなら、妖怪っていうよりむしろ河童とかと同じ亜人間族だよね」
「強いだけではなく、人懐っこいのであれば、人に仇為す悪い妖怪ではないはずです。会ってみたいものですね」
「ウサギさんの妖怪を説得にというのも何か変な話ですけど〜、鈴那さんの言うように〜、私達に近い種族だと思えば〜、ちょっと面白そうですね〜」
 忍者の逢莉笛鈴那(ea6065)は話を聞く限りでは、妖兎は妖怪というより、ジャパンでは河童に代表されるデミヒューマンだと感じられた。
 それは僧兵の黒畑丈治(eb0160)も同感だ。“茶々丸(大梟)の友”や“関ヶ原の勇者”と呼ばれる彼は、「妖怪」と聞くと、とかく人間に悪さをする悪いイメージが付きまとうが、妖兎のように人懐っこく、人と共闘できる妖怪の存在がもっと世間に広まれば、妖怪への無益な殺生を行わずに済むのではないかと思っている。
 鈴那と丈治の話を聞いて、愛も今回の依頼が一風変わってはいるが、面白い依頼であると感じ始めた。
「うさぎさんは寂しいと死んでしまうと聞くわ。何としてもスカウトして、那古野で愛でてあげないとね♪」
「今、レオーネ様が良い事を言って下さいました。私も妖兎は初めて聞く妖怪で、おそらく尾張でも知多半島固有の妖怪であり、その強さは分かりませんが、生態が兎と変わらないと考えると、化け兎の上位妖怪と見て間違いないでしょう」
「ジャパンは広いですね。リオーレ殿の知らない妖怪がまだまだたくさん居ます。もっと多くの依頼をこなし、自分を鍛えたいものです」
「化け兎さんの豪傑、どのような方か楽しみです」
「お市の方さんの言う通り、味方になったら頼もしそうね」
 レオーネの一言からリオーレが予想した強さを示してそう締め括ると、丈治は唸った。ミラは一戦交える気満々だし、鈴那も早く会ってみたいと思っている。
「妖怪退治が黒虎隊の本業だけど、その妖怪をスカウトに行くこの矛盾‥‥まぁ、美人さんだし良しとしましょう」
 黒虎部隊隊士本来の職務より、自分の欲望に従うべきだとレオーネの女の勘が告げていた。

「オヤビン! 来てくれたんっすね!」
 『リオーレのモンスター講座・うさぎさん一家編』が終わり、ミラ達は身支度を整えて冒険者ギルドを出発しようとすると、丹は「オヤビン」と慕っている僧侶の八幡伊佐治に呼び止められた。
「今度の相手は美女だそうだな。女の子の機嫌を取るなら、とにかく誉める事だ。だが、美人は誉められ慣れているから、そこは裏を掻いて知性を誉めるんだ」
「ようし、これでウサミミ美女の攻略も問題ないっす!」
「まぁ、大っぴらに教えられる内容じゃないから、こういう形になったが健闘は祈る。出だしが悪くても、最後に取り返せれば結果良好だぞ」
「んじゃ、オヤビン行ってくるっすよ〜!」
 手を振る伊佐治に笑顔で応え、京都を離れ知多半島へ遥々臨む丹達だった。

『こうして、ナンパから極意の手解きを受けた自分達は、隊長の市殿と合流すべく、一路を尾張へと向かったっす』
『極意かどうかは知らないけど、ナンパの手解きを受けたのはフトシたんだけだけどね』
 コメントに一部、レオーネより突っ込みが入った。

 尾張の那古野城では、お市の方が準備を整えて愛達の到着を心待ちにしていた。
 丹やミラはジャイアントだし、レオーネは長身なので彼女らと一緒にいるとそんなに感じないが、お市の方はかなり背が高い。どれだけ高いかというと、丈治より気持ち高いくらい(約+3cm)だ。今は愛用の武者鎧「白絹包」に身を包み、刀を腰に差した出で立ちだが、お市の方は普段は着物のお端折り(おはしょり)を作らない独特の着付け方をしているという。
 斯くして“平織市探検隊”が結成された。

 お市の方を先頭に、意気揚々と那古野を出ようとすると、鈴那が一つ要望を出す。お市の方へ『知多半島に棲む兎の耳を生やした女性にお礼を言いに行って欲しい』との陳情を出した樵の男性へ会いに行きたい、というのだ。
 樵の男性は那古野城の城下街の中でも郊外に住んでいた。最近、父親から樵業を受け継いだばかりの青年だった。歳は丈治とそう変わらないだろう。
 城主であるお市の方の突然の訪問に恐縮しっぱなしだったが、鈴那は樵の男性から兎の耳を生やした女性に会った場所やその時の状況など、分かる範囲で聞き出せる情報を聞き出した。
「お礼の言葉なり、品なりあれば預かりますよ」
 鈴那がそう申し出ると、樵の男性はお餅に塗すきな粉を差し出した。


●知多半島にウサミミ美女の妖怪を見た!?
『我々平織市探検隊はウサミミ美女を求めて、前人未踏の未開の地、尾張の人外魔境、知多半島へと足を踏み入れたのであったっす。我々平織市探検隊に迫り来る全長30mを越す巨大塗坊! 10本もの傘化けに包囲され、それ背後から聞こえる豆洗いの豆を洗うような音が四面楚歌のように聞こえるっす! 絶体絶命のスーパーピンチを、我々平織市探検隊は切り抜ける事が出来るのかっす!? そして謎に包まれたウサミミ美女の妖怪の正体とは!?』
『ちょ、ちょっと、明らかにコメントが間違ってきてるわよ』
 加熱する丹のコメントに、またも、今度は鈴那から突っ込みが入る。

 森林や山岳に土地勘を持つ丹と丈治が先頭を切り、知多半島の森の中を進む。
 人の手のほとんど入っていない森は、密林と言っても過言ではない。丹と丈治はお市の方から鉈を借り、それを振るって進路を切り開いてゆく。
「本当にこっちは未開の土地なんですね〜。どこに妖怪さんが潜んでて、どこから襲ってくるかわからないので警戒しておかないと〜‥‥あ、でも空気が澄んでて美味しいです〜」
「お兄様が言っていらしたけど、人の手が入っていない事を良い事に、知多半島には妖怪達の国が存在するらしいわ」
「妖怪の国ですか‥‥化け兎のような強い妖怪が、まだまだいるという事でしょうか?」
「私は以前、津島町で知多半島辺りには温泉あるって聞いたから、そっちに行きたいかな。兎さんなら知ってるかも? 温泉見つけてミルりんとまた行きたいな」
「私も温泉に一票ね。ジャパンの温泉ってお肌に良いお湯が多いんだもの。ああ、うさぎさんを温泉で愛でるのも良いわよね」
 後ろを歩く愛達女性陣は、周りを警戒しながら‥‥というより、周りの景観を楽しみながら後に付いてきている。
 お市の方が知多半島にあるという妖怪に国の噂を思い出すと、ミラはウサミミ美女の妖怪がまだまだいるのではないかと思い付いた。
 一方、鈴那とレオーネは温泉話に花を咲かせ、ますますやる気になっていた。

 鈴那が得た情報と、丹の空腹と大食による本能感知を駆使して、ウサミミ美女の妖怪の住処を探す。
「くんくん、こっちの方からお餅の匂いがするっす」
 丹の本能感知にお餅の臭いが反応すると、丈治は防寒具を脱ぎ捨てる。
 前方に塗坊が現れ、周囲を傘化けに半包囲されていた。
 木々といった遮蔽物が多くては、1mを越える得物は振るえない。ミラは愛刀の斬魔刀から霊斧「カムド」へ持ち替えて、先陣を切って躍り掛かり、鈴那は仏剣「不動明王」を、愛は小太刀「微塵」を構えて、それぞれ傘化けを斬り付ける。
 レオーネは軍配を片手に、お市の方を護ろうと近くに侍っていたが、銘刀を抜いて傘化けを斬り捨てるところを見ると、その心配はなさそうだ。仕込杖を抜いて自分も一体と対峙する。
 丹と丈治は剛腕を振るって、堅さが自慢の塗坊を方やホーリーナックルで、方や金属拳で殴り付けてゆく。
『妖怪の数が多いです、助太刀します』
 その時、木の上から珠を転がしたような女性の声と共に、杵が飛来し、一匹の傘化けを押し潰す。
 フード付きの外套で頭まですっぽりと覆っているが、外套の隙間から覗く手や足を見る限り、ほぼ女性と見て間違いないだろう。
 そして、陳述が間違っていなければ、愛達が探し求めているウサミミ美女の妖怪に間違いない。
 女性の助太刀もあり、丈治達は程なく塗坊と傘化け達を撃退した。
『皆さん、お強いですね。1人ならともかく、皆さんのような多くの方が、どうしてこんなところへ?』
「那古野で噂になってる、ウサミミ美女が搗いているというお餅が美味しいかどうか食べに来たっす」
「違います。月は、神王様の象徴の1つ、一緒にこの国の為に戦いましょう」
 丹の台詞に突っ込みを入れつつ、ミラは騎士の礼を持って話し始めた。

 女性はレオーネ達を住処へ案内した。簡素な山小屋だが、近くには田畑が開墾されている。
 女性がフードを取ると、全員が――丹ですら!――見取れてしまった。
 一見、普通の女性だが、上半身だけを覆う際どい服を纏い、何より人ではない証拠として髪から兎の耳をぴょこんと生やし、お尻の少し上から同じく兎のしっぽがちょこんと生えている。
「う〜ん、兎妖怪と言っても、耳以外は人間の女性(にょしょう)そっくりではないですか。それが身体の線が露わになる、このような服しか着ていないとは‥‥確かに餅を搗くには餅米が必要ですが、妖怪が自ら畑を耕すとは‥‥人間並みの知性を有している、という事でしょうか」
 顔を真っ赤にしつつも、ウサミミ美女の妖怪から視線を逸らせない丈治。まるで魅了の魔法か何かに掛かってしまったかのようだ。
『私達は自分の事を“月兎族”と呼んでいます。そのように呼んで下さい』
「ほらほら、仮にも月のウサギを名乗るなら、この格好じゃないと!」
 それはレオーネも同じようで、彼女は月兎族に瞳をハートにしながらも、その格好にダメ出しをして小屋の中へ連れ込んでしまう。
『あ、あの、この格好は‥‥』
「さんはい、ポーズを極めて、『月にかわ‥‥』」
「そのポーズと決め台詞は危険だから!」
 月兎族が着ている服の上からスカートとスカーフを付けて、髪をツインテールにし、髪飾りと額飾りを付けさせたものの、鈴那の突っ込みによって敢えなく撃沈。
「私は美味しいお餅が搗けるって聞いたから、是非コツを聞きたいの。月兎族さんが助けた樵の人も、あの味は一生忘れられないくらい美味しかったって褒めてたわ」
『あの人は元気ですか。でも、私は見ての通り、妖怪ですから』
「ええ、お餅に良く合うきな粉をもらってきたの。美味しい食事は人との垣根を取り払う鍵だよね」
「そうっす、京都では化け兎が美味しいお餅を作ってるっすよ。だから、美味しいお餅が作れるのであれば、人間とか妖怪なんて些細な事っす」
 樵の男性の話を切り出すと、月兎族も心配していたようで安堵の表情を浮かべる。鈴那と丹がお餅の線から説得するが、彼女も自分が妖怪であり、人間社会に溶け込めない事を分かっているようだ。
「さっきミラが言ったけど、私は尾張を統一したいの。その為に一緒に戦ってくれる豪傑がどうしても必要よ。鈴那や丹が言うように、私もあなたが妖怪とか気にしないわ」
「那古野に来れば、さっきのようなお洒落がいっぱいできるのよ♪ それに、尾張を統一するという事は、より多くの人を救えるという事でもあるのよ? あなたの好きな人間を、ね」
『‥‥分かりました。ですが、1つだけお願いがあります。あなた達が、私が力を貸すに相応しいかどうか見せて下さい』
「拳を交えれば強さだけではなく〜、熱い漢の友情が芽生えるのですよ〜」
 お市の方とレオーネの言葉に、心を動かす月兎族。彼女の願いを叶える為、先ず愛が名刀「村雨丸」を抜いた。
 愛の後は丈治が立候補し、最後はミラが刃を交える。

「という訳で〜、ウサギさんの力を貸して欲しいのですよ〜」
『私も本当は、もっと人間と触れ合いたかったのです‥‥でも』
「人間とか妖怪という話は、もう無しにしましょう。これだけ強いのですから、お市様の下でも十分、やっていけます」
「那古野の人々も、直に分かってくれますよ。それはまではフードは外せないでしょうけど」
 模擬戦を終えた愛やミラ、丈治は月兎族とすっかり打ち解けていた。
 ミラは月の名前を持つお菓子月餅を、お土産として渡し、今は月兎族が搗いたお餅を食べている。
「きな粉もいいっすけど、餡も捨てがたいっすね。大根を下ろして絡めるのも美味しいっすし、胡桃や柚子との相性もなかなかいいっす! 化け兎と月兎族、どっちの搗いたお餅も何でこう美味いんすか!!」
 鈴那が持ってきた餅を美味しく食べる材料を色々試す丹。どちらの餅も甲乙付けがたい程美味しかった。

 月兎族に家財道具と呼べるものはほとんどなく、備蓄していた餅米を始めとする食料と、愛用している臼と杵、彼女が纏っている服をまとめれば、引っ越しの準備は整った。
「は!? オヤビン直伝のナンパの極意を使ってなかったっす!!」
 丹がナンパの極意を使わなかったとはいえ、結果的に口説き落とせたのだから万々歳だろう。
「うささんが、最後の美人妖怪とは思えない。この地には未だ第2第3の美人妖怪さんが‥‥」
『私は月兎族3姉妹の末、三女ですから、まだ姉さんが2人、知多半島の奥に棲んでいます。確か姉さん達のどちらかが温泉を持っていたはずです』
 帰りに道すがら知多半島を振り返り、渋く決めるレオーネ。彼女の予想は間違ってはいないかもしれない。

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