魔女の償い

■ショートシナリオ&プロモート


担当:吉良玲人

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月22日〜04月28日

リプレイ公開日:2008年04月26日

●オープニング

 今考えると、一体何をして、それをどうしたかったのだろう。
 シェリルは数ヵ月前までの自分の考えが、自分でもよくわからなかった。だが、あの時の自分は、それが正しいことだと思っていたことに違いはなかった。

 母を見殺しにした村人達に復讐をするため、まずは態勢を整えようと移り住んだ村に不幸を与えようとした。
 どんなものでもいい。悪魔を召喚すれば、それだけでも村人達は恐怖に震えあがり、許しを乞おうとするだろう。その願いを踏みにじり、苦しめ続けてやるのだ。あの村人達が、どんなに助けを求めても石を投げてきた時のように。
 そうして、悪魔を召喚するために、村中が騒いでいたので知った赤ん坊をさらってやった。赤ん坊の無垢な魂は、悪魔には魅力的だろうと思ったから。

 きっと上手くいく。復讐の第一歩を踏み出せると思っていたというのに、見知らぬ冒険者達が阻んだ。「やり直せる」と言われたが、正直そんなに都合良く村人達に迎え入れられるとは思わなかった。案の定、さらった赤ん坊の母親から、いいようにぶたれたし、父親にも足蹴にされた。他の村人達の視線も、汚物でも見るようであった。

 たった1人、村長を除いて。

「確かに起こしたことは、許される事ではないし、村人達も許しはしないだろう。だが、君の話を聞けば、同情することもある。‥‥お母さんのことは、本当に気の毒だったね」
 そう言われて、初めて泣いた。涙が止められなかった。
 母親のことを知らぬ村長だ。だが、それでも母親の死を悼んでくれた。何のことはない。言われたかったのは、たった一言、それだけだった。

 許してもらえないのはわかっている。だけれど、この村のためになることをしたかった。
 それが、今自分の出来る唯一のこと、唯一の償いの方法だったから。

●今回の参加者

 eb8226 レア・クラウス(19歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec3999 春日 龍樹(26歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ec4717 神名田 少太郎(22歳・♂・志士・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文


「お久しぶりです。‥‥ええと、あのときの怪我はもう大丈夫ですか?」
「怪我なら、もう何ともない」
 シェリルが起こした事件を止めた冒険者の1人であるヒルケイプ・リーツ(ec1007)は、事件の際にシェリルが傷を負ったことを知っているため、気遣いの言葉をかけた。
「ジプシーのレア・クラウスよ。よろしくね。辛いかもしれないけど、その時のことを私達に話してもらえる?」
 レア・クラウス(eb8226)は、シェリルの覚悟を知るため、敢えて彼女の口からの説明を促す。
 母親の復讐しようと思ったこと、皆を不幸にするために悪魔を召喚しようとしたこと、その生贄として、何の関係もないこの村の赤ん坊を殺めようとしたこと‥‥シェリルはありのままを話した。イギリス語のわからない春日龍樹(ec3999)には、レアが間に入って通訳する。
「未遂に済んだとはいえ、シェリルさんがここに居続けるのは得策ではなさそうですが‥‥」
「確かにね。それでいて村の人達にわかってもらうって、とても難しいことだと思う」
 難しい顔をする神名田少太郎(ec4717)とレアに、彼女の望みを叶えることが難しいとわかるだけに、ヒルケイプと龍樹もすぐには否定の言葉を出すことができない。
「ま、まぁ‥‥やり直そうとするシェリルさんの努力に共感して、俺達はここにいるわけだし、シェリルさんだってやる気だからギルドに助けを求めたんじゃないか?」
 重い空気を打破すべく、龍樹がシェリルに対して力強くフォローを入れる。女性の頼みを無下にできるか!という熱い思いも含まれている、かもしれない。
「きっとシェリルさんも、村を出た方が楽なことはわかっているんじゃないかしら。それでもここに残ると決めたんだと思います」
 龍樹の言葉に賛同するのはヒルケイプだった。レアや少太郎のきつい言葉に臆することなく、シェリルは「お願いします」とだけ言って、4人へ深々と頭を下げた。
「わかったわ。それなら付き合ってあげる。想いが村の人に届くまで、頑張りましょう」
「シェリルさんの努力が実を結んでくれたらいいですね」
 そのためにすべきことは、数多くありそうだ。


「魔女という身分を払拭できないですよ、これでは‥‥」
 少太郎は額に手を当てて、深々と溜息をついた。村に滞在している間、シェリルが皆の食事と宿の提供をしてくれることになったのだが、家の中の様相が凄まじすぎである。
 整ってはいる。だが、壁に並んで吊されている動物の干物や毒草類、床の黒ずんだシミ、部屋の奥の怪しげな祭壇‥‥。表に出せば気味悪がられるから、捨てるに捨てられなかったとシェリルは弁解するが、誰もが頭を抱えたくなる気持ちと戦った。

 翌朝、あまりよく眠れなかった4人の意見は一致した。彼女自身の問題ある外見よりもまず、家の掃除だ。例えシェリルがどんなに垢抜けようとも、こんな家に住んでいたら、良いイメージも一瞬で崩壊する。
「徹底的にやりますよー!」
「見違えるようにしないとね」
 ドアと窓を全開にし、日の光をふんだんに取り入れると、おどろおどろしさも少しは紛れた。
「いらない物は燃やしていきませんか?」
 増えていくゴミの処理に考えあぐねていたが、閃いた少太郎がパチリと指を鳴らす。皆はそれが一番手っ取り早い方法だと賛成した。
「燃やすついでに湯を沸かしたら、洗濯もできるしな」
 力仕事にもなるので、龍樹と少太郎がかまどに持っていき、薪の代わりにしてどんどん不要品を火の中へ入れていった。そうしている最中、何気なく広げた羊皮紙に龍樹は眉をひそめる。
「気持ち悪いな。何が書いてるんだ?」
「えーと、悪魔? 儀式‥‥赤ん坊のしんぞ‥‥燃やしましょう」
 少太郎は顔を引きつらせつつ、早く火にくべるようにと急かした。よくわからなかったが、危険な物であることは龍樹も理解できたので、すぐに火の中へと投げ入れる。
「このシミ、落ちるかしら‥‥」
「気合いで頑張りましょう!」
 レアとヒルケイプが、床のシミと格闘している。長期戦となり、龍樹や少太郎と交代しながら、併行して家の外の草むしりや掃除もした。
 床が綺麗になった頃には、不要な物はあらかた処分していたため、家の中の様子も随分と様変わりした。空気が軽く、さわやかに感じる。
「今日は安眠できそう‥‥」
「食事もおいしく食べられそうです‥‥」
 思わずそんな言葉が出てしまうくらい、綺麗に、人に優しく、なった。


 翌日は、シェリルの身だしなみや立ち振る舞いを変えることに力を入れた。
 村長夫人から古着を譲ってもらい、ヒルケイプがシェリルの体に合わせて直している間に、レアが湯あみをしたシェリルの髪を切ったり梳いたりして整えた。随分と印象が変わって見え、龍樹は皆から教わったイギリス語でつたないながらも懸命に褒めて、シェリルを泣かせてしまう。「綺麗」「素晴らしい」「似合っている」‥‥そう言った言葉を掛けてもらったこと自体、シェリルには初めてだったらしい。
「あんまり上手くはないですけど、できました! あっ、それからこれも使ってください♪」
 手直しした服と一緒にヒルケイプが差し出したのは、彼女が持っていたラビットバンドとふりふりエプロンだ。龍樹と少太郎には一時退場してもらって服を着替えてもらい、それからヒルケイプが渡したヘアバンドとエプロンも付けてもらった。
「かわいいですよ! 悪い魔女になんて見えないですよね」
「そうね。子供達に人気が出そうだわ」
 重たげな暗い色から明るい色の服に変わると、華やかさが出る。だが、愛想の「あ」の字もない無表情っぷりのせいで、服や小物がひどく浮いていた。
「少し化粧気があってもよさそうだな。こう‥‥もっと魅力的になると思うんだが」
 レアに通訳をしてもらい、龍樹は花の汁を使って唇に色を付けてみることなど、毒として以外の植物の扱いをシェリルに提案してみる。全く未知の分野のようで、シェリルにはピンときていない様子だ。
「表情も親しみやすくしないとダメですよ。笑顔です、笑顔。さぁこうやって、にこーってやるんですよー」
 手本として、ヒルケイプが頬に人差し指を当て、にっこりしてみせる。シェリルだけでなく、うっかり釣られてしまった3人も揃ってにっこり。若干名、口だけで笑っているので怖い。
「目もにこってしないと! シェリルさん、真顔でやったら怖いですって」
「笑顔のついでに、挨拶も練習だな。‥‥そう言ってもらえるか?」
 4人が交代交代で、シェリルと「笑顔で挨拶」の練習をしばらく続けたのだった。


 残るは、彼女の今後についてだ。村人達が何を望むかわからないため、村長に相談してみると、村長の反応はすこぶる悪かった。
「彼女のした事を考えれば、村人の反応は当然だと思います。けれど彼女の償いたいという気持ちはきっと本物だと‥‥だから村の為に彼女が出来ることを探してあげたいんです。
何か村の為に手伝えることがないでしょうか? なんでもいいんです。お願いします」
「まだそれほど事件から経っていない。今は、あまり目立ったことはしてもらいたくないんだよ。ワシも庇いきれなくなってしまう」
 シェリルを村から追い出せと、村人達が何度か村長に訴えにきたことがあったそうだ。今はまだ村長がなだめているために、村人達が直接シェリルに何かするといったことは見られないが、もしも2度目があれば‥‥そうでなくとも、シェリルに疑いがいくことがあっただけでも、シェリルは村にはいられなくなる。
 それを裏付けるかのように、ヒルケイプが事件の直接の被害にあった家を訪ねてみると、見知った顔のヒルケイプを歓迎してくれたのも束の間、シェリルの名が出た途端に表情が険を帯びた。
「あの時のことは思い出したくもないし、あの女の顔も見たくないんです」
「シェリルさんはあの事を許して貰おうとは思っていません。ただ、償いがしたいと。その気持ちは本当だと思います。それだけはわかって貰えないでしょうか? あの時、シェリルさんは赤ちゃんに泣きながら謝っていたんです」
「っ‥‥もうやめてください!」
 大きな音を立ててドアが閉まってしまった。何度ノックしても、出てくれない。
「ダメでしたかね‥‥」
「シェリルさんのことだから、言い訳どころか償いたいことも言ってないだろうし、伝えるだけでも良かったんじゃないか? ‥‥しかし困ったな。シェリルさんは何かしたいが村長は何もするな、か‥‥」
 シェリルが良かれと思ってやっても、迷惑になれば何の意味も持たない。考えに煮詰まり、悄然としていた4人だったが、不意に少太郎がパチリと指を鳴らした。
「そうだ、こんなのはどうです! 毒草の知識があれば解毒剤も作れますよね? それで薬を作って街で売って、そのお金を村長さんに渡してみたらどうです? お金で解決することじゃないですけど、ちゃんと更生してるんだよと行動して見せるんです」
「村の人が何かあった時に、そのお金を使ってもらえばいいわけね。目立ったことは出来ないから、それが良さそうだわ」
 これで安泰だと、早速シェリルに勧めてみたのだが、シェリルは申し訳なさそうな顔をしてうつむくだけで、首を縦に振らなかった。
「毒草はわかるけど、解毒剤や薬の作り方まではわからない。毒薬なら作れると思うけど」
 作り方がわからないという根本的なところで引っ掛かってしまった。毒薬の需要がどこにもないとは言い切れないが、今のシェリルに毒薬を作って売ることは、村人の心証を悪化させるだけだ。
「薬の作り方を勉強して覚える。それが一番いいみたいだし。‥‥あ、ありがとう、いろいろ力になってくれて。私、頑張ってみる」
 ひどくぎこちなかったが、シェリルは4人に向かって微笑んでみせる。
 短期間でこれだけ変化を見せたシェリルだ。村人達が彼女の思いをわかってくれる日が来ることを、4人は強く願った。