盛大なるお見送り
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:恋思川幹
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:10人
冒険期間:01月30日〜02月04日
リプレイ公開日:2005年02月07日
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●オープニング
庶民にとって旅と言う物は、そう簡単に出来るものではない。
第一に交通手段の問題がある。徒歩か、せいぜい馬くらいしかないのである。目的地までの距離にもよるが、ちょっと気軽に旅をしてくる、という訳にもいかない。
第二に危険性の問題がある。旅の途上では盗賊の類に遭遇することもあり、またモンスターの存在はそれ以上に脅威であろう。
故に旅に出ること、人を旅立たせることは、二度と再会できない覚悟を心の端に留めておかなければならないという意味で、かなり重たい意味を持っていたと言える。
そういった旅の困難さ故に旅立ちの見送りというものも濃密なものになることが多く、親類縁者が一堂に会して旅人を盛大に送り出す光景はしばしば見られるものである。
見送る側の若くて元気のある者が、いくつか先の宿場にまで着いていき、別れを惜しむような事例とても珍しくはない。
「庶民の旅人を装って、街道に出没する盗賊を退治して欲しい」
奉行所から協力要請が出されたこの依頼は、さほど珍しいものではないように思われた。
「六人か、八人程度のケチな盗賊団なんだが、なかなか尻尾を掴ませちゃくれない。そこで冒険者を囮にすることを考えたのだが‥‥すでに一組の冒険者が盗賊団に遭遇できず、失敗に終わっている」
返り討ちにあったわけではなく、遭遇できなかったのだと言う。
だが、一方で被害はなくなっておらず、囮の冒険者が避けられている可能性が高い。
「その一組の冒険者達も何もせずに失敗したという訳ではない。被害者達から聞き込みを行って、盗賊団がどうやって冒険者達の情報を事前に察知したのか、目星をつけてくれた」
転んでもただでは起きまいとする冒険者達の意地であろう。
「盗賊団の情報源は、被害者の旅人を見送りに集まった人々ではないかということだ。見送りの者達に被害者について色々と聞き込む者がいたと言う証言があったそうだ」
それによって、素性の確かな旅人だけを狙っているのではないかという。誰彼構わず襲っていては、今回のように盗賊退治の冒険者である危険がある。
「その盗賊の仲間かもしれない者が現れたのは、街道の最初の宿場街だ」
街道の最初の宿場町であれば、江戸から往復しても半日とかからない。故に、そこまで見送りにいく者は少なくはないし、標的とする旅人の目星をつけるには都合がいいのであろう。
ケチな盗賊はケチな盗賊なりに頭を使って仕事をしているということである。
「そういうわけだ。仔細はすべて任せる。冒険者だとばれないように、うまくやってくれ」
●リプレイ本文
●宿場にて
「気をつけてね」
「ボンボンまるだしじゃないかい、大丈夫かねぇ?」
「おはよーおかえりやすー」
「勉強、しっかりね」
見送りの言葉や心配の言葉がそこかしこから聞こえてくる。
名残惜しさにもっと遠くまで見送りたいというのは、旅立ちを見送る者に共通した想いであろう。だが、延々と歩いてきて最初の宿場町に着くタイミングは、ここらを潮時とするきっかけにもなるものであろうか。
「あなたも、江戸までの帰り道には気をつけてね」
と、朱蘭華(ea8806)のように見送りの友人に答えて、旅人達は宿場町から旅立っていった。
「‥‥ふむ。さっそく出てきたようだな」
宿場の出口に面した茶屋で茶を啜っていた橘蒼司(ea8526)が呟いた。
旅人達を見送った人々に声をかけて回る、不審な人物が一人。
いや、その様子はとてもさり気ないものである。事前に不審者が現れる可能性を知って観察していなければ、別段、不審とは思わなかったに違いない。
「思ったよりも、やるようだな」
意外に見事な盗賊の手際に舌を巻く蒼司は、茶屋で茶を飲み続けながら、不審者の観察を続けた。途中、団子を追加注文したのは、茶屋に対する彼の気配りであろう。
不審者が物陰で旅装に身を変えて宿場を発ったところまで見届けると、蒼司も先に発った仲間達に追いつくべく、街道を急ぐのであった。
●旅は道連れ
旅人を装った冒険者達は、一纏まりの集団と言うわけでもなく、それでいて互いに認識しあえる距離を保って街道を歩いていた。
むろん、冒険者として盗賊を誘いつつ、備えているからである。だが、盗賊の出没が頻繁になっているという情報があれば、他の旅人が視界に入る安心感は大きく、自然と歩調も揃っていることは、傍目にもそれほど不自然ではないだろう。
幸い、回りに冒険者以外の旅人の姿は見えない。黙々と歩いているのも不自然であるから、冒険者達は行きずりの旅人同士の世間話といった風を装い、互いに声をかけあってみたりもする。
「旅人を狙う盗賊、ね‥‥。また、悪知恵の働く人達だなぁ。知識は悪用する物じゃなくて。実験に使うものなのにさ♪」
メフィスト・アスタール(ea7098)はそう言うが、用途を限定してしまうことは、それはそれで偏っている気がしないでもない。銀髪の外国人ということで目立ってはいるが、人間換算で12歳の少女であるなら、盗賊にも狙いどころと見てもらえるだろうか? 見送りにきた友人達の情報操作に期待したいところである。
「何であれ、悪ならば滅ぼす。私は悪を滅ぼす鬼だ」
何の変哲もない旅の僧侶を装っている黒畑丈治(eb0160)が自らの信条を吐露する。筋肉質で背が高く、加えて老け顔なので、何の変哲もない僧侶というには少々、迫力があるかもしれない。
「盗賊か‥‥いつも迷惑な奴らだ‥‥ン‥‥」
行商人に化けた霧島小夜(ea8703)は、しきりに胸を気にしながら言う。今回、変装などに色々と骨を折ったのが彼女である。
何の変哲もない庶民というには、少々無理がないでもなかったが、概ね盗賊から見て美味しい獲物を装うことには成功していると言えた。
一日目の旅路は何事もなく、次の宿場に到着して終わった。
●不幸を呼ぶ小柄
二日目の行程。
この日、行木康永(ea7786)は朝からついていないことの連続であった。
宿泊した宿で朝食の用意を忘れられたり、出発の間際に黒猫に草鞋を奪い取られたり‥‥。
彼の荷物の中には、所有者に不幸をもたらすと言われている小柄が三本も入っている。そのことと関係があるのかはわからない。
だが、不幸はその後も続いていた。
ちょうど、昼時のことである。
大量の荷物を積み込んだ馬を曳いて歩いている康永。馬はどこかに預けてくる予定であったのだが、見送りの友人達との口裏合わせに矛盾が生じそうになったのを、駒沢兵馬(ea5148)の指摘で急遽、そのまま連れてきたのである。
草鞋の緒が突然切れた。
「大丈夫か?」
小夜が康永に声をかける。
「‥‥」
蘭華も声はかけないが、その場に立ち止まって康永が草鞋を直すのを待っている。
「ああ、すまねーな‥‥‥‥うぐぅ!」
二人に礼を言いながら、草鞋を直す作業を続けていた康永の背中に矢が突き刺さった。傷は軽いが積み重なれば、致命傷に繋がりえるものだ。
「!? ‥‥きゃあああぁぁっ!!」
蘭華が悲鳴をあげる。が、内心では『やっとあらわれたわね』と戦闘への心構えを作り始める。
「おおっと! 動くんじゃねえぞ!」
街道脇の茂みの中から野卑な声が響いた。
「赤毛の兄ちゃんよ、これ以上、痛い目にあいたくなけりゃ、大人しく荷物を渡してもらおうか? 随分と大層なものを持ってるって話じゃねえか」
三人が声をしたほうを見ると、茂みの中には短弓を構えた盗賊と首領と思われる男が陣取っている。加えて、六人の山賊が茂みから出て、三人を取り囲んだ。
全部で八人。情報通りである。
「え、な、何ですか貴方達は‥‥?」
『面倒だな。首領らしいのは遠くにいる』
小夜は怯えた風を装いながら、盗賊の狡猾さを冷静に分析している。
「あのゴツい坊主とおっさんから離れたのが運の尽きだったな」
首領が言っているのは、兵馬と丈治のことであろう。
確かに戦力を分断されている状態なのは事実である。
だが‥‥。
「‥‥そうでもないんじゃねーか?」
康永は、とっさの思いつきで自分の馬の尻を思い切り叩いた。
馬は大きく嘶いて暴走して駆け去っていった。
「てめえ、なにをしやがる!?」
「これで荷物は渡せないじゃん」
康永がおどけてみせる。
「ふん! どうやら痛い目にあわないとわからないようだな。おい、そいつをのしちまえ!」
首領の命令で二人の盗賊が康永に襲い掛かった。
●反撃
「はは、俺はやっぱ剣の腕をからっきしだ! けど攻撃から逃げるのは一線級ってな!」
矢傷で動きが鈍ってもなお、康永は盗賊達の攻撃を容易く回避していく。
「ええい! ちょろちょろとっ!」
盗賊達に苛立ちが出始める。
「頃合だな‥‥お縄の覚悟は出来たか? 盗賊ども」
「‥‥相手を選ぶのは良く考えたわね‥‥ただ‥‥それを見抜くだけの目と耳がなかったようだけど」
小夜と蘭華が盗賊達を挑発する台詞をはく。
「なんだと?」
「私達は山賊退治を依頼されたのよ。大人しく成敗されなさい」
「丸腰の癖に偉そうに‥‥い!?」
蘭華が背後にいた盗賊に蹴りを放った。丸腰の女、しかも死角にいると油断していた山賊に避けられる一撃ではなかった。
武闘家である蘭華は丸腰であっても十二分に戦える。
「こういう隠し方が出来るのは‥‥ある意味得かね?」
小夜が胸元から小柄を取り出す。
「『黒女狐』に化かされたのが運の尽きだな」
笑みを浮かべて口上を述べる小夜。だが、盗賊達は口上を聞くよりも、胸元から取り出される小柄という光景に意識を集中していた。この後、小夜にはそれに因んだ称号がつくことになるが、それを当人が喜んだかは定かではない。
「ええい! 取り囲めっ! 数はこっちが多いんだ!」
首領は部下を叱咤するが、そこに三人の冒険者が駆け込んでくる。
後方より暴走してきた康永の馬を見て、変事を悟った丈治達が道を引き返してきたのである。
「康永殿、お待たせしました! 盗賊達よ。私は、悪を改心させることができません。悪を滅ぼす事しか知らないのです。許されよ」
明王彫の剣を構えた丈治が盗賊を恫喝する。
「さて、拙者の相手になれる実力者はおるかのう?」
仕込杖の刀身を抜いた兵馬が楽しそうに盗賊の品定めをしている。
「みんな、頑張ってね!」
メフィストがエールを送る。
戦いは乱戦となった。
「食らえ!」
「うっ!」
盗賊の短弓から放たれた矢が丈治に命中する。
「南無!」
だが、痛みを堪えながら、呪文を発動させる丈治。盗賊の一人を神聖なる力が固縛した。
「うりゃ! えい!」
盗賊の繰り出す手斧を、小柄一本で捌ききる小夜。
武器が小さい分、普段よりも手数が増える。
「こちらからも行くぞ!」
威力が低くなっている分は技で補う。掠めるような素早い斬撃で、盗賊の鮮血が飛び散る。
「うわぁっ!」
斜め下からの体を掠める鋭い一撃に、盗賊が身を仰け反らした。
その隙を逃す事無く、返す刀の上段からの一撃に渾身の力を込めて振り下ろす。
「いてえっ! いてえよ!」
「これが燕返しのひとつだ」
痛みに戦意を喪失して転げまわる盗賊に、兵馬が言い放った。
実力と人数は互角であったが、徐々に冒険者達が優勢になっていったのは、地力の違いであろう。
「ちっ! 厄介なことになっちまった」
盗賊の首領はそう吐き捨てると、その場から逃げ出そうとした。
が、首元に突きつけられた霞刀がその逃亡を妨げた。
「部下を見捨てて逃げようと見下げ果てた根性だな。‥‥だが、無益な殺傷は好かん。大人しく縛につけ」
首領に刀を突きつけていたのは、他の仲間達から距離をとって歩いていた蒼司である。遠くから状況を察し、首領の背後へと回りこんできたのである。
ここに勝敗は決した。
●そして
冒険者達の傷は、丈治の癒しの神聖魔法だけで回復可能なものであった。
捕らえた盗賊達の傷も、そのままという訳にはいかないので、メフィストが治療を施す。魔法のように、すぐに完治というわけにはいかないが、自分達の足で奉行所まで連行されてもらうには十分であった。
「ところで、今まで奪った物の隠し場所を教えてくれるかな? 教えてくれないと、ボクの実験台だからね」
もちろん、すべてという訳にはいかなかったが、こうした強奪品の回収も加味されて、冒険者達は当初の提示額よりも多い報酬を手にしたのであった。