半島防衛作戦!
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 44 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:02月11日〜02月18日
リプレイ公開日:2005年02月20日
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●オープニング
房総半島の先端が上総、付け根が下総というのを不思議に思ったことがある。上野、下野などは都からの道のりの順になっているのに、上総が陸地の端にあるのだろうと。
調べてみると、どうやら昔は陸路を使う事無く、「走水の海」を渡って房総半島へ至ったそうで、それゆえに房総半島の先端のほうが、都から近い場所であったという事情であるらしい。
なぜ、海路を使ったのか? 江戸が発展し、周辺の土地も開拓が進んだ現代からすると、あまり想像がつかないことであるが、昔は関東はかなりの沼沢地帯であったからである。
その名残である沼沢地帯は今でも所々には残っている。
大きな沼に多くの半島や州などがあり、背の高い葦が一面に生い茂っている。
そういった沼沢地帯を利用したのが馬の育成する牧である。
馬を沼などに面する半島に追い込んでおけば、一方を柵や土塁で塞ぐだけで抜け出せなくし、管理を容易にすることができるのである。
「牧の警備ですか?」
冒険者ギルドに訪れた依頼人はそんな牧の管理者である。地方の小領主の家臣であるという。
「そうだ。小さな私牧に過ぎないが、最近、馬泥棒が狙っているらしくてな」
「ええと、期限がはっきりしない依頼になるのでしょうか? そうなりますと費用の方も‥‥」
いつ来るかもわからない泥棒避けの依頼では期限の区切り方が難しい。
「いや、期限はそう長いものではない。タレコミがあって、その馬泥棒達の隠れ家を事前に発見することが出来たのだ。お館さま自ら出陣して賊をひっ捕らえる。ついては出陣で人が出払っている間、念の為、手薄になる牧の警備に冒険者を雇おうというわけだ」
依頼人は三日もあれば足りると付け加えた。
●リプレイ本文
赤と紺のグラデーションが西の空を染めているのは、ほんの僅かな狭間の時間に過ぎない。気がつけば夜空に星々が瞬き、太陽に代って月の輝きが地上を照らしていた。
月明かりにほんのり照らされた牧にポツポツと灯りが灯されていく。ルゥナー・ニエーバ(ea8846)と柊海斗(ea7803)が昼間のうちに用意しておいた、篝火の台に火を灯して回っているのだ。
「・・・・ごきげんよう・・なら・・・昼も夜も・・・使えるかな・・?」
「そうか、そういう言い回しもあったな」
周麗華(ea9947)と雪守明(ea8428)が見張り小屋の屋根の上で牧全体を見渡している。雑木林などがあり、死角もあるが概ね見渡すことができる。
「‥‥美味そうな匂いだな」
「途中で買い求めた食材と、皆から集めた保存食を加えてな、調理しなおしておるのだ」
小屋の脇で焚き火を起こして料理をしている駒沢兵馬(ea5148)に、楊飛瓏(ea9913)が引き寄せられる。料理の工夫一つで、味気ない保存食もガラリと様変わりをする上に、全体の費用を安上がりに済ませることが出来た。
「出来上がったら交替で食べていこう。まずは屋根の上の二人を呼んでくれぬかの?」
「ああ。‥‥麗華殿、明殿。食事の支度がそろそろ出来るそうだ!」
飛瓏が小屋の屋根の上に声をかける。
「ん‥‥食事‥‥できたようね‥‥。楊っ、交替を‥‥呼んでくれる?」
「いや、わたしに交替はいらない」
麗華が飛瓏に返事をしたのを、明が遮る。
「今日の分の食事は用意してあるのでな」
そう言って明がバックパックから取り出したのは、おにぎりであった。
「出かけ際に志乃守が渡してくれたものでな」
「‥‥これは‥‥何かを模っている‥‥のかしら?」
「さあ? ‥‥‥‥だが、美味い」
そのおにぎりには技能は伴っていなかったようだが、気持ちは込められていたようだ。
その夜は何事もなく過ぎ去っていった。
翌朝。
「うわぁっ! これは心地よいものですね!」
「牧を一回りしますから、何か異常を見つけたら声をかけて下さい!」
片東沖苺雅(eb0983)と一緒に馬に乗ったシィリス・アステア(ea5299)が歓声をあげる。常々、馬に乗り、風を体いっぱいに受けてみたいと考えていたシィリスにとって思いがけず、楽しい一時となった。
牧の中に雑木林があり、一箇所から牧全体を見渡すことが出来ない。その為、こうして定期的に見回りをしているのである。
二人の乗った馬にはフードを目深に被ったルゥナーも馬で随伴している。フードを被っているのはルゥナーが日差しに弱い体質だからである。
「あっ、片東沖さん! 止まって下さい!」
雑木林を挟んで見張り小屋の反対側辺りまで来た時、シィリスが声をあげた。
「ドウ、ドウー! どうされました?」
馬を止めると、ルゥナーはシィリスに尋ねた。
「‥‥葦が踏みわけられているように見えたのですが‥‥」
シィリスの視力と植物に関する知識の組み合わせがそれに気づかせたのであろう。シィリスは馬から降りると水際にむけて歩いていった。苺雅とルゥナーも各々の愛馬を近くに待たせると、シィリスの後を追った。
「‥‥罠が、外されています」
シィリスが水際に見つけたものは、一見無事なように見える罠である。だが、巧妙に外されており、いざという時に用をなさないであろう。
「ここまで賊が忍び込んでいたことに、まったく気づかなかっただなんて‥‥」
苺雅が悔しそうに歯噛みする。
「我々には罠作りの心得のある人がいませんから、仕方ありません。けれど、まだ馬に被害は出ておりませんし、これで馬泥棒がここを狙っていることが判明しました」
ルゥナーがそう言って慰める。
「それに我々の罠もまったくの役立たずではありません。こういった工作に詳しい人間が単独で潜入してくるのであればともかく、馬を盗み取っていくとなれば‥‥」
「大勢の人数が必要になるから‥‥その全員が罠に詳しいとは限らない?」
シィリスが首を捻る。
「はい、正解です。罠解除に少なからず時間がとられるのであれば、我々の警戒にも引っかかります」
兵法に通じているルゥナーが解説してみせる。
「こちら側にも常駐の見張りをおきましょう。こちらが罠の解除に気づいて警戒している、と見れば襲撃を手控えるかもしれません」
「そうですね、今回の目的はあくまでも『馬と牧の警護』ですね」
苺雅がそう答えた。
「紅狼はもう月道を渡った頃だろうか?」
月明かりの下、狩野龍巳(ea2740)は武者兜に大鎧、面頬、皮外套、そして小脇に朱槍を抱えているという、すぐにでも合戦に参加できんばかりの出で立ちである。ただ一人、見張り小屋から雑木林を挟んだ反対側、つまり罠が?钁?ウれていた辺りの警戒に当たっている。
「異常はねえか? 龍巳さん」
龍巳のもとへ海斗と苺雅が馬に乗ってやってくる。二人はそれぞれの馬に乗って牧の周縁をゆっくりと回り続けて警戒している。
「ああ、今のところ、何事もないな」
龍巳も馬は持っているが、いかんせん六尺近い筋骨逞しい体つきに加えて、重武装である。彼の愛馬・野影への負担が大きい為、それほど動き回らない役割を買って出たものである。
「この調子なら、このまま無事に終わるんじゃねーの?」
「どうでしょう? 相手は十中八九ここを狙っているはずですし‥‥」
「そうだな。じゃあ、龍巳さん、またな」
海斗と苺雅がそんな会話を交わして、再び馬を歩かせ出した。
「ああ、またな」
そうして、龍巳が再び一人になって、しばらくしてからである。
ビュンッという弓弦の音とヒュッと風を切る音が響いた。
「んがっ!?」
何本かの矢が命中し、龍巳の姿が馬上から消え失せる。一本の矢は首筋に命中して突き立ったのが目撃できた。
「ようし、やったぞ」
水辺の葦原の中から数人の男達が出てくる。
「舟に合図を送れ、全員、上陸させるんだ」
馬泥棒達である。龍巳が一人になるのを見計らっての襲撃であった。
「冒険者を雇われたのは計算外だったが、なあになんとでも‥‥うぐぅ!?」
痛烈な打撃が不幸な馬泥棒を襲った。一撃で肩を砕かれ重傷を負った馬泥棒は悶絶して倒れ伏す。
「な、なんで生きてんだ!? 首に矢が刺さってるのに!」
「へっ、お前らのヒョロヒョロ矢なんざ、カスリ傷程度のもんだ!」
龍巳が兜の『しころ』から矢を抜きとる。
命中した矢は角度が浅かった為か、鎧の大袖や皮外套に弾かれていた。首筋に突き立った矢も、『しころ』と首の隙間でとまって、わずかにカスリ傷になった程度であった。
「賊が出たぞぉっ!!」
龍巳が大音声で仲間に呼びかけた。
「雑木林の向こう側、龍巳さんのいる方に賊が出たようです! 皆さん、起きて下さい! 僕もすぐに加勢に向かいます!」
見張り小屋の屋根の上で見張りについていたウェルナー・シドラドム(eb0342)は、遠く龍巳の叫びを聞き取るとすぐさま、小屋で睡眠をとっていた仲間達を叩き起こした。
「‥‥ん‥‥まて、徒歩の者は柵のほうへ向かえ。人は沼から上陸できても、馬は盗って行くには陸路でなければ難しい」
飛び起きた明がウェルナーに声をかける。
「あっ、そうか、沼のほうの一隊に呼応する賊がいるかもしれないですね。柵のほう、先に行っています!」
ウェルナーが外へ飛び出す。
「シドラドム、どうする?」
麗華が声をかけてくる。
「麗華さんは柵の内側を見回ってもらえますか。僕は柵の外側を見てきます」
ウェルナーはそう言い残して柵を潜りぬけ、足音を忍ばせて柵の外側の探索を開始する。そして、賊を見つけるのにそう時間はかからなかった。
「どうやら気づかれたようですぜ」
「ビビるな。人数はこっちの方が多いんだ」
などと茂みの中から話し声が聞こえてくる。賊はウェルナーに気づいていない。
『奇襲で一撃。その後に大声で仲間を呼ぶ』
腹を決めると慎重に賊の背後に忍び寄る。
「行くぞ! 柵を開いて馬の通り道を作るんだ!」
『今だ!』
賊が茂みから飛び出すのにあわせて肉薄して賊の背中に斬りつけ、確実な手傷を負わせる。『月露』の切れ味でなければ、カスリ傷にしかならなかったかもしれない。
「賊はこっちです!」
ウェルナーのあげた声に、柵の内側にいた麗華が気づく。
ピーーッ! ピーーッ!
麗華の呼子笛を中継として賊の位置が伝わる。
「ちくしょうめ!」
賊達も応戦する。だが、賊と冒険者達の実力はわずかな、それでいて超え難い壁が存在していた。
「‥‥沈め」
麗華の渾身の二連撃は瞬時に賊に深手を負わせる。
「戦場を掛ける、一閃の飛燕。即ち燕返し!」
兵馬の燕返しが閃く。佐々木流の奥義である『燕返し』は下段から斜め上に振る一の太刀と、返す刀の上段からの二の太刀を一体化させた太刀運びである。その中で、兵馬が得意とするところは敵の体を掠める一の太刀から、渾身の威力を込めた二の太刀の組み合わせたものである。
このようにして、一人一人確実に賊を潰していく冒険者達であったが、賊も伊達に人数が多いわけではない。冒険者達も少なからず手傷を負っている。
「伏兵はこれ以上いないか?」
距離を置いて戦いの帰趨を見守っていたのは飛瓏である。
『目の前の賊を排除することに躍起になり、馬を奪われたのでは話にならぬ』
と考えて戦闘に参加せずに警戒していたのであるが、クールなように見えて飛瓏は根が熱血漢であるし、武術の腕を磨く機会も逃したくはないと、内心ウズウズしていたようだ。
だが、彼の参戦を待つまでもなく、賊達は士気阻喪して逃亡してしまったのである。
「‥‥逃げるのを追う必要もない‥‥か」
一方の水際での戦いである。
龍巳によって出鼻を挫かれた賊達は龍巳を取り囲んで討ち取ろうとするが、すぐさま駆けつけた海斗と苺雅の為にそれも出来なくなる。
海斗の抜く手も見せない居合いをかわせるかどうかはほとんど運任せであったし、辰巳は朱槍の攻撃に耐えられる者はいなかった。そこに苺雅の援護が加わり、ますますどうしようもなかった。
明やルゥナーが駆けつけた時には、賊達はほうほうのていで逃げ出すところであった。
「とりあえず‥‥目的は達したようだな」
逃げ去っていく賊を眺めながら明が呟いたように、依頼の目的はひとまず達成されたのである。