【夢追い人】≪月道探索≫月夜の夢を‥‥
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月05日〜03月10日
リプレイ公開日:2005年03月13日
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●オープニング
徳三郎は奉行所の下っ端役人であるが、もとは九州の浪人で名を豊三郎と言った。
「源徳公にお仕えするのですから、すべてを投げ打ってご奉公いたします。まず手始めに公にお仕えするのに相応しくない『豊』の字を捨て、これからは徳三郎と名乗りまする」
そんな媚びへつらいが趣味のような男なのである。
そんな男であるから、源徳家康の直々の命による「月道捜索依頼」が冒険者ギルドに持ち込まれた時、
「先に月道の魔法を使える人間を確保しておけば、上司の覚えもめでたかろう」
と、考えて術者を探し始めたものである。
実際、『ムーンロード』の術者は貴重である。ジャパンで月道や精霊魔法を管理する陰陽師は、陰陽寮に属する役人であって京都を離れることは稀であり、志士や侍のように冒険者として活動することもほとんどない。
折りよく、今年の一月に独自の月道探索の為、護衛を冒険者ギルドに依頼したエルフのバードがいる、という話を聞きつけた徳三郎であったが‥‥、
「お断りいたします。月道を探せる機会は月に一度だけの貴重なもの。夢と現の狭間に漂う夢を追いかける私には、その機会をお金には換えることのできません」
ようやく探し当てた『ムーンロード』の術者はきっぱりと断った。
術者の名はレナーテと言う。
「んなっ!? こ、これは源徳家康公御自ら、音頭をとって行われている大捜索であるぞ! それに参加出来ることはどれだけの名誉と‥‥!」
源三郎が唾を飛ばして怒鳴るのに、レナーテは心底嫌な顔をする。
「そのような名誉は他の方にお譲りいたします。私には必要ありませんから」
「‥‥んぬ‥‥‥‥聞くところによれば、お前の月道探索などは夢に見た話だとも言うではないかっ! そんなものの為に‥‥」
「はい、皆、夢を見たのだと言って、私を笑いました。そんなものを追いかけている私に今さら名誉も富も関係ありましょうか? ただ日々の糧と、あれが夢でなかったと証明することを夢見る‥・・。今の私に必要なのはそれだけです」
レナーテはあくまでも主張を曲げるつもりはない。
「ぬうぅ‥・・お上に逆らうこと、必ず後悔させてやるぞ!」
徳三郎はそんな捨て台詞を残すと去っていったのである。
数日後、レナーテに対する徳三郎の陰湿な復讐が行われていた。
「すまないねぇ。ちょっとアンタには演奏させられないんだよ」
いつものようにレナーテが、近くの酒場で演奏させてもらいに行くと、店の女将がすまなそうに言った。
「何かあったのですか?」
レナーテが尋ねる。表情を見れば、自分を締め出すのが女将の本意でないことは察せられた。
「それがね。あの徳三郎のやつが‥・・」
仮にも武士を呼び捨てにする。この一点からも徳次郎の評判の悪さを感じさせるものがあった。
女将が話したところによれば、徳三郎が周囲の店を回ってレナーテの仕事を干すように圧力をかけているのだという。
下っ端役人と言っても、否、下っ端役人であるからこそ、市井の人間への直接的な影響力は強いのであり、徳三郎を快く思っていなくても、なかなか逆らいづらいものがあるのである。
「それで、冒険者に依頼したいことは?」
状況を纏め上げながらギルドの手代はレナーテに問い返した。
「徳三郎の悪事を暴いて、彼に付き纏われるのをどうにかしてほしいのです」
レナーテに好意的な人々から寄せられた噂によると、徳三郎はしばらく前から下っ端役人としては馬鹿に金離れがよいのだという。いつからかといえば、界隈のとある料亭に頻繁に出入りするようになってからだと言う。その料亭に公務で立ち寄った後、必ず妙に金を持っているのである。
それで人々は徳三郎と料亭の間で何か不正と癒着があるのではないか、ともっぱらの噂なのである。
「その噂が真実であるなら、その真相を突き止めてみせれば、それをどうとでもして徳三郎を黙らせることができるはずです」
役人の不正の捜査。それが今回の依頼である。
●リプレイ本文
●用心棒
さすがに山賊やチンピラほどの下卑た笑いではないのだが、れっきとした侍にしては下品と言わざるをえない笑みを浮かべてやってきたのは、徳三郎である。
「聞いたところによると、困ってるそうじゃないか? どうだ、月道を‥‥」
「お断りします」
言い終わる前に、レナーテはきっぱりと断った。
「ふ、ふん! そんな強がりが言えるかな?」
頬を引き攣らせながら徳三郎が言うのを、
「‥‥無粋な男だな。夢追い人の夢を込めた曲。静かに聞き入ることはできないのか?」
背後からぬっと現れた黒木雷(ea9844)が声をかける。
「私は黒木雷という者だ。レナーテ殿、そなたにちょっかいをかけている、良からぬ輩がいるとのことなのでな。用心棒を仰せつかった」
そう言って徳三郎を睨みつける。体格もよく背も高い雷の登場にたじろいだ徳三郎は捨て台詞を吐くと、その場を去っていった。
「ありがとうございます。助かりました」
レナーテがそう言って頭を下げた。
「なに、気にするな。これも依頼のうちなのでな。‥‥そうだな、依頼の報酬と別にお礼が頂けるというのなら、一曲聞かせて欲しい。夢追い人の、月夜に捧げる曲とやらを」
喜んで、とレナーテは答えて竪琴を手にとった。
●聞き込み捜査
「徳三郎ってのはね、店に難癖をつけては小銭をせしめるのが日課みたいなヤツだったんだよぉ」
「それが、ある時を境になくなったのですね?」
話好きの街の女将は嵯峨野夕紀(ea2724)に、そうなのよ、と続ける。だが、問題がなくなったわけでなく、
「‥‥その後は小銭をせしめるわけでもなしに、難癖をつけては『指導』などの名目で店を一時的にせよ、店を営業できない状態を作っていた」
ということである。これは直接的な収入にはならないだろう。
『では、その真意は‥‥?』
夕紀は推理をめぐらせる。
「けれど、そのような小悪党がいつまでも世にはびこることはありません。今はお役人様で在りますが、間もなく彼の御仁は自らの行いによって身を滅ぼすでしょう。その時はレナーテさんをよろしくお願い致します」
同行していた観空小夜(ea6201)が頭を下げた。
「ああ、任せといてくれよ」
女将は快活に返答するのであった。
●潜入捜査
もっともリスクの高い任務をこなしているのは、エルニーニョ・レアル(ea2660)と鈴苺華(ea8896)である。
問題の料亭に、苺華はシフールの特性を活かして空中から塀を飛び越え、エルニーニョは陽魔法インビジブルを使用して他の客の出入りに紛れて、潜入したのである。
『大変だけど‥‥頑張らなきゃね! レナーテさんの為にも!』
苺華は気合十分であった。それと言うのも、苺華は一度レナーテの月道探索に同行した経験があり、互いの夢を語り合った仲なのである。
『大丈夫! ボクが絶対助けてあげるからね♪』
その約束を守るべく、苺華は薄暗い天井裏をこっそりと歩いていく。目指しているのは徳三郎と料亭の主人の密会現場である。
屋根裏への侵入口を探していたら存外に時間がかかってしまったが、徳三郎達のいる屋根裏へとたどり着く。
「‥‥十五日に‥‥会合の‥‥」
「では、いつものように、相手の料亭で‥‥その分は‥‥」
苺華は二人の悪企みに耳を傾けた。
一方のエルニーニョは物陰から物陰へと渡るようにして、魔法を繋ぎながら探索を行っていた。魔法と技量によって、およそ素人に発見される気遣いはない。あとは魔法の効果時間に気をつけるのみである。
『‥‥帳簿っても、色々ありそうよね』
番頭らしき男が帳簿やその他の書類の類を前に作業しているのを発見したエルニーニョは考えた。何にしても番頭らしき男は邪魔である。
エルニーニョは壁を叩いて音を出し、
「あの、ちょっと厨房までお願いします」
と、声をかけた。
「ん? 誰だ?」
番頭は顔をあげるが、そこには誰もいない。訝しく思いながらも番頭は立ち上がって厨房へと歩いていった。
透明化しているエルニーニョは出ていく番頭と入れ替わりに帳簿のもとへ。
「ええと‥‥とにかく、ぱぱーっと目を通して気になるところを‥‥」
十分な読み書きが出来る程にジャパン語を学んでいたことが、ここで存分に役に立った。もっとも、商売の知識がないので帳簿の内容の精査までは難しい。
エルニーニョは大雑把に全体の把握に役立ちそうないくつかの帳簿を懐に入れるとその場を離れた。
●潜入
「宴席で演奏と踊りを披露するように依頼されてきたのですが‥‥」
料亭の裏口で小夜がそう告げる。レナーテ、エルニーニョ、苺華、雷を伴っている。
演奏家と踊り手達、それに荷物持ち兼用心棒という名目である。
「はぁ? そんな話は聞いていないぞ」
応対に出てきた使用人が五人を追い返そうとしたところに、
「やっべー、やっちまった。俺が伝え忘れました!」
田原右之助(ea6144)が軽い口振りでやってきた。新入りの見習い料理人として料亭に潜入し、雑用にいそしんでいた。
「おい、新入り! 忘れたってのは!?」
「旦那様に、芸人を呼んだから着たら丁重にお迎えしろって伝言で‥‥」
軽い調子を崩さない右之助に、使用人の説教が響きわたった。
「すまないです! とにかく連れて行きますね」
まだブツブツと説教をを続けている使用人から逃れるように、右之助が五人を案内して料亭の奥へと向かった。
「三人だ。奥のほうの部屋を頼めるだろうか?」
風月蘭稜(ea8626)が分厚い財布を示してそう言った。
「は、ははい! どうぞ、こちらへ!」
こうして蘭稜は、夕紀と竜造寺大樹(ea9659)を伴って、客として料亭への潜入を果たした。
奥の部屋を指定したのは、苺華が忍び込んだ徳三郎達の密談場所がそちらの方だからである。
これで冒険者全員が料亭に潜入している状態となった。
●決戦
「せっかくですので、食べるだけは食べておきましょう」
夕紀は運ばれてきた料理に箸をつける。
「味はまあまあ、特に悪くもなし、取り立ててよい訳でもなしですか」
もともと、夕紀の口調が冷たい感じであるためか、妙に辛辣な評価に聞こえてしまう。
「そうだな。事が始まったら、飯どころじゃないものな」
全員で徳三郎の密談現場を押さえようと提案したのは、大樹であった。
聞き込み捜査や潜入捜査を取りまとめて浮かび上がってきた徳三郎の悪事の全体像とは、この料亭の商売敵に徳三郎が難癖をつけて営業を妨害し、その隙に客を横取りする、というものであった。
「仮にも奉行所の役人だ。あまり大っぴらにすると、奉行所の面子を潰しちまう。そうなったら、徳三郎みてえな媚び諂いのうまいヤツは厄介だぜ?」
当初の計画で、バードであるレナーテの職能を最大限に利用して、路傍で徳三郎の悪事を弾き語りの歌にすることも考えていたのだが、そのような理由で中止したのである
「この際、ずかずかと入り込んで密会の現場を押さえ込んでやろうぜ」
という大樹の提案が通ったのであった。
不意に三人の耳に音楽の演奏が届いてきた。
「むっ‥‥始まったようだな」
蘭稜が呟いて立ち上がった。
「何事だ!?」
徳三郎が障子を開いて庭を見ると、
澄み渡るような竪琴の音を奏でるレナーテを中心に、
エルニーニョの太陽の精霊を楽しませる陽気な踊り、
苺華の大陸の力強く華やかな踊り、
小夜の日本の神々しい舞、
それら異なる種類の芸能が即興のコラボレーションとしては、見事に息のあった一つの芸能として、ほうと見惚れてしまう情景を作り出していた。
だが、数少ない観客である徳三郎と料亭の主はそれに見惚れているわけにもいかなかった。なぜなら、レナーテが演奏しながら口ずさむ歌は、徳三郎の悪事を即興の詩にしたものであったからだ。
「おのれぇ! あくまで逆らいおってからにぃ!」
徳三郎が怒りに歯軋りして、刀の柄に手をかけた。
「徳三郎様、ここはあやつらを任せましょう」
料亭の主人が懐から取り出した呼子笛を吹く。
すると料亭の隣の家の敷地から十二、三人のチンピラが乗り込んできた。料亭の主は正規の従業員とはまったく別にこうした人間を飼っていたのである。
「さあ、やってしまえ!」
チンピラ達がいっせいに襲いかかろうとしたところへ、
「サンレーザー!」
「あちぃっ、あちっ!」
エルニーニョの魔法がチンピラの一人を焼いた。致命傷というには遠いが突然の攻撃は、実体以上にチンピラを動揺させた。
用心棒である雷が演奏を続けるレナーテ達を背にして守るように立ちはだかる。
苺華は上昇してこの小さな戦場を睥睨し、小夜が数珠を手にして祈りを捧げ始める。
「さあ、かかってきたらどうだ?」
雷がチンピラ達を挑発すると、チンピラは腰だめに短刀を構えて体ごと雷に向かって飛び込んでくる。
「むぅん!」
雷の剣は流派を学んだ者のような巧緻な技の冴えは持たなかったが、しかし太刀行きの速さと優れた膂力はチンピラを切り伏せるには十分であった。
その一撃を見て、チンピラ達の動きに戸惑いが生じる。
そこに残りの冒険者達がなだれ込んできた。
「人数はこちらが多いんだぞ!」
料亭の主がチンピラ達を叱咤する。
だが、料亭の主はプロとしての冒険者の実力を甘く見すぎていたといえる。
短刀を構えて飛び込んでくるチンピラを大上段で待ち受ける右之助は短刀を我が身に受けるのを覚悟で反撃の一撃を繰り出す。チンピラはたちまち重傷で倒れふす。
「俺の筋肉は伊達じゃねえぜ!」
ニヤリと笑った右之助の負った傷は分厚い筋肉のおかげでわずかなカスリ傷だけである。
「おおおおっ!!」
2mを越える巨躯で六尺棒を振るうのは、その名の如く大きな樹のような存在感でチンピラ達を威圧する大樹である。
隣には同じくジャイアントの蘭稜が龍叱爪を振るい、蹴りを繰り出している。
「鳥爪撃!」
苺華は上空から不意に飛び降りてきては、目にも止まらない強力な蹴りを繰り出してくる。上空にまで気を配らねばならない緊張感を精神的疲労を増加させる。
まさに山賊達を千切っては投げ、千切っては投げ、といった具合に冒険者達の一方的な勝利で乱闘は終わろうとしていた。
それを目ざとく見つけたのは、非常に優れた視力を持つ蘭稜である。
「徳三郎、逃げるのか!」
チンピラ達が戦っている間に密やかに逃げ出そうとしていた徳三郎は、蘭稜の叫びに駆け逃げようとする。
「逃しません」
夕紀は徳三郎の進行方向、人一人分空けた部分の空間へ向けて、手裏剣を投げつける。ただ命中させるよりも、むしろ威嚇効果があるように思われたからだ。果たして、
「うぉわっ!」
足を止める徳三郎に、その背後まで追いかけてきた蘭稜の
「蛇毒手!」
奥義がその体の自由を奪ったのである。
「ご主人、あなたも罪の報いを受けませんとね」
小夜の神聖魔法が料亭の主を捕らえていた。
●夢を追い続ける者
多少、強引な手段に出たものの、いくつかの証拠と本人の自白を得たことで徳三郎の罪は確実なものであった。徳三郎を奉行所に引き渡した際、下っ端とはいえ奉行所の役人の不正を表沙汰にしなかったことに暗に礼を言われて、冒険者達は奉行所を後にした。
「皆さま、この度も本当にお世話になりました」
レナーテが冒険者達に頭を下げた。
「あの、改めて演奏をお願いできませんか? 夢と現の狭間に漂う夢を追う、その気持ちを奏でる音色を神楽舞を通じて感じてみたいのです」
小夜がそんなことを申し出る
「あっ、ボクもそれに賛成〜♪」
「あたしも楽しかったわ。また、やりたいわね」
「おう、是非、見せてもらいてぇな。あの悪党達だけに見せたなんてんじゃ、もったいないじゃんか」
右之助が拍手をすると、他の冒険者達もそれに習う。
今度はまっとうな観客達の前での素敵な舞台が出来そうである。
「‥‥はい、喜んで」
レナーテは微笑んだ。