≪月道探索≫武蔵国川越城
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 78 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月19日〜04月25日
リプレイ公開日:2005年04月27日
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●オープニング
●月道探索、その進捗状況
源徳家による関東と京都を結ぶ月道の探索は、京都の変事の影響で一時的に棚上げされていた。
その間、ただ手を拱いていたわけではなく、着実に資料収集とその分析、前回までの調査で明らかになった事実などから、月道探索は進められていたのである。
それにより月道の存在はより現実味を帯びた話として、世間の耳目を集めるに至っている。
調査された資料の中に、実は百年程前にも月道の存在が取り沙汰される事態が存在したことが確認された。
百年程前と言えば、太田道灌が治水を行い、風水都市としての江戸を築いた時期である。道灌の築きあげた江戸城と城下町は、源徳家が武蔵を治める現代にも受け継がれている。
おそらくは、その当時の江戸開発の途上において、それより以前の月道に関する記録の一部が流出したものなのであろう。
だが、百年前の月道に関する噂はしばらくして沈静化し、当然ながら、その発見にまで至っていない。
百五十年前、最初に月道が発見された時と同様に、この時にも陰陽師による隠ぺい工作のあったことは十分に推定できることであった。
●武蔵国川越城
その情報から月道のある場所の候補地として挙げられたのは、武蔵国川越城である。
川越城は江戸城と同時期に、やはり太田道灌によって築かれた城で、いわば江戸城の兄弟にあたる。
川越城の築城に際して伝承が残っている。
城などには付き物の伝承の類であるが、川越城の築城の時期を考えれば、なんらかの関わりがあった可能性は高いと判断された。
「川越城の回りは沼が多くて土地が柔らかく、道灌は城を築くのに悪戦苦闘していた。
そんなある夜、沼の主である龍神が道灌の夢枕に現れて
「明朝、一番早く汝のもとに現れた者を人身御供として我にさし出せば、築城は成就するだろう」
と告げたのである。
道灌は築城のために仕方なくお告げを守ることを決めた。
だが、朝になって一番にあらわれたのは、なんと自分の娘だったのである。さすがの道灌も驚き、逡巡しながら娘に夢のお告げの話を告げた。
すると娘は
「実は私も父上と同じ夢を見ました。これは龍神様のお告げです。大勢の人のためならば私はいけにえになります」
といって、皆が止めるのも聞き入れず沼に身を投げて龍神に身を捧げたのであった」
●霧吹きの井戸
川越城は武蔵国にあり、当然ながら武蔵国を治める源徳麾下の城である。
江戸から源徳家の要請で派遣されてきた陰陽師は丁重に迎えられ、城兵を集めて、城内の「月道」らしきところを捜索が始まった。
「陰陽師殿、どうにも見つかりませぬな」
四月中旬の陽気に額の汗を拭いながら、陰陽師の付き添い役の武士は言った。大人数での捜索であったが、目的のものは見つからずにいた。
「‥‥あの井戸は、まだ調べておりませんな」
陰陽師が指差した先に一つの井戸があった。
「ああ、あれは『霧吹きの井戸』と呼ばれるものであります。普段は封印されておりますが、敵が攻め寄せてきた時、あの井戸の蓋を外すと、城全体を濃密な霧が包み込み、敵を撤退させる力がある‥‥そう伝えられているものです」
武士は誇らしげに城に伝わる伝承を紹介する。
「開けてみよう。兵をここへ」
陰陽師はこともなげに言う。
「えっ!? いや、しかし‥‥」
「早く」
躊躇する武士を急き立てると、陰陽師は井戸の検分を始めた。
『おお〜っ!?』
果たして、井戸の蓋を開けて本当に霧が噴出してきた時、集まっていた城兵達は一斉にどよめいた。
「む?」
だが、霧はとても城全体を包み込むというには、程遠かった。
「井戸の周りを包んでだだけ‥‥か」
陰陽師が呟いたように、霧は回りを包むだけに留まっている。
陰陽師は霧の中へツカツカと入っていく。
濃密な霧は視界を遮り、ろくに前も見えない。陰陽師は手探りで井戸の辺りにまでなんとかたどり着いた。
「ふぅ‥‥これは城兵達の手には余るか?」
近くにあった石を井戸に放り込んでみる。
水がはじける音と石が硬い物にあたる音がほぼ同時にした。
音がするまでに若干の時間差があり、音が幾度も反響を繰り返したのが聞こえた。
「江戸へ使いを出せ。冒険者達を雇うんだ」」
霧から抜け出てきた陰陽師は付き添いの武士にそう言った。
「我々では不足と言われるか?」
「あなた方の武勇を疑うわけではない。だが、このような場所の探索に必要なのは武勇だけではない、それだけのことです」
不満を漏らした武士に陰陽師はそう諭した。
「不手際だったな。城兵を借り受けられるからと、細作を警戒して冒険者を雇わなかったのが裏目に出たか」
霧に包まれた井戸を見ながら陰陽師は悔しそうな顔をした。
「再び封印しておくように申し伝えてくれ。すぐにでも冒険者を呼んで内部の調査はするが、月道そのものの探索は来月以降に延期だ」
今から冒険者を呼んでも、満月の夜には間に合わない。陰陽師は悔しそうに顔を歪めた。
●リプレイ本文
●武蔵野を行く
うららかな春の日差しの下、広漠たる武蔵野を行く。
日本最大の平野である関東平野も大陸のそれに比べれば、ささやかなものであろうが、冒険者のうち九人は日本人であれば、素直にその広さに実感していることであろう。
ただ一人、外国人であるロニー・ステュアート(eb1533)にしても同じ島国であるイギリスの出身で、その広すぎる故に変り映えのしない風景に、折からの
「‥‥ぽかぽか陽気の良いお天気なのです」
によって、愛ドンキーのマイケルくんの背でコックリコックリと居眠りをしまい、一行からはぐれかけるという珍事も起こっている。
「ハハ、はわかりますけれどね。迷子になったら手間ですよ」
神田雄司(ea6476)もヒマがあれば寝ているという人間であるので、ロニーも気持ちは察せられたが、釘は刺しておく。
そうこうしている内に、一行は川越城に到着した。
「結局、それらしきものは見つからなかったか」
道中、探し物をしている風であった小野麻鳥(eb1833)が少し悔しげであった。
麻鳥の広範な知識の中に「武蔵国の北部には光る苔が生えている」という話があった為、それを井戸内部の探索に役立てようと考えていたのである。残念ながら、植物の専門知識として聞いた話ではない上に、知識そのものが大雑把に過ぎた。日陰や水辺などを見つけると、折を見ながら調べてみたものの、光る苔は見つからず仕舞だったのである。
●井戸に潜る
「綺麗なうなじだねえ」
嵯峨野夕紀(ea2724)は探索の邪魔にならないよう、あるいは自慢の黒髪を痛めないように、その長く艶やかな髪を一つに束ねて纏めていた。
うなじが顕わになっており、朱鳳陽平(eb1624)がそれを褒めたのである。緊張を解きほぐす為の軽口くらいのつもりであったが、
「あまり見ないで下さい。いやらしい」
表情一つ変えずに氷のように冷たいツッコミで応じる夕紀。
「あ‥‥はは‥‥」
強烈すぎる反撃に、陽平は渇いた笑い声を上げることしか出来なかった。
「この縄は拙者の馬に繋いである。合図があれば引き上げさせるから、いざという時のため、覚えておいてくれ」
鷲落大光(eb1513)が夕紀に縄を渡す。これをつたって井戸に降りるのである。
「ああ、それとこれを。他のみんなにも配るからな。目が使えないなら、耳をってね」
気を取り直した陽平が鈴を差し出す。
「かしこまりました」
夕紀は鈴を受け取ると帯にそれを結びつけた。
「んじゃま、準備が整ったところでご開帳と行きますか」
田原右之助(ea6144)が、霧吹きの井戸を封印している蓋に手をかける。
一同は武器に手をかけて身構える。
「なに。何か厄介なのが出てきても、俺が肉壁になってやるさ」
右之助が蓋を開けると、やはり霧が噴出してきた。
「本当にほとんど前も見えないのですね。この霧の向こうに月道がある‥‥かもしれないのですか。見つけてみたいものです」
山城美雪(eb1817)が見えることのない、霧の向こう側をじっと見据える。
「では、お先に失礼いたします」
夕紀が縄を伝って井戸の底へと降りていった。
●井戸の奥底で
「足元に気をつけて下さい」
夕紀が先に井戸の底に降り、とりあえずの安全を確認した後、他の冒険者達を導きいれる。
「うわっ!? 冷たい!」
宮崎大介(eb1773)は井戸の底の水に足を踏み入れ、その冷たさに驚きの声をあげた。
「降りたら、こちらに横穴があります」
井戸の底自体はそれほど広いものではなかったが、横に通じる通路があり、順次、そちらへ進んで後続を待つという形になる。
「少し深い水溜りといったところですね。それにしても‥‥」
次に降りてきた黒畑丈治(eb0160)は提灯でかざして辺りの様子を窺うが、
「こう霧が深いと真っ白なばかりですね」
提灯の明かりは霧の白に吸い込まれていくかのようであった。
「真っ暗いよりははるかにマシってもんだろ」
「ですね。少なくとも手元は照らせますし、お互いの存在を確認するくらいは出来ますから」
先に横穴に進んでいた右之助と大介が応じる。大介は筆記用具を用意しており、内部の地図を作成するつもりでいるようだ。
「符術を用いるにも明かりは欲しいところだな」
麻鳥がそう言って、手にしていたスクロールを紐解く。
「‥‥‥‥」
口の中でスクロールを読み上げると、精霊達が麻鳥に力を貸し与える。
精霊の力を借りた麻鳥の感覚が、水面の波紋のように広がっていった。
「何か、小さな反応が数多くあるな。山城、貴殿のほうはどうだ?」
麻鳥の使った魔法は比較的小さなものが動いている震動を捉えた。
「少々、お待ち下さい」
井戸を降りてきた美雪が同じくスクロールを紐解き、そこに記された精霊達の言葉を紡ぎあげたが‥‥。
「‥‥おかしいですね。私のほうでは呼吸をしている存在を感知できません」
「失礼ですが、術の発動に失敗したということは?」
丈治が美雪に問いかける。
「いえ、ここにいる皆様の呼吸は感知できましたから、それはありません」
「息をしていない、何かがいるということですか?」
雄司が尋ねる。
「俺が感知したものが生物みたいなものとは限らん。この護符では継続的に調べることはできんから断定はできない」
麻鳥が言う。
「とにかく、先へ進もう。田原、点呼を」
「おうよ! 田原! いち!」
「ロニー! に!」
順番に名前と番号を叫んでいく。
「よし、間違いなく全員いるな。進むぞ」
右之助が丈治から借りた六尺棒で、床や壁を叩きながら前進を始めた。
●地下迷宮
霧吹きの井戸の奥底にあったのは、想像以上に複雑な地下迷宮であった。
迷宮は明らかに人工物で、崩れ落ちないようにしっかりと床も壁も補強されていた。
「ここの分岐から右方向へは、およそ二十歩で行き止まり」
大介が小まめに迷宮の地図の作っている。視界が利かない中で、大介が描きあげていく地図と、
「とりあえず帰り道だけは分かるようにしないとな」
大光が壁にスコップでつけた目印が頼りである。
「はああ。一度、自分達の位置を見失ったら、戻るのに苦労しそうだ」
陽平が視界を遮られ続けるストレスに辟易したように声を出す。
「そろそろ一休みするか。いざという時があると困るしな」
麻鳥の提案で休憩が取られることになった。
「みんな、提灯の油を確認してくれ。こういう場所で、空気に毒がある時ってのは、油の減り具合に異常がでるらしい」
大光が提灯を持っている者達に確認を促がす。
「なんですかね、これは?」
「どうされました? 神田様」
「小さな横穴があるみたいです」
雄司と美雪がやり取りを交わす。
雄司が見つけたのは、移動しながらでは恐らく見つからなかったであろう、低い位置にある横穴であった。大きさはシフールでもやっと入れるか、どうかといったところである。
「調べてみます。さがって下さい」
夕紀が進み出て、横穴を調べ始める。
「‥‥罠ではない‥‥と思います」
罠などについて基本的な心得はある夕紀だが、断定できるところまでは至らない。
念の為、麻鳥と美雪がそれぞれ探知の為の魔法を使用するが、共に反応はない。
「狭いところなら、僕の出番ですね」
ロニーがそう言って横穴へ潜り込んだ。
と、
「抜いて! 抜いて下さい!」
潜りこんだロニーが悲鳴をあげる。
「大丈夫か、ロニー!」
右之助が急いでロニーの足を握ると、ロニーを穴から引き抜いた。
「イタタ‥‥何かに噛まれました!」
ロニーの言葉に冒険者達は穴を向けて提灯をかざしたが、
「蛇だ! 蛇が出てきた!」
「どこです?」
「足元にいるぞ!」
視界が悪いために相手の姿を捉えきれず、混乱する。
「ロニー様に噛み付いたモノ!」
混乱の中で美雪がムーンアローの魔法を発動させる。光り輝く矢はすぐさま、その場から遠ざかってしまった。
「もう‥‥逃げられた‥‥ってことか?」
打って変って静寂が訪れた中で、陽平がポツリと呟いた。
「どうやら、そのようです」
ムーンアローが帰ってこないのを確認して、美雪が答えた。
「ロニー殿、手当てをするのでこちらへ」
丈治がリカバーを使う為にロニーを呼び寄せた。
●川越城の竜神
地下迷宮の探索は長時間に及んだ。
規模の大きい迷宮ではないが、霧に立ちこめて視界が利かないことが、探索に時間をかけることになったのである。
「‥‥空気が変わりました。この先に広い空間がありそうです」
夕紀がそう言ったのは、そろそろ引き返そうかという意見が出始めた頃であった。各人の消耗、とりわけスクロールから魔法を使っている麻鳥と美雪の消耗は激しく、万一の事態に対応しきれないという危惧が出始めていたからである。
「せっかくここまで来て、見ていかないって手はないと思うなー」
陽平は好奇心を隠そうとしない。その一言で他の冒険者達も心を決める。
今のところ、この冒険での成果は地下迷宮の地図が出来上がったというくらいである。もう一歩、某かの成果が欲しいというのが冒険者達の気持ちであった。
急激に視界が開けた時、冒険者達は少なからず開放感を覚えた。
夕紀が言ったように、しばらく進んだところで広い空間にでた。そこには霧がかかっていなかったのである。
「う〜ん、視界が開けているのが、こんな気分のよいものだとはな」
大光がこった体を目一杯伸ばす。
「‥‥地下にしては、大きな池ですねぇ」
その広い空間の多くは池と呼べるような、大きな水溜りで占められていた。
『何者だ? 我が領域に踏み入りし者どもよ』
不意に重々しい声が響いた。
「な、これは一体?」
丈治が辺りを見回す。
すると池の水面が盛り上がり、巨大な蛇が姿を現したのである。
「うわあぁっ! おっきな蛇だ!」
ロニーが悲鳴とも歓声ともつかない叫び声をあげる。
『我はこの川越城に守護せし竜神なるぞ。悪意なく足を踏み入れたのであれば、直ちに立ち去るがよい。もしも、我が領域を踏み荒らさんとやってきたのであるならば、我が牙で食い殺してくれようぞ!』
威風堂々たる様子で竜神は、冒険者達を睥睨する。
「くっ‥‥。その昔、太田道灌の娘を食らったという竜神ですか」
丈治が武器に手をかける。他の冒険者達もそれぞれに身構える。
「待って下さい。とりあえず、殺気は感じられません」
雄司が仲間達を制止する。
「大人しく帰れば、襲われない‥‥ということですか」
大介が竜神を警戒しつつも問いかける。
『悪意なく足を踏み入れたのであれば、直ちに立ち去るがよい。もしも、我が領域を踏み荒らさんとやってきたのであるならば、我が牙で食い殺してくれようぞ』
竜神が同じ言葉を繰り返す。
「こいつは‥‥いったん引き返すか?」
大光が撤退を提案する。戦闘こそあったわけではないが、すでに冒険者達の疲労感は小さいものではなかったし、
「仮にも、この城の守護神を名乗る存在を勝手にどうこうは‥‥できませんね」
美雪の言葉も一面の事実であった。
時には退くことも勇気である。
「竜神様。あなた様の領域に無闇に踏み入ったこと、お許し下さいませ。悪意あってのことではございません。我らはすぐに立ち去ります故、なにとぞお怒りをお鎮め下さいませ」
美雪が竜神に向かって丁重に語りかける。
『直ちに立ち去るがよい』
竜神はまた繰り返した。
「後ろから襲われると厄介だ。殿を務めるとしよう」
大介は警戒を解く事無く、仲間達が再び霧の立ちこめる迷宮へと入るのを見届け、最後に霧の中へと入っていった。
「点呼をとろう。誰一人置いてはいけんからな。田原」
霧の中に入って、竜神の視界から逃れたところで麻鳥が言った。
「おう。田原! いち!」
竜神との出会いに動揺することなく、基本に忠実な行動によって冒険者達は全員無事に地上への帰還を果たしたのである。
●月道の発見
冒険者達が霧吹きの井戸に潜っている間に、地上では新しい動きがあった。
陰陽師・蘆屋道満とそのお供達が月道の正確な場所を見つけることに成功したという報せが川越城にももたらされたのである。
これによって、川越城における月道探索は打ち切られることになった。
むろん、川越城にこれまで知られていなかった秘密があることが明らかにした探索の成果は無駄ではなかったが、そちらの究明は月道探索とは別の話になることと思われる。