史上ありふれた冒険

■ショートシナリオ&プロモート


担当:恋思川幹

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月19日〜11月24日

リプレイ公開日:2004年11月25日

●オープニング

 入り江に面した小さな漁村での出来事である。
 その村では、そろそろ冬の旬の魚が取れる時期になってきたので、村のしきたりにより、大漁と安全を祈願する祭祀の準備が始められようとしていた。
 祭祀が行われるのは、入り江の岬にある社である。切り立った岩だらけの岬なのだが、岬の先端には不思議とポツンとそこだけ小さな雑木林があり、その中に建てられた小屋程度の大きさの社が建てられている。

 社のある雑木林へ至る為の道は二つある。

 一つは海上から舟を使って、岬に唯一つの小さな砂浜に上陸する方法である。
「せーの、よいさっ!」
 漁師達の掛け声とともに舟が狭い砂浜に押し上げられる。
 村の漁師数人が祭祀に必要な道具を舟で運んできたのである。
「よーし、荷物をおろすぞ」
「やれやれ、この急な断崖の一本道をえっちらおっちら登らにゃならんのか」
 一人が切り立った断崖を見上げながら泣き言を言う。
「なぁにを情けないことを言ってる。とっとと片付けないと日が暮れる前に帰れねえぞ」
「へいへい、わかって‥‥うがっ!?」
 返事をしかけて、漁師は呻き声をあげて頭をおさえて蹲る。
「おい、どうし‥‥うわぁっ!!」
 言い終わる間もなく、頭上からバラバラと石礫が降ってくる。漁師達は物陰に身を隠そうとしたが、頭上から降ってくる石礫から身を隠しきれるものではない。
「おい! あれを見ろ! 小鬼だぁ!」
 その声で漁師達が顔をあげると、切り立った断崖の上に数匹の小鬼が陣取って、砂浜にいる漁師達に向けて石礫を投げてつけてくるのが確認できた。
 そして、他の小鬼が何匹か社と砂浜を結び一本道を駆け下りてくる。
「に、逃げろー!」
 兎にも角にも漁師達に出来たのは、一目散に逃げ出すことだけであった。
 舟を砂浜から海に押し戻すのでは間にあわないとみた漁師達は、その身一つで次々に海に飛び込んだ。
 海水は冷たかったが、幸い漁師である彼らが溺れることはなかった。


「一体、あの小鬼どもはどうやってあの岬に入り込んだんだ?」
 村ではいつの間にか岬に住み着いていた小鬼にどう対処するかで議論が沸騰していた。
「泳いで渡ったのか、舟を使ったのか‥‥」
 そう言って年配の漁師が考え込む。何かが記憶の端に引っかかっている。
「小鬼ってなぁ舟ぇ使うもんなのか? だいたい、砂浜には俺達の舟があっただけだ」
「いずれにせよ、このままじゃ祭りが出来ねえ。早いとこ何とかせにゃあ‥‥」
「祭りができなきゃ、冬の魚が獲れなくなっちまう。ひもじい思いは真っ平だ」
 呪術もまた、それが信じられている時代においては立派な科学である。
 漁師達の中では、祭祀と漁業が明確な因果関係で結び付けられている。
「きゃああぁぁぁっ!! こ、小鬼が、小鬼がぁ!!」
「気ぃつけろぉ!! 小鬼が出たぞぉ!!」
 悲鳴があがった。
「今は引き潮だ! 岬から舟じゃ渡ってこれるはずがねえ!」
 岬周辺の海底は複雑な地形になっており、漁師達でさえ干潮時に岬に近づくのは危険であった。
「外にいるやつは、どこでも手近な家の中へ隠れろ! 急げえ!」
「鶏小屋が狙われてるぞぉ!」
「やめろ! 敵う相手じゃない! 出るんじゃあない!」
 様々な叫び声が村のあちらこちらからあがる。
「そうか! あの小鬼達は洞窟を通ったに違いねえ!」
 そんな喧騒の中で、先ほど考え込んでいた年配の漁師も声を上げた。

 社のある雑木林へ向かう道はもう一つある。それは、岬の付け根と雑木林近くとを結ぶ、今は立ち入りを禁止されている天然の洞窟であった。
 小鬼が引き上げた後、漁師達は銛や棍棒を手にして、小鬼が持ち去っていった鶏の血痕を辿っていった。年配の漁師が推測した通り、血痕は岬の先端へと通じる洞窟の入り口へと続いていた。
「やっぱり、ここを通って岬へ入りこみ‥‥ここを通って村を襲い‥‥また、ここを通って今も岬にいるに違いねえ」
 入り口を塞いでいた柵は長い月日のうちにボロボロになったものが小鬼によるものだろうか、破壊されていた。
 横幅はそれなりに広々としているが、天井がかなり低い。小鬼や子どもならともかく、大人は身を屈めなければ歩くことはできないであろう。
「こりゃあ、江戸に行って冒険者を呼んできたほうがよくねえか?」
「ああ、このままじゃ祭りができねえ。出来るだけ急いで退治してもらおう」
 その日のうちに漁師の一人が江戸に向けて、舟を漕ぎ出したのである。

●今回の参加者

 ea3402 エドゥワルト・ヴェルネ(19歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3503 鬼丸 太郎(31歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea6415 紅闇 幻朧(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8026 汀 瑠璃(43歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8109 浦添 羽儀(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8151 神月 倭(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8423 アレックス・ヤシチ(40歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●作戦会議
 爽やかな秋晴れの空の下、入り江に面した砂浜に寄せて返す波は優しげな波音を立てている。
「小鬼の数は多くても十匹以上は確認していないそうです」
 神月倭(ea8151)が砂浜に描き上げた地図に情報を書き加える。
 村に到着した冒険者達は、実際の地形を観察したり、漁師達から情報を聞き集めて、岬の小鬼を倒す作戦を練っていた。筆記用具の持ち合わせがなかった為、砂浜に大きな地図を描いている。
 実力的にはいずれも小鬼程度は鎧袖一触にできる猛者揃いであったが、
「舟を使って砂浜に上陸すると小鬼の石礫が雨霰‥‥。洞窟は自由に動ける小鬼に対し、拙者達は身をかがめなければならないで御座る」
 と、アレックス・ヤシチ(ea8423)が再確認したように、小鬼達が棲み着いた岬は天然の要害とも言える攻め難い地形である。
「無策で飛び込んだら、相手が小鬼でも痛い目にあうのは私達でしょうね」
 浦添羽儀(ea8109)が地図を見て唸る。小鬼以上の強敵がここには存在するのである。
「うむ、厄介じゃな。小鬼が、ではない。小鬼を取り囲んでいる天地自然の偉大さじゃ。天地自然は人々に恵みをもたらすものじゃが、此度のように大いなる災いとなって降りかかりもするものじゃ。なればこそ、天地の神々に感謝し、祈りを捧げる祭祀は人々の生活の礎、行われずは一大事じゃろ」
 汀瑠璃(ea8026)が神を祭る社のある岬を遠くに見やる。
「うん、だから祭祀はとっても大切なんだよね」
 白井鈴(ea4026)が瑠璃に同意する。実を言うと彼が祭祀そのものよりも、その後の宴会にこそ心引かれているのは秘密である。
「砂浜から上陸する組が敵をひきつけてはどうだ? 石礫の中を前進するのは困難だが、守りに徹して小鬼の注意を砂浜側にひきつけるくらいは出来る」
 紅闇幻朧(ea6415)が地図上の砂浜を指し示し、ついで洞窟の入り口から出口までをなぞっていく。
「その間にもう一組が洞窟を抜けて、小鬼の背後を突く。断崖の上で戦闘が始まれば石礫の数も減る。二つの組が合流したところで、一気に殲滅する」
 その提案に異論を唱えるものはいなかった。
「決定でござるな。拙者、多少でござるが舟の扱いに心得があるでござる。岬へ行くには拙者が船頭を仕つるでござる」
と、鬼丸太郎(ea3503)が名乗りでたところへ、
「‥‥鬼丸さん、張り切っているところに悪いけど、北はどっちかな?」
 エドゥワルト・ヴェルネ(ea3402)が問いかけた。
「北は拙者達が『来た』ほうでござろう?」
 鬼丸が指差した方角は南であった。


●洞窟
 二艘の舟が岬に近づいているのが遠目に確認できた。
 一艘は鬼丸が操る冒険者達の乗る舟、もう一艘は水先案内を務める漁師の乗る舟である。
 村にくるまでの道中で鬼丸がとんでもない方向音痴であることは発覚していた。よもや、視認できる距離で方角を間違えるとも思えなかったが、
「万が一、沖にでも出て遭難しちまったら‥‥」
と、心配した漁師達が水先案内を買って出たものである。
「さて、私達も出発しましょう。いくぶん曲がりくねっているようだけど、基本的には洞窟の中は一本道らしいわ。うまく小鬼が向こうに引き付けられてくれるといいのだけど‥‥」
 二艘の舟を見送った羽儀が、明かりを灯した提灯を洞窟の入り口へむけてかざした。
 話に聞いていた通り、洞窟は天井がかなり低くなっている。
 少し屈めばすむだけの瑠璃と羽儀はともかく、身長170cmを越える長身のエドゥワルトは普段から背筋がぴんと伸びているだけに窮屈な思いをせざるをえないだろう。
 だが、人選は悪くない。瑠璃と羽儀は動きが阻害されるものの戦えないほどではなく、ウィザードのエドゥワルトは片手で印を結ぶことが出来るスペースさえ事足りる。
「僕が先に立って様子を探りながら行くよ」
 そして冒険者達の中で、ただ一人自由に動き回れる鈴が斥候をつとめる。鈴が羽儀の持つ提灯の灯りを頼りに先行する。提灯の灯りの届かない暗闇へ、聴覚と嗅覚を研ぎ澄まし、小鬼の気配を探る。
『いない‥‥』
 ように思える。
 鈴は無言で手を振って、後続の三人を前進させる。
 提灯の灯りが移動した分だけ、また鈴が先行する。その繰り返しで漸進していく。
「ふぅ‥‥。向こうは上手く引き付けてくれてるかな?」
 窮屈さを紛らわす為であろうか? エドゥワルトが小さく呟いた。


●上陸作戦
「後はこのまま、まっすぐ砂浜に向かって下せえ! ご武運をぉ!」
 水先案内を買って出た漁師が、自分達の舟を止めた。彼らの協力は的確で、鬼丸は思った以上に楽に舟を操ることができた。
 上陸地点はもう目の前である。
「拙者達に任せれば万事大丈夫で御座る、大船に乗った気持ちで居るで御座るよ」
 アレックスが漁師達の声援に応える。
「各々方、準備はよいでござるか? 行くでござるよ!」
 鬼丸が櫓を握る手に力を込める。舟が砂浜へ向かって突き進んでいく。
「拙者の名はアレックス・ヤシチッ、日本の為に英国よりやって来たブリティッシュ忍者で御座るっ!!」
 舳先に陣取ったアレックスが声を張り上げる。
 その声に気づいたものなのか、断崖の上で小鬼達が数匹、騒いでいるのが確認できた。
「来ますよ!」
 小鬼達が投石を始めたのを見て、倭が注意を促がす。厚手の羽織を頭に被く。
 まだ、距離が開いている為か、石礫は命中しない。
「‥‥むん」
 幻朧の体が煙に包まれる。二度に渡る煙が晴れた時、そこには幻朧が二人いた。
「おお、これが本物の忍者の技で御座るな」
 本物の忍術を目の当たりにして、忍者に憧れるアレックスが感動の声を上げた時、舟底が砂に擦れる震動が伝わってきた。舟が砂浜から続く浅瀬に乗り上げたのである。
「いくぞ」
 幻朧がまっさきに舟から飛び降りる。『疾走の術』で強化された肉体とその分身が、瞬く間に波打ち際から砂浜へと駆け上がる。
 他の三人もそれに続く。
 目指すのは社へと続く一本道である。
 疾走の術と分身の術の効果で、小鬼は石礫を命中させられない。もともと小鬼が優れた投擲術を持っているはずもない。
 だが、一本道へ入り込もうとした時、小鬼の石礫が激烈な勢いで降り注いだ。
「ちっ!」
 幻朧は舌打ちをして、飛び退る。
 狭いとは言っても縦横に動き回れる余地のある砂浜までと違い、社へ続く一本道は狭くて動き回るのは困難である。かつ、小鬼は石礫を『動き回る標的』に対してでなく、『動かない場所』に対して集中させることが出来る。
「ここを駆け上るのは困難で御座るな」
 その優れた身のこなしで石礫を軽やかに避けていくアレックスだが、一本道ではその身のこなしを活かしきれない。
「ここは予定通り時間を稼ぎましょう!」
 羽織を被き、動き回ることで石礫を凌いでいる倭が呼びかける。
 砂浜を縦横に駆け回り、避けるのではなく命中させない動きをする幻朧。
 戸板を担ぎ上げて、石礫を物ともしない鬼丸。
 各々の方法で、冒険者達は石礫を凌いでいたが、次第に石礫の数が増していく。
「倭殿、拙者の後ろに隠れるでござるよ!」
 数が増した石礫を凌ぎきれなくなり始めていた倭を、鬼丸が戸板の陰へ呼び寄せる。
「すみません。‥‥けれど、私達は無事に役目を果たせているようですね」
「そうでござるな、もう一辛抱でござるよ」
 石礫の数が増したのは、断崖上の小鬼が数が増えたからである。断崖上には八つのゴブリンの影が見てとれた。おおよそ推測していた数である。
 断崖上では小鬼達が下卑た笑い声を上げていた。圧倒的な地の利を得て、冒険者を甚振れることに愉快で仕方がないのであろう。小鬼の残忍な性質である。その愉快さに小鬼達は他への警戒も怠って集まってきているのだ。
「悪趣味で、浅はかな連中でござる」
 小鬼達への嫌悪感に鬼丸が顔を歪めた時、突然、石礫の数が減った。
 半数以上の小鬼の動作が、まるで見えない力で押さえつけらたかのように緩慢なものになっている。いや、実際に地の精霊の力が小鬼達の動きを押さえつけていたのである。
「ギャアアァァ!!」
 動きが活発な小鬼のうち、二匹が断崖の上から悲鳴を上げて転げ落ちてくる。
「待たせたわね。さあ、反撃をはじめましょ!」
 断崖の上には、小鬼ではなく、羽儀と瑠璃が立っていた。
 瑠璃の鮮やかな金色の髪が潮風にゆられ、日の光にうけて神々しく煌めいた。
 洞窟組は無事に洞窟を抜け、小鬼達の背後を突くことに成功したのである。


●直会
 合流した冒険者達相手に、エドゥワルトの魔法で弱体化させられた小鬼達が敵うべくもなかった。
 小鬼達が殲滅されたことで、準備は慌しかったたものの、祭祀そのものは滞りなく行うことができ、村人達はほっと胸を撫で下ろした。
 冒険者達も参列し、江戸で行われているような大規模な祭りとは一味違った、小さく簡素でありながらも厳粛な空気を持つ祭祀に、ある者は学術的好奇心を誘われ、ある者は粛々とした気持ちになり、またある者はその後の直会を楽しみにしていたのである。
 直会とは、祭祀が終わって後、御神酒や御神饌として供えていた酒やご馳走を下げて、酒食する宴のことである。
 小鬼の騒動があったこともあり、無事に祭りを終えることの出来た喜びに宴席は大いに盛り上がった。
 冒険者達が参加していたことが、それに輪をかけた。
 浴びる様に酒を飲みながら駄洒落を飛ばすもの、忍者の弟子にして欲しいと頼み込んで断られる者、海の幸に舌鼓を打つ者、見事な舞踊を披露して拍手喝采を浴びる者。
 楽しげな宴は深更になるまで続いたのであった‥‥。