【釜鳴神事】変態殲滅戦
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月01日〜05月06日
リプレイ公開日:2005年05月09日
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●オープニング
●釜鳴神事
ジャパンには「釜鳴神事」と呼ばれる祭祀が各地にある。
江戸の郊外にある村にも、昔から釜鳴神事を伝える小さな神社があった。
その神社で惨劇が起きたのは、数ヶ月前のことである。
「ここで『カマ也珍事』というものがあると聞きマシタ」
一月、神事が行われる月に一人の妖しげな外国人冒険者がその神社を訪れた。
「あはは、『釜鳴珍事』ではなくて『釜鳴神事』ですよ」
江戸に近い村だけあり、神主はそれなりの教養人であり、言うなれば冒険者に近い寛容さを持ち合わせた人物であった。少々妖しげな外国人が相手でも物怖じせずに応対する。
「『カマ也神事』デスか? いずれにせよ、カマと聞いて黙ってはいては、このカマン・ベールの名が廃るのデス! 是非とも参加させて欲しいのデス!」
その名前が本名なのかどうか、ベールを被って顔を隠しているカマンは表情こそ見えないが熱い想いの丈を語っているのは見てとれた。
「見学を希望されるのですね。構いませんよ。外国の方が我が国の文化に興味を持たれるのは悪いことではありません。末席でよければ参列して下さい」
神主はにこやかに答えた。
それが惨劇を引き起こすことになるとも、この時は思いもしなかったのである。
●祭りの日の惨劇
村人達はさすがに顔を隠した外国人の存在が不安であったらしく、ちょうど村出身の冒険者が江戸にいたので、その冒険者を呼んで何か起きた際に備えることにした。
「おう、任せとけ! 祭りを汚すような心根なら、俺がとっとと追い出してやるぜ!」
呼ばれたのは金二郎という名である。この村の農民の出であるが、腕っ節自慢で浪人として冒険者稼業に勤しんでいる男である。昔から少々変り者と見られていたが、同じ村の出身ということで油断があった。
ともあれ、神事が始まった。
厳粛な空気の中、祝詞があげられる。神主の朗々とした声に参列者達は陶然とした心地になっていく。
と、その時であった。
「Kama Kama Fever!」
突如としてカマンが奇声をあげて立ち上がり、卑猥な動きで腰を振りはじめる。なにか儀式の間中、堪えていたものを堪えきれずに爆発したような雰囲気であった。
「おお、カマ、素晴らしきカマ! カマを讃えマスよ〜!」
参列していた一同が騒然とする。だが、カマンは構いもせず、卑猥な動作をやめないばかりか、近くにいた村人を後ろから羽交い絞めにすると、その尻に腰を打ちつける仕草を繰り返しはじめる。
「おい、金二郎、はやくアレを止めないか!」
「このままじゃ‥‥いや、もう十分に祭りは無茶苦茶だ!!」
村人達は金二郎に縋りよる。だが、しかし‥‥。
「ちっちぇえな‥‥」
慌てふためく村人達を見下すような視線で金二郎は言った。きょとんとする村人に金二郎は続ける。
「てめえら、全員、ケツの穴がちっちぇえってんだよ! 上っ面の儀式が多少崩れたくらいでうろたえやがってよぉ」
村人達は訳がわからない。怒りの対象になるのは、カマンであるはずなのに、なぜ自分達が叱責されているのか?
「そりゃ、今までの儀式の様子からはかけ離れちゃいるが、おめえらにはあいつの、この釜鳴神事に対する熱い熱い情熱を理解できねえのか!? 祭りに必要なのは上っ面の形式なんかじゃねえ! 祭りにかける熱い熱い情熱だぜ! あいつの心根は決して祭りを汚すようなもんじゃねえ!」
金二郎はそう言って村人達を怒鳴り飛ばした。
「おお、わかってくださいマスか? あなたとは熱い魂の契りを結ばねばなりまセンね! 肉体的なものではありまセン! もっと深く熱い魂の奥底の契りデス!」
カマンが金二郎に右の拳を差し出す。
「おうよっ! お前さん、なかなか小気味のいい、熱さだぜ! ようし、俺も手伝うぜ! お前さんの流儀でこの釜鳴神事を盛り上げようじゃねえかっ! かまかまふぃーばー!!」
金二郎は差し出された拳に自分の拳をあてて、互いの友情を確かめ合った。
●変態には容赦無用
「‥‥そのようなことがありまして、暴れまわる冒険者二人、どうすることも出来ず、我々はただただ尻の穴を庇って逃げ回るばかりでした」
神主は思い出すだけで背筋におぞけが走る、と青い顔をしている。
「祭りは当然、続けることも叶わず‥‥。その後、あの二人は行方を晦ましましたが‥‥もうすぐ次の釜鳴神事を執り行なう時期なのです」
毎年、一月と五月に神事は執り行なわれてるという。
「そこで再び、あの二人が戻ってこないとも限らないので、冒険者を雇いたいのです」
「では‥‥依頼の内容はその二人を神事に近づけない、ということで?」
ギルドの手代は一通り話を聞き終わって、質問を返した。
「いえ! そんな生温い話では、また冒険者に裏切られる可能性もあります!」
土壇場で金二郎が役に立たなかったことが、神主にトラウマになっているのだろう。
「神社周辺に存在する、ありとあらゆる変態を、理由の如何を問わずに排除していただきたいのです!」
神主は強い口調で言う。
「理由の如何を問わず‥‥ですか?」
「はい。出来うるならば、この誓約書に血判も頂きたいのです」
神主が差し出した一枚の紙には、次のような趣旨の内容が示されていた。
『私は以下の事を誓います。この依頼の当該範囲において変態行為を働いたモノ、あるいはその行為を擁護するモノを排除します。例え相手が肉親であろうとも、如何なる理由があろうとも、排除を行う妨げにはいたしません』
冒険者が署名する為の余白がある。
「こ、これは‥‥」
さすがに手代も誓約書の内容に引いてしまう。が、すぐに何か思い当たって、神主に問いかける。
「‥‥もしかして、実際に掘られました?」
神主の慟哭が冒険者ギルドに響き渡った。
●リプレイ本文
●
「‥‥」
「こんなものを押さねばならないとあな。変態の相手をするのも大変たい」
「釜鳴神事の行事、無事に成功させたいですネ」
「何だか最近、変態さんに会う機会が多いかもしんない」
「村の人達が安心していただけるのでしたら」
集まった冒険者達は各々の想いを込めて、指に小さな傷をつけては、その滲んだ血を朱にして拇印を押していく。
「うへ、ちょっと痛そうだな」
ファルク・イールン(ea1112)は怯者ではないが、もともと前衛に立って戦うタイプではない為に痛みに対して僅かに逡巡を示した。
「ところで、そのカマンと金二郎の人相風体を教えてもらいたいのだが」
先に血判を済ました九竜鋼斗(ea2127)が神主に尋ねたことで、冒険者達、そして神主の意識がそちらへそれる。ファルクとても例外ではなかった。
「カマンの人相はわかっていません。顔を布‥‥ベールというのですか? それで覆っていましたので。逆に外したところを見なかったとも言えます。金二郎については暑苦しいクドい顔といった具合でしょうか? 両者とも筋骨逞しい男でありました」
神主はそのように話す。
「相手は二人とはいえ、油断はできんな」
楼焔(eb1276)が言う。無愛想である分、それが落ち着き払った態度に見える焔であるが、心情としてはかなり怯えていた。その怯えの源が人間を相手に戦うことへの逡巡か、変態と戦うことによるものか? あるいは他に理由があったものか?
「そろそろ、出発しようよ。一応、辺りに罠とか仕掛けたいし、準備に時間は必要なんだ」
白井鈴(ea4026)が呼びかけて、一行は目的の村へと向かうこととなった。
「なんか忘れてねえか?」
ファルクは首を捻ったが、残念ながらこの場では思い出すことが出来なかったのである。
●
そして、金二郎とカマンの二人はやってきた。
村のはずれに姿を見せたという情報が、神事のある神社で待機していた冒険者達のもとへもたらされたのである。神事が始まる時間よりもずっと早い時間であるのは、神事に最初から最後まで参加するつもりであるからだ。むろん、彼らのやり方で。
「うわぁ‥‥く、くるぅ! カマ‥‥カマがぁっ!!」
二人がやってきたという話を聞いて、神社で手伝いをしていた村人が叫び声をあげた。
「アレは‥‥なんですか?」
字冬狐(eb2127)は怪訝な顔をして、叫び暴れる村人のことを尋ねる。
「嫌だぁ! そこは‥‥はぁ‥‥! し、尻は‥‥ぁっ!」
だが、冬狐も返事を待つまでもなく、村人の様子から察することが出来た。
「まったく。これも依頼のうち‥‥ということになるのでしょうか?」
この村人もまた、金二郎とカマンの犠牲者である。だが、この状況で放っておくわけにもいかない。
指先の小さな傷の痛みを思い起こしながら、身につけていた市女笠と外套とを華麗に投げ外す。その下からでてきたのは白い小袖と緋色の袴という身軽な衣装の冬狐である。
「誓約書に基づいてのことなので、ご無礼お許し下さい!」
さっと錯乱した村人の腕を掴み、体を屈めて相手の体の下に潜りこむと、体全体で突き上げるようにしてブンと放り投げた。
「がはっ!」
くるりと宙を舞った村人は強かに地面に打ちつけられる。
「今です! 取り押さえて下さい!」
冬狐が呼びかけると、その場に居合わせた村人達が次々に圧し掛かって錯乱した村人を取り押さえることに成功した。
「こんな犠牲者、もう増やしちゃいけないよね」
取り押さえられた村人を見ながら、鈴はこの依頼への責任感を一層強くする。
「ああ、ヤツらに負けたらどうなるのか。考えただけでも恐ろしい」
鋼斗が怖気をふって言う。あの村人のようにはなりたくない。
「絶対に負けない、いや絶対に倒す!」
●
金二郎とカマンは堂々と村の中を、まっすぐに神社に向かって歩いていく。
彼ら自身は悪いことをしているなどという意識はまったく持っていない。ゆえにこそこそと隠れて侵入するといったこともしはしないのである。
「相棒よ! 今度の祭りはしっかり盛り上げようぜ!」
「はい、前回は途中からKama Kama Feverでシタので、今度こそは最初からKama Kama Feverでスヨ!」
既に盛り上がっている二人。その二人が神社の鳥居の前までやってきた時、
「流れ行く時代と共に古き良き物に新しい息吹を与えるその志には賛同しますが‥‥如何せんやり方に問題ありです」
その笑顔は千両の価値、大胆不敵に語る17歳、大の大人二人を前に高らかに宣戦布告するは赤霧連(ea3619)!!
「へ、現れたな。新しいことをしようと思えば、必ず邪魔する輩が生まれるってな。お前みたいのがくる事くらい、計算のうちだぜ」
「オジョーさん! その程度ではこのカマン・ベールのカマの道を妨げることはできまセンよ!」
金二郎は日本刀を、カマンはジャパンでは珍しいサイズと呼ばれる戦闘用のカマ‥‥、もとい鎌を構える。
武器を構える二人を見て、連が応じる。
「そうですね。とことん語り合いましょう! そう、心で!」
スラリと抜いた霞小太刀、彼女のいうところの「心」、すなわち「魂」。刀は侍の「魂」に他ならない。
「‥‥いくぞ」
「鬼道衆・捌番『抜刀孤狼』九竜鋼斗‥‥参る!」
焔と鋼斗が連の背後から姿を見せ、駆け込んでくる。連が体力に少々見合わない重武装であったので、後続の二人は連に追いつき、3対2の状況で金二郎達と接敵する。
「衆の名前に頼り、てめえ一人の名前で戦えないヤツが俺に勝てるかよっ!」
金二郎が鋼斗に向かって挑発し、刀を振る。動きに繊細さのない我流ではあったが、太刀行きの早さと間合いの見切りは場数を踏んでいることが見てとれる。
「鬼道衆の名を汚さないという責任! 衆に属して初めて芽生える覚悟というものもある!」
鋼斗は抜刀して金二郎の刀を受ける。
「‥‥抜刀術が刀抜いちまったなぁ」
鍔迫り合いをしながら、金二郎が鋼斗に囁きかける。
「くぅ‥‥」
鋼斗が地を蹴って大きく間合いを取り直すが、すぐさま追撃する金二郎に刀を納めなおす暇がない。彼の流派は夢想流、抜刀術である。
一方とカマンと対峙する焔も苦戦を強いられていた。
振り回されるサイズの鋭さは伊達ではない。武器の重さを有効に活用した一撃は辛うじて受け流すので精一杯である。
カマンが威力よりも、確実に攻撃を当てることに専念していたら、捌ききれなかったであろう。もっとも現状でも少し気を抜けば、相当な痛手を被ることは十分に予想できる。
(重い武器の活用が得意技なら‥‥武器を封じられるか?)
「てやっ!」
「甘いデスよ!」
焔は武器落しの技を試みるが、いずれも防がれてしまう。格闘技術に大きな差がありすぎた。
側面から連が攻撃を仕掛け、こちらは何度となくカマンに刃をあてるが、分厚い装甲と筋肉の壁に有効な攻撃が与えられていない。
だが、一人で越えられない困難であるならば、仲間と協力して乗り越えればよい。
「今の組み合わせじゃ、こっちに不利だよ! 戦う相手を入れ替えて!!」
横から戦況を見ていた鈴が声をあげる。互いの得意分野は依頼を受けた時、各々の自己紹介で聞いていたから、その分析が可能であったのだ。
「‥‥だが、簡単にはさせてくれんようだ!」
焔が答える。鋼斗もまた、目前の敵との戦いに手一杯である。
「僕だって足止めくらいなら!!」
鈴が右手に持った鬼神の小柄と左手の手裏剣を順次投げ打つ。
威力が足りず、有効な攻撃とはなりえなかったが、金二郎とカマンの動きを制する効果は十分であった。
その間隙をついて。
「遅くなりました!」
念の為、他の方面の見張りに行っていた冬狐が馳せ参じて、カマンの前に立ちふさがる。かわって焔がカマンから大きく距離をとることに成功する。
「力で勝てるとは思いません。けど、己が信念を突き通すため、己が全てを持って眼界に迫る敵を蹴散らし進み行く決意は持っています!」
「いい覚悟してんじゃねえか、嬢ちゃん」
鋼斗を金二郎から引き離す為に立ちはだかった連の姿に、金二郎はニヤリと笑みを浮かべた。
「金二郎さん‥‥それにカマンさんも。伝統をこんな形で押し潰そうとするあなた方には、ちゃんとこの行事について三日三晩ぐらいお説教&説明をしてあげないといけませんネ」
小太刀を振り上げて打ちかかる連。だが、金二郎の剣のほうが早かった。
斬撃をまともに受けて、膝をつく連。
「連!!」
装備の分だけ、冬狐に送れたファルクがその様子を見て驚愕の声をあげた。
「‥‥二の太刀は出させん!!」
焔が金二郎に打ちかかる。左手の煙管が日本刀を打ち落とし、ほぼ同時に足払いを繰り出した、その技は金二郎は仰向けに倒れた。
「‥‥終わりだ」
焔は倒れた金二郎の鳩尾に拳を突きおろし、金二郎を気絶させた。
すばやい身のこなしでカマンの攻撃をかわし続ける冬狐。だが、得意の「投げ」はカマンの実力の前には通用しなかった。
「くぅ‥‥これが純然たる戦士の実力ですか?」
だが、駆け出しの陰陽師がファイター相手にここまで渡り合えるのは大したものである。
「後は任せろ!」
背後からの声に反応して、冬狐が大きく飛びのくと同時に、間合いをすぅっと詰めた鋼斗が抜く手も見せぬ一撃をカマンの装甲の隙間に斬りつけた。
「抜刀術‥‥『一閃』!」
「攻撃が‥‥見えまセンでした‥‥」
実力はカマンが上であったが、鋼斗の技がそれを上回ったのだ。
さらに鎧の隙間に二度三度と斬りつけ、さしものカマンも大地にふした。
「連! 連、しっかりして!」
鈴が駆け寄る。
「大丈夫‥‥鎧がなかったら、と思うとゾッとするけれどネ」
連の身を包む白い武者鎧はしっかりと持ち主を守っていたのである。
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「嫌がる連中に無理やりっつうのはよくなかったんだよな。やっぱこういうのは同意が必要だろ?」
倒れた二人を鈴から借りたロープで縛り上げながら、ファルクはそんなことを語りかけていた。
「つまり‥‥同意を得れば、彼らの変態行為を容認するということですか?」
冬狐が尋ねる。
「まあ、それならアリかなっても思うけどな」
何気なしに答えたつもりだったが、ふと周囲の視線が険しいことにファルクが気づく。
「‥‥出来れば戦いたくは無かったが…これも依頼だ。容赦はせんぞ‥‥!」
「私達の思いと貴方の思い、相反するならばトコトン闘えばいいじゃないですか?」
「お約束を守らないのがいけないんだから‥‥」
「安らかに眠れ‥‥」
「そんな‥‥何故、あなたまで?」
それぞれの得物を構えてファルクを取り囲む冒険者達。
「ちょ、ちょっと待った! どういうことだ、これ?」
「ファルクだけ‥‥血判を押していなくて‥‥まさか‥‥とは思ったんだんだけど‥‥」
鈴が残念そうに血判状を指し示す。
「忘れてたのはこれかああああああぁぁぁっっっ!!!」
ファルクの絶叫が木霊したのであった。
なお、事前の打ち合わせで血判を押す胸を表明していたことから、単なる出発時のゴタゴタの中での押し忘れ‥‥ということで、情状酌量が認められたことを付記しておく。