罪深く可憐な少女
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:8人
冒険期間:05月26日〜05月31日
リプレイ公開日:2005年06月03日
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●オープニング
●後朝
男は明け方にふと目を覚ました。
隣では可憐な少女が寝息を立てている。寝顔もなんとも愛らしい少女だ。
あれだけ激しく燃え上がった後だというのに、少女はきちんと寝間着を着込み、だらしない様子はない。
(さすがに育ちのよいお嬢さんってことかね?)
ひきかえ、男のほうは素裸のままである。寝間着も脱ぎちらかしたまま、その辺りに‥‥と思った時、男は気づいた。
褌まで含めて、彼の寝間着は綺麗に折りそろえられて枕元に置かれていたのである。おそらくは少女がしたものなのであろう。
(つくづく行き届いているものだ)
苦笑いを浮かべた男はそっと布団を抜け出すと寝間着を身につけはじめた。
実際、少女は中級武士の息女なのである。これが下級武士の息女であったなら、もう少し庶民染みてしまうであろう。上級武士の令嬢であったなら、逆にかしずかれる身分となって細やかな心配りが出来るようにはならない。
庶民とは確実に一線を隔し、しかし自分のことは自分ですることを求められる、この階層の武家の家庭こそ、もっとも凛とした品格を求められる厳格なものであるまいか?
が、それ故に、この少女が身分も地位もない冒険者の浪人風情の棲家で、夜を過ごしていることが知られたなら、ただではすまないことであろう。
「‥‥‥ん‥‥朔次郎様・・‥?」
少女が寝起きの少し擦れた声をだした。
「‥‥わりぃ、起こしちまったか?」
「いえ。わたくしこそ気づかずに‥‥」
身を起こそうとする少女を、男‥‥朔次郎は制した。
「そのままでいいさ、俺ももう一眠りする。それに小鳥の寝顔は愛らしくて、見てて飽きないものだしな」
「ねっ、寝顔だなんて‥‥お見苦しいものをお見せしてしまい、恥ずかしいですわ‥‥」
真っ赤になって俯き恥らう少女‥‥小鳥。
純情であるとか、清楚であるとか、あるいは清純といった言葉こそが、小鳥に似つかわしい言葉であるはずだ。
だが、小鳥は、そんなイメージとは裏腹の言葉の数々に染め上げられていた。
『倒錯』
『変態』
『背徳』
『禁忌』
『罪業』
『不倫』
『堕罪』
etc――
探せば幾らでも出てくるであろう、そんな言葉の数々。
この一見清純そうに見える初な少女が、そんな言葉によって彩られ、染め上げられているという事実は、この上もなく淫靡である。
その淫靡さに、朔次郎は背筋が痺れあがるような悦楽を感じていた。
いや、そういう淫靡さでなければ、朔次郎は悦楽を感じない性質であった。
いわゆる変態なのである。
そして、小鳥をその変態の嗜好にあうように堕としめたのは、他ならぬ朔次郎自身である。小鳥は朔次郎の思惑以上に、朔次郎の理想を体現した『罪深く可憐な少女』に化けた。
(‥‥‥最高だ‥‥)
本心からそう思う。そして、その理想をこよなく愛していた。
「朔次郎様? 何を笑っておられるのですか? わたくしの顔に何かおかしなことでも?」
朔次郎の腕枕に抱かれた小鳥が不安げに問いかける。
「‥‥俺がお前をどれだけ愛しているかということをかみ締めていたんだ」
朔次郎は小鳥を引き寄せて、その唇を吸った。
「‥‥ぁっ‥‥!」
耳まで茹蛸のように真っ赤になる小鳥。そんな様の一つ一つこそが、いとおしい。その裏に潜むと背徳と倒錯の香りが限りない官能を引き出しているから。
朔次郎は『人間』である。
そして、小鳥は『パラ』であった。
それは罪深く、倒錯的で、変態というべき、恋人達の真実‥‥。
●親心
「娘を殺して、わしも死ぬんじゃーー!!」
冒険者ギルドに響き渡ったのは、中年男の声であった。
「と、とにかく落ち着いて下さい!」
腕を振り上げて暴れるパラの侍を取り押さえにかかるギルドの手代や通りすがりの冒険者達。
パラの侍も刀を抜かないだけの分別だけは持ち合わせていたが、それ以外は激しく興奮していて、取り押さえるのも一苦労である。
「なんだい、ありゃぁ?」
「なんでも、家出した娘さんを探してくれって依頼らしいんだがね。手代が、娘さんのことさぞ心配でしょうね、って言った途端に、わしは娘を殺す為に探してもらうんじゃー、なんて叫びだしてな」
遠巻きに見ていた野次馬がそんな会話を交わす。
「よもや! よもやぁ! 我が家から、かようなふしだらな! 罰当たりな! ただの駆け落ちならば、まだ許せよう!!」
パラの侍は取り押さえにかかっている手代の耳元で叫ぶ。
「じゃが‥‥じゃが‥‥よりにもよって、人間の男と駆け落ちじゃとおぉっ!! きええぇぇっ!! 情けなや! 恥ずかしや!」
「お、落ち着いて下さい。何も殺さずともよいでしょう」
手代がパラの侍を説得するが、
「い〜や! 小鳥は‥‥娘はわしが厳しく躾けたのだ! 軽薄な気持ちで駆け落ちなどせんわ! ‥‥したからには‥‥命を賭ける覚悟を決めてのことよ!」
喚き散らすパラの侍が最後に一際大きな声でもう一度叫んだ。
「小鳥を殺して、わしも死ぬぅっ! それ以外にご先祖様にあわせる顔がないわいっ!!」
●過去
朔次郎は冒険者である。
その棲家は冒険者長屋の一角にある。
「いってらっしゃいませ、朔次郎様」
指をついて深々と頭を下げて、朔次郎を見送る小鳥。まるで朔次郎の妻となったかのような姿である。
(小鳥と一緒にこんな暮らしを続けていくのも悪くないな)
小鳥に見送られて、生業の用心棒の仕事に向かう道すがら、作次郎はそんなことを思う。
(だが‥‥俺のこの気持ちが‥‥いつまで続くのか‥‥それを思うと心苦しい‥‥)
所詮は変態。常ならぬ恋しか出来ないのが、朔次郎であった。であれば、常の男女のように一生を二人で添い遂げる、なんてことが出来る性質ではないことを朔次郎は自覚していた。
事実、過去にも同じように罪業に堕としめ、それ故に愛しく想った女性が幾人もあり、時とともにあっさり捨て去ってきたのである。
(不誠実であったとは思わない。その時々には俺は本気で彼女達を愛していた。ただ‥‥気持ちが冷めてなお、義理で付き合っていける関係ではなかった)
かつて愛したパラの少女達、あるいはジャイアントの少女達を思い起こす。
(結局、惚れた相手を幸せにすることが出来ない男なんだろうな、俺は)
朔次郎はただ自嘲するばかりである。
●リプレイ本文
●とにかく落ち着いて
「おお、来てくれたか。さっそく小鳥を探す為の情報集めじゃな? 何でも言うがいい。最大限協力させてもらうぞ」
依頼人の家を訪れた冒険者はそのように迎えられた。
「それもあるんだけどね。ちょっとお父さんにも落ち着いて欲しいのよね」
仔神傀竜(ea1309)がまず依頼人に自重を求めた。
「なんだと?」
依頼人は顔をしかめる。
この依頼に関して、冒険者ギルドからそれとなく円満解決を目指して欲しいという要請がされていた。依頼だからといって、
「いくら何でも娘を殺して自分も死ぬ‥‥なんて良くないと思うよ」
と白井鈴(ea4026)が言うように、依頼人がギルドで叫んでいた内容を実行するのを見過ごすことは出来ない。
「貴様らに何がわかるか! それ以外にどうしろと‥‥!」
たちまち依頼人は激昂する。
「死ぬのはいつでも出来ますから。とりあえず我々に任せてくださいな」
神田雄司(ea6476)が宥めにかかる。
「それに小鳥さんがこの屋敷に戻ってきた場合は‥‥どうする気だい?」
「そうだよ、小鳥ちゃんが諦めるなら、帰ってこれる場所は親のところなんだからさ」
風森充(ea8562)が、鈴が言葉をつぐ。
「‥‥小鳥を連れ戻せるというのか?」
「そのつもりですよ? 相手の男が真剣であれば、異種族だろうと、私にとっては問題はないのですがね。どうも朔次郎という男は普通ではないらしいですからね」
北天満(eb2004)は手伝ってくれている冒険者達が集めてきた情報から、そのような判断を下していた。
「‥‥異種族でも問題ないだと!?」
だが、依頼人は異種族ということに関する部分に反応した。
「ええ、問題は種族ではなく、あくまでも個人のありようと考えております。例えば、父御は種族だけで、嫁様を選ばれたとおっしゃりますか?」
「うん、異種族間でのお付き合いは良くないかもしれないけど、異種族でも惹かれるモノって形は違えどあるでしょ。う〜ん‥‥難しい話はあんまり得意じゃないんだけどそういうのじゃダメかな?」
満と語調をあわせて、鈴も言う。
「友情や連帯なら、そういうこともあろう。わしとて侍であれば、ご主君も人間であるし、いざ事があらば轡を並べる者達も様々だ。異種族で気のいい友人もおる。だが、伴侶を選ぶのに種族をなど気にする必要がどこにある? 考えるまでもなく、同じ種族であろう」
そも異種族恋愛の問題は単なる宗教的倫理、迷信的道徳にのみ由来するものではない。もっと即物的にありえない性的嗜好であり、セクシャルマイノリティと言う言葉があれば、それこそが相応しいであろう。マイノリティ故に様々な倫理や道徳、差別が生じたのか? 先に倫理や道徳があってマイノリティに追いやられ、差別が生じたのか? その辺りが分明ではないにせよ。
異種族恋愛についての議論は続けても堂々巡りであろう。
「あなたが言うように異種族恋愛が間違いであるのでしたら、いずれ間違いに気づいて小鳥さんは戻ってこられるでしょう。その時、出来れば武士ではなく父親として受け入れて欲しいです」
瓜生勇(eb0406)は話の矛先を変えた。
「我が子を殺めることでこの件を収め、自害することで対面を保つなんて‥‥何故なのです? 子どもは守るべき者のはず」
「とにかく‥‥私達はね、小鳥ちゃんと相手の男を別れさせようって考えてるわけね。でも、別れさせた後、小鳥さんが帰れる所がなくちゃ、困っちゃうでしょ?」
傀竜が依頼人との間の共有できる目的を改めて提示する。
「‥‥娘が戻ってくるというのなら‥‥それもよいだろう。出来るのであれば、な」
「ま、酒でも飲んで待っててくださいよ。‥‥少しは残していただけませんか? 終わったら祝杯の一つもご相伴にあずかりたいですから」
雄司はのほほんとそんなことを言った。
●インターミッション
「ああは言いましたが、厄介なことですねえ。愛情ではなく悦びを持つ者と悦びを教えられた霧中な人ですか」
雄司は相変わらず、暢気な様子でそんな独り言を口にする。
「父親ですか。‥‥あたしも父を説き伏せ、故郷を必死の想いで出てきました。町に出てからはいろいろな人に出会い、今ではお付き合いしている男性もいて‥‥」
勇はなんとなしに感慨に耽る。
「あたしの育てた子も‥‥同じような恋に苦しんだことがあるのよねぇ」
まだ、恋に苦しむ年齢の子どもがいるようには見えない傀竜が言う。何か複雑な事情があるのかもしれない。
●朔次郎
「来たか」
冒険者の生活圏内で冒険者を見かけるのは、そう珍しいことはないだろう。だが、あきらかに自分に視線を向けている集団がいれば、それが何者であるか、心当りは十二分にあった。
「察しがよろしいようですね」
レヴィン・グリーン(eb0939)が朔次郎に声を書ける。
「ああ、昨日辺り、しきりに俺のことが聞きまわられていたらしいからな」
それに、と朔次郎は付け加える。
「小鳥の親父さんの大騒ぎは俺も聞いた」
「お話しするの、応じてくれるかな? 朔次郎さん」
鈴が尋ねる。
「小鳥も交えて話がしたいな」
朔次郎が条件を出す。
「いや、小鳥さんはいないところのほうがいいだろう」
充が拒否する。
「何故だ?」
「二人の未来について語るつもりなんてないの」
アルティス・エレン(ea9555)が口を出した。
「別れなよ。あんたの話聞いたけど、最悪じゃん」
歯に衣着せぬ言い方でズケズケと言う。レヴィンはそんなアルティスを制する。
「失礼だが、あなたの過去の遍歴について調べさせてもらった」
「そうだろうな。それが常道だ」
同じ冒険者同士である。
「悪い人とは思っていません。けれど、その性癖が人を不幸にしていったのではないでしょうか。この手のものはそう簡単に治るものではありません。しかし、自分でなんとかしなければ不幸は続くのです」
雄司が言う。
「今度こそ、彼女を永遠に幸せにできる自信はあるのかい?」
充が尋ねる。
「さてな。永遠は無理だろう。死んだ後、俺は報いを受けるだろうし、小鳥だって俺との関係が続くなら‥‥」
「茶化してんじゃねーよ! なら、命ある限りは大切にできるってかよ?」
アルティスは怒鳴る。アルティスの怒りの源は、あるいは彼女がハーフエルフであることと関係があるのかもしれない。もし、朔次郎の相手がパラやジャイアントではなく、エルフであったならば、より一層の悲劇が撒き散らされていたであろうからだ。ただ、アルティスは本心は語ってはおらず、これは勝手な推測に過ぎない。
「朔次郎さん、あなたはもう分かっていらっしゃるのでしょう? ご自身が小鳥さんをお幸せにできないことを」
レヴィンが朔次郎に宣言する。
「‥‥言葉だけの説得でどうにかなるなら‥‥自分でどうにかしてるな。‥‥そうだな、賭けをしないか?」
朔次郎は冒険者達に賭けをもちかけた。
●乙女達
「立ち話もなんですから、どうぞ中へ。大したおもてなしもできませんが」
冒険者達を招きいれた小鳥は竃へ行き、湯を沸かしなおし、綺麗に整頓された棚から湯飲みを用意しはじめる。
「どうぞ。‥‥‥‥父に頼まれていらっしゃった方々ですね」
小鳥は白湯を差し出すと、先に口を開いた。
「うん、キミを探すように‥‥ね」
設楽葵(ea3823)は小さく頷いた。
「無理に連れ戻そうというのなら、どうぞご自由に。ただし、わたくしの心はここで朔次郎様とともにあり続けます」
「駄目!!」
言うや否や、懐の短剣を取り出した小鳥。だが、その挙動をとっさに察知したエスナ・ウォルター(eb0752)が叫び声をあげた。エスナの目のよさと小鳥の動きのぎこちなさ故に、であろう。
「くっ!」
その叫び声があればこそ、葵もとっさに体を動かすことができた。拳を繰り出して小鳥を殴りつけるかに見せる。が、小鳥が拳の恐怖に身を縮めて固まるや、繰り出された拳は短刀を持った小鳥の手を掴み上げていた。
「死んでも、何にもならないでしょ」
小鳥の腕を掴んだまま、葵は叱りつける。
「‥‥あ、あの‥‥私達は‥‥小鳥さんのお話‥‥聞きたくて‥‥。お父さんの‥‥依頼なのも‥‥本当だけど‥‥でも‥‥」
エスナが必死に言葉を紡いでいる。
「‥‥小鳥さんが‥‥朔次郎さんをどう想ってる‥‥のか‥‥とか」
「‥‥あたし達もね、似たようなものなのよ。だから、少し話を聞かせて欲しいな」
葵がそう苦く笑う。葵は同性愛者であるし、エスナは小鳥と同じく異種族に想いを寄せている。
二人が真剣であることは、小鳥にも察せられた。
「‥‥わかりました。お話します。私がどれだけか真剣か、戻って父にお伝え下さい」
そうして、ポツリ、ポツリと話を始めた。
どこにでもあるような恋話であった。少しばかり女癖の悪い男と純朴な娘の恋物語。ただ一つ、異種族であるということを除いて。
もともと男性との付き合いの少ない小鳥であったから、朔次郎の囁いた愛の言葉が、優しく抱き締める腕のぬくもりが、‥‥まるで生まれたばかりの雛鳥が最初に見たものを親と思い込むように‥‥そのまま、恋愛というものの形を成していったのである。
「私も‥‥小鳥さんみたいに‥‥大切な人‥‥います。とても優しくて‥‥少し、お人好しだけど‥‥彼のためなら、何でもしてあげたい‥‥そう思える人‥‥」
小鳥の話を聞き終えたエスナが、お礼というわけではないだろうが、自分の話を始めた。ぎゅっとペンダントを握り締めている。
「そう‥‥何でも‥‥です。私が側に居ちゃだめなら‥‥離れなきゃいけないなら‥‥それで彼が幸せになれるなら‥‥私は喜んで、彼の側から離れます‥‥。本当に大好きだから‥‥彼に辛い顔をさせたくないから‥‥笑顔でバイバイ、って言えます‥‥。どんなに悲しくても‥‥」
エスナの夢は「いつか恋人と一緒に暮らす事」。別れも辞さないという、その覚悟はあまりに辛く、切ない。
「別れを‥‥覚悟しろと仰られるのですか?」
「本当に好きなら、その方がいいことも‥‥あるのよ‥‥自分が、どんなに辛くても‥‥ね」
葵が言う。
「でもね、好きって感じられる時間があっただけ、キミは幸せだよ‥‥。私は、そんな気持ちすら抱けなかったから‥‥」
刹那、辛そうな表情を浮かべた葵。
「‥‥あの‥‥?」
「ううん、なんでもないわ。小鳥ちゃんが彼を好きだっていう想いも、その時間も‥‥けっして嘘にはならないわ。彼のことを思っての選択なら、ね」
小鳥は二人の様子を見る。そして、何となく筋書きを察してしまった。
(‥‥それなら仕方ないのかもしれない‥‥)
ならば、せめて見苦しくない最後を。
「あなたの想いは報われるといいですね」
小鳥がエスナに微笑みかけた。
「‥‥っ!」
それは明日の自分の姿かもしれない。エスナの胸中はこみ上げてきた感情で息をするのも苦しいほどであった。
●結末
「朔次郎さん、強かったですね」
勇が思い出しながら言う。
「でも勝ったのはあたし達じゃん。迷いが戦いにでたってことじゃねーの?」
アルティスがそんなことを言う。
作次郎の提案した賭けとは、居合わせた冒険者全てと戦ってみることであった。
朔次郎が最後まで小鳥を愛することができるのであれば、死に物狂いで戦って勝利をもぎ取るであろうと。
逆にそれが無理であるとするならば、迷いを抱えたままで冒険者達に勝利するのは無理だろう‥‥と。
「本当にこれで良かったのでしょうか‥‥。もっと他に方策があったのでは。人と人との繋がりとは、かくも難しいものですね‥‥」
レヴィンがそんなことを言う。
「僕らが今さら迷っていたら、二人が可哀想だよ。やれるだけはやったんだ。そう思おうよ」
鈴が仲間達にそう提案した。
一つの恋が、今、終わったのである。