飛べないシフールに意味はあるんでしょうか
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:06月14日〜06月19日
リプレイ公開日:2005年06月23日
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●オープニング
「今だ!」
シフールのエリ・プリルは賊の意識が囮の仲間達にそれた、その間隙をついて草叢から文字通り飛び出した。
「も〜らった!」
依頼人から
「それだけは何があっても‥‥」
と、念を押されていた品物をさっと奪い取ると、そのまま軽やかに飛び抜けた。
依頼人の要望に応えて、それだけは絶対に確保した上で、余裕があれば賊を全員で討ち取るという作戦であった。
「これで最低限の条件は攻略だね♪」
「なめた真似しくさりやがって!」
口汚い怒声が浴びせられるが、エリは意に介さなかった。
刀の届く範囲ではないし、賊が弓などが持っていないことは調べがついていたからだ。
ヒュウウウゥゥッ!!
だが、風を切り裂く音が響いたと思うやいなや、エリの背中が深々と斬り裂かれた。
「えっ!? ‥‥なんで‥‥?」
右の羽根が千切れて落ちる。
エリ自身の身体も重力に捕らわれて‥‥。
「飛び方を教えてほしい?」
「ああ、傷はすっかり治って、羽根も生え変わったのだけどな。あれからけっこう経つんだが‥‥飛べないらしい」
賊がソニックブームの使い手であったことは計算違いであったが、幸いにもエリ達は無事に帰還することに成功した。
だが、話の通り、エリは傷が治った後も飛び立つことが出来ないのだという。
「しかし、シフールが飛び方を忘れるなんてこと、あるんですか?」
「本人が言うには、飛び方を忘れたというより、そもそも自分はどうやって飛んでいたのか? 考え込むほどに訳がわからなくなるらしい」
「‥‥ああ、そういうこと、ありますね」
普段、何も考えずに出来ていた行動が、ふとした拍子に出来なくなってしまうこと。話を聞いている手代にも一度や二度の経験はあることだった。そういう時、考え込むほどに泥沼にはまってしまうものだ。
そこから抜け出すには、感覚を取り戻すのが一番の道である。
「江戸の郊外にある丘にでも連れて行って、思う存分飛ぶ為の練習をさせたいと思ってるんだが、一緒に来て助言してくれる人が欲しくてな」
「この季節なら散策も気分がよいでしょうね」
「ああ、そういう気楽な気持ちでお願いしたい。礼は大した額は出せんが‥‥」
エリの友人である依頼人はそう言った。
●リプレイ本文
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集合の刻限を前にして、何名かの冒険者を集合場所で見ることが出来た。
「うはは〜い♪」
ヴァルテル・スボウラス(ea2352)が宙を舞う。
シフールなので、そう不思議がることもないはず‥‥なのだが、飛び上がった時の初速が妙に速い。
それもそのはずで、手伝いにやってきた友人のテッちゃんがヴァルテルの足を掴んでハンマー投げよろしく放り投げているのである。
「エリ姉ちゃんもやってみない? 飛べる感覚を思い出せるかもよ〜?」
「えっ? えっとあたしは‥‥」
まだ飛べないから‥‥と、エリ・プリルは寂しげな表情を浮かべる。
「考え込んじゃうから余計飛べないんだよ、きっと。僕だってどうやって飛んでるかなんて知らないもん。それいけ、テッちゃん! 問答無用で飛んでみよう!」
ヴァルテルに頼まれて、テッちゃんがエリを放り投げた。
「きゃあああぁぁぁぁ‥‥‥」
ポフッ。
「‥‥う〜ん、飛べなかったね。エリ姉ちゃん、太った?」
子どもであるからなのか? ヴァルテルは言うことに容赦がない。優しげな少年に見えるが、その実、けっこう厳しいと言うか、なんと言うか。
「ひ、酷いよ〜‥‥」
近くにあった馬屋の飼葉の中に落下したエリは、うるうると瞳を潤ませて抗議する。
「すまん、調子に乗りすぎたな」
テッちゃんが頭を下げ、ヴァルテルにも下げさせた。
そんなこんなをしていると、
「しふしふですよ〜☆」
次にやってきたのは、ベル・ベル(ea0946)であった。
「しふしふ〜☆」
「し、しふしふ〜?」
エリははっきりと返事をしたが、ヴァルテルはやや戸惑い気味である。
「あっ、エリさんは『しふしふ〜』を知ってる人ですね〜。私はベル・ベルですよ〜」
ベルは嬉しそうに自己紹介する。
「しふしふ〜。巡回医師でもあるカイ・ローンです。プリルさんよろしく」
「しふしふ〜? でよろしいのでしょうか? 水の志士の高川恵と申します。よろしくお願いいたします」
カイ・ローン(ea3054)と高川恵(ea0691)がやってきて挨拶をする。
「はじめまして、キャメロットの吟遊詩人マリー・プラウムです。しふしふ〜、しふしふ〜ってなにかしら?」
マリー・プラウム(ea7842)がやってくる。先ほどから変った挨拶が飛び交っているのを見て、疑問を口にする。
「いえ、挨拶くらいはシフール語で、と」
「えっ? シフール語じゃないと思うよ?」
「酒場でシフールさん達が口にしているのを、耳にいたしましたが?」
「ノルマンのシフールの流行らしいって聞いたよ〜☆」
「よくはわかんないけど、楽しくて元気な挨拶だよね」
結局、マリーの疑問に答えられる者はいないようであった。
●
大量の荷物が詰まったバックパックを背負って身動きのとれないパラが、一言言った。
「‥‥秘滅道愚のねぇミーは、普通のタヌキでござる」
なぜ、タヌキであるのかは不明である。‥‥不明と言ったら不明である。
「‥‥動けない人よりは、タヌキのほうが役に立つでしょうね」
朝瀬凪(eb2215)はそう言うと、容赦なく暮空銅鑼衛門(ea1467)のバックパックの中に手を突っ込み、中に入っている品物(銅鑼衛門曰く、『秘滅道愚』とか)を引っかきだしていく。
「な、なにをするでござるか!?」
バックパックの重みで動けない銅鑼衛門はされるがままである。
「集合の時間になっても来ないから、みんな心配しているんですよ? ‥‥凄い‥‥こんなものまで‥‥!」
銅鑼衛門のバックパックから出てくるアレコレに目を丸くする凪。
十二単や大鎧、大斧や六尺棒などの嵩む上に重いものであるとか、東西の珍品、奇品にも事欠かない。
「さっ、みんな待っていますよ?」
凪はそう言って銅鑼衛門を促がした。
「おっと、これだけは置いていけねぇでござるよ」
銅鑼衛門は抜き出された箒を手に取った。
「なんです?」
「‥‥飛べねぇパラは、普通のパラでござる」
「パラが飛べたら普通じゃありませんものね」
凪の返事に銅鑼衛門はニヒルな笑みを浮かべた。
●
目的地の丘にたどり着いた冒険者一行。
丘の下から吹き上げてくる風が肌に心地よく、キラキラしい太陽、透き通る青空が気分を陽気なものにしてくれる。
「飛べるようになるまで上にぶん投げる‥‥なんて荒療治もあるのだが‥‥」
夜十字信人(ea3094)が物騒なことを言うと、エリはふるふると首を横に振る。先ほどのヴァルテル達に放り投げられたのが、よほどのことだったのであろう。
「さすがにソレは出来ぬか」
「エリ姉ちゃんがやらないなら、僕にやってよ〜」
ヴァルテルが信人におねだりする。
「ん? ああ。行くぞ‥‥! どぅおりゃああぁぁっ!!」
ヴァルテルを上空に投げ上げる信人。
「ほ〜ら、エリちゃん、こうだよ、こう!」
放り投げられたヴァルテルは空中で羽根を動かして華麗に空中で姿勢を整えると、エリの少し上でホバリングする。
「え、えと、こうかな?」
ヴァルテルを手本に懸命に羽根を動かすエリ。
「そうそう、そうですよ〜☆」
ベルも近くにやってきて、ホバリングをはじめる。
「例えば、これをこうすれば‥‥こうですよ〜☆」
「あっ、待ってよ、ベル姉ちゃん!」
他にも飛び方を披露しようと急上昇をしたベルを、ヴァルテルも追いかける。ベルは宙で大きく宙返りをして水平飛行に移る。ヴァルテルがそれを追いかけているのを見ると、ベルは背面飛行、そこからくるりと体を回転させて進行方向を瞬時に入れ替える。
行き過ぎてしまったヴァルテルはあわてて旋回し‥‥。
「達人の妙技ですねぇ」
二人の空中ショーを見上げながら、そんなことを言ったのはレディス・フォレストロード(ea5794)であった。
「どうですか? いきなりあれは無理でしょうから、ご一緒にお茶でいかがです」
レディスはエリにお茶を勧める。てきぱきと座り心地のよさそうな草原の上に席を設ける。
「ひとまず気分を変えてのんびりと楽しんでみませんか?」
ミィナ・コヅツミ(ea9128)もエリを促がして、お茶に誘う。
「俺達もお相伴させてもらおうか?」
「今、綺麗なお水を出しますね」
カイや恵達もガヤガヤと席に混じる。
「傷の具合は問題ないようですから、そのうち自然に動くようになりますよ。普通の怪我でも、手とか足とかを骨折したあとは思い通りに動かせないものですよ」
カイはエリの怪我が完全に治り、羽もきちんと治っているのも確認して、そう励ます。
「クローニングの魔法でもそういうことがありますね。生え変わった後、感覚が戻るのに時間がかかる人ですとか」
無論、個人差や経験などにより左右される事象であるので断定的なことは言えない。ただ、そういう事例があっても不思議ではないだろう。ミィナはよりエリの状況に近い例え話をする。失われた四肢の再生は魔法に頼るしかないが、シフールの羽は失われても再生するという意味でクローニングの魔法に似ている。
「それにしても、ジャパンに来てからこれだけのシフール仲間に会うのも珍しいですねぇ」
レディスが集まっている面々を見回して言う。やはり月道が開くまで、シフールが住んでいなかった国である。統計があるわけでもないが、感覚的にはそのようなこともあるだろう。
「‥‥ここは風が吹き抜けて気持ちいいですね、エリさん」
風にふかれて、恵が髪を手で軽く整えながら、心地よさに目を細める。
「うん、そうだね〜」
「‥‥‥‥」
風、という言葉にレディスはエリの表情に注視する。自分の羽を断ち切ったソニックブーム、すなわち風に対するトラウマが生じていないか、その辺りが生業柄気になっていたようである。だが、エリの元気な返事からは心配もなさそうであった。
「ふぅ〜、いい汗かいてきました〜☆ エリさん、どうでしたか〜?」
「ヘトヘトだよ〜」
と、華麗なアクロバット飛行で翻弄したベルと、翻弄されたヴァルテルが地上に戻ってきた。
「疲れたら、一緒にこのいかさんを食べるですよ〜☆」
ベルがヴァルテルにイカの干物を勧める。そんな様子をエリが羨望の眼差しで見つめている。
「? エリさんもいかさんが欲しいですか〜?」
ベルがイカをエリに差し出すが、エリは首を横に振った。
「結局、シフールに飛ぶな、というのが酷なのだろうな。俺が意地で恐怖に打ち勝ったのと同様に」
信人がエリの様子に言葉をかける。
「とある任で、宿敵との一騎打ちに敗れ、一度死んでな。一週間ほど、恐ろしくて、剣を握れなかったことがあった」
信人が自分の体験を語る。
「だが、俺には剣しか能が無い。意地で剣を握れるようになった時、体はちゃんと剣の使い方を覚えていたよ。シフールが飛ぶということは、生来のものであれば、俺にとっての剣以上に体が覚えいていよう」
そこまで言って信人は頭をかいた。
「空回り気味だ。‥‥とにかく難しく考える必要はない。出来ると思え。それでいい」
●
「というわけで、とにかく飛んでみるところからはじめてみましょうー」
ミィナがそう宣言すると、各々が空を飛ぶ為の仕度をして現れた。
シフール達は別段珍しいことも無いのだが‥‥、
「シフールさん達以外にも、こんなに飛べる方々がいるなんて、驚きです」
大凧を背に負ったカイ、「秘滅道愚・賦雷無倶武流夢」と名付けられたフライングブルームに跨った銅鑼衛門。
この二人も飛べるのだと言う。稀少な魔法の品は、翼も羽も持たない者を大空へと誘う。
「誰と一緒に飛びますかー?」
「じゃあ、みんなと一緒に‥‥」
ミィナが問いかけると、エリはそう答えた。稀少なマジックアイテムは現物の流布が少ないだけに、実際に目で見たことがないと、今ひとつ信頼しきれないのであろう。その点、元来がシフールは飛ぶものである。
「あたしみたいのもいるけどね」
エリが寂しげな笑みを浮かべようとしたのを、しかし、
『いたずらな風が耳元で囁く、僕とは遊んでくれないの♪
いまは飛べない、くすんだ羽♪
悲しむ少女を十の光が包み込み訊ねたり♪
背の羽はくすんでる? 思いの溢れた器は綺麗な羽になったよ♪
最後の光は貴女の中、さあ解き放って勇気という輝きを♪
さあ飛び立とう光と風のなかで、笑顔の未来がまっている♪』
エリのネガティブを遮って、マリーが魔法の力を込めた歌を紡ぎだす。
「さあ、行きましょう!」
「羽は見よう見真似でとにかく動かしてみるですよ〜☆」
レディスとベルがエリの腕を取って飛び上がったところを、ヴァルテルが下から支えるように飛び上がった。
「ほらほら、羽を動かして、1、2、1、2!」
そんなシフール達の見守るようにカイの大凧と銅鑼衛門のフライングブルームが周囲をゆっくりと飛びまわる。
地上から空を飛ぶもの達への憧れの視線を向ける冒険者達。空から見下ろすと彼らが、シフールよりも小さく見える。
懸命に羽を動かすエリ。
しばらくの間、四苦八苦した末に、
「あっ!」
不意にエリの体重が消えるのをヴァルテルは感じた。
「ちゃんと支えてくれてますか〜?」
エリ自身はそのことに気づいていない。
「ちゃんと支えてますよ〜」
と言いつつ、ヴァルテルはそ〜っとエリから離れる。それをみて、レディスとベルも手を離す。
「わわっ‥‥!?」
一瞬ギクリとするエリであったが、
「エリさんが飛んでますよー!」
地上から歓声があがった。